暦の上ではとうに秋といっても、未だ酷暑の余韻が抜けない湿った夜空を、月明かりに照らされ飛ぶものがある。
人が見たなら、それは虫であると言うだろう。巨体の割に小さな羽で、何故飛んでいられるのか疑問に思うかもしれない。人間の常識に当てはめることができない存在だからだ。
酷く毒々しい色をした芋虫の腹は異様なまでに膨れあがっており、時折内側で何かが蠢いているように見える。人間の聴覚に聞こえない声で、芋虫が牙をむいて鳴いた。
あるかなしか分からぬ目が、眼下にマンションを捉える。開いている窓の一つに音もなく滑り込むと、寝ている青年の上で霞のように消えた。
「……ぐ、ああ、あ……」
青年は脂汗を浮かべ、湿ったシーツを握り込む。悪い夢を見ているかのように寝顔が歪む。それもしばらくして、静かな寝息に変わる。
見ていたのは満ちようとしている月の光だけだった。
●
空調を入れたばかりの教室の片隅、櫻杜・伊月(大学生エクスブレイン・dn0050)の顔色が悪い。誰かが暑気中りかと問えば、苦笑が返ってきた。
「虫は苦手なんだ」
集まった灼滅者が席に付いた頃を見計らい、観えたのだと伊月は姿勢を正した。絆のベヘリタスの卵の予知がこのところ無かったのには、理由があったのだと。
学園の灼滅者のひとり、彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)が探った情報によると、羽化してしまったベヘリタスのシャドウが活動を始めたらしい。
「孵った卵から羽化したシャドウが、人間のソウルボードに入り込む」
サイキックエナジーを大量に必要とするシャドウは、人間のソウルボードに潜むことが多い。シャドウに棲み着かれた人間は、徐々に衰弱し放置したなら死に至る。
「何をしようとしているかは不明だ。だからこそ、今のうちに灼滅しなければならない」
伊月は数枚の地図と手帳を開いた。
見た目は蛾の羽を生やして飛ぶ肥大した芋虫だという。
「目的はひとつ、この醜悪な芋虫――シャドウの灼滅のみ」
シャドウは空を飛び、あるマンションの開いている窓から住人のソウルボードに入り込む。灼滅者たちは、シャドウがソウルボードに入ったことを確認してから追いかけ、ボード内で戦いを挑むのが最も適切だろうと伊月は言った。
「ソウルボードに入り込む前に仕掛れば、相手のバベルの鎖に察知される。目標を変え、そこから先は予知の範囲外だ。おそらくは別の人間の夢に入り込み、対処ができなくなる」
地図にはシャドウが飛ぶルートと、行き着くマンションの位置が記されている。
「目標の部屋は三階にある。君たちなら侵入は容易だ」
攻撃能力は、シャドウハンターと同等の能力に加え、鋭い牙での咬みつき、列にダメージと催眠状態を与える羽音がある。
「今回のシャドウは、ソウルボードを渡り歩き撤退する能力を持たない。ソウルボード内で撃破することができたなら、現実世界に出現する。夢の中より能力は増大するが、今の君たちが一丸となれば倒せない敵ではない」
窓の真下には、このマンションの駐車場があるという。車は数台停まっているが、そこまでおびき出せたなら狭い室内より自由に戦いを進めることができる。
灼滅を、と。重ねて告げる。
手帳をぱらぱらと捲り、ふと視線を落とす。
「今回のシャドウは、絆のベヘリタスの卵から生まれた、しかしベヘリタスとは違う姿をしたシャドウだ。胸騒ぎがしてならない。それにあの腹も気にかかる。何か別のシャドウが関わっているのか、それとも――」
ふ、と息をつき、缶コーヒーを飲み干す。
「腹の中のシャドウの能力は、非常に低いと思われる。だが、充分に気をつけてくれ」
ぱたり、と伊月が手帳を閉じる音がした。
「全員での帰還報告を、待っているよ」
参加者 | |
