松戸密室掃討作戦~全ては彼の手の内に

    作者:カンナミユ

    「既に知っているとは思うが、先日、松戸市の密室事件を起こしていたMAD六六六の幹部であったハレルヤ・シオンの救出に成功した」
     集まった灼滅者達を見渡し、神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)はそう告げた。
     MAD六六六の幹部であり、松戸の密室の警備を担当していたハレルヤは灼滅者達の手により救出された。
     ヤマトの話によればハレルヤを救出できた事により、松戸市の密室の詳しい情報を得る事ができたのだという。
    「そこで今回得た情報を元に松戸市の密室を一掃する作戦を行う事になった。この作戦で密室を一掃することが出来れば、迷宮殺人鬼・アツシが引き篭もる密室への侵入も可能になるらしい」
     それはアツシの灼滅が可能となり、松戸の密室事件を完全に解決する事ができる筈だ。
    「ここに集まったお前達にも今回の掃討作戦に参加してもらいたい」
     真摯な瞳を向けるエクスブレインに応えるのは無言で頷く灼滅者達。
     その表情を目にヤマトは机に置いた資料を手に取り、ぱらりと開く。
    「千葉県に存在する六六六人衆にアツシが密室を与え、そこで好き勝手に殺人を行っているようだ」
     言いながら視線を落とすのはハレルヤから得た情報。
     密室である為か、予知を行う事ができなかったヤマトが手にする資料に記されているのは全て伝え聞いたものである。
     それによれば密室と化した巨大ショッピングセンターで殺人を行っているのは序列外の六六六人衆、藤岡・大輔。
    「俊介は決まったサイコロを振っては、閉じ込められた一般人を殺しているらしい」
     くたびれたグレーのスーツにくたびれた表情の、どこにでもいそうな中年サラリーマン風の男はサイコロを振ってはその出目の数だけの人間を殺している。
     ごくありふれた、どこにでもいそうな外見のせいか閉じ込められた1000人ほどの一般人は日本刀を手にショッピングセンター内を歩く大輔が密室を支配するダークネスだとは気付かない。
     しかもご丁寧にパニックに陥ったり、騒いだりしようものなら真っ先に殺すとアナウンスされており、閉じ込められた人々は逃げる事も隠れる事もできない密室でいつ殺されるのか、誰に殺されるのかも分からず怯えているのだという。
    「こちらから接触できるのは大輔がフードコートで殺そうとする瞬間のようだ」
     資料をめくり、ヤマトは説明を続ける。
     従業員用の入口から侵入し、異様な雰囲気に包まれたショッピングセンターの2階にあるフードコートまで向かう事は難しくはないようだ。接触するまでの間に派手な行動を取ったりしなければ大輔に感づかれる事なく接触する事ができるという。
    「サイコロの出目は予知できないんだよな?」
     説明を聞く灼滅者の言葉にヤマトは視線を落とし、申し訳なさそうに頷く。
     サイコロの出目、つまり1~6人が六六六人衆の刃の餌食となる瞬間が接触できるタイミングなのだ。
    「一般人を救う事はできないのかしら」
    「救う可能性はあると思う。予知ができない以上、これは俺の推測でしかないが」
     シャウト、そして殺人鬼と日本刀に似たサイキックを使う大輔は序列外とはいえ、その力は侮れない。全員で戦って互角かそれ以上の力を持つ六六六人衆の男は狙いを定め、確実に攻撃が当たるよう行動するという。
    「この作戦は松戸の密室の事件を完全に解決するチャンスだ」
     説明を終えたヤマトは資料を手に灼滅者達を見渡し、言葉を続ける。
    「このショッピングセンターだけではなく全ての密室を掃討し、密室殺人鬼アツシを引きずり出してやろう。……頼んだぞ」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    八尋・虚(幻蜂乙女・d03063)
    炎導・淼(ー・d04945)
    狂舞・刑(暗き十二を背負うモノ・d18053)
    雨堂・亜理沙(白影紅色奇譚・d28216)

