●いけないナースの高級マッサージ店
とある高級マンションの一室。
そこにいけないナースのマッサージ店はあった。
「いやあ。嘘のように、身体が軽くなったよ」
「ふふ、ご満足いただけたようで良かったですわ」
サービスを受けた羅刹が、締まりなく顔を緩ませる。この店の主な客層は、安土城怪人と天海大僧正との抗争で怪我をしたダークネス達であり、客足は上々であった。
「また身体の調子が悪かったり、お怪我をしたらいらして下さいね。その時はたっぷりサービスいたしますから」
いけないナースは、相手の手を優しく取ると。熱のある視線を客に向ける。羅刹は、鼻息荒く何度も頷いた。
「必ず、必ず、また来ます! その時は、Aコースからスペシャルコースまで全てお願いします!」
「まあ、嬉しい。張り切り過ぎて大怪我をしないで下さいね――では、またのご来店を」
意気込む羅刹の背中を、淫魔は妖艶な笑みで見送った。
「道後温泉にいた、いけないナース達が、琵琶湖周辺に現れました」
五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が、集まった灼滅者達に説明を始めた。
「問題の淫魔は、高級マンションの一室を、いけないマッサージ店に改装しています。安土城怪人と天海大僧正との抗争で怪我をしたダークネス達を、敵味方かかわりなく癒やしているらしいです」
これを放っておくのは危険だ。
何とか店ごと撃退したいところだが。マッサージ店のいけないナースは非常に警戒心が強く。激戦の末に戦闘不能になるような怪我を負った者以外が近づくと、すぐに逃げてしまう為、折衝することが出来ない。
「ですので、今回は一芝居を打ちます。皆さんが2グループにわかれて、相手を戦闘不能にするような戦いを行えば、敗北した側はマッサージ店に客として潜入することができるようになるでしょう」
襲撃を受けた場合、いけないナースは治療中の客を守って戦おうとする。その行動を利用出来れば、逃走させることなく立ち回ることができるだろう。
「流れとしては半数がお客として潜入した後、もう一つのグループが突入して戦闘ということになるでしょうか」
マッサージ店に招かれる為には、味方同士で本気で戦わなければならない。芝居といっても、下手な八百長は通用しない。
「もしかしたら、そちらの方が激戦になるかもしれませんね。最初の模擬戦については、どこでどのように戦うかなど、皆さんにお任せしますね」
現在は無差別に回復をしているナース達だが、どこかの組織に所属してしまうと、大きな脅威になってしまうだろう。
「それに、もっともいけないナースも琵琶湖周辺に来ている可能性があります。いけないナースを撃退していけば、もっともいけないナースと接触するチャンスもあるかもしれません――皆さんのご活躍に期待します」
参加者 | |
---|---|
古海・真琴(占術魔少女・d00740) |
シャーロット・オルテンシア(深影・d01587) |
鳳・翼(前進全霊フェニックス・d02014) |
立湧・辰一(カピタノスーダイーハトーブ・d02312) |
エルカ・エーネ(おもちゃばこ・d17366) |
オリヴィエ・オーギュスト(従騎士・d20011) |
草壁・夜雲(中学生サウンドソルジャー・d22308) |
坂東・太郎(もう寮母さんでいいです・d33582) |
●模擬戦1
「マンションから、遠くない場所に空地があって助かったね」
オリヴィエ・オーギュスト(従騎士・d20011)達こと、灼滅者はグラウンド大の空地を一望する。多少草が生えて邪魔だが。ここなら、野球やサッカーだって出来そうだ。
「まずはチームに分かれて模擬戦だねー。よーし、やるからには勝つぞー……の前に、ご近所で騒ぎになったら大変だからサウンドシャッターしとこう」
坂東・太郎(もう寮母さんでいいです・d33582)がESPを発動させておく。
シャーロット・オルテンシア(深影・d01587)も模擬戦の前に殺界形成で念の為人払いをした。
「お互いの勢力を癒され続けると戦いが長期化して面倒そうですね。これ以上長引かされるわけにもいきません、倒させていただきましょう」
今回、灼滅者達はA班とB班に分かれて模擬戦を行う。然る後に件のいけないナースの所に怪我人を担ぎ込んで、治療している時に強襲するという予定だった。
「ボクはいけないナースの所に担ぎ込まれる予定のB班――何と言うか、騙まし討ちみたいで、可哀相な気もするけど、頑張って灼滅するよ」
