敗れ続けた報復を

    作者:長野聖夜

     古き良き景観を残す、豪奢な西洋屋敷。
     しかしその屋敷は、全ての良さを台無しにしてあまりある、莫大なゴミの山に埋もれている。
     その屋敷の最奥部……恐らく、主の寝室であろう。
     一際高く積みあがったゴミの山に埋もれる様にした、脂ぎった男が……やや引き攣った嗤い声を上げていた。
    「ヒヒッ……おのれ、おのれ、邪魔者達ぃ! このままでは、僕を僕の瑠架ちゃんが見てくれない! こんなに僕は瑠架ちゃんのことが助けたくて、助けたくてしょうがないのに! あぁぁぁぁ、瑠架ちゃん、僕の、僕の大好きな瑠架ちゃ~ん!」
     ゴミの山の中央で暴れ回り、周囲に口から液を吐き出すその男。
     その液がゴミからユラリ、ユラリと浮き上がり……程なくしてモゴモゴと蠢くと、数体の巨大なタトゥーバットへと姿を変えた。
    「いけぇ! 僕の眷属、Vergeltung! いつも、いつも僕の邪魔をする邪魔者達を暴れ回ってやっつけてあの世に送り、僕が瑠架ちゃんにとって、心強い存在なんだと理解させてくれ! そうすれば、僕の存在に心強くなった瑠架ちゃんが、必ず僕の所にやって来る! さぁ、行け! そして、思い出させてくれ! 子爵である僕のことを僕の、僕の瑠架ちゃんに~!」
     まるで子供の様に喚き散らす男に背を向け……Vergeltungと名付けられたタトゥーバットに率いられたタトゥーバットの群れは……いずこともなく飛び去って行った。
     
    「……このヴァンパイア……一体、なんなんだ……? ……本当に、何処にいる……?」
     軽くこめかみを解す様にしながら、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230) が溜息をついている。
     すると、それに気が付いたのか、何人かの灼滅者が優希斗の方を振り向いた。
     そんな灼滅者達に優希斗は軽く苦笑を零してから1つ息をつく。
    「やあ、皆。皆は最近、呪術紋様を体に刻まれたタトゥーバットが大量発生して、人々を襲っているのは、知っているよね?」
     優希斗の問いかけに、灼滅者達は、其々の表情で返事を返す。
     そんな彼等に1つ頷き、優希斗が軽く肩を竦めた。
    「そんな、タトゥーバットたちが……また、姿を現す光景が見えた。でも……今回の奴等は、少しだけ違うみたいで」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で続きを促す。
     そんな灼滅者達を一通り見回すと……彼は、小さく溜息をついた。
    「Vergeltungと呼ばれるタトゥーバットに率いられたタトゥーバット達が、とある場所にある墓に群がる。でも……その狙いは、どうやら、君達みたいなんだ」
     優希斗の言葉に、灼滅者達は思わず息を呑んだ。
    「今回、タトゥーバットたちが現れるのは、さっき少しだけ話した通り、とある夜の墓場だ。夜の墓場だから……少なくとも、人気は無いと思う。まあ、人を近づけさせない様にしておくのが、ベストだろう」
     簡単に説明をした優希斗に頷きかける灼滅者達に頷き返しながら、囁く様に続ける。
    「問題は……能力の方だろうな。このタトゥーバットたちは、他のタトゥーバットと同じく、眼球状の『呪術紋様』を施されている。空中を自在に飛翔するタトゥーバットたちは、僕達には聞くことの出来ない音波で呪文詠唱を行う……筈なんだが、こいつらが得意としているのは……実に原始的な行為。……要するに、吸血だ」
     勿論、他のタトゥーバットたちと同じく、灼滅者達を催眠状態にすることの出来る超音波を発することが出来る。
     けれども、このタトゥーバットたちは、その音波によって彼らを眠りへと誘った上で、上空から奇襲し、その血を啜るのだ。
    「そのタトゥーバットたちのボスであるVergeltungは、飛行状態だ。更に同じ飛行状態で2体が宙に浮き、そして、3体のタトゥーバットが壁となって君達の前に立ちはだかる。残りの2体は、中衛から君達の動きを妨げる為に、様々な行動を行って来るだろう。……まあ、君達を倒す為の、陣形だから、ある意味で当然かもしれないけれど」
     勿論、此処で逃がしてしまえば、タトゥーバットたちは気ままに人々の生き血を啜りに飛び回る。
     ……その先に待っているのは、阿鼻叫喚の地獄絵図であることは疑いない。
    「だから……確実に灼滅して欲しい。……厳しい戦いなのは、間違いないだろうけれど、ね」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情のままに、溜息をついた。
    「……業を煮やしたヴァンパイアが……眷属に力を与えて強化して襲ってきている。……今までと同じ様に戦ったら、もしかしたら帰って来れなくなってしまうかも知れない。だから……どうか慎重に、そして確実に灼滅して、帰って来てくれ。……よろしく頼む」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々に頷き、静かにその場を後にした。


