だって中学二年生だから

    作者:小茄

    「ふっ……『識らない』と言う事は『倖せ』な物だ……」
     昼休み、校庭でバスケやサッカーなど、思い思いに羽を伸ばす学生達を眺め、独りきりで呟く少年が居た。
     彼の名は須賀・圭太郎(すが・けいたろう)。この中学に通う二年生だ。
    「まぁいいさ……闇の事は闇の者が担当すれば良い」
     ぽつりと呟き、ニヒルな微笑を浮かべる。一見何の変哲も無い中学生である圭太郎だが、実は彼は――
    「闇の匂いがするわ」
    「っ?!」
    「それもかなり濃い……貴方も『闇の民』かしら?」
     彼に声を掛けてきたのは、黒髪に白い肌の美少女。(圭太郎曰く)ガキ臭い上にブスしかいないこの中学校では、明らかに異質の存在と言って良かった。
    「だ、誰だ」
    「貴方と同じ種類の存在……『闇を歩む者』」
    「そ、そんなはずは……いや、有り得ない事ではないか。理論上はな……」
     中二病真っ盛りの圭太郎だが、それはあくまで独りきりで楽しむもの。まさか同じタイプの人間……それも美少女が絡んで来るなど、完全に想定外だったのだ。気圧されないように、必死で冷静さを保とうとする。
    「ふふ……どうやらこの学校で『Darkwalker』は私達だけみたいね」
    「……そ、そうらしいな……だからと言って、別に馴れ合う気は無いが」
    「互いの利益の為、争いは避けたいもの」
     本当に中学生かと疑いたくなる様な、艶っぽい口調で言う黒髪の少女。
    「……な、なるほどな、そう言う事ならば……」
     圭太郎はごにょごにょと口ごもりつつ、そう答えた。
     
    「一般人を籠絡した上で闇堕ちさせ、従順な手駒に仕立て上げようと言う淫魔が居る様ですわね」
     有朱・絵梨佳(中学生エクスブレイン・dn0043)の説明によると、淫魔は元々素質のあった男子中学生――圭太郎に狙いを定め、接触したらしい。
    「圭太郎は余り友達もおらず、独りで過ごしている事が多かった様ですわ。加えて、そこそこ重い中二病を患っていた様で、それを上手く利用した淫魔に急速に惹かれつつ有る……と言う厄介な状況ですわ」
     完全に闇堕ちし、ダークネスになってしまう前に対処しなければならないだろう。

    「方法としては、有無を言わさず淫魔を灼滅する方法。ただしこの場合、淫魔が圭太郎に助けを求めるなどして、彼が闇に堕ちる可能性はかなり高くなりますわ。そうなると、淫魔だけでなく圭太郎も灼滅しなければならない状況になるでしょうね」
     その場合でも、いずれかを灼滅すれば作戦としては成功だが……。
    「他には、圭太郎と淫魔を引き離し、彼の居ない所で淫魔を灼滅する方法もありますわ。この場合、彼女が姿を消して再び独りぼっちになってしまった圭太郎が、闇に堕ちる可能性は否定できませんわね……」
     この際、彼の悲しさや孤独感を和らげる事が出来れば、それは阻止出来るかも知れない。
    「後は……まぁ、淫魔の前で堂々と圭太郎を説得する手もありますわね。淫魔も必死で否定するでしょうし、どちらの説得力(+アルファ)が勝るかで明暗が分れそうですけれど……」
     既に圭太郎を誘惑しつつある分、アドバンテージは淫魔にあると言って良い。が、説得が成功すれば圭太郎の闇堕ちは完全に阻止する事が出来るだろう。
    「現時点で淫魔が本命のヒロインだとしても、対抗馬が付け入る隙はあるはずですし、そもそも彼女はヒロインなどではないと論理的に揺さぶる事も出来るはずですわ」
     と言う事らしい。
     
    「淫魔は圭太郎の隣のクラスに転入していて、休み時間や放課後等は、殆ど一緒に行動している様ですわ」
     二人一緒のタイミングを狙うなら放課後。別々に接触するのであれば、移動教室で二人が別れるタイミングを狙うのが良いだろう。
    「当然のことですけれど、学内には他の生徒や一般人が居ますわ。突然仕掛けたり、警戒されると厄介な事になりかねませんので注意が必要ですわね」
     戦うにせよ、上手い理由をつけてひとけの無い場所(体育館裏など)に呼び出すと言った細工は必要になりそうだ。
    「制服は用意しておきましたけれど、こちらで出来るのはここまでですわ。後は貴方達の演技力や、話術に期待する事になりますわね」
     淫魔自体は、必ずしも武闘派ではないが、圭太郎が闇堕ちした場合はそれなりに強力なダークネス(イフリート)となると言う。
     