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千布里・采(夜藍空・d00110) |
リオン・ウォーカー(冬がくれた予感・d03541) |
蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965) |
諫早・伊織(糸遊纏う孤影・d13509) |
システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975) |
月叢・諒二(穿月・d20397) |
大鷹・メロ(メロウビート・d21564) |
ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(トライエレメンタルドラグーン・d28514) |
●
例えるならば、カブトムシの幼虫にキアゲハの幼虫の縞を付け、濁った赤と黄色の斑に染めたような。見上げるほどの巨体にまで成長させ、膨れあがった腹を抱えて丸まる背に眼球模様の蛾の羽を付けた、異界の生き物。
重量や揚力といった、あらゆる物理法則を無視して、おぞましい芋虫が空を飛ぶ。
街を照らす満月の光は青白く美しい。
光を含んでぬめる表皮から目を離すわけにいかない灼滅者たちの中にも、生理的嫌悪感に眉を歪めるものがいる。
「とびきり気持ち悪い感じのものが出て来たね……」
システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)が、住宅の影に潜んで空を行く芋虫を見上げた。とん、と軽く地を蹴って屋根に登り、そのまま気配を殺して追いかける。
「お腹がウゴウゴしてます……」
その背を追うのはリオン・ウォーカー(冬がくれた予感・d03541)。たいていの虫は平気だが、あれだけ巨大でおぞましいものは見たことがない。それに、膨れあがった腹が時折不規則に蠢いているのだ。
まるで、胎になにものかを孕んでいるかのように。
「うう……グロテスクなのです」
ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(トライエレメンタルドラグーン・d28514)が、泣きそうな顔で眉を歪める。心の深いところから正気を削られるような不気味さだ。あどけない少女らしさを残す彼女には、辛いところだった。
マンションの窓が見える住宅の影で、えらい不気味な姿やねぇと唇だけで呟き、千布里・采(夜藍空・d00110)が近づいてくる虫の影と空を見上げた。
「ええお月さんの夜に、勿体ないなぁ」
エクスブレインが感じた胸騒ぎとは、どういった意味なのか。蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)もまた、息を潜めた物影で空を見る。遠目でも巨体なため、腹が動く様子は見て取れる。何か別の生き物が内側から押しているようにしか思えないのだ。
「『何』が入ってるのかな」
その傍で大鷹・メロ(メロウビート・d21564)が囁いた。
ダークネスは種族として繁殖はできず、人間の闇堕ちで眷属を増やすものだ。ならば、あの腹は何なのだろう。ほ乳類のように繁殖するダークネスなど、聞いたこともない。
見上げるマンションの開いた窓に、巨体がずるりと入っていった。窓枠と大きさが違うというのに、破壊音は聞こえなかった。どういう理屈なのか、考えても無駄だろう。
月叢・諒二(穿月・d20397)がベランダなどの僅かな足がかりを、三階まで駆け上がる。窓から室内を慎重に覗き込み、来いと合図をする。『虫』が住人の青年の夢に入り込んだ事を確認したのだ。
数秒もかけずに灼滅者たちが続いた。次々と跳ぶように駆け上がり集合する。ワンルームの広くはない部屋、万年床の上で若い男が深く寝入っていた。そこそこ片付いている部屋に各々で場所を取り、ソウルアクセスの用意をする。
