豊かな悩み

    作者:飛翔優

    ●形が崩れるのが許せない
     ――まあ、あんたの言いたいこともわかるけどさ、仕方ないんじゃない? どうしようもないじゃん。
    「……はあ」
     数分前、相談を持ちかけた親友から返って来た答えを反芻し、高校一年生の少女、豊田あずき(とよた・あずき)は肩を落とす。
     スマホを取り出し、スケジュールを確認。夏休み明けに記されているプールの授業を前に、再びため息を吐きだした。
     立ち止まり眺めるのは、自分の体つき。
     いつもは自慢のプロポーションだと親友を唸らせている、出ているところは出ているし引っ込んでいるところは引っ込んでいる体つき。
     スクール水着には不釣り合いな、体つき。
    「……自分で選んだ水着ならいいんだけどなぁ。それなら、自分に一番あったの選べるし……」
     親友への相談は、スクール水着が自分には似合わない……という悩み。親友以外に相談したらぶっ飛ばされそうな内容だが、悩んでいるのだから仕方ない。
     人に、不格好な姿は見せたくない。
     ――でも、むしろそれがいいって人たちもいるんじゃない? だから、むしろ魅了するつもりで……。
    「……」
     不意に浮かんできた発想は、拳を握って打ち消した。
     自分に自身があるからこそ、自由にならない格好が悩みなのだと否定した。
     それでも……悩み続けた心に、その言葉は甘い。もっとも……その言葉は、闇への道標なのだけれども……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)の予想によって導かれた予知がある。そう前置きした上で、倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は説明を開始した。
    「察知した内容は、高校一年生の女の子、豊田あずきさんが、闇堕ちして淫魔になる……そんな事件です」
     本来、闇堕ちしたならばダークネスとしての意識を持ち、人としての意識はかき消える。しかし、あずきは闇堕ちしながらも人としての意識を保っており、ダークネスになりきっていない状態なのだ。
    「もし、あずきさんが灼滅者としての素養を持つのであれば、救いだしてきて下さい。しかし……」
     完全なダークネスと化してしまうようならば、灼滅を。
     続いて……と、葉月は地図を広げ、商店街から住宅地へ繋がる道を指し示した。
    「皆さんが赴く日の午後四時頃、あずきさんはこの道を歩いています。ちょうど、喫茶店で親友とおしゃべりした帰り道みたいですね」
     一人で歩いているため、接触は容易いだろう。
    「そして、接触の後は説得することとなると思うのですが……そうですね、あずきさんの人となりについて説明しましょうか」
     豊田あずき、高校一年生女子。明るく元気で勝ち気な性格で、友人の相談に乗る事も多い。また、抜群のプロポーションを持ち、それをより良く見せる服を好んでいる。
     しかし、学校の制服など服装がままならない場所はそれなりにある。それでも制服はアレンジを施し自分らしい服装に変えたが、プールなどで用いるスクール水着はそうは行かない……そんな悩みを抱えていた。
    「曰く、どうしても不格好になってしまう。そんな姿を見せたくない……と言った形なようで……」
     あるいは、そんな悩みが開き直れと囁く淫魔という闇を呼び起こしたのかもしれない。
    「ですので、その事をどうにか解決する、あるいは軽くしてあげる方向で説得して頂く事になると思います。具体的な内容はお任せしますが、そんな方向性で言葉を投げかけてあげて下さい」
     そして、説得の成否に関わらず戦いとなる。
     淫魔と化したあずきの姿は、はちきれんばかりの胸やお尻をスクール水に収めている少女。力量は、八人ならば十分に倒せる程度。
     妨害能力に秀でており、肩紐を外しかけた上で誘惑を仕掛ける、食い込みを治す姿を見せて攻撃の勢いを弱めさせる、足を絡める形で抱きつき拘束する……といった攻撃を仕掛けてくるだろう。
    「以上で説明を終了します」
     地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
