護摩行の障壁譲らず

    作者:幾夜緋琉

    ●護摩行の障壁譲らず
     金時山の麓。
     青々とした木々が生い茂る中、その山の麓に作られたのは護摩壇。
     そして護摩壇の前で、読経をしているのは……羅刹の僧達。
     と……羅刹の僧達が読経をする所に。
    『グ、グゥゥウ……』
     どう猛なる獣の唸り声が、僧達を威嚇、威圧しようと鳴り響く。
     しかし、僧達は、その唸り声に怯むこと無く、読経は続く。
    『グ、ガゥゥゥウ!!』
     更に、強い咆哮。
     その咆哮に木々は震え、小鳥達も飛び立っていくが……読経は止むことは無く、その獣は、再び森の中へと戻り行くのであった。
     
    「皆様、お集まり頂けた様で何よりです。早速ですが、今回の依頼の説明を始めさせて頂きますね」
     野々宮・迷宵は、集まった灼滅者達に行儀良くお辞儀をし、そして依頼の説明を早速始める。
    「先日、使者を送ってきた天海大僧正勢力……その勢力に、動きがあった様なのです」
    「僧型の羅刹が、神奈川県は金時山周辺から一般人を追い出し、周囲の立ち入りを禁止してしまっている様なのです」
    「この一般人の追い出しについては、殺界形成の様な力を使っている為、怪我人などは居ません。ですが、秋登山を楽しみにしていた登山客などの迷惑になっているのは間違い無いでしょう」
    「そして現在、この金時山には、強力な動物型眷属が活動している様なのです。僧型の羅刹達は、この眷属を金時山から移動させないようにしている様ですが、その目的は解りません」
    「皆さんには、この金時山に向かい、強力な動物型眷属か、僧型の羅刹。あるいは、その両方を灼滅してきて欲しいのです。倒すべき敵の判断については、皆さんに任せますが、最良の結果となるよう、考えて欲しい所です」
     そして、改めて敵戦力の情報を説明する迷宵。
    「今回相手となるのは、動物型眷属と、僧型羅刹です。動物型眷属は、眷属と言えどもかなり強力で、その戦闘能力はダークネスにも匹敵する程の強力な相手です」
    「その獣の姿は、熊の様な姿形をしているので、その攻撃手段となるのは鋭い爪から繰り出される攻撃が主となります。一閃一閃、高い攻撃力、下手すれば一発で重傷送りになる可能性もあるでしょう。そして、その熊の巨体からしてわかるとおりに、体力も多いです」
    「対し、僧型羅刹達は、結界のような物を作る能力に特化しており、戦闘能力自体は皆様二人と同等程度です。つまり2対8で戦う事になるので、皆さんにとっては優位に立てる戦闘となります」
    「先ほども言った通り、獣型眷属を倒すか、僧型羅刹を倒すかは皆様にお任せします」
    「獣型羅刹を倒さず、僧型羅刹を倒せば、獣型眷属はどこかへと去っていきます。大して僧型羅刹を倒し、獣型眷属を倒した場合、僧型羅刹は護摩壇を抱え、京都へと帰っていくと思います」
     そして、迷宵は。
    「今回の事件は、一般人の被害者が居ない事は幸いです。といっても、獣型眷属が町を襲う様な事になれば被害は出るのは間違い有りませんし、天海大僧正の配下達の動きも、かなり怪しい所です」
    「どちらを灼滅するかは、悩ましいところですが……両方を灼滅するとなると、難易度も上がります。良く考えて、作戦を遂行して来て下さるよう、お願い致します」
     と、深々と頭を下げるのであった。


    参加者
    加奈氏・せりあ(ヴェイジェルズ・d00105)
    神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)
    七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)
    シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)
    南野・まひる(猫と猫と猫と猫と猫と猫美少女・d33257)
    禰・雛(ファクティスアーク・d33420)

