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山の中を歩いていた猪型の眷属は、駆ければ地面をえぐる太い足を止めた。
二つある頭をあげて、山のふもとをじっと見下ろし、声を合わせて吠える。
だが、しばらく吠え続けた猪型の眷属は、何かを諦めたかのように、ゆっくり踵を返した。
猪型の眷属が吠えた先には、経を読み続ける羅刹の僧が作った護摩壇が鎮座していた。
●
「みんな、先日、使者を送ってきた天海大僧正の勢力に動きがあったようだよ」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、現れた僧型の羅刹について語りだした。
僧型の羅刹は、神奈川県の金時山周辺から一般人を追い出し、周囲の立ち入りを禁止してしまったらしい。
現在、金時山には、強力な動物型の眷属が活動している。
僧型の羅刹は、この眷属を金時山から移動させないようにしているようだが、その目的はわかっていない。
「だからね、みんなには、金時山に向かって、強力な動物型眷属か僧型の羅刹、あるいは、その両方を灼滅して欲しいんだ。
一般人については、僧型の羅刹が殺界形成のような力を使っているから、気にする必要はないと思うよ。
それにしても、怪我人などは出ていないとはいえ、登山を楽しみにしていた登山客などには迷惑だろうね」
まりんは、ちらっと窓の向こうにたたずむ山を見た。
動物型眷属は、二つの頭を持つ猪だ。
地面を大きくえぐる太い足を武器に、近くにいる者を片っ端に殴りつける。そればかりか、高い脚力で飛び上がって、近くにいる一人を巨体で押しつぶそうとしてくる。
そして、二頭が声を揃えて吠えることによって辺りが振動し、遠近関係なく列に振動のダメージ与え、足を鈍らせる。
眷属の中でもかなり強力であり、ダークネスに匹敵する厄介な相手だ。
僧型羅刹は、目までをすっぽりと僧頭巾で隠した男だ。なぜか、濃い赤の口紅を塗っているが、服に包まれている形を見れば屈強な男だとわかる。
巨大化させられる腕を武器に神薙使いと似たような技を出してくるが、戦闘能力は低い。
「今回の事件は、一般人に被害者を全く出してないけれど、動物型眷属が町を襲えば被害は出るだろうし、天海大僧正の配下たちの動きは、かなり怪しい所があるんだよね。
この事件をどう考えるか難しいところだから、どっちを倒した方がいいかは、みんなにお任せ!
両方倒す方法もあるけれど、少し乱暴かもしれないから、それもみんなの判断かな。
ちょっと迷うかもしれないけれど、みんなが選んだことに間違いはないと思うから、自信もってね!」
参加者 | |
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鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181) |
栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751) |
朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889) |
備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663) |
武藤・雪緒(道化の舞・d24557) |
空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198) |
上里・桃(生涯学習・d30693) |
甘莉・結乃(異能の系譜・d31847) |
●1
「ダークネスでもお経とか唱えるんだ……。しかも、眷属封じるとか霊験灼か。スゲエ」
武藤・雪緒(道化の舞・d24557)は、護摩壇の前で読経をしている羅刹の背を木の陰からのぞき見た。
羅刹は、灼滅者に気づくことなく言葉を乱さずに紡いでいる。
綾奈も別の木の陰から音を出さずに、そっとのぞいた。
宿敵の羅刹。
栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)は、きゅっと口を結ぶ。
何を企んでいるのか気になる。倒したいという気持ちもある。だが、綾奈の望みは一般人に被害を出さないことだった。そのため、今は、眷属を倒すことが優先だ。
雪緒は、骨をポキッと鳴らし、
「まぁ、まあそれは置いといて、早く眷属とご対面とするために護摩壇へと行きますかー。危険のある眷属はほっとけないしねー」
「うん、羅刹のたくらみを阻止するためにも、護摩壇だけは絶対に壊そうね」
綾奈は、仲間たちと目を合わせた。
