醜き虫

    作者:天木一

     光の届かぬ暗い闇夜の中、見るものに嫌悪感を与える赤と黒の芋虫が蠢く。
     その背に生える毒々しい蛾のような羽がばたつく。粉のようなものを振りまきながらその芋虫は空に舞い上がる。
     下から見上げれば芋虫の腹部が以上に膨れ上がっているのがよく分かった。何かがその体内で蠢いているようにも見える。
     芋虫は空から地上を見下ろすと、光の消えた一軒の民家へと下降する。
     開いている窓から中へ進入すると、その部屋で眠っている少女の頭上で一度止まり、少女の中へ入るように消えてしまう。
    「ん、ん……」
     寝苦しそうに少女は寝返りをうつが、やがて何事もなかったように穏やかな寝息へと変わる。
     薄気味悪い芋虫など最初から居なかったように、静かな夜が過ぎていく。
     
    「最近、絆のベヘリタスの卵に関する事件が出てなかったんだけど、どうも理由があるみたいなんだ」
     教室に集まった灼滅者を見渡した能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が、新たな事件の説明を始める。
    「彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)さんからの情報なんだけど、卵から羽化してしまったベヘリタスのシャドウが新たな事件を起こそうとしているみたいなんだよ」
     卵から羽化したと思しきシャドウがどこからともなく現れ、眠っている一般人のソウルボードに入りこんでしまうのだという。
    「今回はこのシャドウを追ってソウルボードに入り、シャドウを倒してもらいたいんだ」
     羽化したばかりで配下も居ない状態だ。こちらに有利といえるだろう。
    「ソウルボードに入る前に接触すると、敵は逃げて他の人のソウルボードに入ってしまうから、ソウルボードに入るまでは手出ししないように気をつけて」
     逃げられると追う事は難しい、ソウルボードに入るまでは見つからないようにする必要がある。
    「シャドウを倒すと、ソウルボードを出て現実世界へと姿を現すよ。そこでシャドウを倒せば灼滅する事ができるんだ。強敵だけど、今まで力をつけてきたみんななら倒す事が出来るはずだよ」
     シャドウを灼滅する機会は滅多にない、これは絶好の好機だろう。
    「出てきた後戦闘になるのは民家の2階。少女やその家族が巻き添えにならないように気をつけて」
     少女とその両親が暮らしている。シャドウは少女の傍に現れるので対処が必要だ。 
    「シャドウは羽から発する鱗粉や、口から出す糸のようなもので攻撃してくるみたいだ。両方状態異常を起こすものだから気をつけて」
     強敵といえども情報を元に作戦を練れば倒す事が可能となる。
    「卵から生まれたばかりのシャドウって見た目も気持ち悪そうだね。これからどんな成長をするか分かったものじゃないから、何か起きる前に倒して欲しい。それにどうやらこのシャドウの腹部には別のシャドウの気配があるみたいなんだ。腹部のシャドウは弱々しい力しかないみたいだけど、最後まで油断せずに気をつけてね」
     誠一郎の言葉に真剣な面持ちで灼滅者達は頷き、シャドウを倒すための作戦会議を始めた。


    参加者
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    天里・寵(超新星・d17789)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    アムス・キリエ(懊悩する少年聖職者・d20581)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)
    烏丸・碧莉(黒と緑の・d28644)

