●電柱が空飛んで襲ってくる依頼だよ!
閑静な住宅街……の中を、電柱が飛んでいた!
電柱はブロック塀と窓ガラスとちゃぶ台とタンスと風呂の湯沸かし器とあと壁を突き破って飛んでいく。
目の前を謎の物体が高速で通り過ぎたのを見たどっかのご家庭はぽかーんとしていたが、次の瞬間には慌ててダッシュ。バスタイム中のお父さんと一緒にその場から一目散に逃げ出したのだった。
そう、これこそがなんやかんやで実体化した都市伝説、『レジェンドオブ電柱』である!
●今の子供は時代劇とかわからんから『でんちゅうでござる』がわからんのよね。
「小学生がちゅうしんぐらを聞いたとき、とりあえず『でんちゅうでござる』の意味が分からなくて大量の電柱がお家を襲う話だって勘違いしたらしいの。それがウケにウケて都市伝説化しちゃって、このありさまだよ。大変なことだよ。放って置いたら沢山のお家がボッコボコになっちゃうよ。幸いなのはけが人は誰も出てないってことかな」
須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)の話によれば、レジェンドオブ電柱は空を飛ぶ無数の電柱で構成された都市伝説であるという。
電柱といっても十数メートルある石の柱。噂に尾ひれがついたモノであるぶん電柱の地面から下のところは再現できなくてすっぱり切れているがそれでもなかなかの長さである。電線や電気が無いのが救いといったところだろうか。
「こんなの放っておけないよ。みんな、よろしくね!」
参加者 | |
---|---|
喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652) |
ティセ・パルミエ(猫のリグレット・d01014) |
アンディ・サイゾウ(白にして霧雨・d04097) |
高倉・奏(二律背反・d10164) |
篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559) |
白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498) |
守部・在方(日陰で瞳を借りる者・d34871) |
ミーア・アルバーティ(猫メイドシスターズ・d35455) |
●電線地中化案というのがあって将来電柱が無くなるかもしれないんだね
「はい、せーのっ」
ティセ・パルミエ(猫のリグレット・d01014)とミーア・アルバーティ(猫メイドシスターズ・d35455)が同時ににゃんこポーズで振り返った。
「でんちゅうで!」
「ござるにゃーん!」
手をくしくしやるミーア。
「おお、にゃんコラボなのです! 偶然の生み出した奇跡なのです!」
「わたし初かもしれないねこれ。そんなわけないか。それで、今日はどんなオハナシなんだっけ?」
「どんなもなにも」
守部・在方(日陰で瞳を借りる者・d34871)がついっとお空を指さした。
電柱がわっさわっさ飛んでいた。
「この魚群めいた集団を倒すオハナシですよ。まあマグロであれ電柱であれ、飛んできたら迷惑なことに変わりありませんね」
「そうでもないわよ」
白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)がありもしない眼鏡をくいっとやった。
「打撃力は質量かけることの速度の自乗。重量も速度もある電柱は普通に強いのよ。これがギャグシナリオじゃなかったら私たち一人あたり十回はミンチになってるのよ」
「ちょっと、恐いこと言わないでください!」
高倉・奏(二律背反・d10164)が我が身を抱えてぶるりと震えた。
「実際そこらのお家がボコボコになってるんだから人間がくらったらタダじゃ済まないだろうなって思ってたところなんだから……。まあでも、元が『でんちゅうでござる』ですものね。私も初めて聞いたとき、同じような発想をしましたわ。飛びはしませんでしたけれど」
そして再び空を見上げる一同。
空、というより普通の電柱のてっぺんにはアンディ・サイゾウ(白にして霧雨・d04097)が腕組み姿勢で立っていた。
