タトゥーバット、襲来

    作者:飛角龍馬

    ●或る西洋屋敷で
     古き良き景観を残す、豪奢な西洋屋敷。
     しかしその屋敷は全ての良さを台無しにして余りある、莫大なゴミの山に埋もれていた。
    「ぶほっ、ぶほっ、ぶほっ」
     屋敷の最奥、ゴミ山の中心で、ひとりの太った男が嗤う。
    「る……瑠架ちゃん僕の瑠架ちゃん。今こそ君を助けたい助けたい。そして感謝されたい見られたい認識されたい瑠架ちゃんに! 僕を見て! 見て瑠架ちゃん!」
     突然脈絡もなく叫びだしたその男は、口から何か液体のようなものを吐き出した。
     その液体はビチャッと床にへばりついたかと思うと、やがてモゴモゴと蠢き、やがて一体のタトゥーバットへと姿を変えた。
    「派手に暴れてこい! 派手に暴れれば、瑠架ちゃんは僕の事を思い出す! そしたら瑠架ちゃんは僕の事を思い出して心強くなるので、そしたら瑠架ちゃんは心強くなって僕の屋敷に訪ねてくるはず! 思い出して! 子爵である僕の事を思い出して! 瑠架ちゃん僕の瑠架ちゃん!」
     
    ●武蔵坂学園、教室
    「ヴァンパイアの眷属による一般人への襲撃事件が発生する。是非解決をお願いしたい」
     教室の灼滅者達に、琥楠堂・要(大学生エクスブレイン・dn0065)はそう切り出した。
    「現場となるのは夜の中学校だ。校舎にはまだ何人かの教師と生徒が残っているため、このまま放っておけば彼等への虐殺は避けられない」
     言うと要は黒板に描いたコウモリ型眷属を示して、
    「敵はヴァンパイアの眷属とされるタトゥーバットだ。その名が示す通り、体表面に描かれた呪術紋様により魔力が強化されていて、そこそこの戦闘力を持つ。今回、校舎の人々を襲うのは全部で8体だ。諸君にはその全ての灼滅をお願いしたい」
     次に要が示したのは、4階建ての校舎と敷地の図だ。
    「8体のタトゥーバットは、3体と5体の2組に分かれて来襲する。このうち3体は、まず校舎の屋上に、5体はグラウンドに現れるため、周囲に被害が及ぶ前にそこで接敵可能だ」
     片方を放置すれば間もなく一般人に被害が出るため、二点同時の対応が求められる。
    「一方が片付いたら合流して残りを叩く、という作戦も可能だろう。屋上とグラウンド間の移動は、階段を使った場合、早くとも1分はかかるので注意して欲しい」
     事前の人払いは、眷属にもバベルの鎖がある関係で不可能だが、居残っている人々はグラウンドとは反対側にある教室や職員室にいるのみだ。上手くいけば気付かれずに済む。
    「戦闘についてだが、タトゥーバットは、人間の可聴域を越えた超音波によって擬似的な呪文詠唱を行う。今回使用してくるのは、ダンピールのそれに似たサイキックと考えていいだろう。戦闘開始時の陣形は、屋上の3体がジャマー、グラウンドの5体がクラッシャーだ」
     要は説明を終えると灼滅者達に向き直り、
    「このような眷属が放たれた事実から、差し向けた黒幕はヴァンパイアと見て間違いないだろう。その尖兵を叩くことには意味があるはずだ。一般人への被害を防ぐためにも、諸君の知恵と力で事件を解決に導いて欲しい。よろしく頼む」


    参加者
    上代・絢花(忍び寄るアホ毛マイスター・d01002)
    炎導・淼(ー・d04945)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    上里・桃(生涯学習・d30693)
    深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058)
    癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)