    ■リプレイ

    ●芋虫と少女
    「皆さん、寝静まったでしょうか? さて、シャドウはいつ現れる事やら」
     既に夜も更け、周囲の家の明かりが消え始めたのを見て、烏丸・碧莉(黒と緑の・d28644)が物陰から顔を覗かせる。
    「しっ、来たみたいやで」
     隣で花衆・七音(デモンズソード・d23621)が注意を促し、その視線が夜空に向けられる。
     傍に建つのは変哲も無い一般的な一軒家。だがその傍には月を背景に異様な物が空を飛んでいた。それは芋虫。人間の子供程もある大きさの芋虫が蛾のような羽で空を舞っていたのだ。
     それは家の窓から家に進入し、跡形も無く消え去る。
    「うわー思ったよりも大きいわぁ……」
     それを見た堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)は思わず声を漏らす。
    「羽化したベヘリタス どれくらい強いか興味ありますね」
     じっと観察するように見ていた森沢・心太(二代目天魁星・d10363)は、敵について見た目の情報から思考を巡らせる。
    「醜い虫ですね。あんなのが心に巣食うなんて」
     想像するだにぞっとすると天里・寵(超新星・d17789)が眉をひそめた。
    「羽化していると言う事は、誰かがすでに絆を奪われたのでしょうか。せめて悪魔に入りこまれた彼女とご家族を守らなければいけません」
     これ以上誰も傷つけさせないと、進入する音が漏れぬようアムス・キリエ(懊悩する少年聖職者・d20581)が音を封じる結界を張る。
    「ベヘリタスの卵か、スキュラの霊玉とも近い物を感じるな」
     周囲を確認した北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)は、よじ登って空飛ぶ芋虫を追うように窓から部屋に入る。
     続いて仲間達が入り室内を見渡すと、中にはベッドで眠る少女の姿があるだけだった。
    「人の絆を喰らう化け物を増やす訳には行きませんからね。ここで確実に、殲滅いたしましょう」
     九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)の周囲から穏やかな風が吹き抜け、家の住人を深い眠りに就かせた。部屋を移動し両親の眠る部屋を確認しておく。
    「私達もすぐにソウルボードに入りましょう」
     全員の準備が整うと碧莉が少女に手をかざす。すると世界が捩れ、暗転と共に夢の世界へと侵入する。

