「松戸市で発生しとった密室事件のことは、皆知ってはると思うんやけど。この松戸市密室事件を起こしとったMAD六六六の幹部やった、ハレルヤ・シオンはんの救出に成功したんや! いやホンマに良かったわぁ」
くるみは心底ホッとしたように胸をなで下ろすと、集まった灼滅者達に神妙に向き合った。
「ハレルヤはんは松戸の密室の警備を担当してはったこともあってな、詳しい情報を得ることができたんやわ。この情報を元に、松戸市の密室を一掃する作戦をすることになってな、皆の力を貸したってや!」
松戸市にある密室を一掃することができれば、迷宮殺人鬼・アツシの引きこもる密室への侵入も可能となる。
アツシを灼滅することができれば、松戸の密室事件を完全に解決することもできるだろう。
「うちが聞いた、ハレルヤはんの情報はタタリガミ・現絵(うつつえ)のもんやったわ」
松戸市のあるマンションの住民に、呪いの絵葉書が届く。
この絵葉書には、パスタを食べたり犬を散歩させて転んだり……という絵が描かれている。
絵葉書を受け取った人は、この絵と同じ行動をとってしまう。
例え「絶対パスタは食べない!」と念じても、気がついたら食べてしまう。
「こんなことが七日間続いて、七日目の絵葉書には受け取った人の死に姿が描かれてんねん。どない気をつけても、絵葉書そっくりの姿で死んでまうんやて」
くるみは痛ましそうに眉をひそめた。
「この事件が起こる曜日は決まっとってな、丁度作戦の日が七日目らしいんや。几帳面で規則正しいタタリガミらしくてな、この日は飛び降り自殺の日やって」
犠牲者の二十代の女性がマンションの屋上から飛び降りて、二分後に現絵が現れる。
現絵は犠牲者の死を見届けに出てくるため、飛び降りる前に止めてしまうとまずいかも知れない。
もし救出するなら、飛び降りた直後から二分間がリミットとなる。
救助してもしなくても、二分後に現絵は駐車場に現れるので、接触した後灼滅してほしい。
現絵のポジションはジャマー。
リングスラッシャーと七不思議使いのようなサイキックを使う。
「今までほとんど手が出せへんかった密室事件を解決する大チャンスや! 隠れてコソコソ悪巧みばっかしとるアツシを引っぱり出して、これ以上の犠牲を止めたろうな!」
くるみはにかっと笑うと、親指を立てた。
参加者 | |
---|---|
エルシャ・プルート(スケッチブックと百面相・d11544) |
宮代・庵(中学生神薙使い・d15709) |
卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875) |
上土棚・美玖(高校生ファイアブラッド・d17317) |
久条・統弥(時喰みのディスガイア・d20758) |
鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655) |
莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600) |
雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195) |
松戸市にあるマンションの屋上に、一人の女性が立っていた。
靴を揃えて脱ぎ、フェンスを乗り越えて立つ女性の目からは、正気が消え失せている。
何事かブツブツ呟いた女性は、ふいに屋上を蹴った。
その瞬間、莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)は携帯電話の一斉送信ボタンを押した。
想々からの着信を受け取った直後、一本の箒が滑り出した。
鳥にでもなったかのように高らかに宙を舞った犠牲者を、雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)の箒が追いかけた。
「つかまえたんよぉ」
地上へ向けて真っ逆様に落ちる女性の手を何とか捕まえた丹は、そのまま潜んでいたベランダへ向かって飛んだ。
あと少しでベランダへ到着するという瞬間、女性の目がカッと見開かれた。
女性は突然奇声を上げると、大暴れに暴れた。何とか丹の手をふりほどこうとしているようにさえ見える暴れ方に、女性の手首が丹の手から離れた。
