蒼と夜の復讐劇

    作者:緋月シン


     悲鳴と怒号が、周囲を埋め尽くしていた。
     つい数分前まで家族で団欒を囲み、穏やかな表情を浮かべていた女性が、その顔を恐怖に歪めると共にひき潰される。勇敢に立ち向かっていった男性が握り潰され、恐慌状態に陥った少年が二つの肉の塊と化し、気を失い倒れた少女の頭部が、ついでとばかりに爆ぜた。
     だがそれでも、蒼の暴威は収まらない。収まるわけがない。物も人も関係なく、それが通り過ぎた後に残されるのは、瓦礫と人であったナニカだけだ。
    「――――――!!!」
     意味の分からぬ叫びと共に、暴虐の嵐が荒れ狂う。落雷にも似た轟音が響き渡り、また一つ瓦礫の山が出来上がった。
     しかしそこは住宅街の一角だ。一つを壊せばそれで終わりではなく、前を向けばそこには新しい獲物がある。
     それに向かうのに何の躊躇いもなければ、その必要もない。扉をノックするように壁を破壊すれば、その先にはポカンと間の抜けた顔をした女性が一人居た。
     当然のようにその上半身ごと弾け飛び、力を失った身体が地面へと倒れこむ。鮮血が噴き出し、それの顔面へも飛び散った。
     だがそれは構うこともなく、その両腕を振り回す。誰かがそこに居た、何かをしていたその痕跡ごと壊し尽くすが如く、斬り裂き打ち壊していく。
     作りかけの料理を、並べられていた皿を、飲みかけのジュースを。
     衝撃によって水滴が顔に跳ね、留まっていた赤黒い液体ごと、雫となって頬を伝い落ちる。

     ――叫びながらただ破壊をもたらすその姿は、まるで泣いているようにも見えた。


    「さて、早速だけれど、朱雀門のロード・パラジウムを灼滅する事に成功した、という話は既に聞いているかしら? その話そのものは喜ばしいことなのだけれど……その結果、ロード・パラジウム配下のデモノイド達が、制御を離れて暴れだしてしまったらしいわ」
     とはいえその多くはクロムナイトによって鎮圧させられたようなのだが、そこから逃れて人里に辿り着くデモノイドが出てきてしまうようなのだ。
    「デモノイドは主が殺された憤怒からなのか、一般人を虐殺して暴れるだけ暴れるような行動をとるみたいね」
     これを見逃せば、多くの一般人が犠牲になってしまうだろう。当然、放っておくことは出来ない。
    「幸いにも、街に入る前に迎撃することが可能だし、クロムナイトなどの追手はかかっていないみたいね。だから今回は、そのデモノイドを倒すことのみに注力してくれればいいわ」
     デモノイドは関東近隣のとある町に現れる。
     時刻は夜。
     人通りの少ない道から現れるため、そこで待ち構えるのがいいだろう。
     サイキックはデモノイドヒューマンと無敵斬艦刀相当のものを使用し、ポジションはクラッシャーである。
    「今回は本当に、デモノイドを倒す以外に考えることは特にないわ。あなた達はいつも通りにダークネスを倒せばいい、ということよ。町の人達が今日も無事平穏に過ごせるように、ね」


    参加者
    神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)
    大御神・緋女(紅月鬼・d14039)
    天里・寵(超新星・d17789)
    一色・紅染(料峭たる異風・d21025)
    サイラス・バートレット(ブルータル・d22214)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)
    静守・マロン(シズナ様の永遠従者・d31456)
    リコリス・ユースティティア(正義の魔法使いアストライア・d31802)

