標の誕生日 ―金木犀殺人事件―

    作者:一縷野望

    ●今年の殺人事件ごっこについて
    「金木犀の香りって甘くて濃厚で、全てを覆い隠してしまうようでいいよね」
     ふふと口元をあやしく緩める灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)の隣で、機関・永久(リメンバランス・dn0072)べろろんと大きな模造紙を広げる。
    「……と、聞いていた……ので探して、きました」
    「いいねいいねー。金木犀だとどんな匂いでも消せちゃいそうだし」
     わくわくと子供のように手をあわせる標の隣で永久はまるまり戻りかけた模造紙をぐいとひらきなおし、集まった面々にこくりと頷いた。
     ――周囲にこれでもかと金色の小花が群がり咲くとある空き地、中に入って色々やっても咎められぬそこが、今年のミステリー記念日のお遊び会場です。
     相変わらずバザーかなんかのお知らせみたいである。
    「空き地だけどさ、お屋敷があるコトにして『殺人事件ごっこ』しよーよ」
     有り体に言ってしまうと、
     金木犀をネタに【犯人】だの【被害者】だの【スケープゴート】だの【探偵】だの【医者】だの、好きな役柄になりきって、殺人事件の即興劇をやって遊ぼうってお誘いだ。
    「隠し部屋とか書斎とか、謎の証拠品とか……事件に関わってそうな日記とか、前時代ミステリーの小道具は浪漫だよねー」
    「今年の標さんの設定は、どうするん、ですか?」
    「ボクの設定は『5歳の頃、事件に巻き込まれ両親を失った事件の真実を探している。記憶に残っているのは金木犀の濃厚な香りだけ』にしとく」
     なにも標が主役というわけではない、むしろ彼女は自分の設定をネタにみんなでわいわいオール主役な勢いでやれるのが楽しみだと笑う。
     標の血のつながらない兄弟だとか、
     実は両親は生きていて俺なんだとか(お芝居だから、見た目年齢なんて気にしちゃ負けだ!)
     犯人は私よとか、
     そもそも事件の真相は、とかとか、
    「……好き勝手にごった煮推奨、です」
    「ボクはみんなの流れ見て【被害者】やったり【犯人】やったりするつもり。もちろん指定も歓迎だよ」
     悲惨な末路も大好物なので標には無茶ぶり歓迎。
     さらに言えば、標に無理に絡まなくてもなにも問題はない。君たちの殺人劇を見せてくれ!
     やりたい役柄、設定、好きを詰め込んでもらえれば幸い。つじつまが合ってなかろうがなんとかなる。

     金の香路。
     むせかえるような甘露は、果たしてなにを隠蔽しているのか?
     閉ざされた蓋はかさぶた、ひらけば溢れるのは血か悲劇かそれとも喜劇か。ひらいた先にこそ希望が見えるのか。 
     ――無茶振り歓迎。
     ――カオス万歳。
     泡沫のバカ騒ぎ、よければどうぞご一緒に。