    ■リプレイ

    ●屋上の戦い
     夜の帳が下りた学校で、灼滅者達は二手に分かれて敵を迎撃することとなった。
     一方は屋上。そしてもう一方はグラウンドで迎え撃つ形だ。
    「取り敢えずここまでは順調だな」
     屋上で待機を始めた文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が星空を見上げながら言った。
     同様のことは、屋上で敵を待つ他の四人も感じている。
    「コウモリさん、何処から来るんでしょうね」
     周囲を警戒しつつ、何処か眠たげにアイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)が呟いた、その時だ。
    「見つけたでござる」
     上代・絢花(忍び寄るアホ毛マイスター・d01002)が飛来する敵を視認して告げた。
     闇夜を飛んでくるのは、奇妙な紋様を浮かび上がらせた三体の蝙蝠。
     癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)は自身初めて見る敵を前にカードを構えた。
    「力を貸して――天使の少女!」
     告げて、封じていた能力を解き放つ。蝙蝠を見据える瞳が、涼やかな澄んだ色を帯び、長い髪は鮮やかに。宿した力は、彼を少女とみまがうばかりの天使の姿に変えた。
    「罪のない人を傷つけさせはしません……!」
     上里・桃(生涯学習・d30693)が夜気を吸い、力を解放。段々と近付いてくる蝙蝠に彼女が構えるのは、鋭利な先端を持つ長柄だ。
     絢花もまたスレイヤーカードを掲げて、
    「メイド忍者参上でござる!」
     言葉と共に装いを一変させた絢花は、即座にサウンドシャッターを展開。 
    「来いよ蝙蝠、俺達が相手だ!」
     言って戦闘態勢に入った直哉の手には、鞭剣が握られている。
     武器を手にした彼の身を包んでいるのは、目付きの悪いクロネコの着ぐるみだ。首に巻かれた赤いスカーフが夜風にたなびく。
     不気味な羽音を立てながら飛来したタトゥーバットは、屋上の四人を標的と判断。
     灼滅者達の頭上を円を描くように飛び、体表の呪術紋様を光らせる。
    「そこでござる!」
     その時、狙いを定めて絢花が右手を振るった。投じられた苦無型の矢が空を切って飛ぶ。
     三体の蝙蝠は瞬時に散開するが、絢花が続けて左手で投じた同様の矢が今度こそ狙った一体に突き刺さった。
     よろけた蝙蝠に、空煌の伸展させた帯が突き立つ。即座に二体が救援に回るが、アイスバーンの讃嘆を受けた意志を持つ帯――Sleeping Beautyが空煌に襲い来る二体を、弧を描くような軌道で牽制。
    「切り刻みます、地に落ちてください!!」
     軌道を変えたその帯の尖端が、先ほどの弱った蝙蝠を死角から突き刺した。
    「一体目、仕留めます!」
     獲物を狩る狼さながらに走り、跳んだ桃が弱った蝙蝠を完全に捉える。
     夜闇さえ斬り裂くかのように振るわれた獣の爪が、蝙蝠を一瞬で塵へと変えた。
     残った二体の蝙蝠のうち一体が桃を狙い急降下、もう一体が呪術紋様を光らせる。
     桃は示し合わせたかのようにバックステップ。牙に真紅のオーラを宿して襲い来る一体を、アイスバーンが『ここは最後尾ではありません』と書かれた標識を構えて防いだ。
     が、紋様を光らせていたもう一体の赤い逆十字架が、アイバーンに傷を負わせる。
     アイスバーンを標的と定めた二体の蝙蝠を、直哉が鞭剣を展開して牽制。構わず突撃して来たそのうち一体にクロネコの拳打を叩き込んだ。
    「……大丈夫か?」
    「今のところは」
     直哉に短く応えたアイスバーンが精神の損傷ごと祭霊光で自己回復。
     拳に吹っ飛ばされた蝙蝠は攻撃に移ることなく、何かに追われるかのように飛び始めた。
    「逃げても無駄です。死神は獲物を何処までも追い回すもの……」
     奇譚を語る空煌。逃げ惑う蝙蝠が死神の鎌を振り下ろされたかの如くよろめき、桃の轟雷に射抜かれて霧散する。
    「空を飛ぶ敵に対しては、相応の戦い方があるものです」
     雷を放った桃が、残り一体に長柄を構える。
     味方を倒された最後の一体は決死の突撃を敢行するが、迎え撃つ直哉が振るったロッドに止むなく軌道修正。空煌が掲げた怪談蝋燭の灯火が炎の花を散らして蝙蝠を包み、桃の振り被った狼の爪が、ふらふらと高度を落とした蝙蝠を捉え、切り裂いた。
    「ジンギスカンさん、食べちゃって下さい」
     落ちてきた蝙蝠を、アイスバーンの影業――漆黒の羊のうち一匹が大きく口を開けて呑み込んだ。悲鳴を挙げる蝙蝠を、影の羊がバキバキと噛み砕く。
    「片付きましたね。グラウンドに急ぎましょう」
     桃が言い、それぞれが頷いた。
     グラウンドで戦っている三人のためにも、今は息つく暇さえ惜しい。
    「それじゃ、先行くぜ」
     直哉が着ぐるみ姿のまま走り、屋上の鉄柵に手をついて軽々と跳躍。
     桃も鉄柵を越えて跳び、空煌もまた空に身を躍らせた。
     一人、アイスバーンだけは柵に手をかけて真下の花壇を見下ろしながら、
    「はぁ……これ飛び降りちゃわないとダメなんですよね?」
    「……大丈夫でござるか?」
     空飛ぶ箒に乗った絢花が鉄柵の向こうを浮遊しながら気遣うが、
    「穏便に飛び降りられれば……」
     数秒ためらったあと、彼女もまた鉄柵を越えて夜空に跳んだ。

