尾張名古屋は小倉餡(とマーガリン)で持つ

     小城なれど見事に組み上げられた城の天守閣にて、あるご当地怪人が城下を眺めている。
    「これが1チームを任された漢の気分ってヤツか……。いい眺めだぜ……」
     怪人の名前は名古屋小倉トースト怪人。マーガリンのようなジャンクさだけでなく、餡のように古風だったり、外にざらつくも身内には柔らかいトーストのような一面も持つ男だ。
    「勿体無いお言葉です。このマーガリン派の城こそ尾張一でございましょう……」
     背後に並び頭を垂れるペナント怪人達の頭部には、餡とマーガリンを挟む三角トーストの乗っている皿が描かれている。バターに見える人もいるかもしれないが、横にマーガリンと書かれた容器もあるので決してバターではない。
    「また、この城は数日中に北征入道様のお力で迷宮化されます。さすればまさに天下無敵。城主様の悲願達成も近付くことでしょう」
    「そりゃあ最高だ。バター派なんて小洒落ヤツらをぶちのめして、マーガリン派の下剋上といこうじゃねぇか!」
     そう言うと小倉トースト怪人(マーガリン派)は、拳を振り上げて部下と己を鼓舞するのだった……。
     
     小牧長久手の戦い以降、かつて自分の活躍した東海や近畿での地盤を固める安土城怪人。今回も城が建った名古屋は、地元中の地元とも言える場所だ。
    「予知の助けになったのは幸いですが、怪人の目的は本当に何とも言えませんね……」
    「世には気にしたら負けという言葉もあります。考え過ぎないほうが良いでしょう」
     呆れた顔でため息をつく丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)に向けアドバイスする天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)の方こそ、仁左衛門的な点でこの言葉に助けられている気もするが、そこは言わぬが花だろう。
    「今回城を与えられたのは名古屋小倉トースト怪人……のマーガリン派です」
     どうやらバター派の怪人もいるらしい。今回の依頼と特に関係はないが、きっと仲は悪いことだろう。
    「まあ、どちらでも灼滅対象に変わりはありませんね」
    「そうですね。1つでも多くの拠点を潰していきましょう」
    「頼もしいですね。……では、今回も旗についてからご説明します」
     にこりと笑みを浮かべて説明をし始めるカノン。安土城怪人からは城主の怪人を強化する旗も送られており、これを下ろすと城主の怪人が弱体化するのだ。
    「旗は城内のどこかに隠されています。具体的な隠し場所までは予知できませんでしたが、『目の届く範囲に』や『この技で引き付ければ』などと呟いていたので、天守閣内と考えていいでしょう」
     とはいえ候補は多い。天井裏や畳の下を始め、壁や掛け軸の裏に物入れの襖の奥、戸棚やタンスや柱なども中をくり貫かれて隠し場所となっているかもしれないのだ。
    「戦闘中しか探す時間がありませんので、怪しい場所を攻撃してみるのが一番早いですね。天守閣の全壊でも何とかできますが、戦闘中の手間を考えれば本末転倒でしょう」
     元々旗を下ろさずとも勝算はあるのだから、天守閣を壊すよりも敵を攻撃した方が早い。1人1回外すくらいで見切りを付けた方がいいだろう。
    「部屋はそれなりに広いですし当てずっぽうでは難しそうですね。『この技で』というのはどんな技なのでしょう?」
    「それもどれかまでは……。ただ、部下ではなくこの怪人が使う技だとは思います」
     名古屋小倉トースト怪人は、回復し辛いように殴る蹴る、トンファーで強化を打ち消す、マーガリンを畳の上にぶちまけ足元を覚束なくさせると3つの技が使える。
     ちなみにペナント怪人達は、いつものBS耐性パンチ、怒りのビーム、応援による回復の3つだ。
    「天守閣までは、特別騒がなければ問題無く辿り着けます」
     1つ下の階にある部屋から天守閣の床下を狙う……などしないように注意してほしい。
     
