「ねぇ『おぱっい』知ってる? それが何かは知っちゃいけないことばらしいんだけど」
カメラ目線っぽい感じでまるで誰かに語りかけるように独り言を口にしたのは一人の少女だった。
「『おぱっい』『おぱっい最高!』この言葉の真実を求めた人達はそんな言葉を書き残して失踪したらしいんだ。しかもここはその人達が姿を消したって噂の現場。いやぁ、怖い怖い。あ、僕の胸は気にしないでね、ただ大きいだけだから」
誰も聞いてないのにそんなことを付け加えた胸のやたら大きな少女は、ぐっと拳を握った。
「けどさ、伏せられてるとやっぱり気になるよね? ふふふ、おぱっいの謎、この僕が、と」
解き明かしてみせるとでも続けようとしたのだろうか、だがその声はふいに途切れて。
「お゛ばっい゛ぃぃ!」
視線の先で、その何かは吠えた。
「あ、何……これ。まさか、これがおぱっいの秘密を守る番……人? あ、うぁ」
「おばっい、ざいご……おばっい、ざいご……」
思わず喘いで後ずさる少女へ、呪文のように繰り返しながらそれはにじり寄り。
「お゛ばっ」
飛びかかった直後だった。
「く、くるなぁぁっ!」
「がべあっ?!」
少女の身体の一部が異形と化し、番人を逆に喰らったのは。
「あ……え? なに、これ? いったいど……う?」
少女が呆然としたのは、ほんの一瞬。
「な、何かが入っ、や、やだっ! あ、お、おば」
悶え始めた少女の身体がタールのように変質し、崩れ始める。
「おばっっいぃぃ!」
崩れ落ちたかと思えば即座に身を起こし、咆吼をあげるは、まるでたった今喰らった番人そっくりの異形。違いは、少女の輪郭を残した人型であることと、片手にもったメモだけであった。
「どうしてこんな事になったのだろうな?」
そうリリィ・プラネット(その信念は鋼の如く・d33874)に問われ、オイラに聞かれても困るんだけどとジト目を返したのは、鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)だった。
「とりあえず、この二人のことはさておき、説明に移ろう」
和馬が「ちょ」とか声を上げるのをスルーしつつ座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)が始めた説明によると一般人が闇堕ちしてタタリガミになる事件が起きようとしているらしい。
「そこのリリィがとある噂を拾ってきたことに端を発するのだがね」
それで、同じ噂を確認しようとした少女が都市伝説化していた噂に襲われて闇堕ちし、タタリガミと化し都市伝説を喰らってしまうことが解ったのだとか。
「少女は闇堕ちしかけるものの、一時、人の意識を残したまま持ちこたえる」
故に君達には少女が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちからの救出を、そうでない時は完全なダークネスになってしまう前に灼滅をと言うのがはるひからの依頼であった。
「今回闇堕ちしかけるのは、根組・誉(ねぐみ・ほまれ)。高校一年の女子生徒だな」
都市伝説に襲われる直前自分から言及していた辺り持ちネタなのか、胸囲は120cmを越え130cmに届かんとするサイズなのだとか。
「タタリガミというか、タールのようなモノで形成された人型という都市伝説の姿になってもその辺りは顕著だから男性は目のやり場に困るかも知れないが、人型を取れているのはおそらく誉の意識が残っていることが原因と思われる」
つまり、人型を保てなくなったらそれは救出がもう不可能になったと言うことなのだろう。
「無論、私としてはそうなる前の救出を希望するがね」
バベルの鎖に引っかからず少女と接触出来るのは、少女が少女型のタールっぽい都市伝説に変貌した直後になるとはるひは言い、スケッチブックに簡易な図を書き始める。
「現場はこのような直線のトンネルとなっている。少女が居るのはこの中央辺りだな」
片側からのみ侵入した場合、誉れの後ろに退路が出来てしまうが、現地に赴き「おぱっい」とは何なのかと口にすれば、噂の設定により縛られた少女は君達を全員始末するまで逃げられない。
「故に無理して挟み撃ちする必要はない。ただし、この時キーワードを口にした者は優先的に狙われる、とも言っておこう」
ともあれ、闇堕ちした一般人を救出するには戦ってKOする必要がある為戦闘は避けられない。
