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「みんな、やったよ! 松戸密室掃討戦が成功して、アツシの密室に侵入することができるようになったんだ!」
みんなの頑張りだよ、と、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は声を弾ませた。
しかし、その明るさは長く続かない。
「でもね、バベルの鎖に感知されることを避けるために、潜入は少人数で行かなきゃいけないんだ」
アツシの密室は松戸市内のライブハウスにある。
地下から侵入できる密室には、アツシしかおらず、配下や一般人もいない。
そのため、ライブハウス密室での戦いは正面からとなるだろう。
しかし、アツシは強敵だ。
正面から戦ったとしても、油断せずに、確実に倒すための戦いが必要となるだろう。
「そしてね、もし、みんなが敗北または撤退をした場合は、アツシも松戸の密室を廃棄して撤退しちゃうんだ」
まさに、正念場だ。
アツシは、『ハサミ』を武器に殺人鬼と同等のサイキック攻撃をしてくることが可能だ。
また、空間を切り裂いて、狙う相手の前にハサミを突き出して斬りつける他、素早い手さばきで遠近関係なく一人に複数のハサミを投げつけ、突き立ててくる。
どちらも、大きなダメージを受ける攻撃だ。
「しかも、パチンって指を鳴らして覇気を出すと、自分の傷を治しちゃうの」
危険な相手だけれど、松戸市のすべての密室を掃討して得られた千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないよね。みんな、密室殺人鬼アツシを必ず灼滅しようね!」
参加者 | |
---|---|
万事・錠(ハートロッカー・d01615) |
槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877) |
綾峰・セイナ(銀閃・d04572) |
銀・紫桜里(桜華剣征・d07253) |
ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718) |
四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781) |
只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402) |
有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751) |
●1
スピーカーから、リズム感のある曲が打ちだされている。
歌うにも、踊るにもよさそうな拍子は、聞いていて心地がいい。
しかし、そんなライブハウスの中にいるのは、密室殺人鬼であるアツシだけだ。
「ったく、どいつもこいつも役立たずばかりだ」
無造作に置いた椅子に座って、格好よく足を組んでいたアツシは、舌打ちをした。
入り口には、ライブハウスへ侵入した灼滅者たちがいた。
「よぉ、引き篭もり。篭りすぎて体、鈍ってねーよな?」
眼鏡ではなくコンタクトをつけたティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)は、口悪そうにアツシを挑発した。
アツシの口端があがれば、ティートは強い敵を前に自然と胸が弾む。しかし、今までの胸糞悪い事件を思い返せば、その気持ちは消えてしまう。
「すっげームカツク。……灰も残さず燃やしてやるよ、クズが!」
「弱い犬程よく吠えるというが……。言いたいことはそれだけか?」
「おいおい、出てこねェから、わざわざ逢いに来てやったのに、ずいぶんな言い草だな。テメェは何がしたかった?」
今にも飛び出しそうなティートを遮り、万事・錠(ハートロッカー・d01615)は顔を傾けながらアツシに目をおろした。
アツシは、組んでいた足をほどいて立ち上がる。
綾峰・セイナ(銀閃・d04572)は、胸の上で拳を作った。
いろんな人の頑張りがあって、ようやくたどり着けた場。この戦いは絶対に失敗できない。
「ここまで来たらもう小細工もなしよ。皆、必ず勝ちましょうね」
「うん、ここで、全て終わらせる」
有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)は、絶対にアツシを逃がさないと目をわずかに細めた。
四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)は、スレイヤーカードを手にしてアツシをみつめた。
アツシの事件によって何人もの命が奪われた過去を戻すことはできない。だが、未来の悲劇はここでとめられる。
「VITALIZE!」
