ヴァンパイアと少年愛

    作者:ライ麦

    「夏兎、夏兎、どこに行ったんだー!!」
     弟の名を必死に呼びながら夜の街を駆ける。ああ、本当にどこに行ってしまったんだ夏兎。愛する弟。あの半ズボンが似合う、白いうなじが魅力的な美少年。夏兎がいなかったら、俺は、俺は……
    「今度こそ本当に通学路に飛び込んで通報されちまうよおおおおお!」
     叫びながら街を駆け抜ける。周囲の冷たい視線を感じながら、なおも俺は駆け続けた。この衝動から逃れるように。ああ、許されるなら通学路(小学生~中学生まで)の列に突っ込んでみたいなー、そんでおとこのこ抱きしめたいなー、ついでに血とか吸いたいなー、そんな衝動を押さえ込むように走り続ける。ああ、夏兎がいれば衝動を押さえられるのに。可愛い弟がいるおかげで、ある程度は欲望を満たせゲフンゲフン、もといギリギリ踏みとどまれていたのに。ある日突然、行方をくらませてしまった。夏兎がいないんじゃ、俺はブレーキを失ったバイクも同じだ。おまけに最近は美少年の血を吸いたいという欲望まで生まれてきて本当にヤバイ。このままじゃ少年に襲いかかるのは時間の問題だ。その前に夏兎を見つけて添い寝のひとつでもしないと……! いやこの際夏兎じゃなくてもいいから。
    「誰か、俺を止めてくれ……!」

    「一般人が闇堕ちしてヴァンパイアになる事件が、起きようとしています……」
     そう告げた桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)は、なんだかすごく微妙な顔をしていた。
    「ええと……闇堕ちしかけているのは如月・春兎さん。高校2年生のお兄さん……ですね。えっと、春兎さんには夏兎さんっていう、中学1年の弟さんがいたん、ですが。どうやらその夏兎さんが闇堕ちして、感染に巻き込まれたよう……ですね」
     なんだか奥歯に物が挟まったような、はっきりしない物言いだった。実際、説明しながらも、美葉は困惑したように、視線を彷徨わせている。一体どうしたというのか。問いかけるような灼滅者達の視線に、美葉は再び口を開いた。
    「いえ、えっと……これは説明しておかないといけないと思うんですが……その……なんというか……春兎さん、変わった趣味をお持ちで……その……春兎さん、男性なんですが、年下の男の子がすごく好き、みたいで……」
     まぁ、はっきり言ってしまえばショタコンだわな。守備範囲は小学生~中学生までのおとこのこ。いつも近所の通学路を陰から覗いてはハァハァ……もとい本人曰く見守り運動をしていたらしい。それでも実際に手を出すところまでいかなかったのは、弟の夏兎の存在が大きい。男の子に触れたい! 触りたい! 抱きしめたい! 通学路飛び込みてぇ! ……などという欲望が押さえきれなくなった時は、代わりに弟をぎゅーぎゅー抱きしめたり添い寝したりその他色々することで解消していたから。それを聞いた灼滅者達も一斉に微妙な顔になる。
     ――そんな兄貴がいたらそりゃ闇堕ちもするわ。
     そう言いたげな灼滅者達の顔を見て、美葉は慌てたように付け加えた。
    「……いや、あの、春兎さんにも、それだけじゃなくて、ちゃんと真っ当に弟を愛する気持ちはあったんです……あったんですよ!!」
     ほんとか? と突っ込んではいけない。しかしどちらにしても夏兎は完全に闇堕ち済み、行方も分からないため、助けることはできない。
    「ですが、春兎さんならまだ。助けられる可能性があります。少々変わった方ではあるようですが、たぶん、おそらくきっと、悪い人ではない……と思いますし、どうか救出をお願いできないでしょうか?」
     それが叶わなければ、灼滅もやむ無しですが……と言いづらそうに述べた後、美葉はよろしくお願いします、と丁寧に頭を下げた。
    「春兎さんに接触できるのは夜のとある繁華街ですね。そこで春兎さんは弟さんを探して当てもなく歩き回っています」
     とは言いつつも、弟を失った今、春兎は本人としては深刻なレベルでショタに餓えている。理性で必死に押さえてはいるものの、今目の前に好みの男の子が現れたら襲い掛かかってしまうかもしれない。
    「ですが、逆に言えば春兎さん好みの小学生から中学生くらいまでの男子がいれば彼を誘き寄せられるかもしれません……むしろ確実に来ると思います」
