風雲納豆城攻略戦

    作者:彩乃鳩

    ●風雲納豆城
    「近畿まで遠征しにきた甲斐がありましたね」
     葵のマークをあしらった旗がたなびく。
     水戸を中心に活動する納豆怪人は、我がものとなった城の天守閣で感慨を味わっている。
    「キケさん、セコさん。これで少しは、彼も浮かばれるでしょうか?」
    「はっ、納豆怪人様」
    「甘納豆怪人様も、草葉の陰で喜んでおりましょう」
     お供の二人が畏まる。今は亡き甘納豆怪人の部下二人は、主人の意によりライバルであり盟友でもある納豆怪人の元へと身を寄せていた。
    「近畿地方では納豆といえば、甘納豆を指す場合もあります。私と彼の想いを乗せた城が建つのに、これほど適した場所もまたないでしょう」
    「はっ!」
    「納豆と甘納豆――愛したものは違えど、その信念は互いに同じでした」
    「ははっ!!」
     高級スーツを着た美丈夫、といった外見の納豆怪人は。
    「貴方の信念は私が継ぎます。この城を足掛かりとして、納豆と甘納豆の両方の力で必ずや天下を……それまでは、あの役柄は預けます」
     納豆ではなく。甘納豆を手にして、恭しく口にした。
    「納豆怪人様なら、甘納豆怪人様もご納得されると思いますが」
    「アレはヤツが勝ちとったキャラだ」
     部下の薦めを、納豆怪人は頑なに拒否をする。
    「……私には、まだその資格はない」
    「その心意気、見事です」 
     今度声をかけてきたのは、安土城怪人の使いであるペナント怪人達だった。この城は安土城怪人から、納豆怪人に寄贈されたもの。ペナント怪人達も、葵の絵が描かれた柄となっていた。
    「安土城怪人様は、貴殿を買っておられる。この城と共に、我々も微力ながら力をお貸しいたします」
    「まだまだ、これだけではございません。数日後には、北征入道様のお力で、このお城は迷宮化され難攻不落の名城となるのです」
     納豆怪人は誠意をこめて、新しい戦力となったペナント怪人達に頷いてみせた。
    「ええ。あなた達には、感謝しています。安土城怪人殿に伝えておいてください。何か危急の際には、必ず駆けつけると」
    「御意。安土城怪人様もさぞやお喜びになるでしょう」
     城からの風景は、どこまでも続いている。
     城主となった怪人は、遠くを見下ろして呟いた。
    「見ているが良い、武蔵坂学園。亡き友の仇、必ず討たせてもらう」

    「小牧長久手の戦いで勝利した安土城怪人が、東海地方と近畿地方の制圧に乗り出したみたいです」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が、集まった灼滅者達に説明する。
    「安土城怪人は、東海地方と近畿地方に城を作り、ご当地怪人を城主として傘下に加えているらしいです。城という拠点を得たご当地怪人は、今まで以上に活発に世界征服に乗り出してくるのは間違いありません」
     城を完全に拠点化する前に、城主となったご当地怪人を撃退する。
     というのが今回の依頼だ。
    「相手は納豆怪人と強化一般人の二人。そして、安土城怪人から使わされたペナント怪人五体です。バニラ・ラビィ(少女は語らず道化を騙る・d33276)さんの調査により、発覚しました」
     一国一城の主となったご当地怪人達は、力を増しているようだ。
     その源は、どうやら天守閣の旗らしい。
    「城の中心には『ご当地怪人の旗』が翻っていて、この旗を引きずり下ろすと、ご当地怪人のパワーアップは無くなります」
     正面から戦っても構わないが。城に忍び込んで旗を引きずり下ろしてから戦えば、より有利に戦える。
    「ちなみに。この納豆怪人は、前に灼滅した甘納豆怪人の知り合いのようです。そのため、武蔵坂学園に対して戦意は高いでしょう」
     供をしている強化一般人二人も、元々は甘納豆怪人の配下だったらしい。
    「納豆怪人は、安土城怪人に恩義を感じています。いざ戦いがはじまれば、安土城怪人の為に懸命に戦う事でしょう」
     ダークネス勢力を増強させないためにも、叩いておく必要がある。
