虎よ! ん? 虎よ?

    作者:波多野志郎

     ――虎、タイガー。そう呼ばれる動物がいる。そんな虎が目撃された、そんな噂が周囲の山村に広がった。
     もちろん、本当ではない。噂は、二転三転した。転がるたびに話は大きくなって、そんな非現実的な無責任な方言はひとつの形を得る。
     それは、夜になると真っ黒な虎が夜の闇に紛れて山野を駆け巡る、というものだった。それだけなら、まだ問題は少なかったはずだ。しかし、人を見つけたら襲い掛かる――そう噂話が膨れ上がったから大変だ。
     かくして、その閑散とした山野に、黒い虎が生息する事となったのである……。

    「ブラックタイガーっていうと、海老かと思うんすけど、実際に目撃例はあるらしいっすね」
     そんな豆知識を添えて、湾野・翠織(中学生エクスブレイン・dn0039)は語りだす。
     今回、翠織が察知したのは都市伝説の存在だ。
    「その山野で、夜に黒い獣の影を見た……そこから、虎になるのが伝言ゲームの恐いとこなんすけど」
     どんな場所にも、面白がって話を盛る人間はいるもので。矛盾を埋めるために矛盾を積み重ねていくと、非現実的な話が出来上がるものである。
     しかし、それも都市伝説となってしまったのなら話は別だ。笑い話で終わらなくなる。
    「なので、みなさんには夜にこの山に行って虎狩りをしてほしいんすよ」
     夜の山に踏み入るのだ、人払いの必要はないが光源は必須となる。山は向こうのテリトリーだ、踏み入れば勝手に襲い掛かってくれるだろう。
    「でも、それは不意を打たれるって事っす。そうならないよう、十分に警戒して挑んでほしいっす」
     敵は、一体のブラックタイガーだ。見た目は黒一色で虎縞模様は見えず、黒豹にも見える。しかし、その姿形はしっかり虎である。気分は、間違い探しだ。
    「何か、こう、いろいろと掛け間違ってしまった存在っすけどね。放置すれば、犠牲者がである話であるのは確かっす。どうか、よろしくお願いするっすよ」


    参加者
    深火神・六花(火防女・d04775)
    フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)
    須野元・参三(絶対完全気品力・d13687)
    八守・美星(メルティブルー・d17372)
    雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)
    赤阪・楓(死線の斜め上・d27333)
    焼杉・ひよ(きらきら星を追いかけて・d28160)
    暁烏・宵月(もふもふと紙風船・d33309)

    ■リプレイ


     夜の山は、複雑な黒で染め上げられていた。濃淡は一定でなく、無数の闇と影が折り重なった黒だ。ピンクのノートパソコンを鞄に入れながら、赤阪・楓(死線の斜め上・d27333)は呟く。
    「今日は山野の都市伝説を探しに……っと」
     このどこかに虎が潜んでいる――頭上に輝く月を見上げて、ふと楓は気付いた。
    「人食い虎が出るから……ってのは、あの詩じゃないか」
     あくまで都市伝説、人から虎になった訳ではないのだろうが。加えて、相手はただの虎ではない。
    「くろいトラさん、かっこよさそうでち! でも、お名まえはおいしそうでちー!」
    「んぅー、山の海老さん見つかると思ぉたのにー」
     はしゃぐ焼杉・ひよ(きらきら星を追いかけて・d28160)に、箒を手に……手? どこだろう? とにかく、雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)はぼやいた。
    「山の中に逆に海老が存在していた方が絶対怖いぞ。この都市伝説はなるものを間違えたな。フフーフ、ブラックタイガーなど私にとっては子猫も同然だぞ! 気品ハンターの私が討伐してくれる」
     ふぁさ、とその優美な髪を揺らして、胸を張ったのは須野元・参三(絶対完全気品力・d13687)だ。確かに陸上に海老がいられても、その、なんだ、困る。
    「虎縞、と言う言葉がありますが。縞模様の無い虎の皮模様は縞ではないが故に、虎縞とは呼べず、しかし虎であるが故にその模様は虎縞と呼ぶべきで、虎が先か縞が先か、これは如何に……」
     フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)は、そう唸った。虎とは、縞とは、虚空とか――もはや、哲学の領域である。
    「虎って、猫科だよな。よし、もっふり!」
    「にゃー……」
     そんな哲学よりも大事なものがある、暁烏・宵月(もふもふと紙風船・d33309)は迷わずそう言い切った。その隣では、自分いるのにいじけるぞーと言わんばかりに、ウイングキャットの汾陽が鳴く。
    「ブラックタイガーね、私の影業狼達とどちらが賢いか試してみるわ」
     八守・美星(メルティブルー・d17372)は、周囲に視線を走らせ言った。今、こうしている間にも黒い虎は山野を駆けているのだから。
    (「だいぶ、獣狩にも慣れてきた……だからこそ、油断は出来ない。炎神、山の大神……御山を荒らす闇の獣を討つ、我等に御加護を……」)
     一心に祈りを捧げ、深火神・六花(火防女・d04775)は凛とその視線を闇へと向ける。
     月光照らす夜の山へと、こうして灼滅者達は挑んでいった。