「戦闘になれば、誉は影業と七不思議使いのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
どちらかというと影業もどきを多用するらしいが、それは都市伝説の容姿と相性が良いからなのか。
「それから、トンネルには照明がついている為、時間帯は日没後だが明かりは不要とも言わせて貰おう」
また、都市伝説が誕生した噂の為戦闘中に一般人が通りかかることもなく、問題はいかにして少女と戦い、救うかのみになるとのこと。
「人の意識が残っているなら、心に呼びかけることで弱体化させることも可能だ。早く戦いを終わらせたい、戦闘を自分達側が有利な形で運びたいなら、試みてみることを推奨する」
元々、少女は都市伝説に襲われたことがきっかけでタタリガミとなりかけ、抗っている。ならば、抗う少女への声援こそが一番効果があると思われる。
「今回の件、誉は明らかに都市伝説の犠牲者だ。私としては君達をこうして送り出すことしかできないが」
誉をどうかよろしく頼むとはるひは君達へ頭を下げたのだった。
参加者 | |
---|---|
久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621) |
聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654) |
イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082) |
夜坂・満月(超ボタン砲・d30921) |
合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209) |
東雲・梔子(狐憑き・d33430) |
リリィ・プラネット(その信念は鋼の如く・d33874) |
茨木・一正(鬼気怪解の駄菓子売り・d33875) |
●ボタンは飛ぶもの
「本当にどうしてこんなことになってしまったんだろうな?」
空きの涼しさを感じさせる夜風に髪をなびかせつつ、リリィ・プラネット(その信念は鋼の如く・d33874)はまず疑問を言葉として口の端に乗せた。
「確かに。と言うか、そもそもまず――」
これに頷いたイサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)との間で会話の内容がやがて日常会話へ繋がる中、俯いたまま東雲・梔子(狐憑き・d33430)は口を開く。
「……他人事、とは……思えません」
それは、自身も経験があるからこそか。腕にぎゅっと兎のぬいぐるみを抱いたまま、顔を上げ視線を向けた先に口を開けていたのは、道路を飲み込む一つの山。
「あれが、話にあったトンネルだろうね」
「そ、それにしてもよく一人でトンネルに来れましたね」
ポツリと漏らした合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)の言葉へ、どもりながら夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)が応じる。
(「ある意味怖い物見たさなのでしょうか?」)
人気のなさも相まって薄気味悪さを感じるそのトンネルは、噂が広まるにはいかにもと言った感じでもある。
(「ミイラ取りがミイラ取りになっちまったって事か……笑えねぇな」)
伊達眼鏡に指を添えていた久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)の口から何かを押し殺したような吐息が漏れ。
「やれやれ……なんて言ってる場合じゃないねー」
普段の笑顔もなく険しい顔でトンネルを見据えた茨木・一正(鬼気怪解の駄菓子売り・d33875)はぐっと拳を握り込む。
(「好奇心はたしかに猫を殺すかもしれない。でも、こんな目に遭っていい理屈なんて何処にも無いよ!」)
だから、絶対に助け出すと胸中で続け。
「暗闇に女の子残すわけにはいかねぇな」
「そうだね」
照明に照らされた内部へと視線を投げる聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)の言葉に同意した。
「で、では、わたしはこれで」
「ふむ」
挟み打ちにする為、一時離脱しようとする満月を見て鏡花が声を上げたのは、遅まきながら閃きを得たからか。
