「集まってもらってありがとね。今回はお願いしたいのは、先日、MAD六六六の幹部であった、ハレルヤ・シオン、彼女の救出によってもたらされた密室依頼だよ」
ハレルヤは、MAD六六六の幹部として、松戸の密室の警備を担当していたこともあり、松戸市の密室の詳しい情報を得る事ができた。
この情報を元に、松戸市の密室を一掃する作戦を行う事になったからと、仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)は詳しい場所の地図を渡しながら、
「松戸市の密室を一掃することが出来れば、いずれアツシが引き篭もる密室への侵入も可能になる。ここで全ての密室を撃破し、そして、アツシを灼滅すれば、松戸の密室事件を完全に解決する事ができる」
そのためにも、この密室事件の解決は大事な任務となるだろう。
「皆に担当してもらう密室化した場所は、イベントホール。そこを支配するソロモンの悪魔の通り名は、ゲロトラックス。閉じ込められている人間は現在600人ほど。もうすでに、かなりの人を殺していると思う」
太古に存在した、両生類の祖先の名の通り、扁平した顔に浮く、妙にぎょろりとした目が印象的な悪魔だ。首の部分に三対の外鰓を持っているのも、その通り名を持つに相応しくも思う。緑色の肌が更に不気味さを増し、小太りな体に短い手足は鈍重を思わせるが、相手はダークネスだ、動きに油断はできない相手である。
「ゲロトラックスは閉じ込めた人間に、食材の制限されたものだけを与えながら、人々の精神的にも肉体的にも追いつめ、悪趣味で狂気的な虐待と殺人を行っているっていう……正直内容を言うのえげつない。両生類とか爬虫類のエサを食べさせて喜んでいる嫌悪感極まりない相手だ。一日に一度だけわずかなパンと飲み物を争わせ、得られなかった故の飢えと理性の戦いの中、どうしようもなくそれを口にした人間を、カエルの様につぶして笑う……飢餓で苦しむ人間を虐待して楽しんでいる」
密室内は、そんな悪趣味な支配者のせいで混沌としている。奪い合いも熾烈の中、人々の人間性も壊されてゆく。そんな密室の現状を説明している沙汰自身の口調も、怒りを滲ませていた。
沙汰は、イベントホールの見取り図を広げつつ。
「密室の出入り口は、イベントホール西側の、職員玄関のみ。ここから侵入した後、すぐ傍にある厨房にいるイベントホールの職員は、嗜虐に勤しむゲロトラックスに気取られることなく逃がすことができるから、逃がしたあと、全体の九割を占める人間が閉じ込められている大ホールへと急いでほしいんだ」
密室の出入口がそこにあっても、一般人である彼らには触れることも叶わない外への扉だったはずだ。解放したなら、彼等はこちらの指示に従って逃げてくれるだろうから、そのあたりは特に人手を割く必要はない。だが、大ホールの人間となると、そうはいかない。こちらが今回の依頼の一番難しいところだろう。
「過去の密室でも食糧の奪い合いに乗じて、という手段がバベルの鎖を掻い潜るには有効であることからいっても、ゲロトラックスの隙を付けいれることができる」
奪い合う混乱に紛れつつある程度接近できたなら、先制も狙えるだろう。ゲロトラックスは、まだハレルヤが灼滅者に戻ったことを知らない可能性があるので、警戒に当たってくれているという安心もあっての油断を狙える。あまりにも周囲と違う行動さえしなければ、バベルの鎖に引っ掛からないだろう。
「ただ、この場合混乱している人々をどうやって収め、逃がすか、それも考えなくちゃならない。相手が先制攻撃に憤って、人々を巻き込む可能性もあるしね。此方に誤爆の意志がなければサイキックを一般人に当てることはないだろうけど。まともに歩ける人の方が多いけど、飢えで弱っている人もいる」
人をカエルのようにつぶすのが大好きなカエルもどきの悪魔。嗜虐的な思想の元、灼滅者の良心すら踏みつけてくる可能性がある。
しかし、知略が得意なソロモンの悪魔であるゲロトラックスには、戦闘能力に際立つものはない。この戦いの中どうしても犠牲は出てしまうかもしれない。だが速攻戦を仕掛けることによって窮地に押しやり、犠牲を可能な限りおさえることは可能だろう。