     美葉がこめかみを押さえながら言う。実際、繁華街を闇雲に探し回るよりは、囮を立てて誘き寄せた方が早いだろう。幸い、件の繁華街に夜中に遊びまわってるような子供はいないため、小学生から中学生くらいまでの男性灼滅者がその辺立ってれば、何もしなくても春兎の方からホイホイ寄ってくるはず。尤も、あくまで外見判断のため、それぐらいの年頃に見える男性灼滅者、あるいは男子に見える女子でも十分囮は可能だ。囮が何人居ても構わない。多い方がより誘き寄せやすいかもしれない。
    「春兎さんを誘き寄せて接触した後は、彼との戦闘になると思います……闇堕ちから救う為には『戦闘してKO』する必要がありますから。ただ、繁華街でそのまま戦うのは、周囲を巻き込む恐れがあるのでお勧めできません。近くに廃ビルがあるので、そこで――」
    「え、廃ビルとかあんの? じゃ行く」
     今まで黙ってた榛原・七月(廃墟と悪戯・dn0228)が突然、瞳を輝かせて立ち上がった。
    「いや話ちゃんと聞いてましたか!?」
     廃ビルにつられたとしか思えない七月に美葉が慌てて突っ込む。
    「うん、人の趣味とか好きなものは色々だし、それを他人が否定するべきじゃないってとこまで理解した」
    「なんか深い理解してる!? ……と、ともかく! 春兎さんと接触できたら、彼を廃ビルへ誘導して、そこで戦う事をお勧めします」
     誘導に関して難しく考える必要はない。好みのショタが廃ビル行けば喜んでついてくるだろうから(……)。
    「戦闘になれば、春兎さんはダンピールのサイキックと、殺人注射器のサイキックを使って攻撃してきます。決して油断できる相手ではありませんが……春兎さんの人間の心に呼びかける事で、戦闘力を下げる事ができます」
     説得の内容はなんでもいいが、もし彼を救いたいなら「ショタコンきめぇ」などという否定的な内容は避けた方が無難だろう。
     だいたい説明し終わった所で、そうそう、と美葉が声を上げた。
    「春兎さんは確かに小学生から中学生ぐらいに見える男子がお好きなんですが……男子は男子でも、今流行の男の娘? というか、女装してる子はあんまり好きじゃないみたいです。女装しなくても少年というだけで十分魅力的なのに、何故女装するのか分からない……とかなんとか……」
     私にはどっちもよく分かりませんが、と首を傾げながら言う。
    「何にしても、お気をつけて行ってきてくださいね」


    参加者
    レビ・カーター(あんごらー・d05899)
    久遠寺・四季(吸血少年・d10100)
    水野・真火(水炎の歌謡・d19915)
    蔵錦・令之(巵子の証人・d22217)
    蒼羽・シアン(ハニートラッパー・d23346)
    銀城・七星(銀月輝継・d23348)
    仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)

    ■リプレイ


    「年下の男の子が好きな高校生男子ですか。まぁ、人の趣味はそれぞれですので、それを否定するつもりはないですけど、人に迷惑を掛ける行為は止めないといけませんね」
     現場へと向かう道すがら、久遠寺・四季(吸血少年・d10100)がそう呟く。銀城・七星(銀月輝継・d23348)も頷いた。
    「まぁ、趣味嗜好はとやかく言わねえけど、ダークネスになって一般人襲おうとすんのは止めなきゃだし。お仲間ならうちの学校来てもらう方がよさそうだろ」
    「弟さんがよっぽど大切だったのですね……」
     水野・真火(水炎の歌謡・d19915)は春兎の心情を慮った。趣味云々はとりあえず置いておいて。
    「彼自身の為にも、弟君の為にも、目を覚ましてあげたいところです」
     うんうんと、仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)が大きく頷く。
    「私もお兄ちゃんが大好きで、お兄ちゃんも私の事をよくしてくれてるけど……もしお兄ちゃんがいなくなっちゃったらって事考えたら居ても立ってもいられなくなる気持ち凄く分かるな……絶対助けてあげなくちゃ!」
     一方で、シャーロット・オルテンシア(深影・d01587)は
    (「毎日あんなことされたら誰だって病み堕ち……いえ、闇堕ちだってしますよね」)
     むしろ弟の心情を慮っていた。これは果たして本当に説得でいいのか、いっそ灼滅した方が世のためおとこのこの為なのでは……?
