タトゥーバット殲滅作戦

    作者:空白革命


    「ぶほっ、ぶほっ、ぶほっ! る……瑠架ちゃん僕の瑠架ちゃん。今こそ君を助けたい助けたい。そして感謝されたい見られたい認識されたい瑠架ちゃんに、僕を見て、見て瑠架ちゃん!」
     太ったヴァンパイアの男が、体液を眷属のタトゥーバットに変えて空へと解き放った。
    「派手に暴れてこい! 派手に暴れれば、瑠架ちゃんは僕の事を思い出す! そしたら瑠架ちゃんは僕の事を思い出して心強くなるので、そしたら瑠架ちゃんは心強くなって僕の屋敷に訪ねてくるはず! 思い出して! 子爵である僕の事を思い出して! 瑠架ちゃん僕の瑠架ちゃん!」
     

    「どうしようもねえな!」
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)は不機嫌そうに顎肘をついていた。
     いつものように教卓に座ることもなく、机に突っ伏すようなノーマル姿勢である。
    「大義も正義も善悪もありゃしねえ。あるのは妄執と暴走だけときてやがる。直接会ってぶん殴れねえのがより一層イライラするぜ!」
     彼女の話によれば、ヴァンパイアが派遣した眷属『タトゥーバット』が町で暴れようとしているのだそうだ。
     これを進行中に襲撃、灼滅することが今回の任務である。
    「タトゥーバットってのは以前にも相手どったことのあるコウモリ型の眷属だ。魔法を使う飛行タイプだな。今回の個体に関しては、マテリアルロッドが空飛んでると思ってもらっていいぜ」
     数は8体。妄執によって生み出されただけあってそこそこの戦闘力をもつが、灼滅者が力を合わせて勝てない相手ではないだろう。
    「一つ残らずぶっ飛ばしてやれ。でもって、遠いお空に向けて伝えてやろうぜ。『おとといきやがれ』ってな」


    参加者
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)
    琴鳴・縁(雪弦フィラメント・d10393)
    七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)
    空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)
    荒谷・耀(護剣銀風・d31795)
    妹尾・桔梗(ラビリンスウォーカー・d33007)

    ■リプレイ

    ●さりとて今日も戦わねばならぬ
     廃墟の屋上に夜風が吹き、妹尾・桔梗(ラビリンスウォーカー・d33007)は少しばかり肌寒さを感じた。
     苔だか黴だかがはえたアスファルト面を乱暴に払って、空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)が腹ばいになっている。ヘッドセット一体型のフラッシュライトのオンオフを確かめる彼に、桔梗はなにとも言えない顔をした。
     というより桔梗はそもそもあまりお喋りが得意ではない。
     沈黙ばかりを維持していると、陽太が先に口を開いた。
    「稚拙で自己中心的なダークネスだったよね。そんなやつの眷属だから何をしでかすかわかったもんじゃない。ここで確実に始末するよ」
    「……」
     目を細めて遠方を見やる。暗闇に混じってタトゥーバットの一団が接近してくるのが分かった。数は4。それぞれ一体づつ、エクスブレインの言ったとおりのルートだ。
     有効射程は双方同じ。陽太は相手が射程圏内に入るタイミングを待って銃を構えている。
     たとえば西部のガンマンがコイントスをするように、たとえば戦国時代の武将が軍配を手に名乗りを上げるように、これといった開戦の合図があるわけではない。本来はいつもそうなのだ。灼滅者の戦いは知らぬ間に始まる。強いて言うなら、この世界が始まったときから始まり、ずっと続いているのだ。
     雷が矢のように飛んでくる。腹ばい姿勢から転がって回避する陽太。うつぶせ姿勢に入って射撃。タトゥーバットは回転してそれを避け、周囲に竜巻を引き起こした。
    「『啓け、グリモワール』」
     出番だ。桔梗は飛び出し、シールドを展開。陽太を庇うと当時にウィングキャットを召喚した。
    「シュバリエ、いくよ! 照準セット――」
     片目で狙いを定め、ダイダロスベルトを左右同時展開。突きだした右腕と共に射出させた。
     空中でシュバリエとタトゥーバットが衝突。バランスを崩した所に、狙い澄ましたように陽太のオーラ弾が命中。翼の片方を破壊する。
     一矢報いようと魔方陣を発光させたところへ、桔梗の放ったダイダロスベルトが貫通。身体を真っ二つに切断した。
    「スラッシュ」
     それは桔梗が口に出すよりもずっと早く動いた。

