●エロエロ天国だと思ったか!? 残念オレだよ!
画面いっぱいに黒人男性の大胸筋が映った。
バイブレーション機能でも搭載してんのかってくらいびくんびくん高速振動させながら荒ぶるマッスルボディ。
「マッスルカーニバルが始まるぞおおおおおおお!」
「「イエエエエエエエエエエエア!!」」
何処からともなく大量に湧いてくるマッスルガイズ!
内側からの筋肉で引きちぎられるTシャツ。
マッスル達は人間やめたのかってくらい膨張した筋肉を躍動させ、無駄に空を飛び始めた。
「う、うわああああああ!」
うっかりタイトルに(タイトルに?)釣られた若い男達が掻っ攫われ、屈強な胸に抱き潰されていく。
彼らが最後に見たのはそう。
――あらぶるおっぱい。
●なぜクリックしてしまった?
「畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
神崎ヤマト。通称ザキヤマは教室の机をかち割らんばかりにぶっ叩いた。
「聞いてくれ! ある街には『おっぱい』とピンクい文字で書かれた看板がつけられたひっそりとしたバーがあるという! だが名前につられてうっかり入ってしまうとそこは別世界! そう正に別世界!
野にマッスルは咲き乱れ空はマッスルが飛びマッスルのさえずりが聞こえてくるマッスル世界が広がっているという噂だ! その噂が……! あろうことか……! 実体化しちまったんだよお……!」
『実体化都市伝説』。
人々に広まった噂そのものが実体化した正真正銘のバケモンである。
今回の都市伝説は『扉を開けたらマッスル世界』という部分を(無駄に)忠実に再現してくれたおかげで大変なことになっていた。
「現れる敵は8体。いわゆるマッスルだ」
「いわゆらなくてもマッスルだ」
スケッチ画を見せられてげっそりする灼滅者一同。
「攻撃方法は主に三つだ……自らをミサイルに変えて飛んでくるマッスルミサイル。膨張した筋肉で攻撃を弾くマッスルアーマー。優しく包み込むような抱擁で夢の世界にいざなうマッスルハグ」
「おい三つ目嘘つくな!」
「以上だ……」
ぐっと涙をこらえるように顔を覆うザキヤマ。
「辛く厳しい任務になると思う……けれど……どうか、こいつらをボコボコにしてきてくれ……頼む……!」
彼の言葉に、灼滅者たちはしっかりと頷いたのだった。
参加者 | |
---|---|
法花堂・庵(光明ワルツ・d00438) |
東当・悟(真紅の翼・d00662) |
今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605) |
緋梨・ちくさ(さわひこめ・d04216) |
不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452) |
月雲・螢(とても残念な眼鏡姉・d06312) |
下総・文月(フラジャイル・d06566) |
若吉・雄午(心に刃じゃ忍にゃなれぬ・d06822) |
●『おっぱい』と言う単語に人類はいつも騙される
某県某所某BARにかかっているおっぱいという看板が……。
「せいっ!」
不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)におもいっきし蹴っ飛ばされた。
その上でにじにじ踏みつける読魅。
「すまぬ。こういうものをみるとつい巨だの貧だのという不毛な争いを連想してしまうゆえ……」
「そうなの?」
刀を見つめて何やらぶつぶつ言ってる読魅の後ろで、今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)がかぁいらしげに首を傾げた。
「大きいのが、そんなにいいの?」
「まあな……」
目を伏せる下総・文月(フラジャイル・d06566)。
「『おっぱい』には思春期男子の夢が詰まってるんだ。そして男はでっかい夢を掴みたいものだ。故に、大きい方が良い。……これを三段論法と言ってな」
「待てい」
文月の肩をがしりと掴む東当・悟(真紅の翼・d00662)。
「幼子に妙なこと教えんといてんか」
「そうだな……それより今回の事件だ」
「せやな」
二人は仄暗い目をして看板を見下ろす。
「危なかったわあ、以来始まる前から闇落ちする所やったでえ……燃やす」
「全男子の、そして俺個人の怒りをもって三枚に下ろす……」
「それでもその、釣られざるをえない罠っていうか?」
二人の後ろからちらりと顔を出す若吉・雄午(心に刃じゃ忍にゃなれぬ・d06822)。
関係ない話になるが、人けのない裏路地でビキニの美女がプリントされた立て看板を設置して、胸の部分にだけ布をかぶせておいたら何人が捲るかという実験をした際、男はほぼ8割確率で捲って行ったというデータがあるらしい。本当かどうかしらないが。
ちなみに捲るとカメラが作動して顔を激写されるらしい。