    参加者
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    ジンザ・オールドマン(オウルド・d06183)
    琴鳴・縁(雪弦フィラメント・d10393)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    斎・一刀(人形回し・d27033)
    荒谷・耀(護剣銀風・d31795)
    リュカ・メルツァー(光の境界・d32148)

    ■リプレイ

    ●強力な敵
    「自分は子爵だから瑠架さんから出向くべきとか思っているんですかね? しかし、何で誘き出すのに墓なんでしょうか?」
     秋の夜のカーテンに包まれた墓場に辿り着きながら、琴鳴・縁(雪弦フィラメント・d10393) が首を傾げる。
     表向き普通に聞こえるが、その心の奥底にある負の何かを、紳士的にスルーしつつ、ジンザ・オールドマン(オウルド・d06183) が続けた。
    「墓場ってのは、屍体を処理する手間も省けるって事じゃないですかね。夜も墓場で何とやら、と」
    「まっ、それだけ嫌がらせには成功しているってことだから」
     いっそこのままご本人が登場か居場所が分かるかでもしたらありがたいんだけどね、と思いながら、月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030) が苦笑して返す。
     そうこうしている間に、キキキキキッ……と言う不気味な声が、彼女たちの耳に届いた。
     ついでにバサバサと周囲を飛び回る羽音。
     赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959) が現場に来る前に予め購入していた携帯ランプの光の端に、キキキッ……と奇怪な声を上げながら飛んでいる紋様入りの蝙蝠が浮かんでいる。
    「おっおー、何か飛んでいるおっ」
     マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401) が呟きながら棒状のケミカルライトを戦場へ適当にばら撒く。
     バラバラと音を立てて放たれたライトが、舞台照明の様に周囲を照らし出し、全部で8匹のタトゥーバットたちを映し出した。
     内、3体は超上空に飛び上り、まるで見下すかのように此方を見ている。
    「……うわぁ……まるで私達を見下す様にしている感じが……如何にも、あの子爵さんの眷属って感じですね……。敵とはいえ、瑠架さんに、女性として同情しちゃいます」
    「まー、しつこい人は嫌われるんじゃない?」
     荒谷・耀(護剣銀風・d31795) が少しだけ遠くを見るような眼差しで天を仰ぐのに、心底同意する様に頷きながら、玲が殺界形成を展開。
     続けて布都乃が音を遮断する結界を生み出し人払いを済ませた後、斎・一刀(人形回し・d27033) が鋼糸を周囲に仕込む。
    「ケケケッ。来るぜぇ」
     一刀の声掛けに応じる様に、タトゥーバットたちが金切り声の様な音を立てて一斉に群がって来た。