    「最後になりましたが、この怪人の城も北征入道による迷宮化が予定されているようです。敵に堅牢な拠点を与えないためにも、どうか宜しくお願い致します」
    「分かりました。全力を尽くさせていただきます」
     激励に決意の表情を返すと、愛里は集まった仲間達との作戦会議に入る。
     
    (「どうしよう……。今更マーガリンとバターの違いって何とか聞けないよ……」)
     そして、相談中に来る質問に備えるカノンは、部屋に帰ったら検索しようと心に決めるのだった……。


    参加者
    黒咬・昴(叢雲・d02294)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    千凪・智香(名もない祈り・d22159)
    アンゼリカ・アーベントロート(黄金奔放ガール・d28566)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)
    戒道・蒼騎(ナノナノ教育係・d31356)

    ■リプレイ

    ●ご当地怪人とマーガリン工場
     城の中に入り込んだ灼滅者達をまず出迎えたのは、ゴウンゴウンという工場の機械っぽい音だった。
    「う~ん……。これは一体何の音っすかね~……?」
    「……! 皆、あそこを見て!」
     和風建築の城に似合わない駆動音に押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)は首を傾げるが、黒咬・昴(叢雲・d02294)が指し示す先にその答えがあった。
    「『製造所』……。まさか自家製なのかっ!?」
     貼り付けられた案内板に、そこまでするのかと戒道・蒼騎(ナノナノ教育係・d31356)は驚きを隠せない。確かに生クリームに塩を入れて振れば家庭でもお手軽に作れるバターとは異なり、マーガリンを作るためには工場並みの設備が必要ではあるのだが……。
    「単に与えるだけではなく、ここまで揃えた城を用意するとは……。安土城怪人、恐ろしい相手です……」
     小倉トースト怪人の拘りもだが、丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)の言う通り、希望をあっさり叶える安土城怪人の調達能力や器の大きさを感じさせる一幕だろう。
    「ぬおー! 物凄く見てみたい! 見てみたいけど……今は任務が優先だ!」
    「そうですね。特に作業員がいるわけでもありませんし、スルーして問題無いでしょう」
     アンゼリカ・アーベントロート(黄金奔放ガール・d28566)が工場見学は帰りにしようと誘惑を振り切って案内板の前を通り過ぎると、月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)がその後について目的地の天守閣へと歩を進める。
    「最初は驚かされたけど、2階からは普通なんだね……っと、次が天守閣か……」
     『天守閣』と記載された案内板を見つけた崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)は、慎重に階段を登ると部屋の襖に手をかける。
    「間柄を知らなかったとはいえ、此度のことまことに申し訳ございませぬ……」
    「ハッ、気にすんな。これだけのモンを貰えたんだ。感謝の気持ちは変わらねぇよ。問題はヤツとの勝負をどうするかだが……」
    「では、今後の戦にて相手方より戦果を上げることで勝つというのはいかがでしょう?」
     こちらに気付かず話し合いを続ける怪人達の様子に頷き合うと、灼滅者達は襖を開け放ち室内に雪崩れ込んだ。
    「くっ! 何奴っ!」
    「曲者か!」
    「互いのライバル心を煽り戦功を……。迷宮化だけでなくそんな手も使ってくるんですね。ですが、あなた達はここで倒させてもらいます」
     最後に部屋へと入った千凪・智香(名もない祈り・d22159)が風を呼ぶ声とともに武装を纏うと、戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

