●シン・ライリー派のアンブレイカブルの最期
「死にたくない、助けて……くれ」
シン・ライリー派の格闘家アンブレイカブル。
サワムラは、ボロボロな格好で逃げ続けていた。
錯乱した様子で、港町の裏路地にまで来ると。途端に胸を押さえて苦しみ出す。
「ぐぐぐ……がああああああ!!」
とうとう、地面に蹲り。
悲鳴をあげるサワムラの身体を、内側からの異物が食い破る。
ムシャムシャムシャ!
ベヘリタスの卵から孵った数十匹の羽虫が、絶命したダークネスの身体から次々と這い出て散らばっていった。
「最近発生しているベヘリタスの卵が羽化する事件に、シン・ライリーが関わっているのではないかという、伏木・華流(桜花研鑽・d28213)の懸念が的中してしまったようだ」
神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)が、集まった灼滅者達に説明を始める。
「横浜の港町で、シン・ライリー配下のアンブレイカブルが現れる。こいつの名はサワムラという」
サワムラは何かに追われているように裏道を逃走。
路地裏で急に苦しみだし、体内を食い破って出てくる、数十匹の羽虫型ベヘリタスによって殺されてしまう。
「おそらくだが、このアンブレイカブルのソウルボードに、ベヘリタスの卵が植え付けられているんだろう。急ぎ現場に向かって、現れる数十体のベヘリタスを可能な限り駆逐して欲しい」
ベヘリタスは羽虫のような形状で、個体の戦闘力は灼滅者一人よりも少し劣る程度。全滅はおそらく不可能だろう。
「ベヘリタスの卵から孵った羽虫型ベヘリタスの数は20体。戦闘を仕掛ける限り反撃してくるが、こちらが逃走すればベヘリタスも撤退する。つまりは、ギリギリまで戦えるってことだ」
サワムラは恐怖に錯乱している為、説得などはほぼ不可能だろう。だが、上手くソウルボードに入ることが出来れば、アンブレイカブルを救出できる可能性はある。
「もし、ソウルボードで羽虫型のベヘリタスと戦闘という事になった場合だが。ソウルボードで勝利しても、現実世界で二戦目ということになる」
灼滅者側はダメージが継続するのに対し、羽虫型ベヘリタスは無傷状態での連戦となるため、普通に戦うよりも状況は悪くなる。また、アンブレイカブルは、目を覚ましたら身の安全のため逃走する。
「ソウルボード内に入るということなら、ボクがソウルアクセスのお手伝いをすることが出来そうです」
今回の依頼に参加する遠野・司(中学生シャドウハンター・dn0236)が頷いた。
「今回の敵は、絆のベヘリタスの卵から生まれた、本来のベヘリタスとは違う姿をしたシャドウだ。おそらく、アンブレイカブルのソウルボードを利用して、ベヘリタスの卵を孵化させている者がいるんだろうな」
それがシン・ライリーなのか、そうでないのかは分からない。
このような方法だと、エクスブレインの予知も難しいため、どれだけのベヘリタスの卵が孵化しているか予測もできない。
「とにかく。出来る限り、現れるベヘリタスを倒しておく必要があるのは間違いない。頼んだぜ」
参加者 | |
---|---|
不動・祐一(幻想英雄譚・d00978) |
無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858) |
栗原・嘉哉(陽炎に幻獣は還る・d08263) |
高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272) |
無常・拓馬(安定と信頼の全裸探偵・d10401) |
銃沢・翼冷(深淵覗くアステルバイオレット・d10746) |
初食・杭(メローオレンジ・d14518) |
凪野・悠夜(朧の住人・d29283) |
●説得
「なんだろう……伝え聞いたシン・ライリーの印象と今回のやり方にずれがあるような気がする。オレの勝手な想像かもしれないけどさ」
栗原・嘉哉(陽炎に幻獣は還る・d08263)が首を傾げる。今回の事件、確かにまだまだ謎な部分が多い。
「何がどうなってんだか、特にタカトってやつは何をしてくれてるんかねェ。全き光……闇じゃねーの? やってる事は俺らと一緒だけど」