    「自分の意志が及ばないが故に不格好になってしまう……そんな悩み、少しだけ分かる気がします。しかし、その解決法として淫魔となってしまうなど、本人は思ってもいないかと思います。ですのでどうか、全力での行動を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)
    南風・光貴(黒き闘士・d05986)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    葛葉・雅(闇夜の祝詞・d14866)
    神宮寺・柚貴(不撓の黒影・d28225)
    佐竹・芹那(悪魔に仕える女王・d31142)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)
    百武・大(あの日のオレ達・d35306)

    ■リプレイ

    ●少女の悩み
     夕焼け色がにじみ始めた住宅地と商店街を繋ぐ道。しきりにため息を吐きながら、帰路を辿っている少女、豊田あずき。
     確認した後、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)はあずきに近づき声をかけた。
    「こんにちは」
    「……え、あ、はい。こんにちは」
    「何かお悩みがあるようですね」
     戸惑い混じりの返答を行ったあずきの表情が、訝しげなものへと変わっていく。
     構わず、紗里亜は続けた。
    「例えば、スクール水着のこととか」
    「っ!?」
     驚きと警戒の色に染まっていくあずきを、紗里亜は笑顔で見つめていく。
    「人の魅力って格好で決まるものでしょうか」

     警戒している様子に変化はない。
     構わず、紗里亜は続けていく。
    「どんな格好であれその人自身が魅力的であればよいと思います」
     自分も、大きい方なので気持ちはわからなくもない。
     でも、だからこそ胸を張って欲しいなと思う。
    「格好いいところも悪いところも引っくるめて自分自身。それも愛すべきあなたの個性。あなたの魅力なんですから」
    「……」
     あずきの様子に変化はない。
     返答もまた、なされることはなかった。
     だから、紗里亜に代わり人払いを終えた葛葉・雅(闇夜の祝詞・d14866)が、静かな調子で切り込んだ。
    「確かに、美は己が内のみにありと申します。貴女の中では美しくない物かも知れません」
     自分なりに着こなすことができず、抜群のスタイルが悪い方へ作用して形が崩れてしまう……不格好になってしまう、スクール水着という服装。
     あずきが嫌っている、格好。
    「ですが……ご自身の価値観に固執する前に、周囲の目もご覧になってみるのも宜しいかと思いますよ。きっと貴女が思う物とは異なる反応が、返ってくると思います」
     けれど、あずきが思うほどに周囲はそう受け取らないのかもしれない。
     あるいは、正反対の反応を見せるかもしれない。
    「一様な物ほど、異質さがより目立つ物です。貴女の抜きん出たスタイルも、より際立つのではないでしょうか」
     言葉を締めくくるとともに、雅は一礼して一歩下がる。
     足音に呼応したか、あずきは雅へ視線を向けた。
     その瞳に若干の険が宿っていたのは……。
    「なんつーかよ」
     ……意を探る前に、備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)が言葉を投げかけた。
    「小娘が水着一つに似合う似合わんなんて、どうかと思うな。そういったのはよ、もう少し、大人になってから悩む物だと思うな」
     抜群のスタイルを持つとはいえ、あずきは高校一年生。まだまだ、発展途上なお年ごろ。
    「大体よ、形ばっかり良くても、経験がないからにじみ出る色香を感じないな。特に、自分の体に自意識過剰な小娘はね」
     若さと形だけで色気もない小娘には興味がないと鎗輔は語る。
     すごみのある笑顔で、ただ淡々と。
    「で、それを肯定している、内なる存在が君の中にも居るわけだ。その声に身を任せると、君、君じゃなくなるよ?」
    「あー、その……」
     そんな鎗輔に向けられる視線が冷たいものに変わった事を気取り、神宮寺・柚貴(不撓の黒影・d28225)は慌てた調子で口を挟んだ。
    「俺には流石に女の子の悩みというか、胸……の悩みっちゅうのは、流石に俺にはわからんけどさ……」