    ■リプレイ


     月のない夜だった。周囲は宵闇に支配され、ただでさえ濃い闇を、さらに色濃く落としている。
     こんな日は碌でもないことが起こるものだが、災厄の方からやってくるというのであればどうしようもあるまい。
     前方の闇を眺めながら、物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)はやれやれとばかりに溜息を吐き出した。
    「ったく、朱雀門もきっちり飼い犬の管理を……って、飼い主倒したのは俺ら武蔵坂、か。しゃあねぇ、的外れな復讐劇はきっちり幕を下ろしてやるとするかね」
     肩を竦め、腰から伸びた光の先に、僅かに瞳を細める。未だ蒼の巨体が現れる様子はないが、それはそう遠い話でもないだろう。
     その言葉の通りに、的外れな復讐を果たすために、やがてこの場へと現れるはずだ。
     そのことを思い、神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)は手元の扇子を口元へ当てると、小さく息を零す。
    (「己を御することもできない獣以下の怪物でございますね。ロード・パラジウムは如何様にして制御していたのでしょう。デモノイド同士ならば何らかの手立てがあるのでしょうか」)
     しかしそこまでを考え、首を横に振った。今はそのことを考えるべき時ではないのだ。
    (「この状況へと至った要因の一端は武蔵坂にもございます。ならば、被害を食い止める責もあるというもの。理不尽な暴力は必ず阻止させていただきましょう」)
     後方へと視線を向ければ、そこにも闇が広がっている。
     だがその先に見える光は、人々の営みの証だ。
     一度目を閉じ、開く。
    「街は目と鼻の先。この場から退くことは許されないと心得て臨まなければなりませんね」
     街へは一歩たりとも入らせない。
     その決意と共に、呟いた。
     人にはそれぞれ事情がある。それは軽いものから重いものまで、人によって千差万別だ。
     しかしだからこそ、今回の敵に共感を示す者が居たとしても不思議はないだろう。
    「主人が死んだ時の悲しみや怒り、我輩には解る気もするのである」
     静守・マロン(シズナ様の永遠従者・d31456)は呟き、ちらりと隣に視線を向ける。そこに居るのは、自身のビハインド――否、主人であるシズナだ。
     だが自身の認識は別にしても、その身がビハインドであるのは違えようのない事実である。過去に失ってしまったことも事実であり――。
    「でもだからと言って殺戮を見過ごすわけにもいかないである」
     しかしそれは、共感を得る理由にはなっても、殺戮の肯定をする理由にはならないのだ。
    「だから、ここでそれを止めるのである」
     マロンに出来るのは、せめてその悲しみを終わらせることだけであった。
     また、共感に至らずとも、理解することは可能だろう。
    (「主を、灼滅、された、怒り……。……気持ちは、まったく、わからなくも、ないです」)
     一色・紅染(料峭たる異風・d21025)はそう思い……しかしそれもやはり、全てを肯定する理由になるわけではない。
    (「けれど……被害を、出す、わけには、いかない、から。……倒させて、もらいます、ね」)
     そして事情が人それぞれならば、思考や思想もまた人それぞれだ。
    「マスターを喪った残党の後始末ってとこですかね。哀れですね、主人がいなくなった途端に自分の制御もできなくなるなんて。泣いてしまうなんて」
     言葉とは裏腹に、天里・寵(超新星・d17789)の口元に浮かぶのは笑みである。丁寧な口調、丁寧な物腰に反し、その瞳に宿るのは侮蔑と嘲笑だ。
    「そんなに主人が好きだったんですかね?」
     呟き、笑う。嗤う。
    「僕には理解できない感情だなあ。自分以外の人を敬うなんてさ」
     そんな寵へと、僅かに責めるような視線が周囲から向けられるが、それでも寵の様子が変わる事はなかった。
     それは相手がダークネスであるから……では、ない。
     そもそもそんなことは関係がないのだ。
     寵にしてみれば、自分以外の全ては等しくどうでもいいのである。
     と、不意にその笑みが深まったのは、足元に僅かな振動を感じたからであった。
    「君は僕に敵うのかなあ」
     向けた視線の先、闇の中から浮かび上がるようにして現れたのは、蒼の巨体だ。
     そしてそれと同時、一歩、影が一つ踏み出す。
    「夜はみんな寝てる時間だよ。近所迷惑になるからあんまり町に近付かないでね」
     リコリス・ユースティティア(正義の魔法使いアストライア・d31802)である。
     その向かう先を塞ぐようにして立ちながら、その手に持ち、掲げるのはスレイヤーカード。
    「パラジウムが死んで悲しかったり怒ったりしてるのかな。わたしも町の人が殺されたら悲しい」
     ――だから。
    「変身!」
     叫び、解放された身を包むのは、黒の装飾。黒曜の片翼を翻しながら、真正面から見つめ、告げる。
    「あなたを倒すよ」
     大御神・緋女(紅月鬼・d14039)によって既に殺界形成が使用されているため、一般人に関しての心配は不要だ。
     僅かに遅れ、のんびりと近づいていっていた暦生が、旧知の知り合いに会ったかのように気安く片手を挙げる。
    「よ、待たせたな」
     それが動き出したのは、それとほぼ同時であった。
     待ちかねた、とでも言うかの如く、踏み出した身体は一瞬で距離を詰め、勢いのままにその腕が振り下ろされる。
     響いた轟音が、開戦の合図を告げた。