「コルネリウスはこの現状、どう見ているんだろうな」
銃沢・翼冷(深淵覗くアステルバイオレット・d10746)も色々と疑問を覚えていた。一昔前の探偵服一式といった服装の、無常・拓馬(安定と信頼の全裸探偵・d10401)はタイを弄んだ。
明確なことは一つ。このままでは、多くのベヘリタスが野に放たれてしまうということだ。
横浜の港町。
灼滅者達は、サワムラが逃げてくる裏路地へと向かっていた。
「できれば助けて話をしたい所だけど……目的を履き違えないようにしないとね」
無論、ベヘリタスの撃退という大前提を忘れるわけにはいかないが。
ダメでも元々。情報を得るなり、何か成果があれば良し。
凪野・悠夜(朧の住人・d29283)の言葉の通り、此度の基本方針はアンブレイカブルのサワムラの救出を念頭に置いている。救える手段が示されているのに、みすみす見殺しにするという選択は心情的にも抵抗があるものだ。
「あー、俺はどっちでもいいよ。弱肉強食世の習い、ってことだろ?」
無論、程度の差はあるけれども。
事前に人が周りにいないか不動・祐一(幻想英雄譚・d00978)は確認しておく。逃走された挙句犠牲者がでたら寝ざめが悪い。
「う、うう……」
屈強なはずなシン・ライリー派のアンブレイカブルは、奥まった裏路地で苦しげに蹲っていた。体中傷だらけで、路地には血の跡が出来てしまっている。
(「運が良ければ……な」)
事前準備として初食・杭(メローオレンジ・d14518)がESP水垢離を使用する。祐一はサワムラに変化が起こり、暴れ出さないか注意した。
「お、お前達は……灼滅者、か?」
「今回はアナタを灼滅するためではなく、救出するために来ました」
高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)が、心を砕き接触を図る。
「灼滅者が……ダークネスを、救出だ、と……?」
「アナタのソウルボードに巣食うシャドウを祓うのに協力して頂けませんか」
「くっ……うううう」
取り乱す相手を前にして。
サウンドソルジャーとして癒しの歌を歌いたいけど……
(「本当は癒しの歌でもって。彼の心を落ち着けてあげたいけれど。不確定要素が多過ぎて……ごめんなさい」)
紫姫も、迂闊な真似は出来ない。
俯き加減に、胸中で葛藤しながら詫びるしかない。
「中になにがいるのかはわかる。そこで話しだ、オレ達があんたの夢の中に入ってそいつらをつぶす」
嘉哉も可能であれば、この男を助けたかった。
人道的にどうかとも思う。
「戦闘の中での死を誇りと思うなら、屈辱かもしれないけどこちらに協力して欲しい」
「死にそうなら賭けてみろよ、俺達に。武人ならそれも"勝負"だろ?」
祐一も言葉を継ぎ。
無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)は脅迫になろうと勢いで押す覚悟だった。
「選びなよ、この場でシャドウに内側から食われるか、他の敵に助けられて生き延びるか。生き延びたいならボク等がソウルボードに意地でも入ったげる」
「く、くく……ううっつ!!」
突然、アンブレイカブルは立ち上がると灼滅者達に殴りかかる。錯乱しているためか。灼滅者を信用できないためか。
「っ」
弱っているとはいえ、その拳は鋭く重い。すんでのところでガードした嘉哉の両腕が、ずぎりと痛む。理央は言い聞かせる為にも、真正面から懐に飛び込んで抱き付いてでも距離を詰める。
「ぐっつ、がっつ、この、離れろっ!」
多少殴られようとも構わない。
むしろ、殴られずにソウルボードに入れるとは思わない。サワムラが完全に眠らなくてもソウルボードに入り込む切っ掛けさえ掴めればそれで良い。
「落ち着いて」
理央が相手を抑えている間に、杭が錯乱状態にあるのを承知の上で語りかける。
「目を閉じて」
短く伝わりやすい言葉で。
「ここで死ぬか可能性に賭けるか選んで」
そして、想いを込めた口調で。
「サワムラ……【ロバの水飲み場】だよ。ロバを水飲み場に連れて行く事は出来ても、ロバ自身がその水を飲もーとしなかったらオレらにはどーしよーもない。あんたが助かろうとしなきゃオレらはどーすることも出来ない! 少しでも生きたかったらオレ達を信じろよ! ただ眠るだけでいい!」
