「嫌だ……死にたくない……」
古びた外灯が照らす公園に、か細い男の声が響く。
「死にたくない……死にたくない……俺は……嫌だ……」
髪はぼさぼさ、服もぼろぼろな青年はふらつき、何かから逃げようとさ迷い歩く。
この青年がダークネスであると誰が気付けるか。
――何故だ、どうしてこうなった。
――俺は、こんな筈では。
――まだ、俺は。
武人として死ぬ事は怖くない。
だが、求める頂にはたどり着かず、極める道も歩みだしたばかり。
しかも、まさか、どうして。
様々な思いが過り、青年はふらふら歩くが、腹部の激痛にその足は止まり、がくりと膝を突きそうになるが――、
「嫌だ、俺は、俺は、嫌だ、死にたくない……」
死にたくない。
ただその一心で痛む腹を押さえ、ふらつき、それでも歩く。
がたん。
「があっ!」
さび付いたゴミ箱にぶつかり無様に倒れ、襲い掛かるのは耐え難い腹の激痛。
――そして。
「……あ、あぎ……ぎゃああああああああああああ……!!!!」
ぐぢゃり。
それはまさに断末魔というに相応しい声。
悶える青年の腹は内から裂け――いや、食い破られ、中から無数の羽虫が現れ飛び立った。
「最近発生しているベヘリタスの卵が羽化する事件なんだが、シン・ライリーが関わっているのではないかという華流さんの懸念が的中してしまったようだ」
集まった灼滅者達を前に結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)は、そう話を切り出した。
人々の『絆』を喰らい、成長した卵が羽化をする事件にあのシン・ライリーが関わっている。
それは伏木・華流(桜花研鑽・d28213)が懸念していた事。
「東日本の太平洋側にある公園に、シン・ライリー配下の格闘家のアンブレイカブルが現れる事が分かった。そのダークネスは何かに追われているように逃走しているようなんだが、急に苦しみだし、体内を食い破って出てくる数十匹の羽虫型ベヘリタスによって殺されてしまう」
恐らく、このアンブレイカブルのソウルボードにベヘリタスの卵が植え付けられているのだろうと相馬は話し、現れる数十体のベヘリタスを可能な限り駆逐して欲しいと手にする資料をぺらりとめくった。
「アンブレイカブルの体内から出てくるのは30体の羽虫型ベヘリタスだ」
資料へと視線を落として相馬は話す。
羽虫のような形状のベヘリタスの戦闘力はシャドウハンター、解体ナイフ相当のサイキックを使い、灼滅者よりも少し弱い程度。数も多く、全滅させる事はおそらく不可能との事だ。
「この羽虫型ベヘリタスは、戦闘を仕掛ける限り反撃してくる。だが逆にお前達灼滅者が逃走すれば撤退するので、ギリギリまで戦う事ができる」
「可能な限り倒せばいいんだな」
灼滅者の言葉に相馬は頷くが、
「なあ、羽化したベヘリタスに食い破られるアンブレイカブルを助ける事はできるのか?」
別の灼滅者の問いに相馬は少し難しそうな顔をした。
アンブレイカブルはダークネスであり、灼滅すべき存在だが、その最期に思うところがあったのだろう。エクスブレインはその可能性についても調べ上げていた。
「このアンブレイカブル――長谷川・信二は恐怖に錯乱している為、説得などはほぼ不可能だろうと思う。だが、何らかの方法によってこの男のソウルボードに入る事ができれば救出できる可能性はある」
説明によれば、ソウルボードへ進入する事ができた場合、ソウルボードで羽虫型のベヘリタスと戦闘した後、ソウルボードから現実世界に出た羽虫型ベヘリタスと戦う事になる。
「ソウルボードでの羽虫型ベヘリタスは強くはない。だが、現実世界では別だ。ダメージも回復している。おまけに信二は羽虫型ベヘリタスとお前達が戦い始めた場合、身の安全の為に目を覚まして逃走してしまう」
「救出は難しくて、しかも逃げちゃうんですね」
ぽつりと言う三国・マコト(正義のファイター・dn0160)の言葉に相馬は視線を向け、
「戦闘は連戦になるし、アンブレイカブルを助けるメリットがあるかは微妙だが……今回の目的は羽虫型ベヘリタスの駆逐だから、どちらの手段をとるかはお前達の判断に任せるよ」
そう言い、灼滅者達を見渡した。
「絆のベヘリタスの卵から生まれた、本来のベヘリタスとは違う姿をしたシャドウだが……。おそらく、アンブレイカブルのソウルボードを利用してベヘリタスの卵を孵化させている者がいるのだろう」
資料から視線を外し、相馬は話す。
アンブレイカブルを利用しているのはシン・ライリーなのか、そうでないかは分からない。
だが、この方法を取られてしまうとエクスブレインの予知も難しく、どれだけのベヘリタスの卵が孵化しているか予測もできないと相馬は言い、言葉を続けた。
「だからこそ可能な限り、現れるベヘリタスを倒しておく必要があると俺は思う。頑張ってくれ」
参加者 | |