住人のソウルボードへの扉を開きながら、諫早・伊織(糸遊纏う孤影・d13509)が苦笑混じりに言った。
「まずは夏の終わりの害虫駆除、といきましょか」
●
見渡す限りの薄の原。夜だというのに不思議と暗いという感覚がない。
ソウルボードに着地したその足で、灼滅者とサーヴァントたちは弾けるように陣を敷き、巨大な虫型のシャドウを取り囲む。
天頂に輝く満月の下、地を這う斑の芋虫がしなるように頭をもたげた。牙をぎちぎちと鳴らして耳障りな音で吠える。ばさりと背の羽をはばたかせたなら、放射線状に薄を薙ぎ倒す衝撃波が前衛達に襲いかかった。
「来るよ、備えて!」
特に注視していた諒二が声を上げる。彼らが回避防御の体勢を取るのを目の端に、シャドウの体表を観察した。縞と斑にぬめる体に、黒いクラブのスートが見える。
絆のベヘリタスの卵から生まれたというシャドウ、ならば腹に抱えているモノは何なのか。思うことは多々あれど、今は月の名を冠した槍の穂先に螺旋を描かせる。地を蹴り距離を詰め穿ったなら、手に確かな感触が伝わった。
エクスブレインにより連戦が予め予知されている。消耗を考えたなら、ソウルボード内では早期決着が望ましい。本当の勝負はソウルボードの外、現実世界でどう立ち回るかだ。敬厳が伸ばした手の先には、足元から伸びる影の茨。
「疾く殲滅せん。いざ参る!」
衝撃波を振り払い、解き放つのは烏羽色の影だ。野茨にも似た影の蔓が音立てて伸び上がり、幾重にもシャドウに巻き付き地に縛り付ける。耳障りな鳴き声をたて、身をよじらせる虫が束縛を力任せに引きちぎっても、棘を食い込ませる蔦は容易に剥がれない。
全員の意思は事前に確認している。行動を阻害する効果を序盤から存分に与え、シャドウの行動を縛ってからの総攻撃、短期決戦。
「合わせていくよ」
愛銃Dearを片手に構え、システィナが呼ぶのは同じクラブに所属する伊織とリオンだ。
「かまへんよ、付いてくわ」
「はいっ。シオリさんも一緒にお願いします!」
伊織が応え、リオンがビハインドを守備に呼ぶ。
漆黒の弾丸が足元を穿つままに、システィナが駆けシャドウに肉薄する。強く地面を蹴りつけ醜悪な体を真下に見る位置まで跳び、Dearの刃を落ちる体の重さごと突き立てた。
うるさいとばかりに頭部の牙がシスティナを噛み砕く寸前、リオンのビハインド・シオリが滑り込みその身に牙を受ける。半身を引き裂かれつつもシオリが逃れたなら、ミモザ色した腕飾りを祈るように握りしめ、指輪の魔力を解き放った。制約の力を乗せた魔術の弾丸はシャドウの体に深く食い込み、一瞬身動きが停まる。
よく見知った仲間が作りだした隙を、伊織が逃すわけもなく。聖なる剣をかざし白光放つ斬撃を繰り出せば、シャドウの巨体が仰け反った。膨れた腹も不吉に蠢く。
「けったいな姿やねぇ……何を隠しておるんやろ」
返す刀で斬りつける手応えは、粘着質の何かに刃を突き入れているようで。しかし確実にダメージを刻んでいる感触があった。
青白い鬼火まとう霊犬が地を蹴った。心分ける相棒が征く姿を頼もしく見送りながら、采は幾重にも影を編む。
「ここはひとの心や。おとなしゅうせな、な」
口元にくふりと笑みを浮かべれば、夜闇に翼持つ巨大なかぎ爪が躍る。四方八方から表皮を引き裂かれ、身をよじらせる巨体と交錯する魔を断つ刀。霊犬が咥えた破魔の刀がシャドウの防御を破壊する。誇らしげに尾を立てる相棒に、采の目が細くなる。
メロの纏う意志を持つ帯がひらり舞い、前衛達の傷を癒し守護の力を高めていく。霊犬・フラムもまた浄眼で仲間を癒しつつ、威嚇の声を上げた。
「みんな余裕があるかな。フラム、お願いね」