「信じる? 眠る……だけ? くっつ!!」
アンブレイカブルが灼滅者を振りほどく。
黙らせる為の最後の手段。
理央の手加減攻撃の拳が伸び――当たる寸前で、限界を迎えたサワムラは自ら膝を折り夢の中へと沈んでいった。
●狂える武人の精神世界
石造りのリングの世界。
ソウルアクセスをした灼滅者達は、武骨な精神世界に降り立つ。
「夢で寄生し現実で殺すか……エルム街で発生すべき事案だな」
「ギギギギギ!」
拓馬の視線の先、多くの羽虫型ベヘリタスが巣食っている。
その数はちょうど二十。敵と戦闘になるまでソウルボード内で他に何らかの異常が発生していないか調査してみたかったのだが。どうやら、そんな暇はなさそうだ。心の世界を不法に占拠した者達が、心地悪い羽音を立てて――灼滅者達を威嚇してくる。
「無理矢理眠らせるのはベヘリタスの孵化を早めるみたいだから。もし眠ってくれなかったら申し訳ないけどサワムラの救出は諦めるつもりだったけど」
「助ける余裕があるなら、アンブレイカブルを助けられる様に努力はするよ」
杭がフェニックスドライブで、前衛の仲間にEN破壊を付与。
悠夜は鏖殺領域で殺気を放ち――同時に、戦闘狂の自分が顔を出す。
「戦うのは怖い。でも、それでも誰かを守るためなら……」
紫姫は堕天使の黒翼から、敵前衛に除霊結界を展開する。
ある淫魔の翼を模した縛霊手。その漆黒の翼に祭られるのは闇に飲まれない希望の光だ。
「ギギギギ!」
「神様の代わりにさ、俺が手を貸すよ」
攻勢を受けたベヘリタス達は、集団となって編隊を組むように迫ってくる。祐一と霊犬の迦楼羅の主従が、前に出て盾となった。
「ふう……」
息を吐き。
理央はファイティングポーズの構えを取る。
「シュッ!」
虫を撃ち落とすように。
障壁で覆った拳で鋭いジャブを打ち、相手の注意を引く。
その戦闘スタイルはボクシングの拳撃のみ。サイキックも拳を使って発動する。
「飛んで火に入る何とやらだ」
一昔前の探偵服一式から。
赤い魔術師のような全身アーマー姿へ。
拓馬は魔導書からゲシュタルトバスターを発動させて、広範囲を炎で爆破する。
爆炎が舞い散る。
激しい光に照らされて。灼滅者達の影が俊敏に動く。
嘉哉は闘気を雷に変換して拳に宿し、アッパーカットを繰り出し。
翼冷の腕が細長く黒くなり白い文様が浮かぶ。そのまま凄まじい膂力でシャドウを殴り飛ばした。
武骨なリングの上で。
灼滅者達は、飛び回る羽虫を駆逐していく。
「さて……目障りな虫にはサッサと消えてもらおうじゃねぇかッ!」
『僕』と『俺』。
悠夜が荒々しく気炎を吐き。
半獣化させた、鋭い銀爪でベヘリタスを引き裂く。それは、まるで命のやり取りを心から楽しんでいるようだった。
生き残るために芽生えてしまった、荒々しい一面。
生粋の戦闘狂。
普段の自分とかけ離れたこの一面を恐れ、いつか本来の自分を見失うのではないかと、少年は人知れず恐れている。
だが、ことのこの場においては、有用であることは間違いなかった。
「いー感じ」
連携が上手く働く。
相手は手数が多く、こちらも小さな傷は絶えぬものの。
杭と紫姫がセイクリッドウインドで仲間を適宜キュアする。
祐一も回復を重視しつつ、相手の攻撃を担う輩を狙って精度の高い攻撃を繰り出し続ける。そこに理央が、抗雷撃で対象を合わせて集中砲火を浴びせた。
「ギ、ギギ!?」
元々、個体あたりの力は灼滅者達の方が上だ。
更にソウルボード内では、力を十全に発揮できぬシャドウは一匹、また一匹と掃討される。
「だいぶ減ってきたな。そろそろ終わらせる、燃え落ちろ」
拓馬が創り出した青い炎の幻影が、敵が一番多い隊列を襲う。
嘉哉のレーヴァテインが羽虫を焼く。
「ほら、早くこの世界から出て行け」
翼冷の閃光百裂拳。
目に見えないモーションの後に、無数の衝撃波を叩きつけられ――ベヘリタス達は、たまらず退散していく。
決して楽な作業ではなかったが。
相応の時間と疲労を引き換えに。
灼滅者達は、アンブレイカブルの精神世界から敵を追い出すことに成功していた。
「頑張らないとな」
石のリングには、そこかしこに亀裂が生まれている。
戦闘の爪痕が残るソウルボードを一望して、嘉哉がぽつりと呟く。まさしく、本番はこれから。