    ■リプレイ


     金木犀が咲き誇るのは首つり人の匂い消し、故に人が近づかぬ『首括りの木』…だったのに、仰々しい館にトレジャーハンター葵は嘆息。
     ぱちり。
     舜の鋏が切り落とした花の先、虚ろな雄哉の瞳に一瞬彩が宿ったのは幻か。
    「また母が殺された日がくる」
     金花の栞持つ冬人へ言いかけた庭師の唇は重なる来客への愛想へ変わる。
    「Oh! 主のバースディへようこそ」
     その主が隠し財宝をまんまと奪ったのかと葵が見た先、メイドアリスの茶を待つ標と包帯まみれの謡。
     ラジヲから流れる『連続通り魔…』
    「怖いですね」
     ぶるぶる震えるロジオンはフードを突き破りそうなおみみを押さえて隠す。
    「おめでとうなのですー」
    「旅のよい想い出になりそうで嬉しいな」
     ニュースかき消すカラフルリボンの月夜と、その手を携えアレクセイ。愛らしい恋人達も宴を祝う。
    「ちわーっす、宅配便でーす」
     馴染みの黒猫着ぐるみ宅配便、ドンッと白く山のような大きな包みを置いた。
    「テディさんと紅葉から、お誕生日おめでとう」
    「ありがとう」
     割れば広がる金木犀ジャムの甘露、つまもうとしたら。
    「お前、今日死ぬぜ」
     標と背中合わせ紅葉の差し出す金花金平糖に指伸ばす和弥。
    「知ってる…なにしろ殺人犯来てるしさ」
     くすっ。
    「強い香り、けれど金木犀は潔く散る」
    「これぐらい濃いと、気づく余裕が、無くなるよね…」
    「……」
     嗚呼、それは誰の笑みか。
     濃い、香り。
    「解いちゃうっすよー」
    「よろ!」
     標と掌ぺっちんレミが解いた荷物の正体は――夥しい金木犀の中からにょきっと生える2本の足。
     誰かの絹を裂くような悲鳴の影で、
    「わぁ、取らないでください」
     って言いながらどうして自分でベールあげちゃうんだロジオン。
    「そんな風に誘われたら」
     レミの手でナイフが踊りずぐっ。
    「奇遇ですね」
     なんてニッコリアレクセイも反対から、ずぐりっ!
    (「ええっと順番は……」)
     直哉は鞄を探りルーセットオオウモリのぬいぐるみをぽいっと投げ置いた。

     くすっ。
     くすくすっ。

     かえろうとぐずる陽桜と笑う勇介を宥める健。前歩く曜灯は踵を返す。
    「忘れ物、まだあるかしらね?」
    「見つけた!」
     ぱくり。
     勇介を食べるように迎えたきり壁のように開かぬ扉。
    「ッ…おい勇介! て、陽桜もいないぞ」
    「――」
     分断された四人を影より見据えるは冬人。

    『真実』覆い隠しし金木犀。
     それぞれが握りしめるうさぎとしまうまのぬいぐるみ。
    「アウチ! ソノカード」
     ぬいぐるみは敢えて、スルー。
    「やっぱり来てたのね?!」
     ――殺人鬼謡!
     怯える舜の隣から響く探偵歌菜の糾弾、必ず残すカードの模倣品花言葉になぞらえし言葉遊び。
    「確かにこのカード、良い仕事をしているね」
     流す謡は、金木犀から掘り起こされた七波と紅茶を啜り血を吐き倒れた葵をちら。
    「…すごいね、ホントに助かった」
     そんな中意味深に笑う標に死神は斯く語る。
    「運命を振り替えるのは造作もない」
     素早いカップのすり替えその場しのぎとは明かさずに小切手を手に和弥。
    「甘いものは、たまに毒になるって…でもこれは、平気」
     熊を撫でる紅葉は標の手からケーキをつまみぱくり、微笑んだ。

    『そう言えばあの日彼女が斃れたのもこの香りの中だっけ?』

    「そうそう、そうだった」
    「…………はは」
     息食むように淡々した嗤い声、振り返った時には雄哉と月夜の姿は、なかった。

    「と、とうふ?!」
     そんな勇介の悲鳴で幕は上がるとでも言いたげに再び開く扉の向こう、
    「…アハ、ソーダヨネ」
     飛び出したのはけたたましく笑い鋸を振り回す陽桜。
    「アノトキモ」
    「…第2幕ね」
     バットで受け流す健は背で逃げる足音を聞きつつ赤い絨毯の書斎へ待避。
     ドンッ!
    「ん、ちわ。KS-5392っていいます」
    「助かっ…」
     ぶんっ!
     絹代は笑顔で斧を振り下ろしたが外した! 斯くなる上は…。
    「ちっ、急速先行」
     逃げる。

