ライダースーツにご用心

    作者:夕狩こあら

     とあるハイウェイオアシスに、バイクの重低音が響いた。
    「ふう。今日はツーリング日和ね」
     胸に響くエンジン音にもまして、鉄塊に跨る凄艶の四肢に釘付けられた一般客は、ヘルメットの下に暴かれた佳顔と、漆黒のライダースーツに窮屈そうに収まるグラマラスにゴクリと息を飲む。
    「もう、汗で蒸れ蒸れだわ」
     女が吐息と共に胸元を開けば、汗に煌く柔肌を見た者は忽ち虜となる。
    「これからどちらへ?」
    「僕と走らない?」
     蒸れた女の馨香を解き放った彼女に、忽ち男達が群がるのも仕方ないが、危険な恋を楽しみたいと思うのは女の方も同じで、
    「えぇ、是非一緒に走って頂戴」
     と頷けば、彼女を取り囲んで大きな人だかりが作られる。
    「私について来て……ずっと……ずっと」
     そう囁いた彼女が再びバイクに跨れば、全てのライダーが彼女に続き、ハイウェイを颯爽と疾走して去ったのだが――その後、彼女を追ったライダー達は、誰一人として戻らなかった。
     
    「玉緒の姉御~! 大変ッス!」
    「まさか……」
    「淫魔ライダーが秋の行楽に向けて狩りを始めたみたいなんス!」
    「……むぅ……」
     慌てて教室に駆け込んできた日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)を迎えた西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)は、彼が激しい呼吸と共に差し出した地図を手に続く言葉を聞いた。
    「この淫魔はツーリングを楽しむフリをして駐車場で休憩しているライダーを誘い、フェロモン全開にごっそりお持ち帰りしているみたいッス」
     一度彼女が現れれば、駐車場のバイクが瞬く間に消える――その様は神隠しのよう。
    「姉御らには奴が狩場にしているハイウェイオアシスに潜入し、ライダーに被害が及ぶ前に灼滅して来て欲しいんス!」
     一般道とも繋がっている場所なので、侵入や接触はそれほど難しくはない。ただ、バイクで逃げられては追う術もないので、逃走だけはさせぬよう注意したい。
    「件の淫魔はサウンドソルジャーに類する攻撃技と、ライダーブーツをエアシューズのように使ってくる事が分かってるッス」
     戦闘時のポジションはキャスター。
     また、彼女のバイクも戦闘に参加し、灼滅者が駆るライドキャリバーと同じ技を以て主を援護してくるだろう。こちらのポジションはディフェンダーだ。
    「まずは奴の足を殺したい所なんスけど、このバイクを潰したところで、淫魔は他のバイクを奪って逃げる可能性もあるんス」
     彼女に逃げられては失敗となる。
     逃走を阻むには、戦闘時の陣形に工夫すべきだが、一般人のバイクの配置にも気を配っておいた方が良い。
     また戦闘時に攻撃を畳み掛けるには、連携の力も重要となってくるだろう。
    「相手は言葉巧みに人を翻弄する淫魔ッス。奴に惑わされ、主導権を奪われぬよう気をつけて欲しいッス!」
     玉緒より返る静かな頷きに、ノビルは拳を熱く握った。
    「健全な秋の行楽の為に! ライダーの安全を守って下さいッス!」
    「……行って……きます……」
     ノビルの敬礼を受け取った玉緒は、地図を手に戦場へと向かった。


    参加者
    百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)
    愛良・向日葵(元気200%・d01061)
    一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)
    西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)
    津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)
    九鬼・白雪(鏡の国のブランシュネージュ・d32688)
    百道浜・華夜(翼蛇・d32692)
    天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)

