糸が凶器だ、水戸納豆怪人!

     都内、某県のアンテナショップ。
     うら若き女性が、店内に足を踏み入れようとした瞬間。
     ねばっ。
    「っ、きゃあああッ!?」
     糸のようなものを踏んだかと思うと、体を縛り付けられた。
     そのまま磔状態に。しかも胸を強調させられた、羞恥心をあおるポーズ……!
    「捕まえましたよぉ……」
     ぬひょっ、と店の陰から現れる人影。等身大の豆から手足が生えている。
     水戸納豆怪人……その名をネヴァーエンドという。
     じたばたする女性に、迫るネヴァーエンド。
    「い、一体何するつもり!」
    「ふふふ、それはですねぇ……」
     ねっとりとしたいやらしい口調。
    「当然、納豆を食べさせるんですよぉ!」
    「むぐッ!?」
     女性の口に水戸納豆をねじ込んだ! 女性、涙目!
    「く、口の中がねばねばに……ッ」
    「よそのアンテナショップなんて行かせませんよぉ。茨城、そして水戸納豆が世界を支配するんですからねぇ……!」
     ネヴァーエンドの目は、輝いていた。納豆色に。

    「水戸と言えば納豆。怪人が出現するのも時間の問題とは思っていたが、東京に出向いてくるとは」
    「しかもなんといやらしい……!」
     水戸納豆怪人出現の報を受け、雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574)が駆けつけると、初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)が眉をひそめていた。
    「水戸納豆怪人ネヴァーエンドは、都内にある茨城県以外のアンテナショップに現れる。強力な糸……『納豆鋼糸』を使った罠を仕掛け、拘束した一般人に水戸納豆を無理矢理食べさせるという恐ろしい敵だ」
    「恐ろしいというか、迷惑、だな」
     縛られるし。
    「次にネヴァーエンドが現れるのは、栃木県のアンテナショップ」
    「お隣の県か」
     ネヴァーエンドをおびき出すには、一度は罠にかからなければならない。囮には、縛られる覚悟が必要だ。
     ただ、拘束時の『納豆鋼糸』は、灼滅者なら難なく引きちぎる事ができる程度の強度しかない。
     しかも、食べさせてくる納豆自体は水戸の美味しい納豆なので、余裕があるならおいしくいただいてしまってもいい。
     それを聞いた直人は、
    「白飯が欲しくなるな……」
    「構わんのじゃないか? 用意していっても」
     杏がさらっと言った。
     戦闘時の『納豆鋼糸』は、殲術道具の鋼糸と同等のサイキックを発動する。その技は糸を引く上、納豆臭をともなう。
     納豆というか糸にこだわりがあるのか、『納豆鋼糸』のみで戦う。ポジションはジャマーである。
    「全体的にアレな怪人だが、戦闘力だけはマトモのようだ。しっかりお仕置きしてやってくれ」


    参加者
    清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)
    クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)
    有栖川・萌(オルタナティヴヒロイン・d16747)
    灰慈・バール(その魂は無限の物語を織り成す・d26901)
    アンゼリカ・アーベントロート(黄金奔放ガール・d28566)
    宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)
    白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)