「もう一つ方法があるのだけど、これはまっとうな食料にあり付けなかった人の中に飢えのあまりもうどうにもならなくなっている人もいる。ゲロトラックスが彼らを煽っている時に抑え役が割って入るんだ。この時、食にありつけた人と落胆した人と、奪い合いの混乱は落ち付きだす頃だから、人々の避難はスムーズにいきやすい。反面、避難誘導から意識を反らす少数の抑え役の負担はありえる」
ゲロトラックスも、八人で襲いかかってゆけば人に手を出すかもしれないが、五人以下で向かったなら優位を感じて先に邪魔もの排除に乗り出すだろう。
「人数的に負担は大きいけど、誘導班がスムーズに救助を行えば何とかなると思う」
どの方法で行くかは、皆に任せると沙汰。
「これは、松戸の密室の事件を完全に解決するチャンスになるからね。全ての密室を掃討し、アツシに向かう足掛かりを手にしようよ」
密室でカエルの王様を気取っている、嗜虐的な悪魔。
これから虐待されてゆく人々を守る為にも、どうか事件の解決を。
参加者 | |
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エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821) |
棲天・チセ(ハルニレ・d01450) |
森本・煉夜(斜光の運び手・d02292) |
柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232) |
加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786) |
オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809) |
ラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728) |
御印・裏ツ花(望郷・d16914) |
●
唯の出入り口を開けたなら、温室の様にむっとした空気が溢れてくる。熱帯にも似たその中に混じる微かな臭気。閉ざされて空気がこもっているから。それだけではない、特定の生き物が持つ独特の生臭さにも似ている。
厨房職員の撤退を済ませた後に残った、悪趣味な生餌を前に。口元を淑やかに扇子で覆っている御印・裏ツ花(望郷・d16914)であるけれど、奥にあるのは嫌な表情であるとわかる。
ガラスケースの中でがさがさと動いている、カエルの餌の類の生理的嫌悪感の程たるや。この中で一番見れそうではあるコオロギさえも、ここまで雑多に詰められると、風情やらいい音色やらの感想は皆無。
「餓死や殺戮以外で命を落とした人もいそうだぜ……」
言い捨てた柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)の表情は、いつもの陽気なあんちゃんからはかけ離れ、宿敵に抱くそれとはまた違うベクトルの嫌悪感を滲ませている。
ケースの中のごちゃまぜなヴィジュアルの凄まじさに、加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)もさすがに正視していられない。エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)も思わず霊犬・おふとんを抱きしめて視界をもこもこガード。
「すーーーっごく悪趣味! 許せないーっ!」
ふだんは人懐っこい笑顔が魅力的なオリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)も、険しい表情。ぎゅーっと握りしめているその拳で殴りつけて、顔面もっとへこましてやりたいくらいの気持ちだ。
「――さて。次からが本番だな」
皆の心持を確かめる様に森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)が振り向いたなら。
「ええ。行きましょう」
このむっとした空気の中でも、まるで夜の透き通った大気にも似た雰囲気を纏いながら、ラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)は問題ありませんと仄かな笑みを崩さぬままで。
