文様蝙蝠は、夜に舞う

■リプレイ

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「やれやれ、毎度の事ながら面倒を起こしてくれるな」
　久々の仕事がヴァンパイアの眷属とは……、と小鳥遊・麗（エーヴィヒカイト・d02436）は小さなため息をこぼす。
　田舎の住宅街、夜の空き地。灼滅者達は、そこで待ち受けていた。
「あいつらが来た方辿ってったら、ご主人サマに会えるかね？」
　羽ばたきを聞いて、リュカ・メルツァー（光の境界・d32148）が見上げる。曇った夜空、そこに舞う無数の大きな影に志賀神・磯良（竜殿・d05091）がしみじみと言った。
「うわぁ、気味の悪い見た目だなぁ……使役しているダークネスがどんな奴か想像がつくな」
「またアイツらか……製造方法クソキモい上に、迷惑極まりない害獣、野放しにしてられっか」
　絶対潰す、と決意を込めて吐き捨てたのは銀城・七星（銀月輝継・d23348）だ。
「あれだけの眷属を作るとなると、かなり大変なのでは……。作り主のヴァンパイアが他の一般人を襲撃していないとよいのですけど……」
　ラウラ・クラリモンド（咲く薔薇散る薔薇・d26273）は呟く。今は、目の前の敵に集中しなくては――初めて依頼だからこそ、ラウラはそう表情を引き締めた。
「お、来るよっ」
　淡白・紗雪（六華の護り手・d04167）の言葉の通り、タトゥーバットが高度を下げる。旋回してこちらを伺う眷属の群れに、フラッシュライトをハンドガンに装備させながらヘイズ・フォルク（青空のツバメ・d31821）が言った。
「さてと、夜のコウモリ退治と行きますか……」
「ああ」
　短く答え、伐龍院・黎嚇（ドラゴンスレイヤー・d01695）は包帯に包まれた手で拳を作る。
「さて、闇堕ち復帰後の慣らしといこうか。闇の底を見てきた伐龍院の力、見せてやろう」
　体に残る違和感、感覚が鈍っているのを自覚した上で黎嚇は言い切った。七体のタトゥーバットが、素早く落下してくる――それを見やって、磯良が、七星がスレイヤーカードを手に告げた。
「祓い給え、清め給え」
「この身、一振りの凶器足れ」
　灼滅者達が、戦闘体勢を整えていく。ゆらりと揺れる血のように赤い霧へと手を伸ばしたリュカがその手を引いた時、一振りの剣が握られていた。
「わらわら沸いて来やがって……来いよ！　蹴散らしてやる！」
　もう片方の腕をリュカが赤い霧へと伸ばすと、霧は縛霊手へと変わる。ガシャン！　と縛霊手が展開した直後、タトゥーバットの眼前にリュカの除霊結界が張り巡らされた。

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『キィ！？』
　バチン！　とリュカの除霊結界に弾かれたタトゥーバットが、大きく回り込もうとする。ウイングキャットのイオが、尻尾のリングを光らせた直後、ラウラがその両手を頭上へかざした。
「いきます」
　フッ、とラウラの銀髪の縦ロールが浮かぶ。そして、ゴォ！　と冷たい炎が視界を埋め尽くした。ラウラのコールドファイアが、ビキビキビキ！　とタトゥーバットの翼の端を凍らせる。
「数で勝負とは情けない限りだな、それでも誇り高いヴァンパイアの眷属か？」
　言葉が通じるとは思っていない、それでも言い放ち麗は魔力の霧を展開した。麗のヴァンパイアミストが、空き地を埋め尽くしていく――。
『キィ！！』
　体勢を立て直そうと、タトゥーバットの群れが上昇しようとした。しかし、それを許すつもりなど一切ない。七星は、己の殺気を黒く黒く具現化した。
「逃がすかッ！」
　ドォ！！　と七星の鏖殺領域が、タトゥーバットの群れを飲み込んだ。まるで、夜の波に飲まれたようにタトゥーバット達の動きが乱れる。タタン、と磯良が禹歩を踏み、素早く印を結んだ。
「祓い給へ、荒え給へ」
　磯良によって刻まれるのは、　原罪の紋章――上昇しようとしたタトゥーバットの一体を、すかさず霊犬の阿曇は六文銭を撃ち込んだ。
『キィ！？』
　バランスを崩したタトゥーバット、そこへ跳んだのはヘイズだ。空中で頭上を取って宙返り、ヘイズが右手を振った瞬間、ヒュオン！　とタクティカルハードワイヤーがタトゥーバットを絡めとる。
「落ちろ！」
　そして、回転する勢いを利用して、ヘイズはタトゥーバットを振り回した。まさに、ハンマー投げのハンマーだ。遠心力に利用されたタトゥーバットへと、紗雪がグっと膝を折って身を低く構える。
「くっらえぇーっ！」
　ダダン！　と強く地面を蹴っての紗雪の左手のジャンピングアッパーカットがタトゥーバットを強打した。ゴォ！　と粉砕されるタトゥーバット。しかし、黎嚇の厳しい声が響き渡る。
「来るぞ、構えろ！」
　ヴヴン！　と大気を震わせる超音波が、重なって放たれた。タトゥーバット達の超音波による攻撃は、連携など考えられていない。ただでたらめに、思うがままに放たれるだけだ。
「させないっ！」
「くそ」
　仲間を迷わず庇う紗雪に、黎嚇は《ASCALON-White Pride-》を真横に振るいセイクリッドウインドを吹かせた。武器を振るう、その動きにも違和感が付きまとう――その事に、黎嚇は眉根を寄せる。
「まったく、面倒な」
　数、それは単純に戦力となるものだ。麗は、その黄金の瞳でタトゥーバット達の動きを追う。
「相手は誰だって構わない。俺は俺の仕事をするだけさ」
　ただ、強いて言えばさっさと終わらせて愛する妻の元に帰りたいものだがな、と口の中だけで呟き、麗はため息をこぼした。
　タトゥーバットの群れにとって、灼滅者達は明白な敵となったのだろう。もはや、距離を取ろうとはしない。敵は殺す、その殺気と共に灼滅者達へと襲い掛かった。