「成る程、彼女を指さして『彼女より少し大きいくらいです』と言えばカップサイズの指定も必よぶっ」
何やら呟いていた所へ飛んで顔面に命中したのは、超ボタン砲。力尽きて飛んだ、満月の胸元のボタンである。カップが同行言及していたのは、きっと着替えの下着でも用意しようと思いサイズが解らず断念したのだろう。
「す、すみません」
若干微妙な空気を産みつつもとりあえず挟み打ちの準備は調い。
「えーと」
「ゆくぞ、和馬」
困惑するツッコミの出番が回ってこなかった鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)をリリィは促した。
●128のT
「おばっっいぃぃ!」
濁った咆吼が周囲に響く。
「これは、酷いね」
鏡花の口から思わず声が漏れた。
「何だか申し訳ないな……」
リリィは謝り。
「そしてどうしようもないな!」
「え? ちょ、ええっ?!」
何だか開き直って和馬に驚かれた。
「うん、流石の私もこれは同情するよ」
「……普段なら眼福なんだろうけどねー」
自身の言葉に険しい顔のままぼそりと呟いた一正の言で、鏡花のこめかみ辺りがひくついた様にも見えるが、双方の戦力彼我を鑑みれば仕方ない。
「ぐっ……ふぅ」
だが、約一名は私情を押さえ込み。
「お、おまたせしました」
そこへ傷口へ塩を練り込むかの如く、ボタンを飛ばした少女がタタリガミに落ちかけた少女を挟んで反対側に現れた。
「ひ、非常に混乱してると思いますがあなたの味方です、助けに来ましたよ!」
「そ、そうだ! 俺達はお前を助けに来たんだ!」
片やタールもどきの一糸纏わぬ人型、片や走ってきたのか呼吸も荒く、胸元のはだけた味方の異性。明らかに目のやり場に困る状況の中、それでも翔は説得に加わった。
「根組さん、落ち着いて……ゆっくり自分を思い出すんだ。怖かったんだな? ……だが、助けに来た」
「お゛、お゛? お゛ぱ?」
人型をとりつつも人語は話せないのか、イサを含む語りかけてきた灼滅者達を人型は見回すように首を動かし。
「お前さん都市伝説解明したいんだろ。謎に飲まれて消えるなんてお前のプライドが許せるのか!?」
「お゛ぱ……?」
相手を欠片も恐れぬ穏やかな様子で翔が問いかければ、不意に元少女の動きが止まる。動揺したのか、翔を見つめたまま立ちつくし。
「……苦しい、ですか……? ……私も、この……狐憑き、に……憑依、され……多くの、人を……苦しめて、しまい、ました……けど、負けないで、ください」
「お゛……」
「君が何を思い、何を考えているかは分からない。でも、理不尽だと思わない?」
梔子の訴えに向き直ろうとしたところで、今度は一正が問いを投げた。
「君は全てを不当に奪われようとしている。何一つ残さず全てをね」
続く言葉に、人型は無言で固まり。
「多少軽率だったかもしれないけど、ここまでされる謂れは無い! そうじゃない?」
「……貴方が……誉さんが、諦めたら……都市伝説に、本当に、なって、しまいます……お願い、ですから……語り部に、戻って、ください……!」
「お、お゛ぱっい゛ーっ!」
灼滅者達の声が届いたのか、急に頭を押さえたそれは頭を抱え込むようにして、悶え咆吼する。
「効いてる、これなら」
元少女の発する威圧感の減退を感じ取り、誰かが呟き。
「元に戻る方法はある。その為には都市伝説を弱らせるため、一度戦う必要があるけどな」
翔が説明をしたところで、逃がさぬ為にイサが言う。
「しかし、常であれば胸部を指すが……都市伝説ならば何かの隠語か? 『おぱっい』とは何なのだ?」
「お゛ぱっいぃぃぃ!」
噂に縛られた人型タールは苦しみつつも発言者へと突き進み。
「来るといい……全てを受け止めよう。君のためにも、後ろの仲間の為にもな……」
そして、イサは人型タールもどきを迎え撃つ。
「背中は任せたぞ、リリィ」
仲間に一言告げてから。
「ああ。和馬! 例の言葉を、的を一つにしてはいかん」
応じたリリィは即座に指示を出し。
「あう、うん。『おぱっい』って何なんだろう」
これに和馬は従い。
「お゛!」
「え゛、ちょ、んぶっ」
急に向きを変えた都市伝説の質量兵器に、首から上を挟まれた。見方によって捕食されかかっているようにも見えるだろうか。ちなみに元になった都市伝説も同じ要領で食われていたりする。
「と、鳥井さん!」
「和馬は犠牲になって貰たのだ……犠牲の犠牲にな……。ヒーローにあるまじき行動? シランネ」
