帰ってきたパイ投げ合戦!

    作者:御剣鋼

    ●ライブハウスDEパイ投げリターンズ!
     時は現代。運動と食欲と、そんでもって芸術の秋。
      ——というわけで!
    「全部ひっくるめて、ライブハウスでパイ投げしようぜ、パイ投げ」
    「「ひっくるめすぎだああ!!」」
     昨年のパイ投げ合戦では、開始早々集中砲火を浴びたという、ワタル・ブレイド(中学生魔法使い・dn0008)の懲りない発言に、集まった灼滅者達がヤジをとばす。
     ワタルは軽く片手を上げて制すると、今年は少し違った趣向を考えたと、口元を弛めた。
    「基本、パイをぶつけるっつーのは変わらないが、今回はコレを使って貰いたい」
     ワタルの視線を受け、傍らに控えていた里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)が半歩前に出ると、ボックスタイプのバインダーを開く。
     箱になったバインダーの中には、ぎっしりと6つのカラフルなクリームパイが敷き詰められていた。
     ——白は、オーソドックスのパイ。
     ——赤は、食紅で、きわどい鮮やかな赤色に染めたもの。
     ——黄は、カレー粉とサフランで、黄金色に染めたもの。
     ——緑は、ハーブ等で、香り豊かな草色に染めたもの。
     ——青は、ブルーハワイのシロップで、甘ったるく染めたもの。
     ——紫は、ブルーベリーで、味わいも美味しく染めたもの……。
     どれも一見すれば、健康的(?)なラインナップである……が。
    「前回、皆がいろんな色に染めたパイを投げていたのを見て、これは面白そうだなと思ってな。それ以外は特にルールは決めてないので、何か面白いコト思いついたら、教室の片隅等で提案してみるのもいいと思うぜ?」
     気心しれた仲間やクラブの皆で色ごとに分かれて、チーム対抗戦に徹するのも、よし!
     恋人と手を取り合って、色とりどりのパイの嵐の中をラブラブモード全開で逃げ惑いつつ、最後で裏切るのも、よし!
     思う存分カラフルなパイを、好きなように投げるが、大吉といっても過言ではない!
    「飛んできたパイを、モグっと食べてしまっても大丈夫でございます。灼滅者様なら可能、ノープロブレムでござ——」
    「そういうアンタも、問答無用で参加だからな」
    「わ、わたくし、このバインダーよりも重たい物を持った事がが……」
    「余興だと思えばダイジョーブ、……たぶんな」
     危険性は全く(?)ないので、もれなく執事エクスブレインも参加♪
     なので、岩とか金属とか、危険物や食べられないものを投げるのは、禁止であーる。
     ワタルの宣告に清政は一瞬言葉を失いつつ、すぐに穏やかな笑みを返した。
    「余興は多い方が楽しゅうございましょう。わたくしの方も10月生まれの方専用ケーキなスポンジを、人数分揃えさせて頂きます!」
    「ソレ、今回もあるのかよ!」
    「ちなみに、ワタル様が10月生まれというのも、リサーチ済みでございます」
    「オレはクリーム爆盛りの誕生日ケーキから、逃れられねえってことだな……」
     恭しく頭を下げた清政に、ワタルは10月生まれのお祝い弾が集中砲火した1ページを思い出して、肩を落とす。
    「いいぜ、幾らでも掛かって来な。初見顔見知り問わず、めでたい紅白弾で纏めて返り打ちにしてやるぜ!」
     秋は食欲と、運動と、芸術と、遊びの秋!
     さあ、心置きなくライブハウスを、仲間を、貴方色に染めまくろう!!


    ■リプレイ

    ●帰ってきたパイ投げ合戦!
    「あの時は負けたけど、今日は勝つぜ?」
    「互いに、パイ投げを避けられない運命みたいだな」
     パイ投げと聞いて、真っ先に浮かぶのは、ここ最近のこと。
     ライブハウスに足を踏み入れたシグマが準備運動でしっかり腕肩脚をほぐし始めると、キィンもニヒルな笑みを返す。
     シグマの誕生日祝いというのは、ほぼ口実なのは間違いない。
    「ここは警戒色の赤と黄色を……、止めて、白いの一択にいたしましょうか」
     ——パイ投げリターンズ。
     それに相応しい余興をと、流希が白いパイに白唐辛子の粉を混ぜようとした時だった。
     傍らに控えた清政が、危険物や食べられないものは禁止だと、ピピーッと笛を鳴らす。
    「流希様自ら味見をされ、安全が保障されましたら大丈夫ですが、如何なされますか?」
    「カプサイシン豊富で美容健康にいいと聞きますし……。問題はないでしょう……」
     いや、かなり辛いと思います。
     流希が味見をしてみると、ぶつけるのが勿体ないほど、後を引く辛さだったとか。
     そんな中、始まりの笛が鳴り響くと、21人と9体は勢い良くパイを投げ始めた!!

