夏休みの宿題

    作者:天木一

    「もうすぐ夏休みも終わりだが、皆は休みを満喫しただろうか?」
     貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)の質問に、教室に集まった灼滅者達が日に焼けた顔でそれぞれ楽しそうに頷く。
    「そうか、夏ともなればいろいろな楽しみがあるからな。私もプールや近所のお祭りなんかに顔を出した」
     皆の様子に休みの事を思い出したイルマも頬を緩めて笑みを浮かべた。だがその表情をキリリと戻す。
    「皆、夏を満喫したようだが、夏休みに出された宿題も順調に終えただろうか?」
     その言葉に夢から現実に戻されたように、灼滅者達の顔が暗くなり視線が彷徨う。
    「わたしは夏休み前に作った計画表通りに進めているので、もうすぐ終わる予定だが、遊びに夢中で全く終わる予定の無い人もいるだろう」
     イルマの視線から逃れるように皆は目を逸らし、口笛なんかを吹き始める。
    「そこでだが、1人だと勉強がはかどらない人もいるだろうし、分からないところを教えてもらいたい人もいるだろう。だから夏休みの終わる前に教室で勉強会を開こうと思う」
     教室を1つ借りて、宿題を持ち寄り皆で勉強をするのだ。
    「もちろん宿題が終わっていて余裕があり、勉強を教えてくれる人の参加も大歓迎だ。誠一郎先輩も参加して教える側に回ってくれるということだ」
     教えてくれる人が居れば宿題も一気に捗るだろう。
    「時間は午前から夕方までを予定している。昼食はそれぞれ用意しておいてほしい」
     イルマは簡単なサンドイッチのお弁当を作って持ってくるという。
    「この日に宿題を終わらせて、気持ちよく2学期を迎えよう」
     力強い言葉に押され、灼滅者達はしぶしぶと諦め顔で頷くのだった。


    ■リプレイ

    ●夏休みの教室
     まだまだ日差しの強い夏休みの終盤。人気の無い学校の教室に灼滅者達が集まっていた。
    「集まったようだな。それではこれより夏休みの宿題を終わらせる勉強会を開始する!」
     イルマがそう宣言すると、嫌々ながらも皆がおーっと腕を上げた。
     グループごとに机をくっつけたりして勉強会が始まる。
    「よーし! 今日中に宿題を終わらせよう!」
     奏耶が張り切って宿題に取り掛かる。
    「あの……今日はよろしくお願いします」
    「解らないところがあったら何でも聞いてねっ」
     緊張気味の雛乃が宿題を用意すると、任せてと元気一杯の千巻がどーんと胸を叩いた。
    「さんすうは おわったけど、しゅくだい おわらないです」
     夜野が困ったように国語や絵日記を広げる。
    「もんだいぶん よめない です。おくれてきた せいで ひらがなも よめないの あるの」
    「さ、てと……。社会科以外の科目なら何でも教えることができますので……。ただし、答えを直接聞くのはなしでお願いしますよ……?」
     流希も指導側として教えようと机の間を巡回して、悩んでいる夜野の元へ足を運ぶ。
    「イルマさん、こんにちは。夏休みだとなかなか会えませんね」
    「お久し振りですイルマさん。宿題は順調みたいですね」
     紅緋と絶奈の挨拶にイルマも笑顔で返す。
    「そうだな夏休みは学校に来ないからな、今日は久しぶりに大勢の人と顔を合わせられて嬉しい」
     教室には見知った顔も多く、久しぶりの顔合わせに心が弾むようだった。
    「こういう物は日々の習慣化させるのが大切なのだそうですね。定数を決めて調子の良し悪しに関わらず続ける事……そういった継続が力と成るのだそうです」
    「なるほど、毎日続ける事が力となるのだな。それが意外と難しいのかもしれないが」
     絶奈の言葉に納得したようにイルマが頷く。
    「イルマもまだ終わってないんだったな、私でよければ見てやろう」
    「午前中には終わらせたいと思っているんだ。よろしく頼む」
     ヴァイスがそう告げると、イルマが頭を下げて残った数学の宿題を広げた。
    「あー教室は冷房が利いてて涼しいねぇ」
