豆本フェスタへ行こう!

    作者:相原きさ

     それは運命とも言える一瞬。
     彼は偶然、それを見つけた。
     ある店先にあった、小さな小さな本。
     それが最初の宝物であり、彼が小さなものを愛でるきっかけともなっていた。
    「これ……すごい……」
     あらゆる手を駆使して、幼き少年は、その本を手に入れたのだった。
     
     突然、教室の扉が開かれた。
    「皆、これを見てくれ!」
     その瞳をこれでもかとキラキラ輝かせながら、網月・透矢(高校生ダンピール・dn0229)が入ってくる。その彼が取り出したるもの、それは……。
    『豆本フェスタ』
     と書かれた、小さなチラシであった。
    「このチラシによると、近所の公民館の会議室を貸し切って、豆本作家が集まり、それを売るらしい」
     チラシにはこう書いてある、豆本即売会と。また当日販売する豆本作家も募集中ならしい。今からでも飛び入り参加も可能なようだ。
    「というわけで、せっかくだから行ってみないか?」
     キラキラと目を輝かせて、透矢はイイ笑顔でそう誘う。
     ついでにいうと、即売会の日は、透矢の誕生日だったりするのだが、本人はすっかり忘れているようだ。
     こうして、透矢達は楽しげに豆本フェスタに向かうのであった。


    ■リプレイ

    ●作家さんいらっしゃい☆
     公民館の会議室では、徐々に賑やかさを増してきていた。
     もちろん、他の教室では別の団体が使用しているため、抑え気味の賑わいだったが、それでも十分、楽しさを感じられる。
     ベアトリス・ベルトワーズ(青薔薇ペルショワール・d25554)と椹野・海(ゆらめく灯光・d31973)は、指示された机と席に向かい、さっそく用意した品物を並べ始めた。
     作家であるベアトリスが用意したのは、小さな瓶の中に入れられた絹のサテン仕立ての本。その本の内容はおやゆび姫などの童話を収録した内容となっている。さしずめ、瓶詰豆本と言ったところだろうか。
    「ふふっ……指先サイズのおやゆび姫、トレビアーンな趣向だろう?」
     そういうベアトリスに海は。
    「わ、すごいっ。これが手作り!?  素敵! トレビアン!」
     と、ガラス瓶に入った素敵な本に歓声をあげていた。
    「ベルお姉さん、実は凄腕の豆本作家だったのね? 才色兼備とはまさにこのことだと思うの。きれいー……」
     豆本を見て喜ぶ様子にベアトリスも思わず笑みを浮かべる。もちろん、海も接客担当である。それだけではない。素敵な瓶詰豆本をさらに引き立たせるために、シックなワインレッドのベロア生地を机の上に敷き、100円ショップで買い集めたお洒落な飾りを色々散りばめている。これほど見事なセッティングであれば、誰もが足を止める事だろう。

