小城なれど見事に組み上げられた城の天守閣にて、あるご当地怪人が城下を眺めている。
「これが一国一城の主の気分か……。眺めも含めて素晴らしいな……」
怪人の名前は名古屋小倉トースト怪人。餡やバターを思わせる甘いマスクと、トーストのような親しみやすさを併せ持つ男だ。
「お褒めいただき光栄に存じます。このバター派の城こそ尾張一でございましょう……」
背後に並び頭を垂れるペナント怪人達の頭部には、皿に乗るトーストの上に餡とバターが描かれている。マーガリンに見える人もいるかもしれないが、横にバターと書かれた小箱もあるので決してマーガリンではない。
「また、更に素晴らしきことに、この城も数日中には北征入道様のお力で迷宮化されます。さすればまさに天下無双。城主様の悲願達成も近付くことでしょう」
「ああ、まずはマーガリン派に消えてもらってから、小倉トーストとミルクで迎える朝食の素晴らしさを広めていこう」
小倉トースト怪人(バター派)は、自らの理想を地平線の先に夢見るのだった……。
小牧長久手の戦い以降、かつて自分の活躍した東海や近畿での地盤を固める安土城怪人。今回も城が建った名古屋は、地元中の地元とも言える場所だ。
「で、城攻めなのに何でFが2つ並んでるゲームっぽい恰好してるんだ?」
「怪人の恰好に合わせてみた。技の説明時に実演できる利点もあるぞ」
純和風が通例の事件に突っ込むリュカ・メルツァー(光の境界・d32148)に対し、彼女の情報を元に予知をした野々宮・迷宵(高校生エクスブレイン・dn0203)が、コスプレ用品の模造刀とモデルガンを構えてみせる。
「今回城を与えられたのは名古屋小倉トースト怪人……のバター派だな」
どうやらマーガリン派の怪人もいるらしい。今回の依頼と特に関係はないが、きっと仲は悪いことだろう。
「ともあれご当地怪人の拠点を野放しにはしておけない。灼滅あるのみだ」
「おうともよ。で、今回はどう攻めればいいんだ? 主に旗だけどさ」
安土城怪人からは城主の怪人を強化する旗も送られており、これを下ろすと城主の怪人が弱体化するのだ。
「それなんだが、その……。戦場の天守閣で扇風機の羽のように回っているんだ」
「……は?」
何でも『触らせない当てさせない』がコンセプトとのことで、部屋の奥に仕掛けを作っているのだという。
「容易に近付かせてはもらえないだろうが、スナイパーの力なら狙撃も可能だろう」
戦闘中に1手無駄にする可能性もあるため、そこは灼滅者達の作戦次第だ。そのままでは勝てない相手でも無い。
「前回は防御力で今回は機動力ってわけか。天守閣までに気を付ける点はないのか?」
「特に無いな。無駄に騒がなければ、天守閣での作戦会議中に乱入できるはずだ」
最後に敵の使う技だが、小倉トースト怪人は使うほど精度を増す小豆の弾を撃ち出す銃、敵の防具をバターのように斬り裂く小剣、ミルクが落ちる様を思い浮かべ精神統一し回復の3つで、ペナント怪人達はBS耐性のパンチ、怒りのビーム、応援による回復の3つだ。
「後は、この怪人の城も北征入道による迷宮化が控えているようだ。これも看過することは出来ないな」
「ったく……。一城一城拡張工事とは、北征入道も仕事熱心なことだぜ」
軽口を叩きながら座っていた机から腰を下ろすと、リュカは集まった仲間達と作戦会議に入るのだった……。
参加者 | |
---|---|
アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715) |
ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839) |
丹生・蓮二(アンファセンド・d03879) |
村山・一途(硝子細工のような・d04649) |
咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814) |
ウェア・スクリーン(神景・d12666) |
奏川・狛(獅子狛楽士シサリウム・d23567) |
リュカ・メルツァー(光の境界・d32148) |
●どちらで食べまショー?