     地面が爆ぜ、破片の飛び散る中、しかし気にせず飛び込んだそれの視界に映ったのは、一面の殺気であった。
     周囲を覆い、取り込んでいるそれは、リコリスより放たれたものだ。
     静止したのは一瞬。目標を定めたそれが、一斉に殺到し――だが蒼の巨体は、構わず踏み込んだ。
     全身を切り裂かれながらも勢いは止まらず、刃と化した己の腕を振り上げる。さらなる一歩と共に、振り下ろされ――響いたのは、甲高い音。
     目前で受け止めたのは、その身に畏れを纏わした紅染だ。
     鍔迫り合いをするようにその場に縫い止め、しかしその場に押し止めておけたのは一瞬のみ。身体の大きさもそうだが、根本的に力が異なる以上それは仕方がなく……そしてそれで十分でもあった。
     押し込まれる前に自ら後方へと飛び退き、変わるように前に出たのは緋女。
    「覚悟せい、この紅月鬼の緋女が灼き尽くしてくれようぞ……とは言うても、彼奴には聞こえてはおらぬようじゃの」
     言葉に耳を貸す様子もなく、代わりとばかりに薙ぎ払われた腕を、風の刃で以って迎え撃つ。
     打ち合わされた二つが激突し、軋みを上げ……だが弾け飛んだのは風だ。そのまま薙ぎ払われ――しかしその時には、既にその場に緋女の姿はない。
    「煌めけ暁紅、その紅に彼奴めを染めあげるのじゃ」
     懐へと飛び込んだ緋女の手の中で、周囲にばら撒いた光を浴び、深紅の刀身が煌く。
    「この先には人の住む住宅街がある。そこへお主を向かわせる訳にはいかぬのじゃ」
     告げ、斬り裂いた。
     斬撃の痕より炎が生じ、その身を焼き、僅かに周囲を照らす。
    「――――――――!!!」
     吼えたのは、痛み故か、或いは、別の何かか。
     だがどちらであろうとも、どうでもいいことだ。
    「復讐なんてのはね、力あるものだけが成せるコトなのさ。主人がいなくなって泣いちゃうような雑魚には出来ないよ。悲しいけどね」
     嘲りに刃が放たれ、迎えるのは異形巨大化した寵の腕。二つの豪腕が激突し――僅かに押されたことに、口元に浮かぶ笑みが、微かに歪んだ。
     目が細められ、舌打ちを漏らす。
    「雑魚が……調子に乗ってんじゃねえ!」
     吐き捨て、理性の名をもつ包帯で以って貫いた。
     噴き出す鮮血に、満足気に口元の笑みを元に戻し、だが続けて振り下ろされた刃に、少し慌てて飛び退く。
     着地と同時、忌々しげに睨み、しかし何かをするよりも先に、蒼の身体を一発の弾丸が貫いていた。
     その発射視点には、指を銃の形にしている暦生の姿。
    「ばーん」
     再度の言葉と同時、もう一度魔力の弾丸が放たれ、それは同じ軌跡を描き再び蒼の身体へと吸い込まれ、貫いていく。
     だが制約を課すそれにも構うことなく、巨体が歩みを止めることはない。
     そしてその前に一歩、踏み出す影が一つ。
     サイラス・バートレット(ブルータル・d22214)だ。
    「……主様、かい。テメェを道具として散々使いまわしてきた、そんな奴らの一人でもか」
     そんな姿を見詰めながら、問いかけるように言葉を放つ。
    「なぁ……あんなのでも大切な主様かよ? テメェらだって元は犠牲者だろうが」
     だが当然のように返答はなく、代わりにやってきたのは、蒼の拳。叫びと共に振り下ろされたそれに、異形巨大化した己の腕を叩きつけながら……ふと、一体どこで歩む道を違えたのかと、そんなことを思った。
     デモノイドヒューマン、デモノイド、ロード。
     デモノイドという種族そのものに対する複雑な感情が一瞬胸を過ぎり、しかしそれを追い出すように息を吐き出す。
    「まぁいい。放っときゃ今より後味悪くなる。サッサと引導渡しちまおうか」
     強引に拳を弾き、踏み込み、殴り飛ばした。
     そこで下がったのは、視界の端にその姿を捉えたからだ。
     当たり前のように敵はサイラスの後を追い、だが横から繰り出された銀爪により引き裂かれる。
     マロンのそれとほぼ同時、シズナがレイピアで貫きながら霊撃を叩き込み――。
    「――――――――!!!」
     瞬間、蒼の刃が地面に叩きつけられた。
     その衝撃は周囲に広がり、そこに居た者達を纏めて吹き飛ばす。
     すかさずリコリスが帯を伸ばし、鎧の如く覆うことで傷を癒すが、それに礼を言っている暇もない。
     体勢を整える暇もなく巨体が迫り、しかしその前に慧瑠が躍り出た。
     振り下ろされた刃を、こちらも銃身に取り付けられた刃で受け――だがさすがに、受けきるには厳しい。
    「本能のままに暴れるだけといえども、桁が違いますと厄介なものでございますね」
     もっともならば、まともに受けなければいいだけの話である。僅かに眉を潜めながらも、そのまま受け流し、踏み込む。
     影を宿したそれで以って、斬り裂いた。