    ■リプレイ


     蒼穹に枝葉を広げる樹木は未だ青々と、戦ぐ風には涼を感じる心地良い日。
     とあるハイウェイオアシスも行楽に向かう車や人で賑わっていたが、そこにまた一機、一輪バイクが金風を切って乗り入れる。
    「そろそろ到着ですね、エスアール」
     左右に広げた白翼に風を集める愛機、その風に髪を靡かせて駐車場に入ってきたのは百道浜・華夜(翼蛇・d32692)。彼女は肌を撫でる涼風を惜しむように降りると、向かいよりゆっくりと舗装路を滑るリムジンに視線を注いで手を振った。
    「此処がはいうぇいおあしす……このような所があるのですね」
     侍者と思しき黒服の男がドアを開け、瑞々しい脚を覗かせた九鬼・白雪(鏡の国のブランシュネージュ・d32688)が手を振り返す。彼女は宝玉を想わせる赤き瞳を煌かせ、初めて踏み入れる場所に興味を募らせた。
    「おーい、こっちだにゃー!」
     そんな二人に降り落ちた柔らかな声、声主を探せば――百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)が見晴らしの良いテラス席で長い脚を組んでいる。手に持つ双眼鏡で高速道路を眺めていた彼女は、幾つもの車両を見送った後、或る機体を捉えて照準を絞った。
    「岸さんを発見。進入してくるよ」
     敵機を追尾する仲間のバイクも確認した彼女は、華夜と白雪に頷きを返すと同時、配置に就いた。

    「8台……まぁそんな処かしら」
     下心に算盤を弾きながら駐車場に進入した峰子は、到着して直ぐに得意のフェロモンを全開にするつもりだったが、停車するなり近付いた人影に気を取られ、或いは惹き付けられ、狩りの機を逃していた。
    「格好良いバイク! ライダースーツもセクシーで素敵♪」
    「この音……今時車検非対応マフラーなぞ、目を細められるだけだというのに」
     羨望に瞳を耀かせる一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)と、冷めたように機体を見詰める天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)は何とも対照的で、
    「アタシもバイクの免許欲し~い♪」
    「うふふ、興味があるのね」
     聖はここぞとばかり峰子を煽て、一走りして蒸れた彼女が、胸の谷間に汗を沈める様やその匂いを嗅ぎ寄せる一方、
    「汗が見苦しいから制汗剤でも吹き掛……っとスマン、これはトイレの消臭剤であった!」
    「ぎゃっ! 何するのよっ!」
    「いや失礼! ……近付かないで貰えるかな」
    「~~っ!」
     日和は彼女を苛立ちに染めつつ、バイク談義に釘付ける中々の役者ぶり。
     両者が褒めつ貶めつ敵の意識を手繰り寄せるのは、背に隠した一般人を避難させる為で、淫魔が迸らせる筈だったフェロモンを代わりに放った西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)が彼等の誘導にあたる。
     その手口は淫魔と同じく、或いはそれ以上か、
    「幾分……涼しく……なりましたが……やはり……汗をかいて……しまい……ますね……」
     【紅白ノ衣】の圧迫に吐息した彼女は、徐に胸元を開いて雌の馨香を解き放つと、忽ちライダー達を魅了した。
     たゆんと揺れる危険な果実に、柔肌を伝う汗が視線を導く如く、臍から更に下り――気になる下着は魅惑の黒だと垣間見えた瞬間、
    「その前に……喉を……潤しに……ティータイム……と……まいりましょう……」
     と、踵を返されては堪らない。
    「うおぉぉおお供します!」
     ライダーらは鼻息荒く玉緒に追従し、店内へと案内されれば、彼等を迎えるは王者の風。
    「いいか! ここから一歩も動かないで下さいね!」
     津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)の澄み切った黒瞳は、邪心を抱いた彼等にやけに鋭く突き刺さる。その声にすっかり毒気を抜かれた一同は、颯爽と去り行く玉緒と陽太の背を只管見送った。

     一般人を守ると同時、淫魔を確実に灼滅する戦術を、彼等は既に遂行している――。
    「ぬき足……さし足……カギかくし……」
     聖と日和が峰子を惹き付ける間、停められたバイクより鍵を抜き取るは愛良・向日葵(元気200%・d01061)。
    (「これ、ついたままです」)
    (「カギはきちょうひん袋に、と」)
     先行する華夜が確認し、差したままの鍵は向日葵が用意した巾着に入れていく。戦闘が終わるまで大事に預かるのが彼女の役割で、大任の所為かあどけない幼顔もやや凛然。
     淫魔が異変に気付いたのは、日和が百物語『禁断の触手』を紡いで幾許の時を経た頃か、
    「……あら?」
     人気がないと感じた時には、沈黙したバイクの傍に灼滅者らが陣取っていた。