草壁・夜雲(中学生サウンドソルジャー・d22308)が意気込み、灼滅者達は模擬戦の準備をする。
戦闘の流れで来たように見せるように空き地へ駆け込んだ。
(「少し派手な方が本気に見えるよね」)
潜入予定のB班の鳳・翼(前進全霊フェニックス・d02014)が、開幕の初撃を担う。
体内から噴出させた炎を武器に宿し、喧伝するように大振りする。炎の嵐が轟音となって燃え盛った。
(「なるべく一般人の目に触れないのが望ましいけどナースに見られてる分にはダメではないのかな」)
襲撃予定のA班エルカ・エーネ(おもちゃばこ・d17366)が黒死斬を放ち、炎の一撃と激しい鍔競り合いを演じる。
灼滅者同士の、奇妙な戦いが始まった。
(「陣営にかかわらず回復というのは今のところいいのだが、それでも再生怪人工場……もとい、ダークネスを回復させているいけないマッサージ店は潰さなきゃならない」)
模擬戦とはいえ。
立湧・辰一(カピタノスーダイーハトーブ・d02312)は一切手を抜くつもりはなかった。岩手県I市出身のご当地ヒーローとしての、多様な技をB班ジャマ―として惜し気もなく披露する。
……が。
「それにしても、『敵を欺くためにあえて味方と戦う』とだけ書くとヒーローものにもありそうなシチュエーションだが、今回はそんなかっこいいものではなさそうなのはなぜだろう」
ぼそりと棒読みしたものである。
それは、とりあえず気のせいだとしておいた方が、精神的安寧のためにも賢明だろうか。使用者の懸念を払うように、金色堂ビームが鮮やかに輝いた。
(「ライブハウス以外で仲間をぶん殴る、ですか……本当の目的を忘れないように注意して……」)
古海・真琴(占術魔少女・d00740)は戦闘中に調子に乗りそうなのを何とか理性でとどめ。ウイングキャットのペンタクルスは、猫魔法のみを使用する。
八百長は通じない。
ただし、次の戦いのために気を配れる点は、細心の注意を払わねばならない。何とも変わった真剣勝負は、何とも不思議な形で次第に激しさを増していった。
●模擬戦2
「ばれないように……仕方ないですね」
B班のもう一人のジャマ―担当。
シャーロットが鏖殺領域を展開。
殺気を無尽蔵に放出し、命のやりとりを……それっぽさを演出する。
(「負けのふりには、呼び水もないと不自然ですから……ごめんなさいっ!」)
A班ディフェンダーのオリヴィエは、B班の攻撃をガードし。グラインドファイアとジグザグスラッシュを命中させていく。今回、やり過ぎても問題だが、いけないナースに怪しまれるようではそもそも模擬戦の意味がない。
「ちょっとやんちゃしてた頃の血が騒……なんでもないです」
メディックでA班。
太郎はひたすら回復がてら夜霧隠れとラビリンスアーマーで、A班の皆を強化する。所謂、敵にいると地味にめんどくさいタイプのヤツという役回り。サーヴァントの信夫さんは、ジャマ―からぺちぺちと攻撃。
ちなみに、この模擬戦。
実は単純な手数の問題でいうとA班が圧倒的有利の状況にある。なにせ、ウイングキャットが三匹いるのだ。対してB班にサーヴァント持ちは一人もなし。
四対四ではあるが。
見方によると七対四。倍近い数の差である。
(「模擬戦でも本気で戦いたいとは言え、殺傷には気をつけないとね」)
A班エルカの猫たる、プリムラが意を受けて攻める。
(「だけど目で見て芝居だとはわからないよういくつか傷も付けさせてね。気持ちの上では本気だよ」)
スナイパーの主人の方は、殺傷率低めの攻撃中心。割と純粋に戦闘好きなので、この模擬戦を大いに楽しんでいた。
B班もB班で、ただではやられない。
(「手加減攻撃でも打ち込む時は全力で!」)
派手な開幕を見せた翼が、手加減攻撃を織り交ぜて攻撃する。同じくB班の夜雲が、続いてブルージャスティスの光線を放つ。
「一切手を抜く気はない」
「っ!」
猊鼻渓ダイナミック。
辰一が武蔵坂学園の仲間を、高く持ち上げた後。地面に叩きつけ、ご当地パワーで大爆発する。
これだけの大立ち回り。
人払いと遮音をしていなければ、どれほどの人の目を集めたか分からない。今まで研鑽してきた、灼滅者達の技が冴える。
経験豊かな人達の動きを学ぶのは楽しい。
経験の浅い者同士連携で立ち向うのはわくわくする。
(「お芝居だし、表情に出過ぎない様注意しないと……!」)
変形させた刃を振るいながら、オリヴィエは気を引き締めた。