    ■リプレイ

    ●語尾は普通な納豆怪人
     美味しい納豆につられて……もとい、怪人をこらしめるべく。
     栃木のアンテナショップにやってきた白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)。
    「納豆を悪事に使うなんて、茨城県水戸市のご当地ヒロインとしては黙っていられないよ~。じゃあ、いってくるよ!」
     仲間に手を振り、有栖川・萌(オルタナティヴヒロイン・d16747)が1人、入口へ足を踏み入れる。
     ねばっ。
    「きゃあああ~!?」
     一瞬にして縛り上げられる萌。胸を強調した扇情的な縛り方は、偶然か。
     そして、待ってましたとばかり出現するネヴァーエンド。
    「さ~あ、納豆食べさせてあげますからねぇ~?」
    「どんなにおいしくたって納豆だけなんていやぁ~!」
    「よいではないか、よいではないか、ですよぉ」
     いやいやと顔を振る萌の口に、無理矢理納豆がねじこまれる。
    「はあん、口の中が納豆であふれちゃう~!」
     2人とも、どこかノリノリ。
     その間に、店外では着々とロープが張られていく。
     目にも止まらぬ動きを披露するのは、清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)。この後の戦いをキャラクターショーに仕立てるためだ。
    「にしても、ご飯が進みそうな敵だよな」
     今すぐにでもご飯を持って突撃したい。そんな食欲を抑え、灰慈・バール(その魂は無限の物語を織り成す・d26901)も、スペースの確保を手伝う。
    「すいません、ショーが始まるので、この場所、使わせてもらいますね」
     宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)も、老人に付き添い、人払いに勤しむ。
     そろそろ準備はOK。残る役者は、怪人のみ。
    「さて、ちょっとそこの納豆怪人……って、あーヌメヌメやなぁ……」
     縛られた萌の惨状を目の当たりにして、クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)が、若干引いた。
    「なんか、思った以上にアレな光景やね……」
    「確かに……」
     こほん、エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852)は気を取り直すと、
    「そこの怪人。旨い納豆には白米が必須だろう。表に用意してあるから、一緒に食べないか。人通りのある場所の方が、良いアピールにもなる」
    「アピール、悪くないですねぇ」
     怪人が乗り気と見ると、エリスフィールは店内の一般客にも声をかける。
    「これから水戸納豆の販促興業を行う故、見学は店内でお願いする」
    「なになに、ショー? ヒーローとか来る? 観たい観たい!」
     話に乗っかるアンゼリカ・アーベントロート(黄金奔放ガール・d28566)の目は、ヒーローに憧れる子どものようにきらきらしている。
     話につられたお客さんの誘導を済ませると、皆は怪人を連れて店外へ。
    「お待ちしてました」
     カラカラ……カートを押して、雪緒が現れる。
     運ばれてきたのは、茶碗やしゃもじ、そして二升炊きの炊飯ジャー。
    「白米の合わない納豆などないのです。さあ」
     納豆ちょうだい。

    ●今日も元気だ、納豆美味い
    「水戸納豆と言えば、日本有数の納豆でござるな。無理矢理は勘弁でござるが、白米と一緒にいただくのは大好きでござるよ」
     どこからともなく、静音の声と納豆をかき混ぜる音が響く。
     店先では、即席の納豆試食会が開催されていた。雪緒のよそうご飯に、怪人の納豆が乗せられていく。
     待ってましたと、エリスフィールやバールも箸が進む。
    「腹が減っては戦は出来ぬ、とはよく言ったもんだぜ」
    「安うて栄養あってしかも美味しい……中々無いわな……この手の食品」
     しみじみ味わうクリミネル。マイ茶碗を持参した甲斐があるというものだ。
     アンゼリカは醤油を垂らすと、からしや鰹節を存分にふりかけ、混ぜる。
    「納豆♪ 納豆♪ じゃあ、いっただっきまーす!」
     豪快にかきこむアンゼリカに、怪人もつい感心。
    「いい食いっぷりですねぇ」
    「私、育ち盛りだし、好き嫌いないんだぞ、どうだ!」
    「そんなわんぱくっ子には、たらこもありますよ」
     雪緒ももぐもぐ。
    「そうそう。トッピングとかの工夫次第で色んな人に食べてもらえるんだよ~」
     萌のトッピングもなかなか豪華。青海苔や生卵、刻みネギにちりめんじゃこまで。
     というか、いつの間にか抜け出してるし!
    「もぐもぐ~。ちょうどこのお店は栃木のだから、納豆餃子にしても美味しそうだね」
    「できましたよ」
     絶妙のタイミングで、焼き上がる納豆餃子。店内の餃子焼き器を拝借した、陽坐の手作りだ。
     新たなおかずの登場に、皆も箸が止まらない。
     そして陽坐もトッピングをもらい、納豆をいただく。
    「どうだ。このように広めれば、平和的かつ効果的なのだ。強引に縛り付けたりせずともな」
     箸を置き、優しく諭すエリスフィール。
    「左様、もっと穏便にPRした方が効果も高いと思うでござるよ」
     静音も言うが、怪人は首……はないので、全身を横に振った。
    「そんなのん気なやり方、性に合いませんなぁ! もっとぐいぐい押していかないとぉ!」
     立ち上がるネヴァーエンドの笑みは、野心に満ちていた。