     戦闘は完全に灼滅者有利で進んでいた。
     とはいえそれは別に驚くことではなく、予想通りのことでしかない。予想外のことがあるとすれば、それは相手の動きの方だろう。
     どんな攻撃であろうとも避ける素振りすら見せず、ひたすらに灼滅者目掛けて突っ込んでくる。自らのことを省みることなく、ただ目的のみを果たさんとする姿は、何処か狂気的ですらあった。
     だがその動きが、唐突に止まる。力尽きたわけでなければ疲れ果てたわけでもなく、まるで歩くのに失敗したかのように、その場に止まったのだ。
     その姿を見ていた暦生が、軽く息を吐いた。
    「……ふぅ、やっと効き始めたか」
     振り抜いた腕を戻し、『いいから止まれ!』と書かれた赤い標識で肩を叩きながら、ニヤリと嗤う。
    「さて、こっからが本番かね?」
     妨害に成功したのは、ほんの一瞬だ。されど一瞬であり、それは次の行動を作るには十分すぎた。
     足元より伸びた影が触手となり、一瞬をもう一瞬だけ延ばす。それは即座に引きちぎられるが、進行を続けようとした足から、一瞬力が抜けた。
     今度のそれは妨害ではない。死角から放たれた斬撃――リコリスだ。
     その姿を認識した瞬間、それの腕が振り抜かれるが、響いたのは甲高い音。蒼の刃の軌道上を、邪法の産物である神木が遮り、つり合った力が、刹那均衡を生み出す。
     それを崩したのは、全方位に展開された帯。リコリスより放たれたそれが、捕縛せんと迫り、僅かに緩んだ力を見逃さず、紅染が一歩踏み込んだ。
     刃の上を滑った杖が、そのままその身体へと振り抜かれる。激突の瞬間に魔力を流し込み、直後に爆ぜた。
     ほんの少し揺らいだ身体を、すかさず帯が縛り付け、影が一つ、地を蹴る。炎を纏った蹴りと共に、嘲り交じりの笑みが落ち、寵の口が刻んだ言葉を、轟音が掻き消した。
     だが蒼の巨体は倒れずに、代わりとばかりに吼える。
    「――――――――!!!」
     帯を引き千切ると、既に血だらけの身でありながらも、その歩みは止まらない。止めるわけがない。
     何故ならば、眼前に居る者達は――。
    「……ったく。ある意味人間らしい一面残してんじゃねぇかよ」
     赤い雫を流す顔が上がり、迫るサイラスと目が合う。
    「だったらその感情がある内に死なせてやる。俺なりの手向けだ」
     上空より振り下ろされたのは、巨大な刀と化したその腕。刃と刃がぶつかり合い、だが押し負けたのは、蒼の刃だ。
     そのまま斬り裂かれ――しかしそれでも、前に出る。逆側の腕を振り被り、振り下ろし――その直前、眼前に躍り出たのは、マロン。