     実際、男性であるがゆえに全ての悩みが分かるわけではない。
     もとより、普通の水着ならばともかく女性的な魅力が目立つものへの耐性が薄いのだからなおさらだ。。
    「じ、自分が不格好や思うてても、他の男子……とかから見たら、魅力的やし可愛いと思うで?」
     それでも、しどろもどろになりながらも精一杯の言葉を紡ぎ、伝えていく。
    「俺は、その……彼女がおるから、大声では言われへんけど、フリーやったら見逃せへん……と思うわ」
    「……」
     言葉はないが、瞳に宿る険は若干だけれど薄れたように感じられた、
     ならば、今が言葉を投げかけるタイミングだと、百武・大(あの日のオレ達・d35306)が明るい調子で口を開いた。
    「おっきなボインがはずかしーのかー」
     視線は、あずきの持つ大きな膨らみ。
    「でも、ねーちゃんの事好きな男からしたら、そこも魅力だと思うけどなー」
     頭の後ろに手を回しながら、無邪気にあずきを褒め称える。
     さらに険しさが薄れたように感じられたから、さらなる言葉を伝えていく。
    「ま、そうやってはずかしがるのも、ねーちゃんの事好きな男にとってはチャームポイントだろ?」
     おっきいのもちっちゃいのも、自己主張したがるわがままおっぱいも、慎ましいちっぱいも、みんな違って、みんないい。そう、父と祖父に教えられてきた。
    「ほら、好きな子が頬染めて俯いたりすると……やっぱどきどきするじゃねーか。はずかしいのも、ある意味武器なんだよ!」
     俺も、そうだと思う。
     そんなに立派だと誇らしい!
     迷いなき言葉を受け止めたらしいあずきは、ただ静かに微笑んだ。
     大の元へと歩み寄り、しゃがみ込み、優しく頭を撫でていく。
    「ありがとう、ボク。でもね……」
     瞳を閉ざし、手を離し、立ち上がった。
    「そうじゃないの」
     空を仰ぎながら、静かな調子で語っていく。
    「今更、なんであなた達が私の悩みを知っているのかなんて聞かないし、他の人の目が気にならない、なんてのも嘘。でも、違うの」
     通さな吐息、肩をすくめながらの。
    「他の人の反応なんて二の次、一番大事なのは私。不格好なんて、私が私を許せない。だから、いっそ開き直るしかないのかもしれない、でも開き直ったらそれこそ本当に自分を許せなくなる。だから……」

     一番大切なのは、自分の評価。
     自分を評価するために、他人の評価も受け入れる……それが自分のスタイルだと、あずきは語った。
     訪れたのは静かな沈黙。
     破るため、佐竹・芹那(悪魔に仕える女王・d31142)がふとした調子で口を開いた。
    「そうね……私も、自分のスタイルで悩んでいた時期があったわ」
     かつて似たような悩みを抱き、闇に堕ちた者として。
     灼滅者に救われた者として、投げかけられる言葉があるのだと。
    「でも、私は救われたの。あの人の言葉のお陰で……」
     瞳を閉ざし、静かな息。
     心のなかで、反芻。
    「一緒に悩んでくれる人はいる! 諦めないで!!」
     開眼すると共にあずきを真っ直ぐに見据え、力強く拳を握っていく。
    「そして、やりたい事があるなら、貫き通すのよ!」
     諦めなければ道が見えてくるのだと、力強い笑顔で示していく。
     返事はない。
     けれど真っ直ぐに芹那を見つめ返している……しっかりと言葉を受け止めているあずきに、十八歳に変身している白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)も言葉を投げかけた。
    「オレも色々服を探すのが好きなんだ。コーディネートで見せたい形の自分を色々作れるのって楽しいよな」
     あずきは振り向き、頷いた。
    「……ええ、そうね。色んな品を見ながら姿を想像したり、実際に試してみて喜んだり、落ち込んだり……」
     私服だけではない。制服でだってできる、コーディネートのお楽しみ。しかし……
    「スクール水着だとデザインいじったら怒られるし、なんとなく不格好なの多いよな。オレもこんなスタイルだからさ、その悩みをぶつけた事があるんだ」
     十八歳に返信した歌音のスタイルもまた、あずきと同様に、良い。
     スクール水着が不格好になってしまうタイプ。