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　ＥＳＰ殺界形成とサウンドシャッターによって外界と隔絶された戦場で、戦いはただ激しさを増していく。
「ちょこまかと飛び回りやがって……」
　頭上を舞うタトゥーバットに、ヘイズがそう吐き捨てた。追いすがるように駆け、ふとその先に七星がいる事に気付いた。
「ちょっと失礼！」
「――なるほどな」
　跳躍するヘイズに、七星はその動きの意味をすぐに察する。七曜区間――その交通標識を七星が振り被ると、その標識の上へとヘイズが着地した。
「っと！！」
　ブン！　と七星が七曜区間を振り回すと、ヘイズが投げ飛ばされる。タトゥーバットの間近、死角へと体を捻って滑り込んだヘイズは、XthSを構えた。
「逃がすかっ、ワイヤー射出！」
　ヒュガ！　とタクティカルハードワイヤーに切り裂かれたタトゥーバットが落下する。その落下地点へ、七曜区間を回避不可避の赤色標識にスタイルチェンジさせて七星が振り払った。
「さっさと潰れろ、害獣」
『キィ！？』
　ズサン、と切り裂かれたタトゥーバットが霧散する。そして、それを見て散ろうとした三体のタトゥーバットへと、ヒュガガガガガガガガガガガ！　とラウラの召喚した無数の刃が降り注いだ。
「お願いします」
「おっまかせ♪」
　ラウラの言葉に応え、紗雪が駆ける。虚空ギロチンを掻い潜り、紗雪はステップを刻みながら足を交差させ――。
「おーにさんっこっちらっ、てねっ♪」
　反転してからの遠心力をつけた右の裏拳――紗雪のシールドバッシュが、タトゥーバットを強打した。吹き飛ばされながらも、タトゥーバットはすかさず紗雪へと超音波を放とうとするが、それを磯良が許さない。
「切り裂け、神薙の風よ！」
　燐光を放つ蒼い五芒星の方陣の上で、神主服の裾をひるがえして磯良は風の刃を生み出した。ゴォ！　と巻き起こる旋風の刃がタトゥーバットを飲み込み、ズタボロに切り刻んだ。
「本来、俺は防御が専門なんだが……まぁ、ぼやいても始まらんか」
　タトゥーバットの一体へと、麗は半獣化した鉤爪を振り下ろし、吐き捨てる。ゴォ！　と空き地の大気を震わせる超音波に、リュカはカカっとヒールの靴を鳴らしながら、非実体化させた剣でタトゥーバットを切り裂いた。
「ったく、ひらひらひらひら！　イオ！」
「阿曇！」
　リュカの呼びかけにイオは任せてと言いたげに尾を揺らしてリングを光らせ、磯良に阿曇は吐息をひとつ駆け出した。タトゥーバットを決してこの空き地からは逃さない、そのために追い立てていく。
「この程度の相手、技を使うまでも……ぬぅ、ちょこまかと小癪な」
　己のレイザースラストを回避され、黎嚇は唸った。普段なら、確実に当てられるタイミングだ――その理由は、自身にある事を黎嚇は理解していた。
　灼滅者達とタトゥーバット達の戦いは、灼滅者側が優勢に進んでいる。しかし、紋様の瞳という紋様を利用して催眠効果のある攻撃を持つタトゥーバットに、油断をすれば灼滅者達は窮地に追いやられただろう。
　だが、それも役割分担と連携によって灼滅者達は乗り越えていく。一体、一体、確実に落としていけば、数の利でも灼滅者側に傾いていくのだ。磐石を整えたからこそ、時間が味方してくれる。それが明確になったのは、タトゥーバットがその半数以下へと数を減らしてからだった。
「来い」
　麗はキュアノエイデス――蒼の名を冠する盾を展開し、身構える。タトゥーバットを怪音波を盾で受け止め、その威力を受け流しながら横回転――畏れ宿したヴェルメリオでタトゥーバットを貫いた。
「麗のにーさん！　こっちだ！」
「任せた、頼む」
　真紅の鞭剣を麗が振るうと、貫かれたタトゥーバットがリュカの目の前へと飛ばされる。イオの肉球パンチが、リュカの燃え盛る回し蹴りがタトゥーバットを打ち砕き、燃やし尽くした。
「ユウラ、ヤミ！　蝙蝠狩りだ！」
　七星の足元から走る影の猫と鴉が、上下からタトゥーバットへ襲い掛かる。そこへ、軽い足取りで続いたのが紗雪だ。
「いただきっ♪」
　まるで天へと伸びる氷柱のように、緋色のオーラに包まれたelciciが伸びてタトゥーバットを刺し貫いた。なおももがき、あがこうとするタトゥーバットへ、ラウラは駆け込む。そのオーラを宿した拳を、ガガガガガガガガガガガガガガガガ！　と全力でタトゥーバットへと叩き込んだ。
「これで、残る一体です」
　閃光百裂拳によってタトゥーバットを打ち砕いたラウラが、不意に視線を上げる。頭上で最後のタトゥーバットが翼を広げ、その紋様を瞬かせ――。
「打ち鳴らせ、神鳴る槍よ」
　しかし、それを磯良の轟雷の一撃が、刺し貫き防いだ。そして、跳躍した阿曇が、斬魔刀で切り刻んだ。
「頼んだぞ！」
　白き刃に破邪の光を宿し、黎嚇はタトゥーバットの片翼を切り裂く！　体が軋む、両断するには足りない――だが、一人で戦っているのではないのだ。
「任された！」
　ヘイズが、XthSの銃口をタトゥーバットへと向ける。引かれる引き金、フラッシュライトに照らし出されたタトゥーバットは、ホーミングバレットに撃ち抜かれて砕け散った。
「見たか、龍殺しの伐龍院、コウモリ如きに遅れはとらん。まぁ、少し手間取りはしたが……まだ万全ではないか、歯がゆいな」
　《ASCALON-White Pride-》の柄を包帯に包まれた手で硬く握り締め、本調子にはまだ遠い黎嚇がため息をこぼした……。

