赤と黒のエマージュ

    作者:志稲愛海

     静寂の夜空に羽音を響かせる、羽化したての闇。
     その闇の色は、漆黒の夜に解けるような黒と、不気味に変色した月の如き赤。
     それは――絆から生まれし蟲であった。
     さらに、異常に膨らんだ芋虫の腹に蠢くのは……また羽化の刻を待つ、ナニカ達。
     そして歪に変形する気味の悪い影を夜の街に落としながら、やがて蟲は羽を休める。
    「う……ううぅ……っ」
     カーテン揺れる部屋で眠っていた、ひとりの少女の夢の中に。
     だが、うなされていた少女はすぐに、何事もなかったかの如く寝息を立て始める。
     いつもと何ら変わらず……穏やかな夢を、みているかのように。
     

    「カブトムシとかは少年の浪漫って感じで格好良いけどさ、得体の知れない気持ち悪い虫は嫌だよねー」
     飛鳥井・遥河(高校生エクスブレイン・dn0040)は一瞬そう顔を顰めるも。気を取り直して、起こっている事件の概要を語り始める。
    「最近、絆のベヘリタスの卵に関する事件が予知できていなかったんだけど。羽化しちゃったベヘリタスのシャドウがね、新たな事件を起こそうとしているようなんだ」
      彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)が探ってくれた情報。
     それは――ベヘリタスの卵から羽化し成長したと思われる、シャドウの出現。
     そして、羽音を鳴らす芋虫のような見目のこのシャドウが、眠っている人間のソウルボードに入り込むのだという。
    「今回、シャドウに入り込まれたソウルボードの主は、小学生くらいのマイちゃんっていう女の子だよ。1階のこの子の部屋の窓は開いてるから、侵入も容易いと思う」
     健やかに眠っている少女・マイの夢の中は、一面のお花畑。
     だがそんな彼女の夢に忍び込む侵入者、その存在を放っておくわけにはいかない。
    「それで今回は、夢に入り込まれた人が目を覚ます前にソウルボードの中に入って、このきもい羽芋虫シャドウを撃破してきて欲しいんだ。あ、ソウルボードに入る前に攻撃を仕掛けようとすると、バベルの鎖で察知されちゃうよ。そうなると、シャドウは別の人間の夢の中に入ってしまって、対処できなくなっちゃうから」
     バベルの鎖に察知されぬ為には、シャドウがソウルボードに入った後に、追いかけるように夢の中へ侵入する必要があるというわけだ。
    「それで、ソウルボードの中でのシャドウだけど。ソウルボードに入った直後だから、悪夢を利用した配下とかはいないよ。だから、シャドウ本人と戦う事になるんだ。そしてこの芋虫は、シャドウのサイキックと、気持ち悪い糸のようなものを吐き出して攻撃してくるけど、ソウルボード内のこのシャドウの戦闘能力はあまり高くはないよ」
     ソウルボード内での撃破はそう難しくはないという、羽化したシャドウ。
     だがそれは、ソウルボード内においての強さ。
    「このシャドウはね、ソウルボードを通じて撤退する能力を持っていないみたいなんだ。だからソウルボード内で撃破したら、現実世界に出現してくるよ。現実に出てきたシャドウはとても強敵なんだけど……でも、今のみんなの力があれば、倒せない相手じゃないよ。マイの部屋は狭いけど、シャドウを外に誘導できれば戦いやすいんじゃないかな」
     遥河は信頼した眼差しで灼滅者達を見回して。そして、続ける。
    「だから、可能な限り灼滅をお願いするね」
     今回の敵は、絆のベヘリタスの卵から生まれたというシャドウ。
     それから遥河は、真剣な表情のまま、こう付け加える。
    「何かね、嫌な予感がするから……現実に出てきたシャドウは強敵だけど、確実に灼滅して欲しいんだ。あとね、このシャドウの腹部からは別のシャドウ達の気配も感じられるよ。腹部のシャドウ達は、戦闘能力とかは低そうなんだけど……油断しないように、ね」
     そこまで語り終えた遥河は、気をつけて行ってきてね、と。
     羽音響く夜の夢に、灼滅者達を送り出す。