「シキテ。まずは避難がんばるよ」
棲天・チセ(ハルニレ・d01450)は頼もしい相棒と瞳を合わせると、頷きあって。隊列の背を担う様に、仲間の後に続いた。
●
混沌とした箱の中、僅かな食料を分け合おうという精神にもならない程、追いつめられている人々。情けは我が身を滅ぼすというばかりに、踏みにじり、押しのけて、人は人を貶める。
飢えて弱っているのに取られまいと急いで食べてしまって、胃をひっくり返しているものも居た。
七宝を散りばめた椅子に座る醜悪なカエル悪魔のゲロトラックスは、絡んだような声で笑う。
『そ、そごのお前、喰うもんなら目の前にだくさんごろがってるだろ。が、餓鬼は人間の糞尿でも喰うっていうがらなぁ』
近くに寄れば寄る程わかる醜悪な姿。扁平な顔貌のせいで綺麗に喋られないのか、姿も相まって利口そうには全く見えない。しかし空腹に気が狂いそうになっている人へ、吐瀉物を喰えと言わんばかりに顎をしゃくり、生餌の入ったガラスケースを爪先でつつきながら、こんがり焼けたチキンレッグを、わざと音を立てながらしゃぶりつく性根の悪さ。
(「うわーーーーー! 逆に口の中に爆竹詰めてやりたいくらいー!」)
ついでに顔面殴打で着火してやりたいくらいまでには思ってそうな、オリキアの顔。
『餓死して蟲の餌になるが? それども餌喰って腹膨らますが? 別に死んでなぐでも蟲は肉に喰いつくがらなぁ』
鶏肉を奪いに行ったところで口に蟲詰め込まれて殺されるのが末路。思い付く選択肢どれもが崩壊しかない。あの人はどうするのかという興味であったり、憐れみであったり、無関心であったり――食料にあり付けたものだけが得た余裕、人々の混沌の収まりゆく。
けれど、生きる為に沢山の物を捨てなければならなかった彼ら責めることなどできるはずもない。ただ、濁った空気の中に変化をもたらしたのは、可憐なドレスを翻し、凛とした声を響かせたのは裏ツ花。
視線が一斉に集中しても、彼女は相変わらずの風格で受け止めて。その注目を隠れ蓑にするように、彩雪、チセ、オリキアは目配せし合う。
「いきますです、よ……。チセさんはあっちの扉、お願いします、ね」
「うん、任せるんよ」
「ボクはあの人達を先に抱えてくるよー。リデルは万が一の為、射線塞ぐのよろしくね」
それぞれの役割を担う場所へと。
裏ツ花はつんと顎を上げたまま、
「舞台も役者も悪趣味なこと。聞くにも見るにも耐えられませんわね。蛙もどきが偉そうですのよ」
『な、何がど思えば。ぎれいどころの灼滅者が、おでの玩具になりに来たのが?』
ゲロトラックスは何故此処にと尋ねる無意味さを早々に悟り、げへげへと笑いつつも洞察するような目つきだ。
罵倒される要素は多そうな相手である。煉夜は挑発の効果の薄さを予感しながらも、
「そんな餌に相応しい者などここにはいない。強いて言えば――」
お前だが。
その言葉と一緒にすっと流れた煉夜の瞳が、淀んだ眼球とかちあった刹那に。
敵の咆哮、甲高い破壊音、そして粉塵。
初撃で怒りを付与も出来ればよかったのだが、活性サイキックを考えたなら適切と思えた一撃を。煉夜の放った十字架戦闘術の軌道にゲロトラックスの緩やかな顎が弾かれたのも間もなく、その広い掌が、ロケットスマッシュ並みの圧力を秘めて、煉夜をガラスケースの中身ごと潰そうと振り落ちる。
人の肉の手応えを皆無とさせたのは、空を駆ける様にして青の軌跡を生みだしたラピスティリアと、裏ツ花の悪鬼を潰す一撃だ。
戦闘が始まった時点で、サーヴァントの出現はやむおえない状況。ゲロトラックスの油断を誘う為の配分で、サーヴァントをどのように見てくれるかが今回の非常に悩ましい点だった。
会話で時間を稼げる相手でもないし、余計な思考をさせる時間は命取りであると、感じた者もいただろう。高明と裏ツ花は、もしもの一時離脱も視野に入れ、臨機に対応するしかないと腹をくくる。衰弱した人の安否、大人数の脱出、人の血を流さぬと決めたからには――。
「むぅ、名前がなんかいやなのです、袋につめてぽいしたいのです、だから縛り縛りなのです~!」
エステルはディフェンス徹底の指示を出しつつ、縛霊撃を。斬魔刀を咥え、おふとんも続く。
ざっと間を取りながら一撃を避け、血を吐き捨てると、囲む人数を顧みて、ゲロトラックスはにんまりと双眼細め、胃袋まで見えそうなほど扁平した口を開いて。