ととん、と軽く爪先で地を蹴ったなら、触れる位置に巨体がある。ふわり舞った髪のひとすじを牙に食わせ、後ろに倒れる勢いで伸び上がるように蹴りを叩き込めば、顎を削られた巨体が堪らず吠えた。ごぼりと腹が胎動する。
ばさりと羽を広げ羽ばたいた、衝撃波がふたたび前衛を襲う。
「……あれ、本当にほんとうに、気味がわるいのです」
結んだ髪束に竜が潜む。造られた灼滅者である肉体を闇のものと化したルチノーイが、少女の顔を泣きそうに歪めた。しかし役目は見失わず、まっすぐに敵を見据えて縛霊手をふるう。回復手を担っているが、今はまだその時ではない。
シャドウはソウルボード内では本来の強大な力に制限がかかる。弱体化するのだ。数手剣を交わしたなら、その力の予測は付くのだ。あのシャドウは、巨体ではあるが恐れるほどの力は持っていない。今は、まだ。
「めっ、ですよ!」
ルチノーイが爪をふるえば、髪に潜む竜のあぎとが開かれる。深々と突き刺さる竜牙、網状の霊力が巨体を束縛し転がした。
幾重にも幾重にも、念入りに与えられた阻害の力が徐々にシャドウの体力を奪い、行動の自由をも阻んでいくのが分かる。
灼滅者たちは無言で視線を交わし、連携して更なる攻撃を与えていく。
高い高い鳴き声を上げて巨体が夜空に溶けるまで、数分と経たなかった。
●
破壊音は遮音のESPに遮られ、周囲の人々には気付かれない。
力任せに窓から外に押し出したシャドウは巨体で数台の車両を潰したが、幸いにして負傷者はなかった。殺気の結界を張ったなら、駐車場は灼滅者の戦場となる。月の光が思いの外強く街灯もあったため、夜目はきく。念のため灯りを数個転がせば完璧だ。
「お話できるんやろか。あんさん、何を抱いてますのやろ」
采の意を酌んだ霊犬が唸りを上げた。
ベヘリタスの卵から孵ったのが芋虫、その芋虫が胎内に抱えるのは何か? クラブの斑をもつシャドウは、返答代わりに頭から采に飛びかかる。やっぱりお喋りできへんね、と嘯く采のバベルブレイカーが轟音を上げた。
奴らに好き勝手をさせるわけにはいかない。夜明色の瞳が僅かに細められ、狙わずとも当たる巨体の腹に高速回転する杭を突き込んだ。同時に突き刺さる霊剣の刃。
ぼこりぼこりと腹が激しく蠢く。
「月にて穿ち滅す」
月叢・諒二、いざ参る――采と入れ替わるように諒二が駆ける。ベヘリタス、謎の卵、孵化したのは蛾の羽を持つ芋虫、そして『タカト』、気になることは多々あるけれど。
利き腕を巨大な鬼腕と変え、牙を避けて穿つはやはり腹部。見上げるほどの巨体であり、護り隠す様子も見られないため実に狙いやすい。腹が歪むほどの胆力で殴りつけた、拳に当たる複数の感覚。諒二の眉が僅かにひそめられる。
「まさか、一匹ではないのかな」
「そんなの、困ります!」
あからさまに困り顔のルチノーイが、牙に引き裂かれた諒二に浄化の霊力を撃ち込んだ。一匹でもこんなに気持ち悪いのに、あのぱんぱんのお腹からいっぱい増えたらどうしよう。想像するだけで髪の竜たちが絡み合う。
「一緒にぜんぶやっつけちゃうこと、できないですかね」
「どうかな、やってみないことにはね」
催眠の目眩を裂帛の気合で振り払い、システィナが口元の血を袖で拭った。
うじゃうじゃ小さいのが出てくる、なんてことになったら。エクスブレインが語った嫌な予感が、もしかしてそういう意味だったら。もちろん、分かっていたならそうはっきり予知を伝えただろうけれど。
「迷うてる暇はありまへんやろ」
お先に狙わせてもらいますし、と伊織は友に軽口を投げ、
「迷わずやっちゃうのが私たちじゃないですか?」
頑張ればいいんですよ! とリオンがとびきりの笑みを浮かべ。
「ん、そうだね」
力づけられたシスティナも愛銃を改めて握りしめる。
伊織の聖なる十字、クロスグレイブが展開して聖なる音纏う光の砲弾が放たれ。着弾した氷の上に、リオンの影が勢いよく爆ぜ巨大な顎で食らいつく。狙い澄ましたシスティナが両手に幾本もの注射器を手挟み、極彩色の毒薬を流し込む。