     玉緒と陽太が戻る迄は包囲網も完璧には敷けぬ――、ならば先ずは退路を阻むべしと、一同の意は一致している。
    「な、に……貴方達……」
     不穏な気配に警戒した峰子が真っ先に見たのは己のバイクで、
    「どうやら逃げ癖があるですね」
    「きゃっ!」
     その思惑を読んだ華夜は、一瞬の微動にも彗星の如く矢を降らせて牽制し、犀利なる眼差しに敵躯を縫い止めた。
     忽ち周囲に衝撃が散るが、莉奈が戦闘音を遮蔽したお陰で外に漏れ出る不安はない。
     それ故に莉奈本人も熾烈なる攻撃を躊躇わず、
    「お持ち帰りしたライダーさんってどうしてるの?」
    「ッアアァ!」
     言は天衣無縫たる軽やかさながら、繰り出す槍撃は烈しく疾風を立てて敵懐に迫った。
    「ッ……フ……フフ、知りたい?」
     激痛に踏鞴を踏みつつ峰子が不敵に麗顔を持ち上げたのは、莉奈の――その愛らしい唇に獣欲を昂らせたからで、
    「貴女も私の花園に来れば分かる事よ?」
     と蠱惑的な囁きを旋律に乗せた。甘く狂おしい調べが、唇を擦り抜けて乙女を誘惑する。
    「お持ち帰りはご遠慮下さいませ」
     然し、その音色は主に投げ入れられるように前進した翼猫イサの肉球パンチに霧散され、追撃に射出された白布が肺を強襲すれば、峰子は歯噛みして魔曲を止めるしかない。
    「ふぅクッ、……生意気な」
     睨め付けられながらも微笑を崩さぬ白雪の佳顔が余裕を見せ付ける。
    「蹴散らして頂戴ッ!」
     峰子の焦燥に反応したバイクはギャンッとエンジンを噴かして突撃し、迫る鉄塊には2枚の盾――エスアールとソウル・ペテルがそれぞれ機銃掃射と霊障波を以て邀撃する。爆ぜた衝撃は波動となって戦場を駆け抜けた。
    「んん、がんばるよ! 回復はまかせてね!」
     爆風に三つ編みを揺らしながら、向日葵は木漏れ日の如き暖光を注いで癒力を高める。彼女はその優しさと過去の記憶の故にか、小さな傷をも許さぬ気概だ。
     初手にドーピングニトロにて闇の力を覚醒させた日和も覇気十分、
    「旧時代淫魔なんかに負けやしない!」
     と、時代を倒錯した敵とバイクに言い放つ。
     然し当初にヘイトを稼いだツケが回ったか、
    「貴女のプライドごと陵辱したかったの!」
    「ひぎぃ! 轢かれるの気持ちいいのぉ!」
     2コマで堕ちた。
     背後から迫ったバイクに脚を割られ、眼前に接近した峰子にはブーツを擦り付けられ、迸る色香に理性が汚辱へ沈もうとした――その時。
    「それ以上はさせない!」
     一般人の誘導より戻った陽太が、合流と同時、無双の怪腕にて割り入った。
    「きゃアァンッ!」
     峰子は鋭爪に引き裂かれて後退し、身を包む漆黒に白い肌を暴くと、そこに鮮やかな血潮を流す。
    「痛……ッ、フフ……じゃあアナタが代わりに慰みになってくれる?」
    「、っ」
     嬌声の滲む悲鳴も、血染めた姿態も。淫靡に迫る峰子に陽太が調子を狂わされるのも無理はない。特に今日は愛槍を持たぬ心許なさも相俟って、その斬撃には戸惑いが見えた。
    「バイクを駆るより愉しませてくれないと……ね?」
     色欲に塗れた淫魔には、純真な彼より若しか聖の方が相性が良いか、
    「まぁ正直、アタシもバイク乗り回すより女の娘を乗り回すほうが好きかな♪」
     と、言ってのける様はまるで下卑たオッサン。魂を分つソウル・ペテルは呆れ気味だ。
     陽太が攻撃を差し入れた瞬間に身を滑らせていた聖は、颯爽と日和を連れ戻して癒しに包み、淫魔の愉しみを奪ってみせる。
    「ちょっと、返して!」
     玩具を取られた幼子のように駄々を捏ねた峰子に、返ったのは封縛糸。
     妖艶なる肢体を容赦なく締め上げるは、玉緒だ。
    「やぁアアァンッ!」
    「ふふ……眼福……なのです……」
     痛撃に悶える様はサドっ娘の馳走――。峰子の喘ぎ声に薄らと笑みを湛えた彼女は、仕置きの時間とばかり緊縛を強めた。