    ●グラウンドの戦い 
     時間は少し遡る。
     屋上の五人が待機していたその頃、グラウンドの三人もまた襲い来る敵への警戒態勢を敷いていた。
    「光源を確保する必要はなかったな」
     炎導・淼(ー・d04945)がグラウンド周りの街灯を見て言った。
    「ヴァンパイアの眷属……被害が出る前に何とかしたいですね」
     深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058)が校舎に目を向け、屋上に視線を移していく。
     屋上の灼滅者達が合流するまで、ここで敵を食い止める。それが今の彼女達の務めだ。 
    「敵を見つけました。予定通り、数は五体ですね。……迎え撃ちましょう」
     警戒に専心していた四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)が遠い空から高速で飛来するタトゥーバットの姿を捉えた。
    「VITALIZE」
     悠花がカードに封じた力を解き放ち、現れた六尺ほどもある棒を握って構えを取る。
    「蝙蝠と戦うのも学園に攻め込まれて以来か……ったく、学校ばっか出てきやがって!」
     サイキックアブソーバー強奪作戦――あの戦いでもタトゥーバットは灼滅者達に大きな被害をもたらした。侮れる相手ではない。
    「嬢ちゃん達も合流まで無理すんなよ?」
     言いながら淼が力を解放すると、鮮やかな毛並みを持つウイングキャットの寸が出現。
     凛とした面持ちで敵を迎え撃つ樹が戦闘態勢に移ると、射手巫女の浄衣がその身を包んだ。大鎌を始めとした武器を担う彼女の足下には、桜花を思わせる影の花が舞っている。
     やがて獲物を発見した五体のタトゥーバットが三人を包囲。耳障りな鳴き声を響かせた。
    「さて、まずは俺達と遊んでもらおうか!」
     一斉に呪術紋様を光らせる蝙蝠。そのうちの一体を寸が猫魔法で縛り、淼はクルセイドソードを構えて突撃、一閃した。
     敵の放出した真紅の霧が辺りに拡散する。
     樹が弧を描くように大鎌を一閃。漆黒の波動が霧に包まれた蝙蝠達を薙ぎ払った。
     態勢を立て直した蝙蝠の呪術紋様が光る。虚空に浮かび上がるのは四つの紅い逆十字。
    「寸、俺はいいから嬢ちゃん達をしっかり守れよ?」
     その射線上に淼が相棒と共に立ちはだかり、襲い来る真紅の攻撃を共に防いだ。
     複数の逆十字の標的となった淼を、悠花が集気法で処置。
    「傷は浅いですよ」
    「済まん」
     短く礼を告げた淼が、シールドを展開して前衛に耐性を付与。
    「ここでがんじがらめにしちゃいます!」
     樹が言葉通りダイダロスベルトを全方位に射出した。
     蝙蝠は一斉に散開して回避運動に移るが、避けきれない。
     浮遊する五体は動きを制限されながらも、再び禍々しい逆十字を闇に浮かび上がらせた。
    「……!?」
     思わず息を呑んだ樹を、ディフェンダーの二人と一匹が取り囲むように防御。
     集気法と光るリングが悠花を癒やし、彼女の背に顕れた炎の翼が、燃え上がって前衛の味方ごと包み込んだ。
     炎が収まった瞬間、灼滅者達を守るように虚空から無数の刃が出現。
    「これで……!」
     樹の意志に従い、幾つもの刃が包囲する蝙蝠を切り裂いた。
     五体のタトゥーバットは、三人の灼滅者達を包囲したまま再び呪術紋様を光らせる。
     襲い来る逆十字の猛攻。防御に回るディフェンダー三人。
     樹は黄色標識を掲げて前衛三人に耐性を付与。
     それでも苦しげにうめいて瞳が虚ろになりかけた相棒に、淼は手を当てて癒しのオーラを送り込む。何とか正気に戻った寸が悠花にリングを光らせた。
    「……想定通りですね」
     そんな中でも、冷静に状況を見定めた悠花が棒を構えて呟く。
     防御主体の戦法で、被害を抑えつつ時間を稼ぐ。それが彼女達の作戦と言えるだろう。
     ディフェンダーの悠花、淼、寸が防御と回復に徹し、ジャマーである樹が可能な限り敵の攻撃を鈍らせる。
     状態異常への耐性も考慮された守り手の戦法に、数で上回るタトゥーバットも流石に攻めあぐねることとなった。
     しかしそれは灼滅者達にとっても忍耐を要する戦いだ。
     紅のオーラを宿した牙で噛み付き、生気を奪い取る二体の蝙蝠。
     前衛がそれを防ぐ間にも、三体の蝙蝠が逆十字を展開、守る二人と一匹を狙い撃つ。
     威力に重きをおいたタトゥーバットの攻撃は脅威と言う他ない。
    「倒れさせない……誰も!」
     樹が意志を込めて、ディフェンダー陣に清めの風を送る。
     包囲してくる五体のタトゥーバットに、武器を構える灼滅者達。
     守りに徹するだけでは、この状況を打開することはできないが――。
    「あれは……」
     意志を持つ帯に力を込めながら、ふと夜空を見て樹が呟いた。
     襲い来る蝙蝠を棒で払い退ける悠花。彼女もまた気付き、頷いた。
    「来ましたね」