    ●夢の中の虫
     視界が戻ると、そこに広がるのは極彩色の花々が咲く庭園。草木からして原色で水玉模様に塗られ、目がちかちかしそうな色合いが周囲を埋め尽くしていた。
    「芋虫サン出ておいでー。いっちょ派手にやりあおうじゃナイの」
     黄色いステッカー式の標識を手にきょろきょろと辺りを見渡しながら、堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が陽気に呼びかける。
     その声に反応したのか、真っ赤な薔薇のような花からギチギチと音が聞こえる。視線をやるとそこに大きな芋虫が蜜を吸うように食らいついていた。ここまで接近すれば虫の腹が異常に膨らんでいるのがよく分かった。
     ギチギチと口のある場所から音が漏れる。その6個の丸い目が灼滅者達を写すと、羽を動かし宙に浮いて灼滅者達へと向かってくる。
    「うわー、山育ちなので虫には慣れているつもりですが、これは素手で殴るのは躊躇いますねぇ」
     心太が間近で見る芋虫の気味悪さに嫌な顔をしながらも、一切躊躇せずに雷を宿した拳で殴りつけた。
    「見るに耐えない醜さですね」
     寵が不快そうに目を細めて腕を振るう。すると包帯が射出され芋虫の体を貫いた。ぐちゃりと紫の体液が漏れる。
     敵対行動に芋虫の羽の動きが速まる。すると鱗粉が撒き散らされ灼滅者達を包み込む。
    「Are you ready?」
     カードを開放した葉月は手にした黒い脊柱のような剣を振るう。それは鞭のようにしなり渦を巻くように回転すると、鱗粉を吹き飛ばした。
    「主よ、導き給え。人の心を弄ぶ悪魔に神の裁きを」
     目を閉じて敬虔に祈りを捧げていたアムスがゆっくりと芋虫と向かい合う。すると足元から伸びていた影が縄のように芋虫に巻きつく。
     だが同時に芋虫もまた口から糸を吹き出してアムスの体を縛りあげた。
    「ベヘリタスの卵、何や最近見いへんと思ったらおもろく無いことになってる見たいやな。何企んでるんか知らんけど、その前にぶっ潰したるで!」
     黒い魔剣の姿と化した七音がその身に影を纏い刃を振り下ろし糸を断ち切る。そして踏み込みながら斬り上げ糸を吐く口を斬りつけた。
    『ッギィッァッ』
     ガラスを引っかいたような音を放ちながら、芋虫は七音に糸を吐き出す。
    「まずはこの少女のソウルボードから出て行ってもらいましょう」
     その前に割り込んだ皆無が金剛錫杖を振るい糸を巻き取る。そして振り払いながら芋虫に叩きつけた。
    『ヂッヂュッ』
     芋虫は潰れたような音を漏らし、空に舞い上がろうと羽を動かすと灼滅者達の頭上を取るように浮遊する。
    「シャドウも色々と種類も見て来ましたけど、今回のはまた一風変わったシャドウですね」
     狙い澄ました碧莉が影の弾丸で羽を撃ち抜いた。バランスを崩して芋虫の高度が下がる。
    「落ちちゃいなヨ!」
     そこへ跳躍した朱那が赤いステッカーで頭を殴りつけ、芋虫を地面に叩き落とした。
    「喋れるかは分かりませんが一つ質問を、あなたはベヘリタスなのですか」
    『ギッィァッ』
     心太が問いかけるが、芋虫は軋むような音を発するばかり。その背中の羽を広げて飛び上がろうとするところへ、心太は腕を異形化させると鉄槌の如く振り下ろした。
    「どうやら意思の疎通は無理なようですね」
     グチュっと中身を飛ばしながら芋虫が地面に埋め込まれる。だが芋虫はその口を開き心太の腕の肉を齧り取っていた。
    「前哨戦ですからね、さっさと終わらせますよ」
     寵がゴルフのスイングのようにロッドを叩き込む。腹を抉られ紫の体液を垂らしながら芋虫が宙に浮いた。
    「気持ち悪いなぁ、大人しゅうやられとき」
     待ち構えていた七音が上段から振り下ろした刃で斬り裂く。
    「ここはあなたの居るべき場所ではありません。この夢から立ち去れ、邪悪な悪魔よ!」
     アムスがロッドを芋虫の体に叩き込み、衝撃で動きを止める。
    「さしずめベヘリタスの幼体って所か、このまま成長したらどんな悪夢を見せられるか判ったもんじゃないな」
     葉月は剣に緋色のオーラを纏わせると、芋虫の体を刺し貫いた。
    『ヂ、ヂィッ……』
     弱弱しく鳴くと、芋虫はどろりと溶けて消えていく。ソウルボードの外へと移動したのだ。
    「すぐに追いかけましょう!」
     碧莉が世界を暗転させる。目覚めるように目蓋を開けるとそこは元居た少女の部屋。それぞれがライトを灯し暗い部屋を照らす、ベッドで眠る少女の上に視線を向けると、夢の中と同じ巨大な芋虫が飛んでいた。
    『ヂヂッ』
    「この子には傷ひとつ付けさせません」
     芋虫が周囲に鱗粉を撒くと、皆無がその身を盾にして少女を守る。攻撃を背中に受けながら少女を抱き上げ、一気に部屋の外へと駆け出した。

