「松戸市で発生していた密室事件だが、皆の頑張りによって、事件を起こしていたMAD六六六の幹部、ハレルヤ・シオン嬢の救出に成功した!」
晴れ晴れとした笑みを浮かべ、浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)は吉報を伝える。
ハレルヤは、松戸の密室の警備を担当していたこともあって、救出により松戸市の密室の詳しい情報を得る事ができたとも付け加え。
「この情報を元に今回、松戸市の密室を一掃する作戦を行う事になった」
松戸市の密室を一掃することが出来れば、迷宮殺人鬼・アツシが引き篭もる密室への侵入も可能になるらしく、彼を灼滅することが出来れば、松戸の密室事件を完全解決する事ができるという。
「皆には、ぜひ手を、力を貸してほしいんだ」
千星は力強く告げると、手に持っている資料を広げた。
「千葉県にいるダークネスがアツシに密室を与えられ、その中で好き勝手をしているようだ」
敵は六六六人衆。序列外の少女・ブランシュ。
『白』の名を持つ少女は柏市との境に建つタワーマンションで、かくれんぼと称して住人を死への恐怖へと追い詰めているという。
部屋を出ればブランシュが殺戮を行うため、住人は仕事にも学校にも、ましてや買い物にも行くことが出来ず、放っておけばそのうち飢えて死んでしまう。
もしくは気が狂って部屋から飛び出しかねない状態だ。
「じわじわ殺していくタイプの六六六人衆のようだ」
悪趣味な事で。千星は顔をしかめて呟いた。
「現場のタワーマンションは三十階、一階は店舗が三軒、二階から四階がオフィス、それ以上は住居になっている」
店舗にはそれぞれ十人程度、オフィス階には各階百人程度、住居には一人暮らしから一般的な家族、二世帯で住んでいる家族など、様々な家庭が入っているようだ。中には特殊な職業の住人もいて、友人や助っ人を数人泊まらせて仕事をしている者や、ホームパーティーで友人を招いた家もあるという。
「密室にはざっと千人程度の一般人がいる。皆、ブランシュの来訪を恐れているようだ」
そして何より店舗に食品を扱う店はなく、一般人はブランシュの殺戮と飢え、二つの恐怖と隣りあわせだ。
「中には、サポートを必要とする人……、お年寄りや乳幼児とその母親、妊婦などもいる」
と、千星は難しい顔のまま説明を続けた。
「ブランシュは管理室を乗っ取って、防犯カメラで住人の様子を監視している」
店舗やオフィス、住居の共有廊下などに設置されたカメラからの映像で、一般人の移動を監視。少しでも動きがあればそちらに向かって殺しにいく。
エレベーターもブランシュが動きを制御しているようで、一般人は使う事ができない。
「ただ、夕方の日が沈む数分だけ、屋上でマジックアワーを見るのが日課らしい。その一瞬が、密室に入り込みブランシュと接触するチャンスだ」
屋上に行く方法としてエレベーターがあるが、ブランシュが使った後のため、箱は三十階に止まっている。
「中階段を使ってもいいが、エレベーターを使うのとどっちが早いか……」
階段を使うメリットは、ブランシュに気付かれにくいという事。デメリットは、到着までに時間が掛かることだろう。
エレベーターは、高速運転が出来るタイプのため、乗ってしまえばすぐに屋上に連れて行ってくれるが、運転音でブランシュに気付かれ易いという。
まぁ、そこは皆に任せる。と、千星は呟き、
「ブランシュは、殺人鬼と天星弓、そしてシャウトのサイキックを使うらしい」
資料から目を離すと顔を上げた。
「これは、松戸の密室の事件を完全に解決するチャンスになる。全ての密室を掃討し、密室殺人鬼アツシを引き釣りだしてやろう!」
皆ならやってくれると信じてる。と千星は、ニッと自信満々に笑んだ。
参加者 | |
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花藤・焔(魔斬刃姫・d01510) |
犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462) |
村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275) |
小沢・真理(ソウルボードガール・d11301) |
ヘキサ・ティリテス(火兎・d12401) |
船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718) |