    「ワタルさん、今年もたっぷりお祝いするっす!」
    「ハッ、紅白で、めでたく染め直してやるぜ!」
     開始早々、脊髄反射で互いに向き直ったワタルとギィが、同時にパイをぶつけ合う。
     だが、互いに両手にパイという二連投。右手のパイが相殺された瞬間、左手で繰り出したパイで鍔迫り合う、互角の戦いを繰り広げていて。
    「軽量クリームパイで手数と機動性を優先したのは、流石だな」
    「いやいや遠慮はしなくていいんだぜ? ジャマーの如く3倍で返してやるからな」
     中でも白熱した1対1の接戦を繰り広げていたのは、シグマとキィンだ。
     キィンのパイを紙一重で避けたシグマは、散弾銃の如くパイを四方八方に投げまくる。
     手数の多さで先手を狙うシグマに、キィンも大きな瞳に灯った闘志の炎を燃やした。
    「ならば、ブレイドとまとめて盛大に祝ってやる」
    「あー、無理しなくていいぜ。マジで」
    「待て、オレを巻き込むな!」
     シグマとワタルが思わず顔を見合わせたのが、運の尽き♪
     少しでも華やかさを添えてやろうと、キィンは防御を捨てる覚悟で2人に特攻!
     流れ弾ならぬ流れパイを浴びながらも、至近距離から2人の顔面目掛けて、次々と赤と黄のパイをカラフルに見舞った。
    「どれ投げようかなー……はふっ!」
     甘党のサナが楽しそうにパイを選んでいた刹那、流れパイが口の中にホールイン♪
     残念ながら、甘くない赤色のパイだった。
    「……皆にも味わってもらお!」
     目が据わったまま、青色のパイを両手に構えたサナも、ブーメラン投法で投げまくる!!
     ふと目にしたクラスメイトにも、しれっとパイを投げるのも、忘れなかった。

    「お母さんお誕生日おめでとー!!」
    「いやーパイ投げ楽しそ……はい!?」
     雪緒の掛け声を合図に【わさび屋根】の集中砲火を受けることになった太郎は、その瞬間、自身が10月生まれだったことに気付くけど、時既に遅し。
    「太郎兄、誕生日おめでとう!」
    「お誕生日おめでとー!!」
     雪緒に続いて祝いの言葉を掛けた歌音も、手当り次第にパイを太郎に投げまくる。
     紫色のパイ一択のウィスタリアも、ガンガン投げて、色鮮やかに染めあげていて。
    「ふっふっふ、しこたま喰らうがよろしい」
     2人のパイに合わせて、何となく赤色のパイを選んだ雪緒も、一緒にぶん投げる。
     瞬く間に素敵オブジェと化した太郎の命運は、如何に——!!
    「ちょ、顔はやめ、息が……」
    「愛されてる証拠なのです」
     いや、そう雪緒に言われましても、祝いにしては少し勢いが強い気が。
     それでも嬉しいのは変わりなく、太郎は甘んじてパイの洗礼を受け続けた、その時!!
    「やめたげてよぉ! お母さんどっちかっていうと辛党なんだよぉ!」
     パイの集中砲火を浴び続ける太郎の前に、メルが飛び出す。
     メルが太郎を庇うように両腕を広げると、ウィスタリアが片手を挙げて皆を制した。
    「一旦撃ち方やめー」
    「おやメルさん、庇うなんてお優しい……」
     ウィスタリアの合図と同時に、雪緒もパイを投げていた手を直ぐに止める。
     けれど、歌音も揃いに揃って、メルと太郎の成り行きを楽しんでいる、ような……?
    「……太郎くん大丈夫? 右手のタオルで顔のクリームを拭うから、少しかがんでくれるかな?」
    「ありがとう……!」
     じーんと目頭が熱くなった太郎が、メルに促されるまま、右手側に屈んだ時だった。
     ふと、細い視線が、メルの不自然な左手に、ピタリと留まったのは。
    「なんで、左手を後ろに回してるのかな?」
    「……ん? それはね、このためだよ!!」
     と、メルが零距離からカレー臭漂う黄色のパイを、太郎の顔面に全力でズドーン☆
     そういえば、珍しくあざとかったですね、次女。ブルータァス、お前もかあああッ!!
    「目が、目がああああ! コンタクトの隙間にカレーが!!」
    「細目なのに!?」
    「……って先輩、そのほっそい目でコンタクトなんてしてたの!?」
     目を押さえて悶絶する太郎に、歌音とウィスタリアがフォローにならないツッコミを入れる、そんな地獄絵図。
     雪緒もその状況を楽しんでいるようで、半ばカオスであーる。
    「……いや、コンタクトはウソだけど、ツッコミ入れる所がありすぎてもうね」
    「……嘘かよ!」
     しょんぼり肩を落とす太郎に、ウィスタリアがフォローにならないツッコミで以下略。
     流石のオカンもとい太郎も手近なパイを掴むと、180度打って変わって反撃に転じた。
    「お母さん、そんな子に育てた覚えありませんよ!?」
    「残念だったね、次女は反抗期だよ!」
     そんな太郎の気がメルに大きく逸れた隙を、ウィスタリアは見逃さなかった。
    「皆、今よ!」
     ウィスタリアの号令を合図に、太郎へ一斉に飛び掛かる少女達!!
     真っ先に雪緒がクリーム塗れの太郎にしがみつくと、タイミングを合わせた歌音とメルも、クリームごと太郎に齧り付いた。
    「って、痛たたた! ちょっと誰さ僕ごと食べてるの!?」
    「長女は食べ盛りだぜ! いっぱい食べたいー!!」
    「多少齧られたって死にはしませんがじがじ」
     太郎についたパイを歌音がモグムシャっと頬張ると、肉食系三女と称した雪緒も一緒になって、モグっと齧りつく。
     うっかりクリームと一緒に齧った気がしなくもないけど、そこは気にしなーい。
    「モグるのに混ざるかどうか思案……するまでもないわね」
     微笑ましいのか、倒錯的なのか。
     そんな光景を録画していたウィスタリアは、オートに切り替えたカメラを置き直す。
    「あたしも入~れて♪」
     嬉々とモグりの輪に加わったウィスタリアに、再び悲鳴を上げた太郎でした♪