さすが、リリィ。大した奴である。
「ぎ、犠牲ってどういうことですか?! じゃなくて、早く助けないと」
もう一人のツッコミ役が挟まれてプラプラ揺れている状態では、満月がツッコミを入れるしかない
「お前は根組・誉だ! 都市伝説『おぱっい』とは何かを最初に解き明かす栄誉ある人間だ! お前に取り憑いた都市伝説追い払って謎解明者の称号勝ち取ろうぜ!」
翔も決定的な言葉を含んだ訴えで、促せば。
「お゛ばっい゛ぃぃ!」
新たな獲物を見つけたと言わんがばかりに元少女は吼える。
「きっちりその悪い憑物を落としてやるぜ?」
「ついでに、私へいきなり喧嘩を売るような攻撃の犠牲になった約一名も回収しないとね」
凛凛虎に続いた鏡花は霊犬のモラルへ目をやると味方を庇うように言ってから、ウロボロスブレイドを振るう。これが戦いの始まりだった。
●救うための
「お゛ぱぁぁぁぁっ」
ガラス片の様に照明に輝きながら絡み付いた獲物を斬り裂く殲術道具に元少女が悲鳴をあげる。
「んぶっ」
はずみで解放された犠牲の少年がアスファルトの上に落ち。
「まぁなんだ、根組誉と言ったね。流石に君もそんなモノと一つになりたくないだろう? なら、全力で抗うといい。君が抗い続ける限り、私達が必ず救って見せるからね」
「少し痛いだろうが……自分を見失わなければすぐに終わる。まだ『おっぱい』の真実には辿りついていないだろう? 私も気になるんだ……確かめに行こう」
鏡花に続いて蹌踉めく人型タールに語りかけながら、イサは冰槍「モリス・テンプス」へ持つ手で捻りをくわえつつ、距離を詰めた。
「ぱっい゛ぃぃぃっ」
「ね、根組さん、今助けますからね。頑張ってください!」
ねじ込まれる突きに新たな悲鳴が上がる中、拳に宿した雷を爆ぜさせつつ元少女の懐へ飛び込んだ満月は声をかける。
「お゛……」
呼びかけられた瞬間、微かに動きが止まり、それは下から突き上げるようなアッパーを決めるのに充分な隙となった。
「お゛ぱべっ」
「負けないで、ください……語り部に、戻って――」
黒い粘度のある飛沫をまき散らして浮き上がる元少女へ梔子は請い、続いてスライムの心温まる話で最初の犠牲者を浄化し。
「大丈夫、ですか……?」
「あ、うん。ありがと」
「タールにスライムか、成る程バランスがとれているな」
和馬は梔子へ礼を言いつつ何やら頷いているリリィをスルーした。
「ともあれ、説得は効いてるみてぇだな」
いつの間にか眼鏡を胸ポケットにしまった翔は両手をだらりと垂れ下げたまま、仲間にシールドを与えつつ、呟く。ここまでの攻撃を元少女は全てモロに喰らっていた。
「……東北の鬼は、親しき隣人だ。隣人の幸福を喜び、不幸を悲しみ、困っていれば助け、そして理不尽には烈火の如く怒る」
一正が語るのに合わせ激しく高速回転し始めた杭は唸りを上げ。
「故に僕の相棒達は容赦しない」
「お゛ぱっ!」
「今こそ、怒れ! 僕の相棒達! 理不尽を祓い、消し飛ばせ!」
肉迫する一正へ応じようとする人型タールの視界の中で、殲術道具達は主に呼応した。
「おぱっぎぃ」
突き刺されねじられることで粘性の高い黒が周囲に飛び散り、つい先程まで誰かを犠牲にしていた質量兵器を踊らせながら、宙を舞った体躯は地に落ち。
「お゛っ、お゛」
「暗闇に紛れれば有利と思うか? だが、甘い」
照明の届かぬ場所まで転がり込もうとするタタリガミへ凛凛虎が追いすがる。
「こっちは幾多の修羅場を潜ったんだ」
爆ぜる音を立てるは拳に宿した雷。
「ちっと地の利を得たからって、調子にのるな!」
噂の場所という意味合いでは、都市伝説のおぱっいのホームグラウンドであろうが、説得で弱体化した今となってはタールもどきは一方的に押される側だった。
「お゛ぱっ」
「がうっ」
壁に叩き付けられへばりついたようにトンネルの壁面を汚す元少女めがけてモラルの撃ち出した六文銭と誰かの飛ばした光刃が打ち込まれ。
「お゛、お゛ぉぉ」
「ゆくぞ、ユニヴァース! とぅ!」
ライドキャリバーに呼びかけたリリィは妖の槍を回転させながら漆黒の異形目掛けて突っ込んだ。
「う゛ぉ、ぱっ」
跳ね飛ばされた元少女はそのままユニヴァースに轢かれて身体にタイヤ跡を作り。
「リリィ、加勢するぞ」
倒れ込んだままの人型タールを見据え、流星の煌めきを宿しイサは飛ぶ。
「う゛ぉぱっいぃぃぃ!」
だが、連係が決まるよりも早く元少女は起きあがり、タールもどきの一部を触手に変えて迎え撃った。