    「ぬっふっふー。木を隠すには森の中ー、ウニを隠すには風船の中ー。カンペキな作戦やぁ」
     暗視ゴーグル装着したウニ、というもう何がウニなのか灼滅者なのか存在自体が悩ましい木の上から丹が言った。このウニ、フラグ管理もばっちりである。
    「それにしても、どうしてエビのアレは「タイガー」なんだろう? 調べれば案外簡単に出てくるものなのかな」
     楓は、ふと愛用のノートパソコンの入ったバッグを見た。それも、しっかりと都市伝説を退治してからでいいだろう。
    「ゲームのゆうしゃみたいでちー!」
     隊列を組んで進む一団の中で、ひよがそう歓声を上げた。楽しげな仲間達を見て、六花は苦笑する。
    「今回の面子、個性が並じゃないし……運の悪い虎ね」
     何にせよ、虎がどこから来ようと対応できる――その準備を整えて、挑んでいるのだ。
    「匂いはしないけど――」
     DSKノーズは反応しない、しかし、美星は確かにどこかから視線を感じる。相手は都市伝説、人を殺したという設定があってもまだ人を殺していないのなら、業の匂いがしないのも当然なのかもしれない。
    「目ぇ何処あるか分からんから迂闊に攻撃できへんやろねぇ」
     しっかりと暗視ゴーグルを絞め直し、丹は再びフラグを立てた。その人造灼滅者ならではの外見では、確かにそうだろう――だが、しかしだ。
    「それ、ゴーグルでわかっちゃったりしない?」
    「え?」
     宵月の指摘に、丹が動きを止めた瞬間だ。
    「炎神! 輪壊!!」
     拍手を一つ、六花が解除コードを唱える。ガサリ! という大きな木々のこすれる音に、パン!! と丹の箒にくくり付けられていたダミーの風船が破裂した。
    「姿を現せ、獣!」
     掌から流れる血をクリエイトファイアで燃やし、フランキスカがなぎ払う。鮮やかな炎が輝き、闇の中から巨大な影を浮かび上がらせた。
    「ふふ、所詮、猫――ね、こ、ねえええええええええええええええええ!?」
     参三が、余裕の態度はどこにやら、悲鳴を上げてライドキャリバーであるヴィネグレットの背後へと飛び下がった。ガクガクと震える参三だが、それにツッコミを入れている余裕は、他の者にもない。
    『グル……』
     そう喉を鳴らしたのは、確かに真っ黒な虎だった。体長はニメートルほど、この時点で本来の虎よりも大きいのだが。問題は、その存在感である。その爛々と輝く瞳、覗く剣呑な牙。猫科ではあるが、猫とは比べものにならない圧力がそこにはあった。
    「危ぅないとこぉやったわぁ」
     紙一重で急上昇したからこそ、免れた――丹がゆっくりと降りてくる。
    『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     腹の底に響く重低音、ブラックタイガーの咆哮と同時、黒い殺気が雪崩のように灼滅者達を襲った。しかし、それに怯む者は……いたが、それは名誉のために名は伏せておこう。
    「六十三不思議が宵月、行くぜ!」
    「にゃーにゃー!」
     縛霊手を掲げ宵月が除霊結界を展開、汾陽がふさふさの尾を振ってリングを光らせる。そして、丹が送り虎注意と書かれた黄色い看板をぶんぶん振り回してイエローサインを発動させた。
    「回復重点で行くんよぉ」
     ダン! とブラックタイガーが、地面を蹴る。その動きに、フランキスカがダブルジャンプ、メルクリウス=シンの過剰量の炸薬、噴進剤の爆発によりドン! と加速を得ると頭上を取った。
    「獣ならではの動き、だが遅い!」
     ゴォ! とフランキスカのスターゲイザーが、ブラックタイガーを捉える。しかし、虎は構わずそのまま駆け抜けた。
    「ひよ、トラさんからみんなをまもるでち!」
     その前に立ちはだかったのは、ひよだ。飛べないひよこは、虎の突進を受け止める!
    「!? もっふもふでち!!」
    「ッ!?」
    「にゃー!」
     ひよの歓声にガタッと反応した宵月が、汾陽に半眼された。軽々と浮き上がってしまったひよは、そのままその小さな翼で縛霊撃を振り下ろす。
    「そこから先は、荒らさせないぞっと」
     そして、ブラックタイガーの目の前へ頭部がカラスのそれになっている案山子が立ち塞がる――楓の烏案山子奇譚だ。ブラックタイガーの巨体が、強引に烏案山子によって止められた。
    「もうひとつ!」
     そこへ、美星が半獣化した腕によって十字にブラックタイガーを切り裂く。ザザン! と美星の幻狼銀爪撃を受けて、ブラックタイガーがのけぞった。
    「ヴィヴィヴィ、ヴィネグレット!? 早く早く!!」
     腰を抜かしたままバンバン! と参三がヴィネグレットのシートを叩く。すると、ヴィネグレットがガガガガガガガガガガガガガガガガン! と木霊するほどの機銃の掃射を鳴り響かせ、ようやく立ち上がった参三も、参三グレートブリリアントフリンジを射出した。
    『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
    「ひ!?」
     わずらわしい、と唸ったブラックタイガー。身をすくませた参三の横から、六花が駆け出した。
    「緋焔、灼き祓え!」
     緋焔刀「初芽(うぶめ)」――レーヴァテインの炎をまとった白刃が、ブラックタイガーを切り裂く! たまらず横へと跳んだブラックタイガーへと、六花は凛々しく告げた。
    「獅子に挑むか、虎よ? 金神に歯向うか、虎よ? 御山の大神(おおかみ)に、敵うと思うか!? 虎よ!!」
    『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
     ブラックタイガーが、その爪を薙ぎ払う。
    「ハティ、スラッシュ!」
    「その爪、へし折らせてもらう!」
     美星の足元から駆ける影の狼、ハティが畏れをその角へと宿しフランキスカは十字架を模した小振りな銀色のナイフを虹色の軌跡と共に、振り払った。