七識・蓮花(人間失格・d30311) |
白石・明日香(リア充宣伝担当幹部・d31470) |
●
日も低くなり、夕焼けによってタワーマンションが赤々と照らされ始める。
一階の片隅にある管理室の鉄の扉が大きな音を立てると、続いてエレベーターが動くかすかな音が響く。
六六六人衆・ブランシュが日課である赤い夕焼けを見るため、エレベーターで屋上に向かう音だ。
おそらく、密室に閉じ込められている一般人が聞く余裕などない音を、八人の灼滅者たちは耳をそばだて聞いていた。そして、エレベーターの箱が風を切る音が遠くなるのと同時に建物に侵入した。
このタイミングこそが、ブランシュが支配する密室を取り崩す瞬間なのだ。
回数表示が三十階――、最上階で止まるとしばらく音沙汰がなくなる。ブランシュがそこから階段を上って屋上へいくためだ。灼滅者たちはその分の時間を見計らってから、行き先ボタンを押した。
箱は操作に導かれて風切音を密室空間に響かせる。
この音はブランシュも聞いているはず。だけど灼滅者はあえてこの箱を使おうと決めた。それぞれが手荷物に持つが、きゅっと音をたてる。
到着した箱に乗り込んで『閉じる』ボタンと『行き先』ボタンを押すと、高速で上がって行くエレベーター。
外側はガラス張りで、密室事件が起こる松戸の市内を一望できる。七識・蓮花(人間失格・d30311)は街並みを眺めてため息をついた。
「たちが悪いですね……」
「だけどこの密室事件を終わらせる時が来たんだ」
白石・明日香(リア充宣伝担当幹部・d31470)は昇って行く回数表示を眺める。
「……確実に仕留めましょう」
長く続いた密室事件。
ここに来てようやく解決の糸口をつかめる段階まで持ってこられたのだ。
花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)が町並みを見つめて呟くと、村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)も小さく頷く。
皆が繋いでくれた密室事件解決の糸口だ。
「紳士たるもの、このチャンスを無駄にするわけにはいかないからね」
犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)も、言葉を繋げる。
「けりをつけよう」
この悪趣味な事件に。
「何よりここの密室は『全員救えるチャンス』がある。それだけ分かりゃァ十分だ」
そう言うと、ヘキサ・ティリテス(火兎・d12401)はニヤリと笑んだ。
「悪趣味で何よりってなァ、精々余裕ブッこいてろ」
それは今に対峙する白い少女への宣戦布告。
仲間の言葉を聴きながら、小沢・真理(ソウルボードガール・d11301)の手はぎゅっと握りこまれた。
いままで遭遇した六六六人衆は強敵ばかりで、全員取り逃がしている。なので、この敵は確実に灼滅する――。
27、28。そして29の数字を回数表示板に表示させて、エレベーターは口を開く。
船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)は、持参していた伸縮物干し竿の先端を箱の角に当てると、もう片方の角を『開』ボタンに当てた。そして万が一、何らかの原因で扉が閉まっても作動しないように、真理も扉にキャリーバックを置いた。
灼滅者たちは極力足音を立てないようにし、尚且つ、ブランシュからの奇襲を警戒しながら階段の方へと回ると、上の階、30階からカツカツと甲高い靴音がフロア一杯に響き渡る。
一般人はブランシュを恐れて共有スペースに出てくるはずもない。という事は、足音は紛れもなくブランシュのもの。
灼滅者は尚一層、細心の注意を払って階段を上がる途中で、ついにその姿を捉えた。
階段の最上段から見下ろす赤い瞳には、焦りと驚きがにじんでいた。
●
が、相手は序列外であっても六六六人衆。
「見つけたわ、ドブネズミちゃんたち♪」
八人を見下ろすと表情を一転、ニヤリと笑むとすぐさま弓を構え、階段の数段下にいる灼滅者目掛けて無数の矢を降らせた。
床に鮮やかな血の小花が咲く。
一番前にいた真理の前に姿を現し庇ったのは、ライドキャリバーのヘル君。そのままブランシュに突っ込むと、彼女の体を壁に叩きつける。