城の中に入り込んだ灼滅者達をまず出迎えたのは、ふんわりとしたバターの香りだった。
「おっと、これはまた早くも腹の減ってくる雰囲気じゃねーか」
香りの出所を探ってリュカ・メルツァー(光の境界・d32148)が見回すと、丁寧なことに『調理場』と書かれた案内板が目に入る。香りはそちらの方から漂ってきているようだ。
「……まあ、調理場に用はありませんし、さっさと上に行きましょう」
「じゅる……。え? そ、そうですよね!」
別の案内板から階段を見つけた村山・一途(硝子細工のような・d04649)が仲間達の先に立ち進んで行くのを、涎を拭きながら奏川・狛(獅子狛楽士シサリウム・d23567)が慌てて追いかけていく。
「ふむ……。『小倉トースト』というものを初めて知ったのですが、バターとマーガリンで何か違いがあるのでしょうか?」
一方、前方ではヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)が初見の料理に対し、怪人が何故にバター派なのかと疑問を呟いていた。
「やはり味、ですかね……?」
他には原料などもと続けるアルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)だが、どれも抗争するほどの差だろうかとも感じる。まあ、その拘りが怪人らしいとも思うのだが。
「俺はどっちかと言えばバター派だけど、小倉トーストを食ったこと無いから合う方はってなるとジャッジ出来ないな」
次に丹生・蓮二(アンファセンド・d03879)が、味でというなら食べるまではどちらとも決められないと返す。
「あたしは生クリーム派なんだけど……っと、話してる内に次が天守閣みたいだね」
これまた『天守閣』と書かれた案内板を見た咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)の言葉に気を改めると、灼滅者達は静かに階段を登り、襖に手をかける。
「間柄を知らなかったとはいえ、此度のことまことに申し訳ございませぬ……」
「気にすることは無いさ。声を掛けてもらえないよりはずっといい。しかし参ったね……。彼も城主になったとなると、今仕掛けたら内乱になってしまう……」
「では、今後の戦にて相手方より戦果を上げることで勝つというのは……」
こちらに気付かず話し合いを続ける怪人達の様子に頷き合うと、灼滅者達は襖を開け放ち室内に雪崩れ込む。部屋の奥に見える大きな扇風機もどきが旗を守る装置だろう。
「くっ! 何奴っ!」
「曲者か!」
「そうやって武勲を競い合わせる算段という訳ですね? 怪人同士の諍いはいいのですが、安土城怪人の策略は邪魔させてもらいます……」
最前線へと躍り出るウェア・スクリーン(神景・d12666)に続いて武装を纏う灼滅者達。名古屋小倉トースト怪人から漂うトーストとバターの香りの中、戦いが始まった。
●弾丸の行方
強襲に急ぎ体勢を整えると、怪人達はまずリモコンを操作し装置を起動させる。
「よし、これで旗には当てられまい!」
「また姑息な仕掛けを用意したものですね。旗に時間をかけたくはないのですが……」
自信満々のペナント怪人の背後にある旗を、銃を構え狙うアルファリアだったが、弾丸は装置を素通りして更に後ろの壁に命中する。
「これは……。念のためにスナイパーの動きを封じるんだ」
「御意に!」
しかし、銃を扱う者としてその精度を見抜いた小倉トースト怪人は、旗を攻撃させまいと部下達に後衛陣へビームでの攻撃を指示する。
「おっと! こっちだってそう簡単には当てさせねぇぜ?」
「ヘイトコントロールとは……、向こうも考えてるね」
仲間の盾となったリュカと千尋が、それぞれを攻撃したペナント怪人へと反撃を飛ばす。スナイパーがペナント怪人ばかりを狙うようになっては旗落としが詰んでしまうため、このビームは要注意だろう。
「庇われたら庇われたで、そこを狙わせてもらうっ!」
ダメージを重ねようとナイフを手にした小倉トースト怪人が迫るも、次は霊犬のつん様が飛び込んでこれを庇い、続けて自分で自分を回復させる。
(「届きはしますが、旗に当てるのは難しいですね……」)
その後ろで敵後方に鏖殺領域を展開し、旗も巻き込めないか試してみたヴァンだったが、殺気は装置を撫でる程度で旗に対する手応えは無い。スナイパーなら上手く巻き込めるかもしれないが、自分には無理そうだ。
「流れが悪い……ですが、焦らず1手を打っていきましょう」
「その通りでございますね。さあ、これも次を活かす1手です。圧殺する鬼の一撃を……」
一途が霧を広げて前衛陣を支援すると、その中から腕を異形化させたウェアが飛び出し、目の前のペナント怪人を殴りつける。
「頼むぜ、ここで一発流れを変えてくれよ……!」
「ぐぬぬ……。これは責任重大グース……」