     同時刻――よりもやや前。
     柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)と荒谷・耀(護剣銀風・d31795)は建物二階に存在する小部屋にいた。意味不明の絵画や下品な落書きが並ぶ廃墟らしい廃墟に女子中学生二人組というシチュエーションもなかなかに特殊である。
    「朱雀門の副会長さんってストーカー被害をうえkてるのかな。なんか同情しちゃった」
    「やだ、気持ち悪い。それにあの眷属って体液でできていませんでした? うわっ、やだっ、ほんとに気持ち悪い!」
     もっともな意見である。が、それが小部屋の窓ガラスを破壊してタトゥーバットが突入してくる直前でもそんなことを言えている辺りは、女子中学生相応なのかもしれない。
     砕け散るガラス。魔方陣を発光させて魔術を展開するタトゥーバット。
     耀と玲奈が巻いていたマフラーを同時に脱ぎ捨てると、それらが蛇のようにタトゥーバットに絡みついた。
     一本は身体に巻き付き、もう一本は切り裂きにかかる。
     タトゥーバットは大幅に進路を歪め、部屋の壁に一旦激突。しかし身体を翻して嵐の魔術を発動させた。
     たかがコウモリされど眷属。玲奈は思わず吹き飛ばされ、窓の外から転げ落ちそうになった。マフラーを巻き付けて窓のフレームにつかまる。
     一方の耀は壁に背中をぶつけたが、構わずオーラを放出。
    「集気、解放!」
     コンパクトにまとめたオーラを放射すると、タトゥーバットは今度こそ壁をバウンドして地面に落ちた。
     素早く舞い戻ってきた玲奈が宙返りしつつ足に帯炎。タトゥーバットを踏み潰した。

     さて、この調子で一階フロアを見てみよう。
     既にフロア内に侵入していたタトゥーバットは新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)の乱射する砲撃をジグザグ飛行で回避していた。
    「これもストーカーの一種なのかな?」
    「わかんねぇ。同種以前にっつかヒトとしてわかんねぇ! が、なんであれ俺らをパスして通れると思うなよ!」
     七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)は手の中でオーラ体を生成。ブーメランよろしくタトゥーバットへ投擲した。
     奇妙なS字カーブを描き、回避運動をするタトゥーバットを追尾。が、その行く手をノエル(ウィングキャット)が回り込んで止めた。
     空中で衝突。そこへ、七葉がピッタリとクロスグレイブの照準を定めた。
    「逃がさない」
     雷撃が走り、タトゥーバットを貫通。更に後方から追尾していたオーラ体が突き刺さり、タトゥーバットを丸鋸に晒した木材のごとく切断した。
    「ふう。これって一応、朱雀門の戦力を削ったことになるのか?」
    「あと、ストーカー被害から助けたことにも?」
     七葉と悠里は首を傾げ、ノエルもまた首を傾げた。

     各フロアのチームが順調に一体ずつ倒している頃、野外駐車場では霊犬清助がタトゥーバットとの死闘を繰り広げていた。
     放置車両を駆け上がってジャンプする清助。加えた刀を繰り出すもタトゥーバットは旋回運動で回避。清助は身を翻して六文銭射撃。それを展開した魔方陣で弾くタトゥーバット。
    「うーん、元があれだと思うと美味しく頂きたくないです……」
     剣を構えた琴鳴・縁(雪弦フィラメント・d10393)だが、自分の食文化に無い発酵食品を出されたような顔である。とはいえ放ってはおけぬ。緑はタトゥーバットが雨のように降らせてくる雷撃を剣で右へ左へ打ち弾いた。
    「倒したら元の物体に戻るなんてこと、ありませんよね。触ることすらためらわれますよ!」
    「うーん、何とも言えない所だけど……あの手のヤツが作ったものって大抵……」
     タトゥーバットの軌道を冷静に目で追う十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)。
    「というか、子爵っていうくらいだからもっと気品のある人かと思ったんすけどね。これっじゃアイドルの握手会前に手を舐めるストーカーと一緒じゃないっすか。あは、きもちわるっ!」
     などと言いつつも剣をしっかりと構え、ダッシュ。
     車のボンネットを踏み台代わりにジャンプすると、旋回によって回避しようとするタトゥーバットに流れるような8の字斬りを叩き込んだ。
    「吸血鬼関連なら俺たちダンピールにお任せ、ってね」
     着地。と同時に、タトゥーバットは彼の背後で爆発四散した。

