小さな小さなエンビディア

    作者:篁みゆ

    ●小さな小さな……
    「おじいちゃん、おばあちゃん、みてみて!」
    「この子ったらどうしてもランドセルを持って行くんだってきかなくて……」
    「だっておじいちゃんとおばあちゃんが買ってくれたランドセル、背負ってるところ見せたかったんだもん!」
     ノースリーブのワンビースにピンクのランドセルを背負った少女が、その場でくるりと一回転する。その姿を、おじいちゃんおばあちゃんと呼ばれた二人は目を細めて嬉しそうに見つめていた。
     南桜は今年小学校に上がったばかり。大好きなピンク色のランドセルをとても大事にしている。祖父母も初孫の南桜をとても可愛がってくれるのだけれど。
    「お義母さん、公平さん達が着きましたよ」
    「おお、亮平も一緒だな?」
    「暑い中、よく来たねぇ」
     南桜の叔父夫妻と、今年生まれたばかりの従弟の亮平が到着すると、皆そちらに気を取られてしまった。初めて顔を見せに来る孫、しかも男児とあって祖父母は亮平にかかりきりになっていく。
    「……りょーちゃんばっかり」
     南桜が居間を出たことに誰も気が付かない。
     南桜が台所から果物ナイフを持ちだしたことに誰も気が付かない。
     南桜は――滞在の間の居室となる部屋で、ひとり、どす黒い感情を紛らわせるかのように果物ナイフでランドセルをメッタ刺しにしていた。
     

    「やあ、よく来てくれたね」
     クーラーのよく効いた教室に足を踏み入れると、神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)が穏やかに灼滅者達を迎えた。椅子に腰を掛けるように示し、全員が座ったのを確認すると和綴じのノートを開く。
    「一般人が闇堕ちして六六六人衆になる事件があるよ」
     通常ならば闇堕ちしたダークネスからはすぐさま人間の意識は掻き消える。しかし今回のケースは元の人間としての意識を残したままで、ダークネスの力を持ちながらダークネスには成りきっていないのだ。
    「彼が灼滅者の素質を持つようであれば、闇堕ちから救い出して欲しいんだ。ただ、完全なダークネスになってしまうようならば、その前に灼滅をお願いしたい」
     彼が灼滅者の素質を持っているならば、手遅れになる前にKOすることで闇堕ちから救い出すことができる。また、心に響く説得をすれば、その力を減じることもできるかもしれない。
    「彼女の名は有馬・南桜(ありま・なお)。小学1年生の女の子だよ。彼女は両親とともに父親の実家へ帰省している。初孫だった南桜君は祖父母にもたいそう可愛がられて来たんだけれど、今年になってその状況が変わったんだ」
     今年に入って南桜の叔父夫妻に、亮平(りょうへい)という男の子が誕生した。祖父母たちは初めて亮平に会うので、彼に夢中になってしまうのは想像に難くないだろう。しかし南桜にしてみれば、祖父母を取られた、亮平ばかり可愛がられている――そんなふうに見えてしまっている。
    「丁度夕食の準備の時間、男性たちは畑に野菜などを取りに行って、女性たちは台所で下準備をしている頃。叔母さんは亮平君についてて休んでいていいって言われたけれど、やはりなにもしないというのは気がとがめるんだろうね。よく眠っている亮平君を部屋に残し、台所へと向かう」
     赤子以外誰もいなくなった和室、南桜はそこに入り込んで亮平を殺してしまうのだ。
    「有馬の家は大きめの2階建ての屋敷で、庭に面した一室が亮平の寝ている部屋だ。隣の家とは結構距離があるので、家に向かっているのを家のそばの畑にいる男性陣に見られたら、不審がられるかもしれないので対処を考えておいたほうがいいだろう」
     庭に入ってしまえば、生け垣に隠れるようにしていれば外からは見えない。
     亮平がいる部屋は10畳ほどの和室で、旅行の荷物の他にはたたまれた布団、そして亮平が寝ているベビー布団と扇風機が主な家具だ。縁側にはすだれが降ろされていて、ベビー布団は蚊帳の中。
    「まだ南桜君も小さい。感情を抑えることが上手くできないという部分もあるだろう。彼女の気持ちもわかってやってほしいなと僕は思うよ」
     よろしく頼む、と瀞真は頭を下げた。


