八百屋でバナナを買っていた難駄波・ナナコ(クイーンオブバナナ・d23823)の耳に、噂という言葉が届いた。
「夜になると、この辺に出るっていうあの噂って、ホントかな?」
「マジだと思う。オレこの前さ、バナナ園に行ってきたんだけどさ、あれヤバイよ。大きさが怪物レベルだよ。あれはお化けになってもおかしくない」
バナナを食べながら、ナナコが声のするほうへ眼差しを移すと、小学生達が真面目な顔で話し合っている。
「お化けバナナって、二本足で歩くんでしょ? そんな大きな怪物級のバナナと、もし出会っちゃったら……」
「ああ……潰されるぜ、オレら……」
ごくりと喉を鳴らし、真っ青になっている小学生達を残し、ナナコはその場を後にした。
「バナナ食べ放題パーティよ!」
「このお化けバナナは都市伝説だ。お前達は、バナナの木には15房ほどのバナナが成るのは、知っているか? 小学生以下から見たら、巨大に見えるだろう。小学生達から出た噂だ、この都市伝説……190cmぐらい身長が有るぜ」
ナナコの後に神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が説明を足し、資料を広げる。
「夜になると都市伝説は、ここの道を徘徊している。姿は、鈴なりになったバナナの房に二本足だから見れば直ぐ分かる筈だ。こいつからバナナをもぎ取ると、もぎ取ったバナナは一瞬で、食べられるバナナに変わる。すごく甘くて美味いらしいぜ」
地図を示しながら言い、ヤマトは戦闘についての説明に入る。
「戦闘だが……この都市伝説は攻撃的では無いな。バナナをもぎ取られても怒らない。むしろバナナを美味しそうに沢山食べていれば、満足して消滅する。念の為、人払いだけはしておいたほうがいいかもな」
そう言い終えてから、ヤマトはバナナを食べ始める。
「見た目は不気味だし、奇怪な行動を取ることも有るかも知れない。だが、お前達なら何とか出来る筈だ!」
参加者 | |
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青柳・百合亞(一雫・d02507) |
風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968) |
蒼井・夏奈(小学生ファイアブラッド・d06596) |
雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369) |
ルチル・クォーツ(クォーツシリーズ・d28204) |
荒吹・千鳥(患い風・d29636) |
旭日・色才(虚飾・d29929) |
夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732) |
●
現場に到着した灼滅者たちは、夜道を徘徊している影を見つけた。
不気味な見た目と動きからして、くだんの都市伝説に間違い無い。
(「バナナ、楽しみ」)
ルチル・クォーツ(クォーツシリーズ・d28204)が、サウンドシャッターを展開する。
「ふっ……怪談の宴を始めようか」
旭日・色才(虚飾・d29929)はカッコつけながら百物語を使用し、人払いを済ませた。
「なんだか美味そうな都市伝説なんだな! 皆、ジャンジャン食……コホン、倒しに行くぞ!」
言い掛けた言葉を飲み込み、咳払いをする夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732)。
(「バナナの都市伝説さんですか……、タタリガミに襲撃されなくてよかったのかな?」)
うろうろ歩いている都市伝説を見ながら、雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)が考える。
「食べ放題って言葉素敵だよね~♪ 本当にバナナ取っても怒らないのかな?」
蒼井・夏奈(小学生ファイアブラッド・d06596)は都市伝説に近付き、元気な笑顔を見せる。
「バナナください~! 沢山!」
夏奈が声を掛けると、都市伝説は立ち止まり、バナナが取りやすいようにと少し身を曲げた。
どうやら言葉は通じるようだ。
無事にバナナをもぎ取った夏奈は、一瞬で黄色いバナナに変化したそれを、嬉しそうに食べ始める。
「ん~甘くておいしいな~♪ こんなに美味しいバナナ中々ないよ~!」
栄養価も高く、甘みが有って、そんじょそこらのバナナよりも遥かに美味しいバナナだ。
「とても大きなバナナさん……迫力ありますね。あっ近くで見るとすごい圧迫感が。私バナナはそんなに得意じゃないんですけど、今回頑張って食べてみようと思ったんです」
都市伝説と夏奈の様子を交互に見てから、青柳・百合亞(一雫・d02507)が言葉を続かせる。
「美味しい物を食べればきっと好きになれるって信じてるので。でもちょっとこの方からバナナをもぎ取るのは私には難易度が高すぎます……!」
「……2メートル近いのか……うん、潰されるね」
百合亞に同意するように、風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)がこくこくと何度か頷く。
「バナナ美味しそやねぇ。普通に食べても良えし、焼きバナナにチョコバナナ……バナナジュースも飲みたいなぁ」
調理道具や材料を用意して来た荒吹・千鳥(患い風・d29636)が、のんびりと言葉を紡いだ。
「こいつは面白ぇ姿してやがるな!」
レイジは緊張感を微塵も感じさせず、都市伝説を写真におさめている。
都市伝説は写真に撮られても気にする様子も無く、あっちをうろうろ、こっちをうろうろと、歩き回っていた。
(「バナナ……かの八岐大蛇の如き複数の首を持ち、黄金色の果実か……」)
割と厨二病な気がある色才は独特の言い回しをし、口を開く。
「敵として不足はない! 歩こうが走ろうが俺が倒してやろう……!! ……封印されし絢爛なる魔獣よ、我が力として顕現せよ!」
大袈裟なポーズをキメつつ、カードの封印を解く。
仲間たちは、そんな色才を不思議そうに眺める。
え? バナナ食べないの?