     こちらは【月庭】のユエ・ルノワール(宵闇の月・d00585)と静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842)、入出・鞠音(高校生七不思議使い・d35041)の三人組だ。人数が多いので、広めの机を借りている。
     さっそく鞠音が紫のテーブルクロスを敷いて、その上に品物を並べ始めた。
    「では、私はこちらに並べますね」
     ユエが用意した本は、アンティーク風に仕上げた小さな絵本。白雪姫やヘンゼルとグレーテルなど、魔女が出てくる童話を絵本にしている。また、中の紙をビンテージ風になるように、一度印刷したのを皺くちゃにして、珈琲に浸して乾燥させた為、古い紙のように見える。
    「……数日置いておいたので、珈琲のにおいはしない、ですよ?」
     ユエの狙い通りに素敵な絵本に仕上がっている様子。ユエは机の上にハロウィンを意識したかぼちゃのミニチュアを置いて飾り付けている。
    「僕の本も、二人のお蔭で良いものに仕上げられて、助かりました」
     炉亞は、今回初めて豆本を作った。一緒に出店するユエと鞠音に教えてもらいながらも、何とか作った豆本を並べることができた。
     炉亞が作った豆本は、魔導書のような豆本。外縁が特徴的な藍色の本で、ページには文字と蝶が浮き上がるような魔法のようなデザインに仕上げられている。
    「わあ、とっても素敵な本だね」
    「初めて作ったのに、そうは思えません、です」
     どうやら、炉亞の作った本は、二人にも好評な様子。
    「喜んでもらえて、僕も嬉しいです」
     そう言って、炉亞も机の上に自分の本だけでなく、ハロウィン風の小物を並べていく。
     鞠音も自分の作った豆本を並べ始めた。
    「まりおんは、ビブリオマンシ―を豆本にしてみました」
     ビブリオマンシ―とは、開いたページに『思いのままに』や『慎重に』などといったメッセージが記載された本である。その日の気分で開いたページを見て、その日を占うための本でもある。鞠音はその本を本文を丈夫になるよう糸で綴じ、ハードカバー仕上げで作成した。また、本文は全て手書きで作成している。鞠音の想いのこもった一冊に仕上がっているようだ。
    「本文は手書きですか? 大変だったんじゃないですか?」
     見せてもらっていた炉亞がそういうと。
    「ちょっと大変だったけど、何だか手書きの方が力とか思いがこもるかなって思ったよ」
    「まりおんさんらしい、味のある素敵な本になっていると思いますよ」
     そう言われて、鞠音も嬉しそうな笑みを見せていた。
     と、作家の面々が準備を終えたようだ。緊張した面持ちで、出入り口を見つめている。
     いよいよ、本日のお客様が入場する時間。今日はどんなお客様がやってくるのだろうか。

    ●ちっちゃな本のおかいもの
    「お、おお………」
     会議室に入った早々、思わず声を出してしまうのは、網月・透矢(高校生ダンピール・dn0229)。色とりどりの豆本に、興奮冷めやらぬ雰囲気の様子。この日の為に用意したお金を手に、さっそく買い物に向かう。
    「いらっしゃい、どれにするんだい?」
    「あ、い、いらっしゃいませー! どうぞご覧くださいっ」
     ベアトリスの言葉に、慌てる海も接客を始めているようだ。
     他の店にも、数多くのお客様が訪れている。
    「情熱の篭った本が、会議室いっぱいに並べられてるなんて!」
     上里・桃(生涯学習・d30693)は、小さいからと妥協しない作家の情熱にはただ尊敬するばかり。そう思うと言葉にし難い感動が湧き上がってくるようだ。
    「ええ、どの本も見事ですわね。本を愛する者として選ぶならば、豆本なればこそのもの……持ち歩けてこそ意義のあるものを選びたいですわ」
     桃の隣でそう意気込みを語るのは、輪音・小夜(座敷の華・d07535)。真剣な眼差しで熟語や花言葉などの豆辞典類を見て回っている。
    「あ、小夜さん小夜さん、これ見てください」
     と、桃が何かを発見して、小夜の袖を引いた。
    「桃さん、どうかし……まあっ!」
     桃が見つけたもの。それは虫眼鏡を使ってようやく読めるくらいの小さな小さな豆本だった。
    「職人芸ですわね……。まだまだ世間には、驚くべき人の業(わざ)が山程ありますのね……!」
     超小型の本を見て、小夜は思わず買ってしまった様子。
    (「私たちは本が好き。きっと色んな本を見て感動するのも、本好きに含まれるんだ」)
    (「この小さな発見と発掘に、喜びを共有できる。そこに人も人狼も境界などないのですわ」)
     二人は胸が熱くなるのを感じながら、顔を見合わせ、幸せそうに微笑んだ。