     夜の山は、ついには戦場――否、狩り場となった。狩るか狩られるか? ここには、ただ討ち滅ぼされるだけの獲物はいない。狩る者同士の戦いは、ただただ激しさを増していった。
    「だが! 所詮は一匹! でかくて強くて恐ろしいだけの猫もどきだ!」
     気品力、という名の余裕を参三が取り戻しつつあるように、戦況そのものは灼滅者達が優位に立っている。しかし、楓の表情は晴れていなかった。
    (「この国の山野には虎なんていなくて、せめて猫どまりで……でも、そういった状況下でも虎が出てくるってところに、都市伝説の強さを感じる、な」)
     そこにあるのは、理屈でも常識でもないのだ。ただ想う、ただ恐れる、もしかしたら――その想像が生み出した強さを、楓は決して侮らない。
     攻防入り乱れての戦い、戦いは唐突に――しかし、確かな理屈があるからこそ決着がつく。
    「逃がさないで、スコル!」
    「気狛、吠え叫ぶ!」
     美星の命令に従い影の狼がその牙を剥き、畏れを宿した斬撃を六花は繰り出した。しかし、ブラックタイガーは影の内側から蹴破り、その斬撃を牙で受け止める。
    『グル、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     吼え、ブラックタイガーが駆け出した。その目の前に、ひょこっとひよが顔を出す。
    「トラさんトラさん、ひよともあそんでほしいでちー!」
     猛獣使いの気分でち! と、ひよはブラックタイガーの牙をジャンプ一番飛び越えた。そして、ぐるん、とブラックタイガーの背へと跳び乗っる!
    「ひよ、トラさんのうしろにのるの、ゆめだったでち!」
     乗ったからこそわかる、もふもふ感。そして、その黒地の毛並みに、しっかりと同じ黒の虎縞模様がある事にも気付けた。ヒュガ!! とひよが、殲術執刀法で切り裂くと汾陽の猫魔法がブラックタイガーを拘束する。
    「にゃにゃー」
    「主の仇を討った化け猫の話、聞くか?」
     ピシリ、とちゃっかり黒の折り紙で黒虎を折っていた宵月が、化け猫奇譚を語る。ブラックタイガーと化け猫の激突、そこへ、丹がごろんとでも擬音をつけたくなる勢いで迫った。
    「いぃくでぇ、ウニの一撃ぃ、受けてみぃ!!」
     ザザザザン!! と回転と共に放たれる、斬撃斬撃斬撃――丹の殲術執刀法がブラックタイガーを切り刻んでいく。それでもなお、ブラックタイガーが強引に動いた。倒れない、虎とはそういうものだ。最後の最期まで――ならば。
    「その最後を、くれてあげないとね」
     ヒュガガガガガガガガ! と楓のレイザースラストの射出が、ブラックタイガーを貫き、引き裂いた。ブラックタイガーの体勢が崩れたそこへ、ヴィネグレットが突撃してのけぞらせた。
    「私の気品高きバスタービームで確実に撃ち抜き葬ってくれるわ!!」
     ギュガ!! と参三の撃ち込んだバスタービームが、ブラックタイガーを撃ち抜いた。一歩、二歩、よろけながらもなお進むブラックタイガーへ、三つの影が迫る。
    「祓魔の騎士・ハルベルトの名に於いて汝を祓う。闇へと還れ!」
     ダブルジャンプで跳躍した、フランキスカが。
    「散りなさい!」
     両腕を狼の前腕に変え、指を組んだ両腕を振り上げた美星が。
    「御山での暴虐、常世にて悔いよ! 闇虎!! ――飛燕、捉えろ……!」
     居合いの構えを取った、六花が。
    『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
     戦意絶えぬ、その雄叫びが断末魔となった。斜め十字に斬り払う炎の二刀が、真上から振り下ろして叩き潰す銀腕が、横一文字に放たれた居合いが、ブラックタイガーを斬り刻み、押し潰し、断ち切る。
     雄叫びは尾を引いて、夜の山に木霊した。その残響が消える頃には、そこには黒い虎の痕跡は残っていない。都市伝説の、消滅だった……。