『いいど! ち、丁度たいぐつしていだどころだっだがらな。お、お前ら潰して遊んでやるど』
サーヴァントを生みだすことによって、手数と戦法の幅は増える。しかし威力もエフェクト付与率も100ではない。それを有利と見るか、ハンデと見るかは、人それぞれだろうが。少なくてもサーヴァントと灼滅者は、二人で一人。それはゲロトラックスの中でもそうだったようである。
「こちらから、脱出して、下さい……焦ら、ないで」
「流れ弾は全部引き受けるぜ。だからそのかわいこちゃん達の指示に従ってくれよな」
ホールの扉の一つを開け放つ彩雪の真面目な声と、軽い調子で響いた高明の声が、ESPの力でホールに居る誰もに等しく届く。
「余所見していると凍りますわよ?」
補助するように妖冷弾を放ち、ほほほと上品に、しかし扇子から覗く裏ツ花の紅玉の様な瞳は完全に見下ろす角度で挑発重ねて。
500人の大移動。そしてたった五人での戦闘。避難班の肩に、人の命だけじゃなく、仲間の命もかかっているのだと肝に銘じながら。オリキアはチセが開けてくれた扉へと飛び込んだ。
●
ゲロトラックスの手から、三度目のフリージングデスが前列に奔ってゆく。
そんな氷結の銀河を滑る様に渡るラピスティリアから繰り出された爪先の一撃にはね飛ばされても、くるりと身を翻し、壁を、床を、蹴り上げ、泳ぐように突っ込んでくる勢いはまさにカエルのようだ。
メディックの不在をサーヴァント含め五枚のディフェンダーで、分散と回復を分け合う形での応戦。
「むきゅ、おふとんももこもこがーどなの~」
「ったく、動きまでいちいちカエルかよ。気色悪ィのはそのツラだけにしろってんだ」
おふとんが被弾の多い者に除霊眼を閃かせれば、高明がイエローサインで軽い傷を補うぜと声掛けして、互い持ち合うエフェクトの内容も視野に入れながら無駄のない様に。
布陣としては長く持たせられる利点、しかし殺傷ダメージの蓄積率は一人頭高くなるから、崩れ出せば早いだろう。だから相手の手を緩める為に、被弾率を上げる手順に抜かりない。
大震撃を奔らせ、行動を鈍らせようとするゲロトラックスだが、無駄のない動きで流水の如く間合いをとり挑発重ねる煉夜。
『は、蠅より鬱陶しいんだなお前』
予定変更で放つミサイル。被弾しても煉夜の足は止めずに。放つ刃の漆黒の陰影は、まるで大海を切り裂く大魚の如く鋭く速く。
跳ね上がる血に穢されぬ速さでラピスティリアが振り抜く赤は、夜の藍も混じりながら、冷たさにも似た麻痺毒を差し込んで。
そして命中精度を磨いた高明の灰色の眼に、赤色の輝きが混じった瞬間は、まるで照準と一体化したかのような。Stiefbruderより繰り出された黒死斬は戦友との絆も相まってか精密さを極め、したたかに急所を抉る。
『ぢぃ! 蠅が五月蝿いど!』
「人を家畜程度にしか思っていないでしょうけれど、わたくしにとっては貴方がそう。虫けら以下。下劣で最低最悪極まりない不快な存在ですわよ」
魔氷を砕く温かな風をエステルから受けながら、裏ツ花は裾を、その巻き髪を、艶やかに綻ばせながら。描く斬撃は茨の如く、ゲロトラックスの皮膚を一気に削ぎ抜いた。
『いでぇいでぇ。穴あげやがってよぉ』
ジグザグ効果で酷く刻まれた足の腱。回避能力は低下しているのに、余裕めいたわざとらしい言いっぷり。
『ほ、ほぅれ、潰してやるど!』
まずは中衛に穴を開けてやろうと、振りかぶる悪魔。咄嗟庇う高明の腹に入る衝撃は、古傷に響いたけれど。
「女の子を先に倒したとあっちゃあ、男がすたるってな」
それでも余裕崩さず、軽口叩きながら、高明はラビリンスアーマーで身を固め、離脱を補佐するガゼルが急旋回しながら体当たり。
「むきゅ、おふとんしばらく前お願いなの~」
純白の光を放ち続け、エステルは戦線を維持するのに必死に。
『お、往生際が悪いんだな。つ、次はうまぐはいかねぇど』
ドミノ崩しを楽しむのは自分だと、げへりと笑みを零す。
少数での戦いは既に12分を越え。床に点々と零れた紅の花。それは裏ツ花のダメージの深さを表していて。エステルとカゼルも懸命に立っているけれど、心伴いのは同じだ。特に見過ごせないのは高明の傷。
しかしもう、ホールに人影は無くなってはいる。耐える時間もあと少しだ。
