血の繋がり

    作者:相原あきと

     電灯が灯る公園。
     その男はいつもの少女を影から見ていた。
     少女は高校2年生、受験に備えて塾通いだがいつも家への近道たるこの道を通る。
     男はその少女を毎日見ていた。
     チャリ。
     首から下げたハーフコインのトップがついた首飾りを節くれだった手で触る。男の癖だ。
     最近、少女が逃げるように小走りで家へと帰る。まさか気づかれているのだろうか。
     少女が家へ帰るのを見つめると、男――黒淵・真也(くろぶち・しんや)――は暗がりへと帰って行く。その先に、深い闇が口を開けているとも知らず……。

     翌朝。
    「おっはよー!って、顔色悪いけど大丈夫? もしかして、塾帰りにつけてくるストーカーに何かされたんじゃ……だからあれほど警察に――」
    「別に大丈夫……ストーカーとは会わなかった……」
    「そ、それならいいけど……片親だからお母さんを心配させたくないって言うのはわかるけど……」
    「私、今日は学校行かない……」
     少女は親友にそう言うと学校とは違う方向へと歩いていく。
     親友は少女を止めようとするが、やはり何かあったのだろうか……少女が親から貰ったネックレスを触っているのに気がつき言葉を飲み込む。
     こんな時の少女は決まって物心付く前に出ていった父親への想いを募らせているのだ。名前しか知らないその父親と、彼女の母親と3人で再び暮らす夢を妄想し心の安定をはかる。
     だから親友は少女を一人にしてあげようと思い。
    「マヤ、お昼は一緒に食べようね。学校で待ってるから」
     少女の親友はそう言い残し学校へと去って行った。
     マヤと呼ばれた少女はその後ろ姿を見送り、ぼそりと呟いた。
    「お昼はいらない……だって、これから食べるから……」
     ポツリ……、マヤの頬に雨粒が落ちる。
     雨が、暗い空から降り始めた。
    「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が……来たようだな」
     教室に集まった灼滅者達を見回して神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が呟く。
    「今回お前達に解決を依頼したいのは、闇堕ちしたマヤと言う少女が起こす事件だ。だが、事件のあらましを説明する前に一つ聞かせてもらう、ヴァンパイアは知っているか?」
     ヴァンパイア――ダークネスの貴族とも称される種族であり、また闇堕ちの際に元人格の関係者を1人、自身と同時に闇堕ちさせるという厄介な性質を持つ。
    「ヴァンパイアの名は黒淵真也(くろぶち・しんや)、だが今回の事件を起こすのは黒淵と同時に闇堕ちした少女――マヤだ」
     ヤマトは一つ溜め息を吐くと続きを語る。
    「マヤはある夜、黒淵がダークネスになった時に同時に闇堕ちしたのだろう。普通ならすぐに元人格は乗っ取っられる所だが、マヤは辛うじて意識を残している状態だ。だが、このまま放置すれば完全に闇堕ちする」
     ヤマトは苦々しく遠くを見ると、意を決して灼滅者達の目を見つめる。
    「もしマヤが灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出してくれ。だが、完全なダークネスとなってしまうようであれば……その前に灼滅してくれ」
     ヤマトは続ける。
    「マヤは現在行方不明だ。だが俺の全脳計算域(エクスマトリックス)がお前達の生存経路を導き出す。数日後、雨の降る日にマヤは実家近くの公園に現れる。そのタイミングなら彼女に会う事が可能だ。雨のせいで人気も無いから戦闘を行っても騒ぎにならないだろう。雨の日まで数日、何か調査したい事があるならしても良いが……」
     それより……とヤマトは続ける。
    「ヴァンパイアは強敵だ。まだ完全に闇堕ちする前だが、普通に戦ってはお前達でも無傷ではすまない。できるなら……元人格に呼びかけ説得するんだ」
     説得が成功すれば彼女の戦闘力は大きく下がるだろう。戦う事が避けられないとしても、だ。
    「マヤの情報は渡しておく。説得の際には彼女の望む夢がキーポイントになるだろう。逆に絶望させるような事を言えば……説得は失敗するだろうな」
     そしてヤマトは彼女がストーカー被害にあっていた事や片親である事、さらには今回は現れないが事件の発端となった黒淵やその癖なども情報を与えてくれた。
    「マヤと戦闘になった時の話をしておく。彼女はヴァンパイアのサイキックを使用してくるが、攻撃目標は執拗に1人を集中してくる。誰を狙うかは感情的に判断するようだ。挑発すれば対象を変えられるだろう」
     だが、その方法を取った時に元人格が怒るような内容を言えば、せっかく説得に成功していても彼女は裏切られたと感じてその途端に完全に闇墜ちする可能性もある。説得しないのなら何を言っても良いが、説得が成功していた時は注意した方が良いだろう。
    「それと……一つ気になる事がある。聞き流して貰っても構わないが、実はヴァンパイアが2人ペアで闇堕ちする場合、端から見たら解らなくとも、その2人は理由を聞けばお互い納得するような繋がりがあるらしい……マヤと黒淵、どんな繋がりがあるのだろうか?」
     自然とポーズを取るヤマトだが、気にしても仕方がないと切り替え灼滅者達へと向き直る。
    「絶対に油断はするな。相手はヴァンパイアだ。説得が成功する事を祈るが、それで救えたとしても後味の悪い結果になるだろう。覚悟を決めて向かって欲しい」