規定の技を二回ずつB班の全員に命中させた後は、手加減した攻撃に切り替える。
「地味にめんどくさく……と」
「あ、こちらの回復は私に任せて下さい」
殴って、殴られ。
真琴も手加減攻撃で殴り合い。A班メディックの太郎と声を掛けあい、重ね掛けにならぬように防護符を味方の班員に使う。
「こっちが勝つつもりでいるけど……ふふっ、楽しいね」
「こういう模擬戦もたまにならいいかな」
そうそうない機会だ。
A班のエルカが笑いながら武器を振るう。B班の翼はそれを受け流し、シャーロットが手加減攻撃で接近戦を繰り返した。
(「あ、まずい。次からはカオスペインだけにするよ」)
B班の夜雲が、相手を倒しそうになって攻撃手段を一種だけに絞る。今回の模擬戦の特徴が、良く出ている行動である。
手数の差。
回復役の有無の差。
そして、当初からの意識の差。
A班、B班ともに豪快な乱戦を見せながらも、戦いは収束に向かう。
(「……ごめんなさいっ!」)
オリヴィエが息を弾ませながら、B班最後の一人を討つ。
(「勝った場合、襲撃前の休憩中にずんだスイーツを皆に分けるつもりだったけど……お預けか」)
多少の心残りを残して。
辰一が落ちた瞬間に、A班の勝利が決定した。
●潜入と突入1
(「騙すのはちょっと気が引けるな……とはいえどこかの組織に入られても困るしね。とはいえ……いけないナースのマッサージ店に潜入かぁ……と、とりあえずダークネスみたく癖にならないよう気をしっかり持とう、うん。あー、でも指圧とかの技術とかだったら少し覚えたいかもなぁ……」)
灼滅者として、年頃の男の子として。
翼の真剣な懊悩は続いた。
「あら、緊張しているの? こういうお店は初めてかしら?」
そんな高三男子の緊張を解きほぐすように。いけないナースは優しく声をかける。露出の高い白衣は蠱惑的で、透き通るような肌が艶めかしい。
灼滅者達は、問題の高級マンションの一室に侵入を果たしていた。
「ぁぅ……助けてください……」
シャーロットはボロボロになって訴え。
「――どうぞ。お入り下さい、お客様方。よくいらして下さいました」
模擬戦で傷を負った、B班の灼滅者達を。
この淫魔は心底心配したように、店内へと迎え入れたものだ。従来のマンションの部屋を改造した受付は、清潔感が漂う上流サロンのような佇まいだった。
「そのご様子では、すぐ治療が必要とお見受け致します。さあ、こちらへどうぞ」
「あ、はい」
辰一は、田舎の純情な青年として振る舞った。奥の施術室に通されると、暗がりの中に王侯貴族のようなベッドがカーテンに覆われて区分けされている。灯りはゆらゆらと揺れるアロマキャンドルのみ。落ち着く甘い香りが漂う。
(「なんだか、神秘的な雰囲気の場所だね」)
夜雲達は、それぞれ寝台に楽な格好で横になった。
薄暗く意識を曖昧にさせる密室内において、店主の淫魔の声は蜜のようだ。
「それでは、失礼しますね」
「おしょしぃごだ……(恥ずかしいの意)」
端正なナースの顔が、ほとんど息がかかる距離まで近付いて来て。辰一は赤面して、演技の中から地がでできてしまう。
「ふふ、可愛いですね。さあ、力を抜いて――」
相手の目を熱く見つめたまま。されども密着して、細い両手を巧みに這わせて。淫魔は灼滅者達の身体を芯から蕩かせていく。
「こ、これは――」
「癖に、なる、かも……」
天上に誘われるような快感を伴って、翼を始めとした皆の傷が急速に快復へと向かう。
一方。
マッサージ店を襲撃する役目を負ったA班達は、突入の時機を今か今かと待ち構えていた。予め決めておいた目安は、仲間が先行してから十分後だ。
「なんかこう……校舎裏とかで喧嘩して、ボコった相手が保健室とかで手当てしてるところにもっかいトドメ刺しに殴り込む気分? いや襲撃する相手はこの場合喧嘩した相手じゃなくて保健室の先生……もといダークネスなんだけど」
「……」
ほんのり元ヤン臭を醸し出す発言の太郎。
仲間が含みのある目で見やる。
「いや、地元時代に絡んできた不良をボコって撃退したらなんかその後一目置かれてただけなんです。元ヤンではないんです」
本人が弁解する間、ウイングキャットの信夫さんは飼い主の頭上でだらーんとしていた。何とも締まらないが、やることはやっておく。待ち時間の間に、心霊手術を済ませておくのは怠らない。
「潜入組は大丈夫かな? いけないナースの技は、子供には凄く悪影響があるサイキックだって聞いたから」