    ■リプレイ


    「まぁ、いい加減……密室関連はこれで終わらせたい処だよな」
     広々とした店内に響く音楽を耳に迫水・優志(秋霜烈日・d01249)はぽつりと呟いた。
     灼滅者達がいるのは松戸にある、巨大ショッピングセンター。
     迷宮殺人鬼・アツシによって密室と化したこの場所を龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)がぐるりと見渡せば、そこにあるのは密室に閉じ込められた人々。
     明るく楽しげな音楽とは対照的に、その表情はどれも暗い。
     それもその筈、このショッピングセンターから脱出できないと知った人々はパニックに陥ったり、騒いだりすれば真っ先に殺されるとアナウンスされているからだ。
     いつ、誰に殺されるか分からない人々は怯え、誰が自分を殺そうと動くのかと疑心暗鬼の瞳を静かに向けている。
    (「取り敢えず、まずは殺意を抑えるか。見咎められては意味がない」)
     仲間達と共に従業員用の入口からフードコートに辿り着いた雨堂・亜理沙(白影紅色奇譚・d28216)は、近くにいる人へ目を向けたりと人々と同じように疑心暗鬼を装い、
    「とっととこの一件を解決して、ヤツの息の根を止めてやるとするか」
    「代償を払って得た情報っすからね。確実に密室を終わらせるっすよ」
     狂舞・刑(暗き十二を背負うモノ・d18053)とギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は視線を巡らせ、灼滅すべきダークネス―を探しだす。
     エクスブレインから伝え聞いた情報によれば、日本刀を携えた、くたびれたスーツの、どこにでもいそうな中年サラリーマン風の男。
    「さて、冴えないリーマンが相手でもやるコトは変わんないわ」
     そう口にする八尋・虚(幻蜂乙女・d03063)の言葉と共に見据えるのはフードコートにふらりと現れた、くたびれた男。
     序列外の六六六人衆――藤岡・大輔。
     ああ、あの男がこの密室で殺人を繰り返すダークネスだと誰が気付けるか。
     ウイングキャット・寸を肩に乗せた炎導・淼(ー・d04945)がすと視線を向け、狂舞・刑(暗き十二を背負うモノ・d18053)も見れば大輔は懐に手を入れて何かを取り出し、
     ――かつん。
     響くのは小さな、硬い音。
     男の手からするりと落ちたものはテーブルの上で跳ね、床へと落ちると灼滅者達の視線も床へと落ちる。
     落ちたサイコロの出目を見た大輔はひょいと拾い上げると懐にしまう。そして手にする刀の鍔口をぐい、と押し上げ――、
    「では、穴倉の獣狩りといこう」
     紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)の言葉に仲間達は動き出す。
     

     大輔が一般人を殺そうとする、その瞬間。
    「くぉーーらーー!!! ふじおかーっ、ストーーオップ!!!」
     物陰に潜んでいた虚の声に大輔の手が一瞬だけ止まり、
    「させるかっ!」
     動き出す瞬間を目に、動く事もできない家族連れと入れ替わるかのように淼は飛び込み肩口から血を流す。
    「……おや」
     だが、突然の乱入者を前にダークネスは動揺もしない。くるりと腕を返と、更に一閃!
    「頼んだ、寸!」
     主の守りが届かぬ少女の前にウイングキャットは身を挺し、刃を防ぐ柊夜の服が鮮血に染まると後を追った刑が素早く割り込み次々と仲間達も間に入る。
    「六六六人衆番外、藤岡・大輔っすね。覚悟してもらうっす」
     真っ先に淼と寸が動く中、殲具解放、と解除コードと共にギィが放つ黒い炎を間近で交わすと火花を散らし、柊夜のクルセイドスラッシュを打ち払ってしまった。
     序列外であってもさすがはダークネス。灼滅者達の攻撃をものともしない。
    「これより宴を……開始するッ!」
     優志の攻撃をかわすのを目に影で編んだ鎖を左腕に巻きつけ刑が殺界形成を展開すれば、周囲が何事かとざわめき出した。
    「頼みます、謡さん、亜理沙さん」
     ぽたりと血が床を濡らすが気にしている場合ではない。柊夜の言葉に二人は頷くと、人々の避難に動き出した。
    「殺人犯はボクらが抑える。周りに避難の声を掛けながら逃げてほしい」
     襲われた家族連れをフードコートの出口側へと謡は周囲に声をかけながら遠ざけると、亜理沙も涙を流し怯える少女の手を取り遠くへと。
    「久しぶりにいい出目が出たというのに、まさか邪魔が入るとはね」
     ざわめき逃げゆく標的は灼滅者達の向こう。ここから追うには邪魔すぎる。
     残念だとダークネスは口にするが、その口ぶりは全く残念だという感情がない。わざとらしく肩をすくめる大輔を目に虚は声を放つ。
    「……あーもうっ、慣れない大声を出させるんじゃないわよー」
    「慣れない事はしないほうがいいよ、うん」
     虚が構えるクルセイドソードをすとかわす大輔だが、言いながら閃かせる刃は守るべく動く淼が防ぐ。
     守りからの攻撃をかろうじて防ぎ、立て続けに灼滅者達の攻撃を捌く大輔だが、
    「お前みたいな小物が、ゴッドセブンのアツシ『様』からどうやってスカウトされたっすか? 所詮は口だけなんでやしょう?」
     ギィの言葉にぴくりと眉が動く。
     ふと、優志の一撃につと頬に紅線を引く大輔の前に立つのは刑だ。
    「死人の数はもう決まっている。ここで死ぬのはただ一人」
     言いながら刑の手から落ちるのは1しか刻まれていないサイコロ。それは床を跳ね――、
    「……アンタだけだ」
     自らの足で踏み砕く。
     粉々に砕け散ったそれを目にするが、ダークネスは気にもしなかった。
    「5人殺すつもりだったけど……せっかくだから君達全員殺してしまおう。口だけじゃない事も証明できるしね」
     くたびれた言葉に混ざるのは殺意。
     間髪入れずに放たれる殺意に灼滅者達は身構えるのだった。
     