    (「いえ、ちゃんとしますが」)
     それでも勿論、救出に異論はない。力は尽くすつもりだ。
    (「僕のこと好きって言ってくれるなら……僕で役に立てるなら、力になりたいよ」)
     蔵錦・令之(巵子の証人・d22217)はそう、春兎の事を思いながらぎゅっと魔導書を抱きしめた。しっかりな! と激励してくれたイオのためにもこの依頼、頑張りたい。
    「それじゃぁ、皆誘導宜しくね! お兄さんは春兎君が変なことしないか、ハリセン持って陰から見守ってるねー♪」
     レビ・カーター(あんごらー・d05899)はニコニコしながら、囮組を見送る。尤も、ツッコミは誘導完了後になるが。頼みのツッコミが誘導後というのに一抹の不安を覚えつつ、四季、真火、七星、令之、榛原・七月(廃墟と悪戯・dn0228)の五人は繁華街に降り立った。夏兎と同じ学年の四季はともかく、
    (「僕で本当に囮役になるのかな」)
     高3の真火としてはそこも心配なところだ。一応、なるべく中学生らしい格好を、と半ズボンを穿いて、髪の毛は結い上げて項アピールをしているが。
    (「うまく囮になれてもちょっぴり複雑……」)
     と、彼は微かな憂いを滲ませた。尤も、不安なのは七星も同じ。
    (「……正直、オレと水野先輩は辛いんじゃねぇかとか思うけど。それ以外のメンバーのみだと心配だしな……」)
     とりあえずうなじとか好きみたいだし、と髪型はポニーテールにしてみる。余裕で相手のストライクゾーンに入ってそうな令之もフードを外し、そっと胸を押えた。
    (「 囮ってドキドキする……僕なんかが本当に役に立てるかは分からないけど……みんなもいるし、きっと来てくれる、よね」)
     それぞれの想いを胸に、待つこと数分。不意に、「お、おとこのこぉー!」とかすかな声が聞こえた気がした。次の瞬間、一人の男性が列に突っ込んできた。勢いに押されて転んだ四季が起き上がる間も与えず、そのままぎゅーぎゅー抱きしめる!
    「はぁこの感触……久しぶり……」
     頬ずりしながら恍惚とした様子で呟く男性(どう考えても春兎)。思った以上に相手が飛ばしてきたので呆然としつつ、我に返った四季は
    「えっと、僕のことでしょうか?」
     と訊く。
    「うん、君達全員。男の子でしょ?」
    「うん」
     頷いた七月にも抱擁が飛び火した。
    「ああやっぱり……! おとこのこがこんなにたくさん……天国だ……」
     ウットリしながら今度は半ズボンなのをいいことに、令之の太腿を撫でまわしていた。令之は首を傾げながらも、献身的に受け入れていた。おまわりさーん! (=警察官の格好の彼のビハインド、初君)はまだスレイヤーカードの中だ!
    「あの」
    「ちょっと話が」
     誘導のため、あと後輩を助けるため果敢に話しかけた真火と七星には、「ん、なぁに?」と言いながらさりげなくうなじの匂いを嗅いできた。髪をあげてたのが裏目に出たんだろうか。その行為に必死に耐えつつ、
    「お兄さん、困ってるんだって? ちょっと一緒に来てくんね? ……イーコト、教えてやるからさ」
     と七星は誘いをかける。
    「そ、そうです! ここじゃ人も多くて、もう少しゆっくりした場所でお話したいので向こうに行きませんか?」
     四季も廃ビルの方を指差しながら言う。と春兎はきゅん……v と頬を赤らめた。
    「これが噂の誘い受け……!」
     絶対に違う! と踵落としを決めたい気持ちをぐっとこらえて、七星は「こっちだ」と誘導していく。
     かくして廃ビル。付近で待機していたシャーロットは囮組が春兎を連れてきたのを確認すると、殺界形成を発動し、用意していた灯をつける。突然灯がついた上、ショタ以外が待ってたことに春兎は驚愕。あと「遅くなってゴメンね!」という声と共にいきなりハリセンが飛んできたことにも。
     蒼羽・シアン(ハニートラッパー・d23346)はげんなりしてる弟を軽く撫でて灯を渡した後、改めて春兎に向き直った。
    「みんなおつかれー。んで春兎くん、はじめまして。まずはお話しましょ?」
     春兎は「騙された」って顔してた。
    「このままあと5時間はイチャイチャできると思ってたのにぃ!」
     泣き崩れる春兎。
    「……えーっと、ゴメンね?」
     とりあえず春兎のすごい悲しみようを見て謝るシアン。
    「でも、このまま放っておくわけにはいかないのよね!」


     彼は素直に話聞く気はなさそうだった。拳を握り締め、
    「こうなったらショタ以外倒してエデンに行くしかない……!」
     と血走った目を向ける。エデンってどこだよ。と突っ込みたい気持ちを押さえ、各々カード解放!