沙雪は咄嗟に封印を解除し、黒いコートと仮面をつけた戦士に変わっていた。そのまま階段を駆け上がると、体勢を立て直したブランシュ目掛けて、唸りを上げる妖の槍『紅蜂』を突き立てた。
「…………貴様の非道な行いの数々、ここで清算させてもらう」
その言葉、声色は落ち着いており、とても年相応のものではない。
「非道な行い? ブランシュはただ、赤いものが見たいだけよ? っていうか、ブランシュを欺こうとは、いい度胸じゃない?」
白いドレスから少しの血を滲ませてくすくすと笑うブランシュも、年相応でない無邪気さを見せる。
本来ならば、屋上でブランシュを撃つ算段であった。
ブランシュは、エレベーターの運転音に警戒して『来訪者はエレベーターで最上階まで来るだろう』と踏んでいたのだ。
ならばエレベーターを警戒し、扉が開いたところを奇襲をかけようと思っていた。上がって来た箱の中身が空っぽだったら、迷わず階段で向かい撃てばいいとも考えていた。
しかし、29階で止まり最上階に来ないエレベーターにブランシュは心を乱された。
なぜエレベーターを途中で止めるのか。
この沈黙の時間に一体何を企んでいるのか。
階段とエレベーター、どちらを警戒していいのか判断に迷った所に灼滅者と遭遇したのだ。
灼滅者たちは意を決する。
必ずしも、屋上で戦う必要など、ない。
エレベーターは確実にこの階へは来ないし、下に向かう階段も己の身で封鎖したようなもの。
ブランシュが下へ逃げる手段は、ないのだから。
「赤のお嬢さん、そんなにその色が好きなら、僕が今ご用意させて戴くよ」
一樹はクルセイドソード『蒼刃乱舞』をくるりと回し構えると、舞い踊るが如き優雅な動きで、ブランシュに『影』を叩き付ける。
「ンで、誰も見つけられねェ鬼のオマエには罰ゲームだ」
エアシュース『火兎の玉璽』が唸りをあげると同時に、ヘキサが放ったのは炎を纏った激しい蹴り。
「ブッ死ね」
激しい炎に煽られながらも、ブランシュは余裕の笑みを浮かべてヘキサを見返す。
「あら、ブランシュは誰も見つけられなくはないわ。赤い体液を流すゴキブリが這い出てくるのを待ってるだけよ」
キャハっ。と声を上げた。
亜綾の霊犬・烈光さんが清らかな瞳で明日香の傷を癒すと、
「生殺しってやつですかぁ、悪趣味ですねぇ」
呟いた亜綾は自らを覆うバベルの鎖を瞳に集中させて、己の攻撃性能を上げる。
「あなたはもう逃げられませんよ」
焔は走りこんで、納刀状態の日本刀『黒紅』を一瞬で抜刀しブランシュの白いドレスに風穴を開ける。
真理は、たった一機のエレベーターに翻弄されるブランシュの未熟さを見る。ならばこの六六六人衆は、今度こそ討てるかもしれない――。
足に力を込めて一気に階段を駆け上がる。そして、仲間の攻撃で押し戻されつつあるブランシュに向けて、流星の煌めきと重力を宿した蹴りを食らわせて、さらに奥へと追いやる。ヘル君も機銃掃射で圧す。
続いた明日香も一気に階段を駆け上がった。そして日本刀を構えると上段に構え。
「赤が好きなんだろ? だったらお前の血で染めてやるよ!」
ブランシュはふっと横に飛んだ。明日香の刀が空を斬る。しかし、どこからともなく現れた帯は、ブランシュの脇腹を斬り裂いた。
白いドレスが点々と赤に染まる。
「もう十分楽しんだでしょう。貴女がいると迷惑です」
冷静にブランシュの動きを読んでいた蓮花は、帯を操りながら白の少女に告げた。
ブランシュは口の端を手の甲で拭うと、屋上へ続く階段の踊り場に駆け上がる。そして悪戯っ子のような笑みを浮かべ。
「やぁよ♪ だって、ブランシュはもっともっと、もぉーーっと赤が見たいんだもの」
白い髪に白い肌、そこに浮かぶ赤い瞳だけが狂気に満ちると、無尽蔵に放出されたのは身の毛も弥立つほどの殺気だった。
「あなたたちの赤はどんな色合いなのかしら? ブランシュに見せて?」
フロアにブランシュの甲高い笑みが響いた。
●
撹乱されて心を乱しても、ブランシュは六六六人衆。その力は相当なものであった。
狂気に満ちた攻撃は灼滅者を蝕み、癒し手を休ませることはない。守り手も回復に回る。それは攻撃を担う灼滅者に、自分で回復する一手を攻撃の一手へと転じさせた。
しかし、傷と疲労は嵩む。
ブランシュもかなり消耗している。その証拠に、白い絹のような髪は乱れ、真っ白であったドレスも赤く染まりゆく。
そして激しい攻防の末、灼滅者は西の空へと今、沈もうとしている紅い夕日をブランシュの背に見た。
「撲滅します」
焔はクロスグレイブを振り上げてブランシュに駆け寄って殴りかかった。