    「ふふふ……さぁいちごさん? 私の色に染まってくださいませ?」
    「あの、お手柔らかに……ですよ?」
     赤色のパイを持って楽しそうに包囲網を狭めてくる桐香に、白色のパイを掲げたままフリーズしていたいちごが、平和的解決を求めたものの、速攻で却下♪
    「いえ、無理やりにでも染めてあげますわ……!」
     しかし、いちごを守るように立つのは、完全な戦闘モードのビハインドのアリカ。
     白色のパイを油断なく構えたアリカに、桐香も激しい火花を撒き散らす!!
    「……やっぱり立ちはだかりますのね、アリカさん! いいですわ、ここで貴女との決着をつけますわ!」
     全力で顔面にパイをぶつけ合うアリカと桐香に、いちごは横でハラハラしていて。
     徐々にヒートアップしていく2人に、いちごがオロオロし始めた時だった。
    「わぷっ?!」
     桐香のコントロールが外れた流れパイが、いちごの顔面に直撃!!
     パイが目に入って足元が覚束無くなったいちごに、桐香は慌てて駆け寄った。
    「だ、大丈夫ですか?」
     桐香の声に、いちごが大丈夫だと振り向こうとした瞬間、足を滑らせてしまう。
     そのまま桐香を巻き込むように転んでしまったみたいだけど、状況が全く分からない。
    「す、すみません……」
     視界が塞がれたいちごが、もぞもぞと手を動かしてみると、手に柔らかい感触が……。
     指先に少し力を入れると、それはとても柔らかくて温かくて、弾力があるような?
    「今どういう状況なんでしょう……?」
    「えっと、あの……私のパイをいちごさんが掴んでいる状態……?」
     みるみる内に、顔が赤く染まっていく2人。
     いちごが慌てて手を放すと、桐香も赤面した顔を隠すように、顔を背けたのでした。