     その身を以って、その腕を受け止め――。
    「我輩には今主人がいて、お主にはいない……少し後ろめたくなるである、でも……」
     瞬間、視線の先、その顔の後方で、たった今口にした主人の偽翼が羽ばたいた。
     叩き込まれた衝撃によって僅かに力が緩み、踏み込み、蹴る。
    「それでも。自分勝手かもしれないであるが、その悲しみを終わらせるのである」
     その身に纏うのは畏れ。大地に眠るそれが、その一瞬のみ明確な形を作り出す。
    「この地に踏み入りし者に、畏れよ来たれ」
     斬り裂いた。
     その衝撃に蒼の巨体がよろめき、一歩後ろに退く。
     だが即座に、それを許せぬとばかりに吼え、前に踏み出し――瞬間、その身を一発の弾丸が貫いた。
     慧瑠より放たれそれは、自動的に誘導された結果、正確にその胸を打ち抜く。鮮血が噴き出し、力が抜け……それでも堪え、上げた視界に映ったのは、深紅。
     咄嗟に刃を振るうも、遅い。
    「紅蓮の如く燃るがよい。灰も残さぬ」
     宵闇と黎明を分かつが如く、剣閃が走る。蒼の刃ごと断ち切り、ようやく、その身体が完全に止まった。
     力が抜け、膝が地面に落ちる。そのまま倒れこみ……轟音と共に、崩れ落ちたのであった。

     事切れた蒼の巨体は、炎に焼かれながら、その端から崩れ、消え始めていた。
    「……他のどんなダークネスよりも人間くせぇ。だからめんどくせーんだよ。デモノイドってのは」
     その姿を眺めながら、サイラスが吐き捨てる。視線の先にあるのは、断ち切られ、倒れながらも、何かに向けるように伸ばされたその腕だ。
     頭を掻き、舌打ちを残すと、背を向けた。
    「思えばこやつらも哀しい存在じゃのぅ……」
     緋女の呟きが夜の闇に消え、それの身体もまた、消えていく。
     成したかった何かも、その意味も。何一つ残ることはない。
     そして、やがて全ては消え去った。文字通り、跡形もなく。
    「……ま、これでもう利用されることもないだろうしさ。ゆっくり眠るといいさ……」
     それを最後まで見届けた後で、暦生は目を閉じた。
    「蒼き悲運の魂に安らぎを願いましょう……」
     慧瑠もまた目を閉じ、各々が各々の方法で、消え去ったものの冥福を祈る。
     空には星がなく、だがその代わりに数多の星が瞬く。静寂を取り戻した夜が、穏やかに更けていった。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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