    参加者
    江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)
    桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)
    逆霧・夜兎(深闇・d02876)
    蓮咲・煉(ルイユの林檎・d04035)
    釣鐘・まり(春暁のキャロル・d06161)
    リディア・キャメロット(贖罪の刃・d12851)
    夜伽・夜音(星蛹・d22134)
    鑢・七火(こわしや・d30592)

    ■リプレイ

    ●悲鳴を上げる心の元へ
     夕方とはいえまだ日差しは強い。じりじりと肌を焼く夕日の下で、有馬家の男性陣はタオルを頭に巻いて畑に降りていた。談笑しながら夕飯の野菜を物色する。数カ月ぶりに息子たち家族に会った有馬の「おじいちゃん」はとても嬉しそうだ。
    「お、猫だ」
    「ん? この辺ではあまり見ない猫だね」
     息子の視線の先にいる黒猫を見て、おじいさんが目を細める。
    「撫でさせてくれないかな」
     チチチ、と息子が舌を鳴らすも黒猫は媚びたりせずに素知らぬ顔で歩いてゆく。普通の近所の猫だったら寄って行くのかもしれない。けれどもその猫は江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)の変身した姿。クールに有馬家の敷地を目指す。
    (「家族か……」)
     その後を闇纏いして歩いてゆく逆霧・夜兎(深闇・d02876)は有馬家の三人をチラリと見て、流れるように視線を向かうべき屋敷へと移す。
    (「愛情が欲しくて……欲しくて、得られないなら殺意へ変わる……か」)
     抱くのは、ただ『救ってあげたい』というだけでなく、『昔の自分と同じ過ちをさせたくない』という想い。
     同じく闇纏いをして夜伽・夜音(星蛹・d22134)に鑢・七火(こわしや・d30592)、釣鐘・まり(春暁のキャロル・d06161)とリディア・キャメロット(贖罪の刃・d12851)も南桜の元を目指す。
    (「自分に構って貰えなくなった嫉妬というのかしら。まぁ、分からなくも無いわね」)
     雑草を踏みしめて目的地へと向かうリディア。南桜の気持ちをわからないと両断することはしない。けれどもリディアには、もうひとつわかっていることがあった。
    (「でも、それで人を殺して良い理由にはならないわ」)
     これから起こるであろう悲劇は、必ず止めなくては。
    (「さみしい、んだよね。きっと。きっと、その気持ちをどうしていいのかわからないから……」)
     南桜のことを聞いた時に夜音が抱いた強い思い。自分も学園に来るまでは寂しい思いをしてきたからこそ、寂しがっている子の気持ちを解消してあげたいと思うのだ。
    (「僕達が、導になってあげたい」)
     きっとみんな同じ思いなのだろう、そう、思う。旅人の外套を纏って隣を歩く桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)の思いが聞こえていたわけでもないのに。
    (「南桜か、すげー親近感の湧く名前だな。抱いた淋しい気持ちも……似てるしな」)
     ハンチング帽の鍔を触って近づく有馬邸を視界に収める。南守も、夜音の心の声が聞こえていたわけではないけれど。
    (「だからこそ、絶対助けてやらねーと」)
     南桜を助ける、その強い気持ちは同じ。
    「弟や妹達に気合い入れて助けに行けと激を飛ばされたぜ」
     これが初依頼の七火が、苦笑と緊張の混ざったような口調で呟く。ちなみに夕飯はハムカツの予定らしい。旅人の外套で姿を隠した蓮咲・煉(ルイユの林檎・d04035)が静かにそれに答える。
    「それでは一緒に頑張りましょう。初めては誰にでもありますが、ひとりではないですから」
    「ああ、よろしく。この趣きのある家で凄惨な事件が起こる前に止めたい……」
     七火の前を抜けて、まりが縁台に近づく。そっと腰をかけて靴を脱ぎ、そっと簾の中をのぞき込んだ。蚊帳の中の赤子はスヤスヤと眠りに落ちているよう。離れた台所からは女性陣の声が聞こえる。そして。
    「南桜さんが来ます」
     忍ばせきれなかった小さな足音が近づいてくる。
    「……」
     姿を現したワンピースの少女は、畳を踏んで静かに襖を閉めた。

