いけないマッサージ争奪戦!? 灼滅者VS灼滅者!

    作者:飛翔優

    ●琵琶湖近くのマンションの一室で
     淡く輝く電灯だけが世界を満たす、狭く閉ざされたマンションの一室。寝台の上には、うつ伏せに寝る肉付きの良い一人の女性。
     一糸まとわぬ柔肌に、触れるもまた一人の女。
     女が腕を滑らせるたび、女性は小さな声を漏らしていく。片手に何かを垂らして揉み込めば、熱のこもった吐息を紡ぎ始めた。
     背中に、腰に、その下へ……一通り何かを塗った女は、仰向けになるよう促していく。
     しがたい、女性は身を起こす。女が自らに触れていく様を見つめながら、静かに微笑み口を開いた。
    「いやはや……噂に聞いてたけど、すごいもんだねぇ」
    「それが私達の誇りですから」
     女は柔らかく微笑み返しながら、丁寧に手を動かしていく。
     刀傷が刻まれている場所は念入りに触れ、何かを刷り込み……やがて、傷痕を魔法のように消し去った。
     女の名は、セイラン。
     今マッサージを受けている女羅刹のような者を癒やす淫魔、いけないナース……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、少しだけ難しい顔をしながら説明を開始した。
    「道後温泉にいた道後六六六のいけないナースたちが、琵琶湖周辺に現れました」
     いけないナースはマンションの一室をいけないマッサージ店に改装し、安土城怪人と天海大僧正との抗争で怪我をしたダークネスたちを、敵味方のかかわりなく癒やしている。
    「マッサージ店のいけないナースたちは非常に警戒心が強く、激戦の末に戦闘不能になるような怪我を負った者以外が近づくとすぐに逃げてしまうため、折衝することができません。しかし、灼滅者が二グループに分かれて相手を戦闘不能にするような戦いを行えば、敗北した側はマッサージ店に客として潜入することができるようになるでしょう」
     後は潜入した灼滅者がマッサージを受けている所に乗り込めば、灼滅することは難しくない。
     今回はそんな案件だと、葉月は地図を広げていく。
    「今回相手取ってもらういけないナースの名はセイラン。セイランはこのマンションの三階、五号室を店に改装して、営業を行っています」
     故に、先ほど述べた方法で潜入し、戦いを挑めば良い。
     敵戦力はセイランのみ。力量は、灼滅者四人くらいでも十分に撃破できる程度。
     傾向としては妨害、強化能力に秀でており、力を高める癒しのマッサージ、心を惑わす魅惑のマッサージ、次々とマッサージを施すマッサージ乱舞……と言った技を仕掛けてくる。
     また、戦闘開始直後は治療中の灼滅者を守って戦おうとするため、その習性を利用すれば逃走させることなく灼滅することができるだろう。
    「もっとも……戦闘自体はセイランのものよりも、マッサージ店に招かれるための戦いのほうが激しくなるかもしれません。本気で戦わなければなりませんから」
     本気で戦ったあと、敗北した者はマンションへと赴き、マンション全体の玄関口にあるインターフォンから三階五号室を入力し、呼びだされたセイランに伝えれば良い。
     治療して欲しい、と。
     そうすれば自動ドアは開かれ、セイランの元へと赴くことができるだろう。
     それから……と、地図を渡しながら続けていく。
    「いけないナースが活動を再開したということは、もっともいけないナースも琵琶湖周辺に来ている可能性があります。いけないナースを灼滅していけば、もっともいけないナースと接触するチャンスもあるかもしれません」
     そして……と、締めくくりに移行した。
    「今は無差別に治療を施しているいけないナースたちですが、どこかの組織に所属してしまえば……その治療能力により、大きな脅威となってしまう可能性も高い……そう思います。ですのでどうか、全力での灼滅を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    橘・蒼朱(アンバランス・d02079)
    霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)
    ゲイル・ライトウィンド(ホロウカオシックコンダクター・d05576)
    異叢・流人(白烏・d13451)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    琶咲・輝乃(あいを取り戻した優しき幼子・d24803)
    水無月・詩乃(稟武蒼青・d25132)
    相神・千都(白纏う黒の刃・d32628)