    参加者
    伊舟城・征士郎(月色の鬼・d00458)
    鳥賀陽・柚羽(常葉の比翼・d02908)
    レイン・ウォーカー(隻眼の復讐者・d03000)
    日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)
    彩城・海松(虹彩珊瑚・d04505)
    白石・茜(女子高生魔法使い・d07850)
    ジョー・ビセット(高校生ダンピール・d08483)
    西院鬼・織久(中学生殺人鬼・d08504)

    ■リプレイ

    ●暗い雨の日
     ダダダと傘を叩く土砂降りの雨が、灼滅者達の足元で跳ねて裾を汚している。
     公園に集まった八人はすでに情報交換を終わらせ、誰もが無言で彼女が来るのを待っていた。
    「小雨になったようだな」
     北欧系で中性的な顔立ちをしたジョー・ビセット(高校生ダンピール・d08483)が傘をずらして空を見上げる。
     まだ空は曇天のままだ、小雨になったのは天の気分といった所か。
     灼滅者が行った事前調査は、主にマヤの自宅を訪れた事でほぼ完了した。
     その表札に記された苗字は……『黒淵』。
    「目的の為とはいえ、あのような不埒な行い、できれば行いたくなかったのですが……」
     家を訪ね母親から詳しい話を聞いた後、伊舟城・征士郎(月色の鬼・d00458)はマヤの母親の記憶を曖昧にするため吸血捕食を行ってきた事を思いだす。
     征士郎は白石・茜(女子高生魔法使い・d07850)、レイン・ウォーカー(隻眼の復讐者・d03000)ら三人で母親から詳細な話を聞き出していた。
     マヤ――黒淵真夜――の父親は黒淵真也で、確定だった。
     傘の外に手を出し雨の強さを確かめつつ日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)が友人から聞いた話を反芻する。
    「マヤさんは、お父さまの事を心の底から信じていらっしゃったようです。いなくなったのは仕方が無い事情があって、いつか戻って来て……くれると……」
     思わずマヤに感情移入し、胸の奥から込みあげてくるものをぐっと我慢する翠。
     同じく友人に話を聞いていた茜が年下の翠の頭に手を乗せる。
    「マヤがストーカーに被害にあっていたのは事実のようです。そしてストーカーの目撃情報こそありませんでしたが……」
     ストーカーについて調べていた西院鬼・織久(中学生殺人鬼・d08504)がそこで言葉を切る。
     繰り返さずとも皆解っていた。マヤにストーカーと勘違いされながらも見守っていた男こそマヤの父親、黒淵真也である、と。
     その事実は、つまり――
    「ひどい話だよ。毎日隠れ見守っていたのなら、その先に家族が出会える未来もあったはずなのに」
     ぶっきらぼうに言い放つの鳥賀陽・柚羽(常葉の比翼・d02908)に、彩城・海松(虹彩珊瑚・d04505)が続ける。
    「ヴァンパイアは許さない。あいつらの快楽の餌になんてなってたまるか。でも、マヤさんは助かる道があるかもしれない、それなら、ちゃんと手を差し伸べたい」
     その言葉に灼滅者全員がこくりと頷いた。