「HAHAHA! 天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! 全部喋るときっと何かに抵触するから省略するが、拙者の名前はアンディ・サイゾウ!」
「AS、こっちの世界にもいたんだね」
「ティセ様何次元のお話を?」
「ちなみに第三世界今はもう無いらしいよ」
「まじで」
「ゴッホン! 悪の電柱を砕くため、ここに見参!」
アンディはキリっと空をにらむと、飛び交う電柱を視界に納めた。
その視界の中を、箒に乗って悠然と飛ぶ喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)。
「満月から間もない夜空を三歩するのも気持ちがいいものだけど……」
「こんなでたらめな存在を認めなくてはいけないなんて、私たちも因果なものよね」
篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)は額に手を当てると、銘子箒の後部座席(?)からひょいと飛び降りた。次いで霊犬杣も一緒に下りてくる。
民家の屋根に着地して手を振る誘魚。
「それじゃあ、乗せてくれてありがと」
「どういたしまして。それじゃ、いきましょっか」
銘子はそのまま天高く上昇すると、箒を手放して空中離脱。アクロバティックに戦闘を開始した。
●電柱って地面に最低でも壱メートル半は埋まってるのよ
章区切りはすれども時系列はそのまま。空中で箒から離脱した銘子は着物を大きく翻して一瞬だけホバリングした。
「ハロウィンめいた光景だわねえ。トリック専門の子たちみたいだし、お菓子抜きで退治しちゃいましょ」
下方から集中して襲い来る電柱。銘子は袖の下から四次元的に機関銃を取り出すと、ぐるぐると回りながら乱射。襲い来る電柱が近い順から粉々になっていく。
弾切れを起こした所で銃を捨て、手近な電柱の破片を蹴って斜めに飛ぶ。
そんな銘子と交差して上昇するティセ。
「実戦で箒使うの初めてかもっ」
ティセは正面から突っ込んでくる電柱をかがんでかわす。耳をこすっていく電柱。離脱のために螺旋回転しながら横移動――しつつ、胸元から道路標識を引っ張り出した。
「はーい、こっちに並んでね!」
上やら下やらから次々と襲ってくる電柱がティセの直前でぐるぐると回転し、木こりが並べた丸太のごとくピラミッド状にまとまった。そのままぐいんぐいん回転しながらティセを追っかけてくる。
「あっこれ凄まじく恐い」
トラックに煽られる自転車の気分である。
ティセは高度を急速に下げて民家へと接近。曲がりきれずに庭へ突っ込み、縁側からリビングに入り、ちゃぶ台をひっくり返し、身体をすぼめて勝手口から飛び出した。
壁や窓枠を破壊しながら思いっきり追尾してくるピラミッド電柱。
ちくわを咥えて振り返るティセ。
「だめだめこれ死んじゃう!」
「心配いらないわ」
その民家の屋根から、幽香がひょいと電柱に飛び乗った。
「さてと、バラバラに解体してあげる」
白衣の下から杭打ち機を取り出し、電柱に押し当てて発動。
激しい振動によってピラミッド電柱が上から順にヒビ入り、最後には真っ二つにへし折れた。
ジャンプで離脱する幽香。
落ちてくる破片が民家に当たらないようにか、霊犬杣やすあま(ウィングキャット)が魔法や六文銭を乱射。小さく小さく砕いていく。
一方で別の屋根に着地した幽香だが、彼女を追って電柱が飛んできた。死角からの突撃である。
が、そんな電柱にミーアが渾身のドロップキック。
軌道を幽香直撃コースから強制的にずらすと、そのまま電柱にしがみついて空へと舞い上がった。
くるくる螺旋回転する電柱を両手両足でホールドするミーア。
「思ったより目が回るのです!」
目をぐるぐるにしたミーアはふらーっと脱力して墜落。
と見せかけて、空中で身を転じて両手両足でふわっと着地した。
「つけてて良かった肉球手袋、ですにゃん」
いやそういう理由ではないが。
「でんちゅうどの、てんちゅうでござる!」
援護射撃かなってくらいのジャストタイミングでそばに寄り添うマーヤ。
二人で自分を振り落とした電柱めがけてオーラキャノンと霊障波を連射。