と言わんばかりの空気だが、色才は気にしない。気にせず、攻撃に入った。
●
「ふっ、冷やしバナナにしてやろう……!」
十字架先端の銃口が開き、凍結の砲弾が放たれる。
ウイングキャットのクロサンドラの鈴は、後衛の灼滅者たちに向け、尻尾についたリングを光らせた。
都市伝説は奇妙な叫び声を上げるが、反撃する様子も、攻撃的になる様子も無い。
痛みを訴えるような叫びを発したまま、ぐるぐるとそこいらを歩き回っている。
「……どかーん」
ルチルがいきなり、無表情で色才の背中にのしかかった。
片手にバナナを持って、もぐもぐと食べているルチル。
「何をする、クォーツ? 俺がすみやかに倒してやるから退け」
鋭い眼光を向けられ、少し高圧的な口調で言われても、ルチルは無表情を崩さない。
皮をむいたバナナを、色才の口の中に無理矢理突っ込んだ。
ルチルなりの、悪ノリである。
「こ、この黄金色の果実は……何と言う事だ、甘美だぞ……」
あまりの美味しさに、色才の自信に満ちあふれた表情が変わる。
青天の霹靂とばかりに、色才はカッコつけながらガクリと膝をついた。
「無駄にカッコイイな、なんでだ?」
首を傾げるレイジだったが、興味は直ぐに都市伝説へ移った。
「試食タイムだ! まずは一本味見といこうか。すごく甘くて美味しいって噂だな!」
レイジが都市伝説からバナナをもぎ取り、直ぐに食べる。
口の中いっぱいに広がる風味、押し寄せる濃厚な香りと甘み、そして癖になりそうな食感。
「こ、こいつは……美味ぇ! 料理に使っても美味いかもしれんな」
美味しいと言われて都市伝説は喜んでいるのか、もぞもぞと怪しく動いている。
「軽く火通して焼きバナナ。溶かしたチョコ掛けてフリージングデスで軽く冷やしてチョコバナナに。すり潰して牛乳混ぜたらバナナジュースなるかな?」
千鳥がバナナを美味しそうに食べてから、色々と試し始めた。
ルチルも、持って来たバナナ料理の本を見ながら、香ばしいカラメルを掛けたバナナトーストや、サクサクの衣で揚げたものなどを作ってゆく。
「バナナキュー、カモテキュー、トロン……マルヤ、サモサ」
作っている料理名を言葉にするルチル。何やら呪文のようにも聞こえる。
「あんまり、調理とかは上手ではないのですが、頑張りたいと思います」
憂奈もスポンジ生地とホイップクリームで簡単なバナナケーキや、バナナを輪切りにして色々な味の冷たいアイスクリームを乗せたり、溶かしたチョコレートに漬けてチョコレートフォンデュをイメージしたものを次々と作ってゆく。
そしてそれらを、仲間たちに配る憂奈。
更に、仲間が調理したバナナ料理を貰い、食べようとする。
「いただきます。……美味しいです」
食前の挨拶をしてから一口、含んだだけで味の虜になりそうになる。
それだけ、バナナが美味しいのだ。
●
「……おお、おいし~♪」
キッチンテーブルを組み立て、じっくり食べる準備を終えた彼方が、もぎたてのバナナを食べて思わず頬をおさえる。
頬が落ちそうな美味さとは、この事だろう。
「バナナの味が良いから、どんなトッピングをしても美味しいね」
バナナを幾本か食べ終え、口直しにお茶を飲んでから、彼方はバナナクレープを作った。
それに目をつけたルチルが、彼方のほうへ駆けて来る。
「バナナの皮を間違って踏んでこけたりとかは……しないよ、たぶん」
近付く人物には気付かず、クレープを堪能している彼方が呟いた後ろで、ルチルはバナナの皮を踏んで滑り、転んだのだった。
「いきなり食べても体が受け付けなかったら意味ないですしね! すこしずつ慣らしていきましょう」
ウイングキャットの、おたまにバナナを取ってもらった百合亞は、美味しさに驚きながらも、少しずつ食べていた。
おたまはバナナを食べる様子は無く、クールに都市伝説からもぎ取ったバナナを運んで来る。
肉球でバナナを掴んで運んで来る姿に、百合亞は、うちの子が一番可愛いと言いたげだ。
