●内より破れ、身も破れ
勝浦市から程近くの、港町。
頭を押さえた、筋骨隆々な男が、その身を支える様にしながら、裏路地を歩く。
着衣はボロボロ、そしてその表情は……。
『や、やめろ……やめろぉ、死にたくない、死にたくないんだ、た、助けてくれえええ!!』
鬼気迫る表情。
壮絶な命乞いの言葉を叫びながら、錯乱している様に裏路地を走り抜けていく。
が……その脚が、突然、ピタリと止まる。
そして胸を押さえ、その場に膝を落とした、その瞬間。
……その押さえた手の内側から現われたのは、羽虫。
内蔵を、内側から食い破ったその羽虫は彼の元から去り……そして、彼は、壮絶なる表情のままに、絶命していた。
「皆、集まってもらえた様だな? 早速だが、今回の説明だ」
神崎・ヤマトは、集まった灼滅者達を眺めると、早速説明を始める。
「最近、ペペリタスの卵が羽化する事件が起きているんだが、これにシン・ライリーが関わっているのではないか、と伏木・華流(桜花研鑽・d28213)が考えていた様なんだが……どうやらコレが、現実のものになってしまった様なんだ」
「場所は千葉県は勝浦の港町、そこにシン・ライリー配下の格闘家のアンブレイカブルが現われた。こいつは何かに追われている様に、裏道を逃走していたんだが……路地裏に入り、急に苦しみだしたかと思うと、その体内を食い破り、数十匹の羽虫型ベヘリタスが現われ、彼は死んでしまった」
「恐らく、このアンブレイカブルのソウルボードに、ベヘリタスの卵が植えつけられていた、と考えられる。急ぎ、アンブレイカブルの居場所に向かい、現われる数十体のベヘリタスを可能な限り駆逐してきて欲しい」
そしてヤマトは、改めての戦況説明を続ける。
「まず、一番の相手となるベヘリタスの卵から孵った羽虫型ベヘリタスだろうな。このベヘリタス……30体程居る様だ。個々の戦闘力という意味で言えば、1対1でなら勝ち目はある位なのだが……それが30体固まっているとなると、かなり難しい戦いといえるだろう」
「幸い、ベヘリタスは皆が戦闘を仕掛けてくる限り、反撃してくるが、皆が逃走すれば自分達も撤退する。全部倒さなくても良いだろう」
「又、宿主となっているアンブレイカブルは、恐怖に錯乱している為、こいつに説得等は不可能といえる。ただ、ソウルボードに入り込むことが出来れば、彼を救出できる可能性はある」
「とは言えソウルボード内の羽虫ベヘリタスに勝てたとしても、現実世界に出てきたベヘリタスとも戦わなければならない。更にアンブレイカブル自身は、身の安全の為に、ベヘリタスとの戦闘中に逃げ去ってしまうだろう。無理に救出しても、情報が引き出せるかどうかはかなり微妙といえるな」
そして、ヤマトは最期に。
「何にせよ、今回の敵は、絆のベヘリタスの卵から孵った、本来のベヘリタスとは違う姿をしたシャドウだ。恐らく、アンブレイカブルのソウルボードを利用し、卵を孵化させている者が居るんだろう。それがシン・ライリーか、そうでないかは判らないがな」
「ソウルボードの中での発生だ。俺達の予知も難しい……どれだけのベヘリタスの卵が孵化しているかも予測できない。ただ、とにかく、可能な限り、現われるベヘリタスを倒してきてくれ。宜しく頼む」
と、肩を叩き送り出すのであった。
参加者 | |
---|---|
ヴィラン・アークソード(彷徨える影狼・d03457) |
静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842) |
嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475) |
シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038) |
黒影・瑠威(二律背反の闇と影・d23216) |
ロスト・エンド(青碧のディスペア・d32868) |
秦・明彦(白き雷・d33618) |
葵・さくら(ツンデレ系女子高生・d34645) |
●力の暴走車
千葉県勝浦市からほど近くにある、とある港町。
傍から見れば、何の変哲もなさそうなこの港町。
……そこに現れたのは、アンブレイカブル。しかし普通のアンブレイカブルでなく、ベヘリタスの卵に苦しむアンブレイカブル。
「……アンブレイカブルがあっという間にベヘリタスに早変わりするのか。とんでもねえ匠だな」
「そうだね。ダークネス間の抗争に興味は無いけれど、本人の意志を無視して何かを寄生させるやり方……気に入らないね」
嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)に、ロスト・エンド(青碧のディスペア・d32868)が静かに頷く。
