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夕暮れの公園に人はいない。殆どの遊具が撤去され、子供たちの間ではテレビゲームが完全浸透したこの時代。まして都会となれば、公園に来る者などいないのだ。
だが今日は、一人だけいた。白衣の少年である。
真っ赤な髪にサイズの大きい白衣。表情は憔悴しきり、目の下にはくまがあった。
抑揚のまるで無い口調で、ぶつぶつと独り言をのべる。
「……随分、家から離れましたね」
彼の名前は吸ヶ峰・血早(すいがみね・ちはや)。医者の息子である。
幼くして聡明だった彼は家の医学書を読みあさる秀逸さを見せていたが、いかんせん軸の外れた人間であったようで、食事や睡眠を自分からとろうとせず、白衣さえ着ていれば衣服などなんでもいいとばかりの無軌道さである。そんな彼だから家出など?
いや、そうではない。
きっかけは突然だった。ある日急に彼の中に闇の力が目覚め、人間では無い何かになってしまったのだ。
元々変人扱いされてきた彼である。人から信用されることは少ない。
これを相談できる者もおらず、家に迷惑をかけてはまずいと飛び出してきたはいいものの……。
「さて、これからどうしたものでしょう」
様々な思考が頭の中を巡り、降り注ぎ、そしてしみこんでいく。その全てを言語化、ないしは実像化することは難しい。彼はいつもこうだ。考えすぎて考えられない。
「まあ、とにかく、話しかけてくる全員をはねのけて逃げ続ければ、そのうち答えも出るでしょう。まずは、落ち着くまで」
彼はそう言うと、深く深く呼吸をした。
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神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)の説明によればこうだ。
「ヴァンパイアに闇堕ちした少年がいる。中学二年、吸ヶ峰・血早。恐らく別人の闇堕ちに連動したものだと思われるが、本人にその自覚はない。急な事態に対応できずとりあえず家を離れて放浪している所だ。このままいけば完全なヴァンパイアとして人々の脅威になるだろう。早急に解決したい」
血早は白衣の下に手術バサミのセットや注射器を備え、それらを武器として使うドレインのスペシャリストだ。
事態こそ飲み込めていないが、この能力の使い方は既にマスターしているらしい。
とはいえこの性格である。
他人の言うことに明確な証拠や根本的な解決法が無ければ容易には賛同してくれない。たとえ彼の将来的危険性を説いたとしても、それを素直に聞いてはくれないだろう。言葉による説得は難易度がきわめて高く大半の場合逆効果ということだ。
「こういうときは行動で示すのが近道だ。最悪、彼を灼滅してしまっても構わない。灼滅者の素質が無ければそうなるわけだしな……。とにかく、対応の仕方は皆に任せる。必ず彼を倒してくれ」
参加者 | |
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風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・d00155) |
病葉・眠兎(紙月夢奏・d03104) |
近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268) |
楓・十六夜(蒼燐乖夜・d11790) |
天槻・空斗(焔天狼君・d11814) |
鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382) |
朱屋・雄斗(黒犬・d17629) |
風峰・静(サイトハウンド・d28020) |
●マインドレイン・序
夕闇暮れる公園に、歩いて向かう者がいる。
「吸ヶ峰血早……」
鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)は資料を眺めながら独りごちた。
「下手に頭がいいところを信じて、最小限の事実から自力で改善策を察するように仕向けるんだったな?」
「ああ。それを伝えるのにいつも苦労するが……」
目を閉じて腕組みする朱屋・雄斗(黒犬・d17629)。
