松戸密室掃討作戦~終わらない放課後

    作者:志稲愛海

     出る事が不可能な校舎、終わらない放課後。
     そして嗤いながら迫る女こそ、密室の主――残酷な殺戮者。


    「松戸市の密室事件のことは、みんなも知ってるよね。そして……MAD六六六の幹部としてこの密室事件を起こしてた、ハレルヤ・シオンの救出に成功したことも」
     飛鳥井・遥河(高校生エクスブレイン・dn0040)はそう、集まった灼滅者達を見回した後、さらに話を続ける。
    「ハレルヤはね、MAD六六六の幹部として、松戸の密室の警備を担当していたんだけど。彼女が救出されたことによって、松戸市の密室の詳しい情報を得る事ができたんだ。それで今回、この情報を元に、松戸市の密室を一掃する作戦を行う事になったんだよ」
     灼滅者の皆の行動により、闇から救うことができたハレルヤ。
     そんなハレルヤからもたらされた情報を元に、松戸市の密室を一掃することが出来れば、迷宮殺人鬼・アツシが引き篭もる密室への侵入も可能になるという。
     そして密室へ踏み込み、アツシを灼滅すれば、松戸の密室事件を完全に解決する事ができるだろう。
     
    「それで、みんなに赴いてもらう場所はね、松戸市にある学校だよ。ハレルヤからの情報では、その学校全体が密室化してるんだけど。アツシに与えられたこの密室でも、六六六人衆が暴君のように振舞ってるみたいなんだ」
     情報によれば、この学校の密室をアツシから与えられた六六六人衆は、殺(アヤ)と名乗っている女だという。
     そして密室内に捕えられているのは、夏休みの補講による登校日で学校を訪れていた、数百人にも及ぶ大勢の生徒や職員達。
    「アヤはね、毎日夕方、指定した1クラス分の生徒を本校舎の教室に入れて、教師気取りでホームルームを行なうらしいんだけど……そのホームルームが終わった後、アヤは残酷な行動を始めるんだ」
     遥河も思わず眉を顰める、アヤの放課後の遊び。
     それは――命を弄ぶ、鬼ごっこ。
    「毎日1クラス40人前後が、夕方になると、教室のある本校舎に移されるみたいで。残りの多くの一般人は体育館に閉じ込められてるらしいんだけど。始まりは、アヤのホームルームが終わってから、17時の最終下校の校内放送が流れた後……その放送の後、本校舎を見回ってるアヤに最初に見つかった生徒達は、下校時間を守らなかった見せしめで殺されちゃうんだって……密室の校舎からは、下校したくても出られないのにね……」
     ゲームの対象は、1日40人程度。そのうちの誰かが、毎日殺されているという。
     一気に大量虐殺を行なわないのは、より長く楽しむためだろう。毎日恐怖を煽りながら、じわじわ少しずつ、生徒達を追い詰めては殺しているのである。
    「この本校舎はね、4階建てのI字型の校舎で、西と東の両端の突き当たりにそれぞれ階段があるよ。調べてみた見取り図を見てみると、1階は広めのエントランスとか職員室、2階から4階は各クラスの教室と特別教室。本校舎で駒にされるのはいつも、1クラス分の40人前後の生徒達。17時の最終下校放送の後、見回るアヤに最初に見つかった生徒達が殺されるんだ。残りの一般人は体育館に閉じ込められてるらしいよ。でもね、アヤは、17時の見回り開始後、すぐには本腰入れて生徒達を探さないようなんだ。生徒達の恐怖をより煽る目的で、暫くは周囲にわざと声を掛けたりしながら、校舎内をウロウロするみたい」
     密室への侵入は、大勢の一般人を捕えているアヤには悟られず行なえるだろうし。本校舎内で彼女を見つけることも、難しいというほどではないだろう。
     しかし、アヤは本校舎内を絶えず移動していて、さらに40人前後の一般人が本校舎内に怯えながら潜んでいる。
     アヤとの接触にもたついていたら犠牲者が出てしまうし。相手は格上のダークネス、灼滅者がもし少人数で遭遇し戦闘になれば、危険が増す。急いてESPやサイキックを使えば、アヤに察知され、逃走や予想外の行動に出られるかもしれない。
     それに、ただ闇雲に生徒を逃がそうとすると逆に戦闘の支障となったり、アヤが灼滅者達よりも逃げる生徒達を優先し攻撃する可能性も考えられる。
     どのようにアヤを探し、どう接触するか。もしもアヤと遭遇後、周囲に生徒が隠れていた場合、どのように対応するかも、念のため考えておいた方がいいかもしれない。
    「そして戦闘になると、アヤは六六六人衆のサイキックと、得物の影業と解体ナイフのサイキックを使ってくるみたい。戦場は、本校舎の廊下か教室か……アヤと接触した場所、になるだろうね」
     エクスブレインが未来予測できない密室。これ以上は、現場に赴いてみないと分からない。
     だが、絶好の機会。
    「松戸市の密室を一掃できれば、密室殺人鬼・アツシの密室への侵入も可能になるらしいから。アヤの灼滅を、よろしくお願いするね」
     気をつけて帰ってきてね、と付け加えて。
     遥河はそう、灼滅者の皆に頭を下げ、見送るのだった。