    ●現実の虫
    「こっからが本番、余所見はナシだよ!」
     注意を逸らすように間に入った朱那が声を掛け、光輪を投げて分裂させると鱗粉を弾く盾にする。
    『ヂァッィィッ』
     芋虫が朱那に視線を向けると、羽を動かす速度を速めた。白く染まるほどの鱗粉が放たれ、近くに居た灼滅者達の体を麻痺させてしまう。すると芋虫は近づきながら動けぬ獲物を食らうように大きく口を開ける。そこには鋭い牙がびっしりと生えていた。
    「これがシャドウ本体ですか、見た目は変わらないようですね」
     碧莉がギターをかき鳴らすと、風が巻き起こり刃となって芋虫を切りつけた。思わず怯んだ芋虫は動きを止める。だがその位置から糸を飛ばし、一瞬で碧莉の全身が見えなくなるほどの糸で繭のように閉じ込めた。
    「うわっちょっと粉吸ってもうた……」
     七音は顔をしかめながら黄色い標識で繭の糸を切り、麻痺した仲間達に活力を与える。
    「なるほど、確かに格段に強くなってますね。楽しくなってきました!」
     首を振って麻痺が取れたのを確認した心太は、ローラーダッシュで突っ込むと炎を纏った蹴りを浴びせた。
    『ヂッッ』
     壁にぶつかり鱗粉を撒き散らしながら芋虫が部屋を高速で飛び回る。衝撃波に灼滅者達が薙ぎ倒された。
    「触るだけで病気が移りそうな鱗粉で服が汚れてしまったでしょう、見た目だけでなく行動まで汚らしいですね」
     服を叩いて寵が嫌悪に口元を歪め、異形化させた腕で殴りつける。吹き飛んだ芋虫は体液を撒き散らしながらも宙に留まった。
    「俺、虫苦手なんだよなぁ。その分遠慮無くやれるけど」
     現実で見ると気持ち悪さを増して感じる、葉月は一刻も早く倒してしまいたいと五連星の刻まれた杖を振り抜いた。魔力の籠もった一撃が芋虫の胴体を叩く。
    『ヂピュッヂヂッ』
     波打つように膨れた腹が動く。芋虫は飛ぶ速度を上げ、葉月の肩を足を食い千切った。
    「邪悪なる者よ、神の名の下に滅びよ!」
     アムスの影が芋虫の体に巻きつく。だが芋虫は拘束されたまま羽を強く動かし、周囲に鱗粉を放って近づく者を麻痺させる。
    「両親の元に避難させました、後はこのシャドウを倒すだけです」
     部屋に駆け込んだ皆無が、体が痺れるのも厭わずに勢いを乗せて錫杖を叩きつける。
    『ヂヂォィィッ』
     芋虫は落下しながら糸を噴出し皆無の体を繭に包むが、風の刃がその糸を断ち切った。
    「何度も同じ事はさせません」
     碧莉がギターを弾く度に幾重にも風の刃が芋虫に襲い掛かる。
    『ギヂュィィッ』
     それに対して芋虫は部屋中に糸を張り巡らせて防壁とする。そして直角に曲がるようにしてすり抜けて碧莉に迫る。
    「自分だけが自由に動けると思ったら大間違いだよ!」
     朱那は壁を蹴り、天井を手でついて糸と糸の隙間を通り抜ける。そして頭上から芋虫に炎を纏った蹴りを放ち、地上に叩きつけた。
    「ここに巣でも作るつもりか? 迷惑だぜ」
     葉月が鞭のように剣を振るい糸を寸断した。そのまま刃の渦が芋虫を切り裂いていく。だが芋虫も鱗粉を撒いて葉月の力を奪い、口を開けて飛び跳ねるように顔に飛び掛かる。それを割り込んだ皆無が縛霊手で受け止めた。
    「これが現実でのシャドウの力ですか……!」
     装甲が軋み牙が貫通し腕に刺さる。するとまるで溶かされているような激痛が走った。皆無は腕ごと床に叩きつける。だが牙は外れず逆に深く食い込んできた。
    「食い意地の張っている奴を止めるにはこれですかね……動かないでくださいよ」
     寵がロッドをフルスイングして芋虫の膨れた腹に叩き込んだ。思わず口が開き床を転がる。
    「感じるで、あの腹の中からろくでもないもんがおる気配が」
     七音が皆無のただれた腕に帯を巻きつけて治療しながら、芋虫の蠢く腹を見た。
    「その身に更なる邪悪を宿しているようですね」
     容赦なくアムスがロッドを振り下ろして追い討ちを掛ける。しかし芋虫は糸を吐いてアムスを繭に包んでしまう。そして飛びつくと牙を突きたて繭が赤く染まる。
    「本体だけあってタフですね、それでこそ殴りがいがあります!」
     心太が拳で殴りつけて吹き飛ばす。壁にぶつかったところへもう一度拳を叩き込んだ。
    『ヂギィゥッ』
     芋虫は羽を広げて窓に向かって飛ぼうとする。
    「もしかして逃げられると思ってるんですか?」
     鼻で笑うように寵は包帯を軌道上に放ると、矢のように飛翔して芋虫を串刺しにした。
    「このクソ虫が」
     更に滅多刺しにするように寵は四方から包帯を刺していく。
    「逃しませんよ!」
     宙を蹴った心太がサッカーボールを蹴るように芋虫を打ち落とす。
    「そう簡単に逃がさねぇぜ。ここで潰してやる!」
     葉月が剣を芋虫に巻き付け、一気に引き抜く。すると刃が全身をずだずだに切り裂き体液が床に広がる。それでも芋虫は抵抗を止めず、糸を噴出して葉月を拘束して弾き飛ばした。
    「この場から出る事はできません。ここでその存在を消し去ります!」
     飛ぼうとする羽を、アムスの影が絡め取った。
    『ヂヂッ』
     鱗粉が周囲に撒かれ、灼滅者を近づかせない。
    「何べんもおんなじ技が通じると思っとるんか!」
     七音が帯で人が通れるトンネルを作って鱗粉の隙間を作り出す。
    「これで終わりにするヨ!」
     そこを通り抜けた空色のオーラを纏った朱那が蹴り上げ、跳躍して一回転すると踵落としで叩き潰した。
    「腹部のシャドウも、このまま倒させて頂きますね」
     痙攣する芋虫に碧莉が止めと漆黒の弾丸を腹部目掛けて撃ち込み、芋虫は動きを止めた。