いつもは倒すべき存在のダークネス、アンブレイカブル……しかし、今回のアンブレイカブルは、ベヘリタスに食い殺される死期の直前でもある。
そして……そのベヘリタスで思いつくのは。
「これは、絆のベヘリタス、とはまた違うのでしょうか……?」
首を傾げる静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842)に、ロストと葵・さくら(ツンデレ系女子高生・d34645)と、秦・明彦(白き雷・d33618)が。
「……絆を名乗る害虫か……見ているだけで、色々と嫌な物を思い出すな」
「そうね。でも、どうかしらね……少なくとも、シン・ライリーが何等かの形で関わっているのは間違いなさそうだけど。シン・ライリーと、絆のベヘリタスに何か関連があるのかしら?」
「どうだろうな……だが、シン・ライリーに見捨てられたアンブレイカブルを見殺しにするのは後味が悪い。出来れば助けてやりたい所だが……」
唇を噛みしめる明彦、それにシャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)が。
「そうね。義理も……少なくとも今はメリットも無さそうだけど、アンブレイカブルとは言え、人の形をして喋るものが羽虫に内側から食い破られるのは気持ちのいいものじゃないわ。シャドウハンターとしても、シャドウの思惑通りに進むのは気分良くないしね」
それに炉亞、絹代、ヴィラン・アークソード(彷徨える影狼・d03457)が。
「シャドウの得体の知れなさも怖いですし、羽虫も怖いですが、シン・ライリーの部下にベヘリタスの卵が植え付けられているのに、ライリーは動かない……何を考えているのか、は、後で調べましょう。今は助けて、掃討してみせる!」
「ま、このアンブレイカブルを生かすことで、次に誰がどう動いてくるかも知りたいっすしねー」
「……何にしても、アンブレイカブルを生かし、ソウルボードに潜入しベヘリタスを倒す。厳しい戦いになるだろうが……確実に仕掛けていくぞ」
そんな仲間達の言葉に、ふと黒影・瑠威(二律背反の闇と影・d23216)が。
「そう言えば、ソウルボード関連は今回が初めてになるな……だからと言って手は抜けない……何より今回の仕事は普通とは違う流れ。可能な限り遂行させ、無事に帰ろう」
ぐっと拳を握りしめて、そして……灼滅者達は裏路地へと向かっていった。
●命を食いつぶして
『ウ、ウゥ……グ……』
そして、裏路地。
胸を押さえ、よろよろと歩く……アンブレイカブルの姿。
いつもの威風堂々たるアンブレイカブルとは真逆の、弱々しい姿。
『ク、クソッ……!! こんな、こんなんじゃ……』
舌打ちし、壁に寄りかかりながら歩く……と、その時。
『ウ…………グ、グ、グァアアアア……!!』
突如、叫び声を上げるアンブレイカブル。
胸をかきむしるようにして、絶叫。
「……あいつか!」
と、その叫び声に気付いたヴィラン。
他の灼滅者達と共に、アンブレイカブルの元へと急行。
……無論、苦しんでいるアンブレイカブルは、そんな灼滅者達の対峙に構うことなく、苦しみ、暴れる。
「アンブレイカブルさん、今なら、救い出せるかもしれない、僕たちを信じて眠って貰えませんか!」
と炉亞が声を掛ける。
が……狂気に落ちたアンブレイカブルは、そんな言葉を聞く余裕はない。
『や、やめろ……やめろぉぉ、死にたくない、死にたくないんだ、た、助けてくれぇええ!!』
と叫び、アンブレイカブルの体はビクビクと震え始める。
胸の辺りが、内側から膨張するように、膨れていく。
そして、彼自身も……壮絶な表情に。
「ったく、仕方ねえな。どうにか気絶させるぜ」
と絹代が宣言すると共に、皆、頷く。
一気にアンブレイカブルを包囲し、気絶させるために、手加減攻撃や、トラウマで攻撃。
……だが、ほぼ正気を失ったアンブレイカブルは、その程度の攻撃で、気を失う程柔ではない……そして。
『グ……ァァアアアア!!!』
絶叫と共に、その胸を食い破り、現れたベヘリタスの羽虫。
そして宿主である、アンブレイカブル自身をも、喰らう……その数、30体。
「ちっ……出てきちまったか」
舌打ちしつつ、ヴィランが構え、他の灼滅者達も、並び、構えていく。
灼滅者8人に対し、相手は30体……個々では自分達よりも少し弱いと聞いてはいるが、ここまで数の差があると、かなり不利なのは間違い無い。
だが、敢えて。
「さて、行きますかね」
と明彦は自然体に、言葉を口にして、緊張を解き、武器を構える。
「……ああ、そうだな。こうなったら、しっかり奴らを締めてやるぜ」
とヴィランもそれに頷き、そして……先陣を切る。
ヴィランは、まず手近にいた、最前線の羽虫に近接すると、幻狼銀爪撃で斬り裂く。
更に瑠威、ロスト、シャルロッテのディフェンダー陣も、羽虫へ接近し、その動きを制限。