もしもの、ときは闇堕ちも辞さない。
覚悟の瞳は、そう語っているかのようだった。
●現実世界
「べへってやがる。早すぎたんだ!」
他人の不幸はメープルシロップ。
現実世界に帰還すると、拓馬が一番に叫ぶ。まあ、言いたいだけなのだが。自由主義者につき、戦闘時以外は我が道を行く彼らしいと言えば彼らしい。
「ギ、ギギ、ギギ!」
「ギギギギギギギ!」
「ギ? ギギギギ?」
目を醒ました灼滅者達の前には。
倒れたサワムラを中心として、多数のベヘリタス達が陣を成していた。 戦闘時の協調を乱すつもりはないものの。
基本的にベヘリタスが気になるから来ただけ。アンブレイカブルのことなど、どうでもいいと思っている私立探偵にしてみると、つい茶化したくなる光景だった。
ともあれ。
このままでは、せっかく助けたサワムラの身が危うい。
「オラ起きろ! 死にたいのか! 逝きたくないなら死ぬ気で生きろ!」
翼冷が怒号をあげて、鬼神変でベヘリタスを散らしにかかる。
他の者もすぐに続く。
理央の拳が恐ろしい速度で飛び。嘉哉の雷の拳が敵を捉える。精神世界だろうと、現実世界だろうと、やることは変わらない。
「ギギギギ!」
異なる点は、現実世界のシャドウの力はソウルボードでの比ではないというところか。
「続けての戦闘は、思ったより厳しいですね」
紫姫は除霊結界を発動させるのを断念して、斬繊を手にする。剣に刻まれた祝福の言葉を風に変換し、連戦で傷付いた仲間を癒す。
灼滅者達は苦心しながらも、襲いかかってくる敵の気を引き。
アンブレイカブルの傍からべヘリタスを引き剥がす。杭は神霊剣を振るい、敵の霊魂と霊的防護を直接破壊する。悠夜が有形無形の畏れを纏い、鋭い斬撃を放った。
「う、うう……」
気を失っていたサワムラが、呻きながらゆっくりと覚醒する。頭を振りながら。アンブレイカブルは、離れて戦う灼滅者達とベヘリタスの大群に目を向けた。
「お。あちらも、ようやくお目覚めか」
「ねえ、どうしてベヘリタスに寄生されてたの? 何か心当たりがあったら教えてほしいんだけど……」
ダメ元で質問をしてみる悠夜への答えは――引き攣った悲鳴だった。
「ひっ!」
傷だらけの身体を引きずるようにして。
サワムラはその場から、大急ぎで逃げ出した。ベヘリタス達との戦闘で手一杯の、灼滅者達にそれを止める術はない。
「拾った命、変なことに使うなよ」
見えなくなる背中に、祐一が声を掛けた。
心中はやや複雑である。
(「んー……いや、此処で助けるのはいーわけよ。たださ、ここでこいつを助けてそのあとこいつが人を殺したり、自分の友達を殺した時に悔やまないのか、って話だよな」)
ま、言わないけど。
(「合理を取ればそうなのにな、全く、感情ってのはつくづくもって度し難いぜ……ソレがいいんだけどな、人間ってのは」)
気持ちを切り替え。
シャドウへと集中。
誕生日に贈られた縛霊手、花一匁から内蔵した祭壇を展開。霊的因子を強制停止させる結界を構築し、敵を討つ。
(「ダークネスを守ったり。彼に情けをかけるなんて、私の偽善も果てがないね。いつ敵になるかわからないのに」)
同じような感慨を持つ者は、他にもいる。
人を守り、自分を投げ出す。傷つけることを否定し、守るために傷つける。
生き急ぎ、存在意義を求める。
弱さを否定し、強くあることを望む。
そして、それは本当に必要なのか。
矛盾を抱え悩み続けるのが、人というものなのだろう。
紫姫は、エンジェリックボイスを奏でて味方を支える。個人的な感傷、現在の情勢、気になることは他に幾らでもある。
心の神殿がざわつく。
「八犬士、それをまとめたスキュラ。スキュラ亡き後に一派となったシン・ライリーたちアンブレイカブル。絆が彼らにもあるように思える。それを喰らって孵化しているの?」
思考の海に沈みそうになって、紫姫は頭を振る。
考えるのはベヘリタスの羽虫を片付けてから。今は皆を護るために歌い続けよう。
高らかに。
天使を思わせる天上の歌声が響いた。
●撤退
「ほら、動くなよ……後腐れの無ぇ様に切り刻んでやるからさッ!」
人喰い大蛇の顎門を使い鍛え上げられた、連接剣【蛇骨之顎門】は。生きた大蛇の様に、肉を切り裂き血を啜る。悠夜の技と相まって、その暴威は甚大だった。
