古き好き景観を残す、豪奢な西洋屋敷。
しかしその屋敷は、全ての良さを台無しにしてあまりある、莫大なゴミの山に埋もれていた。
「ぶほっ、ぶほっ、ぶほっ」
屋敷の最奥、ゴミ山の中心で一人の太った男が嗤う。
「る……瑠架ちゃん僕の瑠架ちゃん。今こそ君を助けたい助けたい。そして感謝されたい見られたい認識されたい瑠架ちゃんに! 僕を見て! 見て瑠架ちゃん!」
突然脈絡も無く叫びだしたその男は、口から何か液体のようなものを吐き出した。
その液体はビチャッと床にへばりついたかと思うとモゴモゴと蠢き、やがて一体のタトゥーバットへと姿を変えた。そして同様にして次々タトゥーバットを生み出すと、
「派手に暴れてこい! 派手に暴れれば、瑠架ちゃんは僕の事を思い出す! そしたら瑠架ちゃんは僕の事を思い出して心強くなるので、そしたら瑠架ちゃんは心強くなって僕の屋敷に訪ねてくるはず! 思い出して! 子爵である僕の事を思い出して! 瑠架ちゃん僕の瑠架ちゃん!」
こじらせた感じに叫びながら、自らの眷属に命令した。
●
「かなりダメな感じにこじらせたヴァンパイアが使役するタトゥーバットに関する未来予測を行いました。灼滅をお願いします」
東雲・彩華(高校生エクスブレイン・dn0235)は資料を渡し説明を続ける。
「今回の敵であるタトゥーバット達は、資料にある高架下に午後10時に現れます。タトゥーバット達は、高架下でたむろしていた少年5人を襲おうとするようです。その際、少年達を襲う前にタトゥーバット達は、少年たちの持っていたスプレー缶をまずは奪い、高架を支える柱に『愛羅武ルカちゃん』などと描いてから襲うようです」
頭の悪い暴走族か? そんな疑問が湧く中、更に説明は続く。
「どうやら、この場所に現れるタトゥーバット達は、主の『朱雀門・瑠架の援軍に動いているのは自分だと分からせる』という命令を実行しているつもりのようです。
……色々と今回の事件の黒幕は残念と言いますか、非常にダメなヴァンパイアのようです」
げんなりとした口調で言うと、気をとり直すような間を開けて続ける。
「タトゥーバット達が柱にスプレーで描いている間も、少年達は面白がってその場を動こうとしませんで、少年達を逃がしてあげる場合は、タトゥーバット達が柱にスプレーで描くのに夢中になっている間に逃がしてあげて下さい。それに気付いたタトゥーバット達は少年達を逃がすまいと襲い掛かってきますので、少年達がある程度距離を取って逃げ出せるまで庇ってあげる必要があります。
ちなみに、襲われるのがこの少年達で無ければ、タトゥーバット達は襲撃場所を移しますので、事前に少年達を移動させておくなどの策は取れませんのでお気を付け下さい」
そこまで言うと、今度は敵の戦力に関して説明する。
「今回の敵となるタトゥーバット達ですが数は五体。空中を自在に飛び回り、人間の可聴域を越えた超音波によって擬似的な呪文詠唱を行い、数々の魔法現象を引き起こします。また、その肉体に描かれた呪術紋様は、直視した者を催眠状態に陥れる魔力を帯びているようです。
使用するサイキックはダンピールと、魔導書のゲシュタルトバスターとアンチサイキックレイに相当する物を使ってきます。ポジションは、2体がメディックに就き、1体がジャマー。残り2体はディフェンダーに就くようです。ダークネスに比べれば1体1体は弱いですが、それでも油断だけはなされないようお気を付け下さい」
そこまで言うと最後に激励を口にする。
「タトゥーバットは、それほど強力な眷属ではありませんが人間を虐殺しようとする意図で動いていますので、見逃すわけにはいきません。どうか皆さん、犠牲者を出さず事件を解決して下さい。皆さんのご武運を願っております」
参加者 | |
---|---|
風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・d00155) |
比良坂・八津葉(天魂の聖龕・d02642) |
蓮華・影華(霞影冥刃・d02948) |
黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208) |
壱越・双調(倭建命・d14063) |
栗元・良顕(お腹いたい・d21094) |
