亘理イチゴ怪人は、天才?

    ●ダークネス
     イチゴはバラ科の植物である。一般的に「イチゴ」と呼ばれているのは、オランダイチゴになる。
    「天才である僕は、この地を支配して亘理イチゴキングダムを築き上げる事にした。僕の天才度からすると、支配は簡単に違いない」
     天才を自称する男は、サングラスをかけていた。「イチゴ」と書かれたTシャツに、パーカーを羽織っている。
     一般人と大差ない見た目だが、宮城県亘理町(わたりちょう)のご当地怪人である。名は亘理イチゴ怪人。
    「それでだな……」
     怪人から離れた位置で、サラリーマン風の男が通話中。「スレンダー」「ドッグ、マジご苦労」「今日か!」などと言っていたが──。
    「『灼滅者が怒熊(どぐま)地獄で強化』だって……!?」
     怪人には、上手く聞き取る事が出来なかった。
    「『怒熊地獄』は、怒り狂った熊が襲ってくる地獄だろうけど……。そんな地獄で、灼滅者が強化……? あの男に、詳しい事を聞かなくてはいけない!」
    「やっべ、遅刻する! 猛ダァァァァァァッシュ!」
    「なかなか速いけど、僕の天才的頭脳があれば……」
     などと言っている間に、サラリーマン風の男を見失った。
    「……とりあえず、灼滅者なんかに邪魔をされるのは困る。キングダムを築き上げる前に、この地の灼滅者を始末してやろう! ……灼滅者って、どこにいるんだ……?」

     寸多・豆虎(マメマメタイガー・d31639)は、宮城のご当地ヒーロー。趣味のクレーンゲームをしていると、高校生くらいの美少女が隣に来た。
    「クレーンゲーム、スタート!」
     少女がコインを投入し、ボタンを操作する。
    「一発でイチゴのぬいぐるみをゲット……と思ったらアンパンだった! あたしが欲しいのはイチゴよ、イチゴ!」
    「宮城でいちごつったら、亘理か」
     ご当地怪人もいるかもしれないと思いつつ、豆虎は欲しいものを入手した。

    ●教室にて
    「寸多さんが予想した通り……宮城県の亘理町に…………ご当地怪人がいました…………」
     野々宮・迷宵(高校生エクスブレイン・dn0203)が言った。戦国武将のDさんみたいな恰好をしている。
    「か、兜が……重い…………」
     兜は脱ぐ事にした。
    「『亘理町を支配して、亘理イチゴキングダムにする』のが、亘理イチゴ怪人の目的です。彼も、キングダム系怪人ですね」
     キングダム系怪人は、キングダムを築くという発想は同じだが、ご当地怪人の派閥やグループというわけではない。
     なお、亘理イチゴ怪人はイチゴをくれない。これも、キングダム系怪人に共通している特徴だった。
    「亘理イチゴ怪人は、ご当地を支配するためにも、灼滅者の駆逐を考えているみたいです」
     灼滅者は、怒熊地獄なる地獄で強化されたと思われている。原因は聞き間違い。灼滅者探しは、手間取っているようだ。天才を自称する割に、良案はない様子。
    「みなさんには、ここにある河川敷に行ってもらいます。敵の使用サイキックは、ご当地ダイナミック・ジグザグスラッシュ・ヴェノムゲイルです」
     時間帯は早朝で、人払いは不要。敵は積極的に灼滅者と戦おうとしているので、逃げたりはしない。
    「みなさんの力を合わせれば、苦戦する事もないでしょう。亘理イチゴ怪人の灼滅、よろしくお願いします」


    参加者
    橘・彩希(殲鈴・d01890)
    黛・藍花(藍の半身・d04699)
    神楽・武(愛と美の使者・d15821)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)
    寸多・豆虎(マメマメタイガー・d31639)
    田中・良信(宇都宮餃子の伝道師・d32002)
    有馬・鈴(ハンドメイダー・d32029)
    櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)

