「松戸市で発生していた密室事件は知っているだろう」
話をそう切り出した神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)は、灼滅者たちへと目を向けた。
――先日、この松戸市の密室事件を起こしていた、MAD六六六の幹部であった、ハレルヤ・シオンの救出に成功した。
ハレルヤは、松戸の密室の警備を担当していたこともあり、救出によって松戸市の密室の詳しい情報を得る事ができた。
「この情報を元に、松戸市の密室を一掃する作戦を行う事になった。
松戸市の密室を一掃することが出来れば、密室殺人鬼・アツシが引き篭もる密室への侵入も可能になるらしい」
今回行う作戦、そして、侵入が可能となった際にアツシを灼滅すれば、松戸の密室事件を完全に解決する事ができるだろう、と、ヤマトは言う。
得られた情報の密室の一つ。
松戸のとある工場周辺が密室化しているとのこと。
「この密室化された工場の敷地にいるのは、六六六人衆、名は道楽君(どうらくくん)。サーカスのピエロのような格好をしているそうだ」
道楽君はその日その日に10人ほどを選出し、芸術的な創作活動をしているようだ。
吊るしてシャンデリアとしたり、串刺してオブジェとしたり。
「……口にするのも憚られる所業だ」
エクスブレインの予知が困難な密室内。選出された時点で生存率はほぼゼロだと、容易く判断できる情報。
それを元にヤマトは説明を続ける。
「1000人ほどが収容されていたとのことだ」
過去形で、ヤマトは言った。
工場関係者だけにとどまらず、周辺地域で捕まった人もいる。
工場敷地内には、4つの建物があり、その1つは倉庫。そこで殺戮が行われているらしい。
それ以外の3つの建物に大半の人々がいるのだが、屋外にも、高さのある柵に囲われている人たちがいる。柵内の人間から「消費」されているようだ。
「密室自体には簡単に侵入できるだろう。さて、ここからだ。敷地内で、敵にどう接触するか、だが」
資料を机に置き、次にヤマトは使い込まれたノートを開く。
倉庫は体育館二つ分くらいの広さ。資材やダンボールなどは、奥に寄せられている。
「倉庫のメイン出入り口はシャッター部分のようだが、開閉に時間がかかるため、敵はそれを使っていないようだ。
かわりに、側面の普通の扉を利用している。
敵が入ったのを見届けたのち、中に入って攻撃を仕掛けるのが、一番単純で確実に灼滅を行える方法だ」
創作意欲が湧いているので、一番油断している時でもあるが、中の状況はわからない。
戦闘では、道楽君は率先して一般人殺害へと自身の手番を使うようだ。
「……あとは、10人の選出者のなかに入り、敵とともに倉庫内に入る方法」
一般人被害が幾分か減らせる方法だ。
その時、1人の灼滅者が挙手した。
「10人の選出をしている時に、敵が殺戮を行う倉庫に侵入し、あらかじめ潜む方法はとれないのか?」
「密室内での、さらに奴が気に入っている領域内だ。バベルの鎖に引っ掛かるだろう」
気付かれる。
「屋外……選出前後に戦闘を仕掛けても、当然その場にいる人たちは……」
違う灼滅者の呟きにも、ヤマトは頷いた。
敵の一手を一般人へと向かわせる――そんなことも、可能だろう。
道楽君とともに倉庫内へ入るか、扉から乗り込むか、単純にわければこの2つの方法となるが、あるいは、この方法を同時にとるのもまた作戦。倉庫内に引き込まれた一般人救出も不可能ではない。
「タイミング、役割、より良い方法を見つけられるよう、話し合ってみてくれ」
道楽君は殺人鬼と似たサイキック、そしてウロボロスブレイドのようなサイキックを使って攻撃してくる。
「これは、松戸の密室の事件を完全に解決するチャンスになる。全ての密室を掃討し、密室殺人鬼アツシを引きずりだしてやろう――いい加減、重なる惨劇に終止符を打たないと、な」