    参加者
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    長姫・麗羽(シャドウハンター・d02536)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)
    東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)
    莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)
    楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)

    ■リプレイ

    ●夢幻の蟲
     揺れるカーテンの隙間から時折漏れ降る月光が、健やかに眠っている少女を、ふわりと照らしている。
     いや……健やかにみえる、と言うのが正しいだろう。
     それに、一見何の変哲もないようなこの夜の静けさが、異様に不気味だと感じるのは――少女の夢に侵入する『ソレ』の姿を、見たばかりだから。
     少女・マイの夢に入り込んだのは、赤と黒の色を纏う、気色の悪い蟲であった。
    「ベヘリタスちゃんか~、気持ち悪い子を増やしてくれちゃって~」
     もうやだ~! ネオン、帰るうぅ~っと。
     うるうる涙目で、あざと可愛く首をふるふるしながらも。抜かりなくサウンドシャッターを展開する殺雨・音音(Love Beat!・d02611)。
     そう、音音の言うように、マイの夢の中へと侵入したのは、ベヘリタスの卵から羽化したと思われるシャドウ。
    「羽化した奴らが何かをしでかす前に止めたいです、ね」
     主である東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)の言葉に同意するように、ふるりとイチジクも、もふもふな尻尾を揺らして。
     猫の足跡が可愛い『明るいにゃん♪』でそっと部屋を照らしながら、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)は思う。
    (「羽化したという事は、どこかで奪われた絆があったという事」)
     誰かの絆を糧にして生まれた、シャドウ。
    「……そうなる前に、潰したかった」
     莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)はそう呟きを零すと同時に、一瞬だけ長い睫毛を下瞼へと落とすも。
    (「防げなかったのは悔しいが、何とかここで終わらせよう」)
     そんな彼女や皆と共に、咲哉はマイのソウルボードへと侵入するべく、シャドウハンターの仲間達へと視線を向けて。
    (「さて、ついにベヘリタスの卵が羽化したわけだけど……察する感じだと、多くのシャドウを生み出そうとしてるのかな」)
     ソウルアクセスを発動させつつもそう考察するのは、長姫・麗羽(シャドウハンター・d02536)。
     そして、エスコートするように手を差し伸べた執事服のノワールに。
    「ひとりで大丈夫なんだからっ!」
     楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)はそう言いつつも皆に続き、夢の中へと誘われて。
     十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)も、寝息をたてて眠っているマイへと、天青石の瞳を向けた後。
    「……大丈夫、絶対に助けてあげるからね」
     ポケットに潜ませた銀の懐中時計が密かに時を刻む中、微睡みの花園へと、身を投じる。