    参加者
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)
    ルーパス・ヒラリエス(塔の者・d02159)
    東谷・円(ルーンアルクス・d02468)
    花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    イブ・コンスタンティーヌ(愛執エデン・d08460)
    神西・煌希(戴天の煌・d16768)

    ■リプレイ

    ●密室かくれんぼ
     シンと静まり返っている夕方の校舎には、一見、誰もいないように見えるが。
     今……この中には、40人程の生徒達が息を潜めているのだという。
     校舎から出ることすら叶わずに。見つかれば、終わり。
     血の様に真っ赤な夕陽が射す中で――殺戮者『殺(アヤ)』の足音に、脅えながら。

     アツシの力で密室化した、松戸市の学校。
     今、その校舎内にいるのは、恐怖に慄きつつ隠れる生徒達と、密室の主のアヤ。
     そして。
    「2階には、アヤの姿はないみたいです……3階に向かいますね」
     そっと口元に当てたトランシーバーに告げるのは、花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239)。
     桃香は念の為にもう一度、I字型の見通しの良い廊下に目を向けてから。
     共に探索と囮役を担うイブ・コンスタンティーヌ(愛執エデン・d08460)と頷き合い、3階へと向かう階段を上り始める。
     校舎内には、40人の生徒達とアヤと――そして、密室に侵入した灼滅者達がいた。
     今回の灼滅者達の作戦は、I字型の校舎を利用しつつ探索しながら、囮役を担い先行する班と。囮役の連絡を受け、彼女達の1フロア下で身を潜めつつ戦闘に備える本隊とで、役割を分担し行動している。
     アヤを灼滅することが一番の目的であることは分かっているが。桃香がその胸に抱くのは、強い想い。
     多少危険を伴っても、出来る限り一般人は助けたい――と。
     首からさげた大切な蒼い星座盤の懐中時計を、無意識にぐっと握り締めながらも。
     そしてその想いは、桃香だけでなく、イブも同じであった。
    (「……あの兎仮面の時は体育館でしたね。今度は校内で隠れんぼですか」)
     今回と同じ様に学校で起きた、六六六人衆の事件に赴いた過去。
     確実性か人命優先かを迫られ、大きなリスクを承知で後者を選び、臨んだ結果――闇に堕ちた、あの時。
     確かに、それで護れたものもあったけれど。でも一歩間違えれば、大切なものを失いそうになったから。今回は確実性を重視し、依頼に臨むイブ。
     けれど……それでもやっぱり、手を伸ばせば助けられる命があれば、助けたい。
     過去の戦いと今回の事件を重ねながら、葡萄酒色に満ちた瞳を細めるイブは、根っからの人間好きだから。
    「……3階にもいないみたいですね。残すは、4階ですか」
     そっと覗いてみた3階の廊下にも、アヤの姿は見当たらない。
     その旨を本隊の仲間に告げて。桃香とイブとヴァレリウスは、最上階の4階へと向かう。
     
