●ダークネス
冷やしラーメンは、山形県発祥の冷たいラーメンである。冷やし中華とは別物。
「あのラーメン屋は、どうだろうな」
サングラスをかけたクールな感じの男が、ラーメン屋に向かって歩き出す。パーカーの下のTシャツには「冷やしラーメン」の文字。
一般人と大差ない見た目だが、山形のご当地怪人である冷やしラーメン怪人だ。
怪人がラーメン屋に入った。
「主人、冷やしラーメンはあるか?」
「あるよ。『夏が終わっても冷やしラーメンを続けてくれ』なんて言うのが多くてね。おかげで、冷やしじゃないラーメンが売れない売れない」
「それならば、冷やしラーメン専門にすればいいのではないか?」
「お兄さん、あんた天才だね!」
「それ程でもある。──主人、これをプレゼントしよう」
怪人が、どこからともなくポスターを取り出した。「冷やしラーメンあります」と書いてある。
「お兄さん、相当な冷やしラーメン好きのようだね」
「冷やしラーメンは美味いからな。それに──」
「それに?」
「冷やしラーメンなら、サングラスが曇る心配も無いだろう?」
クールなのかどうか微妙な事を言って、怪人が店を出た。
まだ見ぬラーメン屋を求めて、怪人が歩き出す。
「冷やし中華は無くても困らないが、冷やしラーメンが無いのは困る。この山形は俺の物となり、冷やしラーメンキングダムとなるのだから」
都内の公園で、高校生らしき少年と美少女(推定Eカップ)が、水鉄砲で撃ち合いをしている。
「冷やしラーメンを購買の新商品にする! 邪魔をするな!」
「冷やしラーメンを売りたいなら、購買じゃなくて学食にしなさいよ!」
「うぐっ! おれを倒すとは見事だが……おれは下っ端でしかないぞ……! ばたり」
一部始終を目撃していた矢矧・小笠(蒼穹翔ける天狗少女・d28354)は、多くのキングダム系怪人(キングダムを築こうとする怪人)と戦ってきた灼滅者だ。
「冷やしラーメンキングダムもあるかも?」
●教室にて
「小笠の予想通り、山形を冷やしラーメンキングダムにしようとしている冷やしラーメン怪人って野郎がいたぜ」
野々宮・迷宵(高校生エクスブレイン・dn0203)が、やたらと長いリーゼントに櫛を通していた。
「冷やしラーメン怪人も、キングダム系怪人ってやつだな」
キングダム系怪人は、ご当地怪人の派閥やグループというわけではない。いずれも単独行動だった。
これまでのキングダム系怪人と同様に、冷やしラーメン怪人も、冷やしラーメンを食べさせてくれない。
「冷やしラーメンにちなんで、今日のオレはクールに…………。櫛が引っかかった!?」
取れる気配がないので、リーゼントに櫛を引っかけた状態で話を続ける。
「冷やしラーメン怪人は、冷やしラーメンを出している店や出す予定の店にポスターを配っている。……これは、あんまり問題じゃねぇか」
特殊なものではなく、ただのポスターである。
「冷やしラーメン怪人は、ラーメン屋だけじゃなく、そば屋やうどん屋なんかにも冷やしラーメンを出すように強要しているんだ。これは問題だよな」
冷やしラーメンを出すつもりがない店は、テーブルやイスなどを破壊されているらしい。
「敵と接触できる場所は、ここのシャッター街だぜ」
人が来るような場所ではなく、当然のように、ラーメン屋などもない。人払いはしなくて大丈夫だ。
「敵が使う技は、ご当地ダイナミックと螺穿槍と妖冷弾の3種類だ」
ちなみに、敵の武器である槍は、ひんやりとしている。
「力を合わせたら、灼滅すんのは難しくねぇ。ダークネス退治、よろしく頼んだぜ!」
参加者 | |
---|---|
水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532) |
鈴虫・伊万里(黒豹・d12923) |
央・灰音(超弩級聖人・d14075) |
麻古衣・紬(灼華絶零・d19786) |
類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888) |
ペーニャ・パールヴァティー(羽猫男爵と従者のぺーにゃん・d22587) |