全員が、護摩壇を壊す意気込みで位置づいている。
空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)は、片目をつむってMcMillan CMS5を構えた。
朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)は、より狙いを定めやすくなるように陽太へ癒しの矢を放つ。
陽太は、木の隙間からは、引き金を引いた。
「本当は奴の頭をこそ撃ち抜きたかったけどね」
護摩壇が音を立てて傾いた。
羅刹が突然の襲撃に驚いて立ち上がると、綾奈が護摩壇へオーラキャノンを放った。
羅刹は、言葉も出ないのか呆けるように口を開けている。
備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)は、そんな羅刹を無視して護摩壇に近づくなり護摩壇を持ち上げた。
「デストロォォォイ!」
怪力無双の腕に軽々と掲げられた護摩壇は、問答無用に分投げられた。
派手な音が響く。
それでも、壊れ方がたりないと、鎗輔は辺りにある石などを手当たり次第に投げた。
隠れていた仲間が駆けつけた時には、護摩壇は無残な姿となっていた。
「あら、ところで、僧型羅刹は?」
鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)は、いつの間にかいなくなった羅刹を探した。
辺りを見回しても、どこにもいないことから、逃げたのだろう。
「逃げるとは思わなかった。いたら、脅してでも眷属を呼んでもらおうと思ってたのに。どうせ、使いっぱの羅刹が知っている情報なんて、たかがしれているから期待してなかったけど、とりあえず、天海に話し合いの準備はあるからねってだけ伝えてもらえればかも」
鎗輔は、予定外と思いながらものんびりとした物言いは崩さなかった。
くしなは、でも……と、割り入れた。
「でも、何もせずに立ち去ってくれたのですから、よかったですっ! これで気兼ねなく眷属の泳がせ作戦ができますっ!」
くしなは、結果オーライだと言った。
羅刹が立ち去ったのは、羅刹に冷静に見極める強さを持っているからだと、くしなは信じている。
陽太は、フードをかぶりながら軽薄に笑った。
「交戦する気はもともとなかったんだから、回避できたことは結果的によかったよ」
「これで、羅刹と戦っている最中に眷属まで来たらきつかったしねー。ラッキー?」
雪緒は、ケタケタと笑いながら歯を鳴らす。
「元々の目的は、眷属を少し泳がせることですし、羅刹を傷つけずに封鎖解除ができたのですから、よかったです」
上里・桃(生涯学習・d30693)は、戦闘にならなかったことに、胸をなでおろしていた。
これで、無傷のまま眷属と戦える。
「まあ、今回は眷属を抑えるコトだし、見逃していいかなーと思っていたから、逃げても別にいいわ。今のところ、そのままにして一般人に害をなすというわけでもなさそうだしね。さて、動物型眷属を見過ごすワケにはいかないから、さっさと片付けに行きましょうか」
狭霧は、ポニーテールをなびかせて頂上へと顔を向けた。
この山のどこかに眷属がいる。
甘莉・結乃(異能の系譜・d31847)は、目を細めた。
「この依頼がどうつながるのか、全体像はわからない。でも、一般の人に被害が出る前に眷属は止めないとね」
「眷属を捜索するために、山の中へ入りましょう」
桃は先陣を切って山の奥へと進んだ。
●2
鎗輔は、眷属がどの方向にいるのか見つけるために、霊犬に周囲を見はらせた。
灼滅者たちも目を凝らすが、周囲は木々に覆われていて見えづらい。
陽太は、眷属を見つけやすいようにと、隠された森の小路を使って首尾よく事が行えるようにする。
「いた」
鎗輔は、霊犬が知らせた方角を指さした。
陽太によって避けられた草木のはるか向こうで歩いている巨体がある。
後衛という立場と利用して、前衛と離れて隠された森の小路を使いながらあちこち移動していた雪緒は、すぐに陽太と一緒に眷属の近くへと走り出した。
二人を先頭にすれば、あっという間に眷属に近づいた。
灼滅者たちに気づいていない二つの頭を持つ猪は、ゆっくりと山を下りていた。
眷属と距離を取った灼滅者たちは隠れながら眷属の後を追う。
くしなは地図を広げて、スーパーGPSに自分たちの居場所を表示させた。眷属を追うたびに移動する現在地を正確に地図に記していく。
「これで、眷属の向かおうとする方角がわかればいいんですが……」
くしなは、そうつぶやくが、今回の依頼だけで目的地がわかると思っていない。
ただ、他の場所でも眷属の向かう正確な方角などがわかれば、それらを一直線上に引き、交わった場所ができるはずとにらんでいる。