    「こんな所に来るから、殺されちゃうのですよー?」
     リボンで雄哉の首を絞めたがやけに手ごたえがないと首を傾げた月夜、そのままのポーズで蝋となり崩れ落ちる。
     そして更に、ドンッ!
    「潜水艦さんそんな場合じゃ…」
    「あの時も、殺したのかな?」
     違う。
     後ろから健を羽交い締めに陽桜を睨む冬人は復讐に炙られて。
    「オットセイ、メダカ、でんでんむし」
     冗談めいた台詞だが冬人の顔大真面目だ。
    「この館に呼ばれたきり帰らなかった母は三匹のぬいぐるみに見守られた死体で発見された」
     勇介と同じく夥しい年月が過ぎたかのような死蝋化した状態で。
    「ウン、コワシタ、ヨネ?」
    「そうか、なら理由を語ってもら…」
     ずぐり。
    「…え?」
     ぎゅるりと胴体の半円描き前に来たナイフの意匠、それが冬人の最期の視界。
    「死んでくれない?」
     ――僕が僕であるために。
    「お前が勇介もあの時のおばさんも殺し…」
     きんっ!
     健の眼前雄哉のナイフを弾く陽桜。掠った指が蝋化するのも厭わずに。
    「コワシッコ、シヨ?」
     あの時みたいにもう一度『心』ごと壊してあげる。
    「…怖かったの?」
     ちょん。
     テディさんの鼻先で健を出迎えて、紅葉は掌に広げた金平糖を見せる。
    「ああ」
     甘露に指伸ばし頬張る健がぐらり。

    「! なんて事なの…謡、あんたがこんな所でも」
    「キミは本当に歌菜かい?」
     現場不在証明、証人はキミ。
     更には痕跡すら残らない。
    「あと更にあの足」
     金木犀の中でジタバタ、息が苦しいのか七波が悶えてるぞー?!
    「やべ、殺し切れてない…ぬいぐるみ回収しないと」
     直哉さん露骨にそう言ってるのだが、だが探偵歌菜はゆらがない!
    「お嬢ちゃん、怖かったわよね。もう大丈夫、怖い殺人鬼は捕まえるわ」
     きっと睨むその目は節穴だから!
     金木犀の袂うつらうつらの紅葉はかりんっと金平糖をかじる。
     ――過ぎれば毒薬。
     ――眠りは死の下準備。
     ――あの紅茶で死んだのはどうして?
    「あぁ、それとね――彼は眠ってるだけだよ」
     このまま医者に診せなけれは永遠になるかもね、と趣味的殺人鬼は軽く嘯いた。

    「シット!」
     葵の躰を移動した舜は彼女が財宝の在処を掴んでない事に舌打ちする。てっきり熊の小娘はそれを識り毒殺したかと思ったのだが。
    「やはり標お嬢様デスカー」
     がらり。
     あけた先の書斎に転がるとうふに押しつぶされた勇介の死体。
     更に先には白目を剥いた陽桜。
     腕を飛ばされ血の海に呻く雄哉。
     ぷくぷく沈没潜水艦。
    「…さて、全部謡の仕業で片付くかねぇ」
     舜が指を翻せばずらり金木犀のカードが花開く。
    「お前が殺ったんだな!」
    「はぁ?」
     アレクセイの伸ばした手刀にて、財宝目当ての協力者はあっけなくその命を落とす。

    「私はあなたの心が手に入ればそれでいいのです」
     焦れて焦れて、命を摘みましょう。娘の足した金平糖で死した者見てそう決めた。
     口元揺るがすアリスはそのまま笑顔で崩れ落ちる。後にちんまり鎮座ましますはベンガル猫に隠した銃を構える直哉。
    『オメでとう しルベ』
     それを引き裂くように切り替わる場面、拾ったナイフ振り回すアレクセイに追われる曜灯は扉を、あけた。
    「次は、あなたたちが引き継いでね?」
     背中に刺さっているのは特徴的な意匠、それっきり彼女も蝋の死へ。