矢矧・小笠(蒼穹翔ける天狗少女・d28354) |
庭・瞳子(ケロベロスの猟犬・d31577) |
●シャッター街にて
「冷やしラーメンと冷やし中華の違いって、なんなのかしら……」
庭・瞳子(ケロベロスの猟犬・d31577)が、思案顔をしていた。
「というよりも、冷やしラーメンって見たことないような気がするわね」
「冷やしラーメン……氷の浮いた夏場のラーメンですね」
瞳子にそう言った矢矧・小笠(蒼穹翔ける天狗少女・d28354)が、しょんぼりする。
「もう秋も深いですし、今回は冷やしラーメンもらえなさそう……(でもでも、一応、聞いてみようかな……?)」
冷やしラーメン怪人の居場所を掴めたのは、少年と少女の水鉄砲バトルを目撃した小笠が「冷やしラーメンキングダムもあるかも?」と予想したおかげでもあった。
「……(果たして、矢矧さんの関心を引いたのは、キングダム系怪人の件だけなのかなんなのか? 高校生らしき少年or美少女(推定Eカップ)のどちらかなのかなんなのか? ここは、無礼を承知で)」
小笠(女子小学生)に視線を向けて、央・灰音(超弩級聖人・d14075)が「…………むね?」と首を傾げる。後で小笠に謝る事にした。
「怪人を倒したら、ラーメン食べたいなぁ。個人的好みだけど、夏は醤油もしくは塩の冷たいラーメン。冬は味噌よね!」
水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)は、母親が山形県出身(父親は静岡県出身)で、味覚は山形県民より。よく行っていた店では、冷やしラーメンを「冷たいラーメン」と呼んでいたようだ。
と、その時──。
「こんな場所に女子が集まって、何をしているんだ? 小学生が1人と、残りは高校生か。大学生もいるかもしれないが」
冷やしラーメン怪人が出現。怪人が間違えるのも仕方がないが、8人中3人が男だった。
その3人の内の1人である鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)が、円グラフを記したフリップを怪人に見せる。
「街行く人に聞きました! イマドキ冷やしラーメン事情!」
「今時の冷やしラーメン事情……?」
データは捏造したものが、伊万里によると「山形県民は概ね賛同する数字かと思います」との事。
「何何……。『年に一度は食べる』と『食べない』を合計すると……7割超え!? そんな馬鹿な……!」
「冷やしラーメンって、対抗馬が国民食の冷やし中華ですし……!」
「いやぁ、冷やし中華美味しいですね。冷やし中華!」
麻古衣・紬(灼華絶零・d19786)が、冷やし中華を食べている。
「冷やしラーメンが、冷やし中華に負けた……!?」
「……冷やしラーメン? ええっと……冷めたラーメンの事ではなく?」
類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888)の言葉に、怪人が「違う」と応じた。
「冷めたラーメンではない。冷やしラーメンだ。冷たくしたラーメンだな」
「わざわざ冷やすラーメンなんて、まるで空気を凍らせる私の様な食べ物ですね」
ペーニャ・パールヴァティー(羽猫男爵と従者のぺーにゃん・d22587)は、寒いダジャレを得意(?)としている。
「ラーメンとしては、結構、歴史も深いのだとか。とても興味があります。サマーシーズンと言わず、オールシーズン食べたいところですね」
「それが正しい反応だ。その筈だ」
「勿論、食べさせていただけるんですよね?」
「初めて耳にする食べ物があると、食べたくなってくるのが食いしん坊の性といいますか。冷やしラーメン怪人さんっ、冷やしラーメン一丁お願いしま~す!」
凪流に続いて、小笠もダメ元で言ってみる。
「怪人さんっ、こっちにも冷やしラーメンくださいっ!」
「悪いが、俺は冷やしラーメンを持ち歩いていない」
「……は?」と怪人を睨むペーニャ。怖い。
「……出てこないんですかっ!?」
凪流がショックを受けている。
「ええ~、食べられると思ったのに~! ケチっ!」
「やっぱり、また今回ももらえないんですか……」
