華麗なるうどん

■リプレイ

●まだまだ前途有望な若者を闇堕ちから救うのです！
「ちからだけに！！」
　ドヤァァァァ。
　響野・ちから（ポップンガール・d02734）ちゃん、渾身の名前ギャグ。ドヤ顔可愛い。
　それに対して、目線を合わせながら困ったように首を傾げる緒垣・翠（空の青夕日の赤・d15649）。ちからも一緒に首を傾げる。
　数秒後、ハッ、と翠の目が見開かれた。
「あっ、す、すごい、ちっちからお姉ちゃん。や、闇堕『ちから』で、か、かけてる」
「でしょー？」
　などと小学生コンビが会話している周りで、着々と準備を進めていく青年達。
「はーい危ないんで近寄らないでくださいねー」
　敷島・雷歌（炎熱の護剣・d04073）が手慣れた手つきでロープを張っていく。
　ふと空を見上げる。
「北海道か、この前は戦争だったからゆっくりできなかったんだよな……」
　軽く北海道の空を楽しんだ後、ロープの中央に目を移し、溜息をつく。
「現実逃避はやめよう俺。仕事だ仕事！」
　その中央では桃野・実（水蓮鬼・d03786）が給食当番の服を着て、寸胴にお湯を沸かしていた。隣では長谷川・邦彦（魔剣の管理者・d01287）が麺棒でうどんを伸ばしている。
「……凄い、ね」
「ん、まぁうどん大好きだからな」
　台の近くには『讃岐うどん試食会』ののぼりが掲げられている。
　一方、雷歌や、朝倉・くしな（初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889）がロープを張るついでに貼りだす紙にはヒーローショー、の文字。ユメ・リントヴルム（竜胆の夢・d23700）も何事かと集まる人々にヒーローショーの撮影があるので離れていてくださいねと告げている。
　うどんを準備する実、邦彦から少し離れて、と言うかロープの外側で耳うどんなる……言ってしまえば分厚いワンタンの皮のような何かの試食会を行っている田中・良信（宇都宮餃子の伝道師・d32002）の前にも人だかりがたくさんだ。プラチナチケットでヒーローショーと言うことも、うどんの試食会も怪しまれることはないぞ。
　そんな中、ロープも張り終わって一息つく見張りの灼滅者達に緊張が走った。明らかにこの興味に満ちた場に相応しくない気配が近づいてくる。
「え、えっと、ゆっユメお姉ちゃん。ふ、服、白い、けど」
　翠のおどおど声。
「大丈夫だ、問題ない」
　いつの間にか雷歌のビハインドである紫電が持つカメラにドヤ顔を向けるけどそれフラグです。あと邦彦は奥から、麺を伸ばしながらカメラ目線むけない。

●カレーうどん！　 汁はねには要注意なんだよ！
「カレーうどんは麺の先っぽがお汁から出た瞬間に暴れるのが汚れる原因。すする時に箸で抑えるのが服を汚さないポインツですよっ」
「へぇ、そうなんだ！」
「では早速実践してみましょうっ！」
　ユメとくしなが同時にカメラ目線で振り返る。
「「たのもー、美瑛カレーうどんマーン！！　ご自慢のカレーうどんを一杯いただけないっかなー？」」
「滅ぼすべきうどんの匂いがするぞ！！」
　カメラに強引にスライドインしてくる宇土with寸胴カレー鍋inカレー。
「大変だ！　美瑛カレーうどんのヒーローが悪の心に支配されてしまった！」
　良信が実況のお兄さんよろしくマイクでざわつく一般人に対応する。
「会場のみんなの応援で目を覚ますかもしれないぞ！」
「いっ今から、イベント、はっ始まるので、危険ですから、さっ下がって下さい……」
　灼滅者達が宇土に対して隊列を組む間に翠がロープ最前列にいる人々に注意を促す。良信のプラチナチケットも光る。
「そうそう、良い子の皆はここより先に入らないでくれよなっ。焼き餃子レッドとの約束だ！」
「えっ、えっ！？」
