ただ、白味噌アイスのみを愛す。

    「いらっしゃいませこんにちわー」
     軽快なメロディが、新たな来客を告げる。
     ここはコンビニ、便利なお店。
    「……ん?」
     ふと、店員がアイス売り場に目を止める。そこには、アイスを陳列する同僚の姿がある。
    「君、新入り? 見た事ない顔だけど」
    「えっ」
     びくん! と激しく同僚の肩が震えた。
     店員がアイスケースをのぞくと、そこは一種類のアイスで埋め尽くされていた。『京都白味噌アイス』と書かれたカップアイスに。
    「ちょっ、勝手に何やってんの! 他のアイスはどこにやったの!」
    「バレちゃあ仕方ないです!」
     謎の同僚は、脱兎のごとく入り口を飛び出した。駐車場に停めてあったトラックに乗り込むと、あっという間に走り去ったのである。
    「おいー……っていうか、これどうしたらいいのさ」
     そして店員は途方に暮れる。山ほどもある白味噌アイスを前にして。

    「というのが、ボクの目撃した一部始終なのであります」
     ヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384)の報告を受け、初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)が予知したのは、京都白味噌アイス怪人が起こす事件。
    「白味噌を使ったアイスとは、何やらおいしそうだな」
    「九条ネギがアクセントとして使われたりもするのでありますよ」
     そんな素敵アイスを、怪人が強引に広めようとしている。
     白味噌アイスを満載したトラックでコンビニに乗り付け、店員を装い潜入。売り場のアイスを白味噌アイスとすり替えてしまう。これが怪人の手口である。
    「秋になり、かき氷やアイスキャンディー系のアイスに代わって、クリーム系が陳列されるようになっている。そんな今なら、真夏より手に取ってもらえると判断したようだな」
    「暑いと、どうしても氷系に手が伸びてしまうものでありますからな」
     ヘイズも、そこには納得。
     杏によれば、怪人が次に現れるのは、京都市内のコンビニだと言う。
    「そこで、白味噌アイスを陳列中の怪人に接触、これを灼滅してほしい」
     怪人はこちらに見つかると、店外に停めてある自分のトラックで逃走しようとする。
    「トラックに乗った時点で、追撃は難しくなるだろう。逃走を防ぐ作戦を用意しておいた方がいいな」
     京都白味噌アイス怪人は、冷気を操る技を得意としている。ジャマーのポジションを生かして、バッドステータスをばらまいてこられると厄介だ。
    「まだ一般人に危害を加える事態にはなっていないが、止めるなら今のうちだ。白味噌アイス自体に害はないので、こっそりいただいてしまうのもアリかもな?」


    参加者
    各務・樹(虹雫・d02313)
    木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)
    竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)
    小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    百道浜・華夜(翼蛇・d32692)
    ヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384)
    月影・黒(影纏う吸血鬼・d33567)

    ■リプレイ

    ●夏には夏の、秋には秋の、アイスがある。
    「まだ怪人は現れていないでありますね」
     予知されたコンビニにやってきたヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384)達。
     さっそく百物語で人払いするその体は、震えている。別にアイスの冷たさを思っての事ではなく……単に怖がりだからである。
    「さて、白味噌アイス怪人ねぇ。色んなフレーバーのアイスがあるけど、白味噌を使ったものもあるのね。ちょっと興味あるかも」
    「けれど、どんなに美味しくても、そればっかりを押し付けたら駄目よね。大人しく改心してくれれば……」
     木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)や各務・樹(虹雫・d02313)のやりとりは、エンジン音によって掻き消される。
     一台のトラックが、駐車場に停車した。運転席から降りてきたのは、コンビニの制服に身を包んだ白味噌アイス怪人。
    「なんちゅうか、せこいという言葉しか浮かばへんご当地怪人やね」
     荷台からせっせとアイスを運ぶ怪人を見て、小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)の率直な感想をこぼす。
    「まぁ、人的被害が出る前に灼滅するに限るやね」
     怪人がコンビニに入ったのを確認して、引きつけ班がそれを追った。念のため、トラックに車止めを仕込むのも忘れない。
    「わあ、これが噂の白味噌アイスですか。クラスでも噂になってたのですよね」
    「ひうっ!?」
     百道浜・華夜(翼蛇・d32692)に声をかけられ、驚く白味噌アイス怪人。こそこそしている自覚はあるらしい。
    「白味噌アイスの事知ってるんですか? 有名になったものですね~」
    「名前は聞いた事あるんだけどね。実際はどんなアイスなのかな?」
    「知りたいですか?」
     興味を示す崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)に、白味噌アイス怪人はニヤリと笑った。
    「向こうは、うまく引きつけてくれてるみたいだね」
    「じゃあ、時間もあまりないし、こっちもさっさとやっちまおう」
     駐車場から店内の様子をうかがっていた竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)と月影・黒(影纏う吸血鬼・d33567)が、うなずきあった。
     蛍が怪力無双でトラックを持ち上げる間に、黒がタイヤを切り裂いていく。
    「これで逃げられねえだろ」
     せっせと工作に励む黒。
     一方、店内をチラ見しながらも、蛍の頭の中は、アイスの事でいっぱいなのであった。