    ■リプレイ

    ●河川敷にて
    「まあ、何とかと天才は紙一重といいますし。きっと、今回の怪人さんは紙一重向こう側だったのでしょう」
     黛・藍花(藍の半身・d04699)が、自分とよく似た姿のビハインドを喚び出した。無表情気味の藍花とは対照的に、ビハインドの口元には笑みが浮かぶ。
     河川敷にいた亘理イチゴ怪人は、天才を自称する男。怪人のシャツには「イチゴ」と書かれている。
    「おっ! 良いTシャツ着てるじゃないか」
     田中・良信(宇都宮餃子の伝道師・d32002)は、栃木のご当地ヒーローだ。
    「栃木が誇る夏秋イチゴ持って来たから、味見してみなよ。みんなの分もあるぞ!(これで場の評価も栃木優勢に!)」
    「栃木のイチゴか。その実力、天才である僕が確かめてあげよう」
     怪人がイチゴを食べる。
    「む……(美味しいじゃないか……)ところで、君達は?」
    「怒熊地獄帰りの灼滅者を駆逐しようとしたのは、君かな??」
    「え?」
     怪人の視線が、有馬・鈴(ハンドメイダー・d32029)に。
    「あの地獄の、通勤ラッシュも斯くやっていう熊密度。君にも体験してもらいたかった」
    「ボクたちに会いたがってたみたいだから、来てあげたよ、うん……」
     人狼である櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)の頭には、狼の耳が。
    「ボクたちも随分人気者になったみたいで、ちょっと嬉しいかな……、うん」
    「天才の僕は、ここに灼滅者が来ると思っていたんだ(嘘だけど!)」
    「……あなたが、特定界隈では天才と名高い、イチゴ怪人さんですね。……まあ、そんな雰囲気が出ている気がしなくもありません」と藍花。
    「なんで、『イチゴの怪人!』って見た目じゃないのかな? もうちょっとこう、見た目にも凝ろうよ!」
     柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)は、やよいひめ怪人(自称・天才。やよいひめは群馬のイチゴ)と戦った少女。あの怪人も、見た目は人間だった。
    「ご当地の宣伝って、まずは姿からじゃないの???」
    「天才である僕のTシャツが広告かな」
    「ご当地怪人って事は、イチゴについて色々知ってンだよなァ?」
     寸多・豆虎(マメマメタイガー・d31639)が訊いた。
    「天才って事は、どこまでも知ってるって事だろ。亘理のイチゴ、どんな加工品があるか知ってるか?」
    「僕は天才だからね。お菓子やジャムといった定番に、イチゴのワインもある。更には、ピザにカレーと可能性は無限大だ」
    「わー、天才、凄い」
     橘・彩希(殲鈴・d01890)が(ちょっと意地悪な)笑顔を見せた。
    「その勢いで、是非、亘理の苺の推しポイントを教えて欲しいわ。天才なら、当然知ってるわよね?」
    「僕は天才だからね。亘理のイチゴの推しポイントは、あの味だ」
    「まー、自分で自分のことを天才とかいう奴は、大抵は頭の螺子が飛んでるアホよね」
     神楽・武(愛と美の使者・d15821)は、かなり背が高い上に筋肉がムッキムキ。
    「稀に、螺子飛んでる本物の天才ってのもいるケド。今回はアホの方で間違いなさそう(空耳選手権でもあったなら、優勝候補かも知れないケド)」
    「こ、この僕がアホだって……!?」
    「相手するのも馬鹿らしいってレベルよね。放置もできないから、現実ってのを教えてあげマショ☆」
     スレイヤーカードの封印が解かれ、灼滅者が武装する。
    「怒熊地獄帰りの力、見せてあげる。天才なら、この意味わかるよね。覚悟して」
     鈴が言った。怪人はナイフを持つ。
    「天才である僕に勝てるとでも?」