    ●静寂の飛沫
     水溜まりにいくつもの波紋を落す小雨は止まず、昼間だと言うのに公園に陽の光は無かった。
     やがて静かな雨音に紛れて一つの足音が近づいて来る。
     その足音は灼滅者達の数メートル前でピタリと止まった。
     数日間着続けられて女子高の制服に、雨に濡れて張り付いた黒い髪、そしてその首元からはハーフコインのトップがついたネックレスが見えた。
     マヤは傘も差さずうつむいたままそこで止まる。
    『なんだお前達は?』
     マヤの口から低くくぐもった声が漏れる。それと共にドス黒い殺気が放たれ灼滅者達が持っていた傘が一斉に吹き飛ぶ。
     色のついた黒い暴風、相対した者はそう表現するに相応しい殺気を感じ、己の中の殺戮の飢餓感を刺激された織久が大鎌をその手に出現させ、茜も「展開」と呟きその手に殲術道具を呼び出す。
    『ほう……お前達、この私に敵対するつもりか? ハハハ、愚かな』
     顔を上げたマヤの瞳は、真っ赤な狂気に染まっていた。
    「もう真夜の意識は残っていないのか?」
    『ハハハ、いいや! 残念ながら残っているとも。父親と暮らす夢を叶えるまでは……と必死に、な』
     ダークネスのマヤはジョーの問いかけにそう答えると、ふむと腕を組んで八人を見据える。
     それなら……と翠が織久と茜の脇を通り、マヤの前へと立ち塞がる。
     武器を構えた二人が翠に危険を喚起するが大丈夫だと手で制してマヤを見つめる。
    「真夜さんの夢、わたしもお手伝いしたいです」
     マヤは何事かと目を細める、が翠は気にせず声をかける。
    「わたしは両親を事故でなくして妹と2人きりです。両親にはもう会えません。でもマヤさんはまだ希望がありますです。ネックレスっていう手がかりだってあります。どうか諦めないでくださいです」
     翠が真摯に訴える中、にやにやと笑っていたマヤがネックレスの部分でピクリと表情を変える。
    『ほう……お前達、どうやら真夜の父親について知っているようだな。ハハハ、これは良い。一つ確認させてくれ、お前達は真夜を助けに来たのだな?』
     当たり前だ、との返事にマヤは満足気に頷くと目を細めて笑った。
    『真夜、聞いたか? 彼らはお前の味方のようだ……味方と言うこやつらから聞けば、お前も何が真実か理解するだろう』
     そう言うとがくりとマヤは頭を垂れ、ゆっくりと首を持ち上げると……そこには殺気の無い、空ろな瞳の黒淵真夜がいた。