    「ふっふー。この私がパイ投げで負けるわけが、げふぅっ」
    「流石に、お笑いのパイみたいなことをやることになるとは、思わなかったよ」
     人1倍のハイテンションでパイを投げまくっていたのは、【むにー】のエルカ。
     ジャージ姿でクリーム塗れになっていた法子は、持っていた紫色のパイに視線を落とすと、呟きに似た苦笑を洩らした。
     会場に集まったのは、21人と9体のサーヴァントだけど、皆が皆本気だった。
    「揃ってクリームまみれにしてやりますよ!」
     例え妹分と言えども、パイ投げとなれば容赦はしない!
     至って無難な白色のパイを片手に、わんこが標的の妹分を探していた時だった。
     紫廉が無差別に投げていたパイの1つが、わんこの顔面にべしょりと炸裂する。
    「よっしゃ次はテメェの番だぜオラァ! くたばれ!」
     周り全てが敵、もといヤらなきゃヤられるのが戦場! それがパイ投げであーる。
     今度はリーフェンリアに狙いを定めた紫廉が、クラッシャーの位置から全力投球!!
     だが、渾身の一球はバスターライフルを横に構えた、リーフェンリアのフルスイングで粉砕、呆気なくお星様になった。
    「ちょっと待て、会場にはエクスブレインもいる筈だ……」
    「だいじょうぶ。いりょくはない。サイキックじゃないから、しなない」
     投げるのは苦手だからと淡々と告げたリーフェンリアに、紫廉は冷汗を隠せない。
    「むにーはぜんいん、ころす。フェン、てかげんしちゃいけないって、しってるから」
    「3秒前に言った言葉と矛盾しているだろおおッ!!」
     なんやかんやで訳が分からないまま、様々な色のパイが飛び交う、そんな中。
    「うん……ハーブは落ち着く……しかし、このあと喧騒が待ってるんだよなぁ」
     誕生日に思いっきりはしゃぐのも……否、やはり今は隅っこで大人しくしておこう。
     緑色のパイを手に、深夜はまずは香りを楽しもうと、隠れられるスペース探していて。
     だって女の子だもん! 誕生日だし味見もしたいんです!
    「もりのたみ……かりゅうどのしんずい、みせてあげる」
     だが、リーフェンリアの狩人の瞳が、それを許さない。
     飛び交うパイには全く無関心のまま、パイ塗れになっても攻撃を弛めないリーフェンリアに、たまらずエルカが悲鳴をあげた。
    「ちょっと待って、話せばわかるのだよぎゃーーーっ」
     正確にいいますと、紫廉と深夜が積極的にエルカを盾にしている、阿鼻叫喚絵図♪
    「つーか食べ物を無駄にするのはこう、なんかな……」
    「エルカ姉、頑張って」
     飛んで来た赤色のパイをキャッチした紫廉が、エルカの口にぎゅっとパイを押し込む。
     何やかんやでハイテンションな深夜も、エルカを盾に楽しそうに逃げ回っていて。
    「パイは遠慮しないで食べるよ!」
     2人に盾代わりにされたエルカも、何処か嬉しそうにパイをモグモグと頬張ってマス。
    「ほおら、しれんちゃんの大好きなパイパイですよ!」
     顔面に食らったパイをそのままぺろりと生地まで平らげたわんこは、返す刃の如く隠し持っていた黄色のパイを縦回転させるように、ぶん投げる。
     飛んで来たパイを、難無く口でキャッチした紫廉は、美味しそうに頬張ると……。
    「はぐはぐ。あ、コレ美味い。っと次か。んぐん…… ッ!?!? 」
     ここは戦場、反射神経と胃袋の容量が試される領域。だが、何だかおかしい。
     というか、わんこが至って普通のパイを投げている時点で、妙だ……!!
    「パイの生地にせんべいを仕込んで威力もアップさせました!」
    「入れるなあああ!!」
     悶絶する紫廉に、わんこは笑顔でサムズアップ!
     だが、その束の間の平穏は(?)間合いを狭めていた法子によって、打ち砕かれた。
    「野良ちゃんも、『クリームまみれになるといいよ!』」
     無数のパイをかいくぐった法子が、わんこに至近距離から紫色のパイを叩き付ける。
     インファイトな戦法で攻め込んでくる法子に対し、わんこは……。
    「なんのこれしき、キハールバリアー!」
    「フギャアア!!」
     何とウィングキャットのキハールを盾にして、法子の渾身の一撃を受け流す。
     しかし、盾にされたキハールにボディに一撃を喰らわされたわんこは、パイをもぐもぐ食べながら沈んだという。

