――あの山にはドラゴンが住んでいる。
それは、他愛もない子供達の想像にすぎなかった。今日日、ドラゴンという題材はありふれている。ゲームでは、後半に出てくる強敵であり、時にラスボスは本編攻略後の裏ボスとして君臨するのがお約束だ。
山の麓にある幼稚園。そこの子供達がそんな噂話で盛り上がったのは、夏休み前の事。しかし、これを他愛ない想像とは思えない出来事が夏休みの間に起きてしまったのだ――土砂崩れである。
その光景を見た子供は、思った。思ってしまった。
『どらごんが、ようちえんまできちゃったら、どうしよう?』
その結果は、火を見るよりも明らかであった……。
「もちろん単なる想像で、ダークネスのダの字も関わってないんすけどね」
可愛い子供の想像、で終わらないのが困ったものっす、と湾野・翠織(中学生エクスブレイン・dn0039)は、渋い表情で告げる。
今回、翠織が察知したのは都市伝説の存在だ。
「裏山にドラゴンが住む……まぁ、ゲームから発展した他愛もない想像だったんすけどね。土砂崩れをその目にした子供からしたら、理屈がわからなければドラゴンの暴れた跡に見えたかもしれないっす」
しかし、都市伝説としては現実だ。幼稚園を襲えば、どれだけの被害が出るか――決して、放置はできない。
「ドラゴンは、こういうルートで幼稚園へと向かうっす」
翠織は、取り出した地図にサインペンで線を引く。それは川沿いに山を下って来て、周囲の畑を踏み荒らしながら幼稚園へと向かう、というルートだった。
「だから、ここっす。この川原で迎撃して欲しいっす」
時間は昼間、ESPによる人払いは必須だ。それ以外は、砂利の足場ではあるが灼滅者の身体能力なら動くのにも支障はなく、戦う条件は悪くない。
「敵は一体、体長六メートルほどの赤い鱗のドラゴンっすね。ゲーム的には、レッドドラゴンって分類っすかね?」
まさしく、RPGの終盤で遭遇しそうなドラゴンだ。が、あくまで都市伝説。ダークネスには、戦闘能力は一段劣る。
「とはいえ、そのサイズに見合った体力はある敵っす。長期戦になれば、一つのミスで崩れかねないっすからね。油断なく、きっちりと全力で倒してくださいっす」
参加者 | |
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海原・千夏(不定の夏色・d01107) |
神虎・闇沙耶(煌く紅玉の鋼獣・d01766) |
楠木・朱音(繋ぐ鎖・d15137) |
客人・塞(荒覇吐・d20320) |
ルエニ・コトハ(スターダストマジシャン・d21182) |
倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431) |
厳流・要(溶岩の心・d35040) |
青井・空(小学生魔法使い・d35507) |
●
客人・塞(荒覇吐・d20320)は語る、百物語を。
「竜とは、恐るべき絶対強者にして敵対者――」
子供達が想像したドラゴンではなく、真に畏れるべき存在としての竜の物語が、紡がれていく。
「はじめての依頼がドラゴン退治ってなんだかちょっとかっこいいのです」
青い空に白い雲、晩夏の空の下で百物語に耳を傾けながら青井・空(小学生魔法使い・d35507)が、呟いた。神虎・闇沙耶(煌く紅玉の鋼獣・d01766)も、どこか感慨深げにこぼす。
「鬼退治に竜退治……都市伝説は本当に自由だな」
「ドラゴンを想起する子供の想像力の豊かさは天晴じゃの。されど、その想像力が時として仇になるとは、確かに都市伝説もつくづく厄介な代物じゃ」