     久しぶりの早起きに誠一郎は既にだれたように冷たい机に突っ伏した。
    「大学はレポートだけだと思ったのに……」
     数学と物理の問題集を広げた朔之助は現実逃避をやめてペンを手に取る。
    「宿題残っている組はぶっちゃけ何と何と何が残っているんだ……怒らないからお兄さんに教えてごらん?」
    「あたしは……人権ポスターが残ってる」
     史明が優しい声で尋ねると、嵐が眉を下げて紙を広げる。そしてもう1人の朔之助が目を逸らしながら全く手をつけてない問題集を見せた。
    「嵐は終わりそうだね。で、朔は……残しすぎじゃない!?」
     その残念すぎる状態に思わず前言を翻して史明は怒りマークを浮かべた。
    「アイスをみんなで食べるためにも、2人とも頑張って」
     葵は慌てて宿題を始める2人に笑みを浮かべ、自らも予習復習の為に教科書を広げた。

    「今年の夏休みもあっと言う間ね。友達と遊んだり、月人さんとデートしたりして楽しかったわ」
    「確かに夏休み中にも色々やったなー。それはそうと宿題は当然終わってるんだよな?」
     楽しそうな春陽に月人が尋ねる。
    「……え? 宿題? 終わってたら、今日月人さんを呼ぶワケが無いじゃないの。医学部なんだし朝飯前でしょ? コレ手伝って!」
     当然とばかりに春陽は真っ白な数学の問題集を広げてみせた。
    「あ、あぁ、やっぱりそうかよ! 自分でやろうとしてるだけマシだけどよ……」
     仕方ないなと月人はマンツーマンで指導を始めるのだった。
    「えっと、ここがこうで……」
    「大丈夫、ちょっとずつ取り組めば、必ず解けるからっ」
     雛乃が数字と睨めっこしていると千巻がヒントを出してあげる。
    「あっ、解りました!」
     するすると雛乃は正答に辿り着く。
    「できた! やったね、バッチリだよぉーっ」
     我が事のように千巻は喜んで小さく拍手した。
    「ここはだな……」
    「なるほど……」
     ヴァイスがきっちり指導すると、イルマは感心したように頷く。その様子にヴァイスは威厳を保てたと、顔には出さずに予習の成果を喜ぶ。
    「そういえば最近ぬいぐるみ元気?」
    「うむ、夏場はよく乾くので洗ってやったりしている」
     横からの殊亜の雑談に目を輝かせてイルマが話始めると、殊亜は意地悪そうに笑みを浮かべた。
    「手が止まってるよ!」
    「む、むう……」
     殊亜が冗談っぽく叱ると、ぬいぐるみについて話し足りないのかイルマは不服そうに視線を用紙に戻した。
    「数学とかそういうのは最悪いいんだ。聞きゃなんとかなる。聞くのが前提かよとかそういう話はナシだ。問題はその時書くのが面倒だったせいで白紙の日記なんだ……!」
     アルフレッドは白紙の日記をバーンと広げた。
    「なんだぁ、アル。まだやってなかったのか。それで大丈夫かぁ?」
     一夜は白紙の社会のノートを広げながら強気に言い放つ。
    「国語と理科はまかせるが良いぜ。って社会のノート真っ白じゃねえか。ゲレンデかよ」
    「ゲレンデじゃねぇよ。ここから歴史が刻まれていくんだ」
     思わずルーチェがツッコミを入れると、一夜はすぐさま言い返す。
    「なぁ、ちょっと冬……あー、真那。ここわかる?」
    「むむ? もっちーどこがわからないのかな……どれどれ……」
     一夜の質問に真那が丁寧に答える。
    「え、ちょっともっちー、なんで今呼ぶのやめたのよねぇ」
    「ん? いや、気のせいじゃね」
     冬華を軽くあしらいながら一夜は勉強に集中する。
    「もう! 智秋ちゃん、ここってどこにレ点を……」
    「え、えと……前後、入れ替えだから、この文章なら……」
     冬華も自分の勉強をしなくてはと、智秋に教えてもらいながら空欄を埋めていく。

    ●お昼
     誰かのお腹の音が鳴る。時計を見ればもう12時を回っていた。
    「んーお腹すいたよ、お昼にしようか」
     お腹を押さえた誠一郎がもう我慢できないと立ち上がると、大きなペットボトルのお茶と人数分の紙コップを用意する。皆もそれぞれ包みを鞄から取り出し、お昼休憩を取り始めた。