「ギギギギギギ!?」
「しかし、異常な方法で作為的に産み出されたダークネスか。どこかデモノイドの生まれを思い出すね」
バッドステータスをばら撒き、弱った敵に。
拓馬が流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ。
一体のダークネスが沈めば。
「難しく考えるなよ。苦労してるぞ?」
攻撃力を強化し。
紫色で綺羅びやかな装飾が施された逸品。翼冷のホバー式エアシューズが火を纏って激しい蹴りを放ち――ベヘリタスが悲鳴を上げる間もなく消滅する。
「ギギギギ!」
「させないよ」
軽快なフットワークを駆使して、理央が仲間の盾となって動き回り。ジャブを打ち、カウンターで強烈なアッバーを決める。蚊を撃ち落とすような勢いで、ベヘリタスも墜ちる。
「アンブレイカブルも助けられたし、後は一匹でも多くベヘリタスを倒すのみだ」
嘉哉の影業は人型の獣という風体。
灼滅者本人の動きをトレースするように動き、ベヘリタスを切り刻む。前衛陣は、あらかた終わったので次はジャマ―だ。
「ギギギギギギギギ!」
「ギ、ギギ、ギギギ!」
「ギ、ギギ? ギギ!」
ベヘリタスの数は、半数近くにまで減っていた。
無論、灼滅者側の損傷も激しい。大量のシャドウ達から、毒の弾丸を四方八方から放たれては、ダメージは元より受けるエンチャントの数は並ではない。回復の手は常時足りず、消耗戦になっては確実に不利だった。
「はいどーも! 守り固めるぜ」
杭はクルセイドスラッシュで攻撃しながら、自身の防御を強固にして皆を守り。負傷した仲間はラビリンスアーマーで護衛する。
「もう少し頑張るぜ、相棒」
霊犬の迦楼羅も回復を軸とし。有事の際には、斬魔刀で敵を断つ。主人の祐一も祭霊光とリバイブメロディを使い分けて、味方全体の毒の除去に尽力した。
こちらも誕生日のプレゼント。
低音の重響を出すのに秀でる赤いギター。誰かのヒーローに捧げるES-335モデルーー焔笊を立ち上がる力をもたらす響きで、かき鳴らす。
圧倒的な数の上での不利。
それを跳ね返すようにして。
ここまで戦線を維持できたのは、メディックの紫姫を始めとする、彼らの活躍があってこそだった。
ただし、どうしても手の届かない部分は出てくる。
「ギギギギ!」
「くっ、また一体逃したか」
「ちょっと、あれは追えないな」
灼滅者達の手をすり抜けて、何体かのベヘリタスは戦場からどこぞへと既に離脱していた。更に、ソウルボードからの連戦の影響も重なって、次第に限界が近付いていた。
「この辺りが、潮時でしょうか」
最終段階に入り、紫姫がディフェンダーへとポジションを移動する。ここからは、回復よりも守りが重要になってくる。
少なくとも目標の数以上の掃討は叶ったのだ。
皆がギリギリのラインにいる以上、一人が倒れればそのまま戦線のバランスが崩れて、雪崩式に全滅という事態にもなりかねない。
撤退の時機を見誤るべきではなかった。
「ギギギギギ!」
ベヘリタス達が迫るが、数を減らしたおかげで耐えられぬほどではない。灼滅者達は、退きながら最後の一撃を加えていく。
「重要参考人も逃げたことだし、さっさと帰ろう」
拓馬がグラインドファイアで敵を払う。
理央のワイドガードでの援護を受け、悠夜が剣を振るう。嘉哉の影業が所有者の動きを追従して、攻撃を見舞った。
(「撤退が不可能な時や、戦線が維持できなくなった時は――とも思っていたが、どうやら大丈夫そうだな」)
闇堕ちを視野に入れていた翼冷は、胸中で息を吐き。
連結された丸鋸たるウロボロスブレイドを構えた。
「これが、最後だ」
ブレイドサイクロン。
空に浮く丸鋸で複数回、ベヘリタスを斬りつける。追い縋るシャドウの数体が塵へと消え――灼滅者達は、そのまま踵を返して撤退した。
「全滅は無理だったね。僕としては少し残念だな」
『俺』から『僕』へ。
戻った悠夜の言葉は、皆の心情を代弁していた。
作者:彩乃鳩 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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