    ■リプレイ

    ●灼滅者の敵は灼滅者!?
     眩い陽射しを放つ空の下、紅葉に染まりつつある街の中。人気のない空き地で睨み合う、合計九人の若者たち。
     視線で互いを牽制しながらも浮かぶ余裕のある表情は、さながら現代の決闘か。
     橘・蒼朱(アンバランス・d02079)は縛霊手を軽く握りながら、小さなため息を吐いて行く。
    「いやはや、まさかまたナースさんが出てくるとはねー。会うのは初めてなんだけどね。施しを受けて見たい気もしないでもないけどこう目のやり場に困るだろうし受けないようにしたいところ」
     今回の目的は、淫魔・いけないナースセイランの灼滅。
     警戒心の強いいけないナースを騙すため、灼滅者たちは戦力を等分し全力での試合を行うことになったのだ。
     蒼朱と肩を並べて戦うのは相棒のノウンの他、琶咲・輝乃(あいを取り戻した優しき幼子・d24803)、水無月・詩乃(稟武蒼青・d25132)、嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)。
     相対するは霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)とゲイル・ライトウィンド(ホロウカオシックコンダクター・d05576)、異叢・流人(白烏・d13451)と相神・千都(白纏う黒の刃・d32628)。
    「あと、ライブハウスでもないのにこうやって戦えるのは貴重だよね。ちょー、全力で行くんでよろしく」
     蒼朱の呼びかけに、異叢・流人(白烏・d13451)は姿勢を低いものへと変えて応えていく。
    「さて……全力で行かせていただく」
     準備完了の合図と受け取り、機先を制するために駆け出した。
     狙いは、前線に位置し攻撃を役を担っている詩乃。
     煌めくは、右手に握る聖剣だ。
    「始めましょう」
     援護のため、絶奈が刃と峰が逆様についており剣のように見える鋏を握り後を追う。
     流人が詩乃の横を抜け後ろふくらはぎの辺りを切り裂いた時、絹代の放つ殺気が絶奈を押し返した。
    「っ!」
    「せっかくだし、手加減抜きってことで」
    「真っ向から堂々と、全力で叩き潰しましょう」
     更には若干姿勢を崩した詩乃が黒い霧が広がるような殺気を放ち、絶奈を、ゲイルを流人を震わせていく。
     すかさずノウンが踏み込み、流人に向かって得物を振り下ろし……。
    「そこだっ!」
     流人が振り下ろされた得物を剣でさばいた時、ノウンの影に隠れていた蒼朱が飛び出した。
     体が対応しきれずかかとを軽く切り裂かれた流人は、表情を歪めることなく体をひねる。
    「この程度で……」
     流れるままに剣を振るい、ノウンに斜め傷を刻みこんだ。
     勢いを活かして前線から退きながら、静かな思いを巡らせていく。
     今回の相手、セイランに……いけないナースに対し、思うところはある。
     しかし、学園組織の脅威になってからでは遅すぎるがゆえ、致し方ない面も多い。
    「……」
     故に思考を切り替えて、この戦いに挑んでいる。
     仲間との戦いも同様だ。
     全力で戦う……との意志は同じなのだろう。前線からは一歩下がった位置に立つ千都は静かな息をはき、ナイフを振るった。
    「……それにしても、まさか灼滅者同士でやりあう羽目になるとはな……」
     黒き波動が輝乃たちを蝕んでいく光景を眺めながら、静かな息を吐いて行く。
     さりとて手は抜けないと、相手の行動を注視する……。