闇沙耶の言葉に、倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)もしみじみと同意する。のどかな光景の裏山、まさかここがそんな厄介事の舞台になってしまうとは――都市伝説とは、恐ろしいものである。
「火を噴くドラゴンさん、かっこいいのでしょうか? ちょっと憧れるのです」
そう目を輝かせるのは、ルエニ・コトハ(スターダストマジシャン・d21182)だ。そんなルエニに、海原・千夏(不定の夏色・d01107)が口を開こうとした瞬間だ。傍らでライドキャリバーのツナ缶が、プップー! とクラクションを鳴らしたのだ。
「ゲームでいうドラゴンって裏ボスだったりめっちゃ強い印象ありますけど……いやあ実際目の当たりにするとでっかいしおっかないですね」
千夏の視線の先に、それはいた。灼滅者達も見る、その威容を。
ズシン、と大地を踏みしめる二本の太い足。鱗、とも岩、とも取れるゴツゴツとした体表。そのフォルムは、恐竜のティラノサウルスがもっとも近いだろうか? 二足歩行の爬虫類――ドラゴン、そう言われれば納得できるモノがそこに現われた。そこへクヤの猫魔法がドラゴンを縛り上げ、ヒュガガガガガガガガガガガガガガガガガン! とルエニのマジックミサイルが降り注いだ。
「まだ、尾が来ますよ!」
「ああ、ドラゴンの鱗に、俺の熱が通じるか……試してみようじゃねえか!」
『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
竜の咆哮が、大気を震わせる。その迫力を前に、楠木・朱音(繋ぐ鎖・d15137)は臆する事無く言い捨てた。
「ドラゴンか…そう言えば去年、キマイラと戦ったな。或いは縁があるのかね、こういう奴と。尤も、あまり得たくない類のご縁だが……」
ドラゴンが、歩み寄ってくる。ズシンズシン、とその足音の感覚は短くなっていく――速度が、増しているのだ。
「初陣の相手がドラゴンか……」
厳流・要(溶岩の心・d35040)は、緊張した面持ちでドラゴンを見上げる。
(「大丈夫、歴戦の先輩達もいる。余程ミスんなきゃきっと勝てる。むしろ俺がどの程度やれるか、見極めるこの上ない機会だ。全力で当たろう。痛い目見ても、その経験は俺を鍛えてくれるはずだ」)
深呼吸を一つ、要は気迫を込めてドラゴンを睨み、言った。
「先輩方、よろしくお願いします」
灼滅者達の元へ、ドラゴンが後一息でたどり着く。その巨躯に、塞は小さく言い捨てた。
「悪くない……相手にとって不足なしだ」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
ドラゴンが、その尾を振りかぶる。その雄雄しい姿に、姫月はスレイヤーカードを手に解除コードを唱えた。
「誓いの炎をこの胸に……」
直後、バシャン! と川を抉りながらドラゴンの尾が薙ぎ払われた。
●
「強敵のニオイがしますよ。超わくわくしますね! いざ、ドラゴン退治! いきますよツナ!」
尾の衝撃を受けながら、なおも千夏は前へと駆け出す。それに続いて、クラクションを高鳴らせツナ缶が加速した。ジャ! と砂利を蹴って踏み込み千夏の雷を宿した拳と、ツナ缶の突撃がドラゴンを強打する。しかし、ドラゴンの巨体は小揺るぎもしなかった。
「本当に、硬いですね!」
「だが、奴さんがデカい分、的を外す心配は無さそうだ」
白鋼棍を振るい、神気で穂先を形成した十字の刃で螺旋を描いて朱音は螺穿槍を繰り出す。ギギギギギギギギギギギギギン! と火花を散らして削られる鱗に、ドラゴンはわずらわしいと言いたげに尾を振るった。
「来い、この程度塞き止められぬ虎ではない……」
その尾を、真正面から受け止めたのは闇沙耶だ。ズササササササササササササ、と踏ん張った足元に轍を刻みながら振り回され、しかし、しっかりとドラゴンの尾を受け止める!