    「このまま城を放置すると、城が迷宮化され難攻不落になってしまうので、その前に解決してください。どうか、皆さんお気をつけて」
    「……城の迷宮化、かあ。ちょっと見てみたい気もするけど、そうなる前に頑張らないと」
     今回の依頼に参加する遠野・司(中学生シャドウハンター・dn0236)は、姫子の言葉に気合を入れ直した。


    参加者
    無道・律(タナトスの鋏・d01795)
    ウルフラム・ヴィーヘルト(鋼鉄のウルフライダー・d03246)
    雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)
    八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)
    クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)
    香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)
    グラン・スターライト(この男社長でヒーロー・d28548)
    バニラ・ラビィ(少女は語らず道化を騙る・d33276)

    ■リプレイ

    ●陽動
    「城攻めだー!」
     香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)が大声で叫ぶのに合わせて。
     専用のアーマーを装着。
     グラン・スターライト(この男社長でヒーロー・d28548)が納豆城に向けスタービームことオーラキャノンを撃ち込む。
     耳をつんざく衝撃音。
     開戦の狼煙が、高らかに上がる。城壁が燃えて、煙がもうもうと立ち昇った。
     今回、灼滅者達は二つの組に分かれ動いている。彼ら陽動班の役割は、出来るだけ敵を引きつけること。
     つまりは――
    「目立ったもん勝ち!」
     なのだ。
    「兵法通りなら水攻めとか兵糧攻めとかも楽しそうだけど、そんなのやってたら迷宮化が完成しちゃうもんなー。敵がどこに居るか分からないなら、向こうから出てきて貰うだけだもんね!」
     一人門番をしていたペナント怪人は、完全に浮き足立つ。
    「くっ、敵襲か!」
    「スレイヤーズ、Ready……Go!」
     グランが、腰を深く構え両拳を軽く叩き合わせ、一気に突撃した。
     他の者も続く。
    「城攻めかぁ……。まぁ陽動と判ってても手勢は割かなアカンやろから。せいぜい暴れ回るかぁ!!」
     クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)が幻狼銀爪撃で不意を突く。鋭い銀爪が、ペナント怪人を引き裂きにかかる。
    「同志を思い、義理を重んじる……心意気は敵ながら天晴なんでしょうが……私たちにも譲れないモノはあるんです、今回で終止符としましょう」
     雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)は距離を詰めて、鬼神変で攻める。
    「甘納豆のときもメンドカッタデスガ……今回もメンドソウデス。納豆の粘りをコンナトコで発揮しないデモイインデスガネ……」
     相変わらずの機械会話で鉄面皮。
     納豆怪人の知己たる、甘納豆怪人を倒した一人。バニラ・ラビィ(少女は語らず道化を騙る・d33276)は、昔の記憶を思い起こしていた。ウイングキャットのじゃじゃ丸は、リングを光らせる。
    「蒼の力、我に宿り敵を砕け!」
     スレイヤーカードを解放。
     翔は妖の槍を片手に突撃する。ペナント怪人は呻きながら後退する。
    「狙いは、納豆怪人殿か!」 
     ペナント怪人は葵のマーク。  
     手にするのは、粘り強い特別製の鋼糸だった。
    「安土城怪人様のためにも、お前達をこれ以上進ませるわけにはいかん!」
     重なった糸が、灼滅者達に絡みついて捕縛してくる。強固でしなやかな線は、ちょっとやそっとでは切れそうにはない。
    「うわ、何かネバネバする」
     ペナント怪人は、ジャマー行為で悪影響をばら撒いた。確実にこちらの足取りは鈍る。
     だが、灼滅者達も負けてはいない。