丹は急いで後を追ったが、追いつく前に女性の姿がだぶった。
下の階のベランダで待機していた卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875)が女性の体を抱き抱えると、そのまま地上へと落ちていった。
二人はアスファルトの染みになってもおかしくないはずだが、あるなは巧みに空中で体勢を入れ替えた。
そのまま軟着地。
エアライドを使って羽のように舞い降りたあるなは、女性をゆっくりと地上へ降ろした。。
「大丈夫ですか? 気分は……」
「飛び降りなきゃ飛び降りなきゃ飛び降りなきゃ……」
目を見開いたまま、瞬きすらしない女性は、何かに取り憑かれたように暴れてあるなの腕から逃れると、マンションへ向かって駆け出した。
「落ち着きなさい!」
駆け出す女性の行く手を阻むように現れた宮代・庵(中学生神薙使い・d15709)は、爽やかな風を女性に送った。
魂を鎮める風を受けた女性は、糸が切れたようにその場に倒れ込む。
ここ数日、ろくに眠れていなかったのだろう。目の下に隈を浮かべた女性は、深い眠りについているようだった。
一連の出来事に、偶然駐車場に居合わせた数人の一般人が騒ぎ始めた。
「な、なんだなんだ!」
「大丈夫なのか? 早く病院に……」
「彼女は大丈夫です。 ちょっと貧血を起こしただけですから」
駐車場で待機していた久条・統弥(時喰みのディスガイア・d20758)は、一般人を説得するようにフォローした。
「家へ送りますので、心配しないでください」
携帯電話をしまいながら駆けつけた想々もまた、一般人を誘導した。
同時に使われたサウンドシャッターの効果で、騒がしい声にベランダから見下ろそうとしていた気配が遠のく。
そこへ、箒がひらりと舞い降りた。
丹は庵から気を失った女性を受け取ると、軽々と持ち上げる。
華奢な女の子が自分よりも背の高い女性を抱き上げる姿に、周囲がざわついた。
「ちょお、避難させてくるんよぉ」
マンションの中へと駆け去った丹を追いかけるように、一般人が更に騒ぐ。
「あ、あの子すごい怪力じゃない?」
「空から降って来なかった?」
戸惑いながらも逃げようとしない一般人に、庵はにっこり笑った。
「危ないから、逃げてくださいませんこと?」
笑いながら放たれる殺気に、一般人は怖じ気付いたように後ずさった。
一人、また一人と逃げ出す一般人に、庵は自慢げに眼鏡に手をやった。
「一般人も避難させるなんて、さすが私……」
「危ない!」
敵を警戒していた鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)が、現れた現絵に鋭く声を上げた。
忽然と現れた現絵に、灼滅者達が対応するよりも早く、現絵は絵葉書を一般人に放つ。
「馬鹿な!」
庵が焦りの声を上げる。
鋭く回転しながら突き進む絵葉書の前に、一台のライドキャリバーが割り込んだ。
●
壁歩きで壁面に待機していた上土棚・美玖(高校生ファイアブラッド・d17317)は、落ちる女性を助けるため駆け出そうと脚に力を込めた。
だが、壁歩きで壁を走ることはできない。
唇を噛んだ美玖は、気配を殺して現れた現絵にいち早く気がついた。
現絵は一般人を優先的に狙う。
考えるよりも先に、体が動いた。
壁歩きを解除して壁を蹴った美玖は、相棒のライドキャリバー・紫に騎乗すると、そのまま落下。
灼滅者には目もくれずに一般人に向けて絵葉書を放つ現絵の前に降り立った。
ギリギリのタイミングで一般人を守った美玖は、絵葉書に切り裂かれながらも大きく半円を描いて勢いを殺すと、現絵に相対した。
「回復します!」
突然の出来事に驚きながらも、庵は美玖に癒しの歌を届けた。
深い傷を負った美玖の傷が、ゆっくりと癒えていく。
一般人に気を取られていた灼滅者達が、一斉に臨戦態勢を取った。
「行かせないよ!」
腰を抜かした一般人に向かって移動しようとする現絵に、あるなのご当地ビームが放たれた。
ひらりと避けた現絵に、レイザースラストが突き刺さった。
エルシャ・プルート(スケッチブックと百面相・d11544)が放った攻撃に、現絵は悲鳴を上げて後ずさる。