    ●今年もあるよ、おめでと弾!
    「ブルーベリーパイは目によいのです、しっかりと味わいましょう」
     自分と同じ色合いの紫色のパイを持ち、歌留多は蝶の如くふらふらと獲物を物色中。
     目を酷使していそうな学生——清政に狙いを定めると、隙だらけの顔面に叩き付けた。
    「これは美味……ならば、我が深淵の紫のお返しでございます!」
     顔面に付いたパイをハンカチで優雅に拭った清政が、ハエが止まる速度で応戦する。
     だがしかし、歌留多は避けるどころか紫色のパイを、口でパクっと咥えてみせた。
    「美味しいパイですね。うまうまです」
     投げられるパイなら、全て食べちゃえ、ホーホケキョ。
     昔の自分ならば、何て勿体ないと一蹴するに違いないけれど、今は余裕が違うのだ。
    「くっ、流石でございます」
     歌留多の漆黒の瞳には、明確な自信と信念(?)が満ち溢れていて。
     敗北感に打ちのめされて膝を落とした清政の肩を、サナがトントンと叩いた。
    「清政、これあげるね」
    「ありがとうござ、ぶほっ!」
     振り向くや否や、お約束通りに白色のパイが顔面に、ぺちょり。
     負けずに清政も反撃に転じるけれど、パイを持った手が不自然に跳ね上がって、再度自身の顔面に、ぺちんっ。
    「お互い、結構喰らってるっすねぇ」
    「……うう、恐縮でございます」
     闇纒いを解いたギィはワイシャツに付いたパイを払い落すと、すぐにパイを補充する。
     エクスブレイン相手でも決して手加減しないのが、武蔵坂クオリティであーる。
    「アイッシュ、出来上がったの?」
     パイ投げも終盤を迎えた頃。
     ビハインドのアイッシュが持ってきたパイに、サナが怪しい笑みを浮かべた時だった。
    「只でさえ、キィン相手で油断出来ないのに、この状態で終盤戦は不味いな」
     因縁(?)の戦いも相まって、戦場と化したライブハウスは、増々ヒートアップ♪
     ふと、周囲を見回したシグマは、ワタルに向けて声を張り上げた。
    「ワタルは10月生まれだってな?」
    「ちょ、待て……!」
     その刹那。
     クリーム盛りのスポンジケーキを持った学生達の視線が、ぎゅっとワタルに収束した。
    「なるほど、ワタルは、たんじょうび、おめでと。くらえ」
    「そういえば、むにーにも誕生月の人がいたような?」
     リーフェンリアが粛々とライフルを構えると、クリーム塗れの法子も周囲を見回す。
     すみません、ここは何処かの戦場でしょうか?
    「自分のブラックスーツ、染めれるものなら染めてみるっすよ!」
     ギィの手にも、スポンジにクリームが盛られたパイがあったのは、言うまでもない。
    「誕生日おめでとう、ワタル!」
     アイッシュと一緒にサナが特製パイを投げたのを合図に、祝辞の言葉と共に10月生まれのワタル、太郎、深夜、シグマの4人目掛けて、特製パイが投げられた!!
    「待て、話せばわか、ぶほぉ!」
    「自分は10月生まれじゃな、っぷは!」
     瞬く間にワタルが集中砲火され、側にいたギィも巻き添えでパイに埋められる。
     太郎に至っては、目に当てられない集中砲火っぷりなので、以下略。
    「女の子の服汚したがるとか、サイテー」
     飛び交うおめでと弾から、深夜も野生動物に匹敵する反応速度で逃げ回っていて。
     避けにくい流れパイには、手元のパイをぶつけて相殺していく、そんな中……。
    「んー、このパイは甘みが足りない……」
     パイを一通り投げ終えたエルカは、パイに塗れて埋もれながらの、おやつタイム♪
     反応は至って適当だけど、この状況でしっかり味わっているエルカ、恐ろしい子!
    「覚悟しな! Happy Birthday!」
    「おいおい、覚悟するのはシグマ、お前もだ」
    「あ、俺へのお祝いは素直にパイを受け取ってくれるだけでいいか、ぶはっ!!」
     そんなあまーいリクエストは、誰にも聞こえなかった様子。
     防御を捨てる覚悟で距離を狭めてきたキィンが、手加減無しの零距離全力投球!!
     シグマも、ちょこまか動いて集中砲火を避けようとするけれど、多勢に無勢。
     瞬く間にあまーい樹氷になった瞬間、ピピーッと終了の笛が鳴り響いたのだった。

    「そういえば誰かクリーニングのESP、持ってたりする? 誰も無ければ手作業での掃除になるけど……」
    「あ、僕が持ってますよ?」
     クリーム塗れになった顔や姿を互いに笑い合う中、ふと法子がぽつりと呟く。
     だがしかし、挙がった手は誰よりも歩く樹氷と化していた、太郎だけでして……。
    「まさか、持ってきたのは、僕だけというオチです……?」
    「まあ……『よくあること』だよ」
     最後は誕生月である太郎に綺麗にクリーニングして貰って、これにてお開き♪
     皆揃って良い1年を、Happy Birthday!!

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月3日
    難度:簡単
    参加:19人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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