---|---|
彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131) |
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078) |
神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337) |
戯・久遠(悠遠の求道者・d12214) |
幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469) |
卦山・達郎(一匹龍は二度甦る・d19114) |
雨堂・亜理沙(白影紅色奇譚・d28216) |
玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034) |
●
「……嫌だ……死にたくない……」
真夜中の公園に、か細い男の声が響く。
古びた外灯が照らし出すぼろぼろな青年は、激痛に耐えているのだろう。よろめきつつも腹を押さえ、何かから逃げるよう歩く。
そんな姿を目の当たりにする学生達がいた。
「……一体、誰が、裏で、糸を引いて、居るのでしょう……」
ぽつりと神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は口にし、青年――長谷川・信二へと視線を向けるが、こちらの視線はおろか気配すら気付いていないようだった。
「……こんな事件、……胸が、もやもや、します……」
ぎゅっと拳を握る様子に雨堂・亜理沙(白影紅色奇譚・d28216)も人払いを行いながらも頷いた。
あの青年――シン・ライリー配下のダークネスの中には『絆のベヘリタスの卵』が産み付けられている。
エクスブレインの説明によれば、彼の命は卵から羽化したモノにより、内から食い破られてしまう。
「死にたくない……死にたくない……俺は……嫌だ……」
(「此れが人の姿をしていないダークネスなら生命の保証を検討しただろうか」)
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は青年の姿を目にふと、そんな事を考える。
死にたくない、などと声を聞かせないダークネスならやはり、命の保証を――。
そんな心境を胸に苦々しくニコは思い、手にする得物を強く握り締めた。
「シャドウって中々酷いわね。同じダークネスの体から這い出してくるとか最低だわ」
玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)は言い、脳裏に浮かぶのはエクスブレインから聞いた青年の運命。
敵対するダークネスといえど、その最期は惨すぎる。
「でも、見捨てるのはあたしの主義に反するから、助けるわ」
「……そうだな」
曜灯の言葉に小さく応える幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469)の心境は複雑だ。
アンブレイカブルなんて勝手に滅べばいいと思う。
だが、だからといって無残な最期を知っておきながら何もしないのは、無差別に殺すような――ダークネスと同じだ。
――だから。
「今回は激戦になりそうだな。気を引き締めねば」
霊犬・風雪を伴う戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)は呼気を整え武装瞬纏、と解除コードを口に信二の前に歩み出る。
「一手交えに来た。受ける度胸はあるか?」
紺青の闘気を纏い、いつでも攻撃に転じられるよう注意し声をかけるが、反応はない。
聞えていないのか、はたまた応えるだけの余力がないのか。
「僕らはシャドウを滅ぼすためにここに来た。武人としての死を願うなら、今は僕らに命を預けるのも選択肢だ」
死にたくないと繰り返す青年へ、すと和装の彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)も歩み出ると、
「選びなよ。生か、死か」
「死……死ぬ……嫌だ……死にたくない……」
やはりあの青年は錯乱しているのだろう。さくらえの『死』という言葉に反応はしたが、まともなやりとりは難しいに違いない。
ともなれば、あとは打ち合わせ通りにやるだけだ。
「僕達はお前に用はないよ、お前の中の『虫』に用がある」
「お前運が良かったな、俺らが来たおかげで助かるんだからよ」
新は黒い大太刀を構え、戦闘態勢を整える卦山・達郎(一匹龍は二度甦る・d19114)へ三国・マコト(正義のファイター・dn0160)が視線を向ければ、左腕の傷口から赤いオーラのようなものが見えた。
●
「さっさと落ちてもらうぜ!」
赤いオーラは龍となりダークネスへと襲い掛かる!