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「しゅ～うりょ～おっ♪」
　紗雪が、そう歓声を上げる。灼滅者達は緊張を解いて、周囲を見回した。
「俺が倒せたのは２匹か……さてさて、あのコウモリの出処は何処なのか」
　ヘイズはそういい捨て、肩をすくめる。もはや、考えるまでもなく、手がかりなど残っていなかった。
「倒せば跡形も無く霧散ってのは本当にムカつくよな……」
　七星も、そうため息混じりにこぼす。意図してか、意図せずか、タトゥーバットから生み出した吸血鬼に繋がるヒントは見いだせそうになかった。
「連中のご主人サマに繋がりそうなものは……やっぱり、なかったな」
　戦いながら観察していたリュカの言葉には、さほど落胆はない。眷属とは宿敵に連なるものと戦えたのだ、その充足感はあった。
「掃除して、帰りましょうか」
　ラウラの提案に、仲間達は戦闘で荒れた空き地から戦いの痕跡を消していく。
「阿曇、匂いとかは……駄目だよねぇ」
　言っている間に阿曇が呆れたように首を左右に振るのに、磯良はため息をこぼす。まずは、犠牲者を出さずにすんだ――それで良しとすべきなのだろう。
「終わったならさっさと帰るとするか」
　愛する妻の元へ早く帰りたい、そう言外に急かして麗は歩き出す。仲間達もそれに続き、七星は言い捨てた。
「本体が痺れ切らして出てきた時は、絶対に一発お見舞いしてやる」
　そう辛抱強い奴とも思えない――七星の決意は、その場の総意だ。遠くないうちに決着をつける日はくる、そう予感しながら灼滅者達は帰路へとついた……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2015年10月6日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
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