「さぁ、行きますよ……一匹でも多く、倒します!」
と、瑠威が除霊結界を展開すると、シャルロッテがトラウナックル。
一方、ロストはワイドガードで、自分にBS耐性を付与し、壁を増強しておく。
……そして、残る炉亞、明彦、さくらがそれぞれ、ブルージャスティス、旋風輪、オーラキャノン、と続ける。
そして、絹代を除いた灼滅者達の行動が終わり、羽虫の攻撃。
左から、右から……次々と、30体もの羽虫が、灼滅者の前衛陣にまとわりつき、攻撃してくる。
「っ……!!」
数に物を言わせたその攻撃、カバーリングするディフェンダー陣だが、それでも足りない。
圧倒的な数差に、1ターンで大きく体力が削られてしまう……そして、羽虫の攻撃が一巡した所で、絹代が。
「ほら、大丈夫か?」
と、闇の契約で、一番被害の大きい塁を回復。
「っ……ありがとうございます」
「ああ。頑張ってくれよー!」
後ろから手を振り、応援しつつ、次のターン。
流石にこのままでは、倒れてしまう……瑠威、シャルロッテは、集気法とブラックフォームで、自己体力を回復すると、ロストもソーサルガーダーで更に盾アップを付与。
更に防御を固めると共に、ヴィランは。
「絹代、回復は任せていいか?」
「ん、いいっすよー」
「OK。それじゃ俺は殴りに殴って、数を減らしてやる!」
絹代と言葉を交わし、ヴィランは前でジャッジメントレイで攻撃。
……そして、炉亞、明彦、さくらも、レッドストライクやヴォルテックス、デッドブラスター。
それら攻撃を一匹に集中させて、一匹ずつ、確実に倒していく作戦。
30匹という大量の相手……その攻撃をかいくぐりながら動く。
……そして、五分程で、やっと、一匹目を倒す。
でも、まだ敵は29匹……灼滅者達の3倍以上。
ジジジと羽音を鳴らしながら、次第に灼滅者達の周りへと展開していく。
「これは……中々厳しいですね。数が多い分、体力の減少が激しいですし」
「ああ……そうだな。これは厳しいぜ」
さくらに、額に汗を浮かべながら頷くヴィラン。
……ヤマトの話では、灼滅者達が此処から撤退すれば、羽虫も撤退するとは言うが。
「まだ一匹だ……少なくとも10匹は倒してぇ所だ」
「そうだね……アンブレイカブルを救えなかった分、一匹でも多く、倒そう」
ヴィランとロストの言葉に、皆も頷く……そして灼滅者達は、確実に、羽虫を一匹ずつ潰していった。
……そして経過する事、数十分。
羽虫の数は、やっと2桁を切る程度までになったが……すでに灼滅者達の体力、気力は、かなりの限界にまで到る。
殺傷ダメージが、灼滅者達の体力を蝕む……立っているのも、かなり限界に近かった。
このまま戦い続ければ、KOされるのは間違い無い……少なくとも、まだ灼滅者達よりも、羽虫の数の方が多いのだから、下手をすれば……羽虫に取り囲まれて、全滅しかねないだろう。
「……これは、そろそろ……潮時かもしれませんね」
「……そうだね。悔しいところではるけれど……」
瑠威にロストが頷く。
ヤマトからの依頼は、一匹でも多くの羽虫を倒す事。全部を倒す事ではない。
「仕方ないわ……みんな、撤退するわよ」
シャルロッテの言葉……それと共に、灼滅者達は、その場を離脱。
羽虫たちは、そんな灼滅者達を追跡することなく……その場から飛び去っていった。
●身も潰え
「……ふぅ。どうにか、逃げおおせた様ね」
さくらが汗を拭い、ベヘリタスの羽虫の群れから逃げおおせた灼滅者達。
30体ものベヘリタスの羽虫の群れ……20匹程度は倒したはず。
しかし、全てを倒すには到らなかった。
それほど迄に、ベヘリタス30匹というのは数の暴力……至難の業。
「……しかしまぁ、ダークネスですら喰われる立場になるんだって、改めて感じたっすよ。アブソーバーが出てきてから、連中もやり方を考えてきてるらしいっすね」
と絹代の呟いた言葉に、ヴィランが。
「そうだな。今回の様なアンブレイカブルを生け贄にする手段もあるって事だな……」
というと、それに炉亞が。
「……業大老の武神大戦の傷なから、宣言通り、シン・ライリーを見つけだしたのか、タカト……」
ぐっ、と拳を握りしめる……そして。
「何にせよ、残った羽虫達はアンブレイカブルの元から飛び出していったわ。その方角は記録してあるから……これで、何か手がかりになればいいわね」
「そうだな。同様のことが、これからも続く事は避けなければ……」
シャルロッテに、拳を握りしめ、空を見上げる明彦。
そして……灼滅者達は、疲弊した体を引き摺るようにしながら、港町を後にするのであった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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