　う、うどんは！？　と言いたげな翠の表情。良信さんその目の前にある耳うどんはどうしたこの元宇都宮餃子怪人！！
「さぁ、ここからはこの愛と正義とメロンパンの使徒！　メロンパンガールが御相手するのです！」
「えっ、えっ、えっ！？」
　ちからちゃんもやめてください！　ほら翠ちゃん困ってる！！
　そんな中、おもむろに地面にカレー鍋を置く宇土と対面する２人は唾を飲み込む。いや決して美味そうなカレーの匂いがしているからとかそう言うわけではない、多分。
　あと実の霊犬のクロ助が器用に伸ばし終えたうどんを切っているけど良い子の皆は飼っている犬にそんなことさせようとしちゃいけないぞ！
「うどんの匂いの元は……貴様かァ！！」
　恨みの掛け声一つ、カレー鍋から引っ張り出されたおたまが振るわれ、カレーが一直線に実に向かっていく。
　それを受け止めたのは邦彦、の持つ丼だった。クロ助が斬り終えたうどんを、鍋に入れた実が炎の軌跡を残しながら宇土へ走る。
「雷歌さん、丼サンキュー」
「おう。皆の分もあるぜ」
　親指を立てる邦彦と雷歌。丼が差し出されれば飛びつく女性陣。
「さぁランチタイムだ。プリンセスモードっ！」
　受け取った丼を上に放り投げてくるくると回転しながら七色の光に包まれるくしな。身体のラインが浮き出ているように見えますが至って普通の魔法少女変身シーンみたいなものなので問題ありません。
「どんな料理も美味しく頂く、鬼っ娘魔法少女プアオーガ！」
　光が収まると同時に落下してきた丼をキャッチ。どこからか取り出した箸も構えてしっかりポーズを構えるプアオーガ。
　……あの、プレイングのどこにも戦闘って文字が見えないんですが大丈夫ですよね？
「問題ありませんっ」
　紫電の構えるカメラにドヤ顔。あと邦彦もこっそりカメラ目線決めない。
　一方、宇土はどうしているかと言うと。
「美瑛のうどん。知って、食ってほしいけど、うまげに行かんかったん？」
　実が至近距離で足に炎を纏いつつ何やら話しかけている。宇土が頭に疑問符を浮かべている。
「？」
「それで堕ちかけとん……？　やけど堕ちてしもたら、うどんも、一生懸命食堂でうどん作っとる親も、辛いんで？」
「？？」
「……なあ、お前の大事なんはなんなんな？　美瑛のうどんやろ？　美瑛の、ええうどんやろ？」
「？？？」
「ワシらに教えてみ、たった８人に美瑛のうどんってなんなんか教えてみ？」
「日本語を話せ讃岐うどん人がァァ！！」
　プッツンした宇土がうどんを振り回す。咄嗟に燃える脚でそれを蹴り上げて戻っていく実。パフォーマンスだからね、説得できないね仕方ないね。
　それはそうとして蹴り上げられて燃えるうどんが更に振り回される。ハッと構える翠。
「くっくるっ！」
　咄嗟にダイダロスベルトを射出。うどんのように伸びるベルトが燃えるうどんを斬り裂いた。そして斬り裂かれたうどんの飛んでいく先にはくしな。
「見切った！」
　丼で見事キャッチ。だが丼の中でのたうつ燃える麺に思わず手を火傷しそうになり、咄嗟にその手を異形化させて一安心。
「ってあっつ！　異形化させてもあっついっ！」
　取り落とすわけにもいかず、丼を手に持ったまま腕を振り回して必死にうどんを冷まそうとする。勢い余って宇土を殴っちゃったけどいいよね。
　その間にちゃっかりカレー鍋からカレーをよそっているユメ。全員分をよそい終え、実が茹でたうどんを入れてさぁカレーうどんの完成だ。
「いっただっきまーす！」
　勢いよく麺をすするユメ。飛び散るカレー。茶色い染みができる白い服。
「これだから！　 これだからカレーうどんは！」
「いや、さっき服を汚さないポイント言ってただろ」
　この世の終わりのような顔をするユメに冷静にツッコみながら、なるほどこれは美味いなと舌鼓を打つ雷歌だった。

●悲しい事言うな、競い合うライバルがいるからこそ