    「ふ、所詮は猫もどき。他愛もない」
     優雅に前髪をかき上げ、参三は気品高く微笑んだ。その笑みに、楓はとてもとても優しい笑みを見せる。
    「炎神、大神、オオミカミ……御照覧あれ……」
     残心を解き、納刀した六花は武装解除、拍手を三つ打ち一心に祈念した。戦いが終われば、あれもまた自然に帰るべきものだ。真摯に、六花は祈った。
    「せっかくだ、この都市伝説、あたしの七不思議にする。タイガーは虎、虎は猫科。もっふり範囲オールオッケー!」
     宵月がその手をかざせば、確かにもふもふとした感触と共に自分のうちに宿るものがある。それを見届け、ひよは言った。
    「ひよ、おなかすいたでちー。トラさんたべれないから、エビたべたいでちー!」
     運動した分、お腹が減る。それは、健康の証だ。後片付けを終えた美星は、ため息と共に告げる。
    「そうね、それも悪くないかも」
     何にせよ、何かを食べよう――虎退治を終えた灼滅者達は、歩き出した。
    「そういえば……」
     楓は、思い出す。あの話では、人になった虎は虎として生きるために、山へと走り出して終わるのだ。しかし、人として生きる彼等は、山を後にする。きっと、行き先の違いこそが、虎と自分達の差なのだと、楓は思わずにはいられなかった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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