     雨に撃たれ水が滴るままのマヤは、どこか遠くを見るかのように灼熱者達へ顔を向ける。
    「あの子が言うの……私のお父さんはヴァンパイアで……もう、戻って来ない、って……」
     あの子とは真夜の中にいるダークネスの事だろう。呟くほどのか細い声でマヤが呟く。その声の中に微かな希望を諦めていない必死さが見て取れた。
    「私はお父さんとお母さんと普通の家族として生きていきたい……あの子が言うように、ヴァンパイアとなって皆で生きるしか道が無いなんて……嫌なの」
     マヤの心の底からの叫び、それは灼熱者達には『助けて』と言っているように聞こえた。だから―― 
    「そうです。君が闇堕ちすれば家族で暮らす夢は叶わない。 夢を叶えたいなら、俺達と同じ灼滅者になるのがいいよ」
     小学生の柚羽がマヤへの説得を開始する。その言葉に嘘は無い、ただ父親の可能性に触れていないだけ。
    「私の気持ち……解ってくれるの?」
    「わかる。俺も大切な双子の姉がいる。俺が闇堕ちしていたらもう一緒にいられなかっただろうと思うと、魂が引き裂かれるみたいで辛いよ」
     そんな想い、キミにもしてもらいたくない。
     同じく小学生の征士郎が柚羽に並ぶ。
    「このまま進むと貴女は、いずれ親友すら『餌』としか思えなくなる。人も鬼もどちらを選んでも絶望なら、いつか絶望が希望へ変わる可能性の未来を選んで下さい」
     穏やかな口調で征士郎が伝える。その真摯な想いはマヤに伝わっただろうか。
    「ありがとう……あなた達が私の事を想ってくれてるのは解った……でも――」
     父親と暮らす夢は、そう続けるマヤに2人は返す言葉が無い。それは彼女を絶望に落とす言葉になる、だから無言でしか答えられなかった。
    「ねぇ……あの子が言う話は、やっぱり……本当なの?」
     空虚に瞳に僅かに狂気の炎が灯る。
     いけない! ダークネスが説得の時間を明け渡した理由を灼熱者達は今になって思い当っていた。
     ダークネスは自分では堕としきれなかった最後の一押しを、味方と言った自分達の口を使って堕とすつもりなのだ。
    「ねぇ! 答えてよ!」
     今にも膨れ上がって行く闇の波動を肌で感じとり、今度は海松が前へ出る。
    「一つ言っておく。父親と母親、三人で暮らす夢を叶えたいと望むなら、ダークネスになってはその夢は叶わない」
     自身の夢の話を切り出されマヤが口をつぐむ。
    「一人で苦しまないで、俺達と一緒に行こう」
    「え?」
     海松の口から出た言葉はマヤの予想外の言葉だった。
     一緒に行く? 一人で苦しむな? ちがう、私は家族で暮らす夢を叶えたいから――
    「完全にダークネスとなってしまったら、あなたは本来の人格とは全く別のモノになってしまいます」
     マヤが混乱する間に割って入って来たのはレインだ。
    「そうなったら最後、あなたが大切にしている想いも消え、夢を見ることもできなくなってしまう」
    「じゃあ……あの子が言う様に全員でヴァンパイアになるのは……」
     マヤに対し落ちついて首を横にふるレイン。
    「だけど……お父さんがすでにヴァンパイアだってあの子は……」
     皆の横をすり抜けマヤの手を取るレイン。
    「あなたなら父親を……黒淵真也を救える可能性がある」
    「え?」
     レインの呼びかけは希望と言うには余りにも言葉の足りない不正確な説得だった。
    「あなたの夢を叶えるためにも、私達と一緒に……こちら側に来て黒淵を救おう」
     レインの言葉に震えた声でマヤが答える。
    「救……える、の? お父さん、を」
     もう父親は助からない。もう一人の自分がぶつけてくる言葉は本当の事だとマヤは心のどこかで理解していた。
     ダークネスの言葉を信じたくない自分と、本当の事だと理解できてしまう自分。
     その狭間で揺れていたマヤは、レインの父親を救えるかも、との言葉に光が差す想いだった。
    「本当に……救えるの?」
    「ああ、まずはマヤ、あなたを救ってみせる」
     マヤの目尻から流れる水滴は、降り注ぐ雨とは違う煌めきを持っていた。
    『ふ・ざ・け・る・な!』

    ●土砂降りの中で
     マヤの身体からどす黒い漆黒のオーラが柱のように立ち昇る。
     その口から洩れる声は、今までのか弱い少女のそれでなく、低く高圧的なダークネスの声だった。
     オーラが吹き上がった瞬間、数秒だけ雨音が消え……そして再び降り始めた雨は、豪雨となっていた。
    『何が救えるだ! 嘘を教えおって! そこまでして出来そこないの仲間が欲しいか!』
    「くっ」
     皆がそれぞれに距離を取りスレイヤーカードを解放する中、レインは握っていた手をはなせないでいた。
    『まずは貴様からだ。死ね』
     万力のような力で握られた手は、必死になるも抜け出せるものではなかった。
     マヤの手が鮮血の如き緋色のオーラに包まれ赤い軌跡を残してレインの胸が切り裂かれる。
     吹き飛ばされるレイン。
     慌てて回復を行う柚羽と翠、だがそれだけでは手が足りずにレイン自身もシャウトで回復をはかる。
     その一撃は思っていた以上の強さだった。さらにジョーがヒーリングライトで回復させるがそれが限界だ。
     あと1撃は耐えられるだろうが3度目の攻撃には耐えられないだろう。回復が追いつかないのだ。
     そう回復を行っている間、マヤには茜が鏖殺領域を使用し、海松と織久が共にティアーズリッパーで急接近して攻撃を仕掛ける。
     激しい雨の中、棒立ちになったままのマヤはその全ての攻撃を受けるが微動だにしなかった。
     ヴァンパイア……貴族とも称される種族であり、その個体は非常に強力なダークネスだ。
     ゆっくりとマヤが人差し指でレインを指差す。その瞬間、赤い光が雨を切り裂き胸を撃つ。
     胸を貫き飛び散る鮮血が、降り注ぐ雨と混じって大地を汚す。
    『ハハハ、己が血の使い方も知らぬか。ヴァンパイアの出来そこないよ、お前は見ていて哀れだ』
     マヤが血に倒れるレインを見て高笑いをあげる。
    「おい、その程度の力で俺達の邪魔しようとか思ってんのか?」
     レインへの射線を塞ぐように立ったのは海松だった。
    『ほう。その言葉、そっくりそのまま返そうか』
     マヤが再び人差し指を上げつつ問う。
    「それは……やってみないとわからねーだろ!」
     マヤが赤い弾丸を放つと同時、海松もまたギルティクロス放っていた。
     両者の間で赤い光がはじけて相殺される。
    『良いだろう。次はお前だ』