安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263) |
リュカ・メルツァー(光の境界・d32148) |
高架下にたむろしている少年達の元にタトゥーバットが現れる。
それに少年達は興奮した。
「ヤベ! デカ! マジヤバくね!」
「ちょ、マジ笑える! 何このデカさ!」
率直に言って、少年達は頭が悪かった。逃げるでもなく騒ぐ。それはタトゥーバット達がスプレーで描き始めても同様。
「何こいつら! テレビとかに売れるんじゃね?」
「動画アップだろ!」
密かに隠れて見ていた灼滅者達の間に微妙な空気が漂うも、見殺しにするのも後味が悪いので避難誘導に向かう。
「貴方達、何をしているの? 早く退去しないと警察を呼ぶわよ」
比良坂・八津葉(天魂の聖龕・d02642)はプラチナチケットを使い、高架橋の管理者を装い去るように促す。だが、
「え、なんで? 俺ら何も悪いことしてねぇべ」
「それよりかわいい~。クールビューティじゃん。ねねっ、一緒に遊び行かね?」
頭の悪い少年達はナンパまでし出す始末。そこに安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)は、
「この蝙蝠は殺人蝙蝠です。逃げてください」
冷静に警告する。だというのに、
「マジか! マジヤバくねそれ!」
「カッケー、マジカッケー! うひょー!」
非常に頭が悪い少年達はむしろ喜んだ。そこに凛とした声で、
「ここは危険なんです。死にたくなかったらこの場を立ち去りなさい!!」
黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)は強めの口調で少年達に言う。その力強さは、支えてくれる人が傍に居るからこそ。空凛の言葉をサポートするように、彼女の婚約者である壱越・双調(倭建命・d14063)も呼び掛ける。
「ここにいたら蝙蝠に殺されますよ? 殺される前に逃げて下さい!!」
灼滅者達の説得は正しい。にも拘らず少年達は危機感など全く見せず、
「なんでマジになってんの~?」
「だいじょびだいじょぶ! それよりこっちの子もかわいいじゃん! みんなで遊ぼうべ」
強引にナンパをしようと空凛に手を伸ばしてくる。けれど空凛は、動じた様子は微塵も見せない。それは信じる事の出来る相手がすぐ傍に居るから。その信頼に応えるように、双調は空凛を庇うように前に立つと、
「貴様ら、状況分かってんのか? むざむざ死にたくなかったら逃げやがれ!!」
大切な空凛に手を伸ばそうとした少年達にがらりと口調を変え、パニックテレパスを使い半ば強制的に退避を促す。同様に空凛も、
「いいから逃げなさい!! 死にたいのですか!!」
王者の風を使い退避を促した。それによりようやく少年達は退避し始めるが、混乱したり無気力な状態になったりと、この期に及んで退避が遅い。それを的確に避難誘導させるべく、
「列を組んで慌てず落ち着きなさい。貴方達は怪我をしないように私達が守ります。だから安心して逃げなさい」
八津葉は避難に動く空凛や双調のサポートに動き、万が一タトゥーバット達がこちらに来るようなら、いつでもご当地ビームを撃てるように態勢も整える。
その間にジェフは、少年達が退避する間の時間を稼ぐべく奮闘する仲間の援護に向かう。
タトゥーバット達を抑えている灼滅者達は、少ない人数であっても奮闘を見せていた。
「柱にスプレーで描くの邪魔してごめんね……でもそれって、ちゃんと相手に届くのかな……?」
あらかじめサウンドシャッターを使い、避難する少年達の動きのフォローもしていた栗元・良顕(お腹いたい・d21094)は、どこかぼんやりとした雰囲気を漂わせながらも攻撃を叩き付け、タトゥーバット達が少年達の元に行くのを防ぐ。ガンナイフ・黄金銃を使いホーミングバレット。避けようと動いた所に追尾し命中させた。
他のタトゥーバット達も、灼滅者達は次々に動きを抑える。
「行かせるか! 好きに動けると思うなよ!」
リュカ・メルツァー(光の境界・d32148)は少年達を庇うような位置取りをしながらSC解放。それと同時に現れた血のように赤い霧がゆらりと揺れクルセイドソードへと変わると、それを手にタトゥーバット達の群れに踏み込む。迎撃するべくタトゥーバットの一匹が飛び掛かって来るが、リュカのウイングキャット・イオが跳び掛かり肉球パンチ。