頼んだぞ。
そう、ヤマトは頷き、灼滅者を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780) |
灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085) |
ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125) |
日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366) |
志賀神・磯良(竜殿・d05091) |
嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475) |
山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836) |
一色・紅染(料峭たる異風・d21025) |
鉄の格子を揺すってもびくともしないし、高さもあって脱出は不可能。
柵内では中央に寄り合う者もいれば、柵に背を預け座り込む者もいる。皆、錠前のある出入りできる場所からは離れていた。
足掻いても無駄だという空気が満ちたなか、鉄の格子の一本を握った少女がいた。
傍の人間が見、一人、二人と次々に気付く。
そこには三人――怯えのない人間を見たのは、とても久しぶりのことだった。
●
さざ波のように広がる何らかの空気を感じながら、誰かが声をあげる前にミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)は指一本を立てて、しーっ、と声を潜めるよう伝えた。
4メートル弱、伸縮式はしごを使って颯爽と柵を乗り越える。
「助けに来たよ! 大丈夫だから、あたいたちの言うとおりにして!」
アルティメットモードの発動に、「ほ、本当に?」「助けがきたの……!?」と、深い感銘を受ける一般人たち。
はしごを支える灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)は、中からこちらへと目を向ける彼らに深く頷き返し、山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)が天辺に辿り着くのを待った。
「山田さん、はしごは私が預かりましょうか?」
柵上ではしごを持ち上げるよりは、と、フォルケの申し出に透流はこくりと頷いた。
「ありがとう」
「いえ、それでは――後で」
ダークネスとの戦いを控えた今、どちらともなく頷きあった。
「あ、あの」
近付き声をかけた女性を見た透流は柵半ばまで足をかけたのちひらりと飛び降り、
「いつも通りに」
と、力付けるように言った。
フォルケはズダ袋にはしごを入れ、資材が乱雑に置かれた場所に紛れ込ませたのち、自身も隠れる。
彼女が双眼鏡越しに見るは、一般人たちと、いつも通り振舞うように言う二人。
その時、チャイムが鳴った。灼滅者たちだけでなく、密室内にいる全員が息をのむ。
続くノイズは、工場内放送。
『オッハヨーゴザイマース。皆さん、アッタラシーいちにちの始まりですよォ』
動揺、嘆き、怯え、全てが混ざり、一段と重苦しい空気へと変化した。
『今日はぁ、狂騒的な打楽器を作ろうと思うんだぁ。中の皆も、お披露目を楽しみにしててねェ♪』
うふふゥ、と声を残して、放送のノイズが途切れる。
「ダークネスさんたちの遊びは見ていて気持ちがいいものじゃないから、早く終わらせることにしよう」
「ん、頑張ろうね」
透流の言葉に、ミカエラが頷いた。
工場敷地には血の滴下、引きずられたような跡、溜まった痕跡などがあった。