    「では、吉報をお待ちしておりますわ」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)
    海川・凛音(小さな鍵・d14050)
    仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)
    照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)
    来海・叶(アルトの瞳・d29829)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)
    立花・環(グリーンティアーズ・d34526)
    八賀・亮太郎(放浪癖・d34901)

    ■リプレイ


    「闇の波動は安定している様ね。月が満ちている間は一先ず安心と言った所かしら」
    「そうだな……だが油断はするな」
    「貴方こそ」
     屋上への扉は施錠されていたが、それ故、誰も来ない踊り場は須賀・圭太郎(すが・けいたろう)とエミカが密談を交わすには好都合だった。
     二人の会話は特に何の意味も無い、カッコイイ妄想を垂れ流して悦に入る……いわゆる中二病的な物だったが、これまで独りきりで妄想に浸るだけだった圭太郎にとっては、共に世界観を共有出来る存在は大きかった。
    「ま、いざと言う時は私が貴方を守ってあげるけれどね」
    「……ふん」
     その上、三次元の女子は可愛く無いと言う圭太郎の思い込みを打ち砕くには十分なルックスを備えていたのだから、渡り廊下で邂逅を果たしてから数日、彼の恋心は日に日に強く大きくなっていた。
     ――キーンコーンカーンコーン♪
     と、休み時間の終了を告げる鐘の音。授業中の20分は長くとも、好きな女の子と過ごす20分は一瞬だ。
    「……そう言うのは男の役目だ」
    「ん? 何か言った?」
    「いや……エンダスタル・グリミアール」
    「エンダスタル・グリミアール」
     今の俺って最高にクールな主人公っぽいなと思いつつ、自作の合言葉を交わし圭太郎は理科室へ。エミカは自らの教室へとそれぞれ向かう。

    「君、2組の須賀圭太郎君?」
    「ん? そうだが……」
    「少し話があるんだ♪」
     理科室へ向かう圭太郎に声を掛けたのは、八賀・亮太郎(放浪癖・d34901)と極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)の二人。
     いずれも見覚えは無かったが、幼い顔立ちとはやや不釣り合いとも思える舞のスタイルに、思わず視線を奪われる圭太郎。
    (「だ、誰だ……同学年にこんな奴ら居たか? 後輩か先輩か……?」)
     亮太郎の顔やら舞の胸部やらを見ながら、必死に思考を巡らせる圭太郎。そんな彼に、舞は顔を近づけ――
    「私は『闇の導き手』。貴方に『闇の啓示』を与えにきた」
    「なん……だと……?!」
     耳元で囁かれた言葉に、圭太郎は目を見開いた。
    「こっち♪」
    「ま、待て……休み時間はもう……と言うか、腕に当たって……」
    「すぐ済むから。ささ、こっちへ」
     舞と亮太郎は彼の腕を取ると、強引に再び屋上への階段を上らせる。

    「エミカさん、ですよね?」
    「えっ?」
     一方その頃、エミカを呼び止める小柄な少女。れっきとした高校生、海川・凛音(小さな鍵・d14050)だ。
    「そうだけど……ごめんなさい、どなた? 転校してきたばかりでまだ良く覚えられてなくて……」
    「須賀さんから『話したいことがあるから体育館裏で待ってます、と伝えてきてくれ』って言われたんですけれど……」
    「え? 彼から? 今すぐに?」
    「はい、こっちです」
     驚いた様子のエミカだったが、他ならぬ圭太郎の呼び出しと聞けば否応も無く、凛音の後に続く。
     もしもエミカが多少なりと刺客の存在を意識していたならば、怪しむこともあっただろう。けれど、今の彼女は自分が騙す側だと信じて疑わず、殆ど警戒する様子は見られない。