「そういう青春ブラックヒストリーを重ねて成長する的な?」
「はあ、そういうのは程々が一番よね」
割とテキトーな受け答えをしつつオイサカさんの首をごろごろしたり背中にほおずりしたりする月雲・螢(とても残念な眼鏡姉・d06312)。犬派である。
「あ、私は女子の胸の方が好き」
「そら言われんでも」
「うん、というか、どういう人がこんな噂たてたんだろう。意味不明すぎるよ」
「噂というのは大抵尾ひれがついて意味が分からなくなるものですからね」
腕組みする緋梨・ちくさ(さわひこめ・d04216)の脇で、法花堂・庵(光明ワルツ・d00438)が漸くドアに手をかけた。
ドアノブを捻り、開く。
そして、非常にありていな感想を述べた。
「……うわぁ」
●人がおっぱいに惑わされやすいのはこれが母性の象徴だからという説がある
庵の『うわぁ』を正確な音声として表現するならば。
二日酔いで目覚めてもうなんか吐きそうで頭も痛くてでも一応虚勢を張らなきゃいけないみたいなときに言う『だいじょうぶ』と同じテンションだった。
ため息と一緒に魂吐いてる感じと言えば伝わりやすいだろうか。
野にマッスルが咲き乱れ天にマッスルは輝きマッスルのさえずりとマッスルのダンスと言う、春的要素を全部マッスルに変えた光景が展開されているのだ。無理もない。
一同の後ろで閉まるドア。
親指を立て、ウィンクするマッスル。
『ウェルカム、ネバーランド』
「やかましい!」
庵が激しく跳躍。ハンマーを振り上げるとレーヴァテインを思い切り叩き込んだ。
「落ちろ!」
『ナイスバァルク!』
庵のハンマーを大胸筋で(無駄に)受け止めるマッスル。
が、庵の後ろからダブルジャンプで飛び込んできた悟の拳までは受け切れなかった。
「うおらあ!」
レーヴァテインが炸裂し、マッスルが火を上げて墜落する。
「燃やしたる! 片っ端から燃やしたる!」
『イェエス!』
土をわって芽吹くマッスルの群。
むくむくと膨らんで合計八体のマッスルへと進化すると、一斉にポージングからのマッスルミサイルを繰り出した。
具体的に言うと腕組みしながら頭から突っ込んでくる突撃である。別名自分ミサイル。
「こ、こないで!」
制約の弾丸をマッスル目がけて乱射する紅葉。
でもなんでかスキンヘッドの頭にカキーンと弾かれた。
「いやあああ!」
慌てて飛び退く紅葉。さっきまでいた地面にマッスルが頭から突き刺さる。
もう既にカオスじみてきたが、文月は目元を手で覆いながら解除コードを呟いた。
「全ては胡蝶の夢だ……いや本当夢であってくれねえかなあ。悪夢だよなあぁ……」
「いいから早く撃ってー」
いやーと言いながらダッシュで逃げる紅葉。
文月は心からいやそうに視界を開くと、飛んできたマッスルに思い切りトラウナックルを叩き込んだ。
「今日の殺意は一味違うぞ。その無駄な筋肉を削ぎ落してやる!」
「飛んでる割に、攻撃届くんだね。近いんだね」
カードを取り出しつつつぶやくちくさ。
メタなことを行ってしまって申し訳ないが、前に出てきた時点で飛行ポジションから外れる(割と低い所で浮いている)という理解で居て貰って構わない。
「とにかく、このままだと僕の所にも来ちゃうし……助けて、僕のヒーロー、レッド!」
ちくさがカードを掲げた途端、どこからともなくレッド(ビハインド)が出現……したかと思ったら顔面にマッスルミサイルが激突した。
もんどりうって倒れるレッド。
「頑張ってレッド! 負けちゃ駄目だよ!」
「…………」
「それにしても飛んでき過ぎじゃ!」
ヴァンパイアミストを展開しつつ周囲を伺う読魅。
霧を破って突っ込んできたマッスルをギルティクロスで迎撃した。
頭にバッテンをくらったマッスルが『ノオオオオオウ!』とか言いながらのた打ち回る。
「ふう、ふう、きりがない……む、螢はどこじゃ?」
「ここだけど?」
見えない壁の辺りを『壁歩き』でてくてく上る螢。
よけたマッスルミサイルが壁にざくざく突き刺さっていた。
「こうやったら驚くかと思ったんだけど、割と普通に襲ってくるのね」
「むしろ妾が驚いたわ! なんて所におるんじゃ!」
「今日はナイフの切味を発揮できなくて残念ね」
「聞いてない!? こやつ話聞いてない!? うおおおおおう!?」
腕を広げてダイブしてくるマッスルミサイル。当たりそうになった所でレッドが割り込み、代わりに攻撃を受けてくれた。
……こう書くと格好良いが、目の前でマッスルに『ぎゅ』ってされてる所は何と言うか哀れだった。
その一方。
「そ、そんなDTおつみたいな目でみんなよぉーう!」
手裏剣を乱れ投げする雄午。
マッスルの大胸筋に全弾刺さるが、ポージング一発でぱらぱらと剥がれ落ちていく。
カートゥーンさながらである。
「クーリングオフゥー!」
すかさずリングスラッシャー射出。
両乳首をざくざくと斬られたマッスルは仰け反って悲鳴をあげた。