    「この身、一振りの凶器足れ」
     解除コードと共に七星は加護の祈りが込められた鮮麗な外套を纏い、
    「光よ、我が身に宿れ」
     真火が解除コードを唱えれば、半ズボンだったのが青のラインが入った聖職服へと変わる。それを見た春兎はすごく残念そうな顔をした。若干引きつつもフードを外し、戦闘態勢をとる。
     最初に動いた春兎が狙ったのは、シアン。彼女に向かって赤き逆十字を出現させる。エレルが庇ってくれたが、大切な姉が狙われた事に七星は激怒とした。
    「……テメェはオレを怒らせた」
     低い声で言い放ち、赤く染まった交通標識、七曜区間で思いっきり殴り倒す。彼に続き、ちょっとじっとしてて、と緑色の龍のような縛霊手から結界を放った蛍姫は、
    「弟さん……というか男の子が大好きなのかな! 私も女の子が大好きな所があるから、性別違えど趣向は一緒な気がするね!」
     さらっとカミングアウトした。
    「それとね、私にも大好きなお兄ちゃんがいるの! だから弟さんがいなくなっちゃって心配な気持ち、分かるよ!」
     尤も、彼女の兄は春兎にとっては邪道の女装ショタである。なので詳細は伏せた。シアンもエレルにラビリンスアーマーを施しつつ呼びかける。
    「そうそう、あたしも弟いるからちょっと気持ちわかるのよ。弟って超可愛いからぎゅっぎゅしたいしなでなでしたいし、一緒に遊んだりして可愛がりたいわよね!」
     弟トークに春兎の表情はパァッと明るくなった。
    「分かる! 全力で暴れるのを押さえ込んでぎゅーぎゅーするのいいよね!」
     オイ。シャーロットは心の底からドン引きしつつ、無言無表情のまま影で飲み込んだ。今口を開けば鋭い言葉のナイフが飛び出してしまいそうだったから。普段から表情が少ないことを今回ばかりはありがたいと思う。
    (「えぇ、一般的なレベルでなら可愛いものを愛でる気持ちは私にもあります。いきすぎだとは思いますが一応それの延長線上にあると思えば……思えば……やっぱりきもちわるいです」)
     とも言えず。トラウマ喰らい悶絶する春兎をエメラルドグリーンの瞳で冷たく見やった。エレルが前衛にリングを光らせる中、レビはリングスラッシャーを射出しながら諭す。ツンツンした双子の弟を脳裏に浮かべながら。
    「春兎君、今まで弟のブレーキに頼りすぎてたんじゃないかな。俺にも大好きな弟がいるんだけどね。弟に甘えず自制できるようにならないと、お兄ちゃんとして格好悪いよ?」
    「うっ」
     リングスラッシャーと一緒に言葉も刺さった。すかさず四季が紅蓮斬で畳み掛ける。
    「幼い男の子を無暗に追いかけ回すだけでは、相手が距離を置くだけですよ。本当に相手に好かれたいのであれば、親切に接してあげたり、優しくしてあげたり、良い人アピールが良いかと思います」
    「その通りですわー!」
     その時、突然縦ロールの女性(桜花)が乱入してきた。唖然とする一同を尻目に、彼女は演説を始める。
    「春兎さんの気持ちはとてもよく分かりますわ。私も可愛い少年をメイドに仕立て上げようと何度思った事か……げふんげふん。でも我々紳士淑女は手を出すのはご法度……。つまりイエスショタコン・ノータッチの精神! 七月さんの半ズボンと縞模様ニーソックスの素晴らしい姿を見て下さいまし!」
    「え、僕?」
     七月が自分を指差す。
    「そう、これは誰にも穢されず純真無垢なままで育った結果……! 闇の心に打ち勝ち、常に(ショタを)見守り続ける事こそが可愛い少年を作り上げるのですわ!」
     力説する桜花。春兎開眼。
    「そ、そうか……! ショタをそっと見守っていればいつか半ズボンニーソ穿いてくれるんだね!」
    「そうかなぁ」
     七月は首を傾げていた。ともかく、言い終えて満足したらしい桜花は「グッドラック!」と親指を立てて一旦引っ込んでいった。
    「……なんか、濃い人だったね」