    「それで、圭太郎はどこに居るの?」
     体育館裏、居るはずの彼の姿が見えない状況でさえ、エミカの声色に警戒の色は薄い。
    「ごめんなさい、須賀さんが呼んでいるというのはうそなんです」
    「……そう、まぁそんな事だと思った。で、アンタは彼のなんなの? アタシにどうして欲しいワケ? 一応聞くだけ聞いてあげるから言ってみなさいよ」
     凛音に向き直り、詰め寄るような勢いで問うエミカ。凛音の事は、圭太郎を巡る恋のライバルかなにかだと予想していそうだ。
    「あなたが……須賀さんに何をしようとしているのかはわかっています。でも、それをさせるわけにはいきません」
    「はぁ? 良く解らないんだけ……ど?」
     と、言いかけた所で背後に感じる人の気配。
    「圭太郎さんには少し悪いけど……これは圭太郎さんの為だから! 倒すよ!」
     エミカが、木陰から姿を現した仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)に眼を向けるとほぼ同時、足下に展開する結界。
    「なっ?! こ、これは……」
    「『Darkwalker』ね……ダークネスだし、間違いではないのかな? それじゃ、私たちは闇を照らす炎の光って感じ?」
     地面をエアシューズで斬り付け、火花を散らしながら一気に間合いを詰める照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)。
    「灼滅者、照崎・瑞葉。いっくよー!」
     摩擦熱で高温を帯びたブレードを、勢いそのままに蹴り込む。
    「ぐ、っ……! アンタ達……私の計画を知って……!?」
    「誰だって思い描いたものはある。それが他人に馬鹿にされ様と。貴女はそれを利用し嘲り笑っているだけ。そんなの許せない」
     普段は温和な来海・叶(アルトの瞳・d29829)だが、人の心につけ込み弄ぼうとする淫魔に対しては、厳しい口調で言い放つ。
    「はぁ? 友達の居ない中二病ぼっちの妄想に付き合って、ヒロインになって上げようってのよ。感謝されるならともかく、文句言われる筋合いなんかないっつーの」
    「貴女はヒロインなんかじゃない。それとも、そうだと自分に酔いしれたいだけかしら?」
     縛霊手に霊力を蓄え、インファイトを仕掛ける叶。
    「くっ……!」
     矢継ぎ早に浴びせられる灼滅者達の攻撃を、必死に応戦するエミカ。しかし奇襲を受けた不利な体勢では、直撃を避けるのがやっとだ。
    「邪眼に魅入られし、闇に生きるモノを籠絡しようとは……彼奴は闇のモノでも弱小なれど、見所がある。よって、貴様には誑かさせんよ!」
     高速演算モードにシフトしつつ、びしっと言い放つ立花・環(グリーンティアーズ・d34526)。彼女もまた中二である。
    「って言うか、アンタ達がもし私をここで殺せば、彼は間違いなく闇に堕ちる! 強力なダークネスとして復讐の鬼になるの、理解出来てるワケ!?」
    「そっちは心配無用。甘い言葉でダメにしちまおうとする悪女! 元嶺鳳学園ヒーロー、マギステック・カノンが性根を叩き直してやるぜ!」
     動揺を誘うべく訴えるエミカだが、白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)は即座に言い返し、同時に無数の拳を叩き込む。

    「良く……言っている意味が分からないんだが」
    「うん、エミカは元々今日を最後に転校する予定だったんだ……。これ、君に渡してくれって」
     その頃、屋上への踊り場では亮太郎と舞が圭太郎へのフォローを続けていた。
     もししくじれば、エミカの言う通り、圭太郎は闇に堕ち、悲しみと復讐のダークネスとなってしまう事は明らかだ。
     手渡された手紙には「病弱で物語を考えるのが楽しかった。少ない時間だったけど登場人物になったようですごく楽しかった。急な別れでごめんなさい」と、エミカからの別れの言葉が短く綴られている。
     これは歌音が作って二人に託した物だが、エミカが闇の者などではなく、圭太郎のごっこ遊びに参加しただけだとカミングアウトする物でもあった。
    「嘘だ……彼女が居なくなるワケない……エミカは俺のファム・ファタールなんだ! 共に闇を歩み世界を護る――」
    「『闇の者』である事を隠し『調和』を図れ」
    「ち、調和……だと?」
     被りを振って現実から目を逸らそうとする圭太郎に歩み寄り、優しく抱擁する舞。
    「……私もそういう設定好きだよ♪ でもそれに閉じこもるのは勿体無いよ♪」
     いわゆる闇の口調から一変、彼女本来のふわりとした調子に戻ってそう告げる。
    「『敵』と戦う勇気、色んな人と接する本物の勇気に変えてみない? 圭太郎なら大丈夫……」
    「いや、大丈夫じゃ無さそうだぜ」
    「え?」
     亮太郎の指摘を受けて舞が身体を離してみれば、圭太郎はすっかりのぼせて意識を失っていた。