    「そしたらさお前は服に頼らないと自分が表現できないのか、自分に自信がないのかって言われた」
     静かに瞳を閉ざし、首を振る。
     改めてあずきを見つめていく。
    「確かに、アンタの言う通り周りが認めても自分が……ってのはあるかも知れない。けどさ、それも視点を変えれば違うかもしれないぜ? まだまだ、試してないこともたくさんあるだろ?」
    「……まあ、確かに」
     畳み掛けるように、南風・光貴(黒き闘士・d05986)が口を挟んだ。
    「君は自分で選び、納得した格好がしたかった。自分の気に入らない姿で他人を魅了しても、嬉しくないと思ってる」
     何よりも大事なのは自分だと、そのための他者からの評価であり逆はありえないと、あずきはそう語っていた。
    「納得出来ない姿なら、泳ぐまで大きなタオルで隠したり、いっそ水泳授業を休んだっていいんじゃないかな」
     水泳は、別の場所でだって学べる。自分でコーディネートした水着を使える場所も多い。
    「もしくは……君の学校がそうなのかはわからないけど、スクール水着だって種類があるしね。校則の範囲で自分に合う物を選べばいい、問題ない程度に改造だってできる」
     幅は狭くなってしまうかもしれないけれど、微細な変化ならばあるいは教師から隠すことだってできるかもしれない。
    「それからゴーグルに帽子、タオルや髪留めをアクセントにしたらどうかな? スクール水着そのもの以外にも、まだまだ自分で変えられる部分はある筈だよ」
    「……」
     あずきは瞳を閉ざし、胸に手を当てた。
     静かな息を吐いた後、顔を上げて微笑んだ。
    「いろいろ試してこなかったわけじゃない、それでもダメだったけれど……そうね。確かに、まだまだ試してないことはたくさんある。視点を変えてみれば……というのもその通り。それに、着たくない……って相談じゃなくて、どうすればよいのか、って相談なら、きっと……」
     言葉半ばにて、あずきが瞳を見開いた。
     その身体が、深き闇に包まれた。
     灼滅者たちは即座に呼応し、各々武装を始めていく。
    「……」
     戦うための準備が終わる頃にはもう、あずきという少女はそこにはいない。
     ただ、はちきれんばかりの豊満なボディをスクール水着に収めた淫魔が一体、不敵な笑みを浮かべながら佇んでいて……。

    ●望まぬ魅力などいらない
     佇む淫魔の、動きは鈍い。
     あずきが抑えてくれている、救い出す事ができるのだと、芹那はガンナイフを突きつけた。
    「貴女は努力する人だから、絶対、助けるわ!」
     銃口を足元に向け、射出。
     動くことは許さぬとばかりに放たれた弾丸が足元を打ち据えたたらを踏ませていく中、大は盾領域を押し広げた。
    「おうよ! 絶対に、あずきのねーちゃんを助けるぞ!」
     盾領域は後衛に位置する者たちを包み込み、悪しき力に抗うための加護を与えていく。
     さなかに体勢を整えなおした淫魔は、不敵に微笑みながら右の肩紐を外した。
     少しだけ布地が下がった胸元からは、零れ落ちそうなほどの果実が更に大きな顔をのぞかせ始め……。
    「……」
     柚貴は頬を染めながら、首を大きく横に振った。
     彼女の姿を思い浮かべながら気合を入れ、黒槍を握りなおしていく。
    「……行くで」
     静かな言葉とともに駆け出して、螺旋刺突を繰り出した。
     穂先が無防備な肩をかすめていくさまを眺めながら、雅は語る。
    「桜、其の狭間に咲き盛る。出会いと別れ、門の境で見守りし者……」
     桜咲の言霊を。
     仲間を癒すための物語を。
     もとより、見た目のインパクトこそ一部に突き刺さるものの勢いとしてはさほどでもない淫魔の攻撃。多少の治療を施すだけで、問題のない状態へと持っていけた。
     攻撃を重ね続けることができていた。
     追い込まれながらも、淫魔は後ろに手を伸ばす。
     動くに連れて発生したのだろう食い込みを、あざとい表情と共に治していく。
    「淫魔め、許さん! 癒しの風よ!」
     すかさず光貴が……浪花ライダーブラックが、影響を受けたと思しき前衛陣に下へ風を招いた。
     霊犬もまた柚貴への治療に向かう中、鎗輔は足に炎を宿す。
    「さ、そろそろ決めてしまおう」
     一跳躍で懐に入り込み、回し蹴り!