     扉が開き標の車椅子を押す家庭教師彩が室内へ入ってくる。
     室内の調度品はまるでパステルで描かれた絵本のように柔らか。それは標が抱え込む絵本――父の形見――のよう。
    「邪魔なんですが」
    「後見人、ですから」
     遥香はガンとして彩と押し手の間の立ち位置を譲らない――後ろから見る人と書いて後見人だしな!
     昔逢っていたと言えどもガードされて逢えぬ鈴音。
    「脅迫状が出回っている、と」
     刑事玲仁の言葉にぴくりっと肩を引きつらせたのは、久しぶりに屋敷を訪れた標の兄姉とその連れである。
    「空凛さん、大丈夫」
     肩震わせる恋人を抱く双調は「全部妹標のせい」との履き捨てに心を痛める。
    「月宮さん、お代わりお願い」
     もう1人の兄実は使用人であり恋人の昭乃へ笑いかける。
    「……」
    「標、刑事さんも聞いてください」
     インバネスの探偵セレス曰わく、この地には生贄を捧げる奇習が云々。
    「ああ…だから一姫の緋頼さんはお隠れになったのですね」
     ぎゅうと胸の十字架を握りしめ鈴音。
     そう――ほぼ意思の疎通ができぬ標は次女、本来の後継者で緋頼という少女がいたのだが、数日前に姿を消したきり。玲仁とセレス、刑事と探偵はその用で呼ばれていたが飛び交う脅迫状に事件の進展をかぎ取った次第。
    「恢、凜…お客様にお茶を。そして標様には水を、お薬の時間だ」
    「失礼」
     彩が懐から出した薬包み遥香が無造作に指を伸ばすのもいつもの事。
     薬は金木犀色、仄かな花の香り。
    「…ぅ」
     車輪の上握る拳を盗み見てほくそ笑むは七緒だ――目覚めはもうすぐ、さぁこの血を喰らえるかい?
    (「脅迫状…だったか?」)
     受け取った『招待状』を読み直しシグマは首を傾げた。

     ――同時刻中庭。
    「お前、8年前、しくじったんじゃねぇだろうな!」
    「私は完璧主義なの、失敗はしないわ!」
     標父の作家仲間勇弥が喚けば涼子も負けぬ。
     3人が受け取った脅迫状には「8年前の罪を告発されたくなければ館に来い」
    「ふふ、確かに金木犀の脅迫状、ウチに相応しいわ」
     陶酔、謙虚、気高い人――死亡診断に細工をした女医の清はいけしゃあしゃあ。
     がさりっ!
    「にゃ、にゃあ~」
    「なんだ猫か」
     8年前の真実を知り草葉の陰で身を震わせる小さなメイド桜音を見据える2人――1人はローブをまかぶで妖しげ、1人は……。
    「皆さん、此方にいらっしゃったのですね? さぁさ、標様がお待ちです」
     勇弥と涼子の手で葬り去られた父の秘書、靱。にこやかに3人を連れ室内へ。

     ――同時刻地下座敷。
    「ねぇ、外には何があるの」
     ふかふか絨毯、愛らしい人形…閉じ込められているとは思えぬ中で微笑む緋頼へ、白焔は紳士的に微笑み返し。
    「姫の渇望を封じるお薬はもうありません」
     それは家庭教師が妹に呑ませていたものに類似する――そう、都合良く『 』を消す。薬を止めた代償で、緋頼は日常記憶をすっかり佚してしまったけれど。
    「そうね、喉が渇いたの」
    「では、少々お待ちを」
     真っ直ぐな髪を撫でて白焔は欲望蠢く舞台へ昇る――姫の乾きを癒すため。

     正体不明のシグマの殴打された死体があがったのはそれからすぐの事。
    「何故! どうして彼なんだ。まさか彼の死が星辰の導きで…」
    (「この技、まさか七緒が…」)
     トンでも理屈を嘯くセレスの隣で、唇を戦慄かせる玲仁。
    「金木犀にふれるから…バカな子」
     犬歯する清はぽつり。
     テラスに逃れた空凛の憎悪に満ちた面差しに、双調はますます青ざめ、
    「まさか空凛さんが」
     ずぐ!
     握り込んだナイフを彼氏へ突き立て、ぼそり。
    「あなたがスタートよ。気付かずにいれば」
     そもそもこの館についてこなければ。
    「…これが、始まり」
     ぼそり。
     恢は呟くと懐からノートを落とすも気付かぬ素振り。
     ――創作ノート。
     勇弥と涼子は面に影を落とすと居たたまれぬように外へ。
    「わぁあああああ!」
     狂ったような叫びそれを追ったのは、実。