    ●スプーンのチョイスも重要です
     その頃、怪人引き付け隊は。
    「へぇ、あの白味噌をアイスにしたんか。初めて見るけど、値段もそれほど高そうでもあらへんし。ちゅうか、美味いんか?」
     ケースに並ぶアイスを、まじまじと見る小町。
    「当たり前じゃないですか。当たり前じゃないですか!」
    「2回言うのが逆に怪しいわね……。だいたい、他のアイスと全部入れ替えないと心配なくらいだもの。実は美味しくないのじゃないかしら?」
    「失敬な!」
     樹の挑発に、白味噌アイス怪人はポケットに手を差し込んだかと思うと……木べらを取り出した!
    「これで食べてみればわかりますよ、白味噌がアイス市場を独占するポテンシャルの持ち主だと!」
     続いて差し出されたアイスを、ヘイズと華夜が受け取る。
    「これはまた懐かしいでありますね……この白味噌香るコク深く優しい甘味がまた……」
    「美味しいですよぉー。白味噌のコクが良い感じにアイスに生かされてるですよ。ねぇ、イズさん」
    「ええ。それに、中の九条ネギ独特の風味が、白味噌の塩味と合わさって……なかなか」
     2人の好評価に、怪人もご満悦だ。
    「ねえ、どう食べるのが一番美味しいのかしら。トッピングのお勧めとかはある?」
    「そうそう。アイスって、牛乳をかけたりパンに乗せたり、結構色々と食べ方が有るしね」
     さらに、御凛や來鯉の質問攻めが、怪人の意識を釘付けにする。
    「怪人的にはそのまま食べて欲しいですが、味噌の甘さはたいていのものと合うので、結構何でもありですよ」
    「へえ。自分でも作れたりするかな? よければ、大まかな作り方とか、何処の白味噌を使えばいいとかも知りたいんだけど」
    「それはですね……」
     來鯉に怪人が説明する間に、仲間達が窓の外をうかがう。
     すると、黒がOKのサインを出しているのが見えた。トラックの処理が済んだようだ。
     ならば、時間稼ぎはおしまい。
    「『Summon Raid』」
     ヘイズ、そして灼滅者達は武器を取り出し、怪人を囲む。
    「い、いきなり物騒な! まさか、本当は僕の活動を邪魔しにきたんですか? そんなの御免です!」
     三十六計逃げるに如かず。
     身を翻し、とんずらしようとする白味噌アイス怪人。目指すはトラック。
    「待ってたぜ」
     黒の不敵な表情。その意味に、怪人が気付いた。
    「何を……って、タイヤがパンクしてる!」
    「そういう事。2人とも、妨害工作お疲れさま……って」
     労いの言葉をかける御凛が、蛍の顔に目を止めた。
    「口に何か……っていうか、アイスがついてるけど」
    「これは、一応安全かどうか食べて確認しただけだよ☆」
     テヘペロ。
    「とりあえず問題は、なさそ……う、うう……」
     突然苦しみ始める蛍。
    「お腹と頭が痛い。やはりこれは危険だ!」
    「……いやそれは食べ過ぎなだけでありましょう」
     ジト目のヘイズ。
     それもそのはず、蛍の周りには、空になったアイスのカップがたくさん。
    「そもそも、何か入ってたら、他のみんなもただじゃ済まないよな」
     冷静にツッコミつつ、黒は怪人の前に立ちはだかる。
    「とにかく、残念だったな。これでお前はもう袋のネズミってわけだ」
    「し、仕方ありません! これも白味噌アイスを広めるための試練だと思えば!」
     決意する白味噌アイス怪人の腰は、微妙に引けていた。