    ●寂しいと哭く心
    「有馬さんのお孫さんにご挨拶に参りました。初めまして、南桜さん」
     お邪魔します、と簾の外から声を掛けたまりは縁側から室内へと上がる。亮平以外に誰もいないと思っていた南桜は、大きく身体を震わせて少し固まってしまったようだ。
    「……誰?」
    「お邪魔します。こちらのお宅に今年小学校入学した子と生まれた子、二つおめでたい事があったと聞いてやって来たの」
     続いて部屋に上がったのは煉。普段は淡々と敬語を使って喋る彼女だったが、南桜には親しみを覚えて欲しいので出来る限り柔らかく言葉を紡いだ。
    「あなたが南桜さんかな。私は煉。どうぞよろしくね。ご入学、おめでとう」
    「え……ありが、とう……」
     思いがけぬ言葉だったのだろう、南桜は悪戯を見咎められたかのように慌てて果物ナイフを背中へと隠した。その仕草に気づかないふりをしながら、夜音が顔を出す。
    「僕達ね、南桜ちゃんの想い、聞きにきたの。きっと、心の奥で寂しいって思ってる気持ち」
    「南桜は寂しかったんだろ? 皆を取られちゃった様な気がしたんだよな」
     続いて姿を見せた夜兎の言葉に、南桜は少し戸惑った後、小さく頷いた。
    「南桜だって、本当は亮平の事を嫌いじゃないんだろ? ただ淋しくなっちまったんだよな」
    「りょーちゃんは可愛いと思うよ! でも……」
    「それ判るよ。俺も家族に自分だけを見てて欲しいって思った事があるからさ」
     南守の優しい瞳と言葉が、南桜を包み込むように空気を滑っていく。後を追うように七火も口を開いた。
    「南桜の気持ちは俺も分かる……幼い時に妹が生まれ今の南桜の気持ちになった。だが、家族ができれば喜びも多くなる」
     それは兄弟の多い七火にとって、とても身近な真実。今の南桜のような寂しさや嫉妬もあったけれど、考えてみれば喜びも大きかったのだ。
     南桜は自分に向けられる言葉に意識を取られているようだ。今のうちに、リディアと八重華は亮平の居る蚊帳の前へとそっと進む。今は穏やかに話を聞いている南桜だが、いつ彼女の中のダークネスが暴れだすとも知れない。そうすればやはり一番に狙われるのはこの赤子なのだから。
    「……寂しかったんです、ね。でも大丈夫。ご家族は今もあなたを心から愛してくれています、よ」
    「でもね、でもね、みんなりょーちゃんばっかりなんだよ……」
     まりの声に南桜の大きな瞳に涙が浮かんだ。ある程度の距離は保ったまま、煉は視線の高さをあわせるようにしゃがんで。
    「南桜さんの方が先に生まれたからって、嫌だよね。南桜さんはちょっと大きいだけで、こっちも見て欲しいのに」
    「大丈夫、皆南桜が大好きだよ。ほら思い出してみろ、抱きしめてくれただろ?」
     安心させるように夜兎が言葉を重ねる。あえて『お姉ちゃん』という言葉は使わないつもりだ。相手が本当の弟妹ではなく従弟とはいえ、南桜自身が望んで『お姉ちゃん』になったわけではないのだから。
    「大好きだって言ってくれただろ?」
    「……うん。……でもね」
     たまった涙を瞳を閉じて零した南桜。再び開かれた瞳。灼滅者達を見るその瞳が、なんだか禍々しく見えるのは気のせいだろうか。
    「――どうしても、りょーちゃんをころしたいんだぁ!」
    「!」
     ニヤリ、小さな口の端が釣り上がる。彼女の中のダークネスがしびれを切らして表に出てきたのだろう。素早く亮平を目指す南桜だったが獲物は八重華とリディアの後ろ――届かない。
    「チッ」
     仕方なく八重華を斬りつけた南桜。彼は南桜を静かに見下ろし、そして。
    「子供は手がすぐ出る。抑えられなければ、それは持つべき力ではないな」
     放たれたオーラが南桜の身体を強く打ち付けた。