    「8年前の父さん殺し、あんたが犯人だったなんて!」
     ドン!
    「うわぁ!」
     激高した実に押され金木犀の穴へ落ちる勇弥。呆然とする彼と穴の下を比べ、昭乃は慌てて踵を返す。
    (「どうしようどうしよう……」)
     またしても決定的現場を見た桜音はちょんと肩をつつかれ背を引きつらせる。
    「なんだ、靱さん。あ、あの…実様がお客様の勇弥様を…でも勇弥様とお医者様と社長の女性が8年前の犯人で…」
    「黙っているんだ」
     そう厳かに告げながら、さぁどん殺人鬼を誘導しようかと脅迫状の送り主靱は頭を巡らせる。
     今ですら、薬が効きすぎ殺しあい。最期に残る自分が全てを手にする寸法だ。

     ――地下室のゴミ置き場前に落ちた勇弥の首へ縄巻き付ける昭乃の肩が叩かれる。
    「何も君が手を汚すことはない」
     白焔は頸動脈にナイフを突き立てて、煌々とした瞳で掲げたグラスに紅を注ぎ取る。余りの光景に呆然とする昭乃の脇からすと現れた黒ローブの者は、白焔に某か取引を持ちかけた。
    「良かろう。死体候補はいくらでも…」
     ずぐり。
     ずぐずぐり。
    「殺人犯と共犯が無事いられると思いますか?」
     空凛の刃にて斃れるメイドと死した振りで伺う白焔。
     一方のローブ=さくらえは、金木犀で描いた魔方陣の上に勇弥の死体を起き魔術儀式なう。
    「勇弥さんどこー…ッひ!」
     それを憐れ見ちゃったから涼子の運命さっくり確定。空凛の刃の露。
    「良かった、死体を探していたのよ」
    (「完璧な復活術式――彼が8年前にノートを盗んだ筈なのに…」)
     まぁだから中途半端でも仕方が無いよね☆

    「誰…彼コトコロシタの、誰?」
     姫君の暴走トリガーとなれた幸い噛みしめる白焔の脇過ぎて、双調の首を閉めた緋頼は血のパーティ会場へ靴音ならしあがる。

    「は、はい。見ました。あの…」
     どん。
     少年の体当たりに桜音の躰が仰け反ったかと思うと斃れる。衝撃で飾りの金花がはらりはらり、少女を飾る。
    「く…七緒」
    「ねえ、はやく手錠かけてよ」
     パッと破顔する少年へ、玲仁は項垂れがくりと床に膝をつく。
    「師匠――標の母さん殺して会得した超究極殺人術、標のが見れなくて残念だけど。天地刑事と天丼食べられるならまぁいいか……」
     どすっ!
     引き寄せられた七緒の背中が血に染まる。
    「この…技、まさに…殺人術」
    「ひ、緋頼様?!」
    「殺人術? 知らナイけど、マァイイ」
     あなたが殺したのねと嗤い喉に喰らいつく彼女が人形のように引き摺っているのは鈴音の死体。既に血は抜かれ白蝋のよう。
    「ああ、ああ! やはりこのノートの通り『花言葉は「初恋・陶酔・真実・謙虚・謙遜・高潔」雨が花を散らす前に、芳香の中に真実を探せ』…」
     恢がねつ造したノートを手に凜は膝を震わせる。
    「なんということだ、金木犀生け贄段だら墓暴き事件の再来とは――!!」
     ああっと無力さに頭を掻きむしるセレスを横目に、彩は薬包みをさっと解く。
    「時は熟しました、標様――」
    「させられぬよ。実父の殺されかけた記憶を戻すなぞ」
    「………………」
     後見人遥香ともみ合い散らばった金木犀色の粉末が標の髪に降る。

    「―――――――」

     すくと車椅子から立ち上がり標の唇が音を発しかける、刹那。

     どんがらがらがらがらがっしゃーん!!!!
     シャンデリアから降ってきたのは、煌びやかな緑のオーガンジーに昆虫の触角、メルヘンチックなお化粧の妖精さん――ただし、中身は二十歳過ぎの男性。

    「……ッぷ、くくく、あっはははははは! 勇弥さんそれ狡いって!!!」
     台詞忘れちゃったよと爆笑の標へ注がれる眼差しは、どれもこれもおめでとうに満ちていた。
     だから少女は「ありがとう」と1人1人に返す――今年も全力で遊んでくれて、ありがと、と。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月17日
    難度:簡単
    参加:41人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 12
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