    ●ショータイム!
    「さあ、キャラクターショーが始まるでござるよー」
     声はすれども姿は見えず。どこからともなく、一般人に呼び掛ける静音。
    「ロープから先は入らぬよう願うでござる。拙者との約束でござるよ?」
    「ちょっと離れて応援しててくださいねー?」
     ぴょんこ! と現れたのは、雪緒……否、アルティメットたらこ!
     たらこ着ぐるみとアルティメットモードの相乗効果。漠然と高級そうな その姿に、一般人はもちろん、陽坐までつい感動。
    「また妙な恰好の奴が現れましたが、『納豆鋼糸』の力、とくとご覧あれ、ですよぉ」
    「さあ来い! 納豆魂を見せてみろ!」
     斬艦刀を担ぎ挑みかかるバールに、早速、『納豆鋼糸』を繰り出すネヴァーエンド。
     鋼糸と剣が火花を散らす。エリスフィールが斬撃を繰り出せば、ビハインドのシルヴァリアの波動が放たれる。
    「納豆は粘りが命! 効きませんなぁ!」
    「あんたのその余裕、いつまで持つんかなあ?」
     笑う怪人に、クロスグレイブを携えたクリミネルが迫る。ヌメりにもめげず、殴り、叩き、
    「そして、打ーつ!」
    「ぶふぁっ!?」
     糸を引き、吹き飛ぶネヴァーエンド。
    「よーし、ボッコボコにするぞー!」
     やる気満々、アンゼリカが、腕をぐるぐる回す。巨大化した腕が、ネヴァーエンドの体をへこませる。
    「ちょ、顔が! 体が!」
    「どうだ悪の納豆怪人め! 正義の忍者がこの場にて成敗してくれるでござる!」
     しゅばっ、と街灯から飛び降りる静音。影千代と共に、怪人を切り刻む。
    「ひきわり納豆にするつもりですかぁ!」
     街路樹に『納豆鋼糸』を巻き付け、逃れるネヴァーエンド。
     態勢を立て直すなり、自慢の糸を放射。糸は灼滅者達の間を駆け巡り、次々と縛り付ける。ヌメりと粘りと臭いが、皆を苦しめる!
     だが、ふっ、と糸が解ける。ふわり、萌が招いた清めの風。
    「なっ、自慢の糸がぁ!」
    「やはり使うのは鋼糸のみか」
     驚愕する怪人に、バールが接近する。
    「この『納豆鋼糸』は、水戸納豆怪人にしか扱えぬ、納豆愛の証なのですよぉ!」
    「なら俺も、あえて人の姿で応じるべきだろうな!」
    「ぐふぉ!?」
     バールの手刀が決まったのを見届け、ロープを生かし、陽坐が勢いをつける。
    「確かに茨城とはライバルだとか言われてネタにされたりするけど、だからって栃木のショップ襲いに来る事ないだろ!」
     更にローラーダッシュからの、燃える炎のキック。
    「あちちっ!?」
    「おーほほほほ! 焼き納豆の出来上がりですわ!」
     突如木霊する、悪役っぽいドS的な高笑い。
    「ちょっ、その笑い方は怪人の専売特許ですよぉ!?」
    「ヒーローサイドが悪役笑いなどしないと思いまして? 最近の需要は幅広いんですのよ!」
     よ、のタイミングで、雪緒の影が伸びる。
     自分が縛られるのには慣れていないのだろう、案外あっさりと拘束されるネヴァーエンド。
    「今や!」
     怪人をつかもうと、手を伸ばすクリミネル。だが、ぬるっ、と表面が滑る。
    「生意気なっ! ならこれで!」
     クリミネルは拳を固めると、連打を繰り出す。
    「幾らヌメッても滑っても!!」
    「はぶっ」
     打ちのめされる怪人を、マテリアルロッドを構えたアンゼリカが待つ。納豆ボディを球に見立て、フルスイング。
    「っしゃー、ホームラン!」
    「よく飛ぶでござるな」
     天高く打ち上げられる怪人を見上げ、静音が癒しの剣風を呼ぶ。
     落下しながらも、ネヴァーエンドが糸を射出した。再び狙われる萌。なんだか嬉しそうだが、風のごとく参上した静音がその身を盾とした。
    「しかし、納豆=糸を引くというのも安直すぎないか? 糸を引かぬ納豆も普通にあると聞くのだが……」
    「糸を引かぬ納豆などただの豆!」
     迷言を遮り、エリスフィールの砲が光を吐いた。かわす隙すら与えず、怪人の視界を真っ白に染める。
     そして宇都宮ヒーロー陽坐が、跳び上がる。
    「宇都宮餃子キック!!!」
     ヒットの瞬間、納豆の粒が弾ける……!
    「今です有栖川さん! 栃木と茨城が力を合わせれば、負けたりしません!」
    「よ~し! 怪人さん、こっち向いて~!」
     萌のビームが、虚空を翔ける。こめられた納豆へのフェチズム……もとい愛は、『納豆鋼糸』すら跳ね除ける。
     北関東のヒーローと怪人が入り乱れる中、彩りというかたらこを添える雪緒。
    「おほほほ! 福島県民が失礼しますわーっ!」
     ぴょんこと飛び回り、巨大たらこパンチ!
    「納豆は、たらこなどに負けたりしませんよぉ!」
    「なら、そんな貴様の納豆愛に応じて、俺も最大の力で迎え討つ!」
     ぶうん! バールの斬艦刀が振り上げられる。
    「これが、俺の最高の技だ……!」
     戦艦すら両断する一撃が、一粒の豆へと振り下ろされた。