    「嵐ちゃんと一緒に作ってきたんだ!」
    「そうそう、二人がスキそうな物を入れて来たんだカラ。な?」
     笑顔で朔之助と嵐が弁当を広げる。そこには見るからに怪しい黒い物体と、まともな色合いの具が同じ弁当内に前衛アート的に並んでいた。
    「お昼は嵐も一緒に作ったのか、朔だけじゃなくて」
     笑顔で確かめるような葵の言葉に、何故そんな事を聞くのかと首を捻りつつも朔之助は頷く。葵はそうかと慎重に大丈夫そうな具に箸を伸ばした。
    「先に朔が食べなよ、宿題頑張ったご褒美だよ」
    「何言ってんだ? 2人の為に作ったんだからな? なー嵐ちゃん!」
    「……葵、千喜良の分まで食べちゃダメだよ?」
     史明が押し付けようとするが、気付かずに朔之助は食べてと笑顔で訴え、嵐も偏って食べる葵に注意を促す。2人は顔を見合わせ震える手で黒い物体に箸を伸ばし、覚悟を決めてえいっと口に放り込んだ。
    「一緒に食べよっ」
    「ああ、皆でご飯にしよう」
    「もうお腹ぺこぺこだよ」
     机を幾つも合わせ、千巻がから揚げや卵焼きの入った弁当を開けると、イルマもサンドイッチの入った弁当を広げ、誠一郎もコンビニ弁当を2つ広げた。
    「イルマさんもサンドイッチですか、手軽に摘めるので重宝しますよね」
     同ですねと絶奈も色々な種類の入ったサンドイッチを見せた。
    「イルマさんのサンドイッチと交換しない?」
     横から殊亜が美味しそうなホットドッグを差し出す。
    「美味しそうだな、わたしので良ければ交換しよう」
     イルマもサンドイッチを差し出し、手にしたホットドッグにかぶりつく。
    「うむ、おいし……辛い……」
     最初は美味しそうに食べていたイルマが、鼻を抜けるような辛味に涙目になる。
    「マスタードはこれくらい利いてる方が美味しいよね」
     横でちゃっかりご相伴に預かっていた誠一郎は美味しそうにホットドッグを食べる。
    「お茶飲む?」
     悪戯が成功したと殊亜は笑いながらお茶を差し出した。
    「おにぎりを作ってきたのだが、食べるか?」
    「ありがたくいただこう」
     勢いよくお茶を飲み干したイルマは口直しにと、ヴァイスのおにぎりを食べる。
    「中身は明太子、鮭、梅干しと……」
     説明を聞きながらイルマは酸っぱそうに顔を歪めたのだった。
    「サンドイッチもおにぎりも美味しいです」
     雛乃は打ち解けたように分けてもらったお昼を食べていた。
    「私はバランス栄養食とスポーツドリンクも付けて、熱中症はこれで大丈夫!」
    「それが昼食なのか、わたしのサンドイッチを食べるか?」
     紅緋の食事を見たイルマがサンドイッチを寄せると、ありがとうございますと嬉しそうに紅緋は手に取った。
    「おひるだ」
     机の下では狼の姿になった夜野が、動物の姿焼きにかじりついていた。
     わいわいと楽しいお昼も過ぎ、お茶で一息つくと時計が13時を回った。
    「さあ、もう一息です!」
     もうひと頑張りだと食事を終えた紅緋が気合を入れる。
    「はい、これでブドウ糖補給!」
     千巻がそう言ってデザートのラムネをイルマの手の平に乗せる。
    「元気満タンにして、午後もがんばろー!」
     そう言って皆にもラムネを配っていく。
    「おー!」
     ラムネを食べ元気一杯に午後の勉強に取り掛かる。

    ●宿題
    「じゃ、イルマさん、手分けして終わってない宿題を見ていきましょう」
    「そうだな、頑張って皆の宿題を終わらせよう!」
     紅緋と宿題を終わらせたイルマは、それぞれまだ終わっていない人をのいる机へと教えに向かう。
     嵐が夢中で描いてる絵を葵が背後から覗き見る。
    「嵐は何のポスターを描い…………」
     声を失った葵ば思わず二度見する。その様子に興味を持った朔之助と史明も絵を見た。
    「平和を願う青い鳥とハートと、子ども」
     振り向いた嵐が簡潔に答えるが、阿修羅や閻魔大王が描かれ火炎地獄としか思えぬ阿鼻叫喚の絵図が広がっていた。