     呟く七月に真火はそうですね、と苦笑しつつ、肉球パンチを放つミシェルに続いて破邪の白光を放つ斬撃を繰り出す。それでも、あんなに真っ直ぐに主張できるのは少し、羨ましいかもしれない。


     令之がお化けのような影で春兎を絡めとり、寄り添う初君が霊撃を放つ。さすがにダメージ喰らいすぎた春兎は、誰かから生命エネルギーをもらおうと注射器片手にいいショタを探した。そこで目に留まったのが、サポートで来てたイオ。
    「よかったら抱きしめさせてください! あとエネルギーください!」
     腰を直角に折って頼み込む春兎。一応断っているあたり、説得が効いているのかもしれない(?)。イオは慌てて
    「待て俺は大学生だ!」
     と断る。
    「え」
     絶句する春兎を、レビはとても良い笑顔で唆した。
    「大丈夫、イオちゃんは合法ショタだから! 子供に手を出すのは犯罪だけど、合法なら問題ないじゃない?」
     イオは目を剥いてレビの方を見る。彼はてへ☆ と舌を出していた。
    「レビ……お前まさか、面白がって俺呼んだか!? ちくしょう、後で甘いもん奢れよ! 令之の分もな!!」
     むくれるイオに、
    「もちろん! 甘いものは皆に奢るよ!」
     レビは笑顔で答える。一方の春兎は苦悩していた。
    「合法ショタ……それならそれで美味しい……けど年上……」
     一人悶々とした挙句、
    「やっぱエネルギーもらうなら年下がいい! ごめん!」
     と注射器を真火に振りかざす。いや、彼も年上なんだが。
    「おっと、オイタはダメだよ?」
     すかさずレビが体を張って守る。
    「俺達の仲間になって学園に来れば、少年達と仲良くし放題だよ! だから暴走しないでちょーっと落ち着こっか。ほら、興奮してたら小さい子達も怯えちゃうじゃない?」
    「なか、ま……? 学園……?」
     春兎の動きが止まった。その隙に七星は猫の影「ユウラ」と鴉の影「ヤミ」を放ち、飲み込ませる。
    「武蔵坂、小中高大一貫だから都合いいし、折角の縁だし、変にぐだぐだ悩むよりもうちの学校に来た方がいいと思うぞ。力になって……やらねぇことは、ないし、さ」
     真火も頷き、フォースブレイクを放つ。
    「弟さんが心配でたまらないんですよね……僕達と一緒に来ませんか? 弟さんの情報も、きっと入ってくると思うんです」
     ミシェルが猫魔法で捕縛し援護する中、四季も魔法の矢で貫いた。
    「武蔵坂学園には沢山の男の子が居ますので、よかったら来てみませんか?」
    「きっとお兄さん好みの、可愛い男の子がいっぱいいるよ! 皆性格のいい子ばっかりだから、お兄さんの事もきっと受け入れてくれるよ! ね、もしよかったら私達と一緒に来ないかな?」
     蛍姫も周囲に合わせて説得しつつ、レイザースラストを放つ。
    「あなたの趣向はある程度は理解しているつもりです。私達と共に来ていただければ、さらにたくさんのおとこのこをみてハァハァ……ではなく、見守り運動をすることができますよ?」
     シャーロットも影で絡めとりながら呼びかける。趣味は人それぞれなのも事実。説得内容に嘘は言っていないし否定もする気はない。説得込みの勧誘の数々に、春兎も目を輝かせていた。
    「その話、本当!? だったら行ってみたい!」
     ここまで来たら後もう一押し。レビは紅蓮斬で彼の魔力を奪いつつ、さらに言葉を重ねる。
    「それから俺は少年愛者じゃないけど子供は好きだし、少年は少年らしい方が好みっていうのも分かるなー。その辺、話は合いそう!」
     令之も温かな光をレビに照射しながら、おずおずと口を開いた。
    「えっと、もし僕で良かったら……だけど、春兎君が落ち着いたら一緒に遊びたいと思う、よ。触るのも、抱きしめてもらうのも大丈夫。むしろそういう風に可愛がってもらえるの、嬉しい……から」
    「ま……マジで!?」