    「ウィ、了解したわ」
     周防・雛(少女グランギニョル・d00356)は探索班からの連絡に、そう返してから。共に身を潜めている皆に首を横に振ってみせる。
    「3階にもアヤはいなかったのか」
    「ん、じゃあ私達も、上の階に向かおうか」
     伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)の声に頷いた後、新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)は皆を見回して。ノエルやボンボンも、各々の主の後ろから続けば。
    「ほいじゃ、行きますかねっと」
     相変わらずツンツンした様子の相棒、ニュイ・ブランシュだけでなく、主人の桃香と離れているまっちゃも一緒にわしわしと撫でてから。3階へと続く階段を上がり始める、神西・煌希(戴天の煌・d16768)。
    (「こういう犯人が分かってる密室殺人っていうのはいいな、名探偵いらずだ」)
     代わりに灼滅者が事件を華麗に解決、ってね……と。探偵学部に所属している東谷・円(ルーンアルクス・d02468)は、そう思ってみたりもするも。今回の犯人の趣味の悪さには、小さく苦笑してしまう。
     ……1階から3階までにいないとなれば。
     残す4階に、アヤがいる可能性が高いのではないかと。
     灼滅者達が、今まで以上に気を引き締めた――その時。
     しーっ、と、咄嗟に口元に人差し指をあてたのは、ルーパス・ヒラリエス(塔の者・d02159)。
     彼の視線の先には……脅えた表情をした、ひとりの男子生徒の姿が。
    「俺たちはアヤを倒しに来た、このまま死にたくなければ大人しく避難していろ」
    「え、た、倒しにって……えっ?」
    「その場に黙ってこっちから開けるまで隠れていろ」
     蓮太郎や円の言葉に、恐怖に固まっていた男子生徒は驚いた表情を浮かべるも。
    「俺達はアヤの仲間じゃなくて、お前達の味方だぜえ。アヤは俺達で相手すっから、もうちっとその場でそのまま声を出さず動かずに隠れといてくれなあ」
     にまりと笑んで言った煌希に頷き、慌てて隠れる男子生徒。
     そんな探索や戦闘の邪魔になりかねない一般人の様子に、ふう、と気が進まぬような溜め息を漏らしたルーパスであったが。
    「……!」
     瞬間、ハッと顔を上げ、咄嗟に身を隠す。
     いや、彼だけでなく、灼滅者全員が素早く息を潜めて。
    『いません……4階にも、アヤはいません』
     トランシーバーから聞こえてきた仲間の報告に、声を潜めつつも答えたのだった。
    「……アヤは今、3階にいるよ」

    「今すぐ逃げなさい、静かに、そして急いで」 
     先程隠れた男子生徒へと、そう改めて告げる雛。
     本隊の灼滅者達が確認したのは、3階にある教室のひとつから出てきた、アヤの姿だったのだ。
     I字型の校舎の廊下は確かに見通しが良い。アヤが廊下を歩いていれば、その姿は簡単に見つけられるだろう。
     ただ……校舎内にはI字の廊下だけではなく、各教室やトイレなどがある。そしてその中にアヤがいたら、廊下を見ただけでは、彼女を見つけることはできない。
     現に――3階の教室の中にいたアヤを、見逃したように。
     だが、身を潜め行動していた為、本隊の灼滅者達が彼女に見つかることはなく。そのまま隣の教室の中へとアヤが入っていた事は、幸いだった。
    「大丈夫、悪い奴はヒナ達がなんとかしてくるわ」
    「え、え、でも……校舎からも出られないし……っ」
     緊迫した空気に、ただオロオロする男子生徒。
     アヤがこの階にいなければ、このまま隠れて貰っておいた方が良かったが。状況が変わった今、別の階に逃げてもらう方が良い。 
    「大丈夫だ、アヤは俺達でなんとかする。それまで待っちゃくれねえか」
     煌希が再度促してやっと、パニック気味ながらも階段を駆け下りていった男子生徒。
    「僕としちゃ別に誰が死のうと構わないんだけども――」
     ルーパスはそう呟きつつも、これ幸いに去ってくれた一般人を大人しく見送る。
     探索の詰めは正直、少々甘かったが。
     連絡を密に取り合い、不用意な行動はしていなかった為、アヤに存在を感付かれるには至らず。
     当初の作戦に、支障はない。
    「もう嫌……お願い、ここから出して!」
    「外に出してください、死にたくないです!」
     3階の廊下に刹那響くのは、壁を叩く激しい音と必死な叫び声。
     その声の主は、仲間の連絡を受けて3階に降りてきた桃香とイブであった。
     ――そして。
    「……なぁに? 恐怖に耐えられなくて出てきちゃった? ふふ、廊下で騒ぐ悪い子ちゃん達には、おしおきが必要ねぇっ」
     ふたりの声を聞きつけ、廊下へと出てきたアヤ。
     アヤは残虐な笑みを宿しながら、閃くナイフを手に、逃げるふたりをゆっくりと廊下の端に追い詰める。
     だが……勿論これも、灼滅者達の作戦。
    「さあ、下校時間を守れない悪い子は、死んでちょうだ……ッ!?」
     冷たい光を宿すナイフを振り上げたまま、瞳を見開いて振り返るアヤ。
     そんな彼女の瞳に映っているのは。
    「人殺しを楽しむなんて絶対に許せません……これで終わりにします」
    「Schau mich an――アヤ、あなたも愛してあげますね」
     先程まで、恐怖に悲鳴をあげていたはずの少女達が、得物を握る姿。
     そして。
    「……全く、悪趣味もいい所ね」
    「ん、性質の悪い学校ごっこは終わりだよ?」
    「なっ、どういうこと!? は、謀ったわね!」
    「密室殺人の推理を、探偵が披露するまでもないな」
     ようやく状況に気が付き、突如現われた雛や七葉、円たち本隊の存在に、唇を噛むアヤ。
     そんなアヤに、蓮太郎とルーパスも視線を投げて。
    「お前、アヤとか言ったな。俺たちはお前を倒しに来た」
    「騙して悪いがこれも仕事でね、死んでもらおう」
     かくれんぼは――もう終わり。
     夕陽色に焼けた校舎が、一瞬にして戦場と化す。