「ダークネスと灼滅者の境界は曖昧だ。その中間にあるような彼は、自我の置き所を決めねばならない。自力で察することができれば、それに超したことはないんだろうな」
「そんなだっけ? 黙って殴ればいいんだと思った。ほら僕、難しいの苦手だからさ」
風峰・静(サイトハウンド・d28020)が頭の後ろで手を組んで笑った。知るかと言って目をそらす脇差。
近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)は眼鏡を指で押し上げた。
「戦いの中で現実をみせてあげましょうね」
「現実ね」
風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・d00155)は足を止めて、次のアクションを待つ。
「多かれ少なかれ、人は他人の言うことを疑うものだし、初対面の人が自分を悪用しないかって警戒するものよ。旅行鞄を持ってくれる人が次の瞬間料金を請求してくるようなものでね」
「日本ではついぞ見ませんね」
「だから忘れがちなのよ。私だって忘れていたいわ。だから今日みたいなケースはむしろ大歓迎なの。本来生き物には、言葉なんていらないはずだったんだから」
月媛たちが公園への立ち入りを待ったことには理由がある。
「……」
「……」
「……」
吸ヶ峰血早。彼の目の前に犬と狐がいた。
しっかりと断わっておくが、天槻・空斗(焔天狼君・d11814)と楓・十六夜(蒼燐乖夜・d11790)が変身した姿である。
はじめは血早のかたわらに座ってぬくもりでも分けようかと思っていた彼らだが、血早はこの犬と狐を視認した時点で一定距離を保つように後退した。
今現在、二等辺三角形のラインを作って停止しているところである。
「なんですか。僕と同じサイキックエナジーの効果によって変身したものとは推測できますが、近寄る意味が分かりません。あと一歩接近したら攻撃行動に移ります。……人語は認識できていますか?」
「……」
「……」
十六夜にしろ空斗にしろ、なにか長々とものを語っているつもりのようだが、当然ながら伝わるものではない。
この世で最も警戒すべきは何をしたいのか分からない奴だ、という。
血早は顔をしかめ、懐から手術バサミと注射器をそれぞれ抜いた。
「恨まないでくださいね。僕は意味不明な集団に加わるつもりは」
「ああ……」
呻くような、もしくは鳴くような声に振り返る。
病葉・眠兎(紙月夢奏・d03104)が早足で歩み寄ってくるのを見て、血早は注射器を向けた。
「止まってください。さもなくばこれを無差別に突き刺します」
「……」
何か言おうとして、口を閉じる眠兎。
彼女が足を止めた時には、周囲を月媛たちが囲んでいた。
犬にキツネにウサギ耳にネコの着ぐるみという。控えめに言ってとち狂った集団に囲まれて、血早は早くも表情を曇らせた。
「なんですかあなたたちは」
「自分で考えて、ね!」
月媛は手近な空斗(イヌ)や十六夜(キツネ)をひっつかむと、血早の顔面めがけて投擲した。
あまりにも。
あまりにも突拍子も無い接触方法である。
「だ、だからなんなんですかあなたたちは!」
イヌやキツネをはねのけ、軽くおびえた顔で叫ぶ血早に。
「俺たちが聞きたい」
「全くだ」
脇差と雄斗は軽く同情した。
●マインドレイン・破
夜道で突然知らない人間に凶器を翳して襲いかかられた場合、大抵まともな反応はできないものである。それが奇抜さに輪をかけたような集団だった場合、普通は混乱するものだが。
「もふもふタイムは終わりだ」
「本物でなくて悪いな」
空斗は剣を展開。十六夜は刀にドライアイスのような冷気を纏わせ、二人同時に斬りかかる。
常人なら身体を上下三等分されてもおかしくない完璧な連携ではあったが、血早は素早く跳躍して離脱。二人の頭上を越えて着地すると、静が鋭い下段回し蹴りを繰り出してきた。
当然常人のそれではない。血早は足首から先を切断されて強制的にバランスを崩す。
「帰るの? まだまだこれからでしょ!」
「くっ……!」
血早は逆手持ちしたハサミを静の肩に突き刺し、エネルギードレイン。足を強制修復すると、静を突き飛ばして走った。
とにかく彼らから逃れてから考えようという算段だろうか。
だがそう簡単に相手を逃す彼らでもない。
進行方向上に回り込んだ月媛が、どこからともなくカジキマグロを引っ張り出した。
「海幸(マリン)・鋭先(ドグマ)・鮪角(スパイク)!」
鋭い角が腹に直撃。