「おお、聞いてる!? 借りててよかったリングスラッシャー! ちっくんサンキュー!」
「誰がちっくんか!」
「雄午さん、そこにいると抱き着かれますよ」
「え、そんな馬鹿なぎゃあああああああ!!」
マッスル抱擁をうけて掻っ攫われる雄午。
ちくさと螢はそんな彼を見上げ、両手を合わせたのだった。
●マッスル世界というフレーズだけで尾ひれがついたに違いない都市伝説
前半の展開で忘れがちかもしれないが、これは灼滅者と実体化都市伝説による命を賭けたバトルである。
なのですごい苦戦することもあるだろうし、ピンチにだってなる。
庵はまさに、そういう状況に陥っていた。
「私は……もう、駄目です」
「諦めないで、いま仲間が回復してくれるから!」
仰向けに倒れ口から血を流す庵。
彼の手を強く握り、ちくさは懸命に呼びかけていた。
「遺された皆に伝えてください。私はこんなことで天国に行ったんじゃ……な……」
「庵くん!」
ぐいっと庵の肩を掴み上げるちくさ。
「ちょっとそこ動かないでね」
「えっ」
庵の肩にマッスルの顎が置かれた。
腰を滑るように包み込む屈強な腕。
『つ・か・ま・え・たっ』
「うわあああアァァァァァァッ!!!!」
庵の断末魔を背に、走り去るちくさ。
彼女の頭上をマッスルに思いっきり抱きしめられて泡吹いてるレッドが通り過ぎていく。
「ごめんね! みんなの犠牲は無駄にしないよ。この荒ぶるマッスルの波を乗りこなしそして必ず潰してみせるから!」
「庵まだ死んでへんて! つかさり気に酷いなあんた!」
隣を併走する悟。
それを万歳体勢のマッスルが追いかけていた。
「悟くん追いつかれてる追いつかれてる!」
「ほんまや! こうなったら……!」
ざりっとブレーキ反転。
ファイティングポーズをとると、マッスル抱付を気合でかわした。
カウンター気味の黒死斬を叩き込む。
「おっぱいには夢が詰まっとる。その通りや。無論貧乳もええと思う。ステータスやと思う。俺は美脚派やけどな!」
「ちなみに私は犬派ね」
すっと背景を通り過ぎていく螢。
豪快に無視する悟。
「そやけど、雄っぱい……」
続けてレーヴァテイン。
炎をあげるマッスルに、悟はアッパー気味ののフォースブレイクを叩き込んだ。
「おまえはアカン!」
『オォウフ!』
派手に吹き飛んでいくマッスル。
何だかやり遂げた顔をする悟。
その直後、悟は別のマッスルに掻っ攫われたのだった。
一方その頃。
「ギャー! こっちくんなマジで!」
「オイサカさん援護援護……ってもういない!? どこ行ったの~!?」
文月と勇牛は空飛ぶマッスルから全力ダッシュで逃げていた。
「雄午お前ディフェンダーだろ、なんとかしろ!」
「え? うん、イヤ」
「二人とも女性の胸よりマッスルのほうが好みなのね。お姉さん悲しいわ、うっうっ……」
オイサカさんの毛並みをわしゃわしゃやりながら背景を通過する螢。
二人はそれを華麗に無視した。
「よしこうしよう。一緒に振り向こう! 俺はデッドブラスターを撃ちまくる。お前は乱れ手裏剣撃ちまくる。どっちが襲われても恨みっこなしだ」
「じゃあそれでっ。せーの!」
走りながらステップ反転する文月。
デッドブラスターを乱射しつつちらりと横を見ると。
「お先にぃ~!」
全力バックダッシュで逃げ去る雄午の姿があった。
「裏切ったな雄午おおおおおお!」
無論文月はハグられた。
次々と倒れていくマッスル、そして仲間たち。
読魅と紅葉(あと螢)は身を寄せ合って迎撃を続けていた。
「ど、どうしよう。良く分からないんだけど、紅葉……あれだけは凄く嫌」
「大丈夫、皆同じ気持ちじゃ」
両手を手刀のように構えて突っ込んでくるマッスルに、紅葉はデッドブラスターを叩き込む。
そのくらいじゃ停まっちゃくれないマッスル。若干輝きを増しつつよりスピードを上げて突っ込んできた。
「ひぃっ!?」
「心配ない。そこじゃ!」
読魅はガトリングガンを突き出すと、マッスルの下腹部からもうちょい下。つまり股間と呼ばれる部分に押し当てた。
『オォウ……!』
「いかに鍛えようともここは無理じゃろう。死ねい!」
引金をひき、怒涛のガトリング射撃を敢行。
マッスルの悲鳴は、マッスル世界の果てまで響き渡ったという。
●さよならマッスルくん
ぐぎぃーいと音をたて、古いドアが開く。
八人の灼滅者たちはそれぞれ目からハイライトを消しながら外の世界へと出てきた。
「…………」
暮れなずむ夕日を見上げ、歩き出す。
彼等の足跡の途中には、真っ二つに圧し折れたおっぱい看板があったという。
さらば、おっぱいの夢よ。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 13/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 35
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