松戸密室掃討作戦~密室病院のタタリ

    作者:彩乃鳩

    ●松戸密室掃討作戦
    「皆さん、松戸市で発生していた密室事件はご存知ですね? 先日、武蔵坂学園はMAD六六六の幹部であった、ハレルヤ・シオンさんの救出に成功しました」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が妁滅者達に説明を始める。
    「ハレルヤさんは、MAD六六六の幹部であり、松戸の密室の警備を担当していました。つまり、今回のハレルヤさん救出により、松戸市の密室の詳しい情報を得る事ができました」
     武蔵坂学園は、この情報を元に松戸市の密室を一掃する作戦を行う。松戸市の密室を一掃することが出来れば、迷宮殺人鬼・アツシが引き篭もる密室への侵入も可能になるらしい。
     そして、アツシを灼滅すれば、松戸の密室事件を完全に解決する事ができるだろう。
    「皆さんに掃討をお願いする場所は松戸の密室病院になります。立花・銀二(黒沈む白・d08733)さんの調査と、ハレルヤさんの情報により判明した密室です」
     松戸の市立病院を密室化しているのは、MAD六六六の怪物だ。顔の上半分に仮面を被った巨体で、密室の出口を開く鍵を首からぶら下げている。
     毎日午後三時になると、どこからともなく現れて病院内に閉じ込められた人々を食い殺しているという。どうやらタタリガミの仕業のようだが、詳しいことは不明。
    「この密室事件を解決するためには、この相手が持つ出口の鍵を奪う必要があります。ただ、鍵を奪おうとすればやはり抵抗されることが予想されます」
     病院は七階建て。
     病室などに散らばって千人近い人々が閉じ込められている。この密室に入るだけならば誰でも可能だが、出るには鍵が不可欠だ。
    「密室病院に潜入。三時に現れる怪物を倒して、首にぶら下がった鍵を奪う……これが基本方針ということだね」
     今回の依頼に参加する遠野・司(中学生シャドウハンター・dn0236)の言葉に姫子が頷く。怪物が姿を現す時間よりも前に潜入すれば、密室に閉じ込められた人々と話をすることも、誘導しておくこともできそうだ。
     姫子は集まった妁滅者達に、鼓舞するように最後に結んだ。
    「これは、松戸の密室の事件を完全に解決するチャンスです。全ての密室を掃討すれば、密室殺人鬼アツシを引きずりだすことも出来るはずです。皆さんの健闘を願います」


    参加者
    来栖・律紀(ナーサリーライム・d01356)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    小鳥遊・葵(アイスクロイツ・d05978)
    立花・銀二(黒沈む白・d08733)
    ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)
    レナ・フォレストキャット(山猫狂詩曲・d12864)
    齋藤・灯花(麒麟児・d16152)
    園城寺・琥珀(叢雲掃ふ科戸風・d28835)