    ●さりとて明日も戦わねばならぬ
     狭霧の後方で爆発四散したタトゥーバット。幸いにもなにがしかの体液に戻って飛散すると言うことはなかった……が、しかし。
    「ん?」
     タトゥーバットが元々飛んできた方角とはまた別の方角から、きらりと何かが光ったように見えた。
     光は一秒足らずで倍以上に膨らみ、やがてそれは光線となって狭霧の頭上を高速通過した。
     常人では何が起こったか分からなかったろうが、彼らはこれで灼滅者。ある意味人間をやめた者たちである。
    「タトゥーバット、二匹とも一階フロアに行ったみたいっすね」
    「二匹もですって!?」
     緑はとるものもとりあえず、もとい清助を小脇に抱っこして書けだした。
     戦力的にどうということではなく、こんなところでじっとしている場合ではない。
    「おっと、俺も行かなくっちゃ」
     狭霧は影業を乱射しながらタトゥーバットを追跡。
     一方のタトゥーバットはそれを右へ左へと回避しながら一階フロアへと突入した。
     突入した先で待ち構えていたのは七葉である。
    「いくよ」
     飛び上がり、蹴りを繰り出す七葉。
     異常な軌道を描いてそれをかわすタトゥーバット。
     二の太刀よろしくネコパンチを繰り出すノエルもぐるりと身を翻して回避。
     そのすぐ後ろから来た第二のタトゥーバットがノエルへと噛みついた。
     吸血、の逆である。エネルギーを強制注入され、小破裂をおこすノエル。
    「この、ツーマンセルかよ!」
     悠里はギルティクロスを投擲。
     タトゥーバットはそれを左右に分かれることで回避する。
     が、そうそう好き勝手させる彼らでもない。後から非常扉を蹴破って飛び込んできた緑と狭霧がタトゥーバットにクロススラッシュ。
     ダメージを受けて墜落しそうになったノエルを、清助が首を咥える形でジャンピングキャッチした。
    「一体はしとめました、残りを!」
    「よしきた!」
     指をくいっとひねる悠里。回避されたと思われたギルティクロスがジグザグの軌道を描いてタトゥーバットに直撃した。
     挟み込むように反対側へ回り、手の中にオーラをため込む七葉。
    「落ちて」
     ほぼ零距離でオーラを叩き付け、放射。
     タトゥーバットは跡形も無く消し飛んだ。

     ツーマンセルを組んだのは一階フロアのタトゥーバットだけではない。屋上で次の敵を待ち構えていた陽太は、別々の方向から回り込むタトゥーバットを観測した。
    「左右から挟み撃ちにする気かな? そういうのは返り討ちに――」
     まずは一射。回避運動をとったタトゥーバットに対して素早く弾込め。フレシェット弾を発射。
     タトゥーバットをかする。
     回避に重点を置いている。まるで最新鋭の弾道ミサイルだ。
     いやまて。ということは。
    「あっ」
     桔梗が声を上げた。
     タトゥーバットが途中で軌道を変えたのだ。やや下。つまり二階フロアだ。
    「あそこだよ、シュバリエ!」
     紙飛行機でも投げるようにシュバリエ(ウィングキャット)を投射した。
     その一方で二階フロア。前後からタトゥーバットが飛び込んできたせいで、玲奈と耀は軽く慌てた。
    「わ、私はこっち!」
    「では私はこちらで!」
     お互い背中合わせになると、耀は杖を地面に突き立てて轟雷魔術を発動。
     一方で耀の丸まった背中を台にして両足を振り上げた玲奈は突撃してきたタトゥーバットを蹴りつけた。
     が、雷は雷で相殺され、蹴りは魔術衝撃によって相殺された。
     目を見開く二人。
     そんな緊迫した戦場に、シュバリエが!
    「にゃーん!」
     妙なカーブを描いて窓から突っ込んできたシュバリエがタトゥーバットを殴り飛ばした。
     一拍遅れてロープを振り子のようにして窓から突入してくる桔梗と陽太。
    「おまたせっ、ヒールアンドガード!」
     桔梗の放ったベルトが耀の前に展開され、追撃の雷をガード。更に陽太が光弾を連射。弾はタトゥーバットにめり込んで破裂。複雑に切り裂いた。
    「ありがとっ! それじゃ耀ちゃん!」
    「はいっ! せーので」
     残ったタトゥーバットに剣を突き刺す玲奈。続けて剣に杖をあわせ、耀は強く念じた。
    「御雷、力を貸して!」
     杖から放たれた雷撃が剣を伝ってタトゥーバットに直撃。バチンという激しい破裂音と共に焼け焦げ、そしてタトゥーバットは消滅した。

     作戦終了、後。
    「ふう……もとの体液に戻ったりしなくて助かりました」
     と誰かが言った。これに関しては誰もが思っていたことである。
     戻るときは戻るし戻らない時は戻らないという、なんとも曖昧なモノなので、今回たまたまラッキーだったと考えると救われるものがあった。
     が、もしエクスブレインがこの事件を予知できなかったら。自分たちがここに駆けつけていなかったら……変態の体液を被る程度では済まされない悲劇が人々を襲っていたことになる。
    「あの子爵、近いうちにしっかり相手しないとね」
     と誰かが言った。これもまた、誰もが思っていたことである。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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