小笠が肩を落としているので、瞳子が「よしよし」と頭を撫でた。
「そもそも、冷やしラーメンは持ち歩くような物ではないだろう。ところで……俺はご当地怪人だと言っただろうか……?」
「イグニッション」
「ロゥ、ルゥ、狩りの時間よ」
瑞樹と瞳子が武装。他の灼滅者も、スレイヤーカードの封印を解く。
「ダークネスですし、容赦なく灼滅しますか」
紬は、まだ冷やし中華を食べていた。
「灼滅者だったのか。ご当地怪人だと知った上で、俺を倒しに来たようだ」
どこからともなく、怪人が槍を取り出した。ひんやりとした槍だ。収納用に短くしていた槍の柄が、戦闘用に長さを調節される。
「所詮は灼滅者。ダークネスの敵ではない」
●ひんやり
「まずは1人!」
怪人が、槍で伊万里を突く。一撃で倒すつもりだったようだが、伊万里は倒れていない。
「耐えたか。だが、次はどうだろうな」
「冷やしラーメンを貰えなかった恨み、きっちり晴らすのである! 躱せると思うでないぞっ!」
天狗の面を装着した小笠が、ウロボロスブレイドを高速で振り回した。
「存外、威力がある……!」
「往きなさい、ロゥ」
瞳子の指示を受け、白き霊犬のロゥが疾走。さらに、ロゥと似た姿の影業に炎が宿る。
「これが、ファイアブラッドの力よ。──ルゥ」
刃と炎が、怪人に襲いかかった。
「俺は、冷やしラーメンキングダムを築く。その野望、お前達に阻ませるつもりは無い!」
「お、美味しいですよね、冷やしラーメン! うんうん! まあ、年に一度、くらいは……あ、今年まだ食べてない……」
伊万里は闘気を雷に変換し、殴りかかる。
「年に1度と言わず、毎日食べるべきだ」
「冷やしラーメンキングダムの王様が肝心のブツを準備してないとか、どういう事だオラァッ!」
碧色のケトゥ(ラメで星の模様を描いたワンピース。キュート)を纏ったペーニャは、怒りの形相でヴァンパイアミストを放出。
「オールシーズンならぬオールヌード……じゃなくて、裸の王様なんて、お呼びじゃねーんだよぉ!」
「安心しろ。裸ではないぞ」
ウイングキャットのバーナーズ卿(本名はジェラルド・ヴィラ・ティアウィット・ウィリアムズ。かなり長い)は、紳士的な仕草で「やれやれ」と言いたそうにした後、パンチを繰り出した。
「猫に殴られるというのは、珍しい経験だな」
「以前食べた冷やしカレーのレトルトは、美味しくなかったですね……」
灰音も、抗雷撃をお見舞い。
「冷やし……カレイ? 魚のか?」
「カレーです。冷やしカレー」
「冷やしカレー……知らない冷やしグルメだ。もっとも、冷やしラーメン以外に興味は無いのだが」
「冷やしと言ったら、冷やし中華とか冷麺とかありますけれど……。その類とは、また違うのかなあ~? ねえねえ、助六ちゃんは冷やしラーメン食べたことある?」
凪流が、ナノナノの助六に訊いた。
「……ないよね~。食べに行ったことないもんねっ!」
「ナノナノ」
「この戦いが終わったら、絶対、お店に食べに行ってやるんだから~!」
助六がハートを飛ばし、凪流はマジックミサイルを撃ち出す。
「冷やしラーメンを食いたいなら、この俺を倒す必要があるぞ」
「冷やしラーメンは、確かに、熱いのが苦手な人にはもってこいですがね。まぁ、冷やしラーメンおいてないからって、暴れるのはどうかと思うんだ」
冷やし中華を食べながら、紬がイエローサイン。
「……そんなに冷やし中華が好きなのか、お前は」
「私は、冷やし中華より冷たいラーメンの方が好きだよ?」と瑞樹。
「灼滅者にも、冷やしラーメン派がいたんだな……!(何故か感動している俺)」
「インスタントでも出来るよ。あれは植物性油脂だから、冷たくしても油が白く固まらなくておすすめー」
瑞樹はナイフに炎を宿し、敵に叩きつける。
「インスタントも冷やすとは、通だな。やはり、冷やしラーメン以上のラーメンは無い」
●クール
怪人が持つ槍の先端で、集まった妖気が氷柱に姿を変える。
「クールな俺のクールな攻撃、受けて貰おう」
妖冷弾。先程のように伊万里を狙った一撃だったが、助六が盾となった。
「……邪魔をされたか」
「驚嘆せよ! 疾風の如き一撃である!」