     バニラがラビリンスアーマーでキュアし。グランが炎を纏った閃光百裂拳、その名も爆炎ミリオンラッシュを叩き込む。
    (「出来るだけ、短期決戦に持ち込みたいところです」)
     菖蒲が神薙刃を振るい、翔は蛇咬斬で速攻をかけた。
     躱された流れ弾や攻撃が壁や門を破壊する様に、動いていたクリミネルが怪力無双を発揮する。
    「駄目押しや!」
     おもむろに敵を掴み。急角度でペナント怪人を投げ飛ばす。
    「ぐはっ! む、無念……」
     壁が大きく軋む。叩き付けられた怪人も、ただでは済まない。崩れ落ちる門番に、灼滅者達は息を吐く。
    「向こうが終わるまでこいつらを引きつけておかないとだね。負けないぞ―!」
     翔がダブルジャンプで城の正門を飛び越えた。
     城内に侵入して、内側から入口を開く。戦闘で傷付いた門は、重苦しく厳かな音で破られ。侵入者達を迎え入れた。

    ●隠密
    「遠野君も一緒に来てくれる? なら心強いよ」
    「ええ。よろしくお願いします」
     猫変身した司を肩に乗せ、無道・律(タナトスの鋏・d01795)は壁に足をかける。
    「よし、忍者活動ですね。任せて下さい」
     陽動班が敵の気を引いている間に、もう一つのグループは天守閣の旗を目指して忍ぶ。
     八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)は、クールに気取りつつも、内心ワクワクしていた。実は大の忍者好きなのだ。防具にしても忍装束、持ち物にはシノビマフラーに月刊「趣味の忍者」とくれば、その熱も相当だ。
    「COOLにMISSION遂行……気分はNINJA。ニンニンニニン!」
     この男NINJA、忍者に非ず。
     重度の日本フリーク、ウルフラム・ヴィーヘルト(鋼鉄のウルフライダー・d03246)も、ノリノリだ。
     陽動組が大きな音を立てている隙に、三人は壁歩きを駆使して裏から忍び込む。敵の視覚を避けるルートを通り、無用な戦闘を避ける為に声は潜め、物音も極力立てない。
    「おっと」
    「ここは足場が悪いですね」
    「手を貸すよ」
     外壁を伝い、時に互いを土台として登り、引き上げて。
     どうしても外からは登れない、巨大なネズミ返しに遭遇すると、今度は城内に入り込む。
    (「忍者の様に城に忍び込むのは……実は少し楽しみだったりします。頑張りましょうかね」)
     宗次郎が小石を投げてみると、床が抜けて落とし穴が出現する。律が廊下を慎重に歩むと、鴬張りの通路が鳴りかけて肝を冷やす。ウルフラムは間一髪でつり天井を避けた。
     抜き足、差し足、忍び足。
     灼滅者達は罠に気をつけて、上の階へと渡る。
    「しっ」
    「誰か来ますね」
     足音に気付き、三人は物陰や高い天井の壁に張り付く。警備をしていたペナント怪人達は、慌ただしく駆けていった。
    「正門から敵襲だ!」
    「出合え出合え!」
     陽動組が上手くやってくれているらしい。
     時折、派手に暴れている音が聞こえてくる。敵の目は完全に、あちらに向いていて城内は明らかに手薄となっていた。
     そのまま、内部でも壁を利用して、発見されないように気を配り。
     灼滅者達は、最上階へと足を踏み入れる。天守閣の中をうかがうと、そこには強化一般人と納豆怪人が座していた。
    「何やら騒がしいですね」
    「はっ、どうやら賊が侵入した模様」
    「灼滅者の襲撃かと。ペナント怪人殿達が、迎撃にしているのでお待ちを」
    「そうですか……灼滅者が」
     灼滅者、と。
     同胞の仇の存在を耳にして、納豆怪人の両眼には抑えきれない光が宿る。視線の先には、葵の旗がたなびいていた。灼滅者達は頷き合い、そろぞれ配置につく。
    「どうやら――鼠が既に近くまで入り込んでいるようですね」
     怪人の眉がピクリと動いた。
     部下達はその言葉に顔色を変えて、潜んでいた灼滅者達に気付きいきり立つ。
    「この!」
    「何奴!」
    「この場は、俺が引き受けます。先に行って下さい」