     淫魔が早々に劣勢を味わう事となったのは、灼滅者らが戦闘前から主導権を掌握していたからだ。
     索敵から接触、一般人の誘導、そして逃走を阻む工作に至るまで、各々が役割を果たした事で戦術的に敵を取り囲んだ彼等は、その優位性を保ったまま今の戦闘を御している。
     感情の絆を繋ぎ合わせた事も、格上の峰子を相手取るに奏功したのは間違いない。
    「くっ……こんな子供達に遊ばれるなんて……!」
     自らの攻撃は悉くサーヴァントの壁に阻まれ、逆に己を守る筈のバイクは、莉奈と日和の双方より伸びた闇黒に身動きを奪われる。更に白雪のスターゲイザーが鉄塊を超重力に押し潰せば、彼女の盾は天駆けて双翼を成したクラッシャー陣の贄となった。
    「私の、バイクが……!」
     元よりバイクを先に潰すのが彼等の作戦。
     玉緒が焔の奔流に機体を呑み込み、陽太が鋭い帯撃をエンジンに突き入れれば、心臓を射抜かれたバイクは轟音に蒼穹を裂いて爆裂し、逃走の足が潰える。
     絶妙な連携を前に、歯噛みする間もない。
    「峰子ちゃんをいたぶるお楽しみタイム到来~♪」
    「キャアアァッッ!」
     突如、魔弾の軌道が視界に飛び込み、繊麗なる躯が激痛に撃たれた。
     叫声も甘く心地良い響きか、聖が嬉々として放った制約の弾丸は峰子を食い破り、隠された柔肌を暴いていく。
     追い込まれる姿さえ妖艶な彼女に、大人の色気を学んだ莉奈は、
    「フェロモン全開のコツ、莉奈に教えて欲しいのーっ」
    「嗚呼アアァァンッ!」
     と、授業料代わりに熾烈なるフォースブレイクを叩き込み、迸る色香をガン見した。ゆるふわな彼女も【piacevole*】を手に活き活きと立ち回る様は雷光の如く。
    「こんの、小娘……!」
     悪態は吐けども、峰子が身を癒して守勢に回るのも当然。
     彼等の攻撃が斯くも疾く鋭いのは、後方支援が手厚いからで、華夜が【大蛇】より帯の鎧を、聖が【ラブ・トラフィックサイン】より耐性を配って強化を尽くす傍ら、向日葵が癒しの矢を射て超感覚を引き出せば、剣戟は愈々峻烈を極め――。
     更に白雪は敵を狩るに魔力も財力も惜しまない。
    「逃がしませんわ?」
    「――ッッ!!」
     小気味良く語尾を上げた彼女は、逃走へと傾く峰子に勘付いたか、ルーンを刻んだ宝石に魔術を操りつつ、迫り出した【天獄門】に敵影を縛する。峰子の瞳の動き一つで退路が分かるのは、待機中に全てのバイクの位置を把握していたからだ。
     敵わない、と思った淫魔は変わり身も早く、
    「待って頂戴。私、今日は誰も狩ってないのよ? 見逃して?」
     小首を傾げて上目遣いに懇願する――正に小悪魔の嫣然。
     彼女はそう言って足に疾風を集めると、地を滑って華夜へと接近したが、
    「ライダー達の憩いの場を犯しておいて、そんな簡単に逃げられると思うなです!!」
    「くっあアァッ!」
     魅了して取り込む処か、黙示録砲の反撃に遭った躰は勢い良く吹き飛んで舗装路に叩きつけられる。断罪の光弾が脚を貫いたのは、彼女の逃げ足――機動力を奪う為だろう。
     更に絶望を突きつけるは日和のデスサイズ。
    「一般人のバイクは既に鍵を抜いてある。残念だったな」
     三日月の如く刃を耀かせる鎌が、一縷の希望すら摘み取る――残酷な瞬間。
     死角に回り込んだ日和は鋭い切先に峰子の背を開き、血飛沫と共に黒翼を裂いた。
    「嗚呼ぁぁああアアァァ!!」
     淫魔の証を穢された峰子は、突き上げる悲鳴に憤怒を滲ませていく。
    「クッ、フ……フフ……それなら抉じ開けるだけよ……! 強引に、ねッ!」
     包囲網の弱点は、一点突破すれば脱出し易い所だろう。峰子は渾身の脚蹴りで一角を薙ぎ払い、怒涛の火焔に隠れて脱出する算段だった。
     然し、
    「いきますよ……オーバーヒート……ゲイザー……」
    「!」
     刹那、艶かしい脚が相殺に繰り出る。
     光矢の如く疾駆した玉緒はフルスロットルのスターゲイザーを放ち、十字に切り結んだ互いの美脚は衝撃波を起こして樹木を揺すった。
    「ッッッ!」
     力と力、武と武の角逐――否、増強を得た玉緒と弱体した峰子には歴然たる差が生じており、之に圧倒された峰子は愈々戦意を手折られる。
    「……ひっ……」
     最早形振り構わず背を見せる峰子に、回り込むは向日葵と陽太。
     敵の挙動を具に視認できる前衛より、或いは戦況を冷静に見極められる後衛より、峰子を捉えていた両者は反応も逸早く、声が揃うも阿吽の呼吸。
    「逃げるの、ッメーー!」
    「逃がしてたまるかー!」
     向日葵は婚星の如き癒しの矢を放ち、その矢を受け取った陽太は軌道を一にして鋭槍となると、弾き出した巨杭の楔に敵の満身を撃ち抜き――地に沈めた。