    ●お足下にご注意ください
     武装した灼滅者達は室内に散らばると、各々の武器や拳を構え陣形を整える。
    「武蔵坂だか何だか知らねぇが、灼滅者程度にオレ様の夢は邪魔させねぇぜ!」
    「ご当地の……周りの人々の笑顔を守るご当地ヒーローとして、誰かの笑顔を曇らせるなら全力で止めるまでだよ!」
     霊犬のミッキーが支援射撃をする中、甲冑姿の來鯉が槍を突き下ろすと、その穂先は畳を貫き床に穴が開く。
    「おいおいどこ狙ってんだ? そんなへっぴりじゃ眷属だって殺れねぇぞ!」
    「その余裕、どこまで続きますかね?」
     軽いステップで攻撃を躱した小倉トースト怪人に、次は彩歌が斬りかかるも、それは再び畳を刻み床を裂くに終わった。
    「でかい口は攻撃を当ててから叩くんだな! おらっ! やっちまえ!」
    「お任せを! ……灼滅者どもめ、我等の連携をその身に受けろ!」
     一方でダークネス達は、小倉トースト怪人が足下にマーガリンを撒きながら指示を出し、ペナント怪人達はパンチやビームで灼滅者達を攻め立てる。
    「おら! マーガリンなら後で舐めさせてやるから、お前も壁になってこい!」
    「ナ、ナノ~~~ッ!」
     殴ってきたペナント怪人を殴り返した蒼騎は、傍で震えるナノナノの白豚の首を掴むと、ビームを撃とうとするペナント怪人の射線上に放り投げた。
    「た、ただいま回復します!」
    「次の攻撃はこっちで引き受けるっす!」
     涙をちょちょぎらせながらもビームを受けた白豚を智香が回復しようとすると、ハリマが迫るペナント怪人の攻撃を受け止めて反撃し、霊犬の円もその相手へと斬りかかる。
    「今度こそ……あったれーっ!」
     続いて腕を異形化させたアンゼリカが前に出るが、これも畳とマーガリンを吹き飛ばして床に大穴を開けるに止まった。
    (「ここまでに旗に当たった様子は無し、ですか……」)
     実は、攻撃を外した灼滅者達は旗の隠し場所を床下と読んだのだが、愛里の気弾が開けた穴の中にもそれらしきものは見当たらず。その後に床を狙った仲間もそれは同じだった。
    「なんだなんだぁ? 勝てそうに無いからって城を壊しでもする気かぁ~?」
    (「この余裕……。床は外れか……?」)
     それなら他に怪しい所はと昴は辺りを見回すが、特にどことは決められず、相談通り畳に打ち込んだ鉄杭の先にも旗の手応えは無い。
    「仕方ない、作戦を切り替えるぞっ!」
     旗を見つけ出すことは出来なかったが、それでも勝機は十分にある。こちらを舐めきったダークネス達に、本当の実力を見せてやるのだ!

    ●汝、小倉トーストに何を求めん?
     旗を諦め攻勢に出た灼滅者達は、これまでとは打って変わり互角以上の戦いを繰り広げていく。
    「くっ……。こ奴等……、今までは手加減していたとでもいうのかっ!」
    「……努力目標の達成を目指していただけですよ」
    「手加減って言えばそうなのかもしれないが、お前等の負けに変わりは無いぜ!」
     深い傷を負ったペナント怪人を、回復する隙を与えず彩歌が斬り付けると、続けて白豚にしゃぼんで体勢を崩させた蒼騎が敵を投げ飛ばして灼滅させる。
    「バターだマーガリンだと争わず協力していれば、もっと手強かったでしょうね!」
    「ハッ! あのキザ野郎とバターをを認めたら、怪人が廃るってモンだぜ!」
    「料理法やパンの種類とかでどっちが合うかは変わってくるし、違う方を否定するものじゃないと思うけどね」
     小倉トースト怪人との会話中にも、撃ち出された昴の強酸弾と來鯉の氷弾が、更に1体のペナント怪人を無に還し、ミッキーが傷ついた仲間を癒していく。
    「私の家は昔からマーガリン派なのですが、どちらか一択にしなくてもとは思いますね」
    「小倉トーストは美味しいっすけど、どっちでもそんなに違わないっすよね」
     そして最後の壁役も、ラッシュの末に愛里の氷弾やハリマの拳、円の六文銭射撃によってその生涯を終えることとなった。
    「殿の力を授かった我等マーガリン派が、ここまで追い込まれるとは……」
     最後に残った回復役のペナント怪人も、ポジション効果で何とか命を繋いでいたものの、1分後には集中砲火により倒れ伏した。
    「よくもオレ様の舎弟達を……。だがまだ負けちゃいねぇ! マーガリン派の底力って奴を見せてやるぜっ!」
     一転して不利な状況となったが、小倉トースト怪人は拳を握り締め己を奮い立たせる。
    「あの……。そもそもバターとマーガリンの違いって何ですか?」
    「はあ~っ? 近頃のガキはそんなことも知らねぇのか? いいか、まず違うのは……何て説明するとでも思ったか!」
     気を引ければと回復をかけながら智香が質問してみるも、見た目や言動と違ってそこまで単純ではないようだ。なお、バターの牛乳に対し、マーガリンは動物油や植物油を主原料とするのが主な違いで、製造過程からはトランス脂肪酸がどうのという話も出てくる。
     だが、それはそれとして……。
    「違いなんてわかんねーけど、おいしければどっちでもいいだろーっ!」
     健康を考えるのは良いことだが、叫びとともに飛び蹴りを繰り出すアンゼリカのように、料理とはまず始めに味が満たされてこそというのも立派な意見の1つだろう。