    ●戦闘開始
    「キィー、キィー!」
     号令の様な、鋭い音波。
     それは、常人とは比較にならない程に優れた聴覚を得ている灼滅者達にとっても、ただの鳴き声にしか聞こえない音。
     だが、その音を受けた前衛の3体のタトゥーバット達は、明らかに変化を及ぼしていた。
     双翼を一際強く張り、歯が、人の犬歯か、と思える程に鋭くなる。
    「……あの音波が、応援波と言う訳ですか。じゃあ、あれが、Vergeltungなんですね」
     警戒を一際強めながら、耀が素早く三宝の御幣を掲げる。
     山吹色の宝玉が光り、結界を生み出し仲間達を守るための防護とした。
     戦闘にいる者達よりもやや後ろにいたタトゥーバットたちが、強烈な眠気を催す波動を放って来る。
     波動と、山吹色の結界がぶつかり合い、せめぎ合って弾けた。
    「催眠音波が厄介です、気を付けて!」
     もう1体が、耀を危険と判断したか、そのまま飛び掛かり襲おうとするが、一刀のビハインドが両腕を交差させて、前に立ちはだかり、守る。
     そのまま霊衝波により、墓の周囲にある木々を抜き去り、一斉に叩きつけた。
     木や石の破片にパラパラと打ち据えられ、負傷するタトゥーバット。
    「キィィィィ!」
     お返しとばかりに、突進。
     吸血の狙いは、布都乃。
     ただ、其れよりも先にメカサシミが割込み、タトゥーバットに齧りつかれる。
    「……吸血って言うけれど、メカサシミからも吸収できるんだね」
     その様子を見て、思わず呟く玲。
     吸血と言いつつ、その実態は生命力ではなく、サイキックエナジーを吸収するってことなんだね。
     そんなことを考えながら、メカサシミの脇をすり抜け、素早く玲はその踵に炎を纏わせる。
    「Vergeltung。報復、か。そっくりそのまま返してやろうじゃん!」
     玲が突出していたタトゥーバットに炎を纏った強烈な踵落としを叩きつけたのに合わせて、威勢のいい掛け声と共にリュカ・メルツァー(光の境界・d32148) が、罪を灼く全き光を撃ち出す。
     撃ち出された光線が、タトゥーバット達を撃ち抜くが……まだまだ余裕がありそうだ。
    「カカカッ」
     笑い声を上げながら、一刀が常人を圧死させる兼ねない程の殺意を叩き付ける。
     その攻撃に、僅かにその身を強張らせる、タトゥーバット達。
    「これで蝿から、『的』位にはなりますかね」
     あまりの殺意の鋭さ故か、僅かに動きを鈍らせたタトゥーバット達を見て呟きつつ、ジンザが氷の魔術を展開する。
     飛び回るタトゥーバットたちの周囲が氷点下を越えて凍りつき、咄嗟に1体のタトゥーバットが、1体に覆いかぶさるが、その分、ただ攻撃を受けるだけであった1体よりも、両翼の凍てつく速度が速い。
     寒さにその身を強張らせながらも、2体のタトゥーバットは、キィ、キィ、と奇怪な叫び声を上げつつ飛び上がり、滑空してくる。
    「いたた……けど、吸われるのが一番マシな攻撃なんだおっ」
     内、1体がバイオレンスギターをかき鳴らし、庇われたタトゥーバットを狙っていたマリナに襲い掛かった。
    「おい、この下種野郎! 女の子狙うド変態が!」
     マリナを助ける為に悪態をつきつつ布都乃が自らの腕に仕込んだ縛霊手を起動。
     一瞬で懐に飛び込み、放たれた霊力が周囲を飛び回るタトゥーバット毎、大した量を吸血できなかったタトゥーバットを締め上げた。
     すかさず縁が影から刃による火線を集中させ、負傷し、麻痺で自由に動けないタトゥーバットを切り裂く。
    「清助」
     フカフカとした可愛い柴犬、清助が素早く斬魔刀。
     仲間の危機に翼を凍てつかせつつも、体の痺れを振り切る様にしたタトゥーバットが味方の盾となるが、鋭く放たれたその刃に、折角巨大化させていた翼を砕かれる。
    「キィ、キィ、キィ!」
    「キキッ!」
    「キ~ィ!」
     上空から援護の超音波を出したVergeltungが両の翼を大きく広げると、左右に控えて滞空していた蝙蝠たちが、我先にと直進してくる。
     そのまま最前列の灼滅者達の陣へと突っ込み不可思議な音波を射出。
    「ワフゥッ!」
     清助が布都乃を庇い、庇い合うことで被害を減らすが、強烈な音波がビハインドたちの性質を歪め、一瞬、主とその仲間達を襲いそうになる。
     サヤのリングが、その誘惑に抗する様な、仄かな暖かみを帯びた光を放ち、それらの衝動を抑制した。
     続けてイオのリングが光り、負傷したマリナや、リュカ達後衛を守る。
    「まだまだって感じだね、行くよ!」
     リュカの気合の入った声に応じる様に、Vergeltungが奇怪な音を立てた。