「そのまま食べる以外に美味しい食べ方が色々あるんですね」
各自、色々と作っている仲間たちを見回し、百合亞は調理されたものを分けて貰う。
「皆さん色々とお持ちの様で……バナナパーティでしょうか?」
奇妙な都市伝説とは一定の距離を保ちながら、楽しそうに百合亞が言う。
「こんな美味しいバナナ普通に食べるだけじゃ勿体無いっ! まずは定番のチョコバナナ~。この組み合わせは鉄板だよね~♪ 次に網焼きプレートでバナナを丸ごと焼き焼き。見た目凄いけど中がトロトロで美味しいんだよ~♪ ダイエットにもいいよ~」
後半は小声で言い、夏奈は次々と美味しそうなバナナ料理を作ってゆく。
「パンも焼いて一緒に食べるのもありだよ! 勿論チョコかけるのも美味しいよ~。……あ、都市伝説さんは食べないの? とっても美味しいのに」
夏奈が都市伝説に話し掛けた瞬間、うろうろと歩いていた都市伝説の動きが止まった。
「七不思議さんやとこの都市伝説吸収して、いつでもバナナ食べられるんかなぁ……。ん? 都市伝説の様子がおかしいなぁ」
千鳥も気付き、都市伝説を見つめる。
『……バ、ナ、ナ……』
小さな声だが、都市伝説が喋った。そう、喋ったのだ。
思わず、唖然とする灼滅者たち。
百合亞はずざっと後退し、都市伝説から更に距離を置く。
静寂が、その場を包む。
「今、喋った……よね?」
誰に対してでも無く、問う彼方。
都市伝説はまた歩き出し、左右に揺れるようにして徘徊している。
「喋るバナナか。怪談話になりそうだな! あのバナナ掻き分けていったら、奥に顔が有ったりしてな!」
怪談話が好きなレイジは、面白がっている。
顔見知りの千鳥からバナナジュースを受け取った憂奈が、ちょっとだけビクッとした。
確かめてみようと、ルチルが都市伝説に迫った瞬間、都市伝説が勢い良く振り返る。
『……お、い、し、い……う、れ、し、い……』
都市伝説は途切れ途切れに言い、揺れながら鼻歌を口ずさむ。
その姿が、次第に透明になってゆく。
美味しいと沢山言って貰えて、嬉しかったのだろう。
消え掛けている都市伝説からは、幸せそうな雰囲気が漂っている。
「美味しいバナナ、ご馳走様でした」
「ごちそうさまでした」
千鳥は都市伝説が消える前に、挨拶をする。
続いて憂奈も手をあわせながら言い、声を立てずに祈る。
「都市伝説さんのバナナのおかげで幸せ一杯だったよ~♪ ありがと~!」
夏奈が明るい声を掛けた直後、都市伝説は消え、完全に消滅した。
●
「……ごちそうさま」
都市伝説が満足そうに消えていったのを見てから、ルチルが一言零し、サウンドシャッターを解除し、後片付けを始める。
もぎ取った筈のバナナは、都市伝説と共に消えていた。
「お土産用にバナナたくさんもらっとこ思ってたんやけど、きれいさっぱり無くなったなぁ」
千鳥は周囲を見回し、少し残念そうに言う。
「後片付けして帰りましょう」
憂奈がそう言い、片付けに取り掛かる。
「ふっ……こうも簡単に倒れるとは。俺が本気を出すまでも無かったな」
「倒したって言うより、料理したって表現の方がいいかもな!」
色才が言うと、レイジが笑いながら言葉を紡ぐ。
「美味しかったので、私、この先もバナナを食べられるかもです」
バナナが得意じゃなかった百合亞は、安堵の息を吐く。
「美味しかったけど……バナナ地獄……さすがにしばらくは、バナナは食べたくない」
夢中になって食べ過ぎてしまった彼方は、ぐったりとしている。
「最初は怖い都市伝説さんかなって思ってたけど良い都市伝説さんもいるんだね! また会えたらいいな~」
夏奈が明るい声で、元気良く、しめくくった。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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