先日、闇堕ちしてMAD六六六の幹部となっていたハレルヤ・シオンの救出に成功し、松戸市の密室の情報を多く得られた。これにより、密室を一掃すべく作戦が組まれることになった。
「みんなに担当してほしいのは、ここよ」
口日・目(高校生エクスブレイン・dn0077)が地図に指し示した地点が、今回の密室だ。
密室を一掃できればMADのリーダー、アツシの密室へも侵入できるようになる。彼を灼滅できれば、松戸の密室事件を完全に解決できるだろう。
ハレルヤの情報によれば、この地点は建築現場になっている。もともと何を建てる予定だったのかは不明だが、ソロモンの悪魔が自分好みの城に作り替えさせているらしい。悪魔は積極的に人間を殺そうとはしないが、逆らえば容赦はしない。また、休む間もなく強制労働させられているため、死者や怪我人も出るだろう。
悪魔は常に飛行しており、人々を監視している。そのため、密室に入ればその時点で気付かれ、戦闘になるだろう。ハレルヤの配下はもういないため、敵は悪魔一体だけだ。
ソロモンの悪魔は、羽の生えた巨大な眼球の姿をしている。戦闘になってもしばらくは飛んでいるが、追いつめられればポジション効果を得るために地面に下りるだろう。そうなってからが本当の戦いだ。
「悪魔は魔法使いのものに加え、バスターライフルのサイキックを使うわ。シャウトも合わせて使うから注意して」
配下がいない分、戦闘能力は高い。侮れば、足元をすくわれかねないだろう。
「これは、松戸の事件を解決する布石よ。この機会を逃せば、また潜られるかもしれない。頼んだわよ」
ついに掴んだチャンスだ。無駄にはできない。
参加者 | |
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影道・惡人(シャドウアクト・d00898) |
長姫・麗羽(シャドウハンター・d02536) |
鴻上・巧(氷焔相剋のフェネクス・d02823) |
烏丸・織絵(黒曜の識者・d03318) |
渡橋・縁(神芝居・d04576) |
鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560) |
黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134) |
アルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299) |
●見下ろす者
人々を解放し、アツシへの足掛かりを得るため、灼滅者は密室へ侵入した。同時、城のような建物が目に入った。遠目にもすぐ分かるのだが、密室の外からは確認できなかった。事前に情報がなければ、発見は難しかっただろう。
「来客とは珍しい。私の城に何か用かね? といってもまだ完成していないが」
不意に、頭上から声。見上げれば、巨大な眼球が浮いていた。直径が人の身長ほどはあり、さらに大きな翼が横に生えている。
「うっせーな。殺りに来たに決まってんだろーが」
投げやりに吐き捨てる影道・惡人(シャドウアクト・d00898)。敵に感情を抱くなど無駄。ただの殲滅対象でしかない。言葉を交わす意味さえない。灼滅者がダークネスを倒すなど、生理現象くらいにしか思っていない。
「殺人鬼が悪魔を殺しに来たのだ。感謝くらいしてもらおう」
烏丸・織絵(黒曜の識者・d03318)は仁王立ちで悪魔と相対する。細身のわりに尊大な態度は、心なしか体を大きく見せた。不敵な笑みが不思議と彼女によく似合った。
「これ以上、あなたの思い通りにはさせてあげません」
大きな目に対抗するように、悪魔を真っ直ぐに見つめ返す。普段の自分なら恐くてできないかもしれない。けれど、今、戦う時の渡橋・縁(神芝居・d04576)ならできた。赤茶の瞳には怒りが宿っている。
「捕らわれた人々……早く返していただきますわ」
柔らかでありながら、鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560)の言葉には芯が感じられた。ダークネスの理不尽な支配を許しはしない、と。武者震いか、武器を持つ手に力がこもる。
「多くの犠牲のもと手にしたチャンス、無駄にはしません」
と鴻上・巧(氷焔相剋のフェネクス・d02823)。密室のダークネスの犠牲者達。仲間を救うため闇堕ちした灼滅者。ここにたどり着くまで長かった。けれど、松戸の事件にも終わりが見えてきていた。
「覚悟しなよ。ボクが、いや、ボク達が来たからにはね!」