    ●エンビディアからの解放
    「さぁ、私のこの攻撃を避けられるかしら」
     続けて放たれたのはリディアの魔法の矢。狙い過たず息つく間もなく与えられる痛みに南桜が悲鳴を上げる。室内につながる襖は南桜が閉めた。上がり込んだ時に庭側の窓も閉めておいた。戦闘音はできるだけ抑えようと、それぞれが配慮している。だがどうにもならないのは――南桜の悲鳴や亮平の泣き声だ。サウンドシャッターを持ってこなかったので、大人たちが声に気づく前に決着をつけなければ厄介なことになる。
    「もし亮平を傷付けちまったら、きっと今よりもっと淋しくなる。それよりも亮平を可愛がってあげてくれよ」
     南守が赤の標識を振るう。できることならば傷つけたくない。けれども南桜に宿るダークネスを倒さねば、彼女が苦しむだけだとわかっている。だから、なるべく手足を狙った。
    「その方が爺ちゃん婆ちゃんも喜んでくれるさ。南桜は偉いね、大きくなったんだねって」
    「ほんと?」
     揺れるような南桜の問いに、帽子の鍔に触れて頷いた。
    「悪いが、殺させるわけにはいかないんだ」
     夜兎もまた、南桜と亮平の間に立ちふさがる。そして繰った影で南桜の身体を縛り上げた。束縛から逃れようと動く南桜と瞳を合わせたくて。
    「南桜」
     呼べば彼女の瞳がこちらを向いた。夜兎は藍色の瞳を彼女のそれと合わせる。
    「南桜はちゃんと愛されてる」
     噛みしめるように、染みわたるように。嘘偽りない真実は、少女の心に響き渡る。
    「南桜ちゃん。寂しい思いが大切なランドセルを傷つけて、次は……取り返しのつかないことを、しようとしてる」
     夜兎のナノナノのユキが八重華を癒やすのに合わせるようにして、夜音は『夜が来る』を黄色に変えた。前衛を癒し、守りを固めて南桜を見つめる。
    「だから、僕達がその想いを解くよ。南桜ちゃんのその力は……誰かを守るためにも使えるんだって」
    「ねえ、南桜さん」
     本物の南桜に語りかけながら、さり気なく亮平の前に立ちふさがりながら、灼滅者たちは彼女を思う。勿論、煉もそのひとりだ。
    「私は、赤ちゃんじゃなくて『りょーちゃん』ってちゃんと呼ぶ南桜さんは凄いと思う」
    「えっ……」
     優しく語りかける煉の思わぬ言葉に驚いたのだろう、南桜の動きが一瞬止まった。その間に煉の炎の翼が前衛に力を与え、ビハインドのユベールが南桜へと迫る。
    「名前は最初の贈り物、だから……南桜、可愛い名前だね」
     最初の贈り物をもらっているのは南桜も同じ。あなたも贈り物をもらった、愛されているということを思い出せますように――願う。
    「奪う必要なんてない、です。……奪えば、もっと苦しくなるから」
     彼女を脅かしたくないから大声ではなく、けれどもきちんと届くようにと最低限の強さは保って。まりは南桜に言葉を投げかける。
    「亮平君も凄く愛されているけれど、考えてみて。あなたが生まれたときも同じくらい皆が夢中になったの」
     素早く近づき彼女を殴りつける瞬間、南桜は驚いたような顔をしていた。自分が生まれた時のことなんて想像したことがなかったのだろう。
    「そして……あなたは今日までずっと愛されてきた。愛を量で計るなら、あなたの圧勝、ですっ……!」
     腕を振りぬいて南桜から距離を取るまり。後ろで亮平がむずがるように小さく声を上げた。戦闘の気配を鋭敏に感じ取ったのかもしれない。それでもまだ完全に目覚める様子がないのが救いだ。
    「お前は一人じゃない。優しい祖父母、両親がいるだろ」
     盾を振り下ろした七火は自分を捉えた南桜の瞳に、諭すように語りかける。壊すのは簡単だが、大人が面と向き合って心の叫びを正面から聞くのも大切だと思う。
    「でも、南桜だけのおじいちゃんおばあちゃんじゃなくなっちゃったんだよぉ!」
    「その代わり、南桜を愛する存在が増えただろう?」
     本物の南桜の意図しない冷たいナイフ。振り下ろされるならばあえて受けようと、七火は南桜の攻撃をあえて受け止める。このナイフは南桜の心の叫びなのだから。
    「喜べ。お前は守る側になったんだ」
     八重華の炎を纏った襲撃に、南桜の小さな身体がふらつく。
    「今度はお前が可愛がってやるんだ。お前がそうされたのと同じぐらいにな」
     静かな瞳の中に、先人としての導を感じさせる。
    「少し痛いかも知れないけど、貴女を正気に戻す為……我慢してね」
     リディアの影の刃が、なんとか倒れずに踏みとどまった南桜の身体を容赦なく刻んでいく。
    「……お願いだから負けないでくれ、な」
     祈るような呟きとともに、南守の『三七式歩兵銃『桜火』』から放たれる光線。夜音の『バタフライ・エフェクト』から放たれた屋は、七火を癒やす。
    (「……トラウマ攻撃は選べなかった。この先灼滅者として多くを見るとしても、今、必要は無いでしょう」)
     煉が選んだのは、指輪から放つ魔法弾。
    「大丈夫。ぐちゃぐちゃした気持ちは全部、私達が受け止める」
     強い意志のこもった言葉とともに、弾丸は南桜の胸に沈んでゆく。
    「嫉妬が悪いなんて、思いません。でも、どうか負けないで。きっと心の闇に打ち勝てます。人に愛され、人を愛している、あなただから……」
     祈りが、願いが力となる。ユベールを追うように南桜の死角に入り、まりは彼女を切りつける。ぐらり、南桜の身体が傾いだ。
    「南桜、思いだせ! 亮平と初めて会った時、嬉しかっただろう?」
     彼女に思い出す間を与えるように、七火は威力を加減した攻撃で語りかける。南桜の瞳が揺れるのを、見た。
     夜兎もまた、南桜の揺れる瞳としっかりと立てない足を見ていた。自分達が彼女の中のダークネスを追い詰めていることも。だから。
    「これで終わりだ」
     南桜の懐に入り、無数の拳を繰り出す。ぐらり、傾いた南桜の身体が倒れぬように、そっと抱き留めた。