    ■リプレイ

    ●護摩
     金時山の麓、青々として木々が生い茂る山の麓に、作られた護摩壇。
     護摩壇の前には羅刹の僧正がおり、彼は読経し、どう猛な獣を山の中に収めている……という話。
     幸か不幸か、僧正の行動は、この山から一般人を追い出しており、周囲の立ち入りを禁止しており、今のところ被害は出ていない。
     でも……。
    「獣を封じている理由が気になる所だな……倒すでも無く、逃すでもなく……何か理由があるのだろうが……?」
     と、首を傾げる禰・雛(ファクティスアーク・d33420)に。
    「そうですわね。特に倒すでもなく、この場に止めているだけ。タイミングを計っているのか、邪魔をしないように抑止しているのか……羅刹の狙いが気になる所でございますね」
    「なぜわざわざ獣を封じる必要があるのか。護摩壇を用意してまでやる事なのか。先日の条約と何か関係はあるのか……聞かせて頂きましょうか」
     神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)、七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)の言葉に、加奈氏・せりあ(ヴェイジェルズ・d00105)が。
    「ふむ……いささか目的が察しきれないというのが不安ですが、目的が不明である以上、こちらとしても被害が少なくなるであろう方向で動かざるを得ませんね。さて……鬼が出るか蛇が出るか……羅刹なので、鬼ですかね?」
    「えっと……そうですね……鬼、ですね……」
     シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)が、こくりと頷きつつ。
    「でも……今回は、羅刹さんではなく、熊さんを倒す……でしたよね?」
     小首を傾げるシェスティンに、南野・まひる(猫と猫と猫と猫と猫と猫美少女・d33257)と、ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)が。
    「熊さん狩るんだ。おいしそうだよね」
    「おいしそう……? 熊か……熊だからな、って、そんな訳ないない。まぁ熊は熊だが、蜂蜜とかくれてやっても大人しくはならんよなぁ。鮭とかもってってもしょうがないし。って訳で、獣型眷属のみ狙うこととしよう」
    「……わかり、ました」
     こくり、と頷くシェスティン……そして目の前にそびえる金時山を見上げながら。
    「そういえば、この山って、丁度、日本の真ん中位の位置にあるんですよねぇ……こんな所で、何を起こそうと言うのでしょうか……?」
     首を傾げる紅羽・流希(挑戦者・d10975)。
     ……何か理由がありそうな気がしないでもないし……偶然の様な気もする。
     でも、それを調べる手段は、直接聞いてみる位しかないわけで。
    「ま、何にしても僧羅刹と会話出来れば良いですねぇ……という訳で、行きましょうかねぇ」
     流希の言葉に頷き、そして灼滅者達は、金時山へと向かうのであった。