    ●終わらない放課後
     多少危なっかしくはあったものの、アヤの虚を突き、包囲する事に成功して。
     まだ戦闘態勢が整っていない彼女へと、握る得物を容赦なく振う灼滅者達。
     殺すことに躊躇いなど持たぬ、その互いの瞳を合わせて。
     仲間を覆い隠すようにルーパスが深い漆黒の霧を生み出せば。それと同時に、タイミングを合わせイブが放出させたのは、殺意という漆黒の愛のカタチ。そしてヴァレリウスがその愛に花を添えるかのように、霊撃の光を迸らせて。
    「……く!」
     アヤの身を貫いたのは、番え射放たれた円の魔槍が芽吹かせた、鋭利な煌きを秘める氷柱。
     そんな鋭撃に続かんと、大きく地を蹴って。
    「それじゃ、俺の手番と行くぜえ」
     愉快気な彩りが添えられた天藍の双眸でアヤの姿を捉え、ぐっと拳を握り締めた煌希は。
    「お手並み拝見、ってなあ!」 
     護りをも打ち抜く硬い一撃を、アヤへと思い切り叩きつける。
     普段は素直になれないお年頃なニュイも、主と絶妙な連携をはかって。咥えた斬魔刀を、機敏かつ大胆に振るう。
     そして漆黒の仮面が、雛の顔を覆った瞬間。
    「オイデマセ、我ガ愛シキ眷属達! サァ、アソビマショ!」
     少女ピエロが張り巡らせるのは、白銀に輝くマリオネットの糸。殺戮という名の遊戯を存分に楽しまんと、オベロンとティタニア、そして六文銭を撃ち出すボンボンと一緒に、殺気と血が香る戦場に踊る。
     そんな灼滅者達に包囲され、先手を取られたアヤ。
     だが、ふっとその妖艶な唇に笑みを宿して。
    「死ぬのはどっちかしら? センセイの言うこと聞けない悪い子達には、罰を与えなきゃね!」
    「……!!」
     その身から迸らせたのは、夕焼け色の世界を一瞬にして黒に塗り潰す無尽蔵の殺気。
     灼滅者達を覆い尽くすそんなアヤの漆黒の衝撃は、かなり強力であるが。
     すかさずノエルが身を呈し仲間を庇い、尻尾のリングを光らせれば。
    「響いて……」
     七葉の神秘的な歌声がアヤを惑わさんと旋律を紡がれて。
     桃香が天に描いた法陣が皆へと天魔を降らせ、一生懸命皆の盾となって奮闘するまっちゃ。
     倒すべき目の前の相手は、密室に閉じ込めた人間達に恐怖を与え、殺戮を楽しむダークネス。
    「抵抗できない相手をなぶるのはさぞ楽しかったろうな」 
     アヤの強烈な殺気にも躊躇なく距離を詰めた蓮太郎は、一気に相手の懐へと飛びこむと。
    「今度はこちらの楽しみに付き合ってもらうぞ。真っ向からの殴り合いだ!」
    「くっ!」
     実戦で鍛えてきた拳を固め、稲光が走るかの如き雷拳を、敵へと突き上げたのだった。