    ●開かれた未来
     亮平の無事を確かめ、夜兎の腕の中の南桜が目覚めた後、煉や夜音がわかりやすく彼女の現状を説明していった。
    「良かったら貴女も、武蔵坂学園に来てみないかしら?」
    「南桜も、行けるかな……」
     リディアの言葉に不安そうな彼女。大丈夫、とリディアは彼女の頭に触れる。
    「貴女と同じ境遇の方も多いから、きっと貴女も気に入ると思うわ」
    「次からはその衝動とうまく付き合っていくんだな」
     まだ戸惑っている南桜に、八重華が贈った言葉。それは彼女が頑張れば、衝動と上手く付き合えるというしるべでもある。
    「今の力振るうなら、学園に来い、妹達の友達になってくれ」
    「お友達ができるの、嬉しい!」
     七火の優しい誘いに、南桜も笑顔になった。
    「宝物を……ランドセルを一緒に直しましょう。ワッペンとかつければ穴なんて気にならなくなります、よ」
    「おじいちゃんとおばあちゃん、がっかりするかな……」
    「大丈夫です、よ」
     傷だらけのランドセルを運んできたまりは、いくつかワッペンを取り出してみせた。そのとき。
    「ふぇ……」
    「!」
     かすかな、泣き声の始まり。いち早く反応したのは南桜で。
    「りょーちゃん! ごめんね、もうだいじょうぶだよ」
     そっと亮平を抱きしめる南桜からは、先ほどの殺気は微塵も感じられない。
    「よく頑張ったな、淋しいのは大人だって辛い。それを我慢した南桜は偉いよ」
     南桜の横に座り、南守は彼女と亮平の顔を交互に見る。
    「亮平も、南桜が頑張り屋さんで良かったな」
     二人の顔に笑顔が咲いたから、きっと、みちゆきは明るいだろう。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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