悠花は、静かに気合をいれてスレイヤーカードを解放した。
●2
「ライブハウス……灼滅者としてだけでなく、アイドルとしても負けられませんね。テンションあげていきましょう!」
只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)は、スピーカーの音が広がるようにシールドを広げ、アップテンポな曲を歌いだした。衣装をまとって、歌いながら戦いだす。
槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)は、黄色の標識を前衛に伸ばして、立ち上がったアツシに備える。
「逃がしゃしねーよ、ここで終わらせる!」
「……いきます」
銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)は、自分を奮い立たせるようにつぶやいて、アツシの腱へ月華美刃ふるった。
ティートは、アツシを貫こうとダイダロスベルトを射だす。
アツシは、リズムよく弾んだ足で攻撃をかわし、鋭く光るハサミを握った。
前衛のセイナ、康也、ティート、錠は、互いに目を合わせ、アツシを壁側へ追い込み始める。
「引き籠って生涯終わる前に、俺等と遊ぼうぜ!」
錠は、アツシに牽制を兼ねてSt. PETERで斬りつけた。
妖の槍を手にするセイナは、よりアツシにダメージを与えられるよう、攻撃の持つ力を利用して自分を高める。
ニッ、と、笑ったアツシは、ステップを踏むなり、すばやい動きで錠を切り裂いた。
そして、遊んでいるかのように、くるり、と、ハサミを回すと、刃についた血が飛ぶ。
前衛と共にアツシを追い込んでいた雄哉は、絶対に逃がしてはならないと、アツシの逃げ道を目で確認した。
ライブハウス内にある出入り口は二つ。
灼滅者たちの入ってきた入口と、舞台側にある扉だ。
前衛陣によって、アツシが扉とは反対側の壁へ追われて囲い込まれれば、そう簡単に舞台側の扉へ逃げだせないだろう。
悠花も同じことを考えていたが、逃げようとした時にすぐに動けるよう、自分たちの入ってきた入口と舞台側の扉の中間地点に立った。そこから前衛へ分裂させた小さな光輪を飛ばす。
アツシは、迫ってくる灼滅者たちを前に足を止めると、空間をスッ、と、切り裂いた。
その中へハサミを入れると、消えた先端がセイナの前に現れる。
「!!」
気づいた時には、突き出されたハサミがセイナを激しく傷つけていた。
すぐに悠花が治癒を施したが、一度では癒えきれない。
ティートは、炎をまとったエアシューズを蹴り放った。アツシの身に、ちり、と、した炎が宿る。
紫桜里は、少しでもアツシの枷になるよう、ジャマーとして様々なエフェクトを与えた。
攻撃ばかりだったアツシの身には、たくさんのエフェクトがかかっているはずだ。
「……やるじゃねぇか」
アツシは、頬についた傷を親指でぬぐい、ついた血をなめた。
「さすが、ここまで来るだけのことはある」
「うっせーー!」
康也は、狼の姿をしたシャドウビーストにアツシを飲み込ませた。
うごめく影をかき分けるように、アツシが出てくる。
「避けようにも、足が鈍ったぜ。ただの力任せってわけじゃなさそうだな」
灼滅者が意識して与えていたエフェクトが効果を出した。
想像もしていなかったのだろう。深い声音に、感心が交る。
しかし、そんなアツシに対して危機を感じたセイナは、逃げる間を与えないように重心を前に傾け、すさまじい連打をたたきつけた。
アツシが防御のために前へ出した太く硬い腕をも打ち砕く勢い。
そこへ、間を入れずに、雄哉が鋼のように硬い拳を打ち入れた。
仲間の手前、強い相手と戦える喜びを抑えているが、どうしても、戦わずにいられなくなっているのを雄哉は感じている。抑えきれない衝動が現れた時は、わずかな笑みがこぼれる。
葉子は少しでも前衛の狙いが定まるように、ひたすら癒しの矢を射続けた。
BSが怖いので、キュアやBS耐性を前衛に与えたかったが、そこまで届かない。だから、遠くまで届くただ一つ技で援護をしている。
アツシは、前に出した指をパチン、と鳴らした。
熱をも感じそうなすさまじい覇気を放出し、かけられたエフェクトと傷を治す。
「この俺が、こんなことしないといけねぇとはな。遊びは終わりだ。生きて帰れると思うなよ」
●3
「わたし達は絶対に生きてここから出ます。だから、堕ちるわけにはいきませんし、堕とさせるわけにまいりません!」
悠花は、持てる技を駆使して、傷つく仲間を回復し続けた。
前衛後衛、単体複数、どちらも対応できる唯一の回復者。攻撃はしない。回復に徹している。
そこに目を付けたアツシが、いくつものハサミを悠花に突き立てた。
悠花の喉が、衝撃にのけぞった。
雄哉はすぐ白桜を癒しの力に変え、葉子はシールドを広げて悠花を癒すが、アツシは続けて悠花を襲った。