    ■リプレイ

    ●退避
    「凶悪犯が病院内に逃げ込みました!」
     白衣を着た小鳥遊・葵(アイスクロイツ・d05978)が、プラチナチケットを使用し1階の事務室へと大声で駆け込む。
    「待ちなさい、君は一体……?」
    「実習生の小鳥遊です。そんなことより大変です。凶悪犯の1人は待合室で暴れていて、もう1人潜伏しているようです」
     葵の訴えに、病院のスタッフは顔を見合わせる。密室に閉じ込められた異常な状況で、何を信じれば良いか各々判断に迷っている空気だ。
     そこに、何かを薙ぎ倒したような大きな音が院内に響く。
     ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)が交渉の成功率上げる為に、近くの部屋で暴れて凶悪犯を装ったのだ。病院内で行動しづらくならぬ様に、サングラスにマスクと帽子で軽く変装をしている。
    「避難誘導の協力をお願いします」
    「わ、わかった。すぐに、各階に人を手配しよう」
     葵は設備の場所を教えてもらうと、全館へ院内放送で指示を出す。
    『……繰り返します。現場の職員の指示に従い、各階でひとつの場所に固まって待機して下さい』
     園城寺・琥珀(叢雲掃ふ科戸風・d28835)は、避難誘導を行いながら院内中に届く仲間の声を聞いた。
    「どうやら、上手くいったようですね」
     灼滅者達は、上層班、中層班、下層班を担当する三つのグループに分かれて、休憩所などに人を集めて周辺の警戒にあたる。
    「司君も一緒に見回りに引きずっていきますねーGO!」
    「は、はい」
     立花・銀二(黒沈む白・d08733)も、声を掛けて回る。
    「下の階で凶悪犯が暴れまわってるそうです! 集まって動いちゃダメですよー!」
    「凶悪犯っ? 妙な人食い怪物じゃなくてか!?」
    「そちらも大丈夫です。僕達が助けにきました、仲間もたくさんいます。必ずこの病院から出られるようにします」
     騒ぐ人々には、説明して出来るだけ落ち着かせるように試みる。それでも、非協力的な場合は齋藤・灯花(麒麟児・d16152)の出番だ。
    「灯花はヒーローです! 灯花たちが悪い奴をたおします!」
     他の人から離れたところへ連れて行き、王者の風で大人しくさせる。
    「そうそう、何かあったら館内放送などで連絡もお願いしますね。パパッとかけつけます!」
     各人と連絡先を交換しておくことも怠らない。
    「ここが「密室」かにゃ?? よくわかんにゃいんだにゃ。でも、まずは色々と人を集めにゃいとにゃ」
     レナ・フォレストキャット(山猫狂詩曲・d12864)は、下階を回った。
    「こ、ここに居ればいいのか?」
    「うにゃ、にゃるべく、大勢で集まったほうがいいにゃん」
     健常な者は、玄関前のロビーに集める。
    「異常があればナースコールで報せてね。ナースステーションの医療関係者さんはコールがあれば連絡をお願いだよ」
     来栖・律紀(ナーサリーライム・d01356)が、一般人を入院棟に移しながら注意を呼びかけた。
    「千人集まりャ引き籠ッても怖くねェッてかネ。問題はネズミの巣の中にネコが1匹紛れ込ンで入れ食い状態ッてこッたナ……」
     細かい段取りは味方に一任していた楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)は、中層階を歩きながら薄暗い院内の時計を見る。
     針は刻々と午後三時へと進んでいく。