     その言葉に、春兎は大歓喜。遠慮なくいただきまーす♪ と、落ち着くより先にダイブしそうな勢いだったが、初君の霊障波がそれを遮った。おまわりさんグッジョブ。それを見たシアンは、ビジューとファーで飾られた青きエアシューズで飛び蹴りを放ちながら、春兎を諭す。
    「可愛い子みたらぎゅっぎゅーってして幸せになりたいのもわかるわ。可愛いは正義だもの! でもその正義はあたし達みたいな兄姉が守らなきゃいけないものじゃない?」
     守る。その言葉が、春兎を揺さぶる。
    「ぐ……っ!」
     突然彼の顔が苦痛に歪んだかと思うと、魔力を宿した霧が彼を覆った。けれどそれは、彼の中の闇が追い詰められている証拠。今だ、と灼滅者達は果敢に攻撃を加えていく。
    「大丈夫だよ! お兄さん! 必ず救ってあげるからね! 私達が傍にいてあげるから! 負けないで!」
     蛍姫が励ましながら、神秘的な歌声でメロディを歌い上げる。
    「その衝動に従っちゃダメ。その声は貴方を、大切な物を壊すわ。だから抗って……!」
     シアンが訴えかけながら放った彗星の如き矢が、加護を吹き飛ばす。膝をつく彼に、緋色のオーラを宿らせた四季の日本刀が迫った。
    「僕のこの攻撃を、避けられますか!? 可愛い男の子でも、やるときはやるのです」
     勿論避けられず。最後にはショタの一撃が、彼に止めを刺したのだった。


    「さて、どうなったでしょうか……」
     シャーロットは伸びている春兎を見やる。幸い、程なくして彼は起き上がった。第一声が
    「はっ……! さっきのおとこのこ達は!?」
     だったのには引いたが。本当に闇から戻ってきたんだろうかこいつ。
    「大丈夫ですか? 大きな怪我は無いでしょうか?」
     気にかけてくれる四季に春兎は感激。
    「ありがとうう! もうすっかり大丈夫!」
     がばっと再び抱きしめる……が、さっきよりは抱き方が大分優しい。どうしようもなくショタコンなのは変わらないが、理性は取り戻したらしい。それならそれでまぁいいでしょう、とシャーロットは息を吐いた。救出が成功したのを見、蛍姫は
    「やったね!」
     と仲間達とハイタッチする。
    「ん。よかった」
     七月も頷いてそれに応じていた。
    「落ち着いた……? えっと……お疲れ、さま。夏兎君も早く見つけたい、ね……」
     令之がぽんぽんと春兎の背中を叩く。
    「うん、本当に……ありがとう」
     ぎゅっと、春兎が令之を抱きしめ返す。先ほどと違い、瞳に慈愛が溢れている。今なら、ただの子供好きな優しいイケメンに見えないこともない。その様子を見ながら、真火も微笑んだ。
    「よかったら、僕達と一緒に武蔵坂学園に通ってみませんか?」
     落ち着いたところで、改めて四季が勧誘する。
    「うちの学校来るんならナナの写真もつけるわよ。今だけのお得!」
     ね? とシアンは悪戯っぽく片目を瞑って見せた。
    「その話乗った!」
     春兎ががばっと身を乗り出す。
    「え、いやちょま……」
     抗議の声を上げかけた七星だが、姉の笑顔を見るとそれ以上何も言えなかった。
     ともあれ、救出できたし、武蔵坂学園に勧誘することもできた。それを見届けた桜花は、
    「春兎さんは素晴らしい素質をお持ちですわ。きっとこちらの世界にもなじめるはず……」
     と男の娘ショタ写真集をそっと手渡す。チラ見した春兎は悶絶していたが、それは苦手ジャンルだったからなのか、それとも新たな世界の扉を開いたからなのかは分からない。
    「それじゃ、約束だから皆に甘いもの奢るよ!」
     レビがイオの手を引いて颯爽と歩き出す。
    「もう大丈夫だよ! さぁ、一緒に行こうよ!!」
     蛍姫も笑って春兎を促した。うん、と力強く頷いた彼は皆と一緒に、新たな一歩を踏み出したのだった。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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