悠花の傷が目に見えて酷くなる。
灼滅者たちは、傷を負いながらも仲間を癒す悠花を救うため、なんとかアツシの目を自分たちに向けようと刃をふるう。
「どこ見てやがんだ、テメェの相手はコッチだ!」
錠はアツシの動線に割り込んであおった。
しかし、後ろで悠花の倒れる音がした。
康也は、ギリッ、と、唇を噛み、笑みを浮かべているアツシをにらみつける。
「もう好き勝手させねー、てめーはここでぶっ飛ばす! そんで、仲間は守りきる! ……俺はその為に、ここまで来たんだからな!」
康也は、吠えるように叫び、動きを戦闘から回復に切り替えた。仲間を一人でも救うためだ。失った回復の役を自ら担う。
「みんな、がんばりましょう! アツシが回復し始めたということは、弱ってきている証拠です!」
葉子は元気よく仲間を励ました。いつでも明るく前向きな葉子らしかった。
葉子は、アツシが自分にかけたエフェクトをなくすために、引いた弦をはじく。
しかし、戦況は悪くなっていた。
傷を大きく癒していた悠花を失ったことで、戦いに専念していた前衛たちが自らの力で回復をし始めていたのだ。
アツシの一撃が大きいため、葉子の回復だけでは足りない。
ティートとセイナは、自力で傷を癒す。
アツシは、空間を裂いて葉子を切り裂いた。
「……ファンに、必ず帰ると約束して……ますから……立たなきゃ……」
葉子には、立っていられる力はなかった。
被っている段ボールは、ところどころに穴が空いてボロボロになっている。
葉子は膝を追って地面に落ちた。
アツシは、さらに灼滅者たちに攻撃をしかけてくる。
「ティートさん、後ろ!」
紫桜里は、ティートの後ろへすばやくまわったアツシの存在に声を上げた。
ティートは、振り向きざまに武器を盾にしてハサミの先端を抑え込む。
雄哉は、攻撃に失敗したアツシのハサミがティートから離れるなり、拳を横っ腹に叩き込んだ。
アツシが煩わしそうに眉根を寄せて、雄哉へ向く。ハサミの持ち方が変わり、肩が動く。
そこに、傷だらけの錠が、アツシに食いかかるように斬りつけてきた。
「例え、首の皮一枚になろうが喰らい付いてやる。救えなかった後悔も力に変えて、密室で奪われた全ての命の無念、絶対ェ晴らす!」
「死ね」
アツシは、いくつものハサミを錠に突き立てた。
意識を手放す闇が、錠の視界を暗くした。しかし、すぐに光を取り戻す。
アツシをしとめるまで、倒れるわけにはいかない。
錠は、仲間に回復をまかせて、クラッシャーとしての一撃をふるった。
渾身の一太刀と引き換えに、ハサミが突いてくる。
「無茶するんじゃねぇよ」
ティートが錠をかばった。
ティートは、痛むはずの怪我をものともせず、シールドでアツシを殴りつけて自分に気を引かせた。
決して万全とはいえない体だが、仲間に無茶をさせられない。
「相手は、一人じゃないんだぜ」
ティートはアツシを挑発するように好戦的な笑みをうかべた。
アツシの口の端をあげると、体から放たれた殺気が前衛を襲う刃となった。
「一緒に逝け」
ティートと錠が折り重なるようにして倒れた。
康也は、前髪を留めている焼け焦げたクリップを触り、このままでは仲間を守れないと感じ始めた。
アツシは、回復することが多くなっていたが、着実に溜まっているダメージを抱えながらも、余裕を持っている。
セイナは自分で傷を治癒するが、いつまで体がもつかわからない。
雄哉は、確実にこの戦いを終わらせるためなら、手段を選ばない。
覚悟の時かもしれない。
だが、紫桜里だけは違った。
悠花の言っていた堕ちるわけにも堕とされるわけにもいかないという言葉を実現するため、上段の構えをとってアツシに斬りかかった。
すぐに、仲間も攻撃で援護する。
「これで……、終わりですッ!」
全体重を乗せて描かれた縦一文字が、アツシの体に一筋の傷をつけた。
「フッ、この俺が……か」
アツシは、ハサミを落として笑った。
息を荒らす灼滅者の闘志を見て、アツシは腰に手を当てた。
「あばよ」
その言葉を最後に、アツシの体は消えた。
●4
セイナは、アツシが消えた場所に落ちていたハサミを手に取った。
何か不思議な力を感じる。
「ねぇ」
セイナは、仲間と相談し、ハサミを学園に持ち帰ることにした。
灼滅者たちは、負傷者を抱える。
そして、一刻も早くとライブハウスを後にした。
作者:望月あさと |
重傷:万事・錠(オーディン・d01615) 四刻・悠花(棒術師・d24781) 只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 31/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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