「あなたの相手は、こっちです!」
そんな強い意志が伝わるようなエルシャの攻撃を追うように、音々がマテリアルロッドを閃かせた。
右手に持ったマテリアルロッドに取り込ませた寄生体が、現絵を襲う。
強酸を浴びた現絵は、なおも執拗に一般人を狙おうと移動した。
「しつこいな!」
統弥が構えた螺旋槍が、現絵に大きな穴を穿つ。
一般人との間に割り込んだ想々は、何事が起きたのか理解できない様子の一般人を鋭い声で叱りつけた。
「この場所は危険です。マンションの中へ戻って!」
「は、はい!」
突進する現絵にレイザースラストを放って牽制する想々の声に、一般人は転がるように駐車場を離れた。
立ち去る背中に、現絵は足を止める。
現絵はゆっくり顔を上げると、灼滅者達を見渡した。
●
現れた現絵は、一見して画家だと言えるような格好をした女だった。
絵の具で汚れたスモックにパレットと絵筆、頭にはベレー帽。
長い黒髪を振り乱し、前髪の隙間から見える目が、恨めしそうに灼滅者達をにらんだ。
周囲には七枚の葉書が浮いていて、最後の一枚にはまだ何も描かれてはいなかった。
不気味な気配を漂わせる現絵に、エルシャはスケッチブックを掲げた。
『怖い葉書を出さないで!』
マジックで書かれた文字を一瞥した現絵は、口元を三日月型に歪めた。
「女は、どこにいるのよぅ?」
「避難させたよ。……飛び降りって外だけど、密室に当てはまるのか?」
統弥の問いに、現絵は表情をぴくりとも変えない。
「女は、どこにいるのよぅ?」
「一見そうは見えないけど、その人の行動を制限する事で密室にさせてるんですね?」
「女は、どこにいるのよぅ?」
想々の問いにも、現絵は壊れたレコーダーのように応じない。
現絵の側に戻った七枚の絵葉書を改めて見た想々は、痛ましそうに眉をひそめた。
絵葉書には、首吊りや溺死といった凄惨な死に姿が描かれている。既に六枚が埋まっているということは、避難させた彼女が最後の一枚か。
「したくない事をさせられた挙句、殺される……か。その上死に様をわざわざ見に来るなんて、気分が悪い」
想々の言葉に、現絵は口の端を邪悪に歪めた。
「女は、どこにいるのよぅ?」
「ディスチャージ!」
あるなはスレイヤーカードを高く掲げると、華麗に舞い上がった。
光と共に具現化したタネガバスターを構えると、バスタービームを放った。
突き刺さった鋭い光条に、現絵はぎらりとあるなを睨む。
現絵の視線を真っ向から受け止めたあるなは、現絵に指を突きつけた。
「呪いの絵葉書で人々を苦しめるなんて、たとえ日本郵政公社が許しても、この正義のヒロイン見習いのボクが許さないよ!」
「私の語りのぉ、邪魔をしないでぇ!」
あるなの声に苛立ったような金切り声を上げた現絵は、手にしたパレットで絵葉書を塗りつぶした。
毒々しい色に塗られた絵葉書から、苦痛を訴える声が響く。
絵葉書は絵の具を吐き出すように猛毒を吐き出すと、前衛に叩きつけた。
無数の葉のような毒が、前衛を襲う。
体の中からかき回されるような痛みに苦しむ前衛に、清らかな風が吹き抜けた。
庵から流れる清冽な風は、毒の痛みを徐々に消し去る。
「一度に解毒するなんて流石、私ですね」
少し余裕の生まれた前衛に、庵は得意げに眼鏡に手をやった。
そこへ、少女が駆けつけた。
「お待たせやねぇ。今回復するさかい、ちょお待っとってなぁ」
マンションから駆けつけた丹は、交通標識を構えた。
「絵葉書注意」と書かれた黄色の交通標識から溢れる力に体力を回復した音々は、タタリガミを睨みながら右腕を差し出した。
「ムラサキカガミ!」
音々の掛け声と共に、一枚の手鏡が現れた。
同時に現れる、少女と紫煙。音々を守るように展開した紫煙は、意志を持っているかのように音々の周囲に漂った。
「本当の語りを、教えてあげるね!」
音々の声と共に広がった紫煙が、現絵を包み込む。込められた呪詛にうなり声を上げた現絵は、転ぶように紫煙から逃れた。
そこへ、マテリアルロッドが閃いた。
無言の凄みでエルシャが振り抜いたマテリアルロッドが、現絵のわき腹を直撃する。
吹き飛ばされた現絵を反対側から迎え撃つように、統弥のクロスグレイブが唸りを上げた。