達郎が放つ龍は信二を捉え、亜理沙が手にする護符は催眠状態へと導いた。
「う……」
(「いけるか……?」)
よろめき呻くダークネスを目に、亜理沙はソウルボードへの侵入が可能か伺い、さくらえに視線を向ける。だが、その表情は芳しくない。
ソウルアクセスを行うには対象が眠っていなければいけないのだが、どうやら催眠は眠っている状態とはいえないようだ。
「武蔵坂から来たの。挑戦、受けてくれるかしら?」
まともに動けない様子を目に地を蹴る曜灯はスターゲイザーを放つが、その一撃も避けられない。
「そんな思う様に動けないままやられて満足かしら?」
「う……お、俺は……」
呻くダークネスは大きくよろめき、そこへ飛び出すのはさくらえだ。
「三国さん」
向ける言葉に応える様子を目に変化させた腕を振り上げ、続くニコがイエローサインを展開させる。
「志半ばで屈し無様を晒して死ぬことを良しとするか、其れで壊されざる者を名乗るとは笑わせる!」
「……蟲、如きで、死にたく、ないのなら、今は、眠っていて、ください……!」
淡々と、愛想のない瞳が向ける先では蒼が変化させた腕で殴りかかり、
「さて、やってみるか」
白銀のハスキーを伴い動き、久遠は斬影刃――我流・灰塵曲輪で切りかかると新が構える刃は閃き、ぼたぼたと血が落ちる。
「う……う、ぐ……」
立て続けの攻撃と腹部の痛みに苦悶する青年が流すのは血と脂汗。
意識が朦朧としているのだろう。視点が定まらない瞳はふらふらとさまようが――、
「この場で生きて僕達に再戦を挑むか。虫に食われて無様に果てるか。時間はないよ、さっさと決めな」
「お前の腹の虫はソウルボードに巣食っている、俺達の目的は其れの灼滅のみ。死にたくなくば暫し眠れ、どうせ死ぬなら戦って死ね」
「俺は……俺は……!」
新とニコの言葉は突き動かし、ダークネスは目前の者達と戦うべく腕を振り上げた。
信二のソウルボードへ侵入するためには彼を眠らせるしかない。
灼滅者達は死を目前にするダークネスを目指す結末に導くべく、全力で攻撃を仕掛け続けた。
ソウルボードへの進入が叶わなければ、潔い死を――。
「……嫌だ……俺は……死にたくない……俺は……死にたく……」
攻撃を受け血を流す信二だが、
「……あ……ぅ、ぐ……!!」
どさり。
戦いの中で信二は苦悶の表情を浮かべると膝を突き、そのまま倒れてしまった。
戦いの手を止めて駆け寄り見れば、ダークネスの意識はない。
意識を失う程の激痛だったのだろう。うつ伏せに倒れる信二のポケットに曜灯はそっと手紙を差し込み、
「急ごう」
切迫したさくらえの声に立ち上げる。
時間がない。ベヘリタスの卵から羽化したモノが食い出る前に、灼滅者達はソウルボードの中へと急いだ。
●
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ……!
ソウルボードの中で目の当たりにするのは、不気味な、不快感を伴う羽音とその音の主。
羽虫型ベヘリタス達はまさに今、食い破ろうとしていたのだろう。おびただしい数の中から数体が動き――、
「……っ」
青ざめるマコトの前に立つのは久遠だ。
「大丈夫か?」
「問題ない」
カバーに動き、頬を伝う血を拭う久遠は新の言葉に応えると、瞳をシャドウへと向けた。
まとめて受けたというのにダメージは大きくない。心配そうに見上げる白銀のハスキーへ大丈夫だと瞳を向け、久遠は続く戦いに構えると、
「入れた……! このまま斬り込む!」
気味の悪い光景を目前に、動けないマコトの手を引く曜灯の視界に亜理沙が飛び込み、駆けていく。
放つ護符は数体をまとめて倒し、
「出たわね。全部潰してあげる」
翼のように舞い、ブーツタイプのエアシューズを煌かせ、曜灯が放つ一撃は目前の一体を叩き落した。
――ギ、ギギ……!
――ギ、ギ、ギ……!
かさかさと動き、響くのは不気味な羽音。
「来るよ、気をつけて」
攻撃を捌きさくらえは声をかけ、仲間達は攻撃に備えるが全てを防ぐ事は難しい。
おびただしい数の攻撃を受け、払い、そして捌く姿を目に鬼神変で殴りかかるとマコトも続く。
「クソが」
鬱陶しいほどの数と攻撃。
前に舌打ちと共にかぶる帽子のずれを直したニコはイエローサインを放ち、蒼の鬼神変が切り裂き倒す。
そして久遠の我流の技で更に1体崩れ落ちると風雪が傷を癒し、感謝の瞳が向けられる。
――ギギ、ギ……!