深夜の住宅街に不吉な羽ばたきの音と耳障りな鳴き声が響きわたるが、雁字搦めに縛られた芋虫は力こそ強くとも蠢くだけで、灼滅者の独壇場と化した戦場に変化はない。
「フラム、ねえ、一緒にいこう?」
エアシューズのホイール音を心が奏でるリズムに乗せ、メロは花のように微笑んだ。回復を与え連戦で傷ついた霊犬が音もなく寄り添い、その呼吸に合わせて巨体との距離を詰める。
「終わりにしちゃおうよ」
殺人鬼の技にも流儀がある。美しく終わる、芸術的な手法を求めるメロは、芋虫にあるかどうかはわからないけれど、瞬時に詰めた間合いから頸椎を狙う蹴りを繰り出した。表皮が完全に破れて肉を見せたところに、フラムの斬魔刀が続けざま撃ち込まれた。
ぎいいい、ぎい、ぎい。
がちがちと牙を鳴らして横倒しになる巨体。真上に跳ぶのは、敬厳。血赤に染まる光の剣を、大上段から振り下ろす。
「消え失せよ」
鮮血の如きオーラの尾を引いて、剣が腹部を両断する。生命力を根こそぎ奪われたシャドウは、尾らしき位置のものをばたりと倒し、動かなくなる。
悪い予感は当たっていたのだ。まだ気配が、消えない。
――きい、きい、きい。
一つ、二つ、三つから先は数え切れない、小さな鳴き声がする。巨体の腹に刺したままの剣の振動から全てを読み取り、敬厳が叫んだ。
「まだ終わってはおらぬ! 多いぞ!!」
飛び退きざまに横に薙ぎ払えば、その胎から子犬ほどの虫がこぼれ落ちた。一匹、二匹、三匹から先は一度に、粘液の尾を引いた同様の赤と黄、黒斑の芋虫が、ごぽり、ごぽりとこぼれ落ち、外へ散ろうとする。動きは虫にしては速い。その数、三十はいるだろう。
「いやぁああ!」
髪の竜をめちゃくちゃに振り乱し、ルチノーイが寄ってきた小虫を横薙ぎに切り払えば、あっさり霞のように消えた。
予感がばっちり当たってしまったシスティナもまた、銃剣で一匹一匹撃って回る。
単体を相手としていたため、複数攻撃の可能なサイキックは少なかったが、サーヴァントが多いことが掃討に幸いした。
采とメロの霊犬の六文銭射撃が、リオンのビハインドが顔を晒し、小虫は何に攻撃することもなく、まとめてあっけなく霞と消えた。灼滅者たちはこぼれた小虫を消していく。
最後の一匹を倒した諒二は、小虫の小さな体にすらクラブのスートがあることを確認した。
●
「あら、あかん」
虫が嫌いだと言ったエクスブレインの苦い顔を思い出し、采は霊犬の毛に片頬を埋め車の残骸に背を預ける。あんなものまで予知していたら、深刻な心理的外傷を負いかねなかった。
緊張の糸が切れて、しゃくり上げるルチノーイをメロと霊犬が優しく宥めている。
「クラブ、だったですよ。ちゃんと見たですよ」
ルチノーイがメロの霊犬を抱きしめて途切れがちに言えば、諒二もまた頷いた。
「……シャドウって虫のお腹で増えるわけ、ないよね」
「闇堕ちじゃない方法を見つけたって事なのかな」
精神疲労がひどいシスティナに、リオンが顔を見合わせれば、
「厄介な事考えますなぁ、ベヘリタスも」
伊織が肩をすくめる。現場を片付けようにも、シャドウの残骸は消滅したのはいいものの、元は自動車だったものの残骸は直しようがない上、そこらじゅう穴だらけだ。
「考えるのは後にしませんか。学園に報告して、ゆっくり休みましょう」
敬厳が言う。剣から伝わる複数の蠢く感触が、まだ手に残っている。
空を見上げれば満月。禍々しさのない月の光が、優しく灼滅者たちを照らしていた。
作者:高遠しゅん |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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