     次に入ってきたのは、静堀・澄(魔女の卵・d21277)とジンザ・オールドマン(オウルド・d06183)のカップルさんだ。
    「ジンザさんは、豆本を見るのはじめてですか?」
    「今まで馴染みがなかったものですから。ですがこうして、未知の分野に見聞が拡がるのは、実に有難いことですね」
     その様子に澄はくすりと笑みを浮かべ。
    「ちいさくて、読めるというだけではないんです。今日はきっと、びっくりしますよ」
     二人が発見したのは、栞や蔵書票がついているものや仕掛け絵本になっているもの、さらに小さく指先ほどの大きさのもの。他にも装丁がしっかりした本や和綴じの本までそろっている。
    「仕掛けも細かく作ってますし……おや? これは写真集?」
     澄の説明を聞きながら見てまわるジンザも、お気に入りの本を見つけては手に取ってみている様子。と、その間に澄がある本を見つけた。革の表紙でまるで魔導書のような一冊を手に取り、中身を見てみる。
    「夜が続く世界で太陽を探しにいく、ふくろうの物語……ですって。ジンザさんの好きそうなお話ですねえ」
     とジンザに中身を見せると。
    「このフクロウシリーズの絵本、小さい頃に大好きでよく読んでたのですよ。まさか豆本でも刊行されていたとは」
     どうやら、記念に買うことを決めたようだ。
    「しかしこう……ドールサイズな豆本を187cmある僕が持つと、尺度水準が妙な感じになってませんか」
     受け取った本を手にジンザがそう言えば、澄は楽しげに笑って見せるのであった。

    「小さくても立派に本なんですね」
     そう手のひらに収まる物語に魅入るのは、勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)。その隣では。
    「うん、どうやって作るんだろう? 凄いね」
     風宮・壱(ブザービーター・d00909)が玩具のような本を不思議そうに見つめている。と、壱が良い本を見つけ出したようだ。
    「これどうかな? みをきはいつも花の話をしてくれるでしょ? だからそういうの知りたいと思ってて」
     赤い表紙の本の中身は花の図鑑になっていた。その中には、かつてみをきが贈った花も掲載されているようだ。
    「これは、壱先輩に買ってあげます。……え、とですね、そう、テストのご褒美です!」
     同じものを知りたいという、壱の気持ちにみをきは嬉しさを隠しながらも、照れた様子でその本を購入し、壱に手渡した。
    「うん、じゃあ今回のご褒美はこれにする。後で俺からのも何がイイか教えてね?」
     と、こっそり耳打ちしたり。
     みをきが見つけた本は、青い表紙の豆本だ。壱も覗き込み、何も書かれていないのでメモ帳なのかと思っていると、最後の最後に『HAPPY END』の文字が。
    「これは幸せを作る本……だそうです。俺は、これが良いです。いつか、いつか必ず書き終えて渡しますから、そうしたら読んでくださいね」
    「待っててイイの? ずっと楽しみにしてるよ、俺」
     照れた様子を隠すかのように、壱は嬉しそうに微笑んだ。
     きっと、1年でも10年でももっと先でも、物語が完成する日まで待つのだろう。

     こちらは仲良し3人組で。
    「わあ、ちっちゃくて可愛い!」
     そう声を上げるのは、青木・紗奈(ユネルスール・d11065)。
    「ひとくちに豆本といっても色々あるのね。目移りしちゃうわ」
     真嶋・沙慧(高校生シャドウハンター・d15436)はそう、驚きの声を上げる。
    「二人は、こんなのが欲しいなとかあるのかな?」
     雨咲・ひより(フラワーガール・d00252)が尋ねると。
    「可愛い絵本が欲しい! 猫さんか犬さんのお話だと良いな」
     それに加えて優しい色の絵本がいいと紗奈が言う。
    「私は小さなアルバム代わりになるものが良いわね。ひより先輩は?」
    「わたしはまだ考え中かな。どれも可愛くて。でも、みんなの欲しい本、きっと見つかるから一緒に探そうね!」
     どの本も可愛らしいものばかり。沙慧が言ったように目移りしてしまう。紗奈は自分の親指と本とを見比べながら、口を開いた。
    「物語のお姫様は、これでも大きな辞典みたいだね。小さくなって、大きな本をめくって読むのも楽しそう」
     そう、自分が小さくなったときのことを想像してみる。
    「ね、小さくなってみんなで読めたら素敵だと思うよ。……ふふ、楽しそう」
     ひよりも同意してくれる。と、ひよりが何かを見つけたようだ。
    「ねえ、さなちゃん。この本お揃いみたい。わたし、どちらか買っていこうかな?」
     ひよりが見つけたのは、猫と犬のお揃いの豆本。
    「本当だ! わたしも、わたしもこれにする! ひよりちゃんはどっちがいい?」
     紗奈は瞳を輝かせながら、ひよりの差し出した絵本に釘付けになっているようだ。
    「ちょっと迷っちゃうけれど、犬さんの方にするね」
    「うんっ、じゃあわたしは猫さんだね!」
     どうやら、ひよりと紗奈の買う本が見つかったようだ。
    「二人の豆本、お揃いみたいで可愛いわね」
     そう声をかける沙慧の手には、購入した本の入った紙袋があった。
    「沙慧ちゃんもきれいな本、見つかった?」
    「ええ、懐中時計をもった兎のかかれたアンティーク装丁の豆本にしたわ。私もちょうど兎だし、作家さんが御伽噺をテーマに写真やイラストを集めたものみたいなの。それに……空白の頁があって、3人でお出かけ記念に何か描いたり写真を貼っても楽しそうだと思って」
     どうやら、沙慧もまた、素敵な本を手にした様子。
    「それじゃあ、後で見せ合いっこしましょ。3人で」
     ひよりの言葉に、二人も嬉しそうに頷いたのだった。