「ありがとう、イオ!」
頼りになる相棒に礼を返し、追撃のクルセイドスラッシュで斬り付ける。破邪の白光と共に斬り裂かれた敵の一匹は地面に激突。
それを見た二匹がリュカへと襲い掛かろうと動く。しかし灼滅者達がそれを防いだ。
「ここからは通行止めよ。って言っても判らないだろうけど」
喋りながら自らの影を伸ばしたのは、黒のシルクハットを被り蝶ネクタイを絞め黒のベストを着た、翡翠色の瞳を持つ黒猫紳士の姿な風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・d00155)。伸ばされた影はタトゥーバットの真下に着くと、幾つもの帯状に分かれタトゥーバットへと走る。逃げる余裕さえ与えず巻き付き拘束。そこへ更に、
「追撃お願いね」
主の声に応え、月媛のウイングキャット・フォスフォロスがタトゥーバットを拘束する影を伝い距離を詰めると、肉球パンチを叩き込む。
その連携を逃れた一匹が、リュカの背後から襲い掛かろうとする。だが、蓮華・影華(霞影冥刃・d02948)が立ちはだかった。
「おっと、こちらも通行止めじゃ」
愛らしくも不敵な笑みを浮かべ、
「どれ、血を見せて貰おうかのぅ」
素早い動きで敵を翻弄し、死角から無数の斬撃を放ち、鮮血の赤を彩った。
灼滅者達の対応に手強さを感じたタトゥーバットの一匹が、改めて少年達の元へ向かおうとするも、
「一般人に手出しはさせませんよ」
動きを読み動いていたジェフがソニックビートを放つ。音の衝撃を食らいよろけた所に、ジェフのウイングキャット・タンゴの猫魔法が入り爆発に包まれた。
こうして皆が攻撃を繰り返しタトゥーバット達の動きを封じる中、
「避難誘導終わりました。攻撃に専念しましょう」
少年達を逃がし終えた八津葉は、配置に就くと同時に予言者の瞳を使い命中力を上げ、
「回復します。怪我の酷い方が居られたら仰って下さいね」
空凛は霊犬の絆と共に、少ない人数で奮闘した仲間の傷を癒す。それを見たタトゥーバットの一匹が攻撃に移ろうとするが、
「調子に乗るな」
空凛の危機に声の調子まで変わった双調は一気に踏み込み、鬼神変で殴り飛ばした。
こうして戦力が完全な中、タトゥーバット達を灼滅するべく、皆は攻勢に動いた。
●残念ヴァンパイアの眷属を滅ぼせ
戦いは、少年達を逃がす為に序盤少人数で戦った分ダメージが残りやや不利だったが、それも全員が配置に就きメディックが回復に集中する事で問題も無くなり、攻撃を繰り返し一気に決着へと向かって行った。
「さて、そろそろ片付けましょうか」
八津葉は敵ディフェンダーに向け狙いを付ける。それに気付いた敵は回避に動こうとするが、
「貴方達も、貴方達の主も見過ごせないの。だから逃がさない」
自らの思いに少しでも近づく事を願いながらオーラキャノンを放つ。敵は必死に避けようとするも、その動きに合わせ軌道を変えたオーラキャノンは見事命中。それまで仲間が積み重ねたダメージもあり爆発四散させ灼滅する。
仲間の灼滅にタトゥーバット達は動揺したように鳴き声を上げる。そこへ空凛と双調の絶妙な連携が入る。
「止めはお任せしますね、空凛さん」
双調の呼び掛けに空凛は、
「はい。任せて下さい」
見せ場のプレゼントにくすりと笑みを浮かべると、息を合わせ攻撃に動く。
狙いは敵ディフェンダー。先行し双調は敵へと距離を詰め、攻撃を放ち易い位置へ動かすべく間合いを制していく。
それを恐れた敵は攻撃を放とうとするが、その瞬間、主の目くばせで動いていた絆が死角から斬魔刀で斬り裂く。
そこへ間髪入れず双調はバトルオーラ・藍の細氷を活性化させオーラキャノンを放ち命中させる。爆発に包まれ羽をボロボロにされ墜落した所に、空凛は影を伸ばす。影業・Arco iris en la oscuridadにより、優しく瞬き煌めく影から幾つもの刃が撃ち出され貫く。貫かれた敵は赤黒い霧のようになり消滅した。
これにより敵の壁役は無くなり、残りの敵に止めを刺すべく攻撃に集中する。
「だいぶ、寒くなって来たみたいだね……でも、逃がしてはあげないよ……」
良顕は静かに告げると、カミの力を自身に降ろす。それにより生まれた暴風は渦を巻き敵ジャマーへと向かい、回避先に先回りするような動きを見せ幾つもの風の刃で切り刻んだ。