「知名度アップに意味があるんじゃないか！」
「お前に何が分かる！」
　焼きうどんが良信に迫る。
「あ！　あれは焼きカレー！　野菜も一緒に取れると評判だぞ！」
　ここは水餃子ダイナミックで対抗だ！
　うどんを無理矢理掴む。何がどう水餃子なのかは分からないが何故か鎮火するうどんを、そのまま丼に叩き込む良信。そのままライドキャリバーの餃子武者の座席に置けば、味方への出前に向かっていくぞ。
「知名度のためにライバルが邪魔……。気持ちはすごく分かるよ、かつての俺がそうだった」
「何っ」
　さらに飛んできた焼きうどんに餃子武者の車体を揺らされて落下するカレーうどんは見なかったことに、良信は言葉を続ける。
「行きつけの店まで壊そうとして……今思うとゾッとする」
　だから行き過ぎる前に止めにきた！　目を覚ませ！
　でもこの台詞ってパフォーマンスなのよね。
「ふんぬぁ！」
「これはつけカレーうどゴボボーッ！！」
「よっ良信お兄ちゃんが、か、カレー鍋に！」
　綺麗にカレー鍋に叩き込まれる餃子ヒーロー。カレー餃子とかどうでしょうか。
「羨ましいのです！」
「う、羨ましいの！？」
　取りあえず跳び蹴りを宇土に食らわせて、すぐにカレー鍋に突き刺さっている良信を引きずり出す翠に続きちからも飛び込んでくる。お腹を空かせた音と共に。
「ふっ、闘いながらこれだけウチのお腹を空かせた相手は初めてなのです……！」
　不敵に笑いながら宇土にロケットハンマーのスイング。うどんとぶつかり巻き取られるが、力が拮抗し対面する。
　向こうではカレー塗れになった良信を、くしながラビリンスアーマーで綺麗にしていた。そう言う技じゃねえからそれ！
「きっと戦いを通して友情とかアレソレ芽生えたりしたらいいんじゃないですかね！」
「うどんの崩壊に友情などいらん！」
「分かってないですね！　カレーうどんはお出汁の効いたとろみのあるクラシックスタイルが一番なのです！」
　ロケットが再噴射し、うどんを引き千切った。
「うどん食べた後にご飯入れれば雑炊風で２度お得なのですよー！！」
　そのまま顎に向けてロケットアッパーカット。
「そして辛いものの後にはあまーいメロンパンで口直しなのですよー！」
「会話が成立してる気がしねえぞ」
　額を押さえる雷歌。紫電が宙に舞い上がった宇土を追ってカメラを向ければ、邦彦がさらにその上に跳び上がってフレームインしてきた。バベルブレイカーを装着した腕を引き力を溜めながら、宇土へと口を開く。
「力技では評判は地に落ちる」
　チラッ。
「カレーは実際美味かったし、逆に考えるんだ。どんなうどんにでも合うカレーで有名になればいいと」
　チラッ。
「そう、うどんを取り込む勢いで！　ルーを伸ばせ！」
　チラッ。
「カメラ目線やめろ！！」
　取りあえずバベルブレイカーを全力で叩き込んで地面に落とす。肩を回し、待ち構えているのは雷歌だった。飛来してきた人間の頭をキャッチしてアイアンクローを決める。
「馬鹿野郎一回の2位で凹んでんじゃねえぞ！」
　青筋を立てながら拳と言葉が飛んだ。
「ご当地うどんが何故知名度を得ていると思ってる！」
「ゲフゥッ！　そ、それは運に恵まれ―――」
「目先の栄光に囚われず己の旨さを追求し続けたからだ！」
　さらに鉄拳制裁。
「生き残るために必要なのは地道な努力だ！　それをまず分かれ！」
　雷歌さんちゃんとした説得ありがとうございます。
「あと―――」
　と、そのこめかみに浮かぶ青筋が強くなる。
「いい加減に食いもんを武器にする習慣を何とかしろー！！」
　トドメの腹パン。やっぱり本音はそっちですか。
　吹き飛ぶ宇土がちからとぶつかる。ちからに巻き付くうどん。
「ひょ？」
　次の瞬間、ちからがお鍋にイン。
「うわっちゃああぁ熱い熱い！！」
「大変！　冷まさないと！」