芸術と、その出来を見せられる観客。
身を潜める一色・紅染(料峭たる異風・d21025)は、ふ、と目を伏せた。
(「芸術、は、理解、されない、ものも、あるって、聞きます、けど……これ、は……」)
理解してはいけないものだ。
錆色となった跡をなぞるように見ていけば、全てが倉庫に辿りつく。
(「……あっては、いけない、もの、です」)
弱々しい声が紅染の耳を打つなか、ざわめきが大きくなった。
ピエロがゆらゆらと建物から出てきて、柵内の皆々に語りかける。
「今日はぁ、楽器だからねェ。イイ声がイイなぁ~」
シン……と場が静まり返った。抑えられない引きつった声だけが、たまに場に響く。
●
「さあ、行こう♪ 早く行こう♪」
鞭剣を持ち、歌うように言うピエロに押され十人目が歩く。
先頭を歩く二人の灼滅者、道楽君との間に出来た距離を双眼鏡で見るは志賀神・磯良(竜殿・d05091)だ。
三番手となる一般人から、やや距離を開きつつ倉庫内に入った二人――数拍の間を置いて、大声が外まで聞こえてくる。
『うわぁあああ、あんた誰!?』
「……エッ、何々アトリエに誰かいるノ~?」
道楽君は首を傾げると八人を押しのけて倉庫へと入っていく。
「行きますよ、阿曇!」
霊犬、阿曇とともに駆ける磯良。同時に六人の灼滅者が倉庫扉を目指して駆けている。
道楽君が離れた瞬間、おろおろとしていた八人は少しずつ後退していた。ここで待つより、どこかに隠れて難を逃れたほうがまだマシだという――そんな動き。
一人、灼滅者が入った。扉は確保され、嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)は振り向き様に八人へと言い放つ。
「逃げるっすよ!」
「失礼しますっ」
日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)の声とともに放たれた何かに、ハッとした彼らはバタバタとその場を去っていく。柵でも、工場の中でもない、どこか身を潜められる場所へと。
中へ入れば鞭剣の刃が空中を舞っていた。道楽君の微かな手首の動きでそれは鋭い斬撃へと変化し、先の二人を薙ぎ払う。
次々と入り、最後の灼滅者が扉を閉めた。
一般人を遠ざけ、今、この場にいるのは灼滅者とダークネスのみ。
場を一瞥した二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)はアタッチメント『スカーレッドサージ』を起動させた。
「さぁ、灼滅演算を始めようか」
扉へと背を向ける道楽君へと一直線に、翠が駆けていく。鬼のそれへとなった片腕を振り被り、敵めがけて撃ち抜いた。先に入っていた二人から道楽君を離すように。
ぶれた体をそのままに踊るような動きでピエロは灼滅者たちの牽制をすり抜け、それを翠が追う。
「絶対に、許しませんですからねっ」
倉庫内、彼のアトリエは血の匂いがした。死の気配が濃厚にあった。建物の構造上、響き渡る声と音。昨日まで在った命も響いたはずだ、死にたくない、と。
禹歩により完成する磯良の歩行呪術。描かれた五芒星の方陣上で祝詞を詠めば、空気が動きそれは風となった。
研がれた圧が道楽君を切り裂く。
「――本当に不愉快だ。必ず、ここで仕留めよう」
扉近くに位置した磯良が言う。
「エエー、灼滅者?」
ちら、と扉を見て上方へ剣を飛ばしたピエロ。何かが落ちてくる、何かに掴んで上に飛ぶ道楽君。落ちてきた歪な形のコンクリートの塊を錘にして、ゆらゆらと天井付近で揺れている。
歪なオブジェを一瞥した雪紗。
「どうにも六六六人衆というのは芸術、それも下賤な物を好むようだね」
滞空するスカーレットサージを繰り、雪紗がコンクリートを繋ぐ鎖を切る。弧を描き飛ぶそれは目標を狙い定めた瞬間、速度を増し敵を射抜いた。