    ●花園の蟲
     ――ソウルアクセスした先にあるのは、一面の花畑と。
    「ふぇ……何でよりにもよって蟲形態なのですかー!」
     美しい景色にそぐわぬ、グロテスクな蟲の姿。
     イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)は耳障りな羽音をたてているソレを見て、その首を大きく横に振ってから。
    「これは生理的にダメという気持ちですね。ぬこやっつけて下さいですー!」
     宝物の懐中時計と同じ金色の髪を靡かせ、果敢に最前線へと飛び出すぬこと同時に、生理的に受け付けない敵の身を貫く帯を射出すれば。
    『ギ、ギイィィ……!』
     羽音か鳴声か分からぬ嫌な音を、シャドウが発している隙に。
    「うえー……グロテスクな蟲は勘弁っすよ」
     羽化したシャドウを放置なんてしたら一体どうなるかなんて考えたくもないと、呟いた後。
     皆さんもくれぐれも油断なさらずに……そう紡いだ刹那、星空へ翼を広げるかの如く狭霧が掲げた盾が、仲間に護りを施して。
     その加護を受けつつも、ふっと然り気無く前へと踊り出た麗羽の影を纏いし殴打が、蟲の醜悪な身体へと叩きつけられた。
     灼滅者達の攻撃に、シャドウはギチギチと不快な音をたてながら身を捩るも。毒の弾丸を放出し、吐き出した糸が灼滅者達の攻撃精度を鈍らせ、身を切り裂くほど鋭利な糸がその傷を抉らんと張り巡らされる。
     だが、その毒や糸を断ち切るべく。音音の握る標識が黄色へとスタイルチェンジして。
    「芋虫ちゃんは触るのもイヤだけど、皆がガンバルならネオンも応援しないわけにはいかないし~」
     ううっ、こっち来ないでねっ、と、ぶんぶん得物を振って、皆に癒しと耐久を与える。
     そして夜の花園に閃くのは、闇を斬り裂く月光の如き一太刀。
     生み出した夜霧で仲間の姿を虚ろにした後、咲哉の繰り出した変形した刃の斬撃が、蟲に走るどす黒い色をより深く抉って。
    「綺麗なお花畑がだいなし……夢の中でも心が痛いね」 
     美しく咲く花々を無遠慮に染め滴る赤と、無残に散っていく花弁に、夏希はそう小さく横に首を振るも。
     その血ごと氷漬けにするかの如きつららの一撃を見舞い、弾丸の雨を浴びせて。薄青を思わせる静かな佇まいのノワールも、主の攻撃に呼応するように眩き霊撃を敵へと放つ。
    『グ……ギギ、ギイィィッ!』
     身をうねうねとくねらせ、呻き声を上げるシャドウ。
     だが再び灼滅者達へと、鋭利な糸を口から吐き出してくる。
     けれども、それを断ち切り、振り払って。
    「お前を居座らせるわけにはいかないから!」
     八千華が突き出した槍の切っ先が、螺旋の勢いを纏って敵を貫き、不滅を冠する無邪気な剣が、醜悪な蟲の霊魂を破壊せんと振り下ろされれば。リングを光らせるイチジクが咄嗟に、主へと放たれた一撃を肩代わりして。
    「ほんと、気味の悪い姿やね……人と人の絆を喰らって、此処まで成長したなんて」
     力と力がぶつかるたび散りゆく花弁が星の瞬きのように、はらはらと舞う中。
     握るモノリスを駆使した戦術を用い、決して逃がさぬようにと動いた後。
    「すぐにでも仕留めます」
     けたたましいチェーンソーの騒音が轟くと同時に、想々の繰り出した刃が、呪的守護ごと醜い蟲の身を斬り刻まんと唸りをあげた。
     そう、許せない――そんな思いを、渾身の一撃に込めて。