羽を切り裂かれ動きが鈍った所に、リュカとイオの連携が入る。
「お前らのご主人サマはその内ぶん殴りてぇとこだけど、今の相手はお前らだからな。まずはお前らからぶっ飛ばしてやる!」
戦いの喜びに笑みを浮かべながら、ヒールの靴からエアシューズへと変え高速機動。それに敵は逃げようとするも素早い動きで翻弄するようにして距離を詰める。
もはや逃げられないと開き直った敵は攻撃を放とうとするも、その瞬間、イオの猫魔法が叩き込まれ動きが鈍る。そこへ、
「ぶっ飛べ!」
炎纏う蹴りをリュカは勢い良く放つ。蹴り飛ばされ炎に包まれた敵は、そのまま炎に焼かれ灰と化し消え失せた。
これで敵の残りはメディック二体のみ。敵としては、壊アップのエンチャント効果を持つヒールサイキックを使い続け攻撃力を上げて戦いたい所だったが、灼滅者達の対応が適切だったので十分に攻撃力を上げられない状態での戦闘となる。
そんな状態で負ける灼滅者達ではない。倒し切るべく攻撃を重ねて行った。
「こんな事をしても、瑠花さんは呆れるだけだと思います」
ジェフはタトゥーバット達が描いた落書きに視線を向け言う。それに怒ったのかタトゥーバットの一匹が襲い掛かってくるも、
「計算通りです」
敵の反応を読んでいたジェフは、その動きに合わせ縛霊手に全身から生み出した炎を宿す。襲い掛かって来る敵との距離が詰まるのに合わせ踏み出し殴り付けた。
炎に包まれ殴り飛ばされた敵は墜落し、そこに間髪入れずタンゴの猫魔法が追撃で入る。
その衝撃に動きが止まった敵に、止めを刺したのは月媛。
「頑張って。もっと楽しみましょう」
戦いの中、意識が高揚した月媛は喜びを声に滲ませ一気に距離を詰める。それに敵は苦し紛れの攻撃を放つ。十字の赤きオーラが月媛を切り裂くべく襲い掛かるが、着ぐるみを着ているとは思えない猫を思わせるしなやかな動きで回避。そして攻撃の間合いに踏み込むと、持ち上げた無敵斬艦刀な鮪を一気に振り下ろす。耐える事などできず、敵は潰される様にして消滅した。
「残念。もっと楽しみたかったのに」
戦闘狂な一面を見せる月媛に、残った一匹は怯えたように逃げようとするも、フォスフォロスが先んじて猫魔法を叩き込み動きを封じる。
そこへ止めに動いたのは影華。
「刻んでバラバラ、鮮やかな赤い血肉の花を咲かせてやろうかのぅ」
自らに宿す狂気を笑みに浮かべ、同時に乗りこなしながら、鋼糸・赤蜘蛛と黒蜘蛛を操る。左右同時に襲い掛かる攻撃に逃げ場は無く、細く鋭い斬撃は一瞬で敵を切り刻む。
パッと散るようにその身をばらけさせ、花が咲くように血肉の赤を彩ると、次の瞬間には霧のようになり敵は消滅した。
●後片付け
「1人一本じゃぞ?」
戦闘終わり、影華はニッと笑みを浮かべながら、持って来ていた350mlトマトジュースを皆に渡して行く。一息つくようにそれを飲む者も居る中、
「柱にスプレーで描いたりして、変な眷属だったね……暴れて行く序でだったのかもしれないけど……?」
良顕は眷属が残した『愛羅武ルカちゃん』の落書きを見ながら、のんびりとした口調で感想を口にする。これに、
「主がろくでもないのでしょうね。意味も無く人を襲うのも問題ですが、ルールを犯すような行為も問題です」
八津葉は静かに怒りを滲ませ返す。それに、
「眷属をぶっ倒してやったからな。その内、主の方も出て来るかもしれねぇ。その時は思いっきりぶっ飛ばしてやろうぜ」
「良いわね。その時は、叩き潰してやりたいわ」
リュカは戦闘意欲を見せ、同じく月媛も、鮪を素振りし意欲を見せた。そんな中、
「落書きは、消して行きませんか? 道具は持って来てます。ダークネスがやった事は極力消したいですからね」
ジェフは皆に提案する。それに、
「良いですね。綺麗にしていきましょう」
「手分けをすれば、早く終わりそうですね」
空凛と双調は賛同し、ジェフから掃除道具を受け取り落書きを消しに動く。そして賛同する皆もお掃除。
戦いを一人の被害者も出さずにこなし、後片付けもきっちり終わらせ、依頼を完遂する灼滅者達であった。
作者:東条工事 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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