     炎に抱かれながらふらつき彷徨う淫魔を受け止めるかのように、紗里亜が腰を落としていく。
    「不格好な自分に呑まれないで! あなた自信の魅力を信じて!」
     静かな呼吸を紡いだ後、掌打を連打。
     腹に、肩に腰に胸元に……と幾度も、幾度も叩き込み、最後の一撃で仲間たちの中心へと押し出した。
     淫魔は静かに膝をつく。
     それでも口元に笑みを浮かべ、左の肩紐を外し始め……。
    「へっ、全然ダメだぜ。露骨なポーズ取らないと魅力が出せないとそう思い込んでるお前程度の自信じゃ、姉ちゃんの魅力に全く届きはしないぜ?」
     歌音が一笑に伏すとともに、足に炎を宿して踏み込んだ。
     勢いのままに、淫魔を打ち上げる形でのサマーソルト!
     いち早く着地した歌音は更に一歩踏み込んで、落ちてきた淫魔を……元の姿に戻ったあずきを抱きとめた。
    「……」
     歌音が見守る中、あずきは安らかな寝息を立てている。
     救うことができたのだと、灼滅者たちは安堵の息。静かに頷きあった後、介抱へと動き出し……。

    ●意見を出し合えば、きっと
     近くの公園のベンチにあずきを寝かせた灼滅者たちは、各々の治療も行った。
     治療が終わる頃、あずきは目覚めた。
     目をこすりきょろきょろと周囲を見回し始めたあずきに、雅が言葉を投げかけていく。
    「おはようございます。よく頑張って下さいましたね」
    「お疲れ様、調子はどうかしら?」
    「え……あ」
     全てを思い出したのだろう。あずきは二人に頷き返した後、頭を下げた。
    「ええと、その……ありが、とう。色々と、助けてくれて……お陰で胸のつかえも取れたわ。清々しい気分よ」
    「……」
     頭を下げたが故、夏故にか若干ゆるい格好の肌が、膨らみがより良く見える。
     何かが頭をよぎったのか、柚貴は頬を染めながら視線を外した。
     そんな柚貴に軽い肘鉄をかましながら、歌音は明るく笑う。
    「アンタ、さっきよりいい顔してるぜ」
    「……ふふ、そうかもね」
     気づかぬ様子で顔を上げていくあずきの表情は、笑顔。
     曇っている様子などみじんもない、明るい笑顔。
     だからだろう。光貴は告げた。
    「大丈夫、きっと君はもっと素敵な自分になれるよ。誘惑の声に負けなかったんだから。だから……」
     ――困ったことがあれば武蔵坂学園に来るといい。きっと力になる。
     約束にも似た言葉を補強するため、鎗輔は説明した。
     世界のこと、ダークネスのこと、灼滅者のこと、武蔵坂学園のこと……必要な、様々なことを。
     全てを前向きに受け止めたのだろう。あずきは静かに頷いた。
    「なるほど、だから……」
     ならば、行くのも悪くはない。
     きっと、得た力を使えばより良い未来へと導ける。より輝けるはず……と。
     決意したあずきに、大はまっすぐに手を伸ばす。
    「それじゃ、これからよろしくな!」
    「……うん!」
     優しく、力強く握り返してくれた手は温かい。
     それこそが、あずきが前に進み始めた何よりの証で……。
    「ふふっ、それじゃ、これから水着の相談でもする?」
     夜にはまだ、もう少しだけ時間はある。
     相談をまとめるには足らずとも、意見の出し合いくらいはできるだろう。
     そんな芹那の提案を、あずきは笑顔で受け入れた。
     よりより自分になるために。
     スクール水着でも、自分を輝かせることができるように!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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