    ●蠢くモノ
     灼滅者達の猛攻を浴び続け、夢の中では堪えきれずに。
     現実世界へと、再び姿を現したシャドウ。
     無理ならば近場の東の空き家か、最悪マイの部屋での戦闘も覚悟していた灼滅者達だが。
    「オレらがいる限り彼女の夢は好きにさせない」
     盾で殴りつけた自分と狭霧へ、怒りの色を迸らせる蟲へと、挑発の言葉を投げながらも。
    (「現実のシャドウか。不謹慎かもしれないけど、どれだけ強いのか楽しみでもあるかな」)
     現実世界においての宿敵の強さが、いかほどのものか。
     麗羽は密かに興味を抱きつつ、西側の公園へと敵を誘って。
     ひらりひらり、和装の袖と華咲く首巻を星空に躍らせて。まるで曲芸を披露する黒狐の演者の如く、怒りの感情のまま放たれた毒の弾丸を、軽い身のこなしで避ける狭霧。
     だがその威力や速度は、夢の中とは段違いだということが、見ただけで分かるほど。
     狭いマイの部屋は勿論、東の空き家でも、建物や障害物が戦闘の邪魔になったかもしれない。
     広さも視界も問題ない公園を戦場に選び、上手くシャドウを誘き出せた作戦は、強敵と戦う上で正しかったといえよう。
     だが少しでも気を抜くと、一瞬で倒されてしまうかもしれない相手。
     ……それに。
    「!」
     ぼこんぼこん、と不気味に蠢く、芋虫の不自然に膨らんだ腹部。
    「その胎から出てくる存在は、一体何?」
     土茶色に変化した髪を揺らし、確実に灼滅できるよう退路を塞ぐ位置取りを心がけつつ。想々は再び激しいモーター音鳴る刃を、蟲へと見舞いながらも。
     決して良いモノではないだろうけど……と、血の彩りに満たされた瞳を細める。
    「ここからが、本番……!」
     ダークネスは、どんな相手でも倒すべき。そう警戒心を決して解かぬ八千華の胸に浮かびあがるのは、クラブのスート。前衛を担うと言った以上、決して倒れぬようにと。イチジクもそんな主や皆を支えるべく、しっかりとリングを光らせ支援している。
     現実世界に出てきたシャドウは、かなりの強敵。
     だが……目の前の相手は、倒せない敵ではない。
    「私だって、できるんだからっ!」
     さらりとした銀の髪を靡かせ、クールに霊撃を繰り出すノワールに負けじと。的確に狙いを定め、槍から鋭利な氷を生み出し、構えたガトリングガンで敵を蜂の巣にせんと連射する夏希。
    「未だ楽に倒せる内にきっちり片付けてしまいましょ」
     刹那、握る星葬の煌きとは対照的に、ぐんと伸びた狭霧の影が闇よりも深い黒を落として。カチカチッと嗤うかのように牙を剥いた漆黒のがしゃ髑髏が、蟲を喰らわんと襲い掛かれば。
     引き続き壁役を担いながらも、確実に当てることを重視して。麗羽は再び、トラウマの影を纏わせた得物を宿敵へとふるう。
     そしてやはり、うるうると潤ませた上目遣いで。
    「戦いこわ~い」
     強烈な冷気のつららを笑顔でぶっ刺す音音の高い女子力(物理)に、シャドウが奇声を上げれば。
    「ぬこ、皆の盾になって下さいです!」
     すかさずイシュテムの声に反応したぬこが、ダミ声でニャーンとひと鳴き。毛並みの良い身体を呈し、蟲が吐き出した反撃の糸から仲間を守って。まるで舞うかのように地を蹴り、ひらひらと夜空に裾を躍らせながら、イシュテムの放った鋭撃が螺旋の軌道を描く。
     そして敵の死角に回り込み、高速の動きで放たれる十六夜の一閃。咲哉の斬撃が護りごと斬り裂かんと見舞われるも。
     攻撃を受けても尚、不気味に蠢き続けるシャドウの腹部。
    「しかし腹の中に多数のシャドウを抱えてるとは、逃がすとヤバそうだな」
    「うまく切り抜けないと、大勢のシャドウに囲まれる羽目になりそうだね」
     冷静にシャドウの動きを読み、弱点を探らんと見据えながらも言った咲哉に、麗羽も攻撃の手を休めずに頷いて。
    (「別のシャドウ達の気配ってことは、それを食らうなり配下にするなり考えてるのかな」)
     不規則に波立つシャドウの腹の中にいるだろう『ソレら』の羽化と、その目的について考えてみる。
     そんな仲間達の言葉に、思わず声をあげる女性陣。
    「あのおなかの中に、何体くらいいるんです? か、考えたくないですよー!」
    「やだぁ~! 虫さんきらーいっ、こわぁいっ」
     きっと仲間がいなかったら挫けていただろうイシュテムは、手を抜かず一生懸命攻撃を続けるも、想像したくないといわんばかりに再び首を振って。
     うさ耳をぴこぴこさせつつ女子力(物理)を駆使する音音の、その声色や仕草は、さすがあざとい。
     しかし眼前のシャドウは、ただ気持ち悪いだけではない。
    「!」
    『ギギ、ギギィィィイイッッ!!』
     怒りの感情をいまだ植えつけられたままのシャドウの毒を帯びた弾丸が、麗羽へと襲い掛かる。
     夢の中とは比べものにならないくらい、威力を増した弾丸。
     だが、それを咄嗟に肩代わりしたのは、夏希のビハインドのノワール。
    「いつも、クールな顔して、悔しい!」
     咄嗟に仲間を庇ったノワールに対抗心を燃やして。現実世界で暴れるシャドウを打ち抜くべく、再びガトリングガンの引き金を引く夏希。
     想々のモノクルが上体を少し仰け反らせた敵の動きを止めて。
     それでも尚、強烈な殴打を繰り出してきたシャドウと仲間の間に、躊躇なく割って入る狭霧。これまで、敵の気を引かんと立ち回り、握る星葬で衝撃を受け流し相殺を試みてきたその身も、怒りに任せた渾身の一撃を受け一瞬沈むも。仲間の安全を護りたいというその魂が、再び肉体をも振るい立たせれば。
    「私も、守りたいから……!」
     再び張り巡らされ切り裂いてくる糸の衝撃にも、少し強がるように、ぐっと"immortel"を握りなおして。イチジクと共に、八千華もシャドウへと攻撃を見舞う。 
    「隙を逃さず狙っていこう。大丈夫、勝機は必ずある筈だ」
     咲哉のそんな声に頷きつつ、声を掛け合い連携をはかって。灼滅者達は、ダークネスへと全力で得物をふるっていく。
     そして、繰り出され続ける猛攻を浴び、大きく揺らいだシャドウの腹部へと。
     麗羽が狙い撃った毒の弾丸が命中した――その瞬間。
    「……!!」
     地へと崩れ落ちた蟲の腹部から沸いて出てきたのは、無数のシャドウの幼生体であった。