    「お……おぉ! すごいっ! なんかすげぇ情熱を、感じるぞっ!」
     絵の影響からか朔之助が変なテンションで褒め称える。
    「へ、へえ……?」
     顔は平静だが、史明の声は揺れていた。それ以上の感想が喉で止まり出てこない。
    「あ、ああ平和を守らないと大変なことが起きるっていう……なるほど……」
     葵は無理やり前向きに解釈して頷いた。
     嵐はその反応を好意的に受け取って嬉しげに頷くと、血のように赤い絵の具をつけて仕上げにかかった。それを見た仲間達は手を伸ばして止めようとするが、筆は勢いよく走りだした。
    「だいたい、お休みの日って言うのは、ゆっくり身体を休めて日頃の疲れを取ったり、趣味や好きなことを楽しんで心をリフレッシュしたりするものでしょ? なのに、休みに宿題が出るなんておかしいわよ」
     ぶつぶつと文句を言いながら春陽が問題に取り掛かる。
    「長期の休みに課題が出るのはアレじゃねえの? 決まった期間で時間の使い方を覚えるとかそういう……まあ夕飯作ってやるから、安いだろうけどそれで頑張れ」
    「……先生、ここの解き方教えて下さい」
     月人がご褒美を用意すると、春陽が少しはやる気を出したように問題を指し示した。
    「おう、どこだ? ここはだな……」
     笑みを浮かべ月人は春陽に教えていく。
    「これはどう読めば……」
    「ここは……」
     国語の宿題をやっていたマリィアンナの質問に、熱志が丁寧に教える。
    「まぁ、これでそう読むのですか、驚きました」
     微笑み勉強に戻るマリィアンナの姿を思わず目で追ってしまう熱志は、勉強に集中しなくてはと首を振って教科書を見た。
    「こっちも少し質問いいか?」
    「はい、ここは単語一つずつに意味があるのではなく、全て繋げて一語となります」
     熱志が尋ねると、マリィアンナも頷いて答える。互いの勉強を見合いながら時間は過ぎていく。
    「なんで『お(を)・わ(は)』2つ あるです? ひらがなも ぜつぼうてきなのに カタカナ? かんじ?」
    「国語は使えば使うほど解るようになるよ。慣れって奴だね」
     気楽にやろうと誠一郎は、頭を悩ます夜野の肩を叩いた。
    「まずインカ帝国の成り立ちは……」
     その隣の机では社会科についての話を聞かれた流希が、インカ帝国の成り立ちから衰退までを語りだして宿題を脱線させていた。
     自由研究の参考にと、ルーチェがキクラゲを水槽で飼った記録日誌を広げる。
    「えっと、なんで、キクラゲ、飼育しようとした、の?」
    「泳がなかったからたぶん淡水だと生きられないクラゲなんだと思う」
    「マジかよ。キクラゲってそんなに弱いのか」
     智秋の疑問にルーチェが答えると、一夜が驚いた顔を見せる。
    (「キクラゲって茸じゃなかったっけ……」)
     その様子を見ながら真那が首を捻っていた。
    「この日何したっけなぁ……! あーっと、確かバーベキューってこの日だったっけか」
    「バーベキューも、楽しかったね……。ちょっとこがしちゃったり」
     アルフレッドが日記を書き込むと、智秋もその時の事を鮮明に思い出す。
    「おいおい、クラスでバーベキューやったし海にも行ったじゃないか。忘れたのかよ、アルフレッドくんこんなに日焼けしてんのに」
     ルーチェがよく焼けたアルフレッドの肌を指差す。
    「この日って何やったっけ?」
    「この時は……たしかやべぇ滑り台があるってんで、ルーチェと一夜と攻略しに行ったハズだ」
     一夜が日にちを指差して尋ねると、連想してアルフレッドがその時の事を思い出す。
    「エクストリーム滑り台マウンテン……ありゃ強敵だった。調子こいてアクロバティックな滑り方をしようとしたら頭から地面に突っ込んじまうとはな……」
     しみじみと腕を組んで頷いていると、仲間たちも話しに乗ってくる。
    「海、海か……。確かルーチェが虚ろな瞳で『僕も、僕だって……ヒトデ』って海に飛び込んだんだっけ?」
    「ルーチ……ヒトデマン君、海でどざえもんみたいになってたわよね」