    ●腹の中に蠢くもの
    「何や、あれ!?」
     七音の目は穴の開いた腹から小さな芋虫が涌き出てくるのを捉えていた。それは死体となった芋虫を小さくしたような姿だった。
    「悪いケドその腹ン中……全部暴かせてもらうヨ!」
     朱那がステッカーを死体の腹に叩き込む。すると腹が千切れ中から数十匹の芋虫の群れが一斉に漏れ出した。四方八方に逃げようとする芋虫達がその行く手を結界に阻まれた。
    「何処へも逃がさない、一匹も残さず灼滅し尽くす」
     敵が動くよりも先に皆無が結界を張り巡らせて逃げ道を潰していた。
    「数が多いと一匹ずつ倒すのは大変です」
     碧莉が風の刃を走らせ群れを切り裂く。
    「見てるだけで気分が悪くなりそうですね」
    「鳥肌が立っちまうぜ」
     蠢く虫の群れを心太は無造作に踏み潰し、対照的に葉月は嫌そうに眉を寄せながらも、剣を竜巻のように振るって潰していく。
    「醜い虫は美しい戦士に倒される運命なんですよ。僕みたいなね!」
     虫の体液で汚れぬよう離れた場所から巨大十字架を構え、寵は無数の光線を放って薙ぎ払う。
    「悪の種子を残す訳にはいきません。浄化されなさい!」
     アムスが影の刃で最後の一匹を斬り裂いた。

    「全て仕留めたか」
     周囲を見渡した皆無は動くものが居なくなったのを確認して結界を解く。
    「……こいつも、この少女の『絆』を喰うつもりだったのかな?」
     葉月は足元に広がる数十匹の芋虫の亡骸を見下ろした。
    「ああ、芋虫でよかった……節足動物だったら悲鳴あげてたわぁ」
     無事に終わったとほっと安堵する朱那は、思わず足の多い虫の群れを想像してしまい顔を青くした。
    「ほんま一匹ならともかく、こんな群れられたら気持ち悪くてしゃあないわ」
     ぐちゃぐちゃに混じった死体の山を前に、七音は近づきたくないと少し距離を取って消え去るの待つ。
    「虫ケラじゃあこの程度ですよね、僕の相手にはなりませんよ」
     爽やかに寵は笑って乱れた髪を手櫛で整えた。
    「生まれたばかりでのこの強さなら、普通のシャドウはもっと強いんでしょうね」
     強敵と相見える時が楽しみだと心太は笑みを浮かべた。
    「主よ、憐れな罪人にどうか救いを……」
     アムスは倒した敵の為に祈りを捧げる。
     虫の死骸は元から何もなかったように消え去り、少女を運んで元のベッドに眠らせる。
    「住人の方が起きる前に退散しましょう」
     碧莉の言葉に仲間達も頷き、窓を越えて虫も鳴かぬ静まった夜の街へと飛び出した。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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