    ●休まらずして
     そして、山中を歩いて行く灼滅者達。
     山の縁を歩いて行くと、羅刹の僧正が護摩行の経文を唱えている所に、灼滅者達は遭遇する。
    『……』
     と、到着した灼滅者達に対し一瞥するが、何か話しかけることも無く、経文を唱え続ける彼……。
    「羅刹……」
     と、ぽつり呟いたせりあだが、羅刹は経文を続ける。
     ……そんな彼に、灼滅者達は。
    「……羅刹様、何故貴方は、此処に居るのです? あの獣型眷属をこの場に押しとどめている様子ですが……理由をお聞かせ願えませんか?」
     羅刹に務めて優しく、言葉を掛ける慧瑠を掛けるのだが、羅刹は応えない。
     寧ろ、経文を唱え続ける彼……それに慧瑠は。
    (「羅刹が本気になれば、倒せない相手ではないはず……戦力の消耗を避けようとしているのでしょうか? やはり何か意図を感じるのですが……」)
     そう思いはするが、口にはしない……そして、そんな羅刹に対し、流希が。
    「……敵とは言え、無益な殺生は趣味じゃ無い。だが、やる気があるのなら、相手になるが?」
    『……』
     一瞬、経文を止める羅刹……それに合わせるように、眷属が。
    『グ、グゥゥゥ……!!』
     どう猛な鳴声を上げて、灼滅者と羅刹を威嚇する。そして慧瑠と雛が。
    「……見た目通りの存在でございますね。このような怪物を野放しには出来ません」
    「そうだな……まずはあの獣を倒してからだな。待っていては貰えないか?」
     と言葉を掛ける。
     ……とは言え、羅刹は再度、経文を唱えて、眷属を押さえ込む。
    「……羅刹さん。私達、学園にはまだ対話の準備があります。だから、戦闘終了後に、一度話をさせてください。信頼していますから、待ってて下さいね」
     鞠音はそう言い残すと共に、スレイヤーカードを解放し、戦闘体勢を整える。
     ……そんな灼滅者のこと兄、心なしか、羅刹の視線が奇異しくなった気がするが……。
     他の仲間達も体勢を整えて。
    「それでは、行きましょう」
     とせりあが言い、そして灼滅者達は森の中へ。
     ……封じられしエリアの外から中へと侵入してきた灼滅者に、眷属は獲物が来たとばかりに、咆哮を上げて、早速攻撃態勢。
     そんな熊の姿をした大型眷属の初手の一撃を、咄嗟に雛がカバーリング。
     かなり強力な一撃で、体が吹っ飛び、木に叩きつけられる。
     それにすぐ、シェスティンがラビリンスアーマーで回復を行う。
    「ててて……ありがとう。こりゃ、中々強力だな」
    「そうですね。防御を先ずは上げて行く方がよさそうですね」
     とせりあが頷き、ソーサルガーダーを自分に付与すると、雛自身も、同じくソーサルガーダー。
     そして、改めて対峙体勢を取り、熊眷属を見据えると。
    「……しかしこれは、新手の眷属か? こんな物を閉じ込めて、何をしてんだろうな」
     という流希の言葉に、慧瑠と鞠音が。
    「全くですわね……少なくとも、何時も見る眷属とは少し違うタイプの眷属みたいですわね?」
    「そうですね……」
     そして鞠音が、眷属に向けて。
    「名のある主とお見受けします。貴方がなぜ荒ぶるのですか?」
     と問いかける鞠音だが、眷属は。
    『グァァアアア!!』
     と咆哮を上げる……交渉する様な脳も、意志もないだろう。
    「やはりこれは、新手の眷属? こんな物を羅刹は閉じ込めて、何してんだろうな」
    「そうだね。何にせよ、会話出来る意志もなさそうだし……一気に倒す他にないだろう」
     流希にナハトムジークが頷き、そして。
    「そうだな……さて、行くか」
     と流希は一言言い放つと、影縛りの一撃を、鋭く見据えて叩き込む。
     更にジャマーのナハトムジークが、スターゲイザーで後方から削れば、スナイパーの慧瑠、まひるはブラックフォームと、スターゲイザー。
     そして、まひるのウィングキャットもやってきて、肉球パンチでパンチを叩き込む。
     ……そして、鞠音は。
    「せりあさん、合わせてください」
     と言うと、せりあは。
    「はい、合わせましょう。こういう場合は、私を撃て、でしたっけ」
    「ええ……」
     そしてせりあが熊の間近に接近し、至近距離から殴りかかると、それに後ろから、せりあの背中を撃つかの如く、正確な連携狙撃。
     寸前にせりあが交わす事で、真っ正面から避難することも出来ずに喰らう眷属は、大ダメージ。
     ……しかし、大ダメージを受けたとしても、眷属の体力は多い。
     そんな高い体力と、高い攻撃力を持つ眷属……こんなのが、町に出てきたとしたら、大惨事になる事は間違い無いだろう。
    「これは、必ず此処で押さえ込まなければな」
    「そうだね」
     と頷き合い、気合いを込める。
    「さぁ、これでも喰らいな」
     と流希がデスサイズで切り込んでいくと、更にディフェンダーの雛、ねこ・ざ・ぐれゐとが接近し、黒死斬と猫魔法。
     ジャマーのナハトムジークも十字架戦闘術を叩き込み、スナイパーの慧瑠、まひるも閃光百裂拳やグラインドファイア。
     ……そして、せりあと鞠音は息の合った連携攻撃で、確実に体力を削っていく。
     対する眷属の強力な攻撃は、確実にディフェンダー陣がカバーリングに入り、それらの攻撃を身を以て制し、その受けたダメージをシェスティンがラビリンスアーマーで回復を継続。
     ……一進一退の攻防が、十数分続く。
     灼滅者達も、そして眷属も疲弊していく……が、八人の力を合わせた灼滅者達の方が、僅かにその疲弊が少ない様で……。
    『ぐ、グアアア!!』
     と、次第に眷属の咆哮が、苦しみを含んだ鳴声に変る。
    「……どうやら、そろそろ限界の様だね?」
     とまひるの言葉に、にゃあと鳴いたウィングキャット。
    「よし……それじゃ一気に仕掛けるよ」
     とナハトムジークが頷き、ズタズタラッシュを叩き込み、一気にバッドステータスを倍加。
     大量のバッドステータスに、動きが鈍った所に。
    「今です、せりあさん」
     鞠音の言葉にせりあが頷き、鞠音、せりあ共に熊眷属に接近。
     そして……両側面からの、ダブルトラウナックルアッパーを叩き込み……眷属の体は大きく空へと飛びはね……消滅していくのであった。

    ●笑い会えずに
     ……そして、息を整える灼滅者達。
     そしてすぐに、羅刹の元に戻る為、張ってあったアリアドネの糸をたどり、羅刹の元へ戻る灼滅者達。
     ……だが、既にその場には、羅刹の姿は無い。
     護摩壇も撤去され、羅刹僧正の足跡は、山を下りる方向へと続いているが……程なく、その足跡も消されていた。
    「……眷属は何とかなりましたが、しかし……」
     慧瑠がぽつり呟くと、それにまひるが。
    「……まぁ、この間は、こっちが交渉を蹴ったばかりだし……ね」
     まひるの言葉……それに、ナハトムジークも。
    「そうだね……彼らにとっても、相手にするのは不本意なのかもしれないね」
     と頷く……そして流希が。
    「まぁ、疑問は残りますが、この場は収まりましたし、何か食べて帰りませんかねぇ……? 色々と体を使いましたし……それにしても、これが大きな出来事の前触れでなければいいのですが」
     ぽつりと呟く不安……心なしか、不安を憶える。
     が……だからといって、このままでいい訳も無い。
    「まぁ、仕方在りませんね……帰りましょう」
     とせりあが言い、そして灼滅者達は、その場を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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