「ちっ」
30体の羽虫型ベヘリタスの攻撃は3度に分かれ、攻撃を受けた新は頬を伝う血をぐい、拭う。だが出血は止まらず、視線を落とせば足元に紅の雫。
鈍い痛みに眉をひそめるが、それだけだ。
「駆除してやるよ、寄生虫!」
「序盤の差を覆すにゃこいつが一番だ……卦龍、縛龍結界! まとめて痺れさせてやるぜ虫共ぉ!」
受けた傷を気にもせず、荒れ狂う風と猛る雷を纏う新の拳は体を貫き、達郎の攻撃は赤い龍と共に放たれ、動く数体をまとめて倒した。
エクスブレインが説明したようにソウルボード内では強くないらしく、羽虫型ベヘリタスは灼滅者達の攻撃に一体、また一体と倒れていく。
「……本当、碌でも、ない、ですね」
戦いの中で蒼はふと考える。
ソウルボードにベヘリタスの卵を産み付けられた、シン・ライリー配下のアンブレイカブル。
まさか、仲間を売ったという事なのだろうか。それとも逆に――。
「……倒れて、ください……!」
構える槍からの一撃はベヘリタスの体を貫き、落ちていく。
そして気付けば残りはわずか。
「泥に溺れろ、羽虫共」
死角から放たれる亜理沙の一撃がベヘリタスの体を切り裂き、
「これで最後だよ」
既に体力が残っていないのだろう。残りの数体はさくらえとニコの攻撃によってぼとりと地に落ちる。
30体すべて倒し、残るのは灼滅者達と地に落ちるベヘリタス。
「全て倒したようだな」
縛霊手・葬送八点鐘を手に言うニコだが、間を空けず舌打ちをする。
ニコの瞳は倒した羽虫型ベヘリタスへと向けられていたが、倒れたはずのそれらはびくびくと動き出し、外へ――現実世界へと逃げ出していく。
「とりあえず、目的はひとつ達成だな」
内から食い破られて潰えるはずのアンブレイカブルの命を救う事はできた。
新の言葉に仲間達は頷くが、その顔はどれも緊迫したものばかり。
「これからが正念場だな」
言いながら久遠が見渡せば、強くはない相手ではあったものの、仲間達は少なからずダメージを受けている。
この状況下で待ち受けているのは、最後の戦い。
「さぁ……ハンデありありの第二ラウンド開始といこうや!」
「……がんばりましょう……!」
達郎と蒼は言葉を交わし、二つ目の目標を達成すべく灼滅者達は現実世界へ。
●
――ギギギ、ギ……!
――ギギギ……ギギ!!
現実世界で耳にするのは、不快な羽音と不気味な声。
「……ヒっ!」
その声にちらりと目を向ければ、いつの間にか目を覚ましていたのだろう。死の運命から逃れた青年が後ずさりしていた。
「相当恐怖を叩き込まれたんだろう……別に逃げるのは構わねぇ。だが、これに懲りたってんなら一度シン・ライリーを頭の中で疑ってみろ!」
「邪魔なんだよ! とっとと消えてろ!」
戦うべく構える達郎と新が逃げようと動く信二に言い放ち、
「大丈夫? あとは任せてちょうだい」
「早く行って。悪運が続いているうちにね」
曜灯と亜理沙の言葉に立ち上がり逃げていく。足取りはふらつき危ないものであったが、公園の出口へ向かっていくのが見えた。
去っていく青年を曜灯は姿が消えるまでその後姿へ視線を向けていたが――、
「来るぞ!」
「……気をつけて……!」
達郎と蒼の声に振り返れば、襲い掛かるのは飛び交う羽虫型ベヘリタス。
まとめて襲い掛かるのを目に構えるが、カバーに動き、久遠が身を挺す。
「ありがとう」
「一撃の重みは少ないが、中々に厄介だな」
曜灯の礼に応える久遠だが、受けたダメージに少しばかり眉をひそめた。
ソウルボード内とのダメージが違いすぎる。
だが。
「倒れる事は覚悟の上だ。限界を超えてみせる」
紺青の闘気は放たれ――我流・間破光耀が目前のヘベリタスへと命中し、風雪が受けたダメージを回復すると、後に仲間達が続く。
――ギギ! ギギ!
――ギギギギギ……!