人間として生きてきて、カジキマグロの角が腹に刺さった経験のある人間はそういないと思うが、血早は中学二年それを体験した。
横合いから滑り込んだ一樹が氷塊のような槍でもって追撃。
二方向から貫かれた血早は両足を地面から浮かせることになるが、なんということはない。
ハサミに紅蓮のオーラを纏わせ、連続で虚空を切り払う。延長して放たれたオーラのハサミが月媛たちに突き刺さり、二人を大きくはねのける。
追撃にと取り出した注射器を構えるが、その隙に眠兎は手の中で光のリングを発動。ワープでもしたかのように一樹の前に現われたリングがエネルギーフィールドを展開し、突きだした血早の注射器を腕ごと牽制した。
先端が刺さっただけですんだ一樹は素早く後退。代わりに脇差と雄斗が血早を押さえ込む。
押さえ込むと言ってもラグビー試合ではないのだ。脇差は刀を抜き放ち、大上段から全力で叩き込む。
それを開いたハサミで受け止める血早。
手術ハサミというのは小さいもので、大人の手のひらに収まるほどしかない。切断部分ともなれば指の第一関節程度だ。
しかし日本刀をきっちりと押さえ込み、微動だにさせない。それだけの力量が彼にあるということだろう。
が、対する脇差たちはチームである。
丸太のようにいかついバベルブレイカーを担いだ雄斗が、血早の脇腹にそれを押し当てる。
数珠を側面に叩き付けて木の杭を高速射出。杭は血早の脇腹を正確に貫き、固定させた。
吸血鬼は心臓に杭を打てば滅びるなどというが、大抵の生き物はそこまでされたら死ぬものである。が、灼滅者やダークネスはその限りではない。
血早はえずくように吐血しつつも、注射器を雄斗の胸に突き立てた。エネルギーを強制吸収。抜けていくエネルギーを補うように、雄斗は自らのオーラを体内に吸収した。
それだけで補えるものではないが、雄斗の背中にそっと添えられた眠兎のリングが不足分のエネルギーを補充した。
目に力を込めて血早の腕を握り込む雄斗。
「お前は全てはねのければいいと考えているようだが、そんな力をもてば何かしらが接触してくることは分かっている筈だ」
「あなたは、僕を殺しに来たんですか」
「言うは安し。俺たちがお前の味方になるかどうかは戦いの結果次第だ。まずは倒させてもらう」
「とんだ暴論だ」
血早は脇差を蹴飛ばすと、手術ハサミを繰り出した。
自分の腕へと。
●マインドレイン・急
手術ハサミの正しい用途は専門家に聞くとして、およそ皮膚や血管といった小さく繊細な作業に用いるものである。
間違っても人間の腕を一瞬で切断するようなことはない。
ないが。雄斗の目の前でそれはおこった。
血早が振り込んだハサミは正確に彼の腕を切断し、芸術的に振るったハサミは続けて彼の胴体を部分的に切断。雄斗が固定していた腕と胴体を自由にすると、高速バックスウェーでその場を離脱。しかし流れた血はまるでワイヤーのようにそれぞれの部位につながり、たどるように彼の肉体へと吸い付く。
腕も胴体も、切断などはじめからされていないかの如く綺麗に接着された。
「僕だって人殺しを楽しむ趣味は無いんですよ」
「こっちもお話し合いをするつもりはないんです」
氷塊を投擲槍に変形させ、高速で投げ放つ一樹。
槍は血早の肩に命中。どころか肩とその周囲の部位を破壊して後方のジャングルジム跡地に突き刺さった。
一瞬生まれる隙。その隙に跳躍していた十六夜が、縛霊手に凍てつく空気を纏わせて振り上げていた。
空中で縛霊手を突き出し、砲撃姿勢。
「男がうじうじしてんなよ。楽しんだ方がいいだろこんなもん」
十六夜の放った冷気の波動が血早を中心とした一帯を瞬間冷却。それによって歪んだ肩部が本格的に崩壊し、彼の左腕が地面に落ちる。地面の霜と同化していく腕。
「おいおい、冷やしてばっかじゃ可哀想だ。暖めてやんよ!」
剣に炎を纏わせて突撃する空斗。剣は正確に血早の腹を貫く……が、しかし。
血早は再びハサミを開き、空斗の左腕を瞬間切断。切り離された腕は一瞬で血液の塊へ変化し、血早の肩へと吸い付いていく。そして、血早の新しい腕となった。
「こいつ――」
「あなたが何者かは知りませんか、みすみすやられて隷属するつもりはないんですよ」
左手を白衣の内側に突っ込み、注射器を一気に四本引っ張り出して投擲。後退して距離をとろうとした空斗の胸や肩に突き刺さり、注射器ごと血液の塊に変化。それが血早の中へと吸い込まれていく。血早の腕に、ぶわりと黒い炎の文様が浮き上がった。