　くしなが清めの風で必死に鍋を冷まそうとする。そう言う技じゃねーからそれも！
「馬鹿野郎！　煮込んでる最中のカレー鍋を冷ます奴がいるか！」
　宇土、うどんとか関係なしにマジギレ。
「馬鹿！　他のを潰して1位になるなんて、つまらない。2位はチャンスじゃないか！　1位となれるように工夫出来る！」
　対するくしな、唐突に説得で返す。
「評価は大事だけど、評価だけが大事なんじゃない、どれだけスバラな食べ物を作り上げる事が出来るかだっ！」
「っ……オゴォ！？」
　たじろいだ宇土を。翠が摩擦で炎が発生するほどの速度で近づき蹴り飛ばした。そしてちからを引っ張り出す。
「美味しいけどあつうううういぃ！！」
「た、食べてる！？」
　口をもぐもぐさせながら泣いていた。
　蹴り倒されて、ふらふらになりながら起き上った宇土。目の前に落ちる影が１つ。
「キミの信じるうどんは、他のうどんに勝てない位情けないうどんなの？」
　この世の終わりから立ち直ったユメだった。衣装も白地の物から水晶の鎧に変わっている。
「キミのやろうとしてることは、美瑛うどんの実力を信じずに他に迷惑をかける……言わば裏切りだよ！」
「そ、それは……」
　戸惑う宇土。
「かけるなら、迷惑じゃなくて美味しい出汁！ 美味しいカレー！」
　キミのその性根を、たたき直しちゃうから！
　最後に上手いことを言いながら、全力のフォースブレイクが叩き込まれる。
　意識も身体も吹き飛ばされた宇土は―――そのまま、讃岐うどんを全てすくい終わった後の鍋の中に着水した。
「ん……ちょうど良かったね」
　その隣で、実がうどんを作っていた。

●美瑛カレーうどん、たっ食べて、みたいな……
「えっ」
　ホワリとした笑顔で言う翠に、驚いたように返す宇土。
　その前に、実が先程作っていた讃岐のかけうどんをそっと置いた。
「北海道、寒い……。これ、かけうどん」
　でもかけだけじゃ体あったまらない……。と身体を震わせる。
「だから、鰈崎の家のごはん屋さんでカレーうどん食べよう」
「ええっ」
　いいんですか、と戸惑いを返す宇土。迷惑をかけたと委縮しているようだ。
　後ろでは灼滅者達による後片付けと、美瑛カレーうどんのPRが行われていた。
「なーに迷惑かけた顔してんのっかなー。うどん、お代わり！」
「その後はメロンパンでお口直しなのですよ！」
　笑いながら宇土の肩を叩くユメ。ちからを筆頭に周りも笑いながら頷き、宇土の表情が緩む。
「分かりました。それじゃうんと美味いカレーうどんをご馳走しますから来てください」
　立ち上がる宇土に元に、PRが終わり雷歌とくしなも戻ってくる。
「どうやら大丈夫のようだな」
　さて。と一息おく雷歌。
「この先全国のご当地グルメと戦ってくんだろ？　うちに来いよ、北から南まで揃ってるぜ」
「そうそう、学園に来れば色んなご当地の食事を参考に出来ますよっ」
「それを言われたら……俄然行きたくなっちゃうじゃないですか」
　笑う宇土。そして、とりあえずはうちに来てください、とその場を去っていく背中に、灼滅者達も付いていく。
「……ふーむ、カレーうどん自体がなかなか人を選ぶところはある。汁が跳ねた時の被害とかも考えると……あとはうどんとの兼ね合いも……」
　その最後尾で。戦闘中に味わったカレーうどんの感想や今後の美瑛カレーうどんや自身のうどん技術について真剣に考えながらメモ帳に書き記している邦彦の姿があった。

作者：柿茸	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2015年9月27日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 7
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