     ウキウキした足取りで本を見て行くのは、鴛水・紫鳥(ミットライトリーべ・d14920)。その隣では楽しそうに紫鳥に寄り添うアルコ・ジェラルド(アルバクローチェ・d01669)の姿があった。
    「豆本って、こんな小さな本の事だったんだなー。小さいのに、きちんと本になってる……!」
     そう声をあげるアルコに紫鳥は。
    「インテリアにもばっちり、作っても可愛いなんて最高ですよっ。文字ばかりの本はちょーっと読みづらいですけれど……」
     そう解説を交えて行く。
    「確かにインテリアとか、いいかもしれないぜ」
     そんなアルコを見つめながら。
    「……なんとなくアルコくんって人魚姫っぽいですよね。……理由を聞かれても困るんですけれど」
    「お、オレ、人魚姫……っぽいの? んーそしたら、鴛水は……茨姫かな」
    「茨姫ですか?」
    「理由は内緒な」
     くすくすと笑い合いながら、アルコは何かを見つけたようだ。
    「あ、なんかごてごてした装丁の本とか、ネックレスによさそうだよなー」
     見つけた本を指さしながらそういうと。
    「ええ、豆本でネックレスになんかしちゃっても可愛いんですよね……」
     その後、目的の本を見つけた後、二人でこっそり耳打ちしながら、何かを計画している様子。買い物を終えた二人は、さっそく目的のものを得るために、会場を後にしたのだった。

    ●ないしょのパーティーへ
     さて帰ろうとホクホク顔の透矢に澄が声をかけ、ある会場へと連れだした。
     そこは小さなカフェ。無理言って、貸切にしてもらったのだ。
    「お誕生日おめでとう!」
     一番に澄が声をかけ、周りの者達も口々におめでとうの声をかけていく。
    「え? 今日は……俺の誕生日、だったか?」
     驚きながらも、透矢はようやく思い出したらしく、ぎこちない笑みを浮かべている。
    「えへへ、内緒でお祝いですよ」
     用意した紅茶とケーキを透矢の座る席に運んでくるのは、紫鳥。ケーキにはハッピーバースデーのプレートが乗せられている。
    「とびきりおいしいやつを選んだんだ。全部食べて行ってくれよ」
     アルコも嬉しそうにそう言って、彼の隣に座る。
     と、店を出していたベアトリスがやってきた。
    「散々迷った末に、結局、金が足りずに買わなかっただろう? ほら、好きなのを選んでくれ。一つやるよ」
    「い、いいのか?」
     遠慮する透矢にベアトリスは、早く選んでくれと笑顔で応える。
     どうやら透矢にとっても、いや、豆本フェスタに参加した皆にとっても、思い出に残る素敵な日になったのだった。

    作者:相原きさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月25日
    難度:簡単
    参加:16人
    結果:成功!
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