     突然の戦闘にざわつく人々は殺界形成の効果に加えて亜理沙と謡の誘導により避難はトラブルなく進んでいる。
    「いっちゃうの?」
    「すぐに戻ります。それまで耐えて」
     心配させまいとかける亜理沙の言葉に涙をこらえて頷く少女を目に見渡せば、フードコートにいた人達の避難は完了していた。これで戦闘に巻き込まれる事はないだろう。
    「戻ろう」
     謡の短い言葉に頷き二人は床を蹴り駆け、急いで仲間達が戦うフードコートへ。
     戦いの音を耳に謡の瞳が見据えれば、駆ける淼のエアシューズの煌きが見える。がつん、と音を響かせギィが振るう剥守割砕が打ち合い、それに仲間達が続いていた。
    「さて、全力で叩き潰すよ」
     戦う様子を前に共に駆ける謡の腕が動くと仲間の傷が癒えていく。それを目に亜理沙は契約の指輪を構え、弾丸を放った。
    「ご苦労さん」
    「ありがとな」
     戻った二人に優志と淼が声をかけるその目前。閃く一閃!
     ざくりとえぐる一撃に顔をしかめるがそれも一瞬。きっと睨みサイキックを放つ。
    「ほらっ余所見してたらあっさり逝くわよ! あたしらは8人居るのよ?」
    「面白い事を言うね、君」
     優志のグラインドファイアを受け、刑の一撃も気にもせず、虚のクルセイドソードは空を切る。
     謡の癒しがふわりと舞い、亜理沙の攻撃を受けた男の姿がふと虚の視界から消え、次の瞬間。
    「8人で来た、という事は君達は8人でなければ私と対等に渡り合えないという事だろ……!」
    「……くっ!」
     死角から回り込むその一撃を虚はかわせない。
    「そこまで言うなら、私があっさり逝く程の実力を見せてもらわないと!」
    「寸!」
     血を流しぐらりと揺れるその体に再びの刃。上がる声に応え飛び出す寸は淼と共に積極的に守りを行っていた事もあり、そこで体力が尽きてしまう。
    「このふざけた遊び場もお前も全部ぶっ潰してやる!」
    「……なに、っ」
     ふっと消える姿を目にクルセイドソードをぎりっと構え、放つ攻撃をダークネスはかわす事ができなかった。腕を捉え、その一撃を受けた大輔はざくりと裂かれ血を流す。
    「今この密室は、お前のためにあるんすよ? OK?」
     黒いサイキックを放ち言うギィに柊夜が続き、
    「これ以上好き勝手されてたまるか……ここで終わりにしようぜ?」
     シンプルな片刃の剣を構え攻撃する優志の言葉は、仲間達全てが思う事。
     密室を支配するダークネスを灼滅すべく、仲間達は動く。
    「大丈夫?」
     続く戦いの中で六六六人衆との戦いで受けダメージは謡の回復により癒されていく。傷口は塞がり、出血もぴたりと止まった。
    「ありがとうございます」
    「助かるっすよ」
     声をかけれら礼を言う柊夜とギィは得物を構え直せば、仲間達がダークネスを灼滅すべく戦っている。
     相手は全員で戦って互角かそれ以上の実力を持つダークネス。1対8という数の差は徐々にではあるが、確実にその優勢は変わっていく。
    「……ったく、さすがにこの人数は堪えるね」
     己の血がスーツをどす黒く染めるのを目に大輔はぽつりと口にした。
     ダメージが蓄積されつつあるのかその口調は疲労が混じるものの、それでもまだ倒れない。刑が放つ殺影器に捕らわれつつも虚の刃を打ち払い、
    (「クソ……! ここで……ここで潰さないと……」)
     そう、ここでこの男を潰さなければ元締めに手が届かない。
    「……紅に沈め」
    「っ!」
     エアシューズを駆り、放つ亜理沙の一撃をダークネスは避ける事ができなかった。まともにくらい、その体はよろめいた。
    「もう年だね、このくらいのダメージで……」
    「もう若くないっすもんね」
     回復を図り、口にする大輔にギィは言い、攻撃。ダメージ重視で攻撃を続ける柊夜を前に優志は男の動きに変化がある事に気が付いた。
     戦いを続けているが、その視線は幾度となくフードコートの外へと向いている。
    「日本刀提げて、賽を持って……任侠気取りな割には腑抜けだな? 番外なのも納得って話だ」
     退路を防ぐように回りこむ優志はシンプルな漆黒のエアシューズからサイキック放ち、向ける視線の意図を仲間達は読み取った。
     ――逃げるつもりだ。
    「引く事もできないようでは六六六人衆は務まらないよ……序列外であろうとね」
    「賽の河原にでも行ってきな」
     退路を塞ぎ刑も動けば、虚も続く。
     おそらく体力も残り少なく、耐え切れずになっているのだろう。回復の頻度が上がるダークネスに灼滅者達は畳み掛ける。
    「自慢の賽の目で切り抜けてみると良い。とはいえ、ボクらに見付った時点で詰みなのだろうけれど」
     回復から攻撃に切り替えた謡は獣の如き体術と直感でしなやかに動き、鬼の捕食器を放ち、
    「今更足掻いても無駄だよ。ここはもう、賽の河原だ」
     亜理沙も死角に回り込み刻み込む。
     全てを終わらせるべく、全力で畳み掛ける攻撃を受けたダークネスは傷だらけで、ぼたぼたと血が落ち足元に池を作る。
     それでも抗い、踏みとどまる姿を目に虚は得物を構えなおす。
     死にたくないから殺す、殺られる前にヤる。死ぬ必要が無い人を助ける、死んだ方が良いヤツを殺す。
     それはダークネスと灼滅者、そして一般人との極めて健全な付き合い方。
     だから。
    「じゃあ、死ね」
    「これで最後だ!」
     淼と共に放つ攻撃を大輔は避ける体力は残されていなかった。
     まともに受け、それでもなお、灼滅者達へと刃を向け、構え――、
    「……どうやら……遊び、すぎた、よう……だね……」
     血塗れた手から刀がするりと落ちると、切れたスーツからかつんとサイコロがこぼれ落ちた。
     