「くっ」
空中では方向転換で避けようもない。迫る汚そうな触手が、イサでサービスシーンを演出するかと思われたその時。
「させんっ、ユニヴァース!」
「がうっ」
ユニヴァースとモラルによってイサの身体は触手の向かう先から弾き飛ばされる。
「くっ、おま」
アスファルトの上に落ち振り返ったイサが見たのは、タールまみれになった一台のライドキャリバーと。
「おい、おぱっい。もっと俺と楽しもうや」
「よくも和馬とユニヴァースを、ゆ゛るざんっ!」
「お゛ばっぁぁぁぁ」
攻撃の隙をつかれ、味方によってボコボコにされる人型タールの姿。
「えーと、オイラの件に関しては一概にこの人のせいって訳じゃないよね?」
ジト目で突っ込みを入れた少年が居たが、一同がまずすべきはこの戦いを終わらせることである。
「わ、わたし達が絶対に助けますからもう少しの辛抱です」
「お゛ぁぁぁっ」
死角から高速の動きでタールごと斬り裂かれる元少女を見る限り、助けるどころか危害を加えているように見えるとしても、それは戦って一度KOしないと救えないからに他ならない。
「そんな恰好で居たくないだろうし、なにより君はその番人とやらではないだろう。気を強く持ってそんなモノは否定するんだ、自分は自分だと番人では無いとね」
語りかけつつ構えた鏡花のクルセイドソードがトンネルの照明を反射し。
「そのタール落としてあげるよ」
「お゛」
言いしれぬ迫力に元少女は後ずさる。
「お、お゛ぱう゛ぁあ゛ぁぁっ」
「……もう、大丈夫です……よ」
人型タールの絶叫が響く中、梔子は触手まみれになっていたユニヴァースを癒やし、スライムと触手の競演を発生させる。
「う゛ぉ、お゛……」
「大丈夫だ、君はそいつに勝てるんだ!」
「ぱっ」
それでもよたよたと身を起こしたタールの人型を一正の撃ち出したビームが貫き。
「謎は全部解き明かせるんだろ? だったら戻ってこい! 俺たちが救ってやる!!」
傾いだ元少女へ距離を詰めるは、両手にオーラを集中させた翔。
「い゛」
タールもどきが飛んだ、拳が一つ叩き込まれるごとに。
「お゛、う゛ぉ、べ、ば」
連続で殴打されることであちこちにタールもどきを飛ばしつつ、ボコボコにされた人型は、やがてがくりと膝を折り。
「……おぱっい」
一言漏らすと倒れ込み、人の姿に戻り始めたのだった。
●うちにおいでよ
「あ、あの大丈夫ですか? どこか痛くないですか?」
気遣う満月へ大丈夫と頷いた少女は、申し訳なさそうな顔を作ると、頭を下げた。
「えーと、ごめんね? 何だか色々迷惑かけたみたいで」
謝罪する少女が身につけた服は、なんやかんやあって満月の服の予備と鏡花の持参した着替えを上下組み合わせただったが、上は満月の服であるのに若干胸の部分がきつそうに見えるのはきっと疲労からくる幻覚に違いない。
「それは良いが、この後どうする?」
そう尋ねたのは、命がけの世界に来るのを薦めることには抵抗のあるイサ。
「よ、良ければ学園にきませんか? み、皆さん歓迎しますよ」
「……一緒に、怪談……語り、合おう……?」
勧誘したのは上の服の提供者で、梔子も手を差し伸べ。
「その気があるなら学園に来な、これアドレスだ」
紙に所在を書いて渡したのは、伊達眼鏡をかけ直した翔。
「え、いいの? 助けて貰った上に、そんな」
「お前を誘ったんだ。最後まで面倒は見てやるよ」
「……はい」
数人がかりの勧誘に驚く少女へ翔が笑顔で言えば、梔子も笑顔で首肯し。
「これからの学園生活が楽しみだな」
「どういう意味でかによるよね、それ」
ぐったりしたままの和馬は、凛凛虎の言にそうコメントする。
「まぁ、何にしても助けられて良かったよね」
「あ、うん。そうだけど……」
「しかし、結局この『おぱっい』とは何だったのだろうな……噂を耳にした私にも謎なんだが……」
一正の言葉に同意した誰かが向ける視線の先で、リリィはトンネルの壁に書かれた「おぱっい」の文字を見て唸る。
「結局謎は残ってしまった訳か。だが、良いじゃないか」
イサは言う。これから辿り着けばいいのだから、と。
「……確かめに行こう」
振り返っての一言に、誰かが応じた。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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