     宗次郎は仲間を先に促して、その場で交戦に入った。強化一般人の二人を引き付ける。
    「OK! ここは任せた!」
     ウルフラムが乱れ手裏剣で牽制し、強行突破を試みる。狙うは納豆怪人の背後の旗だ。
     だが――
    「笑止」
     納豆怪人は、腰の刀を抜くと。
     目にも止まらぬ剣閃で、全ての手裏剣を撃ち落とす。
    「灼滅者! 我が妖刀・ミツクニのサビと消えろ!」
     蒼白く輝く刀身が、異様な輝きを放つ。
     斬撃が衝撃波となって、灼滅者に嵐のごとく降りかかり。納豆怪人の前に、その前進は止められる。
     城の効果で力を増しているせいか、驚異的な集中力だった。
     そして、灼滅者達が逆手に取るのは、まさにその点である。裏手の壁に回っていた律は、わざと物音を立て注意を引く。
    「!」
     否応なく、納豆怪人の身体がそちらに反応した。
     その一瞬の相手の隙を突いて、ウルフラムは脇を抜ける。
    「腐ってる!」
     律が注意を散らすために、挑発も試みる。
     僅かに遅れて怪人の剣が振るわれるが、ウルフラムそれをかいくぐり。旗へと手を掛け、敵の象徴を一気に下ろした。

    ●合流
    「オッスオッス。コチラ現場のバニラちゃんデス。ただいま、納豆城の内外にペナント怪人達が続々と現れてマス」
     陽動中、バニラは暇なのか何故か現地アナウンサー風に動きを実況していた。こちらの班は、派手に暴れて回り敵の注意を引き続けていた。
    「そして、これがじゃじゃ丸画伯お手製の、ペイントアートデス」
     陽動作戦の為派手に暴れるのを許可したからか、じゃじゃ丸の不良っぽさも3割ぐらい増している気がする。スプレーを持って、城のいたるところに落書きを重ねているのだがーーしかも、これがやたら上手い。
     和風な城に、ホップな文字やらアートやらが咲き乱れていた。
     ……もちろん、ただ遊んでいるだけではない。
    (「バニラちゃんは奇襲攻撃サレネー様に周囲を警戒しておくデス。後城特有の隠し通路とか探して、見付けたらメモして、敵逃げた時に活用するデスヨ」)
     城を回りながら、目を光らせておくのは忘れない。
    「敵襲に注意ってね。警戒してるオレに奇襲は効かないっての! 全部返り討ちにしてやるんだからな!」
     翔は敵を引き付け目立つように立ち振る舞い。天守閣方向を目指して、DSKノーズで敵を探しては怪しい方へと向かって進んでいく。
    「爆炎ミリオンラッシュ!」
    「くっ!」
     炎を纏った拳に叩きつけ。追撃と言わんばかりにグランは、倒れこむペナント怪人に鬼神変を叩き込んで吹き飛ばす。
    「次は誰だ?」
     掛かって来いと挑発して手招きする姿は、どこまでも不敵だ。
     菖蒲は城内に入り次第一度大きい音をだし注意を引き、それ以降は無闇に大声や野次は控え進行を主体に動いていた。
    (「引っ張れる数は多いほどいいですし。旗取りの存在が早い段階で割れるのは防ぎたいところです――ペナント怪人を、また発見しました。あの奥です」)
    「……了解」
     周囲を索敵し、敵を見つけた際は接触テレパスで仲間へ通達し奇襲をかける。また、長期戦の態を成して味方が摩耗し始めると、時間があるときに心霊手術を施した。
     クリミネルも心霊手術をして戦闘を続行し、大きな音と破壊で注意を引いては、別働隊が旗を奪取するまで耐える。最悪の事態に陥った場合は、闇堕ちも辞さない覚悟だった。
    (「もし、旗が奪取できず……戦況が不利な場合は、全員で撤退出来る様にうちが殿が務めるんや」)
     灼滅者達の果敢な攻めに、ペナント怪人達は必死に抵抗した。
     特別製の鋼糸を使って、捕縛と足止めを徹底し。灼滅者達を上には行かせまいとする。
    「曲者だ!」
    「納豆怪人殿と、旗を守れ!」
    「上階に昇らせるでないぞ!」
     この膠着状態が、崩れたのはペナント怪人が三体にまで減った時であった。
    「あれを見ろ!」
    「旗が!」
     納豆城の最上階から、旗が無惨な姿となって落ちてくる。
     間を置かずして、灼滅者達の別働隊と納豆怪人達が姿を現した。その先頭は宗次郎であり、自分を追う様に仕向けて脱兎の一手で陽動組のところまで逃げ帰ってきた。