    「どうだいおっさん。束の間の殺りたい放題は楽しかったか?」」
     殺刃器を手に言い捨てる刑の言葉にダークネスはどさりと倒れると、その体はサイコロと共に黒い灰となる。
    「やっぱりハードワークだったかしらー」
     それはざらりと崩れ落ち、さらさらと消えていく様子を虚が見下ろせば、それはすうっと消えてしまった。
    「お疲れさん」
     自らも傷付く優志は仲間達に労いの声をかけ、
    「さて、これでアツシを引き摺り出せればいいんだけどな?」
    「そうですね」
     柊夜と言葉を交わせば、亜理沙と謡の前を少女が駆けて行く。
    「おねえちゃん!」
    「もう、どこ行ってたの? ずっと探してたんだから」
     あの時、涙ぐんでいた少女の瞳に涙はなく。
     手を繋ぎ笑顔で歩いていく様子を目で追えば、家族連れや避難させた人々が灼滅者達の前を通ってそれぞれが向かう先へと歩いていった。
    「それにしても……」
     音楽を、人々の声を耳に足元の残滓を目にギィは一人考える。
     行動原理が分からない密室殺人鬼。他に何か仕掛けがあるのだろうか……。
    「おい、置いてくぞ」
     その声に顔を上げれば尾を揺らす寸を頭に乗せた淼の姿があり、仲間達と共に出口へと向かっていく。
     何があるかは分からないが、いずれ分かるだろう。
     他の密室も全て攻略し、あの密室殺人鬼を引き摺り出す事ができれば。
     
     こうして誰一人として犠牲を出さず、ショッピングセンターは何事もなかったようにいつもの日常を取り戻す。
     明るく楽しい音楽が響く店内を灼滅者達は歩き、そして消えていった。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