    ●白味噌香る戦場
    「さぁ、断罪のお時間やでぇ!」
     小町のスレイヤーカードが、戦う力を解き放つ。
    「怪人の得意技は冷気だったわね」
     怪人の足元が白くなるのを見て、樹が交通標識で耐性を高める。
     華夜も、ダイダロスベルトの鎧で、アタッカー陣の守りを万全に。
    「どうして……どうして……こんな美味しいアイスを勝手に陳列したのですか。これでは、処分されるに決まってるじゃないですか!!」
     エスアールに突撃の指示を出しながら、悲痛な胸の内を露わにする華夜。
    「僕の目的はあくまで白味噌アイスの普及。いわばボランティア! 陳列して何がいけないのですか!」
    「そりゃいけないよね」
     黒の軍服に、戦艦を模した甲冑姿の來鯉から、ツッコミとダイダロスベルトが飛んだ。
    「他のアイスと取り換えたって、出所の判らないアイスなんて、衛生面とか考えると売れないし、処分せざるをえないもんね」
    「ぐぬぬ……」
     心と体にダメージを受ける怪人。そこに、霊犬ミッキーの刀が追い打ちをかける。
    「あなたのしてる事を『有難迷惑』っていうのよ」
     御凛から音も無く伸びた影が、怪人の四肢を縛りつける。
     だが、縛られたくらいで、怪人の歪んだ熱意はとめられない。
     白味噌風味の冷気が、周囲の灼滅者達から、熱エネルギーを奪い取っていく。
    「負けるな、みんな!」
     蛍の振るう交通標識が輝き、皆を鼓舞する。
    「助かるで!」
     小町が断罪輪を手に、回転、そして突撃!
    「おっと危ない!」
    「これで終わりやと思ったら大間違いやで!」
     辛くもかわした怪人の背後から、再び小町が切り裂く。
    「ぐあっ」
    「白味噌を思っての行動だろうと、俺は容赦しないぜ、覚悟しな!」
     怪人が傷口を抑える間もなく、黒が鎌を振りかぶっていた。
     『黒鎌・怨嗟』が、怪人の命を刈り取ろうと一閃する!
    「ボクも、白味噌とアイスの組み合わせは素敵だと思うのですが」
     ヘイズの周囲に立ち上る炎。現れたのは、
    「ね、ネギの群れ! 僕の白味噌が、ネギの風味に押されるなんて!」
     白味噌アイス怪人の反撃を察知した樹が、符を取り出した。
     矢面に立って奮戦する黒に、防護の力を宿す。
    「ホントは、きちんと置いて貰えるよう交渉するのが一番いい方法だったんだよ」
     ミッキーの六文銭が乱舞する中、來鯉が錨状の槍を繰り出す。何度も突き出すたび、威力が増していく。
    「そんな、眠たくなるようなのん気な方法なんて……がッ!?」
     そして御凛のアッパーカットが、怪人のあごをとらえた。
     ばちり、と雷撃がほとばしり、頭部……味噌だるにヒビが刻まれる。
     割れた顔もそのままに、怪人がつららを投じた。冷気を固めたものだ。
     その時吹き抜ける、一陣の風。疾走したエスアールが鋼の壁として、仲間をかばったのだ。
     つららの破片を払いつつ、蛍が、天星弓『フェイタルアンカー』に矢をつがえた。すっと狙いを仲間に定め、癒しの矢で傷を封じる。
    「迷惑をかけたんだ、その罪には罰が必要だよな!」
     黒の構えたクロスグレイブが、ありったけの光弾を放射する中、嬉々として小町も戦いを続ける。
     赤い鎌が弧を描けば、怪人の腹からしたたる白味噌混じりの血。それを 照らすのは、ヘイズの持つ九条ネギ型の蝋燭。
     舞い飛ぶ炎のネギの花が、怪人を焼き焦がす。
    「う、うう……アイスを残して倒れるわけには……はっ」
     白味噌アイス怪人が顔を上げると、華夜が弓弦を絞っていた。
    「処分されるアイスの気持ち……そして、仕事が増える店員さんの気持ち! 思い知るがいいのです!!!」  
     そして、思いを乗せた矢が、怪人を貫いた。

    ●さらば、アイスを愛した怪人
    「作戦の熟成が足りなかったようですね……味噌だけに。がくっ」
     そう言い残して、静かに溶けていく怪人。
     まあ、コンビニの前で爆発されるのもアレなので、ありがたいような気もするが。
    「白味噌を愛する気持ち……解らなくもないだけに、勿体無い話でありますね……」
     怪人を見送るヘイズの表情は、複雑だった。
     何にせよ、悪は倒された。大切なネックレスに触れ、ほっとする樹。
     それから、粛々と周囲の後片付けを済ませる小町や黒。
    「こんなもんかな」
    「さて、後はアイスね。……回収に来た業者のものですが」
     樹はプラチナチケットを使うと、ケースから白味噌アイスを回収していく。
    「これで何とか……せっかくだから、みんなも味見してみない?」
    「うん、1ついただいておこうかな」
    「白味噌が思った以上に違和感ないのですよ~」
     アイスを手に取る小町に、先ほど食べた華夜が、にこにこと感想を口にする。
    「私は、味噌っていうから、味噌汁を想像してたよ。味っていうか見た目的に」
     今なら違うと蛍にはわかる。だってもう何個も食べたから。
    「私も2つもらっていいかしら?」
     御凛は帰ってから食べようと、トッピングもついでに見繕う。
    「ほんと、どんな味なのかしら。食べるのが結構楽しみかも」
     ふと御凛の脳裏に、家主の顔が浮かんだ。
    「……もし外れだったら、あいつに押し付けようかな……あら、どうしたの、各務さん」
    「いえ、しょっぱいものを甘くされるのって、実は苦手なのよね」
     樹は少し渋い顔。
     けれど、こういう機会でもないとまず食べることはない、と挑戦してみる。
    「さあて、無事に怪人も退治できたし」
     ひと段落したところで、意気揚々と出かける來鯉。
     怪人から教わった白味噌を探し求めて。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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