    ●決着の時
    「……流石に手強いですね」
     戦い始めて早、6分。
     宝玉を掲げて自分達の守りを固めながら、耀が呟く。
     持久戦の構えを取っておいて良かった、と心底思う。
     実際にはまだ6分しか経っていないというのに、実力的に体力に難のあるビハインドが傷つき消滅した為、主である一刀が前衛となり、鋼糸を操ってタトゥーバット達の標的を自らへと変えさせていた。
    「ケケケッ……面白くなって来たぜ」
     眠気を催す音波を笑い声で掻き消しながら、戦線を維持する為に、光り輝く結界を展開する一刀。
     流石の持久戦仕様。
     そして、1体毎の能力は、自分達と同等位。 
     せめてもの救いは、火力の上がる陣形ではなかったということだろう。
     それ以外に関しては、今まで戦ってきたタトゥーバットたちの中でも群れを抜いていた。
     ディフェンダー同士の庇い合い。
     バッドステータスを一列に集中させての手数減らし。
     いずれもが、高水準の連携である。
    「おい、返事したらどうだ。出て来いよ、この野郎!」
     布都乃が声を張り上げつつ、突進してくるタトゥーバットの懐に潜り込んでレイザースラスト。
     放たれたダイダロスベルトが、最後のディフェンダーを捉えて締め上げ、消滅させる。
     これで漸くディフェンダーが全滅した。
     最初に比べれば大分マシになったかも知れないが、まだまだ予断を許せる状況ではない。
    「でも、絶対に負けないから!」
     リュカが影を、全てを切り裂く刃へと変換し、さっきからディフェンダー型タトゥーバットの影から攻撃し、散々手を焼かせてくれた、ジャマ―型のタトゥーバットの内の1体を狙う。
    「おっおー、こっちの邪魔しても、ぜーんぶマリナが治しちゃうんだおっ」
     影による刃によって切り裂かれつつも、尚、勢い留まることを知らないタトゥーバットが、リュカの血を吸う為に齧りつくが、それ以上、吸血させない為に、縁がガトリング連射による追撃を加え、清助が十文字斬りにしようと襲い掛かった。
     鋭い刃による一撃で清助がタトゥーバットを引き離したその間に、マリナの祭霊光がリュカを癒す。
     が、今度は、Vergeltungが奇怪な叫び声を上げる。
     体に刻まれた呪術紋様が怪しく光り、撃ち出された黒い弾丸。
     清助がその魔弾から、縁を背に両足を踏ん張り守り抜こうとするが、あまりの威力に堪え切れずにその場に崩れ落ちる。
    「! 清助……お疲れ様」
     ずっと仲間や自分を守ってくれた清助を縁が一撫ですると、また後で、と言う様に嬉しそうに鳴いて消滅した。
    「ケケケッ。これで2体目か。強いねぇ」 
    「でも……此処まで来れば、大分弱ってきている筈……」
     仲間を庇い、傷を負いながらも笑う一刀に頷きかける耀。
     蝙蝠が出来たものを想像すると、血を吸われたくないのが正直なところですが、それどころではありませんよね、と腹を括る。
     上空を飛び回っていたタトゥーバットの一体が、凄まじい速さでジンザに向かって飛び掛かって来た。
     腕に噛みつかれ、血を吸われるジンザだったが、彼は自分の血を吸う翼を凍り付かせたそのタトゥーバットを、紳士的に優しく見つめた。
    「僕の血、高く付きますよ」
     呟きと同時に繰り出された、ガンナイフからの強烈な射撃。
     その一撃に吹き飛ばされ、口に含んでいた血を飛沫の様に吐き出しながら、タトゥーバットが覚束ない所作でバタバタと力なく飛んでいる。
    「続けていくよ!」
     仲間達の所へと戻ろうとするタトゥーバット。
     だが、一刀が最初に仕込んでいた鋼糸に、動きを絡め取られた所に玲が追いつき、そのまま星屑を纏った回し蹴りを叩き付けた。
     続けてメカサシミが、その体をタトゥーバットにぶつける。
     Vergeltungが、そんな玲たちの攻撃からタトゥーバットを守るために、人では捉えることの難しい、治癒の音波を奏で癒しを施そうとするが、其れよりも僅かにリュカとイオの動きが速い。
    「さっさと潰れなよ!」
     接近しての十字架戦闘術による滅多打ち、更にイオの猫パンチ。
     叩きつけられた連続攻撃に回復が間に合わず、そのままタトゥーバットが1体消滅する。
     これで、残りは4体。対して此方は、8人と2匹と1体。
     加えて持久戦の為に重ねて来たBS耐性が、自分達を守っている。
     倍近い手数があるこの状況は、決して不利とはいえまい。
    「死霊、怨霊、邪霊さんたち……その負の念、頂きます。零装、展開……!」
     耀が、Vergeltung達、支援を重視してくる後衛を痺れさせる結界を撃ち込み、その動きを阻害する間に。
    「アンタ達の親玉、高みの見物なんていい度胸しているよな!」
     リュカが鎮魂歌を奏でるpluviaから十字架砲を撃ち出して、残っているジャマ―のタトゥーバットを焼き。
    「よくも精神的にも物理的にも削ることしてくれますね」
     縁が怒りを籠めたギルティクロスで、タトゥーバットを撃ち落とした。
     Vergeltungの傍に控えるタトゥーバット達が、叩き潰されそうになっているタトゥーバット達を救う為に超音波を放つ。
     追撃しようとしていたジンザがその誘惑に囚われそうになるが……。
    「おっおー。何度やってもマリナには同じことなんだおっ」
     マリナがまばゆい光を用いて、眠りと言う名の奈落に落ちかけていたジンザを引き上げた。
    「やれやれ。ちょっといい夢、見れた気がします」
     誘惑を断ち切ったジンザがそのまま、マジックミサイル。
     撃ち出された其れが、狙い違わず、せめて一矢報いようと足掻いていたタトゥーバットを撃ち抜き、タトゥーバットは無念の悲鳴を上げて消え去った。
     前衛・中衛のタトゥーバット達が全滅したことにより、Vergeltung達の側に逆転の目が消え失せる。
     ――それから10分後……。
    「この、クソ子爵! テメェの特注品だって、俺達に取っちゃ、こんなもんなんだぜ!」
     布都乃がガトリングを連射し、Vergeltungを撃ち抜き止めを刺しながら、ありったけの力を籠めて叫んだ。
     20分弱にわたる戦いの中で、灼滅者達は、サーヴァントを消滅させられつつも、一体残らず、タトゥーバット達を殲滅することに、成功したのだった。