    ●天才?
    「まとめて片付けてしまおう」
     毒の竜巻が発生した。
    「イチゴのガイアパワーをぶつけ合おうぜ!」
     良信と餃子武者(ライドキャリバー)が動き、豆虎の相棒である牛タンとビハインドも壁となる。
    「……天才である僕の攻撃でも、突破出来ないか」
    「イチゴ界における東北の雄、亘理。相手にとって不足はない!『いちご王国とちぎ』のヒーローとして、キングダム建国を許す訳にいかないぜっ!」
    「亘理のイチゴは、まぢ美味いンだよなァ。イチゴ狩りの時期は、早い時間に行かねえと、その日の分無くなるし。亘理まで行ったのに、何回イチゴ食えなかった事か……。余談は置いといて──」
     牛タンがフルスロットル。豆虎は、非物質化させた剣を振るう。
    「これが、灼滅者の攻撃か……!」
    「……自称・天才ですか。まあ、怪人さんが何をどう勘違いしようが、今更といえば今更ですが……。とりあえず、普通に灼滅しましょう」
     ビハインドが微笑み、霊撃を繰り出す。藍花は指輪を敵に向け、魔法弾を発射した。
    「天才でも何でもいいですが、亘理イチゴについては何か無いんですか?(ご当地愛のあまり感じられない怪人さんは、怪人さんとして認められないですね)」
    「イチゴのアイスにイチゴのジャムとイチゴを乗せるのが、天才である僕のオススメだ」
    「天才(自称)かー……」
     玲奈は呆れ顔。
    「ここまでノープランなキングダム系怪人は、初めて……?」
     越の丸ナス怪人の事を思い浮かべる。頭脳派を自称していたが、頭脳派ではなかった。
     ちなみに、藍花が戦ったシラヌヒ怪人は、いきあたりばったりだった。
    「…………ひょっとして、おばかばっかり?」
     空中に十字を描いた玲奈は、線が交差する点を叩く。敵に向かって光芒が走った。
    「僕は天才だ」
    「食べ物をくれない怪人さんなんて、珍しいね……。ちょっと期待してたのに残念だよ、うん……」
     聖別化修道女服(聖別された銀糸が使われているシスター服)を纏う聖は、銀爪で攻撃。
    「仮にイチゴを持っていても、灼滅者にはあげないかな」
    「……残念だね、うん」
    「いちごキングダム、とても心惹かれるけれど──」
     彩希もイチゴ好き。
    「苺をくれないのなら、寧ろ支配されては困るの」
     そんな怪人はぶっ飛ばしてやる的な思いを燃やしつつ、グラインドファイアで焼いた。
    「まさか……怒熊地獄の業火を取り込んだのか……!?」
    「どぐま地獄? 聞いたことあるようななかったような。貴方は、どんな強化をされたと思うの? どんな想像してるのか、是非聞いてみたいわ(面白そうだもの)」
    「怒り狂った熊に襲われる地獄を生き延びたなら、何か凄い感じになると思う」
    「ああ、それは知らないわね」
    「熊が襲ってくる? アンタ、本気で言ってるの?」と武。
    「本気だけど……」
    「本当の怒熊地獄がなんだか知らないで言ってるデショ」
    「知らないんだ……天才なのに……」
     良信が、哀れむような目で怪人を見る。
    「ヤダヤダ、無知って罪だワ。アタシの美しさも罪だケド」
    「……え?」
    「アンタ、今から『天才(笑)』に変えなさいな」
    「(笑)は余計だ」
    「ていうか、その格好、美に対する冒涜よね。どこからどう見てもダサさの塊。恥ずかしくないわけ?」
     武も、炎の蹴りをお見舞い。
    「相手がアホでも、戦いは美しく鮮やかにいかないとネ☆」
    「僕は天才だ。アホでもダサダサでもない」
    「怒熊地獄の熊料理は、わりといけた。もっと臭かったり堅かったりするもんだと思ってたんだよね」
     鈴は防護符を飛ばした。彩希が「聞いたことがあるわ」とうなずいている。
    「まさか、怒熊地獄の熊を……!?」
    「(おれがかんがえたさいきょうの)怒熊地獄……恐ろしい場所だった……!」
     真顔になった良信の隣で、餃子武者が自己回復。
    「恐い熊の着ぐるみが、めっちゃ餃子を食わせてきて……腹一杯で苦しい感じの地獄だったよな?(個人の願望。この『餃子は違うだろ!』ってバレバレ感!)」
     クルセイドソードから風を吹かせた良信は、元・宇都宮餃子怪人。彩希は「それも聞いたことがあるわ」とうなずいておく。
    「怒熊地獄は、餃子地獄でもあったのか……!」