弾跡が空に弧を描き、やがて電柱へと至り爆発四散した。
なかなかの混戦状態だが、それはどこでも同じである。
「超忍法、乱れ手裏剣!」
アンディは屋根から屋根へと飛び移りながら手裏剣を右へ左へ高速乱射。
手裏剣が刺さった電柱はどういう因果か爆発し、次から次へと墜落していく。
だが電柱とて同じ方向にばかり飛ぶものではない。正面から顔めがけて飛んできた電柱を避けるべくアンディはスライディング回避。
その電柱の上には在方がスケボーみたいな両足揃えで乗っていた。
「え、今のは――トォゥ!」
足下の屋根を突き破って空へと飛び上がる電柱。転がり回避するアンディ。電柱の頂上で腕組み姿勢で乗ってる在方。
「また――ソォイ!」
なんでか横回転しながら飛んでくる電柱。ジャンプ回避するアンディ。中央に跨がって乗っている在方。
「なぜ来る電柱来る電柱に在方殿が……しかも全て貼り付けたような無表情で……」
「乗りたかったんでしょう。気持ちはわかる」
奏はこくこくと頷くと、路上からジャンプ。壁を蹴って反対側のブロック塀に飛び乗り、更にジャンプして普通の電柱を蹴って空中へ。
「ひいえすっごい群れてる。よーし……!」
たまたま通りかかった電柱を炎を纏った足で蹴りつけて斜め上へ飛ぶと、また別の電柱を蹴ってムーンサルトジャンプ。
眼下に数本の電柱が並んだタイミングで目をキラリと光らせると、流星のごとく急降下。電柱を何本も連続でへし折ってから着地――かと思いきや最後の一本で足をぐきっとやって転倒した。
「うあっ!?」
すかさず足下に滑り込むビハインド。
奏をキャッチすると、倒し損ねた電柱を片手霊障波で破壊した。
きょとんとして目をぱちくりする奏。
「仲のいいことで」
自販機の上から様子を見ていた誘魚は、すっくと立ち上がって周囲を見回した。
だいぶ数が減ってきたとはいえまだまだ沢山飛んでいる。
「まったく、悪い夢ならいいのに」
額に手をつけてため息。
右から突っ込んできた電柱を片手で受け止めた。まるで杭でも打ち込まれたかのように破裂する電柱。反対側からも電柱が突っ込んでくるが、誘魚はつま先立ちでくるりと反転すると、先刻のように手のひらを突き出した。
エネルギー杭が飛び出し、電柱の中央へ突き刺さる。いかなる物理法則か、電柱は中央から外側に向けてひび割れ、誘魚を避けるように破裂していった。
「電柱には杭打ちがお似合いね」
上げていた踵をすとんと下ろし、ため息と共に腕も下ろした。
●まめちしき。電柱には電信柱と電力柱があって前者は電話線、後者は電力線が走っている。見分け方は柱についてる社名プレート。
読者の中に空飛ぶ電柱に追いかけられたことのある方はおられようか? いたら困るが、こういうときの一番楽な回避方法は路地を曲がりまくることである。
ティセとミーアは並んでダッシュしつつ、後ろから飛んでくる電柱をジグザグ走行で回避していた。路地という路地に引っかかって止まっていく電柱たち。
「このままじゃラチがあかないよ」
「それに町内会の皆さんもきっと困るのです」
とかなんとか言ってると正面から電柱が接近。後方からの追尾。これはやばいと察した二人は顔を見合わせた。
急ブレーキで反転するミーア。意を決して相手に突っ込むティセ。
ミーアはウロボロスブレイドを高速展開すると、追いかけてくる電柱の周囲にリボン体操のごとく巻き付けた。
「くるくるぽーん、なのです!」
一本背負い、とは明らかに違うが、勢いをつけて反対側の電柱に叩き付ける。
対してティセは敵直前において地面に標識をこすりつけながら横スライド。ライフルを小刻みに連射した。
次々と破壊される電柱そこへまとまった電柱が突き刺さる。
「すあま!」
「マーヤ!」
塀の向こうからすあまとマーヤが当時に飛び出し、突き刺さった電柱を両サイドからパンチで破壊した。
砕け散る電柱――を、貫いてひときわ太い電柱が飛び抜けていった。思わずかがんでスカートと耳を押さえるティセとミーア。
が、はたと顔を見合わせた。
「今の電柱」
「誰か乗ってたのです」
そう。ひときわ太い電柱に乗っていたのは、在方である。