    「ぐ……ち、ちょっと待った。一旦話し合いましょ……彼を交えて」
     灼滅者の包囲攻撃によって、ジリジリと体力を削られつつあるエミカ。両手を挙げて講和を持ちかける。
    「そんな事言って、須賀さんを戦わせるつもりでしょ」
    「うっ……そ、そんなワケないじゃない」
     が、即座に指摘する瑞葉。エミカは図星を突かれて、解りやすく狼狽える。
    「我が前では、その様な奸計は児戯に等しい」
    「ぐぬ……」
     びしっと指差し、勝ち誇る様に言い放つ環。
    「エミカさんだっけ? 圭太郎さんの事、本当はどう思っているの?」
    「も、もちろん私は彼の事が好き! 利用しようとか、手籠めで手駒にしてやろうとか全然思っても居ない! これは純粋な愛なの。そうよ……貴女達が、私の事を殺すつもりならそれでも構わない……ただ、最後に一目だけでも彼に会わせて!」
     蛍姫の問い掛けに、ここぞとばかり訴えるエミカ。非常に白々しい。
    「彼の思う闇の住人が陰ながら平和を守ってる……そうかもしれない。でもそれはエミカさん、貴女の目指すものとは違うはず。私たちは知っているもの、貴女の本性を」
    「っ……正義の味方とか、くだらないったらありゃしない! 虫酸が走るっての!」
    「だから、ここで倒します」
     小細工が通じない事を悟り、激昂するエミカにぴしゃりと返す叶。凛音もまた、ジリジリと距離を詰めつつ言葉を引き継ぐ。
    「くくく……怒りに委せ、地を穿つ陥穽に陥るがいいわ!」
     ガイアパワーを集中させた環の手から放たれる光線。これに合わせ、他の灼滅者も波状攻撃を掛ける。
    「いくぜ、覚悟しな!」
     高く跳躍し、白熱を帯びたエアシューズに体重を乗せた蹴りを見舞う歌音。キャリバーの時雨に援護射撃を命じつつ、叶はダイダロスベルトによってエミカを縛める。
    「いっけー!」
     更には、蛍姫の足下からユニコーンを象った影業が疾走するのに呼応し、閃光の如く炸裂する無数の拳を叩き込む凛音。
    「あ、あと……一息……だったのに」
     集中攻撃を受けたエミカはがくりと膝をつき、そのまま倒れ伏す。
     もう少し遅ければ、確かに圭太郎は完全に彼女の虜になっていたのかも知れない。
    「やったね!」
    「須賀さんの思い描いた世界とは少し違うかも知れないけど、炎の光として闇を照らす事は出来たかな」
    「闇は唯、暗黒に回帰するのみ……」
     ハイタッチを交わす蛍姫と瑞葉。環は余韻に浸るように、遠い目で呟く。
    「さてと、それじゃ合流しようぜ」
    「そうですね……灼滅完了の報せは送っておきました。あちらも一先ず、説得は完了した様です」
     歌音の言葉に頷く凛音。
     一行は人目を避けつつ、学校の敷地を後にする。

    「おいらも親友が突然転校して別れもろくに言えなかったことあるからわかるよ。いつかまた会えるさ!」
    「そう……だな。ま、まぁ別に元々独りだったのだから、アイツが居なくても寂しくは無いが」
     ポンと肩を叩きつつ励ます亮太郎。その言葉に、圭太郎も顔を背けつつ小さく応える。
    「何か有ったらここに」
    「え? う、うむ」
     メールアドレスを交換して微笑み掛ける舞。
     極めて奥手の彼が自分からメールを送れるかどうかは疑わしいが、独りぼっちではないと言う心の支えにはなるはずだ。

     淫魔に魅入られた少年を無事その魔手から救い出す事に成功した灼滅者達。今後彼がどの様な学生生活を送るかは定かではないが、ともかく闇に堕ちる事は無さそうだ。
     かくして、任務を完遂した一行は凱旋の途につくのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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