    ●イチゴ
    「僕の天才的なナイフ捌き、見せてあげよう!」
     怪人が斬りかかる。餃子武者が仲間を庇い、良信が愛機を褒めた。
    「……邪魔なマシンだ……!」
    「そんな攻撃、怒熊にくらべたら蚊が止まったみたいね」と鈴。
    「こ、この亘理イチゴ怪人の天才的な攻撃が……蚊……!?」
    「もういっこって言いたくなる亘理のイチゴは、最高だよなァ!」
     牛タンが発射した銃弾が、怪人にヒット。
    「亘理のイチゴに、どのぐらい愛着持ってンだ? オレより熱い想いがあるなら、その情熱を認めてやるぜ」
    「僕は、亘理のイチゴを愛している。当然、パンツはイチゴ柄だ!」
    「…………」
     グラインドファイアが炸裂した。
    「なんというか、さすが天才(自称)ですね。(自称)なだけの事はあります。……あの愚者に、引導を渡してあげましょうか」
     藍花の言葉にビハインドが首肯し、微笑んだ彼女は霊障波を飛ばした。今度は藍花が敵に接近し、縛霊手で殴りかかる。
    「愚者だけに『ぐしゃっ!』……なんちって」
    「……さすが天才(自称)ですね」
    「やよいひめ怪人は、少なくとも、やよいひめの美味しい食べ方──特に、お菓子作りについては天才だったと思うんだ。美味しかったし」
     玲奈が、怨京鬼の柄を握った。鬼を斬るために作られたと言われる剣だ。
    「で、貴方は何か、亘理のイチゴを美味しく食べる研究とかしてるのかな? 例えば、どんなお菓子に使うと美味しい? というか、今って思いっきり季節はずれだよね?」
    「どんなお菓子って……何でも美味しいとも」
    「えーっと、服のセンスは、まだ貴方のほうがマシだけど。そのサングラスは、どーかと思うよ?」
     抜き放たれた黒い刀身が、非物質化して敵を斬った。
    「このサングラスは、僕のお気に入りだ」
    「ご当地怪人さんって、やってることは世界征服だから、よくないことだけど。皆、地元の特産品には愛を持っていたよ、うん」
     聖が護符を飛ばし、仲間を癒す。
    「でも、あなたには、それをちょっと感じないな……」
    「僕のパンツは──」
    「たとえボク達を倒して地元を支配しても、物理的に支配できても心までは……ガイアパワーまでは支配できないと思うよ、うん」
    「ガイアパワーを支配……!? 実に天才的な発想……いや、僕の方が天才だ! この溢れる天才パワー!」
    「……それも感じないね、うん……」
    「苺をくれない怪人は、叩きのめすわ」
     彩希の左手には、花逝と言うナイフ。
    「逃がさない」
     彩希が高速で移動。怪人の死角へと回り込み、笑顔で斬りかかる。黒い刃が閃いた。
    「因みに、苺は食べる事にしか興味ないの」
    「僕は、イチゴを愛でるのも好きだ」
    「ていうか、アタシ、あんまりイチゴ詳しくないのよね。ちょっと説明しなさいよ」
    「イチゴはオランダ──ぶへわっ!?」
     武によるオーラの砲撃が、怪人を強襲。
    「あら、ごめんあそばせ♪ ちょっとくらい、気合い見せてみなさい」
    「山形で食べた東北の果物がおいしかったから、また東北に来ちゃった……のに、イチゴ怪人のくせにイチゴくれないとかなんなの? ホントに怪人なの??」
     鈴が持つ蝋燭に灯るのは、黒い炎。煙が蝶のような形になり、飛んでいった。
    「僕は天才ご当地怪人だ」
    「いま、全国各地がイチゴの品種改良戦国時代! 領地争いの戦国武将になった気分で楽しいな!」
     餃子武者がフルスロットル。良信は、ご当地の力を集中させる。
    「様々な品種のイチゴパワーが、万華鏡のように煌めく! これが、とちぎのベリーベリービームだっ!」
    「くっ……! せめて、1人は倒してやる!」
    「牛タン、行け!」
    「亘理イチゴダイナミック!」
     仲間の盾となった牛タンは健在。歯噛みする怪人に突撃した。
    「……ここまでか……!」
    「終わりにするぜ!」
     豆虎が、怪人を地面に叩き付ける。
     爆発に包まれた怪人は、起き上がれない。
    「……僕は負けたが、亘理のイチゴは不滅。どんな困難にも……屈しはしない…………!」
     亘理イチゴ怪人が消滅した──。
    「フッ。これで苺の名誉と……序でに亘理の平和とかも守られた」
     彩希が満足気な表情。
    「せっかく足を伸ばして来たのですし、何かお土産でも探して帰るのが良いでしょうか。イチゴは季節外れかもですが」
    「イチゴの加工品は食えるンじゃねえかな。っつー訳で、食いに行こうぜ」
     藍花と豆虎が言った。
    「亘理町の郷土料理で、はらこ飯っていうのがあるらしいんだけど。食べて帰らない??」
     鈴がそう言うと、良信が続ける。
    「はらこめしとかつぶ貝めしとか、うまそうなモンがいっぱいあるな!」

    作者:Kirariha 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