「威力は問題ない。ただ、体力勝負だけだ!」
ゴォ! と無【間】とレーヴァテインの炎を燃え上がらせて、闇沙耶はドラゴンの尾を振り回そうとする。しかし、ドラゴンもそれをさせじと踏ん張った――その間隙だ。
「……でかい。じゃがこれ以上先へ進ませるわけにもいかんのぅ!」
姫月が、跳躍する。ドラゴンの顔の位置まで跳躍すると、姫月は回し蹴りを繰り出した。
「幻想種の頂点にして、伝説に謳われるべき覇者よ。貴殿に恨みはないが幼き夢々を守る為、ここで果てていただく!」
ドォ! という重圧に、ドラゴンの足元が揺らぐ。体勢を崩しかけたそこへ、要が突っ込んだ。
「いつか俺が立ち向かわなきゃいけない敵……ダークネスは、コイツよりずっと強くておっかねえはずだ。だから、お前みたいな木っ端相手に、俺ァ怯んでられねえんだよ!」
要の槍と呼ぶにはあまりに簡素な黒鉄の長棒が、回転しながらねじ込まれた。まさに焼きごて、赤く焼けた先端がドラゴンの鱗を焼く――が、ドラゴンは構わず前の小さな鉤爪で要を殴打した。
「ッ! オラァ! 来やがれトカゲ野郎!」
地面に紙一重で着地に成功して、要は吼える。その要に、ルエニはダイダロスベルトを操りラビリンスアーマーで傷口を覆った。
「あんまり、無茶は駄目なのです」
その間も、ドラゴンの動きを封じようとウイングキャットのクヤが猫魔法を炸裂させる。だが、ドラゴンはどこ吹く風だ。構わず、襲い掛かってきた。
「大事な時こそ、落ち着きが大事っておねえちゃんがいっていたです」
予言者の瞳で自己強化する空の隣で、ウイングキャットであるじろがリングを光らせる。
自分に手傷を負わせる事が出来る、そういう敵だとこちらを認識したのだろう暴れるドラゴンへ、塞は静かに告げた。
「俺自身、こういう図体のでかい奴を相手に戦うのは嫌いじゃない。今回の依頼を受けたのも子供達が思い描いたドラゴンってのがどんな姿してんのか見てみたくなったからでもあるしな。ゲーム好きの子供なら本物のドラゴンを見てみたいと思うのも仕方ないっちゃ仕方ない……ただ、それが幼稚園を襲うとなると話は別だ」
ヒュガ!! と塞の放つレイザースラストが、ドラゴンの鱗へ突き刺さる。しかし、あくまで鱗のみだ。肉にまで届いていない、そんな手応えがあった。
「なかなか、将来有望な園児達だな」
朱音の笑みに、仲間達もつられて笑みをこぼす。これが子供達の想像から創造されたドラゴンだと言うのならば、その想像力の確かさは将来有望だ。
「なおの事、行かせないです」
ルエニの決意に、仲間達は同意する。ゲームそのもの、それこそ神話のような戦いは、そのまま加速していった。
●
ゴォ! と地面が抉られ、砂塵が巻き起こる。ただ、走る――ドラゴンとは動くだけで破壊を撒き散らす、そういう存在なのだ。
「討取って。ドラゴンスレイヤー(竜殺し)を名乗るのも悪くはないのぅ」
その光景に心躍るものを感じて、姫月が言い捨てる。ドラゴンの横へと回り込むと姫月はクロスグレイブを構え、業を凍結する光の砲弾を撃ち込んだ。ドォ! と冷気を荒れ狂わせる着弾、そこで塞は物語を紡ぐ。
「これは、不思議に彩られた物語――」
塞の七不思議の怪談を受けながら、なおもドラゴンは前へ進む。その勢いに、千夏はツナ缶に乗って追いすがった。
「ゲームでいうと格闘家や戦士あたりですかねえ、私」
千夏は片手でアクセルを吹かし、もう片方の手でチェーンソー剣を引き抜く。ジャジャ! とツナ缶のタイヤが砂利を噛んで、一気に加速を得た。
「子供を怖がらせるドラゴンさんは聖剣チェーンソー剣の錆にしてくれますよ!」
ギャリ! と追いついた千夏のチェーンソー斬りによる一撃が、ドラゴンを鱗ごと斬り裂く。そして、通り過ぎてUターン、ツナ缶の機銃掃射がドラゴンの足元へ集中して撃ち込まれた。
『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!』
その直後、ドラゴンの口から放たれた火炎が、視界を赤く赤く染め上げていく。その炎の中を、怯む事無く朱音が駆け抜けた。
「動きは遅くない……が、大振りになるのは避けられない様だな」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
朱音を振り払おうと、ドラゴンは尾を薙ぎ払う。しかし、朱音はその尾へと着地すると一気に駆け上がり、その巨大な怪腕となった鬼神変の拳で殴打した!