蓮二からの支援を受けた狛は、片目を閉じ照準を合わせると銃の引き金を引く。放たれた弾丸は装置へ向かい飛んで行き……。
「しまった!」
旗を撃ち抜き装置の中を通り過ぎた。
●キウイやイチゴが合いそうだ
旗が撃ち抜かれると次第に装置の回転速度も落ちていく。どうやら旗の力を借りて動いていたようだ。
「どうだ、ウチの狙撃手は有能だろう?」
「ああ、灼滅者がここまでできるとは思わなかった。ここからは本気で行かせてもらおう」
影を伸ばしつん様とともに敵後衛を攻撃する蓮二に対し、小倉トースト怪人は深々と息を吐いて明鏡止水ならぬ明鏡止乳の境地に達する。
「ご自慢の旗は折れたのに随分と余裕ですね?」
「灼滅者如きに焦る城主様ではないわ!」
一途に斬られながらも声を荒げるペナント怪人だが、その後ろでは引き続きメディックのペナント怪人が集中攻撃を受けている。
「くそっ……、これでは回復が追いつかんっ!」
「そのまま消えていただきます。断ち切る鎌風の大刃を……」
回復しようと身構えたペナント怪人を、ウェアの巻き起こした風の刃が切り刻み虚無へと還す。
「……同胞よ、安らかに眠れ。墓にはバター2倍の小倉トーストを供えてやる……」
「フルーツも供えてあげたら? 定番だし栄養バランスもよくなるよ」
「ほどよい酸味で舌をリセットか。悪くない選択だ」
(「私ならトーストにはマーガリンをつけて食べたい……とは言わないでおきましょう」)
殴りかかるペナント怪人に千尋が剣で反撃し、小倉は偶にで十分ですねと心中で付け足すアルファリアが横から槍を突き入れる。
「これ以上仲間をやらせはしないっ!」
「我等の連携攻撃を受けよっ!」
壁役の危機に前中衛から時間差で連携を仕掛けてくるペナント怪人達だが、
「いやこれただのワンツーだろっ!?」
「期待して損したグース!」
先ほど全員でビームを撃ったのだから致し方ない。リュカは剣を振り上げ間合いを離すと満身創痍の壁役にトドメを刺し、続いて狛の放つ音波がもう1人の敵前衛に襲い掛かる。
「今回復しますね」
そしてペナント怪人のワンツーパンチも、ヴァンの回復によって傷を塞がれるのだった。
●それもこれも食べられません
その後も部下のペナント怪人達から灼滅していった灼滅者達は、反撃に傷を受けながらも小倉トースト怪人を追い詰めるところまで来ていた。
「そろそろ効いてきたきたみたいですね。とっても香ばしいです」
自分が点けた炎に焼かれる小倉トースト怪人に微笑みを向けると、一途は霊力の網で敵を縛り上げる。
「では、焦げてしまう前にそろそろ終わらせましょう」
「驕るなよ灼滅者! この程度の死地、オグラーN328と何度切り抜けたか!」
叫び小倉トースト怪人が銃を抜き撃つも、蓮二の突き出した縛霊手がその弾丸を防ぐ。
「匂いも攻撃も甘いんだよ。……さぁつん様、オヤツの時間だ!」
そしてつん様が小倉トースト怪人の顔の一部を切り飛ばし、それを追尾する気弾が破片を消し炭に変えた。
「くっ……。このオグラーの弾を甘いだと……!」
「オグラーだか何だか知んねぇーけど、食材無駄にすんじゃねぇっ!」
「食材ではない、サイキックの産物だ!」
リュカの剣と突っ込みに耐えきった小倉トースト怪人だが、次の攻撃は知性ではどうにもならない代物だった。
「わたしもう我慢できません! いっただっきグ~スッ!」
続いて漂う香りにストッパーの外れた狛が飛びかかると、敵の頭部にかじりついたままでサイキックを炸裂させたのだ。
「うぅ……。俺の頭もそれっぽいだけで食べ物ではないぞ!」
「隙だらけ……。畳み掛けるなら今ですね」
「援護します」
頭を抱えてふらつく小倉トースト怪人にウェアが武器を構えると、ヴァンが風を撃ち出し先に攻撃を仕掛ける。
「穿ち引き千切る猛杭を……」
そして後を追った鉄杭は、そのまま風の刃と同じ場所を貫いた。
「が……ふっ……!」
それでも灼滅されず鉄杭から逃れた小倉トースト怪人は、執念で灼滅者達を睨み上げる。
「城主としてその時まで諦める訳には! それに俺が倒れたらマーガリン派の奴等が……」
「城主として、か……」
「残念ながら、『夢ここに敗れたり』です」
だが、その体を千尋の赤き斬撃が斬り裂き、アルファリアの魔弾が穿つ。
「ああ……。見えるぞ……。皆がバターをつけて朝の食卓を囲む姿が……。小倉トーストのパートナーはやはりバター……。バターなんだぁぁぁぁぁぁっ!」
攻撃を受けた小倉トースト怪人は、バター派の理想を幻視しながら爆散していった……。
こうして小倉トースト怪人(バター派)を灼滅した灼滅者達は、城攻めの成功を記念して写真を撮ったり、小倉トーストを好みの味付けで食べたりした後、東京へと帰るのだった。
作者:チョコミント |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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