    「何とか、上手くいきました」
    「こっちは終わったから、加勢に来たよ」
    「敵も連れてきたけどな」
     敵味方ともに全ての戦力が一堂に会する。灼滅者達は再会を喜び合い、ダークネス達は苦虫を噛み潰した想いであったろうが。
    「納豆怪人殿!」
    「葵の旗が!」
    「……してやられました。貴方達に落ち度は、ありません。全て私の責任です」
     納豆怪人は、端正な顔を歪めて頭を振った。
    「こんなことでは、亡き我が友に笑われてしまいますね。私としたことが、あの程度で冷静さを失うとは」
    「納豆怪人様……」
    「かくなる上は、賊を全力をあげて討伐するのみ。皆さんの力を、お貸し願えますか?」
    「はっ! 一命にかえましても!」
     首領の言葉に、部下達は一斉に畏まる。まだ、戦意は衰えていない。
     灼滅者達は改めて、戦闘態勢に入った。
    「いざ参る! お命頂戴!」
    「水戸納豆怪人かー。お供が二人居るし時代劇みたい―!」
     翔のグラインドファイアと、納豆怪人の斬撃がぶつかり合う。
     荒々しい炎の火の子が舞い散った。

    ●落城
    「確か……以前に同じクラブの人が戦った相手が居ますよね。納豆のように粘っこい腐れ縁もここまでです」
    「殲滅戦やな」
     宗次郎はポジションをディフェンダーからクラッシャーに変えて、ラビリンスアーマーで守りを固めてから攻め入った。クリミネルはオーラキャノンで続き。菖蒲は怒り付加で、怪人と護衛役の行動を阻害し連携を撹乱する。
    「納豆怪人様!」
    「大丈夫です。慌てず、目標を見失わないように。甘納豆怪人でも、そうするでしょう」
    「――甘納豆は濡れ納豆ともいって、僕の祖父もよくお茶うけにしてるよ。最高級は京都丹波の大納言というからね。矢張り近畿が本場なのかな」
     メディックの律は仲間と声を掛け合い連携。
    「水戸の納豆も美味しいし健康的で大好きな食品だ。アグレッシブな甘納豆、紳士的な納豆……材料と製法は全く違うけど、彼等の魂は共鳴してしまったんだね……」
     重複は避けて、ディフェンダー陣にイエローサインをかける。
     その横では、ウルフラムが熱心にメモをとっていた。JAPAN☆LOVEを極める者として……NATTOUの存在は避けて通れない!
    「やっぱり初めての納豆は本場のモノを食べたい! そういうわけなので勝ったらお土産にNATTOUください、炊き立てご飯と食べたい」
    「はん! 何を呑気なことを!」
    「敵に塩……もとい納豆を送る輩がどこにいる!」
     強化一般人の二人は、ウルフラムの要求を突っぱねようするが。納豆怪人はそれを制して、笑って頷いた。
    「良いでしょう。私に勝ったら、極上の水戸納豆を献上します」
    「な、納豆怪人様?」
    「いついかなる時でも、自分が愛したご当地品の布教を怠らない。たとえ相手が敵であっても……その精神は、彼と私が等しくするものです」
    「GOOD! その約束、忘れるなよ!」
     ウルフラムは鏖殺領域でジャマー能力を高め、ドグマスパイクをお見舞いする。愛機のヴリッツシュバルツは、味方の盾役となる。
    「じゃじゃ丸、そこでパンチデスヨ」
     ウイングキャットが肉球パンチを振るい。主人たるバニラは怪奇煙で味方を回復する。連続した長丁場な戦いだ。シャウトは既に、心霊手術のために破壊してしまっていた。
    「貴方のことは知っていますよ、バニラ・ラビィさん。私の友人が、大変お世話になったそうですね」
    「やっぱり、甘納豆の知り合いだけあって、メンドウソウな奴デス」
    「彼の死に際を看取っていただけたことにお礼を。そして、必ず仇も打たせてもらう――セコさん、キケさんのフォローを!」
    「はっ!」
     旗を失ってパワーダウンをしたにもかかわらず。
     納豆怪人の剣は、鋭く冴えわたる。状況を良く把握し、配下に対する指示も的確だ。部下達の方も、良く統率されて瞬時に上の命令に呼応した。
     乱戦の中、グランは最後の切り札を抜く。
     ――さぁ、本当の戦いはここからだ!