「ここ、です!」
そこで空が跳躍、重ねるように跳び蹴り――スターゲイザーを叩き込んだ。グラリ、とドラゴンの体勢が崩れる。
「来い」
「は、はい!」
その間隙に闇沙耶が駆け、その呼びかけに応えて要も続く。闇沙耶が両の拳に無【間】を集中させるのを見て、要も熱圏を集中させ――二人の閃光百裂拳が、繰り出された。
『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
倒れそうになるのを、ドラゴンは拒否。強引に尾で地面を打って、巨体を支える。
(「今のが――」)
要は見た、自分と闇沙耶、同じ閃光百裂拳でも威力や速度、打撃箇所の選択、確実に違った点を。
「押しきるぞ。こいつをここで倒す事に集中だ」
闇沙耶の言葉に、要はうなずく。その間も、じろとクヤがリングを光らせ、ルエニは黄色標識にスタイルチェンジした交通標識を振るい、仲間達を回復させた。
「本当に、ドラゴンさんって感じです」
ルエニは呼吸を整え、そうこぼす。それは、その場にいた全員の感想だっただろう。その巨体で思う様に暴れ回り、周囲を火の海にするその姿はドラゴンと呼ぶのにふさわしいものだった。
そして、同時に思うのだ。
「絶対、子供達の居る場所には行かせられないのです」
空は、想像する。このドラゴンの暴力が子供達に向けられたら、と。それは、最悪の想像だった。
やらせない、実現させない――これは、想像を想像のままで終わらせる、そういう戦いだった。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
ドラゴンが吼える、己は想像ではないと世界に刻み付けるように。だからこそ、闇沙耶は告げた。
「無駄だ。どんなに吼えようと、お前の恐怖は人には伝わらん。俺達がいる限り、貴様が恐怖を撒き散らすことは許さん!!」
ドラゴンが、その牙を剥く。それに対して、闇沙耶は自らその身を投げ出した。槍の群れのような牙が、その身に食い込む――そう思った瞬間、無【視】によって阻まれた。
「願え、己がいるべき場所に帰れるようにとな……」
相殺と同時、闇沙耶は無【価値】を大上段に振り下ろす! 口の中を切り裂かれてもがいたドラゴン、そこへ千夏が踏み込んだ。
「いい所に、顎がありますね」
同意、と言わんばかりにツナ缶がエンジン音を轟かせる。千夏の抗雷撃による渾身のアッパーカットと、ツナ缶の突撃がドラゴンの顎を下からかち上げた。のけぞるドラゴン、そこへ空とじろが続く。
「こういう時は、チャンス到来って言うっておねえちゃんがいってたです!」
のけぞったドラゴンの喉元へ、空の燃え盛る爪先と銀色の懐中時計を揺らしたじろの猫パンチが炸裂した。ドラゴンが、一歩、二歩、とよろめく。そこへ、クヤの猫魔法がドラゴンを縛り上げ、ヒュガガガガガガガガガガガガガ! とルエニのマジックミサイルの降り注ぐ!
「尾が来ますよ!」
「おお、ドラゴンの鱗に、俺の熱が通じるか……試してみようじゃねえか!」
ルエニの警告に答え、要がドラゴンの尾を跳躍して回避。姫月が最初に見せた顔面前に跳躍してからの回し蹴りを、レーヴァテインの炎をまとわせ叩き込む!
『ガ、アアア、アアアアアアア!』
顔を燃やされながら、踏ん張ろうと堪えるドラゴン。その巨体を風の刃による旋風――塞の神薙刃が飲み込んだ。
「今だ、やれ」
静かに告げる塞の声に、姫月は炎の翼を広げ、朱音はヒュオン! と白鋼棍を回転させながら振りかぶった。
「勇者の剣は魔王を倒す、それが可能なのは何故かわかるかの? 守るべきものがあるからじゃ。揺ぎ無い信念があるからじゃ」
姫月は告げ、炎の翼をゴォ! と渦巻かせる。
「インフェルノヴァンガード!」
「こいつで、デッドエンドだ!」
姫月の前方に構えた聖剣に炎をまとわせた全力突撃と、投槍がごとく繰り出した朱音のフォースブレイクが、同時にドラゴンを貫いた。ゴォ! と立ち上がる巨大な炎の柱。ドラゴンは、その炎の中で消滅していった……。
●
「やれやれ、派手にやってくれたな。まあ、半分かたは俺達がやったんだが……」
荒れ果てた川原を見て、朱音は小さく肩をすくめる。その言葉に、姫月はしたり顔で告げた。
「都市伝説とは言え。ドラゴンの名に恥じぬ強者であった。されど、RPGのボスが必ず勇者に倒される通り、我等の手で地に臥すのはその出生からして道理であろうか」
うんうん、とうなずく姫月。その言葉に、傷ついた自分の体を見下ろして要は呟いた。
「ドラゴンスレイヤー……満身創痍の俺には不釣り合いだな。その名に相応しい強さ、俺もいつかは……」
昨日よりも今日、今日よりも明日。人は、それを成長と言う。その明日を掴むため、灼滅者達の戦いは続く……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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