    ●出現
    「そちらは、どうです?」
    「完璧とは言えねーが、避難に適した場所に順次誘導しているよ」
    「一般人の護衛もお願いなのです」
    「ああ。守りはコッチに任せて、思いっきりぶちかまして来い!」
     銀二はサポートの面々に、集めた人々の警護も依頼していた。夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)は、白衣とプラチナチケットで病院関係者を装い、動けない者が居る場合は動かさずに済むように配慮する。
    「看護士さん、こっちの手伝いもお願いや」
     篠村・希沙(暁降・d03465)は凶悪犯の振りの補助をした後で、手薄な階を回っていた。車椅子の患者やベッドを押す。
    「はあ。これで少し身軽になったな」
    「犯人役、お疲れさま」
     暴れ終わったティートも変装を解き。葵は先程の慌てた演技はどこへやら、といった態でフロア探索に就く。何がどこから現れても良いように周囲を警戒する。
    (「病院という場所柄、全ての人を集めきって守るということは出来ないのかもしれません。それでも、出来るだけ多くの人をこの密室から助け出すために最大限努力させていただきます」)
     琥珀は決意を胸に、ぎりぎりまで誘導に尽くしていた。
     小さな女の子が目に留まる。迷子なのかウサギの人形を抱えて、物陰でちょこんと一人座りこんでいた。
    「ここは危ないですよ。お父さんや、お母さんは?」
     女の子は黙ったまま首を横にふるふる振る。
    「そうですか。それでは、お姉ちゃんと皆の所に行きましょうか?」
    「……」
     琥珀が伸ばした手を。
     少女はじっと見つめた後にゆっくりと握った。
     見回る者、一般人を護衛する者、全員が緊張を高める。何かあれば、すぐに仲間に連絡する心積もりだ。
     そして――。
    『ピンポンパンポーン』
     十五時。
     建物中に不気味な音が反響する。
    『あるところに。人体と患者さんが、大好きでたまらない先生がいました。そう、食べちゃいたいくらいに』
     放送設備のある部屋は今は空のはず。
    『今日も先生の回診――三時のオヤツの時間が始まります』
     ドン、ドン、ドン!
     巨大な足音が聞こえる。
    「うにゃ、ダークネス発見だにゃん」
     怪しそうな部屋を見て回っていたレナの前に、突如として鍵をぶら下げた怪物が出現する。顔の上半分には仮面、血塗れの白衣を纏った巨人だ。
    「オ、オオ……オヤツッ!」
    「うにゃ、そうはいかにゃいにゃん」
     巨人は灼滅者を無視して、一般人の居る方へ向かおうとした。させじとレナは即座にフォースブレイクの一撃を放つ。
    「こっちだにゃ」
    「ウウウ……」
     こちらに誘導しようとするが、巨人は暗い廊下の奥へと消え去った。
    『何という事でしょう。ひどい目に遭った先生は、逃げ出しました』
    「……気味の悪い放送だにゃ」
     レナはすぐに敵に接触したことを仲間に連絡する。同様の報告は各所からあがってきた。
    「こちら空月。敵を発見したよ」
     サポートで一般人達を護衛していた、空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)が近付けまいと注意を引くと、また怪物は姿を消す。
    「今度は七階に現れたわ。一般人を護衛中よ」
     ハンドフォンで綾峰・セイナ(銀閃・d04572)から連絡が入る。
    「落ち着いて。出来るだけ離れて」
     レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)は一般人から、出来るだけ相手を遠ざける。
    「出ましたね、悪い奴です! 見ただけでわかります!」
    「ナノナノバリアー!!」
     駆け付けた灯花達も守りに入る。
     間一髪、主人にはさみこまれたナノナノが、身体を張って攻撃を受けると怪物が退散していく。
    「た、助かった……」
    「ここを動かないでくださいね。ヒマなら神様にお祈りでもしててください」
     銀二は震える人々をなだめる。
     人が多い場所で派手に立ち回るわけにもいかない。
    「で、出たぞ!」
    「こ、こっちに来るっ」
     常に、どこかで悲鳴があがる。
     神出鬼没の怪物は、現れては撤退を繰り返した。
    「めんどくせーことしやがって」
     ティートは、今まさに怪物が一人の少女に向かう場面に遭遇する。小さな女の子は、ウサギの人形を抱えて動かない。周りの大人達は遠巻きに、何も出来ずにいた。
    「何やっている、逃げろ!」
     既に、眼鏡から戦闘に備えてのコンタクト仕様。ティートは少女を庇って、炎を纏った蹴りを見舞う。
    「ウグググ……」
     怪物が激しい火を嫌うように逃亡するのを見送り、ファイアブラッドの青年は子供の無事を確認する。
    「大丈夫だな? 向こうにオレの仲間がいるから。皆と一緒に行け」
     童女は、ティートをしばし見つめてからコクンと頷いた。
     一般人達の保護のため、灼滅者達はどうしても後手気味だ。真ん中のフロアを担当する律紀は、この状況にチェシャ猫のような気紛れな笑みを浮かべる。
    「にゃはは、これはおっかないなァ」
     飄々としつつ、わざと物音を立ててこちらの存在をアピール。
     それに引き付けられてか――どこからともなく巨大な影が近付いてくる。
    「グググ……グゴオオオ!」
    「うっかり殺されない様に注意しないとね?」
     相手の巨碗を躱すと、律紀はESPで他フロア班に連絡をとる。すると、怪物はまたも逃げようとするが――。
    「虎穴に入らずンば何とやら、いッちょアグレッシヴな引き籠り退治と行くかネ」
     現場に急行した、盾衛の黒死斬が直撃する。
    「ウオオオオ!」
    『まあ、大変。とうとう先生が怒ってしまいました。どうやら、今日のオヤツは灼滅者達と決めたようです』 
     怪物の呻き声と。
     放送音が重なった。