「寄生虫め! 残さず駆逐してやるからな!」
「第二ラウンドもいくぜ……卦龍、縛龍結界!」
不快な音を耳に新と達郎が飛び出せば、亜理沙と曜灯が駆けていく。
その様子を目にさくらえは得物を構え、思うのはこの事件についての事。
未だ全貌は見えないが、追いかけると決めていた。
嫌な縁だけど、これも絆で、繋がった糸。だから絶対に離しやしないと。
「それがどんなに困難でも絶対に辿り着いてみせるよ」
飛び交う攻撃を構える槍――叶鏡で払い、仲間達に続いて放つ一撃でベヘリタスを倒すとニコの癒しが仲間達の傷を塞ぐ。
そしてベヘリタスの攻撃をぬい、蒼の一撃がダメージを負った1体を切り裂いた!
「……まずは……一体、目……」
ぼどりと落ち、消える姿を目に蒼が見上げれば、羽虫型ベヘリタスは不快な音を響かせている。
「この調子で残りも落とそうぜ!」
達郎の言葉に仲間達は頷き、戦いは続く。
アンブレイカブルと戦い、ソウルボード内で戦い、そして今。
状態は都度、回復はしているが受けたダメージは回復していない。
ポジション変更などの作戦を立ててはいるものの、ソウルボード内で達郎が口にしたように『ハンデありあり』の状態は灼滅者達を苦しめた。
「くそっ、鬱陶しいんだよ!」
自分に攻撃が向かないよう定位置をキープし戦い続ける達郎だが、ふとベヘリタスが各個撃破を狙ったのか、一斉に攻撃が向く。
ディフェンダーでも全ての攻撃を防ぎきれず、追いつかない回復に赤い龍が受けた傷口に巻きつき回復を図るが、それさえも間に合わず。
「悪い……後は、頼む……」
膝を突き、そのまま倒れると、ターゲットは癒し手であるニコへと移り、そして目障りだったのかポジション変更した曜灯に。
「クソが……」
「……ごめんなさい」
立て続けに倒れる仲間を目にぎゅっとロッドを握り締め、蒼は金の瞳を向けて戦うが、気付けば攻撃が自身に向いていた。
一体、また一体と倒れるベヘリタスの攻撃を蒼は捌いたが、限界がある。
「……ぅ、っ…・・・」
羽虫型ベヘリタス達はまだいるというのに。全て倒す気持ちでいるというのに。
――もう、体力がもたない。
「……あとは、……おね、がい……、しま……、す……」
迫る羽音と攻撃をかわし、そのまま蒼の体はぐらりと地に崩れ落ちる。
仲間達の半数が倒れた。
「これは厳しいか。一度退くとしよう」
共に戦ってきた風雪も既に倒れ、自身も満身創痍。
これ以上は厳しいと判断した久遠は撤退しようと動くが――仲間達は動かない。
戦い続ける仲間達を目に、一瞬生じた隙をダークネスは見逃さなかった。
「……ぐっ」
残るヘベリタスの攻撃は集中し、避ける余裕もなく久遠も限界を迎えて倒れ込む。
羽虫型ヘベリタスは灼滅者達が攻撃し続ければ攻撃し、退けば撤退する。
ギリギリまで戦う事ができると説明された仲間達は、ギリギリまで戦う事を選択していたのだ。
ギリギリまで――そう、大半が倒れようともベヘリタスを倒す。
灼滅者達は残り少ない人数で、全ての力を持ってダークネスを倒す。
(「厄介だな……眷属とは比べ物にならない」)
数体からの攻撃を払い、捌き、亜理沙は死角から1体を切り裂いた。
ソウルボードとは比べ物にならないその戦闘能力、そして数。それは群体のダークネス、とでもいうべきか。
ダメージを受け、マコトも回復へ重点を置いて行動するが、支えるまでにはいかず、仲間達は押されていき、
「雨堂さん!」
(「……ここまでか」)
肩口をえぐられ、血に染まる姿にさくらえは回復しようとするが間に合わない。
ぐらりと亜理沙は崩れ落ち、新は目前の1体を斬り裂いた。
「ここが限界か」
頬を切ったのか、つと紅線から血が流れ落ち、見ればかなりの数のベヘリタスを灼滅できたようだ。
「退こう、ここまで出来れば上出来だよ」
そう言いさくらえは着物へ視線を落とせば、戦いの激しさが伺えるが――。
上出来とは言ったものの、誰一人欠ける事なく全員で全てを倒したかった。
それは戦った全ての仲間達の思い。
「帰ろう、武蔵坂へ」
倒れる仲間を抱える新の言葉にふらつくマコトは頷き、さくらえと共に仲間達を抱えて引き上げると背後から襲撃されぬよう注意し、退いていく。
不快な、不気味は羽音はその姿が視界から消えると共に消え、灼滅者達は結果を報告すべく武蔵坂へと戻っていくのだった。
作者:カンナミユ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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