    ●掃討戦
    「遅かったじゃねぇか!」
     淼がクルセイドソードで敵を牽制しながら笑みを見せる。
    「待たせたでござる――!」
     風を切って真っ先に飛んできたのは、箒に乗った絢花だった。タトゥーバットの包囲の一端を乱して飛び、ドリフトするよう滑って停止。放たれた凍気が蝙蝠の群れを包み込み、凍結させた。直後に轟雷が蝙蝠の一体を撃ち、不死鳥の如き炎が傷ついた前衛を包み込む。
    「お待たせしました。屋上は全て終わりました」
    「どうやら無事みたいだな。一気に押し切ろうぜ!」
     桃と直哉が言って、前衛で武器を構えた。
    「すぐに回復しますからね……!」
     走って来た空煌が回復に適した位置で癒しの力を集中させる。
    「危うく血噴き出して倒れるトコだったぜ」
     淼が言いつつ傷口から炎を噴き出して見せる。
    「一人足りないようですが」
    「あー、もうすぐ来るでござる、多分」
     悠花の問いに絢花が一応そう答えて、
    「敵も無傷ではありません。一気に行きましょう!」
     樹は言うと、帯を全方位に射出した。
     予期せぬ援軍にうろたえた蝙蝠達が一斉に捕縛される。
    「さて、反転攻勢と行きましょうか」
     棒を手に構えを新たにした悠花が、最もダメージを負っていた敵に間合いを詰めた。
     払いを辛くも避けた蝙蝠が、続く刺突をまともに喰らって空中でのたうち回り、
    「散々暴れてくれた分、返させて貰うぞ」
     気合一声、淼の炎を宿した蹴りがトドメとなり、一体を霧散させた。
     空煌の怪談蝋燭から放たれた黒い煙が辺りに立ち込め、灼滅者達を癒やして煙幕で包み込む。煙が晴れた時には、前衛の負っていた状態異常の多くが吹き飛んでいた。
     苛立って鳴きわめく蝙蝠。
     その中の一体が、何処からか飛んできた帯状の武器に片羽の付け根を抉られた。
    「……流石に四階はちょっと高めでした」
     Sleeping Beautyに攻撃を促したアイスバーンだ。
     とは言え落下のダメージはない。
     着地した彼女は、最も攻撃的な陣形に移った後、今の攻撃を放ったのだ。
    「これで揃ったな、畳み掛けようぜ!」
     言うや否、直哉が羽を怪我した一体めがけて跳躍。赤いマフラーをなびかせながら振り降ろした彼のロッドが、蝙蝠に爆発的な力を流し込んで塵へと変える。
     樹は再び虚空に無数の刃を呼び出し、残る三体に射出。
    「やはりこういう敵には長物ですね」
     桃が傷付いた蝙蝠に渾身の力で長柄を振り下ろし、爆発的な魔力を注ぎ込んだ。
    「トドメでござる!」
     その蝙蝠めがけ、服の中に隠していた忍刀を取り出した絢花が疾駆。
     音さえ切断すると云われる刀の横薙ぎで、苦痛に暴れる蝙蝠を両断した。
     残るは二体。
     無数の刃で羽を傷つけられた別の蝙蝠には、直哉が拳の連打を叩き込み、
    「ジンギスカンさんっ」
     地面に叩きつけられた蝙蝠を、影の羊達が取り囲み、喰らい尽くした。
    「行ける……!」
     勝機を察した空煌が怪談蝋燭から炎の花弁を舞い散らして最後の一体を炎で包み込む。
    「上里どの!」
     絢花が手から苦無型の魔法の矢を投げ、炎に巻かれた蝙蝠を串刺しにして、 
    「平穏な生活を乱す眷属――この手で滅ぼします!」
     一瞬、動きを止めた敵を、桃が半獣化した狼の爪で一閃。
     その一撃に断末魔の悲鳴を挙げる間もなく、最後のタトゥーバットが塵となり消滅した。