「悪趣味芸術集団、と名前を改定したらどうかとボクは提案する」
雪紗の言葉に、ジャラララと鎖音とともに落ちてくる道楽君は、ギャハハと笑った。
「下賤に相応しき、狂騒的な楽器、灼滅者、良い声で鳴いておくれよォ!!!」
道楽君の殺気が膨れ上がり、爆発するかのように一気に広がっていく。濃密なそれに、一瞬、思わず息を止める前衛。
絹代が庇い、庇われたフォルケが殺気をものともせず道楽君の死角へとナイフを手に回りこむ。
「悪くない創作だけど、何かが足りない! ピエロじゃわからない何かが!」
そう言った絹代の蒼い指輪が明かりに反射し煌く。呪いが敵の体をじわりと蝕んだ。
●
紅染の動きに着物の袖が緩やかに舞った瞬間、一尾が鋭く突き出された。
穿つ穂先を直に掴み、片手に持つ鞭剣で紅染の足を払う道楽君。
一尾にやや重心をかけて瞬時に体勢を整える紅染。怨念に塗れし妖狐の尻尾が空気を切る音は、怨嗟の声にも聞こえる。
同じく遠心をかけて加速する道楽君の武器。
「敵、一時から反時計まわり四メートル、足元にきます」
大きく下方へと旋回する鞭剣を目に、フォルケが言う。
ひゅ、と床ギリギリに敵の鞭剣が薙がれていくのを避ける灼滅者たち。終点、道楽君の腕が僅かに上がり、弧を描いて鞭剣の切っ先が天井へと向かう滞空時間。
「側面から仕掛けます……coverお願いします」
敵には届かない声でフォルケが言った。
「まかせて!」
正面にミカエラ、敵の背面に資材を伝った透流が回りこむ。
交通標識を手に思いきり跳躍した透流は、赤色にスタイルチェンジさせたそれを敵の頭めがけて振り下ろす。
三方向、腕をどう振るべきかと一瞬迷ったらしい道楽君は上空背後からの攻撃への対処はまず捨てた。鞭剣がぶれる。
「ウヒャ……!」
「たとえ序列が何番だって、動けなくしてしまえばみんな同じ……!」
着地し構えなおした透流は、添え木をあてがうように敵の背に標識を叩きつけた。そこに、フォルケが肉迫する。
変形させたナイフで斬り刻み、新たな傷を重ねていく。腰を落とし旋回しての一閃は鋭く深く胴に刻まれた。
鞭剣が輪を描き、フォルケたち前衛を薙ぎ払っていく。霊犬を払い、前衛三人を払い、薙がれる刃は血に濡れそれは虚空に飛沫した。透流、終着点はミカエラだ。
到達する前に、ミカエラが非物質化した破邪の剣を一閃する。
「あたいも、血の色は嫌いじゃないよ。生きてるって気がする」
斬り払ったミカエラの攻撃に一歩、二歩と後退せざるをえない道楽君――と、透流がミカエラの体を押し二人で敵の攻撃の間合いから離脱に動いた。
肉に喰いこむ刃の感触――だが思っていたよりも浅い。
「痛みも、力になることがあるよね」
道楽君を見据え、ミカエラが言った。
その時、鬱々とした倉庫内の空気が一掃され、清涼な風に満ち満ちていった。
祝詞を詠む磯良の声に応えるように風は動き、灼滅者たちの穢れを祓い傷を癒していく。
「キミ達の背中は私が護る。どうか存分に力を揮ってくれ」
風にのるように通る癒し手の声。
跳躍し、駆ける阿曇もフォルケへと浄霊眼を向ける。
次に符を手にした磯良は違う祝詞を詠みはじめ、それを聞きながら御幣を持つ翠が接敵する。馴染んだ清廉な空気のなか、足早に駆けた。
創作は楽しいし、大事だとは思う。けれど。
「だれかの命を奪ってする創作なんて、必要のないものです」
道楽君の両肩めがけて祓うように力を流しこむ翠。
「どうしても命が必要なら、自分の命でやってください」
鞭剣が清廉な空気を切り裂く。翠が素早く避け、対角に影を伴う絹代が迫った。
「ピエロが芸術家を気取るなんて、やれやれというか碌なヤツもできなさそうっすね」
それは影というよりも、瘴気。床に手を着き、下半身を捻った蹴りに瘴気を直接ぶちこむ!