強い意思と魔力が、蝶の羽となって黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)の背中に展開する。ソロモンの悪魔は宿敵だ。そうでなくとも、密室を破壊するチャンスなのだ。戦意は高い。
「よ、よーし……いくで! 私の七不思議其の三、喰らい尽くすヒュドラ! ここが年貢の納め時、覚悟しぃや!」
アルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299)が、いくつもの頭を持つ異形へと変わる。彼女は人造灼滅者だ。宿すダークネスは、タタリガミ。畏怖の支配者にして、恐怖の扇動者。
「なるほど、人造もいるのか。これは面白い。どれ、丁重にもてなすとしよう」
体が眼球だけのため、表情は分からない。けれど、くぐもった笑い声が聞こえた。
次の瞬間には瞳孔に光が溜まっていく。それが極太の槍となって放たれる間際、長姫・麗羽(シャドウハンター・d02536)が動いた。仲間を守るべく、悪魔の前に立ちはだかった。
●有翼の眼
青白い光が、灼滅者の視界を焼く。狙いは後衛のアルルーナだ。射線上を麗羽が遮り、攻撃を受け止める。
「ありがとうございます。今、回復します!」
「うん、大丈夫」
光線によって焼けただれた皮膚をダイダロスベルトが覆い、傷を癒やした。さらに繊維が硬化し、守りを固める。
「おぅヤローども、殺っちまえ」
「なんで君が仕切ってるのさ」
惡人が放った気の砲弾を、悪魔は羽を交差して受け止めた。嫌がらせなのか、ツッコミ付きで。
「加護食い破る火食い鳥よ」
炎の翼が巧の背中から現れ、仲間を照らす。闇を切り裂き、魔を砕く篝り火だ。
「デーモンスレイヤーなど、勇者の仕事なのだがな。いや、なら勇者らしくしてみるか?」
紅のコートを翻し、織絵は悪魔をねめつける。堂々と槍を掲げ、氷のツブテを放った。
「早く、帰してあげたいから」
縁の交通標識が青に変わり、光線を放つ。注意を自分に向けるための攻撃だ。人の痛みを少しでも引き受けられたら、と思う。
「鋼絃振動……旋律よ、魔を切り裂け! ソニックビート!」
バイオレンスギターをかき鳴らす柘榴。それに合わせ、蝶の羽も色とりどりに輝いていた。音波は物理法則を超え、サイキックとなって悪魔を襲う。
「こっちですわよー。こわいのですかー?」
朱香の魔導書が風もないのにめくれ、目当ての頁を表す。瞬間、とげとげしい紋章が眼球の上に浮かんだ。
「灼滅者……ここまでやるとは、実に興味深い」
体のあちこちに氷柱と火柱がいくつか。しかし、悪魔はくつくつと笑うだけだ。怒りで勝機を失っているだけかもしれないが。光輪の群れが光彩から飛ぶ。
「好きにさせないと、言いました」
仲間を庇い、縁が攻撃を受けた。吹き飛ばされ、全身を強かに打ち付ける。痛い。けれど、下は向かない。
「アラドヴァル、焔熱鋼の嵐」
巧が手にするは、黒に赤が走る槍型の銃器。砲身が高速回転し、炎を吐き出す。その反動を全身で受け止める。
「どうだ、眼球。私達がよく見えるだろう? 私達の力がな!」
ごっ、とさらに炎の奔流。織絵だ。とにかく偉そうだが、それでいて鼻に付かないのは、彼女の性質ゆえか。
「ああ、よく見える。少し腹が立つくらいにね」
「お腹、ないけどね」
悪魔の瞳が怪しく輝き、温度が死ぬ。前衛、中衛から怒りを付与したことでランダムに攻撃が飛んでくるようになった。ツッコみつつ、麗羽がアタッカーの防御に入る。
「うーん、すでにかかっているのに注意ってのもおかしい話?」
首を傾げつつ、朱香は前衛に防護を施す。黄色に変わった標識には『凍結注意』と書かれていた。
「私も。状態異常があったらゆうてください」
アルルーナの言葉には少し訛りが混じっていた。こちらの交通標識には『眼球注意』とある。
「戦帯起動……魔眼を貫け、レイザースラスト!」
主の命に従い、黒い帯が悪魔を射抜いた。柘榴もかつては洗脳され、使役されていた。人々を虐げるソロモンの悪魔を、この手で倒したいと思うのは当然のことだった。
「やれやれ、ちゃんと本気を出さないといけないかな」
穏やかな口調とは裏腹に、瞳には苛立ちがにじんでいた。充血して真っ赤に見える。ふわり、と音もなく降下してくる。
「やっとかよ。まーでも、結局やる事ぁ一緒さ……てめーの運命もな」
変わらず悪態をついて、惡人が言った。おそらく、考えることは皆も同じだ。悪魔を追い詰めた、と。
●地に墜つ羽
地に下りた悪魔は、低空を漂いながら砲火を繰り返す。攻撃力が先ほどまでより大きく上昇していた。