    ●戦いを終えて
     ヴァンパイアの眷属が灼滅され、間もなく周囲に再び穏やかな夜気が戻ってきた。
    「ひとまず終わったな。見たところ目立った怪我人もなし、か」
     寸を肩に乗せながら、淼が皆に目を配って一息。
    「みんな大丈夫みたいですね。良かった……」
     空煌も大きな怪我人がいないことに安堵の表情を浮かべた。
    「これで一安心ですね。校舎の中の人も」
     言いつつ桃は戦いの経過を振り返る。
     素早く敵を倒して合流した屋上側、防戦を引き受けたグラウンド側、それぞれの連携の取れた作戦と行動が今回の勝利を引き寄せたと言っていい。
    「周りにも被害が及ばなくて何よりでした」
     辺りを見回した樹が確認できたのは、先の戦いでグラウンドに残った、わずかな跡だけ。
     アイスバーンが眠そうに欠伸をして、
    「何も見つからなさそうですし、帰って休むとしましょう」
    「そうでござるなぁ……」
     つられて絢花も、ふぁ、と欠伸を一つ。
    「早く去ったほうが得策のようですね」
     悠花が校舎の窓に目を配りながら言った。流石に長居できる状況でもない。
    「……爵位級吸血鬼と朱雀門か」
     顎に指を添えて直哉は思いを巡らせる。それぞれの思惑もまだ不明瞭だが、
    「事件を追うことで、確かめられる機会も得られるだろうか……」
     いずれにせよ、今回の勝利は価値あるものに違いない。
     眷属を灼滅し、一般人を救った戦果を携えて、灼滅者達は帰還の途についた。

    作者:飛角龍馬 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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