「ワタ抜いてぶっ殺してやる!」
絹代の、密の高い黒が道楽君を覆い蝕んでいく。
獣のように着地した絹代の頭上を、精度の増した「影」が跳ぶ。
アタッチメント『ランドスタッブ』へ宿した影を脚に纏い、高速演算で的確な軌道を導き出した雪紗が蹴りつけたのだ。
道楽君はいなし、後方転回する。
「ウフフ、イイヨイイヨ~、形ナイものを創りあげるっていうのも、楽しいヨネ~」
戦いの空気にわりと満足しているようだ。
ここに悲鳴があるとモットイイんだけどナ~と、道楽君は呟くのだった。
●
翠に向かって伸びる鞭剣。そこに阿曇が飛び出し、その身に刃が巻き付けられていく。
(「阿曇……!」)
磯良が心の中で呼びかけるも、容赦のない攻撃に霊犬の体はかき消える。芯を失った鞭剣が力なく空回りし、道楽君は引き戻した。
癒しの力をこめた符は、方陣をなぞる磯良の足捌きによって方向を変え、常に動き回る灼滅者へと飛んでいく。
一度、行動を阻害された道楽君の隙をついて回復を重ねた灼滅者たち。配置的に前衛への列攻撃を好み出した道楽君はしつこく灼滅者を嬲った。
が、道楽君が石を集め固めたオブジェを砕きはじめる。
「コレ、いーらないっ。コレも、いーらないっ!」
破片は石でないものも混ざっていた。
敵の背後をとる、ミカエラ。破邪の聖剣でピエロの蛮行を止めるべく袈裟懸けに斬りつけた。
「挑発してるつもり? ずいぶんと余裕だね」
「彼らへの冒涜はそこまでにしてもらいます」
神剣を垂直に構えた翠が間髪入れず打ち込む――刃が道楽君に迫った瞬間、霊体化し月光のような青白い光を帯びた。
ミカエラと翠の手に伝わるのは、霊魂と霊的防護を砕く、確かな手応え。
雷神の戦車を放った透流は手綱を引くように敵を絡め取る。
「みんなを楽しませる道化がピエロなのに、その道化がみんなを犠牲にするだなんて言語道断。全国のピエロさんたちの風評被害を防ぐために、ここで倒させてもらう……!」
「ヒャハ、みんな楽しんでたと思うケドナ~」
そろそろ限界のはずの道楽君は今だ軽口を叩いた。透流は影を敵の身に喰いこませる。
「やーなかなかのキチガイっすね!」
腰を落とし、ぶん! と腕を振った絹代。
ピエロにめりこむ拳、否、ベルデライン教授から呪いが放たれる。
思いっきり殴られ吹っ飛ぶピエロの体を、スカーレッドサージが貫く。そのまま鮮血を散らしながらスカーレットサージがピエロの四肢へ向かった。
「残念ながら、下らぬ「オブジェ」とやらに化すのは君のようだ」
雪紗の攻撃に、いまにも身を崩しそうになる道楽君。
紅染の壊魂の杖が打ち込まれ、道楽君への体内へと力が注がれた。外法で力を得た呪杖から、力が敵の中を嬲っていく。
「ここ、での……惨劇、は、終わり、です」
終わりに、しましょう。
紅染の赤い瞳が、語る。
彼の言葉に同意するように、フォルケがナイフを閃かせる。見出すは殺戮経路。
袈裟懸けからの背後に回り、刃を翻して斬りあげる――上に向けた刃から滴り落ちるは、六六六人衆の血。
「ヒャ、ハ……!」
どしゃりと道楽君が倒れ、血溜まりを作っていく――。
狂気的な殺気も消え、留まる死の匂いなか、灼滅者の呼気が漏れる。
数瞬の静寂、ふと我に返ったひとりが新鮮な空気を、風を、求めて扉を開いた。
「もう大丈夫、助けにきたよ」
磯良の言葉で目を瞠った彼らに、微かな安堵が宿った。
「がんばったね」「もう出られるよ」と、ミカエラと磯良の言葉に促され、人が次々と工場の外に出てくる。
出口へと誘導するのは雪紗と透流だ。
雪紗が先を見れば、出入り口でフォルケがじっと立っている。
姿勢正すその姿に、彼らはようやく解放されるのだと感じた。
「こんだけ作りまくって何するつもりなんすかね?」
密室を。絹代の不思議そうな言葉に、紅染は他の灼滅者たちが向かった密室を思った。
「わかり、ません……ね」
ゆるりと首を振る。
惨劇を免れた人が一人でも多く、いればよいのだが。
倉庫前で、翠が神楽を舞っている。
――犠牲者の方が、これからはせめて安らかに眠れるように、と。
この日、久しぶりにシャッターが開かれた倉庫――そこは、今、燦々と陽の光が射し込まれていた。
作者:ねこあじ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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