    ●赤と黒の駆逐
    「シャドウの中からシャドウが、ってホラーだよ~。ゴキちゃんじゃないんだからっ」
     そう言いながらもまた1体、幼生体シャドウを灼滅する音音。
     狭霧も、うえー……と思わず顔を顰めつつも、きっちり確実に敵の手数を減らしていって。
     ノワールよりもより多くの蟲を撃ち落とさんと、弾丸の嵐を夏希が戦場にバラ撒けば。
     イシュテムも嫌いな蟲を一刻も早く駆逐すべく、ぬこと共に回復を担いつつも、攻撃を繰り出す。
     そしてイチジクが皆を支援する間、八千華も握り締めた剣で、敵を消滅させていって。
     羽化したシャドウたち以外のダークネスの存在などがないか注意を払いつつ、携えた盾でまた1体、幼生体を潰す麗羽。
     芋虫のようなシャドウの腹の中から出てきたのは、30体もの幼生体シャドウであった。
     だが、わらわらと逃げ出さんとするかのように、芋虫の中から沸いて出たそれらの能力はまだ極めて低く、一撃で叩き落せるほどのもの。
    「これ以上被害を増やさない為にも一体残らず倒させて貰おう」
     これ以上好き勝手はさせないぜ、と十六夜を閃かせて。
     咲哉がすかさず放ったどす黒い殺気が、一気に蟲の数を減らした刹那。
    「……逃さんよ」
     闇に紛れんとはばたかせたその羽音を、決して聞き逃さずに。
     全砲門を開放した十字架から想々が撃ち出した光線が、沸いて出た幼生体シャドウを1匹残らず、灼き尽くしたのだった。

     月が柔らかに照る、夜の静寂が戻ってきた公園で。
     頭をぽんっとひとつ、優しく労ってくれたノワールに、夏希は相変わらず対抗心宿す瞳を向けたが。
     無事、マイの身と彼女の夢を護り、腹で蠢いていたシャドウも全て灼滅した灼滅者達。
     だが、生殖能力がないダークネスが、新たなダークネスを生み出したというこの現象は、いまだ謎多きまま。
     絆のベヘリタスの思惑も、その裏に潜む目論見も……全貌が明らかになるのは、いつになるのだろうか。
     それは――灼滅者の皆の、今後の行動次第かもしれない。
     そして、守り抜いたあどけない少女が、再び美しい花畑の夢を健やかにみていることを願いながらも。
     灼滅者達は月や星に見送られつつ、何びとの夢も妨げぬようにと……静かに公園を後にしたのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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