よたつく空斗。そんな彼を、眠兎ががっしりとキャッチした。周囲にエネルギーリングを大量に展開して肉体の修復を開始する。
「ドレイン使い。確かに強いんでしょうけど」
「どういうこと? 僕よくわかんない。ヤっちゃっていいんでしょ」
腕をぐるぐると回す静。
助走をつけて飛びかかると、挨拶変わりの蹴りを繰り出した。
対する血早は蹴り込まれた足を瞬間切断。
静は片腕逆立ちの姿勢で着地。どこからともなく取り出した宝剣のようなものを思い切り千早に叩き付けた。
バランスは明らかに静の方が悪い筈なのに、血早はその一降りだけで吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた先へ軽やかに回り込む月媛。
「なんでもいいから、とりあえず殴る!」
月媛は黒鮪を野球のバットよろしく構え、無理矢理な打法で叩き付けてきた。
空中でガード姿勢をとるも、血早を見事にとらえたマグロは彼を空高く打ち上げる。
落下地点でどっしりと構える雄斗。
血早は注射器にオーラを込めて雄斗へと放った。
縛霊手とオーラを最大展開してガード……するが、オーラと霊力光が注射器に吸い取られていった。
「む……」
血でできたワイヤーで注射器を引き戻し、それを自らに注入する血早。
彼の左腕が瞬間的に屈強なものに変わる。
開かれるハサミ。
連続で繰り出される斬撃。
雄斗はそれをガード姿勢でしのぎにかかる……が、いかんせん相手の攻撃力の方が上である。
相手にあわせて最も効率的なダメージソースを選び、その半分は彼の回復量となる。
そのうえダークネスらしく回避性能も上。これによって、血早は永久に戦闘を続ける兵器となる。
しのごうとすればするほど、泥沼にはまっていくことになるのだ。
「このままでは、まずいな」
「そう思うなら帰ってください」
「嫌だと言ったら」
「強制排除です。大体あなたが僕に施す理由が無いんですよ! この流れで分かりましたが、あなたたちは戦力が欲しいだけじゃありませんか。笑顔の絶えないアットホームな職場で働く従業員が欲しいんでしょう! その犠牲はどこかに現われる。僕はわざわざ人に迷惑をかけたくないんですよ。親だってそんなこと――」
オーラを纏ったハサミを逆手に持って振り上げる血早。
の、肩を。
眠兎ががっしりと掴んだ。
「えっ」
「このばか!」
眠兎は、握った拳を思い切り血早の顔面に叩き付けた。
急に人間めいたパンチをくらった血早は、防御も忘れて殴り倒された。
「そうですよ、打算ですとも! 武蔵坂学園に引き込む意図でやってますよ! その上で、私はあなたに闇に落ちて欲しくないんですよう!」
「り、理由は――」
「知りませんよ! このっ、このっ!」
涙目になって血早を足で蹴たぐりまわす眠兎。
空斗と十六夜が慌てて羽交い締めにして引きはがした。
「お、おちつけ、なんだかよく分からんこと言ってるぞ」
はなせーと言って暴れる眠兎をどうどうねことまぐろよーといって落ち着ける月媛。もふもふだぞといって変身しはじめる十六夜と空斗。
なんだこの連中。
「世の中は分からんことばかりだ。明確な殺人マシーンになったつもりが猫耳集団にさんざん遊ばれた挙げ句引き戻されたりな。不本意と不可解ばかりだ。恐らく、お前もそういう星の下に落ちたんだと思うぞ」
脇差は刀をまっすぐに構えた。
起き上がり、ハサミを三本と注射器を四本、手に持てるだけ持って展開する血早。
踏み込み、血早の手首を切断する脇差。
同じく踏み込み、脇差の手首を切断する血早。
血早は脇差の手首をエネルギー変換して自らに装着。素早く脇差の首に手を伸ばす……が。
同じく脇差も血早の手首をエネルギー変換して自らに装着した。
「――!」
ぶれそうになった刀を持ち直し、血早の脇を抜けながら二の太刀を浴びせた。
血を払い、納刀。
後ろで、血早はがくりと力尽きた。
「全く、頭が回るのも考え物だな」
後日談を語るわけではない。
数分後に吸ヶ峰血早はむくりと起き上がり、懐からビタミン剤を取り出すとそれを自らに注射。一週間は寝ていないような顔で、その場の彼らへと言った。
「それで、学園の住所は?」
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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