     耳を劈く絶叫が天を裂いた後、代わりに聞こえ始めたのは車道を走り抜ける車の音。
     確かな手応えを得た拳を握り、着地した陽太は、振り返って胸を撫で下ろす。
    「ふう、なんとか一件落着ですね!」
     己の芯を通る一本槍を感じられれば、安堵も一入。
    「ん-、残り香とは最期まで妖艶な……」
     峰子の灼滅を見届けながら、すんすんと鼻を寄せて法悦の相を浮かべる聖には、傍らのソウル・ペテルもすっかり呆れ顔。
    「きんきゅーとはいえ、ぬいちゃってごめんねー」
    「その鍵は……こっちだ」
     向日葵は巾着の口を開いて優しく声を掛け、鍵を受け取った日和は勝手を知ってか次々にバイクへと差し込んでいく。ライダーらの足に傷一つ付かなかったのが幸甚。
    「一般人にも皆さんにも怪我がなくて何よりです」
     万一の場合はエスアールを走らせ、身を挺して一般人を守る覚悟だった華夜も、駐車場に戻り始める彼等の平穏なる姿に破顔する。
     高速道路に乗り出すライダーらを見送りながら、行き違うように施設へと駆け出す莉奈――その咲みが目指すは路面販売店で、
    「定番、ソフトクリームを食べるよーっ!」
     王道から地元ならではの味まで、勝利を味わうに相応しいラインナップを確認していたとは言うまい。莉奈はその瞳を星の如く煌かせ、注文したソフトクリームを至福の表情で舐めた。
    「成程……これがオアシスの所以ですね」
     彼女に続いた白雪は、彩りに溢れた甘味を前に興味津々、瞳は好奇に輝きを増す。この様子では、リムジンを長く待たせる事になるだろう。
     そうして一同は戦闘の疲れを甘味に癒したのであるが、
    「むぅ……フェロモン……は……解いた……筈……ですが……」
     唯一、解せぬと小首を傾げるは玉緒で、理由は――彼女を取り巻くライダー達。
     豊満なバストと、戦闘を終えて汗ばむ肌が彼らを呼び寄せたようだが、如何すべきか。
     戦闘より厄介な課題を前に返った苦笑が、彼等が見せた本日一番の笑顔であったという。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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