    ●水戸納豆は不滅です
    「お前は確かに迷惑をかけた存在だが、その心は嫌いじゃない」
     ネヴァーエンドの最期を見届けるバール。
    「もし地獄で会った時は、納豆の事をもっと聞かせてくれ」
    「長くなりますよぉ。糸のようにねぇ」
    「望むところだ」
     そしてネヴァーエンドは散った。周囲に納豆の匂いを振りまいて。
    「応援ありがとうありがとう」
     たらこ雪緒は観客と握手。……握手?
    「手は出ますよ」
     着ぐるみの側面が開いて手が生えた。
    「どうだ、やっぱりヒーローって強いだろ!」
     観客に向け、得意げに胸を張るアンゼリカ。
    「憧れるだけの子供じゃない、やっぱり私もヒーローだ!」
    「それでは、これにてショーは終了でござる。御免ッ!」
     マフラーを直すと、どろん! 煙と共に、消える静音。おおっ、とどよめきが上がる。
    「ふう、終わった終わった。運動した後は腹が減るもんなあ……」
     丼に残しておいた納豆を、美味しくいただくクリミネル。
    「うん、ごちそうさまや。トッピングがいっぱいで飽きないなあ」
    「色んなのがあったよね! 他には、とろろとかもいいんじゃないかなあ? あっ、でも、邪道かなー?」
     アンゼリカが言うと、エリスフィールがなるほど、とうなずく。
    「それもありかもしれないな。帰ったら色々試してみるとしよう」
    「うんうん、やっぱり納豆はいいものだよね~」
    「囮、ご苦労様でした! たとえ辛い目にあっても、地元特産への愛は不滅ですよね!」
     何やら満足そうな萌に、陽坐がぐぐっと拳を固める。
     こうして納豆を堪能した一行は、栃木のアンテナショップを後にしたのだった。
     あれ、来たの茨城のお店だったっけ? と錯覚しそうになりながら。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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