小笠が帯を射出。
「天狗少女……!」
「ロゥ、浄霊眼。ルゥ、敵を飲み込んであげなさい」
瞳子の足元から怪人へと、猟犬のような影が走る。
影に飲まれた怪人には、トラウマの姿が見えるように。
「……とてつもなく熱いラーメンを出す店の主人が、こういう感じだったような…………」
「ラーメン屋さんに行ったら、あったかいラーメン食べたほうがいいじゃないですか!!」
伊万里が突き出した拳は、鋼鉄のようになっていた。
「暑いときに熱いの食べて、はふはふ汗かきましょうよ!」
「クールな俺は、真冬でも冷やしラーメンだ。無論、真夏も冷やしラーメンだ」
「私、辛いのは全く問題無いのですが、猫舌でして。熱々ラーメンは苦手なのです」
そう言ったのはペーニャだ。
「猫舌でも、冷やしラーメンなら安心だな」
「美味しいラーメン食べるの、あきラーメン(諦めん)! 冷やしラーメンなら、サマーす(冷ます)必要無し!」
「…………。何だって?」
「ギルティィィッ!」
ペーニャのギルティクロス。「やれやれ、しょーもない奴だ」とでも言いたそうな顔をしているバーナーズ卿は、猫魔法を発動。
「その猫も、猫舌だったりするのだろうか」
「自分で聖別したパンとぶどうジュース以外には、白いご飯しか口にしない主義ですが」
灰音が、非物質化した騎士剣を振るう。ある王の剣を再現したと言う剣だ。
「……つけ麺は食べて見たいですね」
「つけ麺派なのか……?」
「ちょっと気になったのですがっ」
凪流が挙手。助六は、自分自身にハートを撃ち込んだ。
「……本当にクールな人って、自分で『クール』って言わないと思うのですけれど……。どうでしょう?」
怪人に、クロスグレイブの先端が向く。
「本当にクールな人は自分でクールと言わない……だと?」
「クールな攻撃っ!」
聖歌を奏でたクロスグレイブから、光の砲弾が放たれた。
「本当にクールな人もクールと言う筈だ。言う……と思う。俺は言う。俺はクールだ」
「あつくなあれ、あつくなあれ」
紬が、杖に炎を宿す。
「……おいしくなあれの熱い版?」
「冷やしラーメンも温めましょうか?」
クール(自称)な怪人にレーヴァテイン。
「温かい冷やしラーメンは、冷やしラーメンではなく普通のラーメンだな」
「冬はやっぱり、熱々ラーメンが食べたい! 辛味噌とかも美味しいよね!」
瑞樹の言葉に、怪人の表情が強張った。
「お前は、冷やしラーメンが好きだった筈では……!」
「冬に冷たいのは……いや、ありだけども。熱々があってこそよね」
「何……!?」
「ラーメンの熱い冷たいに貴賤は無く、一方的駆逐は良くないよ。冬寒く夏暑い山形だからこそ、どっちも美味しいの!」
瑞樹も、非物質化した剣で攻撃。
「いや……冷やしラーメンの方が上だ!」
怪人が飛び出し、手を伸ばす。
「──その攻撃、当てさせるわけにはいかないわね」
「っ!」
怪人が掴んだのは、間に割って入ったロゥの体だった。
「冷やしラーメンダイナミック!」
ロゥを地面に叩き付け、爆発を発生させる怪人。しかし、ロゥが消滅する事はなかった。
「……俺では……犬1匹葬る事も出来ないのか……!」
「これで終わりであるっ!」
小笠が、金地大長巻野太刀の射出機構を下に向けた。和風のこしらえが特徴的なバベルブレイカーである。
「パーカーとTシャツなどという軽装で、てんぐ様の神威を耐えられると思うてか!」
杭が地面に突き刺さり、発生した振動波が怪人を強襲。
「灼滅者如きに……俺の野望が打ち砕かれるとは…………!」
怪人の体が大きく傾く。体が地面に触れる寸前、怪人が消滅した──。
「まぁ、熱いものよりは年中食べられるのだろうけど。年中、冷やしラーメンばっかりでもねぇ」
紬が肩をすくめる。
「すみません」
「?」
灰音の謝罪に心当たりのない小笠(天狗の面は外した)は、きょとんとしていた。
作者:Kirariha |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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