     戦場に巻き起こる毒の風や喰らいつく影が植えつけるトラウマを、変形した刃がより深く抉っては刻み込んで。生み出されるのは、与えた傷を塞ぐ夜霧。
     先手を取り、戦闘の主導権は握っているとはいえ。アヤはやはり格上のダークネス、そう簡単には倒れない。
     ……でも。
    「その匂い、嗚呼、ゾクゾクする……サァ、遊ビマショ!」
    「防ぐよ」
     灼滅者達が徹底して付与してきた状態異常が、じわじわと効いてきて。
     アヤが強烈な攻撃を放っても、すぐさま施される回復や護り。
     戦況はやはり、灼滅者有利で展開していた。
     だが――その時だった。
    「! あら……下校時間を守らない悪い子達、見つけたわ……っ!」
    「!!」
     アヤの瞳が映し出したのは、すぐ傍で鳴り響く衝撃音の恐怖に耐えかね、遠くへと逃げようと駆け出した、数人の生徒の姿であった。
     目の前に立ち塞がる灼滅者よりも、ずっと簡単に殺せる一般人。
     今のアヤの興味は、完全に生徒達の方に向いていた。
     だが同時にそれは、アヤに生じた大きな隙。絶好の灼滅の機会である。
     しかし……灼滅者達が取った行動は。
    「手を伸ばして助けられる命があれば身を呈して助けます」
     殺界を形成しつつ、一般人の盾になること。
     今はそういう場合じゃない、と。優先度がぶれないルーパスは、そんな仲間達を嗜めるように口にするも。
    「僕たちを放っていくなら君の楽しみを先んじて殺す。数があわなくてイライラするだろうから殺す。君が楽しんでる最中に後ろから襲って君も殺す」
     風を踏みにじるように戦場を駆け、精度が上がっている指輪の魔法弾を放ちながら。自分達に再びアヤの意識を向けんと、挑発を試みる。
     だが、逃げ遅れた女生徒へと、無慈悲にも振り下ろされる冷酷なナイフ。
     その鋭き斬撃に……刹那、夕焼けよりも赤い飛沫が、吹き上がった。
     しかし地に倒れたのは、アヤが狙った女生徒ではなく。
    「! ……ッ」
     出来る限り一般人は助けたいと、強い想いで咄嗟に生徒を庇った、桃香であったのだ。
     アヤは血に塗れたナイフに一瞬、恍惚な表情を宿すも。
    「愛して差しあげますから、私を見てください」
    「もう諦めろ。観念するんだな」
    「!!」
     沢山の愛を受けた純白の花嫁衣装を靡かせて。ヴァレリウスの霊撃にエスコートされるかの如くイブが振り下ろしたステッキブーケの薔薇が、より濃い赤に彩られれば。宿り木から生まれし『Mistilteinn』から放たれた円の一矢が、味方を癒すだけでなく、今度は敵の身を的確に貫く。
     そして戦場に走る、白銀の煌き。
    「フフ……捕まえた」
     アヤを捉えた雛の糸は、劇の幕開けに留まらず、舞台の幕引きまでも演出して。ボンボンもその一役を買って出れば。
    「あなたの罪を教えて」
    「俺達でなんとかするって、約束したからなあ!」
     大きく揺らいだアヤに攻撃をたたみかける、七葉と煌希。ニュイもノエルもふわふわな身体を張って、まっちゃも最後まで盾となり、皆を守り通して。
    「今度はこちらの楽しみに付き合ってもらうと、そう言っただろう!」
     まともに習ったわけではない我流ではあるが……喧嘩上等!
     闘志漲る蓮太郎の拳が唸りを上げ、アヤの身へと叩き込まれる、閃光の如き連打。
     そして。
    「ぐ……この、私が……ッ!!」
     灼滅者達の猛攻を浴びたアヤは、ついに地に崩れ落ちたのだった。

     無事にアヤを灼滅し、お役目御免と言わんばかりに。
     一般人が沢山出てくる前に退散するべく、ちゃっちゃと校舎を出るルーパスに続いて。
    「大丈夫だ、もうアヤはいない」
    「ん、もう殺人犯はいないよ。皆家に帰れるよ」
     隠れていた生徒達にそう告げる、円と七葉。
    「助けられなくてごめんなさい……辛かったですよね……」
     桃香は仲間に肩を借りながらも、これまでアヤに殺された人達を思い、胸が痛くなるも。
    「もう大丈夫です。一緒に外に出ましょう」
     泣いて礼を言う、助けた女生徒に微笑んで。
     もう密室ではない校舎から下校する為に、皆と歩き出すのだった。
     終わらない放課後の終わりを告げるチャイムを聞きながら。

    作者:志稲愛海 重傷:花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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