    「海、楽しかったね……溺れてたの、焦ったけど……」
     一夜と冬華と智秋がその時の姿を思い出して笑う。今となっては楽しい思い出だった。するとそれぞれが夏休みの楽しい思い出を語りだしていく。
    「私は、臨海学校で、空飛ぶ西瓜、割ったの。あと、お兄ちゃんと、夏祭り。金魚……もらったの」
     智秋が訥々と自分の日記に書き込んだ出来事の話をする。
    「その日は……真那と遊園地に行ったわ! 富士急ハイランド!」
    「夏休み楽しかったなあ」
     真那は冬華とのデートを思い出し笑みを浮かべた。日記には沢山の夏の思い出が詰まっていった。

    ●ご褒美
    「これで……終わりました!」
     雛乃がやり残しが無いかを確認して顔を上げた。
    「おめでとうっ!」
     千巻が我が事のようにそれを祝った。
    「そろそろみんな宿題終わったかな? ご褒美のアイスだよー」
     誠一郎が人数分の棒アイスを持ってくる。周りを見渡せば弛緩したように宿題を終わらせた人々が力尽きていた。
    「お疲れ様です! イルマさんアイスを食べましょう」
    「ああ、そうしよう。喋って喉も渇いたしな」
     紅緋とイルマもアイスを受け取り、銀紙を剥がしてバニラアイスを舐める。
    「……おわったです」
    「お疲れさまだね」
     燃え尽きた夜野の頬に、誠一郎が癒すように銀紙に包まれたアイスを押し当てた。
    「夏休みの課題というものは、初日に終わらせてしまうか、計画的にやるのが一番ですねぇ……」
     歴史を語れた流希は満足そうにアイスを手にする。
    「勉強の後のアイスは美味しいです……!」
    「疲れた時には甘いものだねっ」
     安物のアイスだが、勉強が終わった開放感をスパイスに雛乃と千巻は頬を緩めて味わう。
    「冷たくておいしいなー!」
     ほっとした顔で朔之助がアイスにかじりつく。
    「ご褒美用意してまた一緒にやるのも楽しいかもな」
    「ご褒美があるなら……また皆でやりたいな」
     葵と嵐はこういう勉強会なら楽しいと笑みを浮かべる。
    「その時は僕が弁当を用意するよ……」
     史明はまだ口の中が苦いと、口直しとばかりにアイスを頬張った。
    「いつも感謝しております。神田さんに祝福を……」
    「あ、ああ、ありがたくいただこう」
     マリィアンナが口元にアイスを差し出すと、熱志はドキドキしながら口を開けた。甘く冷たい味が口の中に広がる。その甘さがアイスの甘さなのか、それともドキドキの甘さなのかは分からなかった。
    「私もそろそろ、大学のことも考えないとなぁ。と言っても、今が手一杯で先のことなんて浮かばないのよね。月人さんは大学楽しい? どんなカンジ?」
     椅子にもたれてアイスを食べる春陽が進学の事を考えて尋ねる。
    「俺の場合は準備して医学部入ったわけじゃねえからついていくので精いっぱいだなー。それでもまぁ楽しめてるとは思うぜ」
     月人は高校とそんなに変わらず楽しい場所だと笑ってみせた。
    「学べば学ぶ程、自分が何も知らなかった事に気づく。気づけば気づく程また学びたくなる。だから勉強は面白い」
    「そうだな、新しい事を知るのは楽しい事だ。……宿題はあまり好きにはなれないが」
     ヴァイスの言葉に同意しながら、イルマは宿題を終わらせて安堵の顔でアイスを頬張る皆に視線を向ける。
    「終わってみれば皆で勉強したというのも楽しい思い出ですね」
     笑みを浮かべた絶奈の言葉に頷く。皆ですればどんな事だって楽しいイベントになる。夏休み最後の思い出として相応しい一日になったと、皆に釣られるようにイルマは笑顔でアイスを齧った。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月30日
    難度:簡単
    参加:23人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 6
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