    ●逃亡
    「おーにさんこっちらー手の鳴る方にーなァんて、ネ!」
     ガン=カタ。
     律紀の戦闘スタイルは、それに近い。常に敵の死角に回ることで弾を回避。巧みな最小の攻撃で、最大の成果を得る。
    「ガアアアアア!」
    「にゃはは」
     怪物の放つエネルギー弾を紙一重で回避して。武器を打ち合わせ、超接近戦でクルセイドスラッシュを繰り出す。ひとつ間違えば、致命傷必死の撃ち合いを、律紀は自由奔放にこなしてのけた。
    「ゲーハッハ、怪しい煙を吸ッて最ッ高にハイになりやがれェ!」
     怪奇煙の黒煙を立ち昇る。
     盾衛は味方の合流まで回復重視で防戦しつつ、機を見ては反撃を加えていく。
    「そっち行ったぜ、援護するっ」
    「まぁまぁ惹き付けは任せて、早いとこ片付けちゃおーよ」
     怪物が味方に注意を向いている隙に。
     盾衛は跳躍して、壁を蹴り。更に空中で二段ジャンプ。
    「オヤツ代わりだ、存分に喰らいな!」
     ダブルジャンプを併用した三段変速跳び、からの斬撃が高らかに怪物の急所を絶つ。
    「ウウウ、グググッ!」
    『痛いよー、痛いよー、と先生はうずくまってしまいます。他のいじめっ子達も駆けつけて来ます』
     二人が時間を稼いでいる間に、続々とメンバーが戦場へ合流する。
    「會津がご当地ヒーロー、灯花! 推してまいります!」
     灯花がジェット噴射で敵に飛び込み。
    「うにゃ、行くにゃ!」
     レナがフォースブレイクで内部からダメージを与える。
    「楽しんでるヒマもねーみたいだし、とっととぶっ潰して終わらせるか」
     フルダッシュしてきたティートは、そのままの勢いでレイザースラスト。琥珀は、狙いすまして影喰らいを繰り出した。
    「病院は広いな大きいなーです! お待たせしました」
     銀二はナノナノと共に、率先して味方を回復させて戦線を持ち直す。
    『可哀相に。密室の中、アツシ様だずげでーと先生は叫びました』
    「全て掃討すればアツシを引きずり出せる……となれば僕らもこの密室事件を完全に解決する一手とならないとな」
     葵の手にする蒼氷ノ刃が、螺旋の如き捻り貫く。
     穿たれた怪物は一歩二歩と後ずさった。
    『でも、先生も黙ってはいません。勇気を振り絞って、灼滅者に立ち向かいます』
     恐ろしい膂力で、放たれる霊撃は決して侮れない。建物全体に地鳴りが起こっては、灼滅者達を追い詰める。
     そこに盾衛が動く。
     ――嫌死刑、もとい癒し系・de・オレ爆誕!
    「ハーイ包帯巻きマスよー、それグールグルッとくらァ!」
     盾衛はメディックへと役割を変えて、ラビリンスアーマー等で味方を逐次回復させて対応する。
    「ウガガガガ!」
    「おっと、行かせないよ」
     怪物が回復役に襲いかかろうとすれば、律紀が意識して庇うように立ち回る。
    「うにゃん」
    「怪物をたおすのも、命を守るのも、ヒーローのつとめです!!」
     レナと灯花の閃光百裂拳が決まる。
     小さな二人の苛烈な攻めに、巨大な身体が吹き飛ぶ。更にティートがクルセイドスラッシュで続く。銀二も縛霊撃で叩いた。
    「お覚悟ください。園城寺家が息女、琥珀がお相手いたします!」
     満を持して、琥珀の殲術執刀法が冴えわたる。
     正確かつ精密な斬撃を、急所に叩き込まれた巨体が大きく揺れる。
    『おやおや。これは、おかしいです。どうやら、先生は押されています』
    (「また、この放送か。気になるな……」)
     葵は自分の役割を果たしつつも、院内に流れる奇妙な放送に注意を払っていた。これは、この怪物の能力なのか。それとも――。
    『グウウウウウウウウ!』
    「!」
    『先生のお腹が、大きく鳴ります。ああ、そうか。お腹が空いているから力が出ないんだと、先生は気づきました』
     怪物の大口からは、大量の涎が滝となって流れていた。
    『やっぱり他のオヤツを食べてから、改めて灼滅者達を平らげよう――そう先生は考え直すのでした』
     