健全な成長を願う年上の生徒の入れ知恵を、受けていたオリヴィエだった。各々回復する他の面々は、敢えてコメントを避けた。
真琴も体力温存しながら、ふと自分の古傷に触れた思いがした。
(「サッカークラブでも、マッサージ慣れはしてはいるけれども、これを晒すのはちょっと……」)
多くのきっかけ。
左膝の大怪我の痕。これを見られるのは、真琴にとって耐えられぬほど嫌なことだった。潜入班でなくて幸運だったかもしれない。
「そろそろ十分かなっ」
エルカの言葉に、皆が時間を確認して頷く。
突入の頃合いだ。
「誰でも治療してくれるのはいい人なのかなって思うんだけどねー。どこかの勢力と一緒になっちゃうのは避けたいし……あ、もっともいけないナースのことも何か教えてくれないかなぁ」
●潜入と突入2
「こっちでもサウンドシャッター欲しいかな? 防音きいてそうだけど、集合住宅だし念のため」
太郎が今一度、ESPを発動させるのを合図として。
突入班は、マッサージ店の扉を蹴破り。現場へと踏み込む。
「あら、貴方達は……?」
「あ、ボク達を襲った人たちが来たよ、ボ、ボク達始末されちゃう!!」
首を傾げる淫魔に向けて、夜雲はガタガタと怯えたふりをする。
「まあ!」
A班と戦ってもらえるように仕向ける演技に、いけないナースは上手い具合に反応する。
「敵味方かかわりなく癒やし、とはいい話……ですが、それがダークネスとあってはしかたありません!」
なるべく紳士的に応対するように心掛けながらも。
真琴は、死角から治療組に対し防護符を使い。包囲を始める。
「お客様方、お逃げ下さい! ここは、私が時間を稼ぎますので」
淫魔は潜入班に向けて叫び、突入班に向かって構えた。
ほぼ回復を終えていた翼とシャーロットは、さりげなく退路を塞ぐよう動く。辰一はおろおろして、淫魔の足手まといになるように芝居をうつ。
「これは――」
状況の異常さに淫魔も気づいたらしい。
いつの間にか、いけないナースは完全に囲まれていた。
「そうですね、こちらもほんとのことを教えてあげましょうか。せめて、自分の状況くらいは知りたいでしょう」
皆の了解を取り。
シャーロットとオリヴィエとが、自分達は仲間なのだと事情を説明する。
「……ごめんなさい、騙して。僕達はダークネスと戦ってる……あなたに治療を続けさせる訳には行かないんだ!」
不意打ちなく正々堂々戦いたい。
オリヴィエは、ナース種に以前の依頼で含む所があった。
だけど今回は、まだ治してるだけだから。精一杯尽くした『患者』に背中からと言うのは出来れば味わわせたくない。
「……貴方は優しい子なのですね」
真正面からの黒死斬を皮切りに。
灼滅者達の総攻撃を受けながら、淫魔は口元を綻ばせた。
「ごめんね、これも灼滅者のお仕事なんだよ」
夜雲が謝罪しながら、レッドストライクとグラインドファイアで交互に攻撃する。太郎はエンチャントをばら撒き、補助メインに立ち回った。
「ふふ、実は少し疑っていたのですよ。傷のつき方が不自然に思えましたので……でも、傷付いたお客様を放っておくわけにはいきませんから」
エルカが斬撃を放ち、真琴は導眠符をメインに精密な攻撃を続けた。ウイングキャット達は、主人と息を合わせて付き従う。
淫魔の戦意は薄く。
目立った反撃はしてくる気配はない。トラウナックルの一撃を見舞う辰一に対し……鼻血が心配になるほどの、妖女の笑みが向けられる。
「騙して悪いですが……逃がすわけにはいきません」
抑えていた殺人衝動を溢れる。
シャーロットは口元をにやつかせて殺気を放ち。影業の技を駆使して、きっちりと倒しにかかる。
「治療法以外でキミが知ってること教えてもらえるかな?」
「……誰かを癒すこと以外に、私が知っていることなどありません」
翼の手加減攻撃が、相手を吹き飛ばす。
窓を突き破って、淫魔の身体が宙へと投げ出された。同時に、店内に爆発音が轟く。
「証拠隠滅の仕掛けかっ」
灼滅者達は高層マンションから飛び出す。周囲を捜索したがナースの姿はどこにも見当たらない。
存在が消滅したか。
それとも……
店は爆炎に包まれ続けた。建物の周辺が次第に騒然となる。
高く高く煙が上り、そして幻のようにやがて消えた。
作者:彩乃鳩 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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