が、ひらりそれを交わすブランシュ。
「アナタの赤を見せて? どんな色かしら」
高速で回り込んだかと思うと、焔を一気に切り裂いた。
「まず、ひとり♪ 素敵な赤ね」
その声と同時に崩れ落ちた小柄な体に、他の灼滅者に緊張が走った。
思わず真理はコンクリートの床を蹴った。そしてブランシュをクロスグレイブで殴りつける。ヘル君も間髪いれずに、そのフットワークを鈍らせるために攻撃を繰り出す。
「……私は血が流れるのは大っ嫌い。そんなに好きなら自分のをどーぞ!」
ブランシュの赤色至上主義は、真理の嫌いなダークネスを思い起こさせた。――あの、笑顔の六六六人衆――。
「ここで終わってください」
蓮花が差し出した指先には魔法陣。そこから生み出た矢に、ブランシュは身を硬くして守りの体制を取るがぐっと圧され、末にはその守りが破られて脇腹を切り裂く。
「……っ!」
怯むブランシュ。その隙にと、剣をタクトのように振るいながら一樹は、天上の歌声で明日香の傷を癒す。
「手前の胸糞悪いかくれんぼもこれで、終わりだ!!」
明日香はブランシュの死角に回りこむと、戦う前は真っ白だったタイツを血で染め上げた。
「ふに、今ですぅ、烈光さん」
烈光さんをむんずと掴んだ亜綾は、烈光さんをブランシュに向かって投げつけた。
「なっ……!」
気を取られるブランシュ。そこに打ち込まれたのは、蹂躙の杭。
「必殺ぅ、烈光さんミサイル、グラヴィティインパクトっ」
「きゃぁぁっ!」
夕焼け空に、甲高い悲鳴が響く。吹っ飛ばされて倒れる紅く白い影。しかし、ヘリポートの真ん中で転がり際に体勢を立て直す。
「……、人の赤は好きだけど、自分が赤く染まるのは嫌いよ……」
ギリっと歯を軋ませたブランシュ。ドレスからは血が滴り、赤というよりどす黒い紅に染まっている。
沙雪は紅い槍に、その隣ではヘキサも白いシューズに、それぞれ紅蓮に燃える炎を宿す。
「炎一閃!」
先に飛び出したのは沙雪。紅く激しく唸る鋭い穂先はブランシュの胸を突き。
「邪魔なンだよ! テメェらも、アツシとかいう奴も!」
後に飛び出したのはヘキサ。熱く強く燃える蹴りは、ブランシュの鳩尾を抉る。
「我が槍に貫けぬもの無し!」
「ここで燃え尽きちまえッ!!」
二人の炎は白い少女を紅く赤く包み込む。
「い、いやぁぁぁぁぁっっ! こんな赤は嫌いっ! きらい! だいっきら――……!!」
炎に悶えた白い少女は、夕日の如く燃える炎の赤によって、消えていった。
後に残るは、空を貫かんとする塔の向こうの更に向こうの山に消える真っ赤な日であった。
●
日も落ち、辺りが徐々に暗くなっていく。
意識を取り戻した焔も加えた灼滅者八人全員は、一旦、階段とエレベーターで一回にある管理室へと足を運んだ。
「これで密室事件に大きな進展があるといいですね」
焔が呟くと、それぞれが安堵と共に覚悟を込めて頷く。
ブランシュは退けた。
次のターゲットは、迷宮殺人鬼・アツシ。
オータムコートに身を包んだ真理は、館内放送の機械を操作する。
マイク前に座るのは、ヘキサ。
ここの住人を安心させるには、密室の主と同じ性別の声より、男性だろうという気遣いだ。
「……でも、なんて放送すればいいんだろう。『このマンションは、たった今開放されました』?」
「ブランシュは排除したので安心して下さいと直接ストレートに言っていいものか……」
一樹の問いかけに、仮面を外してすっかり年相応の表情を見せる沙雪も顎に手を当て考えていると、ヘキサは放送のボタンを押して一言。
『もォ怯える必要はないぜ!』
これくらいストレートの方が伝わるかもしれない。
放送を終えると、亜綾は事前に持ち込んでいた軽食やお菓子を配りに、ヘキサも救助や救出が必要な人に手を貸しに行く。
何らかの理由で放送を聴く余裕がないものがいるかもしれないと、蓮花と明日香もそれに付いて行った。
残りの灼滅者も手分けをして各部屋を回り、危機が去った事を伝える。
松戸のタワーマンションで赤を望んだ少女は消え、この密室は罪なき人の血が一滴も流れることはなかった。
それは灼滅者にとって、とても喜ばしく、名誉な事であった。
作者:朝比奈万理 |
重傷:花藤・焔(戦神斬姫・d01510) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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