     数の多さが、そのまま状況変化への対応力につながったのか。
     はたまたゲイルが意図的に作戦を誤ったからか。
     戦況は、輝乃、詩乃、絹代、蒼朱、ノウン陣営有利で進んでいた。
     今も、蒼朱はゲイルの放つ結界を、足に炎を宿しながら潜り抜ける。
     瞳を細め口元には笑みを浮かべるゲイルの後を追い、懐へと入りこんだ上で炎のハイキックを浴びせかけた。
    「相棒、続いてくれ」
     言われるまでもないとばかりに、蒼朱の後を追っていたノウンが得物を振り下ろす。
     肩をしたたかに打ちのめされたゲイルが動きを止めていく。
     呪縛も刻んで圧倒的有利。
     油断はしない。
     戦力比がほぼ等分だからこそひっくり返されてしまう可能性も高いのだから……と、顔の右側を仮面でお面で隠す輝乃は腕を竜の腕のごとく変貌させながら駆け出した。
    「さーて、ちょっと痛いけど我慢してね?」
    「おらおら、その程度かー?」
     竜の如き拳を振るう輝乃の後を追う形で、絹代が剣を振り回しながら最前線で手加減抜きの大暴れ。
     一斬、二斬と絶奈を、ゲイルを流人を切り裂いて、自らの力を高めていく。
     殴り飛ばされ、切り裂かれながらも、ゲイルは立ち上がった。
    「まだだ、まだ……!」
     どこ事なく感情のこもっていない言葉を紡ぎながら、輝乃らを封じるために再び結界を起動した。
     気にすることなく、蒼朱はノウンは詩乃は剣を得物を傘を振るっていく。
     勢いに負け尻もちを突いていくゲイルの懐には、輝乃が踏み込んだ。
    「それじゃ、しばらくお休み……ね?」
    「え?」
     輝乃は扇をたたみ、ゲイルの脳天におもいっきり叩き込む。
     ゲイルが目を見開いた瞬間に魔力を爆発させ、その身体を地面へと押し付けた。
     動かぬ様子を眺め、絹代はにやりと笑っていく。
    「んじゃ、この勢いのままやりあうか!」
     言葉とともに、放つは殺気。
     震わせるは絶奈と流人。
     元々の戦力が等しかったからこそ……一人減った以上、戦況が揺らぐ事はない。
     絹代、輝乃、詩乃、蒼朱の勝利にて、最初の戦いは閉幕した。

    ●魅惑のマッサージ
     仲間の介抱によって目覚めた絶奈、ゲイル、流人、千都の四人。
    「いっ……つぅ……遠慮ねぇ、な」
     千都は軽口を叩きながらも立ち上がり、蒼朱たちに告げた。
    「んじゃ……行って来る。確実に仕留めろよ?」
     ……そして、数十分後。千都たちは正面玄関に自動ドアのセキュリティが設置されているマンションへと……セイランが住む場所へと移動した。
     ゲイルが代表してインターフォンの前に立ち、三階五号室を示す数列を入力する。
     反応を示す音がなってから数秒。小さな雑音とともに、回線が開かれた。
     女性の……セイランの声が聞こえてきた。
    「はい」
    「あの……ここでお姉さんのおっぱ……こほん、傷の治療が受けられると伺いまして。無法者に襲われましてそれはもう大怪我なんですよ」
     一呼吸の間を起き、セイランの嬉しそうな声が伝わってくる。
    「それは大変。すぐに治療しなくちゃ……真っすぐ進んだ先にエレベーターがあるから、それを……」
     セイランの案内に従い、灼滅者たちは三階五号室……セイランマッサージ店の看板が掲げられている部屋の前へと移動した。
     部屋の前で再びインターフォンを押したなら、間をおかずに中へと招かれる。
    「あらあら、これは大渋滞。順番待ちになっちゃうわね。順番は……皆さんに決めてもらうとして、治療のタイミングになったら全部脱いで私のところに来てね? あ、恥ずかしければ衝立も……」
     治療の説明を受ける中、絶奈は一人思い抱く。
     殲術再生弾がある現場では有効活用する機会に乏しいとはいえ、小規模戦闘における重傷期間を短く出来るかもしれないと考えれば、学園に招けるものならば招きたい能力を……灼滅するのが惜しい能力を持つ、セイランたちいけないナース。
     あるいは、そう考えてしまうのは未練だろうか?
    「……さて、それでは私から行きますね」
     ともあれ……と、絶奈は仲間に視線を送り衝立の向こう側へと向かっていく。
     そこには仲間からの視線を妨げる衝立の他、セイランが待つ医療ベッドへと繋がるカーテンが。
     絶奈は身に着けているものを全て外した上で、カーテンをくぐり医療ベッドの前へと歩み寄る。
     招かれるまま寝転び、身を任せながら問いかけていった。
     世間話を装い、もっともいけないナースの動向を。
     のらりくらりとかわされてしまったから、深く追求することはしなかったけれど……。
     時間に直せば三十分ほどだろうか? 絶奈の治療が完了し、服を着直し戻ってきた。
     入れ替わるように千都が衝立の向こうへ足を運び、左胸の古傷を隠しながらセイランの元へと歩み寄る。
    「わりぃな」
    「いえいえ、これが私のお仕事ですから」
     寝転び、治療を受ける千都。
     セイランの手が左胸へと無かった時、首を振って遮っていく。
    「……この傷は、治さなくていい。どうせ古傷だ」
    「そうですか。なら……」
     丁寧に古傷を避けながら、治療を施していくセイラン。
     傷が癒え、痛みが和らいでいくのを感じている千都。
     一方、待たされている形のゲイルは、耳をピクリと動かした。
    「……やれやれ、まったくせっかちなんですから。マッサージを楽しむ時間もない」
     廊下の方から聞こえてくる、複数人が階段を駆け上がっていく音。
     どうやらマッサージは受けられそうにない……と、ゲイルは小さく肩をすくめ……。