巨大な十字架が現絵にめり込み、姿を大きく歪ませる。
そのまま吹き飛ばされた現絵は、大きく距離を取ると灼滅者達を睨んだ。
「あと一枚……。あと一枚で」
恨めしげな現絵に、統弥は冷たく言い放った。
「予定から大きくずれた時点で、お前の計画は大失敗だね!」
「うるさいうるさいうるさいいぃっ! おまえ達さえ来なければ、呪いは成就したのに!」
「タタリガミとしては、古式ゆかしきって感じのオーソドックスなタイプね。すでに何人か犠牲が出てるのが悔しいわ」
六枚の絵葉書に痛ましそうに眉をひそめた美玖は、紫と共に駆け出した。
エンジン音が、戦場を駆け抜ける。
突進する紫が現絵に体当たりするのと同時に、炎に包まれたクロスグレイブが現絵を吹き飛ばす。
美玖達を追うように伸びた白い帯が、現絵を切り裂いた。
想々のダイダロスベルトは確実に現絵を引き裂き、灼滅者達の猛攻に現絵は膝をついた。
「私の……。私の、絵葉書を……」
「あなたの絵葉書はごめんです。貴方ごと破り捨てますよ」
想々の言葉に、現絵は狂ったように笑い声を上げた。
●
笑い声を上げる現絵が、ふいに消えた。
予備動作なしでバックジャンプした現絵は、着地すると一目散に逃げ出した。
「あのぉ女! 遠くにはぁ、行ってないはずだぁ!」
『逃がしません!』
そんなスケッチブックが出そうな勢いで、エルシャ通せんぼするように逃走経路上に駆け出した。
「邪魔よぉ!」
現絵は絵葉書を鋭く変化させると、次々にエルシャに放った。
同時に放つレイザースラスト。
狙い違わず伸びたベルトが、現絵の脇腹に突き刺さる。
怨みが込められた七枚の絵葉書が、エルシャを切り裂く。
全身を切り裂かれたエルシャは、苦痛に顔を歪めた。
しかめた眉間に浮かぶ脂汗が、目に入って視界がにじむ。
肩で息をするエルシャの表情が、ふいに和らいだ。
「大丈夫かぁ? エルシャちゃん~。今、回復するさかい待っとってなぁ」
穏やかな声と共に溢れ出す癒しのベルトがエルシャを包み込み、傷を優しく癒していく。
同時に、優しい声が響いた。
庵の歌が、痛みに傷ついたエルシャの心まで癒していく。
窮地を脱したエルシャにホッと息を吐いた庵は、ホッとした照れ隠しに眼鏡に手をやった。
「歌でここまで癒すなんて、流石、わたしですね!」
「あんたたちぃ、ずるいわぁ……」
完全に傷の癒えたエルシャに、現絵はしゃがみ込んだ。
足を止めた現絵に、異形の腕が迫った。
巨大な刀に変化した右腕を振り上げた統弥の目が、冷酷に輝く。
「お前の計画はこれ以上起きない! 絵葉書のように死ぬのはお前だ!」
振り抜かれた刀に切り裂かれた現絵は、大きく呻いて後ずさる。
「あんたの死に様は、どんなやろうね?」
問うた瞬間放たれた想々の槍が、現絵を貫いた。
大きく空いた胸の穴の下に、もう一つ穴が穿たれた。
「これ以上の悲劇は、くい止めてやるんだから!」
アスファルトを蹴ったあるなは、身軽にマンションの壁面を蹴ると、予想外の方向からオーラ放った。
メディカルオーラで練り上げられたオーラキヤノンが、現絵の背中に直撃する。
息も絶え絶えな現絵に、音々の右腕が迫った。
マテリアルロッドを飲み込んだデモノイド寄生体が、右腕を蒼く変化させる。
「お前を、吸収してやるよ!」
振り抜いた腕が、現絵を両断する。
現絵は最後の力で腕を伸ばすと、白い葉書を手に取った。
「呪いさえ成就すればぁ、おまえ達なんか……」
「呪いは跳ね返るの。知らなかった? 貴方にとっては今日が七日目。因果応報、という事ね」
美玖の言葉に、白い葉書から現絵の手が離れる。
血で染まった手で握られた絵葉書は、まるで今の現絵を描いているようだった。
音々が現絵を七不思議として吸収した時、空気が変わった気がした。
マンションを包んでいた、どこか陰鬱な気配が消え、風が吹き抜け陽が差してきた。
『密室が、解放されたのかな?』
エルシャは誰にともなくスケッチブックを提示すると、仲間の背中を追いかけた。
作者:三ノ木咲紀 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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