    「ビルドアップ!!」
     スレイヤーカードに星のエンブレムが描かれたカードカバーを装着。赤いアーマーの上に白いアーマーが装着され、龍型のバスターライフルを構える。
    「ターゲット、ロックオン!!」
     カメラアイと連動したターゲットスコープが敵を捉えた。
    「ドラゴニックブラスター!!」
     両足で地面を踏みしめバスタービームを発射。地面を抉りながら後ずさる。
    「納豆怪人様!」
     龍の顎を模した砲身から放たれる、光の奔流が怪人を飲み込んだ。更に、そこへ菖蒲のご当地ビームが直撃する。
    「ッ! こ、これは、彼の力……?」
    「効果があるようなので、ガイアチャージできないか試した甲斐があったようですね」
     菖蒲が放ったのは甘納豆ビームとも呼べる代物だった。納豆怪人には効果覿面の様子で、たまらず片膝をつく。
    「納豆と甘納豆入が手を組む? 笑えるわ!! 赤飯に納豆を掛けて食べる位あり得んやろ!!」
    「……意外に美味かと思いますがね」
     好機を逃すまいと、クリミネルが鈍色の墓碑で相手を叩き潰しにかかる。納豆怪人は切り替えすも、どこか弱弱しい。
    「迷宮化されたら流石に笑えなくなりますので、確実に此処は落城させて頂きますよ」
    「共感しない訳じゃないけど、僕等にも譲れない意志がある。せめて旅立つ先で仲良く納豆愛を温められるように祈ろう」
     宗次郎が弱った相手に影喰らいを放ち、他の面々も総攻撃をかける。大将が衰弱したダークネス側は、徐々に押され出した。
    「納豆怪人殿、我々が盾となります。ここは一旦退き、捲土重来を」
    「……しかし」
    「水戸には戻れば、置いてきた手勢もおありでしょう。ここで倒れては、甘納豆怪人殿も浮かばれません」
    「くっ、かたじけない……」
     強化一般人二人を連れて、怪人は離脱の動きを見せた。 
    「敵が逃げるよ」
    「RIN-PYO-TO-SYA、以下省略……! 忍法・乱れ手裏剣!」
     無数の手裏剣の乱舞が、納豆怪人へと迫るが部下達がそれを身体を張って止める。ペナント怪人達も灼滅を恐れず壁となる。捕縛の影響により命中の精度も、知らぬうちに下がっていたこともあり。
     全てのペナント怪人を滅したときには、納豆と炊き立てのご飯が目の前にあるだけだった。律儀に約束を守ったらしい。
    「まだ、他にも秘密の隠し通路でもあったようデスネ」
     バニラは逃した敵の姿を探すが、どこにも見当たらない。
    「水戸納豆が茨城離れてこんなトコまで来てるなよなー。大人しく地元で納豆広めてればいいのにさ。ま、美味しく頂いてやるけどさー。城攻めとかゲームの中だけで良いってのー」
     とにかく、当面の目的は達した。灼滅者達が柱を幾つか破壊すると、主を失った城は倒壊を始める。
    「MISSION COMPLETE!」
     崩れ行く城を見やりながら。
     NINJAポーズを決めるウルフラムは、初めての納豆を堪能し感動に浸っていた。

    作者:彩乃鳩 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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