(「押すか、押されるか、腹芸駆使する意味では狸だな」)
傷は相手も決して浅いものではない。その余裕は虚勢であると煉夜はそう解釈する。
ゲロトラックスが重い震動を打ち放つ。
淡く残光撒き散らしながら殆んどを庇い入る、ラピスティリアは醜ささえ潰す安寧の闇のような、超然とした微笑を戦いの高揚で艶やかにしながら。
「夜は、君みたいな存在でも、等しく溶かしてくれますから」
指先から落ちる血の如く振り抜かれた赤い一閃へと、おふとんの斬魔刀が横切り、十字を切った。
●
「さあ早く。ここをくぐれば助かるんよ」
職員通用口の方角から、チセの声が彩雪とオリキアの耳に届いた。シキテと一緒に彼女なりの言葉で人を誘導しているのがわかった。
彩雪が動けない最後の人を、その小さな体に抱え。かわりに、霊犬・さっちゃんがせっつく様に吠えながら、出口に先導するように動いてくれている。
「動ける人は可能な限り肩を貸してあげて欲しいのっ! ボクはまだ中に居る人を運んであげたいから。だからお願いだよ。みんなで協力して脱出しよーっ!」
痛ましい程にやせ衰えた人を抱えながら、オリキアは声を張る。ただ脱出を促すだけでは、時間がかかり過ぎてしまう。
だから積極的に協力を求め、少しでもスムーズに避難を終わらせたいのだが、人数が多過ぎて、どうも思うように進まない。
「さゆもからも、お願いしてみます、ね……」
割り込みボイスなら、遠くの人にも届くからと。彩雪が機転を利かせる。もっと早く、三人でそうしていればよかったかもしれないと唇を噛んだが、今はとにかく混乱のない人の流れを押しだすことだ。
人が流れきるまで、あと少し――。
●
『お、お前も破裂しぢまえ!』
今しがた、おふとんを大きな掌で消滅させたゲロトラックスは、調子づいたようにマジックミサイルを発射する。
「知恵が回ると言ってもそれだけ、愚かで汚らわしいだけでしたわね」
その軌道は散々罵りを続けた裏ツ花を狙っているものの、当の本人はあくまで高飛車な態度を崩さない。
水晶の煌めき零し、穏やかな風に上衣翻す。オリキアの兄をかたどる姿が、淑女を的確に守ったから。
「お待たせしてすいません、です……」
皆さん大丈夫ですかと、彩雪は皆の傷の具合を確かめ、さっちゃんに回復の徹底をお願い。
「さあ、ここからが本番だよ。ギッタンギッタンにしてやるんだから、覚悟するといいよーっ!」
どっちかっていうと、するのはクラッシャーなチセがって顔で、メディックなオリキアは、まずは交通標識振りかざし、戒めに対する耐性と一緒に前列補佐。ギッタンギッタンの一角を任されてのチセは、シキテと一緒に拳を奮って。
『が、がずが増えて調子に乗ったが? 灼滅者が群れなきゃ何もでぎねぇのは昔がらだな!』
窮地に陥っても、人を小馬鹿にしたような調子は変わらない。意地か、それとも性分か。
打ち払おうと振り下ろす悪魔の手。咄嗟遮るシキテの体。
『ご、ごの……お、ま!?』
ぎょろりとした目を向けた刹那破裂した肩は、オリキアから癒しの矢を後ろ手に受け取ったリデルの霊障波が炸裂した瞬間でもあって。密やかにクラッシャーヘとチェンジしていたラピスティリアの爪先から放たれた一撃も強烈に。
「観念するといいんだよっ!」
冷やかな視線を向けるオリキアは、自分の思いも一緒にその拳に入れてもらうよう、飛ばす癒しの矢にこめて。
「覚悟、してください……!」
彩雪が雪風に乗って空を舞い、醜悪な姿を突き抜け、地についたなら。
「……あの小説とは違い、密室から出る事ができない末路は同じだったようだな」
煉夜は得物についた血を払いながら、肩越しに言葉を。
「ここにはお前を許す蛙もいない」
『ああ……わがっでら……そいづは既におでが殺してしまっだからな……』
ずるり。
小太りな体から、扁平な頭が滑り落ちてゆく。その顔は何処か安堵しているようにも見えた。
全てが消えると同時に密室は崩れ、天窓から差し込む日の光が、この部屋に正常な時間を取り戻したことを意味していた。
作者:那珂川未来 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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