    ●奇襲作戦開始
     流人が治療を受けている時、仲間に招かれる形で部屋の中へと侵入した絹代。遠慮することなく部屋を歩き、医療ベッドへと繋がるカーテンを引きちぎった。
    「っ! 誰!?」
    「お勤めご苦労ナースさん! まぁ運が悪かったと思って諦めてください」
     警戒に告げながら殺気を放ち、セイランを牽制。
     すかさず詩乃が踏み込んで、閉じた傘による螺旋刺突を繰り出した。
    「逃しませんよ」
    「……」
     追撃のために剣を構える蒼朱はセイランの胸元や太もももあらわなナース服姿……及び、治療を受けていた流人の姿を前に、眼を細めた。
     胸に去来したのは羨ましさか、はたまた別の感情か。
     いずれにせよ……と、セイランに向き直り斬撃を浴びせかけていく。
     ノウンもまた霊障を放ち、セイランを激しく揺さぶった。
    「くっ……お客様方、逃げて下さい! ここは私が……!」
     揺さぶられながらも、セイランは流人たちを庇うように一度った。
     刹那、絶奈が背中に踏み込み鋏を振るう。
    「え……」
    「……」
     驚いたように目を見開いていくセイランから視線を外しながら、絶奈は再び距離を取った。
     瞬時に状況を理解したか、セイランは悲しげに目を伏せていく。
     けれども逃げる様子なく、詩乃たちに向かって手を伸ばし始めた。
     騙されていたとしても客は客……といったところだろうか?
    「ほぉ……」
     流人は感心したような言葉を漏らしながら、影を放つ。
     セイランの体を飲み込んでいく!
     ……もとより、逃亡の危険を除けば戦力差は灼滅者たち有利で、負ける要素など存在しない。
     治療を受けに来た灼滅者たちをかばいながら戦っているならばなおさらだ、と、輝乃は魔力を込めた扇で右肩を打ち据えていく。
     魔力を爆発させ、セイランを床に伏せさせていく。
    「今だよ」
    「はい」
     すかさず、詩乃が踏み込んだ。
     開いた傘を丸鋸のように回転させ、セイランの背中を切り裂いていく。
    「……」
     半ばにて手を止め、退いた。
     穏やかな視線で見つめる先、セイランが動きを止めながら。
     戦いは終わったのだと、詩乃は傘をさしながら静かな息を吐き出した。
     千都は歩み寄り、口を開く。
    「罪はないんだが消えてくれ」
    「……ふふ」
     セイランは口元を小さく持ち上げた。
    「無事でよかった……わ……」
     小さな呟きを刻んだ後、跡形もなく消えていく……。

     着替えた後、流人はセイランの消えた場所へと向き直った。
     手を合わせ黙祷し、捧げていく。
     その奉仕の心が来世で人々を救える形になっている事を願う……と。
    「……」
    「……さて」
     一方、輝乃はゲイルに詰め寄っていた。
    「ゲイル、おイタはしていないよね?」
    「あったらどれだけ良かったか……」
     順番の関係上、ゲイルだけ治療のちの字も受けていない。そんな状態で、責められるのも酷だろう。
     そんなやり取りを交わしているうちに、私室などを探索していた詩乃が戻ってきた。
     詩乃は肩を軽くすくめながら、両手を開きなにもないことを示していく。
    「特に情報等はなかったです。帰りましょう」
     長居は無用と促せば、否を唱える者もいない。
     灼滅者たちはセイランの居た部屋を後にし、帰還を開始する。
     これから、情勢がどう動いていくのかはわからない。けれどもこの戦いが、よりよい未来へつながっていくのだと信じながら……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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