     激しい雨の中戦いは続く。
     すでに海松はレッドゾーンに突入し、今はマヤを挑発して征士郎が新しい囮となっていた。
     柚羽と翠、ジョーの3人がフル回転で傷ついた仲間を癒し、レインと海松も自己回復を行う。
     実質、常に攻撃を続けているのは茜と織久の2人だけだった。
    『ハハハ、守りに徹すればいけるとでも思ったか? さぁ、次はそちらのビハインドも消すとしよう』
     通常の灼滅者の半分のHPしか持たない征士郎が二撃で戦闘不能となり、そのままマヤはビハインドを狙って攻撃を続けている。
     挑発すれば狙いを変える……敵の習性を利用して戦略を立てていたのは2人だけだ。
     そしてその2人が限界となった今、次からは誰が重傷になってもおかしく無い。
     ビハインドが消滅し、マヤは次の相手として先ほどから常に攻撃を続けてくる2人を見つめる。
    「手加減など出来ませんね」
     茜が無敵斬艦刀を担ぐように振りかぶると、斬るでも切るでもなく、押し潰すように上段から振りおろす。
     マヤはその刃を片手で受け止めると、空いているもう片方の手に緋色のオーラを集め始める。
    『次は――』
    「ヒハハハハハハ!」
     マヤの言葉を遮って大鎌が振り抜かれる。己の中の衝動が漏れるままに一度、二度、三度と織久の鎌が乱舞する。
    『ちっ』
     闇堕ちと見間違えんばかりの凶行に思わずマヤが茜を放り投げ、オーラを集めていた手で織久を牽制する。
     その行動に茜と織久は顔を見合わせる。今まで攻撃をし続けてきた2人だから解る違和感。
     良く見れば時にマヤは胸を抑えるように苦しそうな表情が見て取れた。
     圧倒的な攻撃力と、降り注ぐ雨に視界を遮られ気が付かなかったのだ。
     だが、視界を遮られていたのはマヤも同じだった。
     ガシャン、という音に思わず背後を振り返る。
     そこには肉体すら凌駕して立ちあがった征士郎が武器を持たずに立っていた。
     あまりの至近距離に反応が遅れ、征士郎は……マヤの腰に手を回して抱きしめていた。
    「マヤさん、負けないで下さい。僕達は貴女の幸せな未来を願っています」
     その言葉と共にマヤが一時的に硬直する。
     説得が成功していなかったら、こんな隙は生まれなかっただろう。
     灼滅者達の攻撃がダークネスへ殺到する。
     土砂降りの雨の中で、ヴァンパイアになりかけた少女の影に7つの武器、攻撃が突き刺さった。

    ●まだ晴れたわけじゃないけれど
    「助けてくれて……ありがとう……そう、言っても、いいのかな」
     そうマヤは灼滅者達に言った。
    「どうだろうね、君を助けたのはエゴかもしれない。でもどうか君は助かって欲しいんだ」
    「ええ、もうあなたが夢見るように家族3人で暮らす事は無理かもしれない……それを解っていて私は……」
     柚羽とレインがマヤに言う。
    「でも、あなたの言葉は私の胸を打った。あのままヴァンパイアになっていたら、私はその夢すら見る事はできなくなっていたのだから……」
     ありがとう、そうマヤは再び言う。
    「あなたの日常は壊れてしまったかもしれないわ……だけど、新しい日常を作る事はできると思う」
     茜の言葉に嬉しいような悲しいような表情で頷くマヤ、心の整理はすぐにはできない。
    「時間がかかるかもしれないけど、ね」
     ええ、とマヤは茜に笑顔を向けた。
     そんなマヤに皆が学園に来ないかと誘う。
    「正直なところ灼熱者になったからといってマヤの夢が叶うか、といえば分からない。でも、それほど強く願うならば全てが夢見たとおりでなくとも、マヤなら自分の手で同等のものを掴めると断言するよ」
     ジョーの言葉にマヤは……――。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 6/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