    ●解放
    「このっ、止まれ!」
    「灯花ビーム!」
     ご当地ビームが直撃する――が、相手の前進は止まらない。
     どんなに傷を負ってもお構いなし。強引に壁をぶち壊し、一般人達が最も集まるロビーへと進む。
    『オヤツ、オヤツ、オヤツ! 先生は、ひたすら三時のオヤツを目指します』
    「な、なんだ、あれはっ」
    「きゃあああ!」
     歪な巨体を前に、人々の恐怖の声が飛ぶ。
    「オ、オヤツッ!」
    「おーにさんこっちらー、って言ったよねぇ?」
     怪物が一般人を狙う素振りを見せた瞬間に、律紀が身を捩じ込んで阻止する。灼滅者達は、すかさず攻撃を畳み掛けて足止めした。
    「密室事件に決着、付けようじゃねーか」
    「大丈夫や、わたし達の仲間が戦っているんやから」
     サポートの面々も現場に集まり、総力戦となる。
     治胡は戦闘に助勢し。希沙は声掛けと回復のフォローを務めた。
    「注意を引きつけるのは任せて」
    「……はぁ、もう、仕方ないなぁ。それじゃ、行くわよ!」
     陽太とセイナも回復を優先しつつ、一般人を守る。レインもビハイドンと一緒に攻撃の引き受けに徹した。
    「出来るだけ多くの人をこの密室から助けたい――その想いは一緒です」
    「おかげで、こちらは攻勢に専念できるね」
     スナイパーとクラッシャーとして攻撃に徹する二人。
     琥珀が効率良く敵を削る。
     葵は冷静に攻撃に専心した。
    「今度は逃がさないっ」
    「ッツ! アッツイ! アッツイイイ!!」
     激しい炎を纏った蹴り。
     燃え盛るティートの業火に包まれ。仮面に罅が入り、巨人はもがき苦しみ出す。
    「仮面が」
    「割れるにゃん」
     露わになった怪物の素顔は――大量の口しか存在せず。
    『ついに、先生も本気です。全ての口がオヤツを欲しています』
     見ただけでトラウマを覚えそうな、禍々しい顔を晒したまま。
     口々から毒の波動が吐き出される。
    「ナノナノバリアー再びです!!」
    「ナノナノー!」
     銀二はナノナノを皆の盾にしつつ、治癒を施していく。
    「怪しい煙と包帯巻き、どっちも準備は万全だぜ!」
    「にゃはは。じゃあ、そっちは任せたよ。ボクはこっちだねえ」
     盾衛達に声を掛けて、律紀は充分配慮したヒールを心掛ける。
     最後の猛攻に、灼滅者達は抗い続けた。
    「ヒーローはたおれません!」
    『不思議ですね。灼滅者達は諦め悪く、屈しようとしません』
    「こんな状況で、負けられるわけないじゃないですか!!」
    『……』
     會津のご当地ヒーローが飛び上がり。
    「灯花キィィィック!!」
    「「「グガアアアアアアアアア!!!」」」
     渾身のジャンプキックの前に。
     全ての口が悲鳴を上げて――密室の鍵を残して怪物は消滅する。
    「じゃ、カギ、もらうにゃん」
     出口は……おそらく入口。
     鍵を拾うレナに。

    『――はい、おめでとうございます』

     かけられた声は院内放送ではない。
    『こんにちは、灼滅者の皆さん』
     一人の女の子が――ウサギの人形を抱えて現れる。
     灼滅者達は息を呑む。
    「あなたは……」
    「あの時のっ」
    『琥珀お姉ちゃんと、ティートお兄ちゃんとは密室内で会ったね。あの時は、どうも』
     スカートの裾を摘みあげて、少女は恭しく礼をする。
    『MAD六六六のタタリガミ。タタリ・ナナです。趣味は人間観察。私が創った都市伝説の子がお世話になりました』
     ナナと名乗った童女は、人形の腹から血塗れの本――タタリガミの証を取り出す。
    『ちなみに銀二お兄ちゃんと、葵お兄ちゃんのことは前から聞いていました。友達の六六六人衆、序列五五三番のタイガ・カズマお兄ちゃんから』
    「あのプリンスですかっ」
    「タイガ・カズマ……斬り裂き王子の知り合い、なのか」
     六六六人衆序列五五三番のタイガ・カズマ。
     銀二と葵が過去に関わり、密室を調べる発端となった人物。
    「うにゃ、密室っていうからにゃんかと思ったけど、本当にタタリガミにゃん?」
    『そうだにゃん。レナお姉ちゃん達のことは、興味深く観察させてもらったにゃん』
     誰よりも幼く見えるタタリガミは、無表情にレナの真似をした。
    「なら、次はおめぇが相手か?」
    『いいえ。そろそろMAD六六六も潮時だと思っていましから。私はこれで抜けさせて貰うつもりですよ――『衛』りの『盾』のお兄ちゃん』
     盾衛の問いに、あっさりとナナは答える。
    『人形師のお兄ちゃんも、ヒーローのお姉ちゃんも格好良かったですね。また、良い都市伝説を創れそうです。願わくばアツシお兄ちゃんとの決戦にも幸運を……』
     タタリガミは、背を向けて幻のように去る。
     しばしの無言の後、レナは密室の鍵を見つめて呟いた。
    「――これで、出れるにゃん」
     やらねば、ならぬことはまだある。
     レインを始めとして、怪我人の手当てをしていく。
     鍵を開けて密室を解除すると、眩しくも暖かな光が差した。

    作者:彩乃鳩 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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