しかし、実際には眷属はあちこちと方角を定めずに歩いている。
山の中ということもあるが、ただ、ある方角へ一直線ということではなさそうだ。
桃は、自分の地図から、眷属が進むだろう予想した先を割り出した。
すぐ側に町はないが、本当に眷属がそこへ行くかはわからない。
「そろそろ、灼滅しましょう」
桃は、地図をたたんだ。
眷属の動きによって、ある程度の方角はつかんだ。
被害を出す前に眷属を灼滅するには、この山の中で行う必要がある。
結乃はスレイヤーカードを取り出した。
「うん、わかった。七星、出番だよ」
●3
陽太はフードを脱ぐと、感情を失ったかのように表情をなくし、眷属へ刃を光らせた。
突然、現れた灼滅者に眷属は驚いて二頭が吠える。
その声が、前衛陣にダメージを負わせ、足に枷をかけた。
それでも、ぐんっ、と伸びるように駆ける陽太は、容赦ない目で眷属の脛をきりつけた。
声をあげて暴れだす眷属。
追跡していた時点で眷属より頂上側にいた綾奈は、その隙を見逃さず、眷属の懐に入ると飛び上がってアッパーカットを見舞わせた。
続いて、鎗輔が炎をまとった足で回し蹴りする。
「仲間も守るようにして」
鎗輔の言葉に、霊犬が前衛の辺りを走り出した。
ソニックビートがあれば攻撃をしたが、相手に与える枷の攻撃技しかない結乃は、ギターの響きで前衛陣の傷を癒した。
雪緒は、自身の狙う能力をあげるためにバベルの鎖を瞳に集中させる。
「自分の回復はやるから、メディックの人は他の人の回復よろー」
雪緒の目が光る。
桃は、巻き付いた糸を引きちぎって灼滅者へ飛び上がる眷属を目にすると、とっさに、くしなをかばった。
頭上から巨体が降り落ち、体がきしんで痛む。
「負けま……せん!」
桃は片腕を異形巨大させ、おもいきり眷属の顔を殴りつけた。
眷属は、衝撃で、ゴロン、と、横たわる。
「隙だらけよ」
狭霧は、眷属の側面をめがけてChris Reeve “Shadow MKⅥ”を構えなおした。
素早い動きで、鋭く切り裂く。
雪緒が攻撃で盛るようにしている枷の効果か、よりダメージを受けている。
飛び蹴りしたくしなは、避けようとする眷属の足取りを鈍らせる。
「逃がしませんですっ!」
「どんどんいっちゃって。フォローはするから」
結乃は、ひたすら回復し続ける。
一人では回復の手は足りないが、それぞれが自身で回復する術を使う者が多いので、怪我が一番ひどい人へと専念できる。
うなった眷属は、地面をえぐりながら駆け、再び飛び上がって狭霧を押しつぶした。
狭霧は、刃をジグザグに変形させて、眷属の肉体をえぐるように応戦する。
そこに、狙いを定めた陽太が魔法の矢を放って眷属の頭を貫いた。
眷属は、今までにない声をあげる。
ひるんだすきに、雪緒は眷属を殴りつけて流し込んだ魔力で爆破させる。
桃は、攻撃の手を減らさないために、深くなってきた前衛陣の傷の治癒を始めた。
くしなが眷属をシールドで殴りつけ、包囲するかのように眷属の後ろを取ると、綾奈は俊敏に動いて眷属を挟み込んだ。
巨大な体に2つの頭を持つ強敵だとしても、やることは同じ、全力で戦うだけだと、綾奈は眷属が動き出す一歩を見極め、その反対へ動いてアッパーカットをくらわせる。
「キュアを引き続きお願いします!」
綾奈は、眷属によってかけられている足止めの解除を結乃に頼む。
眷属は血だらけだ。
最期まで、もう一押しのはず。
灼滅者たちの攻撃が脅威をふるうなか、鎗輔が跳ね上がって後ろ回し蹴りをした。
眷属は、数回痙攣すると遠吠えをする。
それが、眷属の最期の言葉となった。
●4
「終わりましたねっ、桃さん!」
くしなは、クラスメイトである桃の手を取って、眷属の灼滅を喜んだ。
くしなは、密かに桃となかよくなって、さらさらになびく髪としっぽをわしゃわしゃにしたいという魂胆があった。
それをしらない桃は、一緒に喜ぶ。
陽太は、今回の観察でわかったことを、帰ってからラゴウや瑠架にゆかりの地等と照らし合わせようと考えた。
依頼も終わり、帰ろうとする中、鎗輔は何か手掛かりがないかと、壊れた護摩壇へ立ち寄った。
調べてみるが、何もない。
「最近、羅刹が頻繁に出入りしてるみたいだけど……この金時山に何があるのかな? 噴火させるのかなぁ?」
鎗輔は、羅刹の座っていた場所に立って頂上を見上げた。
風が吹く。
「さて、この積み重ねが、後々どうなるんだろうね」
結乃は、この依頼にかかわる先を考えずにはいられなかった。
作者:望月あさと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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