バランスを取るべくピック部分を握り、それこそ木馬にでも跨がるように姿勢を固定している。
その左右を他の電柱が併走していた。
在方を狙って横回転をかけてくる。
ピックを引っ張って上下反転。足でホールドするようにぶら下がると、在方はオーラキャノンを左右同時発射。
バランスを崩して墜落していく電柱。
行き先では、銘子が長い帯を展開して待ち構えていた。
「交代よ、在方さん」
「仕方ないですね。どうぞ」
在方は電柱から離れて落下。それを杣が背中でキャッチ。
一方で銘子は電柱を帯で締め付けると、箒に跨がって併走した。
再び天高く舞い上がる銘子。
「さーて、何本折れるかしら」
帯をくるくると巻き取って接近すると、集まってきた他の電柱とまとめてフリージングデスに巻き込んだ。
急速に運動能力を落とした電柱たち。
対する銘子は箒から再び離脱し、自由落下。
再び機関銃を取り出すと、頭上に集まった電柱たちへと弾幕を浴びせた。
その様子にまなじりを上げるアンディ。
「む、これは墜落の危機!」
アンディは落下地点でオーライオーライして待ち構える――が、そこを横から突き飛ばす電柱。
脇腹へモロにくらったアンディはもだえたが、もだえた頃には既に空中である。
さらなる追撃をとばかりに電柱が集まってくる。
「不意を打たれたか。こうなれば、旬なうちにやっておくでござる!」
アンディはひときわ豪華な手裏剣を忍者刀に貼り付けると、自らも豪華なしのび装束にチェンジ。
「忍なれども忍ばない――超忍法・自分手裏剣! イヤーッ!」
色々混ざったアンディは自らを手裏剣に見立てて超高速回転。飛んでくる電柱を片っ端からごりごり削っていった。
回転をやめて地面におりた頃には、足下はコンクリート粉末だらけになっていた。
「拙者の大勝利でござる!」
いっぽーそのころ誘魚と幽香。平たい民家の屋上に着地すると、周囲を神殿作りの柱が如く電柱が覆った。さながらストーンヘンジ。取り囲まれた二人は背中合わせに立つと、それぞれの武器を出現させた。
誘魚は不似合いなほど巨大な剣。幽香は魔力調整されたカジュアルブーツである。
「それじゃあ派手に」
「ぶっ壊しましょうか」
取り囲むところから先は考えてなかったらしい電柱に、誘魚は大きく踏み込んで剣を一閃。竹を切るかのごとく、電柱が次々に切断されていく。
一方で幽香はジャンプからの高速回転。
並み居る電柱たちをがりがりと削りながら突き進んでいく。
数分後には、高さが五十センチ程度になった電柱のストーンヘンジができていた。
同時に髪を払う誘魚と幽香。
「意外ともろかったわね」
「まったく、おかしな体験をしました」
いっぽうそのころ! 奏!
広い空き地をジグザグに走りつつ、地面へ次々と突き刺さる電柱の群れから逃げていた。
「なんでか私ばっかり狙われてる? 狙われてませんか!? あーもうだったら、ボッコボコにしてやんよ!」
ブレーキ反転。背後にいつの間にか寄り添っているビハインド。
「神父様、やっちゃってください!」
「――」
ビハインドはサングラスを外すと、電柱の群れへと見得を切った。
それだけで顔から謎の光がほとばしり、電柱がハートマークを吹き出しながら次々と砕け散っていった。
「あっこれ知ってるかもしれない。イケメンだけが使えるやつかもしれない」
神父様そこまでイケメンだったんだ。と思いつつ、最後に飛んできた電柱を回し蹴りでへし折った。
これがいわゆる最後の一本。
ぽっきりと折れて地面に刺さり、そしてまるで何事も無かったかのようにサイキックエナジー化して消滅した。
――かくして!(お約束!)
人々を苦しめた都市伝説『でんちゅうでござる』は灼滅された!
ボコボコになったお家はまあ多分なんとかするだろう。人間ってのは意外としぶといものである。
だが灼滅者たちが今後電柱を見かけるたび、『あれが飛んでたらこうやって乗るかな……』と想像してしまったことは、言うまでもない。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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