    ●待ち人にはすぐに出会えるだろう
     1人となっても1歩も退かず戦い続けた小倉トースト怪人だが、服にはデザインではない傷が増え、その体は毒に炎に氷にと侵されていた。
    「より世紀末らしさに磨きがかかってるけど……、何でその恰好で小倉トースト?」
    「んだこらぁっ! 不良が甘いモン食っちゃいけねぇってかぁっ!?」
     ハリマの操る帯や円の刀を受けながら、攻撃と別のところで怒る小倉トースト怪人。何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
    「別に誰が食べてもいいとは思いますけど……」
    「人に迷惑をかけるのは駄目だよね」
    「迷宮化の前にぶっとばしてやるー!」
     智香の風刃がいきり立つ小倉トースト怪人を斬り裂くと、來鯉とアンゼリカのロッドに、ミッキーの刀と3条の光の軌跡が敵へと襲いかかる。
    「バター派とのケリを付ける前に……。しかも、灼滅者如きに負けて堪るかよぉっ!」
    「させるかっ! 来いっ、白豚シールド!」
     トンファーを構え反撃に出る小倉トースト怪人に対し、蒼騎は集気法をかけながら白豚を盾にする。腹部への一撃で今日のおやつが出てしまいそうな表情の白豚だが、KOされずに踏み止まった。
    「灼滅者如き……? でかい口は1人でもKOしてから言うんですね。それと……」
     次に駆け出した彩歌が刃を煌めかせ……。
    「私はバター派なのですよ」
    「ぐああっ!」
     告白とともに小倉トースト怪人を斬り裂いた。
    「……っくしょう……。バター派だってんなら……、尚更タマはやれねぇな……!」
     しかし、その告白に対抗するように、バター派への敵意を支えに怪人は立ち続ける。
    「へぇ……。それじゃあマーガリン派の私が首を取ってあげようじゃない」
    「良い考えです。マーガリン派からのトドメなら、受け入れていただけますよね?」
     答えを待つことなく昴の鉄杭が小倉トースト怪人を畳の上に縫い止め、愛里の放った雷が敵の全身を焼き尽くす。
    「ヘ、ヘヘッ……。流石はマーガリン派だぜ……。これならバターの野郎もその内に……。一足先に待ってるぜぇぇぇぇぇぇっ!」
     そして、マーガリン派の力を身に受けた小倉トースト怪人は、ライバルへの遺言を叫んで爆散していった……。

     こうして小倉トースト怪人(マーガリン派)を灼滅した灼滅者達は、天守閣中を探索して天井裏の旗を見つけた後、帰る前にそれぞれを食べ比べようと喫茶店へ向かうのだった。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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