    ●それは、予感ではなく、確信
    「……これと言って目立った手掛かりは有りませんね」
     縁の溜息に、布都乃が1つ首を縦に振る。
    「まあ、こいつら自体がある意味では手掛かりだけどな」
     さんざっぱら挑発してやったが、眷属達を通して様子を見て、子爵が何か仕掛けて来た様子は無かった。
    「でも、皆で無事に帰れるんだから、良かったと思うよ」
     気落ちしている縁たちを元気づける様に、玲が明るく告げる。
     実際、玲の言う通りだ。
     今回は、サーヴァントは消滅したとはいえ、灼滅者達に重傷者は出なかった。
     これは、十分以上の成果だろう。
    「それに、特注品がやられたら、いい加減出て来るに違いないんだおっ」
     同意するように頷くマリナを見ている間に、ふと、耀があることを思い出した。
    「……そう言えば、多くの方があの子爵の行方を追っているそうですね」
     その武蔵坂学園全体の行動が、子爵を刺激し、今回の事件に至ったのかも知れなかった。
    「カカカッ。……もう一息って感じだな」
     ディフェンダーとして、終盤、最前線に立った耀と共に散々吸血され、立っているのがやっとと言う調子の一刀が笑う。
    「復讐、其れが武蔵坂へのメッセージでしょうか」
     墓地を整えていたジンザがポツリと呟く。
    「でしたら、この言葉を返しますよ。Zerquetschen(捻り潰す)」
     そう言い捨てると、そのままそっと空を見上げた。

     ――夜空に浮かぶ僅かに赤みがかった月の姿は、まるでこれから起こる戦い……血生臭い死闘を暗示しているかの様に、どことなく不気味で、神秘的に見えた。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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