「くはははは、どうだね? 生きながら肉を焼かれる気持ちは!」
状態異常はすぐ回復されると踏んだのだろう、直接的な威力で押してくる。灼滅者も消耗は軽くない。けれど、倒れるつもりなど欠片もなかった。
「ぬるいです。今まで犠牲になった人や、捕らわれている人に比べれば、なんてことないです」
悪魔を見据え、縁は毅然と答えた。この悪魔だけではない。MAD六六六もあともう少しというところまで追い詰めたのだ。こんなところで倒れている暇はない。体はぼろぼろだが、それに半比例して心は燃えていた。
「あー、メンドくせー。さっさと終わらせようぜ。なぁ?」
「ああ」
同じクラブ惡人の声に、麗羽は短く答えた。ふたり同時に攻撃を仕掛ける。惡人はガンナイフを乱射、しかし弾丸は流麗な軌道を描いて眼球に吸い込まれる。その中心を抉るように、麗羽も漆黒の毒弾を放った。
「く、おのれ……」
もはや体力に余裕がないのだろう、悪魔は浮遊も覚束ない。目に見えてふらふら揺れていた。
それ見て、にっと織絵の笑みが深くなる。
「おあつらえ向きの墓まで作らせていたんだろう? だから、丁度良く――お前は此処で死ね」
渾身の力で鋼鉄の塊を叩き付け、引き金を引く。瞬間、杭が発射され、敵の体内を回転。ぶちぶちと中身を引き千切りまくった。返り血をいくらか浴びたが、気にはならない。
「やっと降りてきたね。これでも喰らいなよ。魔力集中……闇を打ち砕け! フォースブレイク!!」
出血が止まる前に、柘榴が飛び出した。背中の羽からロッドに魔力を溜め、打ち抜く。命中の刹那、魔力が悪魔の体内でスパークし、花火みたいな無数の閃光となった。眼球の血管はところどころ弾け、血が垂れ流れている。赤い血が流れているのが、少し腹立たしい。
「観念せぇ目ン玉!」
もう回復も不要と判断し、アルルーナも攻撃に転じる。複数ある頭と同じ数だけ影も伸び、悪魔に喰らいついた。ばりばりと咀嚼音を鳴らしながら黒で飲み込んでいく。
「これで終わりですわ」
朱香の魔導書に刻まれた文字が淡く輝き、超常を否定する意思が光条となって悪魔を貫く。もはや浮くことさえ叶わない。ぺたりと地面に落下した。
「トドメです! 重衝突貫! ストライクインフェルノ!!」
槍型の銃器、その先端に炎を纏った。高速回転させながら、振り下ろす。回転の度に爆発する炎の波状攻撃にさらされ、眼球の悪魔は跡形もなく燃え尽きた。
●自由を見上げて
ソロモンの悪魔が倒れた瞬間、密室が解け、隔離された世界は日常に復帰する。といっても、体感できるわけでもないから、何か変わった気がするのは錯覚だろう。けれど、確かに空気が変わったのを感じる。
「ふうぅ、お疲れ様でしたぁ」
人間の姿に戻り、アルルーナはその場に座り込んだ。失敗すれば、密室に閉じ込められた人々が犠牲になる。その事実が、彼女を必要以上に緊張させていたようだ。
「ふふ、大丈夫?」
小さく笑みを浮かべ、柘榴が歩み寄る。人々救うだけでなく、宿敵であるソロモンの悪魔を倒せたことでテンションが上がっていた。
「これでこの密室は解決だね。あとは……」
と麗羽。前後して、他の密室も解放されるだろう。そうなれば、アツシとの決戦も近い。
「さあ、次はどう出てくるでしょうね」
呟いて、縁は空に視線を投げた。アツシはゴッドセブン最強とされるダークネスだ。他のゴッドセブンも多く灼滅されているが、彼も同じ行くようにいくとは限らない。
「ま、なんとかなじゃねーの」
惡人は楽観的に見えた。考えるのが面倒なのか、それとも自分達を信じているのか。どちらなのかは本人しかわからない。
「僕、城の建設現場に行ってきます。工事を早く止めないと」
働かされているがどうしているか、巧は早く確認したいらしかった。仲間の無事を確認するのもそこそこに駆け出す。
「あ、わたくしも参りますわ」
朱香もそれに続く。現場がどうなっているか分からない以上、人手は多い方がいいだろう。
「善哉善哉。私も行くぞ!」
大仰に頷いて、織絵も走り出す。いつの間にか、他の灼滅者もついてきていた。
人々を見下ろす魔眼はもう空にはない。代わりに、白い雲と青い空があった。
灼滅者の活躍で状況は前進している。松戸の事件に終止符が打たれるのも、そう遠くはないだろう。
作者:灰紫黄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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